説明

衝突検出機構

【課題】車両バンパの中央部分や両端部分など何れにおいても衝突検出感度を等しくすることができ、これによって車両バンパへの衝突物が歩行者であるか否かを正確に分別すること。
【解決手段】バンパレインフォースメント14を、その前面が、概略弓形のバンパカバー3と車両前後方向に所定間隔S1を介して車両左右方向に平行又は略平行となる形状とし、このバンパレインフォースメント14の前面に固定されるチャンバ部材17及びアブソーバ16の車両前後方向の長さを、車両左右方向の何れの位置でも一定又は略一定とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも車両バンパ内に上下に配置されたチャンバ部材及び物体への車両バンパ衝突時の衝撃吸収用のアブソーバと、チャンバ部材のチャンバ空間の圧力変化を検出する圧力センサとを備える衝突検出機構に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歩行者保護の目的で、車両バンパへの物体の衝突時に衝突物が歩行者か否かを判定し、歩行者と判定した場合は、歩行者を保護するための装置(例えば、アクティブフードやカウルエアバッグ)を作動させる技術が提案され、また実用化が検討されている。歩行者かそれ以外の物かを極力正確に判定するために、図1に示すように車両に衝突検出機構1が搭載されている。但し、図1は従来の衝突検出機構1の構成を示す平面図であり、図2に図1に示すA1−A2断面図を示す。
【0003】
衝突検出機構1は、バンパレインフォースメント4の前面とバンパカバー3との間に配置されたチャンバ部材7及び当該チャンバ部材7の下方(又は上方)に配置され、物体への車両バンパ衝突時の衝撃を吸収するアブソーバ6と、チャンバ部材7にブラケット9により取り付けられた圧力センサ8とを備えて構成されている。また、圧力センサ8には図示せぬ電子制御ユニットが電気的に接続されている。
【0004】
このように衝突検出機構1としての車両バンパ2は、バンパカバー3、バンパレインフォースメント4、サイドメンバ5、アブソーバ6、チャンバ部材7及び圧力センサ8を主体として構成されている。
【0005】
バンパカバー3は、車両前端部にて車両幅方向(車両左右方向)に概略弓状に延びる長手状を成し、バンパレインフォースメント4、アブソーバ6及びチャンバ部材7を覆うように車体に取り付けられる樹脂(例えば、ポリプロピレン)製のカバー部材である。尚、バンパカバーの形状は、図1に示すように、一般的に中央部分が湾曲状となっている。バンパレインフォースメント4は、バンパカバー3内に配設されて車両幅方向に延びる金属製の梁状部材である。
【0006】
サイドメンバ5は、車両の左右両側面近傍に位置して車両前後方向に長手状に延びる一対の金属製部材であり、その前端に上述したバンパレインフォースメント4が取り付けられている。アブソーバ6は、バンパカバー3内でバンパレインフォースメント4の前面下方側に取り付けられ、車両幅方向に長手状に延びる発泡樹脂製部材であり、車両バンパ2における衝撃吸収作用を発揮する。アブソーバ6の車両前後方向における長さは、車種によって異なるが、例えば、40〜150mm程度である。
【0007】
チャンバ部材7は、バンパカバー3内でバンパレインフォースメント4の前面上方側に取り付けられ、車両幅方向(車両左右方向)に概略弓状に延びる箱状の合成樹脂製部材であり、内部に厚さ数mmの壁面によって囲まれた密閉状のチャンバ空間7aが形成されている。チャンバ部材7は、車両バンパ2における衝撃吸収と圧力伝達との二つの作用を併せ持っている。
【0008】
圧力センサ8は、気体圧力を検出可能なセンサ装置であり、チャンバ部材7にブラケット9で組付けられてチャンバ空間7a内の圧力変化を検出可能に構成されており、その圧力変化を検出することにより得られる検出圧力信号を電子制御ユニットへ出力する。電子制御ユニットは、図示せぬ歩行者保護用エアバッグやポップアップフードの展開制御を行うための電子制御装置であり、圧力センサ8から出力される検出圧力信号に応じて車両バンパ2に歩行者(すなわち、人体)が衝突したか否かを判別する処理を行う。なお、電子制御ユニットには、圧力センサ8からの検出圧力信号による検出圧力結果に加え、図示せぬ車速センサからの車速検出結果を入力し、これら圧力検出結果及び車速検出結果に基づき歩行者衝突の判定を行うようにすることが好ましい。
【0009】
このように歩行者を判別する理由は、車両バンパ2に衝突した衝突物が歩行者でない場合、フード上の保護装置(例えばアクティブフード)を作動させると様々な悪影響が生じるからである。例えば三角コーンや工事中看板等の軽量落下物と衝突した場合に歩行者と区別できないと、保護装置を無駄に作動させて余分な修理費が発生する。また、コンクリートの壁や車両等の重量固定物と衝突した場合に歩行者と区別できなければ、フードが持ち上がった状態で後退していくのでフードが車室内に侵入し乗員に危害を与える恐れがある。このように、衝突物が歩行者であるか否かを正確に分別することが要求されるようになっていることから、従来、車両バンパ2内でバンパレインフォースメント4の前面にチャンバ部材7を配設し、チャンバ空間7a内の圧力変化を圧力センサ8で検出することにより車両バンパ2への歩行者等の衝突を検出する車両用衝突検出装置1が提案されていた。この種のチャンバ部材を備えて衝突を検出する技術として特許文献1に記載のものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−18735号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、上述した従来の衝突検出機構においては、車両バンパ2への衝突物が歩行者であるか否かを正確に分別することが要求されており、このためには、車両バンパ2の中央部分や両端部分など何れにおいても衝突検出感度が等しいことが必要である。
【0012】
しかし、車両バンパ2において、バンパカバー3の形状は中央部分が湾曲状で両端部分が曲がっており、バンパレインフォースメント4も両端部分が曲がっているため、バンパカバー3とバンパレインフォースメント4との車両前後方向の幅は中央部分よりも両端部分の方が短い。この様子を図3に示す。図3(a)は図1に示す車両バンパ2の中央部分A1−A2の前後方向の断面図、(b)は両端部分B1−B2の前後方向の断面図である。つまり、チャンバ部材7は、図3(a)に示すように中央部分であれば、チャンバ部材7を車両前後方向に沿った四角形状の切断面における車両前後方向の水平な辺の長さ(水平辺長)Hと、その水平に対して垂直な辺の長さ(垂直辺長)Vとの比率が、水平辺長Hが垂直辺長Vよりも長い。アブソーバ6の形状もその比率に応じたものとなっている。また、チャンバ部材7の両端部分は、図3(b)に示すように、水平辺長Hと垂直辺長Vとが略同じ長さであり、アブソーバ6の形状も略同じ比率となっている。
【0013】
このように水平辺長Hと垂直辺長Vとの比率が異なる場合、一般的に歩行者脚部衝突時のエネルギをアブソーバストロークを使い切って吸収する為、F−S特性(反力−変位特性)はストロークが大きく取れる車両中央部をFが小さく(柔かく)そしてストロークの少ない端部に行くほどFが大きく(硬く)なる。その為、中央部分と両端部分とでは衝突検出感度が異なっていた。従って、車両バンパ2への衝突物が歩行者であるか否かを正確に分別することができないという問題がある。 本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、車両バンパの中央部分や両端部分など何れにおいても衝突検出感度を等しくすることができ、これによって車両バンパへの衝突物が歩行者であるか否かを正確に分別することができる衝突検出機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するためになされた請求項1に記載の発明は、車両バンパの湾曲形状のバンパカバー内に、バンパレインフォースメントと、このバンパレインフォースメントの車両前方側に固定され、チャンバ空間を有するチャンバ部材と、このチャンバ部材の下方又は上方に配置され、物体への車両バンパ衝突時の衝撃を吸収するアブソーバと、前記チャンバ空間の圧力変化を検出する圧力センサとを備える衝突検知機構において、前記バンパレインフォースメントを、その前面が、前記バンパカバーと車両前後方向に所定間隔を介して車両左右方向に平行又は略平行となる形状とし、この形状のバンパレインフォースメントの前面に固定される前記チャンバ部材及び前記アブソーバの車両前後方向の長さを、車両左右方向の何れの位置でも一定又は略一定としたことを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、チャンバ部材及びアブソーバの車両前後方向の長さが、車両左右方向の何れの位置でも一定又は略一定なので、物体が車両バンパのどの位置に衝突しても、F−S特性(反力-変位特性)が等しくなる。このため、チャンバ空間内の圧力変化の検出が車両バンパのどの位置でも等しくなるので、車両バンパへの衝突物が歩行者であるか否かを正確に分別することができる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、前記チャンバ部材は、当該チャンバ部材を車両前後方向に切断した断面の車両底面と平行な水平辺長と、この水平辺長に垂直な垂直辺長とが同じ比率、又は前記垂直辺長が前記水平辺長よりも長い比率であることを特徴とする。
この構成によれば、チャンバ部材の車両前後方向の断面の水平辺長と垂直辺長とを同比率又は垂直辺長が水平辺長よりも長い比率としたので、チャンバ空間の圧力変化が大きくなって圧力センサで圧力変化が検出し易くなる。
【0017】
請求項3に記載の発明は、前記アブソーバは、前記チャンバ部材の車両前面方向に所定の間隙を介して立ちはだかる部分を備える形状であることを特徴とする。
この構成によれば、チャンバ部材の前面にアブソーバの一部分が配置される構成となるので、物体への衝突時にチャンバ部材が即時変形して衝突検知を時間的に速く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】従来の衝突検出機構の構成を示す平面図である。
【図2】図1に示す衝突検知機構のA1−A2断面図である。
【図3】(a)は図1に示す車両バンパの中央部分A1−A2の前後方向の断面図、(b)は両端部分B1−B2の前後方向の断面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る衝突検出機構の構成を示し、(a)は衝突検出機構の一部平面図、(b)は(a)に示すA3−A4断面又はB3−B4断面図である。
【図5】本実施形態の衝突検知機構のアブソーバの他の形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照して説明する。但し、本明細書中の全図において相互に対応する部分には同一符号を付し、重複部分においては後述での説明を適時省略する。
【0020】
図4は、本発明の実施形態に係る衝突検出機構の構成を示し、(a)は衝突検出機構の一部平面図、(b)は(a)に示すA3−A4断面又はB3−B4断面図である。
【0021】
本実施形態の衝突検出機構11が、図1〜図3に示した従来構成と異なる点は、バンパレインフォースメント14を、その前面が、概略弓形のバンパカバー3と車両前後方向に所定間隔S1を介して車両左右方向に平行又は略平行となる形状とし、このバンパレインフォースメント14の前面に固定されるチャンバ部材17及びアブソーバ16の車両前後方向の長さを、車両左右方向の何れの位置でも一定又は略一定としたことにある。
【0022】
従って、この構成の車両バンパ12の中央部分をA3−A4切断線で切断したチャンバ部材17及びアブソーバ16の断面形状と、両端部分をB3−B4切断線で切断したチャンバ部材17及びアブソーバ16の断面形状とは、図3(b)に示すように、略同じとなっている。この図3ではチャンバ部材17の水平辺長Hと垂直辺長Vとの長さは1対1となっており、アブソーバ16は、水平辺長Hが垂直辺長Vよりやや長い形状となっている。但し、チャンバ部材17は、垂直辺長Vが水平辺長Hよりも長い比率であればよい。また、F−S特性も車両バンパ12のどの位置でも一定又は略一定となっている。
【0023】
このような構成の衝突検出機構11においては、チャンバ部材17及びアブソーバ16の車両前後方向の長さが、車両左右方向の何れの位置でも一定又は略一定なので、物体が車両バンパ12のどの位置に衝突しても、F−S特性(反力-変位特性)が等しくなる。このため、チャンバ空間17a内の圧力変化の検出が車両バンパ12のどの位置でも等しくなる。言い換えれば、車両バンパ12の中央部分や両端部分など何れにおいても衝突検出感度が等しくなるので、電子制御ユニットが圧力センサ8からの検出圧力信号に応じて行う衝突検出において、車両バンパ12への衝突物が歩行者であるか否かを正確に分別することができる。
【0024】
この他、チャンバ部材17及びアブソーバ16においては、低温で硬く潰れ難く、高温で軟らかく潰れ易く、これら各々において変形量に対する反力が増減するといった温度特性を、車両バンパ12の中央部分や両端部分に関係なく一定とすることができるので、温度特性を加味しても何れの位置でも衝突検知感度を等しくすることができる。
【0025】
また、チャンバ部材17は、当該チャンバ部材17を車両前後方向に切断した断面の車両底面と平行な水平辺長Hと、この水平辺長Hに垂直な垂直辺長Vとが同じ比率、又は垂直辺長Vが水平辺長Hよりも長い比率となっている。従って、チャンバ空間17の圧力変化が大きくなって圧力センサ8で圧力変化が検出し易くなる。
【0026】
更に、図5に示すように、アブソーバ26を、チャンバ部材17の車両前面方向に所定の間隙を介して立ちはだかる部分26aを備えるL字形状としてもよい。この場合、チャンバ部材17の前面にアブソーバ26の一部分26aが配置される構成となるので、物体への衝突時にチャンバ部材17が即時変形して衝突検知を時間的に速く行うことができる。また、バンパレインフォースメント14は、アルミニュウムの押出成型品、又は鉄をプレスで曲げた鉄製で実現可能である。
【0027】
この他、チャンバ部材17及びアブソーバ16の車両前後方向の長さを車両左右方向の何れの位置でも一定又は略一定としたので、その車両前後方向の長さを従来構成よりも短くすることができる。従来においてチャンバ部材の車両前後方向の長さが特に中央部で長い場合、衝突時の変形初期段階にチャンバ空間が増加する為一瞬負圧となり衝突検知が遅れる問題があった。しかし、本実施形態ではチャンバ部材17の車両前後方向の長さを短くすることが可能なので衝突時の変形初期段階でもチャンバ空間が大きくならず衝突時でも負圧とならない。従って衝突検知が遅れるといったことを防止することができる。
【符号の説明】
【0028】
8 圧力センサ
11 衝突検知機構
12 車両バンパ
13 バンパカバー
14 バンパレインフォースメント
16,26 アブソーバ
17 チャンバ部材
17a チャンバ空間
26a アブソーバのチャンバ部材前面対向部材
H 水平辺長
V 垂直辺長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両バンパの湾曲形状のバンパカバー内に、バンパレインフォースメントと、このバンパレインフォースメントの車両前方側に固定され、チャンバ空間を有するチャンバ部材と、このチャンバ部材の下方又は上方に配置され、物体への車両バンパ衝突時の衝撃を吸収するアブソーバと、前記チャンバ空間の圧力変化を検出する圧力センサとを備える衝突検知機構において、 前記バンパレインフォースメントを、その前面が、前記バンパカバーと車両前後方向に所定間隔を介して車両左右方向に平行又は略平行となる形状とし、この形状のバンパレインフォースメントの前面に固定される前記チャンバ部材及び前記アブソーバの車両前後方向の長さを、車両左右方向の何れの位置でも一定又は略一定としたことを特徴とする衝突検知機構。
【請求項2】
前記チャンバ部材は、当該チャンバ部材を車両前後方向に切断した断面の車両底面と平行な水平辺長と、この水平辺長に垂直な垂直辺長とが同じ比率、又は前記垂直辺長が前記水平辺長よりも長い比率であることを特徴とする請求項1に記載の衝突検知機構。
【請求項3】
前記アブソーバは、前記チャンバ部材の車両前面方向に所定の間隙を介して立ちはだかる部分を備える形状であることを特徴とする請求項1又は2に記載の衝突検知機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−247755(P2010−247755A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−101246(P2009−101246)
【出願日】平成21年4月17日(2009.4.17)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)