説明

衝撃波を利用したチップの製造方法および当該チップを用いたパルプの製造方法

【課題】本発明の課題は、チップの薬液浸透性を向上させる方法および当該チップを用いたパルプの製造方法を提供することである。
【解決手段】チップに衝撃波を与えてチップの薬液浸透性を向上させることを含むチップの製造方法、および当該チップを用いたパルプの製造方法が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、チップの製造方法、特に、パルプの製造などに用いられるチップに対して衝撃波を与えることにより薬液浸透性が向上したチップを製造する方法および当該チップを用いたパルプの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
木材チップからパルプを製造する場合、化学パルプであれば蒸解工程の前、機械パルプであれば磨砕工程の前に、木材チップへ薬液を浸透させる。
しかし、木材の構造は、原料とする木材の樹種により異なり、また同じ樹種でも成育条件の違いや採取部位によって差があるため、薬液の浸透性にも違いがある。また、パルプを製造するために実操業において使用される木材チップの多くは、異なる樹種の混合チップであり、チップのサイズも均一ではないため、チップ毎に薬液の浸透性が異なっている。さらに、近年の環境問題への関心の高まりや、森林資源の枯渇化の進行、世界的な紙パルプ生産量の増加による製紙原料の逼迫により、パルプ生産者は必ずしも薬液浸透性の良好なチップを選択的に使用できるわけではない。
【0003】
そして、木材チップの薬液浸透性に違いがある場合や薬液浸透性が良好でない場合、化学パルプ製造においては、未蒸解粕の増加による製造トラブル、収率の低下、薬品消費量の増加等の問題が生じ、機械パルプ製造においては、磨砕時の消費電力の増大、結束繊維の増加、紙力低下等の問題が生じる。
【0004】
このような状況の中、木材チップの薬液浸透性にバラツキがある場合や薬液浸透性が良好でない場合であっても、高品質のパルプを安定して製造するために、木材チップの薬液浸透性を向上させる技術が重要である。
【0005】
従来、木材チップへの薬液浸透性を物理的に向上させる技術として、いくつかの方法が提案されている。例えば、特許文献1には、一定以上の大きさのオーバーサイズチップを2つのロール間に通して圧縮することによりき裂を生じさせ、チップの薬液浸透性を向上させる方法が示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ポリサルファイド法によるパルプの製造において、密閉容器中で減圧操作することによりポリサルファイド蒸解液をチップ中に注入させる方法が開示されている。この方法では、ポリサルファイド蒸解液とチップを入れた密閉容器を減圧状態にすることにより、チップ内の空気とポリサルファイド蒸解液とを置換させ、蒸解液をチップ内へと浸透させるが、本発明者らの実験によれば、チップと蒸解液とを減圧状態にするだけでは、蒸解液のチップ内部への浸透は十分とはいえなかった。
【0007】
さらに、特許文献3には、機械パルプの製造において、木材チップのリファイナー解繊処理に先立ち、木材チップを圧縮し、圧開放時に薬液を浸透させる方法が開示されている。この方法では、チップを圧縮・解放することにより、チップを膨潤させながらチップ内部に薬液を浸透させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表平03−503300号公報
【特許文献2】特開平11−100783号公報
【特許文献3】特開2004−204370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、パルプの製造などに用いられる各種チップについて、その薬液浸透性を向上させる技術、および当該チップを用いてパルプを製造する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、チップの薬液浸透性を向上させる方法について鋭意検討した結果、チップに衝撃波を与えることにより、チップの薬液浸透性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明はこれに限定されるものではないが、以下の発明を包含する。
(1) チップに衝撃波を与えてチップの薬液浸透性を向上させることを含む、チップの製造方法。
(2) 前記チップが木材チップである、(1)に記載の方法。
(3) 前記衝撃波を液体中で与える、(1)または(2)に記載の方法。
(4) 前記木材チップが製紙パルプ製造用である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5) 前記衝撃波の圧力が0.1〜500MPaである、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6) 前記衝撃波を爆薬により発生させる、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
(7) (1)〜(6)のいずれかに記載の方法により製造されたチップ。
(8) (1)〜(6)いずれかに記載の方法でチップを製造し、当該チップをパルプ化することを含む、パルプの製造方法。
(9) 前記パルプが製紙用パルプである、(8)記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、チップに衝撃波を与えることにより、薬液浸透性が向上した、付加価値の高いチップを製造することができる。本発明によって得られたチップは、薬液浸透性が向上しているため、パルプ製造に用いられる各種薬液が浸透しやすく、効率良くパルプを製造することができる。具体的には本発明によって得られたチップを用いることによって、化学パルプを製造する場合、未蒸解粕の減少、パルプ収率の向上や蒸解薬品の低減が可能となり、機械パルプを製造する場合、磨砕時の消費電力を低減し、結束繊維が少なく紙力の高い良好な品質のパルプを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例において用いた衝撃波処理装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明においては、チップに衝撃波を与えてチップの薬液浸透性を向上させる。さらに、当該チップを用いてパルプを製造する。
衝撃波
本発明において衝撃波とは、伝達媒体において音速を超える速度で伝播する強い圧力変化の波である。衝撃波は、圧力、温度および密度などの物理的因子を瞬間的に急激に変化させる性質を有し、衝撃波が与えられた物質は、瞬間的に収縮・膨張する。その際に、物質の界面では、それぞれの物質の収縮・膨張の度合いが異なってくるので、衝撃波の作用が大きくなる。さらに、二つの物質の密度差が大きいほど、その作用は大きくなる。
【0015】
本発明の衝撃波の発生源として、化学的エネルギー、電気的エネルギー、機械的エネルギー等を利用することができ、化学的エネルギーとしては、例えば爆薬の爆発を利用したエネルギー等、電気的エネルギーとしては、例えば電気パルスを利用したエネルギー等、機械的エネルギーとしては、例えば液体中への金属球の打ち込みを利用したエネルギー等が挙げられる。
【0016】
本発明において衝撃波を発生させる方法は、爆薬の爆発、電気パルス、液体中への金属球の打ち込み等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。また、衝撃波管のような装置を利用して衝撃波を発生させることもできる。すなわち、薄膜などの隔膜を設けた衝撃波管において、隔壁の両側に高圧と低圧の媒体を入れ、隔壁を破ると、高圧の媒体が急激に低圧の媒体に向かって膨張するため衝撃波が発生する。
【0017】
本発明において木材チップに衝撃波を与える場としては空気などの気体中でも液体中でも良い。好ましくは液体中で処理した方が、衝撃波の減衰が少ないので、処理の効果が大きくなる。ここでいう液体とは、水でも良いがパルプ製造に用いる薬液でも良い。
【0018】
本発明での衝撃波に伴う圧力は0.1〜500MPaの範囲であることが好ましく、1〜300MPaの範囲であることがより好ましく、10〜300MPaの範囲であることがさらに好ましく、50〜300MPaの範囲であることがとりわけ好ましい。0.1MPa以下での圧力では、木材チップに与える影響が小さく、薬液浸透性の向上効果が小さい。500MPa以上では、その圧力を得るためのコストが非常にかかること、衝撃波による作用が強く、木材チップの破壊が起こり微細な成分が生じるため、パルプ製造工程の操業性や製造したパルプの品質に悪影響を及ぼす恐れがある。衝撃波に伴う圧力は、公知の圧力センサ(例えばPVDF圧力センサ)を用いて測定できるが、次のようにしても測定できる。まず、衝撃波発生源から任意の距離を隔てた箇所に、センサである金属丸棒の先端をセットする。この際、金属丸棒の長さ方向が、衝撃波の伝播方向に対して平行になるようにセットする。センサにおける先端部(X0)より数cmの位置(X2)にひずみゲージを取り付ける。次に、センサにおける前記X0とX2の間の位置(X1)にもひずみゲージを取り付ける。次いで、ひずみゲージを取り付けた二点間を応力波が通過するときの伝播速度を求める。さらに、衝撃波が伝播した媒体(水等)と金属とのインピーダンスを考慮した圧力換算式を用いて、定法により圧力値を算出することができる。
【0019】
衝撃波の強度を制御する方法としては、例えば、爆薬の量や、電気パルスの電圧、金属球の質量・打ち込み速度等を調節したり、衝撃波発生源から処理対象までの距離を調節する方法がある。
【0020】
本発明においてチップへの衝撃波処理は1回のみでも良いが、必要に応じて複数回処理しても良い。本発明においては、処理するチップや用途に応じて、例えば、比較的強い衝撃波で1回処理することもできるし、比較的弱い衝撃波で複数回処理することもできる。
【0021】
また、本発明の衝撃波は、衝撃波の伝播方向に対して波面が垂直な垂直衝撃波であってもよいし、波面が垂直でない斜め衝撃波であってもよい。
チップ
本発明では、チップに対して衝撃波を与える。本発明において「チップ」(chip)とは、パルプの原料となるセルロースを含む植物組織の小片をいう。本発明においてチップの大きさは特に制限されないが、一般に10cmスクリーンを通過するサイズや5cmスクリーンを通過するサイズのチップを好適に使用することができる。
【0022】
本発明に用いられるチップは、木材チップであっても、非木材チップであってもよいが、製紙用パルプ製造に広く用いられる木材チップであることが好ましい。木材チップの場合、木材の樹種は特に限定されず、例えば、カエデ(maple)、カバ(birch)、ブナ(beech)、アカシア(acacia)、ユーカリ(eucalyptus)等の広葉樹や、マツ(pine)、モミ(fir)、トウヒ(spruce)などの針葉樹など、製紙用パルプの製造に通常用いられるチップを用いることができる。また、非木材チップの場合、例えば、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等のチップを使用できる。本発明の方法は、衝撃波という物理的な方法によりチップの薬液浸透性を高めるため、あらゆる種類のチップへ適用することができ、蒸解性が普通から容易なレベルのチップはもちろんのこと、そうではなく、難蒸解性のチップ、例えば、老齢木や樹脂成分の多い材などを高配合したチップ、さらには心材や辺縁材のチップにも好適に適用することができる。また、本発明においては、単一の樹種でも複数の樹種を混合したチップを用いることもでき、針葉樹と広葉樹を混合したチップを用いることもできる。
【0023】
また、本発明の方法によって、パルプ製造の原料とする全てのチップを処理することもでき、また、原料チップのうち、薬液浸透性が良好でない樹種の木材チップや、小片が大きく薬液が中心まで浸透しにくいオーバーサイズのチップに対して本発明を選択的に適用しても良い。
【0024】
本発明の方法によってチップを衝撃波処理する際は、チップに直接衝撃波を与えてもよく、チップを容器や高分子フィルムなどの保護材に入れ、それに対して衝撃波を与えてもよい。
【0025】
薬液浸透性
本発明においては、チップに衝撃波を与えてチップの薬液浸透性を向上させる。本発明において薬液浸透性とは、薬剤を含む液体の浸透しやすさを意味し、チップの保水度により評価することができる。また、チップの薬液浸透性が向上したか否かは、衝撃波処理しないチップと衝撃波処理したチップの保水度を測定し、その数値を比較することによって判断することができる。本発明の衝撃波処理によってチップの薬液浸透性が向上する理由の詳細は明らかでなく、本発明は以下の考察に拘束されるものではないが、衝撃波により植物組織に空隙等が生じ、薬液が浸透しやすくなるものと考えられる。
【0026】
本発明の薬液とは、特に制限されるものではないが、クラフトパルプ、亜硫酸パルプ、ソーダパルプなどの化学パルプ製造時に使用する蒸解液及び蒸解助剤、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)などの機械パルプ製造時に木材を化学処理するために使用される薬液、漂白剤、その他パルプの製造に使用する薬品を挙げることができる。これらの薬液が浸透しやすいチップはパルプなどの製造が容易で、付加価値が高いものとなる。また、こららの薬液を予めチップの内部に浸透させておくと、これらの薬品のチップに対する作用が促進され、パルプ製造の効率が高まる。例えば、上述の衝撃波処理を薬液中で行うことによって、チップの薬液浸透性を高めるとともに、チップに薬液を浸透させることができるため好ましい。
【0027】
パルプ
本発明により得られたチップを用いて製造されるパルプの種類は特に限定されず、製紙用パルプの他に溶解パルプの製造に用いることもでき、製紙用パルプであれば、化学パルプおよび機械パルプのいずれを製造する際にも用いることができる。化学パルプとしては、例えば、針葉樹の晒クラフトパルプ(NBKP)または未晒クラフトパルプ(NUKP)、広葉樹の晒クラフトパルプ(LBKP)または未晒クラフトパルプ(LUKP)、サルファイトパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)等を挙げることができ、機械パルプとしては、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、アルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドパルプ(CGP)等を挙げることができる。
【0028】
化学パルプ(ケミカルパルプ)
本発明により得られたチップを用いて化学パルプを製造する場合、化学パルプの製造法に特に制限はないが、蒸解液と、必要に応じて蒸解助剤とを、薬液としてチップに浸透させることが好ましい。したがって、化学パルプを製造する好ましい態様において、本発明は、蒸解液をチップに浸透させて蒸解する工程を有する。例えば、クラフト蒸解法を用いる場合、蒸解液はクラフト蒸解法に通常使用される白液であれば良く、特に限定されない。白液とは、クラフト法の緑液を苛性化した後の透明なアルカリ液であり、一般に水酸化ナトリウムと硫化ナトリウムを主成分とする、蒸解の際に用いられる液である。白液には、必要に応じて、ポリサルファイド蒸解で使用する多硫化ナトリウムや、キノン系物質といった蒸解助剤をさらに含有させても良い。
【0029】
本発明の方法を、ポリサルファイド蒸解を行なうチップに適用すると、蒸解性改善やパルプ収率の向上などの効果が高まるため好ましい。ポリサルファイド蒸解に使用するポリサルファイドの製造方法は、特に限定されず、当業者に通常使用される方法を用いることができる。例えば、撥水処理した粒状活性炭を触媒にして蒸解液を空気酸化するMOXY法あるいはこれに類似した方法や、硫化物イオンを含むアルカリ性蒸解液を電気分解にかけ、チオ硫酸の副生を極めて少なくして高濃度のポリサルファイドを製造する方法を使用することができる。
【0030】
蒸解助剤として用いることができるキノン系物質は、蒸解に通常使用されるキノン化合物、ヒドロキノン化合物、またはこれらの前駆体であり、特に限定されない。キノン化合物としては、例えば、アントラキノン、ジヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロアントラキノン)、テトラヒドロアントラキノン(例えば、1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、1,2,3,4−テトラヒドロアントラキノン)、メチルアントラキノン(例えば、1−メチルアントラキノン、2−メチルアントラキノン)、メチルジヒドロアントラキノン(2−メチル−1,4−ジヒドロアントラキノン)、メチルテトラヒドロアントラキノン(例えば、1−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン、2−メチル−1,4,4a,9a−テトラヒドロアントラキノン)などを挙げることができる。ヒドロキノン化合物としては、アントラヒドロキノン(一般に、9,10−ジヒドロキシアントラセン)、メチルアントラヒドロキノン(例えば、2−メチルアントラヒドロキノン)、ジヒドロアントラヒドロアントラキノン(例えば、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセン)またはそれらのアルカリ金属塩(例えば、アントラヒドロキノンのジナトリウム塩、1,4−ジヒドロ−9,10−ジヒドロキシアントラセンのジナトリウム塩)などを挙げることができる。また、前駆体としては、アントロン、アントラノール、メチルアントロン、メチルアントラノールなどが挙げられる。
【0031】
本発明の方法により、クラフトパルプ製造用のチップを製造する際には、上記の蒸解液や蒸解助剤などの薬液を、前述の方法で衝撃波処理したチップに、浸透させればよい。浸透の際に用いる蒸解液や蒸解助剤は、後の蒸解工程に用いるものと同じ組成及び同じ濃度のものを用いてもよいし、組成や濃度を適宜変更してもよい。しかし、蒸解釜に送入するものと同じ蒸解液及び蒸解助剤を用いることがコストの面からは有利である。
【0032】
本発明により得られたチップは、例えば高圧フィーダーにより連続蒸解釜へ送ることができる。連続蒸解釜では、1ベッセル液相型、1ベッセル気相/液相型、2ベッセル気相/液相型、2ベッセル液相型などの連続蒸解釜で公知の条件で浸透、蒸解、洗浄などの処理を行い、未漂白クラフトパルプを製造できる。
【0033】
薬液は、連続蒸解釜の浸透ゾーンにおいてチップ内部に浸透させることができる。例えば、2ベッセル型連続蒸解釜の高圧予備浸透ベッセルを用いる場合には、9〜11kg/cmの圧力下、蒸解温度よりも低い110〜130℃の温度で、滞留時間30〜50分間程度の処理をすることができる。
【0034】
浸透ゾーンを通過したチップは、次いで、蒸解ゾーンに送られ、通常の蒸解条件で処理される。例えば、1ベッセル型連続蒸解釜で、広葉樹材由来のチップを用いる場合は、温度135〜180℃、時間4〜6時間、Hファクター300〜1,000で処理することができる。
【0035】
また、クラフト蒸解法の変法である、MCC(modified continuous cooking)法、EMCC(extended modified continuous cooking)法、Lo−solids法、ITC(isothermal cooking)法などの修正法による蒸解も公知の条件で適用できる。
【0036】
クラフト蒸解を終了した未晒しクラフトパルプのカッパー価は、14〜32にすることが好ましく、広葉樹では14〜22にすることが好ましく、15〜20が更に好ましい。また、針葉樹では20〜32にすることが好ましく、24〜28が更に好ましい。
【0037】
以上、本発明の方法により処理されたチップを用いてクラフトパルプを製造する方法の具体例を説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、サルファイトパルプ(SP)、アルカリパルプ(AP)など、他の化学パルプの製造にも応用できる。
【0038】
機械パルプ(メカニカルパルプ)
本発明により得られたチップを用いて機械パルプを製造する場合、機械パルプの製造法に特に制限はなく、例えば、リファイナーによりパルプ化を行うリファイナーグランドパルプ(RGP)法、アルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)法、サーモメカニカルパルプ(TMP)法、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)法、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)法、セミケミカルパルプ(SCP)法、ケミグラウンドパルプ(CGP)法などを用いることができる。特に、パルプ化の際に薬液を用いるアルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)法、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)法、あるいはケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)法に供するチップに本発明の方法を適用すると、薬液がチップの内部にまで十分に浸透し、高品質なパルプが得られるため好ましい。したがって、機械パルプを製造する好ましい態様において、本発明は、薬液をチップに浸透させて磨砕する工程を有する。
【0039】
本発明のチップを用いて機械パルプを製造する場合に用いる薬液としては、アルカリ過酸化水素機械パルプ(APMP)法、アルカリ過酸化水素サーモメカニカルパルプ(APTMP)法については、苛性ソーダ、珪酸ソーダ、過酸化水素などを挙げることができる。また、必要に応じてエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)などのキレート剤を使用することもできる。また、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)法については、亜硫酸ソーダ、苛性ソーダなどを使用することができる。
【0040】
本発明の方法により、機械パルプ製造用のチップを製造する際には、チップをリファイナーなどの解繊装置に送る前に、前述の方法で衝撃波処理を行なえばよい。
一般に薬液を浸透させたチップは磨砕工程に送られるが、磨砕工程には一般の解繊装置を用いることができ、加圧若しくは大気圧条件下で磨砕することができる。好ましくはシングルディスクリファイナー、コニカルディスクリファイナー、ダブルディスクリファイナー、ツインディスクリファイナー等を用いて磨砕する。
【0041】
得られた機械パルプは所望の白色度を得るために、1つ以上の公知の漂白剤を用いて漂白してもよい。漂白剤としては、過酸化水素、オゾン、過酢酸、次亜塩素酸等の酸化剤、あるいはハイドロサルファイト(亜二チオン酸ナトリウム)、硫酸水素ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、ホルムアミジンスルフィン酸(FAS)等の還元剤を用いることができる。本発明のチップには、薬液を浸透させる際、同時に又は連続して、漂白剤を減圧下で浸透させておいてもよい。
【0042】

本発明の衝撃波処理したチップから製造したパルプは、公知の方法により抄紙して、印刷用紙、新聞用紙の他、塗工紙、情報用紙、加工用紙、衛生用紙等として使用することができる。情報用紙としてさらに詳しくは、電子写真用転写紙、インクジェット記録用紙、感熱紙、フォーム用紙等が挙げられる。加工用紙としてさらに詳しくは、剥離紙用原紙、積層板用原紙、成型用途の原紙等が挙げられる。衛生用紙としてさらに詳しくは、ティッシュペーパー、トイレットペーパー、ペーパータオル等が挙げられる。また、段ボール原紙等の板紙として使用することも可能である。
【実施例】
【0043】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。なお、特段の記載がないかぎり、本明細書において部および%は質量基準であり、数値範囲はその端点を含むものとして記載される。
【0044】
実験1:チップの製造
衝撃波処理を、水槽の中に処理対象(木材チップ)と衝撃波発生源(爆薬)を入れて行った。
【0045】
原料の木材チップとして、ラジアータパイン(オーストラリア産)のチップを、予めチップ篩い分け機を用いてφ9.5−25.4mmに分級したものを用いた。処理対象のチップ約250gをポリカーボネート製容器(容積:500mL)に入れ、水を充満して密封し、水槽に設置した。
【0046】
衝撃波発生源としては、爆薬の爆発エネルギーを利用した。爆薬として導爆線(日本カーリット製、8g/m)を用い、6号電気雷管にて起爆し、衝撃波を発生させた。導爆線と木材チップを入れた容器の距離(約70cm)は、衝撃波による圧力が150MPaとなるように調節した。
【0047】
このようにして発生させた衝撃波を、上記容器中の木材チップに1回与えた。このように衝撃波処理したチップ(実施例)と衝撃波処理していないチップ(比較例)について、浸透性の指標として該チップの保水度を測定した。保水度は、以下の手順によって測定した。
【0048】
<保水度測定方法>
24時間水に浸漬後、5分間遠心脱水したチップの質量Wを測定した。その後、該チップの絶乾質量Wを測定した。保水度(WRV:Water Retention Value)は以下の式により求めた。保水度が大きいほど、木材チップに対する薬液の浸透性が高く、薬液が保持されやすいことを示す。
【0049】
【数1】

【0050】
保水度を測定した結果、衝撃波処理したチップの保水度は133.4%であるのに対し、未処理チップの保水度は111.0%であり、衝撃波処理によりチップの薬液浸透性が向上することが示された。
【0051】
実験2:クラフトパルプ(KP)の製造
実験1と同様にして150MPaの衝撃波で処理した木材チップを用いて、以下の手順によりクラフトパルプを製造した(実施例)。また、比較例として、衝撃波処理していない木材チップを用いて同様にクラフトパルプを製造した。
【0052】
得られたパルプについて、総収率、粕率、精選収率を求め、カッパー価を測定した。結果を表1に示す。
<クラフトパルプの製造>
木材チップを回転式オートクレーブ(Lorentzen & Wettre製)を用いてクラフト蒸解した。蒸解条件は、活性アルカリ添加率(対絶乾チップ;NaO換算)が17質量%または19質量%、硫化度25%、液比3.2L/kg、浸透温度130℃、30分、蒸解温度170℃とし、H−ファクターが1800となるように蒸解した。ここで、H−ファクター(HF)は、蒸解過程で反応系に与えられた熱の総量を表す指標であり、以下の式により表される。したがって、H−ファクターは、チップと蒸解液が混ざった時点から蒸解終了時点まで時間積分することで算出する。
【0053】
【数2】

【0054】
<総収率>
投入したチップに対する、蒸解後に得られた固形分の総量の割合であり、以下の式により示される。
蒸解後の固形分の質量/投入した木材チップの質量×100(%)
<粕率>
10カットスクリーンに通した際の残渣(残留分)の割合であり、以下の式により示される。
10カットスクリーン残渣の質量/投入した木材チップの質量×100(%)
<精選収率>
総収率から粕率を除いた割合(総収率−粕率)を示す。
【0055】
<カッパー価>
TAPPI試験法T236os−76に従って測定した。
【0056】
【表1】

【0057】
表1から、衝撃波処理をしたチップを用いてクラフト蒸解を行った場合、衝撃波処理を行っていないチップを用いてクラフト蒸解を行った場合と比較して、同一の活性アルカリ添加率において、総収率、精選収率が高く、粕率が低かった。また、カッパー価はほぼ同等であった。
【0058】
このことから、本発明の衝撃波処理したチップを用いると、クラフトパルプの収率が向上し、未蒸解粕を減少できることが示された。
実験3:ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)の製造
実験1と同様にして150MPaの衝撃波で処理した木材チップを用いて、以下の手順にてケミサーモメカニカルパルプを製造した(実施例)。また、比較例として、衝撃波処理していない木材チップを用いて同様にケミサーモメカニカルパルプを製造した。
【0059】
パルプの製造に要した電力量から、パルプ1トンを製造するために必要な電力量(電力原単位)を算出した。また、製造したパルプのシャイブ(結束繊維)数を測定した。パルプのシャイブ数は、PQM1000(メッツォオートメーション製)を用いて、幅75μm、長さ0.3mm以上のシャイブの数を計測した。結果を表2に示す。
【0060】
<ケミサーモメカニカルパルプの製造>
インプレグネーターを用いて、亜硫酸ナトリウム成分が木材チップに対して0.6質量%吸液するように、木材チップに亜硫酸ナトリウム溶液を含浸させた。
【0061】
この木材チップを120℃で10分間予熱処理した後、チップを濃度40固形分質量%に調整し、加圧リファイナー(熊谷理器工業製BPR45-300SS)で一次リファイニングし、解繊した。リファイニング温度は133℃とした。
【0062】
次いで、パルプ濃度を20固形分質量%に調整し、常圧リファイナー(熊谷理器工業製BR-300CB)を用いて二次リファイニングした。濾水度200mLまでリファイニングを行い、ケミサーモメカニカルパルプを製造した。
【0063】
【表2】

【0064】
表2に示されるように、衝撃波処理したチップを用いた場合、パルプを製造するために必要な電力は、衝撃波処理していないチップを用いた場合よりも10%以上低かった。また、衝撃波処理したチップを用いた場合、未処理チップを用いた場合と比較してシャイブ数は約35%少なかった。このことから、衝撃波処理したチップは薬液浸透性が高いため、機械パルプを製造する際にチップに薬液が効率よく浸透し、機械パルプ製造に必要なエネルギーを削減でき、パルプ品質も向上することが示された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チップに衝撃波を与えてチップの薬液浸透性を向上させることを含む、チップの製造方法。
【請求項2】
前記チップが木材チップである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記衝撃波を液体中で与える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記木材チップが製紙パルプ製造用である、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記衝撃波の圧力が0.1〜500MPaである、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記衝撃波を爆薬により発生させる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の方法により製造されたチップ。
【請求項8】
請求項1〜6いずれかに記載の方法でチップを製造し、当該チップをパルプ化することを含む、パルプの製造方法。
【請求項9】
前記パルプが製紙用パルプである、請求項8記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−157654(P2011−157654A)
【公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−20090(P2010−20090)
【出願日】平成22年2月1日(2010.2.1)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】