衣服
【課題】着脱時のすべりや、形くずれの防止といった形態、外観保持性や着心地に優れているとともに、吸放湿性、保温性、防カビ性、抗菌性といった衛生的性質および対生物的性質にも優れた衣服を提供する。
【解決手段】ポケットを具備する衣服であって、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維が使用された衣服。袋布は、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とが生地の表裏に露出する交織で、ポケット内側の吸放湿発熱性繊維の露出度が外側と比べてほぼ等しいか、多くなされた衣服。
【解決手段】ポケットを具備する衣服であって、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維が使用された衣服。袋布は、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とが生地の表裏に露出する交織で、ポケット内側の吸放湿発熱性繊維の露出度が外側と比べてほぼ等しいか、多くなされた衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーツ、ブレザー、ジャケット、コート、ズボン、スカートなどのように、表地に対して、裏地や芯地が組み合わされて構成された衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スーツ、ブレザー、ジャケット、コート、ズボン、スカートなどの衣服は、表地と一緒に設けられた芯地や裏地によって、衣服のシルエットを作ったり、型崩れを防止したり、張りを付けたりしている。
【0003】
従来より、この種の衣服の裏地としては、すべりの良いことからフィラメント織物が使用されていた。中でも、ドレープ性の良さなどからポリエステル、キュプラ、レーヨン、アセテート、ナイロンが多用されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、この種の衣服の芯地としては、綿、毛、麻、合成繊維などの織物、ニット、不織布や、これらの芯地の片面または両面に樹脂を接着した接着芯地などが使用されていた。
【0005】
しかし、上記従来の裏地および芯地を用いた衣服は、着脱時のすべりや、形くずれの防止といった形態、外観保持性および着心地には考慮されているものの、吸放湿性、保温性、抗菌性といった衛生的性質に劣るといった不都合を生じる。
【0006】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、着脱時のすべりや、形くずれの防止といった形態、外観保持性や着心地に優れているとともに、吸放湿性、保温性、防カビ性、抗菌性といった衛生的性質および対生物的性質にも優れた衣服を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の衣服は、ポケットを具備する衣服であって、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維が使用されたものである。また、吸放湿発熱性繊維からなる表地、裏地または芯地が使用されたものである。
【0008】
吸放湿発熱性繊維としては、繊維自体が非常に強い高架橋構造になっていて染料を受け付ける非晶領域が小さく、非常に隙間の少ない繊維構造となっているものが挙げられる。すなわち、このような吸放湿発熱性繊維は、水分を吸湿する時に、吸放湿発熱性繊維の官能基と水分子との反応(水和反応)による熱の発生、および水分子のエントロピーの変化に基づく熱の発生を生じる。このうち、水分子のエントロピー変化に基づく熱の発生量は、吸放湿時に、繊維自体が体積変化を伴わないことによってより大きくなる。したがって、上記したように、繊維自体が非常に強い高架橋構造になっていて染料を受け付ける非晶領域が小さい吸放湿発熱性繊維は、体積変化(膨潤)がし難く、吸湿時の熱の発生量が大きいが、染色性が極めて悪くなる。このような吸放湿発熱性繊維として、具体的なものとしては、例えば、アクリレート系吸放湿発熱性繊維(東洋紡社製商品名ブレスサーモ(N−38)、商品名エクス(G−800))などが挙げられる。このアクリレート系吸放湿発熱性繊維は、出発繊維としてアクリルニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維が用いられる。AN系重合体は、AN単重合体、ANと他の単量体との共重合体のいずれでも良い。この他の単量体としては、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン;アクリル酸エステル;メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸などのスルホン酸含有単量体およびその塩;メタアクリル酸、イタコン酸などのカルボン酸含有単量体およびその塩;アクリルイミド、スチレン、酢酸ビニルなどの単量体を挙げることができるが、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。
【0009】
以上のアクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物を架橋剤として導入する方法が適用される。この方法においては、窒素含有量の増加を1.0〜10.0重量%に調整し、ヒドラジン系化合物の濃度を5〜60重量%、温度を50〜120℃とした状態で5時間以内で処理する。この方法は工業的に好ましい。ここで、窒素含有量の増加とは、原料のアクリル系繊維の窒素含有量とヒドラジン系化合物を架橋剤として導入された状態のアクリル系繊維の窒素含有量との差をいう。この窒素含有量の増加が、上記の下限(1.0重量%)に満たない場合は、最終的に満足し得る物性の繊維を得ることができず、さらに難燃性、抗菌性などの特性を得ることができない。また、窒素含有量の増加が、上記の上限(10.0重量%)を超えた場合には、高吸放湿性が得られない。したがって、ここで使用するヒドラジン系化合物としては、窒素含有量の増加が上記の範囲となるような化合物であれば特に限定されない。このようなヒドラジン系化合物としては、例えば、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等や、エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミン基を複数個含有する化合物を挙げることができる。
【0010】
なお、この架橋工程においては、ビドラジン系化合物が加水分解反応により架橋されずに残存した状態のニトリル基を実質的に消失させるとともに、1.0〜4.5meq/gの塩型カルボキシル基と残部にアミド基を導入する方法が適用される。その方法としては、アルカル金属水酸化物、アンモニアなどの塩基性水溶液、あるいは硝酸、硫酸、塩酸などの鉱酸の水溶液を含浸させるか、またはその水溶液中に原料繊維を浸漬した状態で加熱処理する方法、あるいは、上記した架橋剤の導入と同時に加水分解反応を起こす方法を用いることができる。なお、この加水分解反応が、酸による加水分解である場合は、カルボキシル基を塩型に変換させる必要がある。また、セルロース系繊維を改質し、セルロースの親水基の量を増やすようにしたり、水和反応を起こし発熱しやすい官能基、例えばカルボキシル基、水酸基等に置き換え発熱効果を高めるように改質した素材の利用も考えられる。
【0011】
袋布として吸放湿発熱性繊維を用いる場合、吸放湿発熱性繊維を単独で、もしくはこの吸放湿発熱性繊維と他の繊維との織物とされる。この場合、他の繊維としては、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維、綿、ウールなどの天然繊維などが挙げられる。織物は、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とからなる混紡糸、多層構造糸、コアヤーン、合撚糸などの複合糸によって構成されたものであっても良いし、上記他の繊維からなる糸と吸放湿発熱性繊維からなる糸とによって構成されたものであっても良いし、上記他の繊維からなる糸または吸放湿発熱性繊維からなる糸と上記複合糸とによって構成されたものであっても良い。
【0012】
この織物としては、織物の両面に必ず吸放湿発熱性繊維が露出し、ポケット内側の吸放湿発熱性繊維の露出度が外側と比べてほぼ等しいか、多くする必要がある。例えば、平組織の織物の場合、経糸に他の繊維を使用し、緯糸に吸放湿発熱性繊維を使用することにより、表裏に出る吸放湿発熱性繊維の比率を略同じにすることができる。また、経糸に他の繊維を使用し、緯糸に吸放湿発熱性繊維を使用し、綾織、朱子織にすることによって、表裏に出る吸放湿発熱性繊維の比率を、ポケットの内側と外側とで略2:1、略3:1、略4:1などに変えることができる。
【0013】
この袋布は、ポケット内側だけに吸放湿発熱性繊維が回る構造にすれば、ポケット内に入れた手からの水蒸気によって吸放湿発熱性繊維が急速に発熱し、手が急速に暖まることとなる。つまり、ポケット内に長時間にわたって手を入れておくといったことは考えられないので、袋布の場合、裏地のように吸湿速度と放湿速度のバランスを保って発熱状態を持続させるといったことよりは、むしろポケット内に手を入れた際に、その手を急速に暖めることが重要である。この場合、袋布を構成する吸放湿発熱性繊維は、一挙に飽和状態に達して発熱しなくなるが、ポケット内から手を出している時に放湿が行われて、今度ポケット内に手を入れた際には、発熱することとなる。
【0014】
袋布として吸放湿発熱性繊維を使用する場合、吸放湿発熱性繊維と他の繊維との複合率は、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97〜50:50(重量比)、特に好ましくは10:90〜30:70とするのが良い。吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が低下すると、充分な吸放湿性および発熱性が得られないこととなる。また、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=50:50よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が増加すると、強度低下となる。
【0015】
裏地として吸放湿発熱性繊維を用いる場合は、吸放湿発熱性繊維と疎水繊維との織物とされる。この場合、疎水性繊維としては、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの化学繊維が挙げられる。また、織物は、吸放湿発熱性繊維と疎水性繊維とからなる混紡糸、多層構造糸、コアヤーン、合撚糸などの複合糸によって構成されたものであっても良いし、上記疎水性繊維からなる糸と吸放湿発熱性繊維からなる糸とによって構成されたものであっても良いし、上記疎水性繊維からなる糸または吸放湿発熱性繊維からなる糸と、上記複合糸とによって構成されたものであっても良い。
【0016】
この織物としては、織物の両面に必ず吸放湿発熱性繊維が露出し、肌側(内側)の吸放湿発熱性繊維の露出度が外側と比べてほぼ等しいか、少なくする必要がある。例えば、平組織の織物の場合、経糸に疎水性繊維を使用し、緯糸に吸放湿発熱性繊維を使用することにより、表裏に出る吸放湿発熱性繊維の比率を略同じにすることができる。また、経糸に疎水性繊維を使用し、緯糸に吸放湿発熱性繊維を使用し、綾織、朱子織にすることによって、表裏に出る吸放湿発熱性繊維の比率を、肌側と外側とで略1:2、略1:3、略1:4の比と変えることができる。
【0017】
この裏地は、肌側(内側)だけに吸放湿発熱性繊維が回る構造にすれば、人体からの水蒸気を一挙に吸湿してしまい、水蒸気の吸湿速度が、乾燥(放湿)速度を上回り、飽和状態に達した場合、発熱しなくなる。吸湿し続けることによって発熱状態を持続させるためには、吸湿速度と放湿速度のバランスを保つことが鍵となる。つまり、裏地の内側で吸湿発熱現象を、外側で放湿現象を起こさせることが重要となる。そのためには、上記したように、裏地の両面に吸放湿発熱性繊維が露出するようにして、両面に面する吸放湿発熱性繊維の量を調整することで、吸湿速度と放湿速度のバランスを保たなければならない。
【0018】
また、発熱する熱量は、吸湿変化に比例するものの、初期すなわち水分含有量が少ない状態(飽和状態に遠い状態)での変化(例えば吸湿状態30→50%)と、後期すなわち水分含有量が多い状態(飽和状態に近い状態)での変化(例えば吸湿状態75→95%)では、初期の吸湿変化の方が発熱量が大きくなる。したがって、衣服の発熱量を増大させるためには、衣服内空間の湿度をできる限り低い状態にし、吸湿変化が水分含有量の少ない状態で起こるようにする必要がある。そのためには、吸湿から放湿への移行がスムーズに行われるように、吸放湿発熱性繊維と組み合わされて織物とされる繊維が吸湿して水分を保持しないようにすることが重要である。したがって、吸放湿発熱性繊維が吸放湿しても、その水分を保持することのないように、上記したような疎水性繊維を用いる。
【0019】
なお、ここで言う水分は、水蒸気(気相の汗)を指す。裏地として吸放湿発熱性繊維を使用する場合、吸放湿発熱性繊維と疎水性繊維との複合率は、吸放湿発熱性繊維:疎水性繊維=3:97〜50:50(重量比)、特に好ましくは10:90〜30:70とするのが良い。吸放湿発熱性繊維:疎水性繊維=3:97よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が低下すると、充分な吸放湿性および発熱性が得られないこととなる。また、吸放湿発熱性繊維:疎水性繊維=50:50よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が増加すると、強度低下および染色による色目のバラツキ色ムラが生じることとなる。
【0020】
この吸放湿発熱性繊維と疎水性繊維とからなる裏地は、衣服の全ての部位について使用しても良い。また、皮膚からの不感蒸泄が大きく、温覚が大きい胸部、背部、首部などに近い部分だけに上記裏地を使用したものであっても良い。
【0021】
芯地として吸放湿発熱性繊維を用いる場合は、吸放湿発熱性繊維を単独で、もしくは吸放湿発熱性繊維と他の繊維との織物、ニット、不織布、ニードルパンチ品とされる。この場合、他の繊維としては、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維、綿、ウールなどの天然素材が挙げられる。織物およびニットは、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とからなる混紡糸、多層構造糸、コアヤーン、合撚糸などの複合糸によって構成されたものであっても良いし、上記他の繊維からなる糸と吸放湿発熱性繊維からなる糸とによって構成されたものであっても良いし、上記他の繊維からなる糸または吸放湿発熱性繊維からなる糸と、上記複合糸とによって構成されたものであっても良い。
【0022】
この芯地としては、上記裏地と同様に、肌側(内側)の吸放湿発熱性繊維の含有量が外側と比べてほぼ等しいか、少なくなされたものを使用することによって、吸湿速度と放湿速度とのバランスを保つ。また、吸湿から放湿への移行がスムーズに行われるように、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とを組み合わせたものが使用される。
【0023】
織物の芯地としては、例えば、経糸にナイロン、ポリエステルの加工糸やウール、強撚の綿糸の使用が考えられ、緯糸に20番手のポリエステル繊維/吸放湿発熱性繊維混糸を用い、肌側(内側)の吸放湿発熱性繊維の含有量が外側と比べて略等しいか、少なくなるようにした平織、綾織などが挙げられる。また、ニットの芯地としては、20番手のポリエステル糸と、20番手のポリエステル繊維/吸放湿発熱性繊維混糸とを用い、肌側(内側)の吸放湿発熱性繊維の含有量が外側と比べて略等しいか、少なくなるように引きそろえにしたり、二重組織に編まれたものなどが挙げられる。さらに、不織布の芯地としては、吸放湿発熱性繊維の量をほぼ均一に混ぜたものか、外側と比べて内側(肌側)の量が少なくなるように二重構造仕様(例えば、外側のポリエステル繊維/吸放湿発熱性繊維の比率を6:4にし、内側をポリエステル繊維/吸放湿発熱性繊維の比率を8:2)にしたものが挙げられる。
【0024】
芯地として吸放湿発熱性繊維を使用する場合、吸放湿発熱性繊維と他の繊維との複合率は、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97〜80:20(重量比)、特に好ましくは10:90〜30:70とするのが良い。吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が低下すると、充分な吸放湿性および発熱性が得られないこととなる。また、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=80:20よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が増加すると、強度が著しく低くなる。
【0025】
この芯地としては、表襟、裏襟、前見返し、前身頃、前脇、後身頃、後脇、肩パッド、ウエスト芯などに分割されている。これら全ての芯地について、吸放湿発熱性繊維を使用したものであっても良い。特にこの芯地は、上着の場合、寒さに敏感な首筋や肩部に近い表襟、裏襟、前見返し、肩パッドなどに、吸放湿発熱性繊維を使用することで、効果的に人体を暖めることができる。また、ズボンやスカートなどの場合も、寒さに敏感な腰周りに近いウエスト芯に、吸放湿発熱性繊維を使用することで、効果的に人体を暖めることができる。
【0026】
また、芯地は、すでに表地や裏地に吸放湿発熱性繊維が使用されている場合には、通気可能な状態に形成されたウールや綿などの織物およびニット、ポリエステルの不織布、ニードルパンチ品などの各種のものを使用することができる。
【0027】
表地としては、通常の上着の表地として使用されているものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ウール、綿、ポリエステルなどの素材を使用することができる。この中でも、ウール、綿などのように吸放湿能力を有する素材の場合、裏地、芯地、袋布などが人体から吸湿した水蒸気を、この表地を介して外部に放湿する手助けをすることができる。したがって、これら裏地、芯地および袋布などの吸放湿発熱性繊維の飽和状態を生じにくくでき、発熱状態の持続性を高めることが可能となる。そのため、この表地としては、吸放湿発熱性繊維を含んだものを使用すれば、より一層発熱状態を持続させることができる。ただし、表地の場合、裏地や芯地と違って、外側が直接外気に接しているので、冬場などの湿度が低い状況下では、通常でも放湿され易い状態となる。したがって、表地に吸放湿発熱性繊維を使用する場合は、肌側(内側)の露出度が外側と比べて略等しいか、多くしておく必要がある。さらに、外側にウールや綿などの吸湿性を有する繊維を使用した場合は、肌側(内側)にほとんど吸放湿発熱性繊維を配する織り方にすることもできる。例えば、片二重組織があげられる。これにより、表地は、裏地や芯地から吸湿した際の発熱を、肌側に発生させることができ、この発熱が放湿とともに外側に逃げるのを防止し、発熱を衣服の内側に留めておくことができる。
【0028】
表地として吸放湿発熱性繊維を使用する場合、吸放湿発熱性繊維と他の繊維との複合率は、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97〜30:70(重量比)、特に好ましくは10:90〜20:80とするのが良い。吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が低下すると、充分な吸放湿性および発熱性が得られないこととなる。また、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=30:70よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が増加すると、色目が整え難く、品位の低下が生じ易い。この表地として使用する場合、吸放湿発熱性繊維の形態としては、例えば、内側に多くの吸放湿発熱性繊維が織られるように工夫できる経片二重織や緯片二重織を使用することもできるし、表面の形態によっては、一般の一重組織であってもよい。
【0029】
このようにして構成される衣服としては、スーツ、ブレザー、ジャケット、コート、着物、羽織、ズボン、スカートなどが挙げられる。
【0030】
このように、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維を使用することで、通常の着用時には、この袋布の部分が吸放湿発熱することによって暖かさが得られる。ポケット内に冷たい手を突っ込んだ場合には、手を暖かくすることができる。特に手は、発汗量(水蒸気)が多いため、ポケット内に手を突っ込んだ場合には、この手の発汗量(水蒸気)によって、効果的に手を暖めることができる。したがって、コートなどのように手を暖めるためのハンドウォーマーポケットなどを設けている外套着の場合、この袋布を使用することで、一層効果的に手を暖めることができる。
【0031】
また、衣服の裏地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、裏地は、着脱時のすべりが良いだけではなく、衣服の表地と人体との間の調湿材として作用し、吸放湿性、保温性などの衛生的性質が向上することとなる。
【0032】
特に、吸放湿発熱性繊維は、乾燥時でも高い水分率を有しているので、裏地に吸放湿発熱性繊維を使用すると、冬場の静電気などの発生を防止できるとともに、この静電気によって衣服が体にまとわりつくのを防止して心地よい着用感を得ることができる。また、吸放湿発熱性繊維を使用しているので、衣服を着たときに裏地を冷たく感じる、いわゆる冷刺激が少なく、心地よい着用感が得られる。特に、冷刺激が少ないポリエステルなどの裏地は、静電気が発生し易く、静電気が発生し難いレーヨン、キュプラ、アセテートなどの裏地は、冷刺激が大きくなってしまうが、この吸放湿発熱性繊維による裏地を使用することにより、静電気の発生を防止できるとともに、冷刺激を少なく抑えることができる。
【0033】
また、芯地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、芯地は、表地と人体との間の調湿材として作用し、吸放湿性、保温性などの衛生的性質が向上することとなる。芯地の中でも、表襟、裏襟、前見返し、肩パッド、ウエスト芯などは、寒さに敏感な首筋、肩部、腰部に近いので、この部位の芯地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、効果的に人体を暖めることができる。
【0034】
さらに、これら衣服の裏地または芯地に加えて、表地にも吸放湿発熱性繊維を使用しても良い。
【0035】
このように、表地にも吸放湿発熱性繊維を使用することで、この吸放湿発熱性繊維が使用された裏地および芯地との馴染みが良くなり、型崩れを生じにくくなるとともに、吸放湿性、保温性などの衛生的性質が一層向上することとなる。冬場は、寒ければ寒い程、外気の湿度が低下し、乾燥状態となる。したがって、表地にも吸放湿発熱性繊維を使用した場合、裏地、袋布、芯地などが吸湿発熱した際に吸湿した水蒸気を、表地が外部に放湿することとなるので、寒ければ寒い程、発熱効果が高まり、半永久的に持続することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上述べたように、本発明によると、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維を使用することで、ポケットに入れた手からの水蒸気によって吸放湿発熱性繊維が発熱し、この発熱によって手を暖めることができる。また、吸放湿発熱性繊維を、ポケットの外側よりも内側に多く露出するようにすることで、手からの水蒸気で吸放湿発熱性繊維を急激に発熱させることができ、ポケットに入れた手を速く暖めることができる。
【0037】
また、裏地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、裏地本来の形態、外観保持性や着心地において優れた性能が得られるとともに、吸放湿性、保温性、防菌性といった衛生的性質にも優れた裏地を有する衣服が得られることとなる。また、吸放湿発熱性繊維を、衣服の肌側よりも外側に多く露出するようにすることで、人体からの水蒸気で吸放湿発熱性繊維が急激に吸湿飽和してしまうのを防止して、吸放湿発熱性をより一層効果的に、かつ、持続させることができる。
【0038】
さらに、表地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、これら吸放湿発熱性繊維からなる芯地または裏地との馴染みを良くして、型崩れを生じ難くすることができる。また、吸放湿発熱性繊維を、衣服の外側よりも肌側に多く露出するようにすることで、裏地や芯地を介して伝わる人体からの水蒸気で発熱し易くなり、しかもこの熱を肌側に発生させることができ、この発熱が、放湿とともに衣服の外側に逃げるのを防止して衣服の内側に留め保温効果を高めることができる。
【0039】
さらに、芯地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、上記裏地と同様に、形態、外観保持性や着心地において優れた性能が得られるとともに、吸放湿性、保温性、防菌性といった衛生的性質にも優れた芯地を有する衣服が得られることとなる。また、吸放湿発熱性繊維を、衣服の肌側よりも外側に多く露出するようにすることで、人体からの水蒸気で吸放湿発熱性繊維が急激に吸湿飽和してしまうのを防止して、吸放湿発熱効果をより一層高く、かつ、持続させることができる。さらに、この芯地は、肩パッドやウエスト芯などのように寒さに敏感な首筋、肩部、腰部に近い部分に使用することで、一層効果的に人体を暖めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0041】
表1に示すように、アクリレート系吸放湿発熱性繊維(東洋紡社製ブレスサーモ(N−38))によって、ジャケットの裏地となる織物Aと、袋布となる織物Bと、表地となる織物C、芯地となる織物D、E、Fを調整した。また、このような吸放湿発熱性繊維を含まないものとして、ジャケットの裏地となる織物G、袋布となる織物H、表地となる織物I、芯地となる織物J、K、Lを用意した。
【0042】
【表1】
【0043】
これらを、図1に示すように、ジャケット1の前身頃部11、袖部12毎に、重ね合わせる織物の枚数を変えて各部位に対応した試験布片を構成した。前身頃部11は、表地1a、芯地1b、裏地1cをそれぞれ一枚ずつの三枚重ねとした。袖部12は、表地1a、裏地1cをそれぞれ一枚ずつの二枚重ねとした。各部位毎に、表2に示すようにそれぞれ実施例1ないし実施例11、比較例1ないし比較例6に係るジャケットの試験布片を構成した。
【0044】
【表2】
【0045】
−吸放湿発熱性−
図2に示すように、加熱板21(カトーテック社製サーモラボ)を配置した台22の上に、枠体23を設け、この枠体23上に、試験布片10を貼り付けて試験体2を構成した。試験体2は、各試験布片10毎に構成した。
【0046】
以上のように構成したそれぞれの試験体2を用いて実験を行い、それぞれの試験布片10毎の吸放湿発熱性能を評価した。
【0047】
まず、試験体2の導入路3および排出路4を開放し、導入路3から、30℃、30%RHの空気を10リットル/分の流量で流し、試験体2の空間を平衡状態にする。
【0048】
この状態で測定を開始し、1分後に空気条件を切り替え(同流量の30℃、70%RHの空気を流す)、試験布片10の裏面に貼り付けた温度センサ5で、この試験布片10の裏側温度の経時的変化を測定した。
【0049】
試験体2の外側の環境温湿度は、20℃、40%RH一定に設定した。結果を図3ないし図7のグラフに示す。
【0050】
その結果、図3ないし図7に示すように、吸放湿発熱性繊維を用いた試験布片10は、吸放湿発熱性繊維を用いていない試験布片10よりも暖かいことが確認できる。特に、図5、図6から芯地の発熱効果が大きく暖かいことがわかる。
−発熱持続性−
表3に示すように、アクリレート系吸放湿発熱性繊維(東洋紡社製ブレスサーモ(N−38))によって、ジャケットの裏地となる織物Mと、表地となる織物N、芯地となる織物Oを調整した。各織物M、N、Oは、一面側に露出する吸放湿発熱性繊維の露出度が、他面側よりも多くなるように織られている。
【0051】
【表3】
【0052】
これら各織物M、N、Oは、表4に示すように、吸放湿発熱性繊維の露出度が多い側の一面と少ない側の他面との合わせ具合を変えて二枚または三枚重ね合わせ、実施例12ないし実施例15に係る試験布片10と、比較例7および比較例8に係る試験布片10とを調整し、これら各試験布片10について、図8に示すような試験体2を構成した。
【0053】
【表4】
【0054】
以上のように構成したそれぞれの試験体2を用いて実験を行い、それぞれの試験布片10毎の発熱持続性能を評価した。
【0055】
まず、試験体2の導入路3および排出路4を開放し、導入路3から30℃、30%RHの空気を10リットル/分の流量で流し、試験体2の空間を平衡状態にする。
【0056】
この状態で測定を開始し、1分後に空気条件を切り替え(同流量の30℃、70%RHの空気を流す)、温湿度センサ6で試験体2の内側の裏地Mの裏面温湿度の経時的変化を測定した。さらに、温湿度センサ7で芯地Oの内側の温湿度変化、温湿度センサ8で表地Nの内側の温湿度変化を測定した。
【0057】
試験体2の外側の環境温湿度は、20℃、40%RH一定に設定した。その結果を図9および図10R>0に示す。実施例12に示すように、吸放湿発熱性繊維の露出度を裏地M、芯地Oのそれぞれ外側に多く配し、表地Nは内側に多く配した組み合わせが、他の組み合わせ、実施例13、実施例14、比較例7に比べて温度が高く、湿度が低い結果となった。
【0058】
実施例15と比較例8から同様に吸放湿発熱性繊維の露出度を裏地Mの外側に、表地Nの外側に多く配した組み合わせが有効であることがわかる。
−抗菌性−
表1に示す裏地Aと裏地Gとについて、SEK菌数測定法を実施した。試験は、それぞれの裏地Aおよび裏地Gの0.4gをオートクレーブで減菌後、約105 CFU/ ミリリットルになるように1/20普通ブイヨンで調製した菌液0.2ミリリットルを接種させ、37℃で、1時間保存後、12時間保存後、24時間保存後のそれぞれの菌数を測定した。結果を図11のグラフに示す。
【0059】
その結果、吸放湿発熱性繊維を含む本発明に係る衣服に用いられる裏地Aについては、吸放湿発熱性繊維を含まない裏地Gと比べて優れた抗菌性が得られることが確認できる。
−静電特性−
表1に示す裏地Aと裏地Gとについて静電気の発生度について、JISL1094−1997半減期測定法、JISL1094−1997摩擦帯電圧測定法で比較した。
【0060】
その結果を表5に示す。吸放湿発熱性繊維を含む裏地Aは、静電気の発生率が極めて低いことがわかる。
【0061】
【表5】
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(a)は本発明に係るジャケットの正面図、(b)は同ジャケットを裏返しにした状態を示す部分分解図である。
【図2】(a)および(b)は、本発明に係るジャケットの吸放湿発熱性試験を行う試験体を示す分解斜視図および斜視図である。
【図3】実施例1および2、比較例1および2に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図4】実施例3および比較例3に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図5】実施例4ないし6、比較例4に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図6】実施例7ないし9、比較例5に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図7】実施例10および11、比較例6に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図8】本発明に係るジャケットの発熱持続性試験を行う試験体を示す分解斜視図である。
【図9】(a)ないし(d)は実施例12ないし14、比較例7に示す各試験体について行った温度および湿度の測定結果を示すグラフである。
【図10】(a)および(b)は実施例15および比較例8に示す各試験体について行った温度および湿度の測定結果を示すグラフである。
【図11】裏地AおよびGについて行ったSEK菌数測定法における大腸菌の経時的減少率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1ジャケット
1a表地
1b芯地
1c裏地
1d袋布
【技術分野】
【0001】
本発明は、スーツ、ブレザー、ジャケット、コート、ズボン、スカートなどのように、表地に対して、裏地や芯地が組み合わされて構成された衣服に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、スーツ、ブレザー、ジャケット、コート、ズボン、スカートなどの衣服は、表地と一緒に設けられた芯地や裏地によって、衣服のシルエットを作ったり、型崩れを防止したり、張りを付けたりしている。
【0003】
従来より、この種の衣服の裏地としては、すべりの良いことからフィラメント織物が使用されていた。中でも、ドレープ性の良さなどからポリエステル、キュプラ、レーヨン、アセテート、ナイロンが多用されていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
また、この種の衣服の芯地としては、綿、毛、麻、合成繊維などの織物、ニット、不織布や、これらの芯地の片面または両面に樹脂を接着した接着芯地などが使用されていた。
【0005】
しかし、上記従来の裏地および芯地を用いた衣服は、着脱時のすべりや、形くずれの防止といった形態、外観保持性および着心地には考慮されているものの、吸放湿性、保温性、抗菌性といった衛生的性質に劣るといった不都合を生じる。
【0006】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであって、着脱時のすべりや、形くずれの防止といった形態、外観保持性や着心地に優れているとともに、吸放湿性、保温性、防カビ性、抗菌性といった衛生的性質および対生物的性質にも優れた衣服を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の衣服は、ポケットを具備する衣服であって、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維が使用されたものである。また、吸放湿発熱性繊維からなる表地、裏地または芯地が使用されたものである。
【0008】
吸放湿発熱性繊維としては、繊維自体が非常に強い高架橋構造になっていて染料を受け付ける非晶領域が小さく、非常に隙間の少ない繊維構造となっているものが挙げられる。すなわち、このような吸放湿発熱性繊維は、水分を吸湿する時に、吸放湿発熱性繊維の官能基と水分子との反応(水和反応)による熱の発生、および水分子のエントロピーの変化に基づく熱の発生を生じる。このうち、水分子のエントロピー変化に基づく熱の発生量は、吸放湿時に、繊維自体が体積変化を伴わないことによってより大きくなる。したがって、上記したように、繊維自体が非常に強い高架橋構造になっていて染料を受け付ける非晶領域が小さい吸放湿発熱性繊維は、体積変化(膨潤)がし難く、吸湿時の熱の発生量が大きいが、染色性が極めて悪くなる。このような吸放湿発熱性繊維として、具体的なものとしては、例えば、アクリレート系吸放湿発熱性繊維(東洋紡社製商品名ブレスサーモ(N−38)、商品名エクス(G−800))などが挙げられる。このアクリレート系吸放湿発熱性繊維は、出発繊維としてアクリルニトリル(以下、ANという)を40重量%以上、好ましくは50重量%以上含有するAN系重合体により形成された繊維が用いられる。AN系重合体は、AN単重合体、ANと他の単量体との共重合体のいずれでも良い。この他の単量体としては、ハロゲン化ビニル、ハロゲン化ビニリデン;アクリル酸エステル;メタリルスルホン酸、p−スチレンスルホン酸などのスルホン酸含有単量体およびその塩;メタアクリル酸、イタコン酸などのカルボン酸含有単量体およびその塩;アクリルイミド、スチレン、酢酸ビニルなどの単量体を挙げることができるが、ANと共重合可能な単量体であれば特に限定されない。
【0009】
以上のアクリル系繊維に、ヒドラジン系化合物を架橋剤として導入する方法が適用される。この方法においては、窒素含有量の増加を1.0〜10.0重量%に調整し、ヒドラジン系化合物の濃度を5〜60重量%、温度を50〜120℃とした状態で5時間以内で処理する。この方法は工業的に好ましい。ここで、窒素含有量の増加とは、原料のアクリル系繊維の窒素含有量とヒドラジン系化合物を架橋剤として導入された状態のアクリル系繊維の窒素含有量との差をいう。この窒素含有量の増加が、上記の下限(1.0重量%)に満たない場合は、最終的に満足し得る物性の繊維を得ることができず、さらに難燃性、抗菌性などの特性を得ることができない。また、窒素含有量の増加が、上記の上限(10.0重量%)を超えた場合には、高吸放湿性が得られない。したがって、ここで使用するヒドラジン系化合物としては、窒素含有量の増加が上記の範囲となるような化合物であれば特に限定されない。このようなヒドラジン系化合物としては、例えば、水加ヒドラジン、硫酸ヒドラジン、塩酸ヒドラジン、臭素酸ヒドラジン、ヒドラジンカーボネート等や、エチレンジアミン、硫酸グアニジン、塩酸グアニジン、リン酸グアニジン、メラミン等のアミン基を複数個含有する化合物を挙げることができる。
【0010】
なお、この架橋工程においては、ビドラジン系化合物が加水分解反応により架橋されずに残存した状態のニトリル基を実質的に消失させるとともに、1.0〜4.5meq/gの塩型カルボキシル基と残部にアミド基を導入する方法が適用される。その方法としては、アルカル金属水酸化物、アンモニアなどの塩基性水溶液、あるいは硝酸、硫酸、塩酸などの鉱酸の水溶液を含浸させるか、またはその水溶液中に原料繊維を浸漬した状態で加熱処理する方法、あるいは、上記した架橋剤の導入と同時に加水分解反応を起こす方法を用いることができる。なお、この加水分解反応が、酸による加水分解である場合は、カルボキシル基を塩型に変換させる必要がある。また、セルロース系繊維を改質し、セルロースの親水基の量を増やすようにしたり、水和反応を起こし発熱しやすい官能基、例えばカルボキシル基、水酸基等に置き換え発熱効果を高めるように改質した素材の利用も考えられる。
【0011】
袋布として吸放湿発熱性繊維を用いる場合、吸放湿発熱性繊維を単独で、もしくはこの吸放湿発熱性繊維と他の繊維との織物とされる。この場合、他の繊維としては、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維、綿、ウールなどの天然繊維などが挙げられる。織物は、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とからなる混紡糸、多層構造糸、コアヤーン、合撚糸などの複合糸によって構成されたものであっても良いし、上記他の繊維からなる糸と吸放湿発熱性繊維からなる糸とによって構成されたものであっても良いし、上記他の繊維からなる糸または吸放湿発熱性繊維からなる糸と上記複合糸とによって構成されたものであっても良い。
【0012】
この織物としては、織物の両面に必ず吸放湿発熱性繊維が露出し、ポケット内側の吸放湿発熱性繊維の露出度が外側と比べてほぼ等しいか、多くする必要がある。例えば、平組織の織物の場合、経糸に他の繊維を使用し、緯糸に吸放湿発熱性繊維を使用することにより、表裏に出る吸放湿発熱性繊維の比率を略同じにすることができる。また、経糸に他の繊維を使用し、緯糸に吸放湿発熱性繊維を使用し、綾織、朱子織にすることによって、表裏に出る吸放湿発熱性繊維の比率を、ポケットの内側と外側とで略2:1、略3:1、略4:1などに変えることができる。
【0013】
この袋布は、ポケット内側だけに吸放湿発熱性繊維が回る構造にすれば、ポケット内に入れた手からの水蒸気によって吸放湿発熱性繊維が急速に発熱し、手が急速に暖まることとなる。つまり、ポケット内に長時間にわたって手を入れておくといったことは考えられないので、袋布の場合、裏地のように吸湿速度と放湿速度のバランスを保って発熱状態を持続させるといったことよりは、むしろポケット内に手を入れた際に、その手を急速に暖めることが重要である。この場合、袋布を構成する吸放湿発熱性繊維は、一挙に飽和状態に達して発熱しなくなるが、ポケット内から手を出している時に放湿が行われて、今度ポケット内に手を入れた際には、発熱することとなる。
【0014】
袋布として吸放湿発熱性繊維を使用する場合、吸放湿発熱性繊維と他の繊維との複合率は、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97〜50:50(重量比)、特に好ましくは10:90〜30:70とするのが良い。吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が低下すると、充分な吸放湿性および発熱性が得られないこととなる。また、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=50:50よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が増加すると、強度低下となる。
【0015】
裏地として吸放湿発熱性繊維を用いる場合は、吸放湿発熱性繊維と疎水繊維との織物とされる。この場合、疎水性繊維としては、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどの化学繊維が挙げられる。また、織物は、吸放湿発熱性繊維と疎水性繊維とからなる混紡糸、多層構造糸、コアヤーン、合撚糸などの複合糸によって構成されたものであっても良いし、上記疎水性繊維からなる糸と吸放湿発熱性繊維からなる糸とによって構成されたものであっても良いし、上記疎水性繊維からなる糸または吸放湿発熱性繊維からなる糸と、上記複合糸とによって構成されたものであっても良い。
【0016】
この織物としては、織物の両面に必ず吸放湿発熱性繊維が露出し、肌側(内側)の吸放湿発熱性繊維の露出度が外側と比べてほぼ等しいか、少なくする必要がある。例えば、平組織の織物の場合、経糸に疎水性繊維を使用し、緯糸に吸放湿発熱性繊維を使用することにより、表裏に出る吸放湿発熱性繊維の比率を略同じにすることができる。また、経糸に疎水性繊維を使用し、緯糸に吸放湿発熱性繊維を使用し、綾織、朱子織にすることによって、表裏に出る吸放湿発熱性繊維の比率を、肌側と外側とで略1:2、略1:3、略1:4の比と変えることができる。
【0017】
この裏地は、肌側(内側)だけに吸放湿発熱性繊維が回る構造にすれば、人体からの水蒸気を一挙に吸湿してしまい、水蒸気の吸湿速度が、乾燥(放湿)速度を上回り、飽和状態に達した場合、発熱しなくなる。吸湿し続けることによって発熱状態を持続させるためには、吸湿速度と放湿速度のバランスを保つことが鍵となる。つまり、裏地の内側で吸湿発熱現象を、外側で放湿現象を起こさせることが重要となる。そのためには、上記したように、裏地の両面に吸放湿発熱性繊維が露出するようにして、両面に面する吸放湿発熱性繊維の量を調整することで、吸湿速度と放湿速度のバランスを保たなければならない。
【0018】
また、発熱する熱量は、吸湿変化に比例するものの、初期すなわち水分含有量が少ない状態(飽和状態に遠い状態)での変化(例えば吸湿状態30→50%)と、後期すなわち水分含有量が多い状態(飽和状態に近い状態)での変化(例えば吸湿状態75→95%)では、初期の吸湿変化の方が発熱量が大きくなる。したがって、衣服の発熱量を増大させるためには、衣服内空間の湿度をできる限り低い状態にし、吸湿変化が水分含有量の少ない状態で起こるようにする必要がある。そのためには、吸湿から放湿への移行がスムーズに行われるように、吸放湿発熱性繊維と組み合わされて織物とされる繊維が吸湿して水分を保持しないようにすることが重要である。したがって、吸放湿発熱性繊維が吸放湿しても、その水分を保持することのないように、上記したような疎水性繊維を用いる。
【0019】
なお、ここで言う水分は、水蒸気(気相の汗)を指す。裏地として吸放湿発熱性繊維を使用する場合、吸放湿発熱性繊維と疎水性繊維との複合率は、吸放湿発熱性繊維:疎水性繊維=3:97〜50:50(重量比)、特に好ましくは10:90〜30:70とするのが良い。吸放湿発熱性繊維:疎水性繊維=3:97よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が低下すると、充分な吸放湿性および発熱性が得られないこととなる。また、吸放湿発熱性繊維:疎水性繊維=50:50よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が増加すると、強度低下および染色による色目のバラツキ色ムラが生じることとなる。
【0020】
この吸放湿発熱性繊維と疎水性繊維とからなる裏地は、衣服の全ての部位について使用しても良い。また、皮膚からの不感蒸泄が大きく、温覚が大きい胸部、背部、首部などに近い部分だけに上記裏地を使用したものであっても良い。
【0021】
芯地として吸放湿発熱性繊維を用いる場合は、吸放湿発熱性繊維を単独で、もしくは吸放湿発熱性繊維と他の繊維との織物、ニット、不織布、ニードルパンチ品とされる。この場合、他の繊維としては、ポリエステル、ナイロンなどの化学繊維、綿、ウールなどの天然素材が挙げられる。織物およびニットは、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とからなる混紡糸、多層構造糸、コアヤーン、合撚糸などの複合糸によって構成されたものであっても良いし、上記他の繊維からなる糸と吸放湿発熱性繊維からなる糸とによって構成されたものであっても良いし、上記他の繊維からなる糸または吸放湿発熱性繊維からなる糸と、上記複合糸とによって構成されたものであっても良い。
【0022】
この芯地としては、上記裏地と同様に、肌側(内側)の吸放湿発熱性繊維の含有量が外側と比べてほぼ等しいか、少なくなされたものを使用することによって、吸湿速度と放湿速度とのバランスを保つ。また、吸湿から放湿への移行がスムーズに行われるように、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とを組み合わせたものが使用される。
【0023】
織物の芯地としては、例えば、経糸にナイロン、ポリエステルの加工糸やウール、強撚の綿糸の使用が考えられ、緯糸に20番手のポリエステル繊維/吸放湿発熱性繊維混糸を用い、肌側(内側)の吸放湿発熱性繊維の含有量が外側と比べて略等しいか、少なくなるようにした平織、綾織などが挙げられる。また、ニットの芯地としては、20番手のポリエステル糸と、20番手のポリエステル繊維/吸放湿発熱性繊維混糸とを用い、肌側(内側)の吸放湿発熱性繊維の含有量が外側と比べて略等しいか、少なくなるように引きそろえにしたり、二重組織に編まれたものなどが挙げられる。さらに、不織布の芯地としては、吸放湿発熱性繊維の量をほぼ均一に混ぜたものか、外側と比べて内側(肌側)の量が少なくなるように二重構造仕様(例えば、外側のポリエステル繊維/吸放湿発熱性繊維の比率を6:4にし、内側をポリエステル繊維/吸放湿発熱性繊維の比率を8:2)にしたものが挙げられる。
【0024】
芯地として吸放湿発熱性繊維を使用する場合、吸放湿発熱性繊維と他の繊維との複合率は、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97〜80:20(重量比)、特に好ましくは10:90〜30:70とするのが良い。吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が低下すると、充分な吸放湿性および発熱性が得られないこととなる。また、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=80:20よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が増加すると、強度が著しく低くなる。
【0025】
この芯地としては、表襟、裏襟、前見返し、前身頃、前脇、後身頃、後脇、肩パッド、ウエスト芯などに分割されている。これら全ての芯地について、吸放湿発熱性繊維を使用したものであっても良い。特にこの芯地は、上着の場合、寒さに敏感な首筋や肩部に近い表襟、裏襟、前見返し、肩パッドなどに、吸放湿発熱性繊維を使用することで、効果的に人体を暖めることができる。また、ズボンやスカートなどの場合も、寒さに敏感な腰周りに近いウエスト芯に、吸放湿発熱性繊維を使用することで、効果的に人体を暖めることができる。
【0026】
また、芯地は、すでに表地や裏地に吸放湿発熱性繊維が使用されている場合には、通気可能な状態に形成されたウールや綿などの織物およびニット、ポリエステルの不織布、ニードルパンチ品などの各種のものを使用することができる。
【0027】
表地としては、通常の上着の表地として使用されているものであれば、特に限定されるものではなく、例えば、ウール、綿、ポリエステルなどの素材を使用することができる。この中でも、ウール、綿などのように吸放湿能力を有する素材の場合、裏地、芯地、袋布などが人体から吸湿した水蒸気を、この表地を介して外部に放湿する手助けをすることができる。したがって、これら裏地、芯地および袋布などの吸放湿発熱性繊維の飽和状態を生じにくくでき、発熱状態の持続性を高めることが可能となる。そのため、この表地としては、吸放湿発熱性繊維を含んだものを使用すれば、より一層発熱状態を持続させることができる。ただし、表地の場合、裏地や芯地と違って、外側が直接外気に接しているので、冬場などの湿度が低い状況下では、通常でも放湿され易い状態となる。したがって、表地に吸放湿発熱性繊維を使用する場合は、肌側(内側)の露出度が外側と比べて略等しいか、多くしておく必要がある。さらに、外側にウールや綿などの吸湿性を有する繊維を使用した場合は、肌側(内側)にほとんど吸放湿発熱性繊維を配する織り方にすることもできる。例えば、片二重組織があげられる。これにより、表地は、裏地や芯地から吸湿した際の発熱を、肌側に発生させることができ、この発熱が放湿とともに外側に逃げるのを防止し、発熱を衣服の内側に留めておくことができる。
【0028】
表地として吸放湿発熱性繊維を使用する場合、吸放湿発熱性繊維と他の繊維との複合率は、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97〜30:70(重量比)、特に好ましくは10:90〜20:80とするのが良い。吸放湿発熱性繊維:他の繊維=3:97よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が低下すると、充分な吸放湿性および発熱性が得られないこととなる。また、吸放湿発熱性繊維:他の繊維=30:70よりも吸放湿発熱性繊維の複合率が増加すると、色目が整え難く、品位の低下が生じ易い。この表地として使用する場合、吸放湿発熱性繊維の形態としては、例えば、内側に多くの吸放湿発熱性繊維が織られるように工夫できる経片二重織や緯片二重織を使用することもできるし、表面の形態によっては、一般の一重組織であってもよい。
【0029】
このようにして構成される衣服としては、スーツ、ブレザー、ジャケット、コート、着物、羽織、ズボン、スカートなどが挙げられる。
【0030】
このように、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維を使用することで、通常の着用時には、この袋布の部分が吸放湿発熱することによって暖かさが得られる。ポケット内に冷たい手を突っ込んだ場合には、手を暖かくすることができる。特に手は、発汗量(水蒸気)が多いため、ポケット内に手を突っ込んだ場合には、この手の発汗量(水蒸気)によって、効果的に手を暖めることができる。したがって、コートなどのように手を暖めるためのハンドウォーマーポケットなどを設けている外套着の場合、この袋布を使用することで、一層効果的に手を暖めることができる。
【0031】
また、衣服の裏地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、裏地は、着脱時のすべりが良いだけではなく、衣服の表地と人体との間の調湿材として作用し、吸放湿性、保温性などの衛生的性質が向上することとなる。
【0032】
特に、吸放湿発熱性繊維は、乾燥時でも高い水分率を有しているので、裏地に吸放湿発熱性繊維を使用すると、冬場の静電気などの発生を防止できるとともに、この静電気によって衣服が体にまとわりつくのを防止して心地よい着用感を得ることができる。また、吸放湿発熱性繊維を使用しているので、衣服を着たときに裏地を冷たく感じる、いわゆる冷刺激が少なく、心地よい着用感が得られる。特に、冷刺激が少ないポリエステルなどの裏地は、静電気が発生し易く、静電気が発生し難いレーヨン、キュプラ、アセテートなどの裏地は、冷刺激が大きくなってしまうが、この吸放湿発熱性繊維による裏地を使用することにより、静電気の発生を防止できるとともに、冷刺激を少なく抑えることができる。
【0033】
また、芯地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、芯地は、表地と人体との間の調湿材として作用し、吸放湿性、保温性などの衛生的性質が向上することとなる。芯地の中でも、表襟、裏襟、前見返し、肩パッド、ウエスト芯などは、寒さに敏感な首筋、肩部、腰部に近いので、この部位の芯地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、効果的に人体を暖めることができる。
【0034】
さらに、これら衣服の裏地または芯地に加えて、表地にも吸放湿発熱性繊維を使用しても良い。
【0035】
このように、表地にも吸放湿発熱性繊維を使用することで、この吸放湿発熱性繊維が使用された裏地および芯地との馴染みが良くなり、型崩れを生じにくくなるとともに、吸放湿性、保温性などの衛生的性質が一層向上することとなる。冬場は、寒ければ寒い程、外気の湿度が低下し、乾燥状態となる。したがって、表地にも吸放湿発熱性繊維を使用した場合、裏地、袋布、芯地などが吸湿発熱した際に吸湿した水蒸気を、表地が外部に放湿することとなるので、寒ければ寒い程、発熱効果が高まり、半永久的に持続することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上述べたように、本発明によると、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維を使用することで、ポケットに入れた手からの水蒸気によって吸放湿発熱性繊維が発熱し、この発熱によって手を暖めることができる。また、吸放湿発熱性繊維を、ポケットの外側よりも内側に多く露出するようにすることで、手からの水蒸気で吸放湿発熱性繊維を急激に発熱させることができ、ポケットに入れた手を速く暖めることができる。
【0037】
また、裏地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、裏地本来の形態、外観保持性や着心地において優れた性能が得られるとともに、吸放湿性、保温性、防菌性といった衛生的性質にも優れた裏地を有する衣服が得られることとなる。また、吸放湿発熱性繊維を、衣服の肌側よりも外側に多く露出するようにすることで、人体からの水蒸気で吸放湿発熱性繊維が急激に吸湿飽和してしまうのを防止して、吸放湿発熱性をより一層効果的に、かつ、持続させることができる。
【0038】
さらに、表地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、これら吸放湿発熱性繊維からなる芯地または裏地との馴染みを良くして、型崩れを生じ難くすることができる。また、吸放湿発熱性繊維を、衣服の外側よりも肌側に多く露出するようにすることで、裏地や芯地を介して伝わる人体からの水蒸気で発熱し易くなり、しかもこの熱を肌側に発生させることができ、この発熱が、放湿とともに衣服の外側に逃げるのを防止して衣服の内側に留め保温効果を高めることができる。
【0039】
さらに、芯地に吸放湿発熱性繊維を使用することで、上記裏地と同様に、形態、外観保持性や着心地において優れた性能が得られるとともに、吸放湿性、保温性、防菌性といった衛生的性質にも優れた芯地を有する衣服が得られることとなる。また、吸放湿発熱性繊維を、衣服の肌側よりも外側に多く露出するようにすることで、人体からの水蒸気で吸放湿発熱性繊維が急激に吸湿飽和してしまうのを防止して、吸放湿発熱効果をより一層高く、かつ、持続させることができる。さらに、この芯地は、肩パッドやウエスト芯などのように寒さに敏感な首筋、肩部、腰部に近い部分に使用することで、一層効果的に人体を暖めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0040】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。
【0041】
表1に示すように、アクリレート系吸放湿発熱性繊維(東洋紡社製ブレスサーモ(N−38))によって、ジャケットの裏地となる織物Aと、袋布となる織物Bと、表地となる織物C、芯地となる織物D、E、Fを調整した。また、このような吸放湿発熱性繊維を含まないものとして、ジャケットの裏地となる織物G、袋布となる織物H、表地となる織物I、芯地となる織物J、K、Lを用意した。
【0042】
【表1】
【0043】
これらを、図1に示すように、ジャケット1の前身頃部11、袖部12毎に、重ね合わせる織物の枚数を変えて各部位に対応した試験布片を構成した。前身頃部11は、表地1a、芯地1b、裏地1cをそれぞれ一枚ずつの三枚重ねとした。袖部12は、表地1a、裏地1cをそれぞれ一枚ずつの二枚重ねとした。各部位毎に、表2に示すようにそれぞれ実施例1ないし実施例11、比較例1ないし比較例6に係るジャケットの試験布片を構成した。
【0044】
【表2】
【0045】
−吸放湿発熱性−
図2に示すように、加熱板21(カトーテック社製サーモラボ)を配置した台22の上に、枠体23を設け、この枠体23上に、試験布片10を貼り付けて試験体2を構成した。試験体2は、各試験布片10毎に構成した。
【0046】
以上のように構成したそれぞれの試験体2を用いて実験を行い、それぞれの試験布片10毎の吸放湿発熱性能を評価した。
【0047】
まず、試験体2の導入路3および排出路4を開放し、導入路3から、30℃、30%RHの空気を10リットル/分の流量で流し、試験体2の空間を平衡状態にする。
【0048】
この状態で測定を開始し、1分後に空気条件を切り替え(同流量の30℃、70%RHの空気を流す)、試験布片10の裏面に貼り付けた温度センサ5で、この試験布片10の裏側温度の経時的変化を測定した。
【0049】
試験体2の外側の環境温湿度は、20℃、40%RH一定に設定した。結果を図3ないし図7のグラフに示す。
【0050】
その結果、図3ないし図7に示すように、吸放湿発熱性繊維を用いた試験布片10は、吸放湿発熱性繊維を用いていない試験布片10よりも暖かいことが確認できる。特に、図5、図6から芯地の発熱効果が大きく暖かいことがわかる。
−発熱持続性−
表3に示すように、アクリレート系吸放湿発熱性繊維(東洋紡社製ブレスサーモ(N−38))によって、ジャケットの裏地となる織物Mと、表地となる織物N、芯地となる織物Oを調整した。各織物M、N、Oは、一面側に露出する吸放湿発熱性繊維の露出度が、他面側よりも多くなるように織られている。
【0051】
【表3】
【0052】
これら各織物M、N、Oは、表4に示すように、吸放湿発熱性繊維の露出度が多い側の一面と少ない側の他面との合わせ具合を変えて二枚または三枚重ね合わせ、実施例12ないし実施例15に係る試験布片10と、比較例7および比較例8に係る試験布片10とを調整し、これら各試験布片10について、図8に示すような試験体2を構成した。
【0053】
【表4】
【0054】
以上のように構成したそれぞれの試験体2を用いて実験を行い、それぞれの試験布片10毎の発熱持続性能を評価した。
【0055】
まず、試験体2の導入路3および排出路4を開放し、導入路3から30℃、30%RHの空気を10リットル/分の流量で流し、試験体2の空間を平衡状態にする。
【0056】
この状態で測定を開始し、1分後に空気条件を切り替え(同流量の30℃、70%RHの空気を流す)、温湿度センサ6で試験体2の内側の裏地Mの裏面温湿度の経時的変化を測定した。さらに、温湿度センサ7で芯地Oの内側の温湿度変化、温湿度センサ8で表地Nの内側の温湿度変化を測定した。
【0057】
試験体2の外側の環境温湿度は、20℃、40%RH一定に設定した。その結果を図9および図10R>0に示す。実施例12に示すように、吸放湿発熱性繊維の露出度を裏地M、芯地Oのそれぞれ外側に多く配し、表地Nは内側に多く配した組み合わせが、他の組み合わせ、実施例13、実施例14、比較例7に比べて温度が高く、湿度が低い結果となった。
【0058】
実施例15と比較例8から同様に吸放湿発熱性繊維の露出度を裏地Mの外側に、表地Nの外側に多く配した組み合わせが有効であることがわかる。
−抗菌性−
表1に示す裏地Aと裏地Gとについて、SEK菌数測定法を実施した。試験は、それぞれの裏地Aおよび裏地Gの0.4gをオートクレーブで減菌後、約105 CFU/ ミリリットルになるように1/20普通ブイヨンで調製した菌液0.2ミリリットルを接種させ、37℃で、1時間保存後、12時間保存後、24時間保存後のそれぞれの菌数を測定した。結果を図11のグラフに示す。
【0059】
その結果、吸放湿発熱性繊維を含む本発明に係る衣服に用いられる裏地Aについては、吸放湿発熱性繊維を含まない裏地Gと比べて優れた抗菌性が得られることが確認できる。
−静電特性−
表1に示す裏地Aと裏地Gとについて静電気の発生度について、JISL1094−1997半減期測定法、JISL1094−1997摩擦帯電圧測定法で比較した。
【0060】
その結果を表5に示す。吸放湿発熱性繊維を含む裏地Aは、静電気の発生率が極めて低いことがわかる。
【0061】
【表5】
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】(a)は本発明に係るジャケットの正面図、(b)は同ジャケットを裏返しにした状態を示す部分分解図である。
【図2】(a)および(b)は、本発明に係るジャケットの吸放湿発熱性試験を行う試験体を示す分解斜視図および斜視図である。
【図3】実施例1および2、比較例1および2に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図4】実施例3および比較例3に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図5】実施例4ないし6、比較例4に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図6】実施例7ないし9、比較例5に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図7】実施例10および11、比較例6に示す各試験体の温度の経時的変化を示すグラフである。
【図8】本発明に係るジャケットの発熱持続性試験を行う試験体を示す分解斜視図である。
【図9】(a)ないし(d)は実施例12ないし14、比較例7に示す各試験体について行った温度および湿度の測定結果を示すグラフである。
【図10】(a)および(b)は実施例15および比較例8に示す各試験体について行った温度および湿度の測定結果を示すグラフである。
【図11】裏地AおよびGについて行ったSEK菌数測定法における大腸菌の経時的減少率を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1ジャケット
1a表地
1b芯地
1c裏地
1d袋布
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポケットを具備する衣服であって、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維が使用されたことを特徴とする衣服。
【請求項2】
袋布は、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とが生地の表裏に露出する交織で、ポケット内側の吸放湿発熱性繊維の露出度が外側と比べてほぼ等しいか、多くなされた請求項1記載の衣服。
【請求項1】
ポケットを具備する衣服であって、ポケットの袋布に吸放湿発熱性繊維が使用されたことを特徴とする衣服。
【請求項2】
袋布は、吸放湿発熱性繊維と他の繊維とが生地の表裏に露出する交織で、ポケット内側の吸放湿発熱性繊維の露出度が外側と比べてほぼ等しいか、多くなされた請求項1記載の衣服。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−124907(P2006−124907A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−7035(P2006−7035)
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【分割の表示】特願平11−110693の分割
【原出願日】平成11年4月19日(1999.4.19)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年1月16日(2006.1.16)
【分割の表示】特願平11−110693の分割
【原出願日】平成11年4月19日(1999.4.19)
【出願人】(000005935)美津濃株式会社 (239)
【Fターム(参考)】
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