説明

表示体及びラベル付き物品

【課題】偽造防止効果を持つ表示体を提供する。
【解決手段】少なくとも、基材と、基材の一方の面側に設けられた、凹凸構造形成層と、凹凸構造形成層を被覆する反射層と、を備えた表示体であり、凸部の上面及び凹部の下面が基材面と略平行であり、凹凸構造は、その隣接する凸部同士又は凹部同士の平均配置間隔が1〜3μmの範囲で、ランダムな間隔で配置され、凹凸構造形成層は、直線状と曲線状の凹凸構造領域を備え、曲線状の凹凸構造は、勾配角度を有し、曲線状の凹凸構造領域を構成する凸部上面及び凹部下面の高さ差が、その領域全体で一定であり、かつ0.1μm以上0.5μm以下の範囲であることにより、白色光を曲線状の凹凸構造領域に入射させた際、観察される像は白色光から一部のスペクトル領域の光を除いたおだやかな色で着色される表示体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偽造防止などで用いられる観察条件によって見え方が変化する画像表示体に関するものであり、特に照明光の角度、観察方向などによって像の明るさや意図が変化するような、画像表示体を提供することを目的としている。
【背景技術】
【0002】
近年、商品券や小切手等の有価証券類やクレジットカードやキャッシュカード、IDカード等のカード類、パスポートや免許証等の証明書類の偽造防止を目的として、通常の印刷物とは異なる視覚効果をもつ表示体を転写箔やステッカー等の形態にして、前記証券類やカードなどの証明書類の表面に貼付、圧着するなどして設けることが行われている。また、有価証券類や証明書類以外の物品においても偽造品の流通が社会問題化しており、そのような物品についても同様の偽造防止技術を適用する機会が多くなってきている。
【0003】
偽造防止技術としては、マイクロ文字、特殊発光インキ、すかし、回折格子、ホログラムなどがある。この偽造防止技術は大きく二つに分けることができる。一つは、簡易な機器や測定装置などを使用して真偽を判別する偽造対策である。もう一つは、肉眼で容易に真偽判定が可能な偽造対策である。
【0004】
近年では、電子線描画装置(EB装置)で様々な微細構造を作製し目視で類似技術と差別化できるセキュリティデバイスの開発が行われている。もっとも一般的なセキュリティデバイスとして、表面レリーフタイプのレインボウホログラム(例えば特許文献1)がある。レインボウホログラムは、普通の印刷物に比べて構造が複雑で、高い微細加工技術を持つ特定の業者でないと作製が困難であり、複製を行うときに大規模な複製装置を必要とするので、小規模な複製が行いにくいという特徴がある。このため、偽造品の作製が困難である。
【0005】
また、照明光を当てた時に、単波長に近い光で再生されるため虹の七色に対応した明るく鮮やかな色で観察でき、観察条件が変化したときに色や画像パターンが変化するという特徴的な見え方をする。このため、他の部材との違いが目視で容易に判別できる。
【0006】
これらのことから、レインボウホログラムは目視によるセキュリティ用途として優れており、偽造防止用の画像表示体として広く用いられてきている。
しかし、レインボウホログラムは、観察条件の変化が僅かであっても再生像の色が大きく変化するので、画像の色の違いを識別するのが難しい。
このため、異なる画像が記録されているレインボウホログラムであっても、観察者に類似した印象を与えやすく、ホログラム同士では記録されている画像の違いが判別し難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許平2−72320号広報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ホログラフィの原理」、オプトロニクス社、P.ハリハラン 著
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように、レインボウホログラムの偽造防止用の画像表示体は、画像の色変化が大きいため、記録されている画像の違いが判別し難いという欠点があった。
本発明は、このような問題点を解決するためになされたものであり、ホログラムと同様に観察条件によって色やパターンが変化するが、レインボウホログラムよりも色変化がゆるやかであり、通常の観察条件では、ほぼ同じ色に見えるような画像表示体を提供することにより、レインボウホログラムと比べて、画像の違いを判別し易い偽造防止媒体を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
請求項1の発明は、少なくとも(a)基材と(b)前記基材の一方の面側に設けられた、凹凸構造を有する凹凸構造形成層と、(c)前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層と、を備えた表示体であって、前記凹凸構造を構成する凸部の上面及び凹部の下面が前記基材面と略平行であり、前記凹凸構造は、その隣接する凸部同士又は凹部同士の平均配置間隔が1〜3μmとなる範囲で、ランダムな間隔で凹凸が配置され、前記凹凸構造形成層は、直線状の凹凸構造領域と、曲線状の凹凸構造領域を備え、前記曲線状の凹凸構造は、予め用意した画像の画素の輝度に対応するように、勾配角度を有しており、前記曲線状の凹凸構造領域を構成する凸部の上面及び凹部の下面の高さの差が、その領域全体で一定であり、かつ0.1μm以上0.5μm以下の範囲であることによって、可視光の一部のスペクトル領域の光が射出されず、そのため白色光を前記曲線状の凹凸構造領域に入射させた際に、観察される像は白色光から一部のスペクトル領域の光を除いたおだやかな色で着色されていることを特徴とする表示体である。
請求項2の発明は、前記曲線状の凹凸構造領域の凸部の上面及び凹部の下面の高さの差と、前記直線状の凹凸構造領域の凸部の上面及び凹部の下面の高さの差が略同一であることを特徴とする請求項1に記載の表示体である。
請求項3の発明は、前記曲線状の凹凸構造領域の凸部の上面及び凹部の下面の高さの差と、前記直線状の凹凸構造領域の凸部の上面及び凹部の下面の高さの差が異なることを特徴とする請求項1に記載の表示体である。
請求項4の発明は、前記勾配角度を有する領域の凸部または凹部の高さ又は深さが、前記予め用意した画像の画像領域毎に異なることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の表示体である。
請求項5の発明は、前記輝度と前記勾配角度をトレードオフの対応関係にすることを特徴とする1〜4の何れか一項に記載の表示体である。
請求項6の発明は、前記領域における複数の凸部または凹部の占有面積が20%以上80%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の表示体である。
請求項7の発明は、印刷物基材と、前記印刷物基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1〜6の何れか一項に記載の表示体とを備えることを特徴とする情報印刷物である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1乃至3の発明によれば、この画像表示体からの観察される回折光は、構造がランダム構造であるため広い範囲の波長分布になる。よって、レインボウホログラムと比較して、観察条件の変化による再生像の色変化が急ではない、おだやかな色で着色された像が観察できる。また、照明光の入射角度が変化すると、回折光の波長分布が変化するため色が変化して見えることになる。
また、勾配角度を有した凸部または凹部の高さ又は深さが、おだやかな色で着色された像が観察できる程度に一定で、0.1μm以上0.5μm以下にすることにより、所望の色がおだやかな色で再生され、観察条件で画像の色が変化するような、画像表示体を提供することができ、コントラストの高い色を表現することができ、視認性の向上が可能である。さらに、異なる画像が記録されている場合にも、観察者に類似した印象を与えず、記録された画像の違いが判別しやすくなる。
そして、形状が曲線状であることから水平または垂直方向の視域を広げることが可能であり視認性を向上させることができる。
請求項4の発明によれば、画像領域ごとに凸部の高さ(または凹部の深さ)を変化させることで、一つの表示体内で異なる色を表現することが可能である。すなわち、複数の色の表示が可能な表示体を実現できる。
請求項5の発明によれば、曲線の勾配をコントロールすることにより輝度及び視域を調節することが可能で、デザインの表現性が増す。
請求項6の発明によれば、後に記述する式(2)から、凸部または凹部の幅(式(2)の格子線幅Lに相当)はピッチdの半分である時(L=d/2の時)に回折効率が最も高くなる。よって、凸部または凹部の占有面積は50%程度のときが最も明るい表示画像が得られるという顕著な効果を得ることができる。請求項7の発明によれば、本発明の表示体を印刷物やカード、その他の物品に貼りあわせる、または、組み合わせることによって、従来の物品に高い偽造防止効果を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の表示体の概略図。
【図2】図1に示す表示体の断面を示した図。
【図3】図1のA領域拡大図。
【図4】曲線状の凹凸構造の説明図。
【図5】図4の凹凸構造に光を入射させたときの回折方向を示した図。
【図6】従来の表示体の断面を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下に本発明の表示体について図面を用いて、詳細に説明を行う。
図1は、本発明の表示体の一実施例を示す概要図である。
図2は、図1に示す表示体のI−I線に沿った断面図である。表示体10は、UV硬化樹脂によって作製された凹凸構造領域11、12及び凹凸構造のない領域15に隣接して、反射層3が形成され、その上を透明な樹脂層2によって埋められた構成となっている。凹凸構造に積層する反射層の材料は特に限定されないが、可視光に対し高い反射率を示すアルミニウムなどの金属材料を用いることが好ましい。また金属膜層の厚さは光学特性から20〜50nm程度が好ましい。反射層を積層する方法として、金属蒸着等を用いればよい。
凹凸構造領域17a,bは、樹脂層に平行な面内において直線状に凹凸構造が成形されており、深さは0.3umとなっている。また図2の凹凸構造領域11、12は、樹脂層に平行な面内において曲線状に成形されていて、それぞれ深さD1は0.3um,D2は0.2umである。つまり、直線状の凹凸構造領域17aと曲線状の凹凸構造領域11の深さは同じであり、直線状の凹凸構造領域17bと曲線状の凹凸構造領域12の深さは異なっている。また、凹凸構造領域11、12ともに凹凸の配置間隔は異なっており、周期性を持たないようなランダムなものとなっている。図3に図1の領域Aの拡大図を示す。図3は凹凸構造領域17aの凹凸構造が直線状で周期がランダムであり、凹凸構造領域11の凹凸構造が曲線状であり凹凸の間隔に周期性がないことを示している。
このような画像表示体を観察した場合、凹凸構造領域11、12の反射層3で回折された光が目に入るが、この回折光には色が着くため、色のついた画像が観察されることになる。
上記のような凹凸構造は、レーザー等を射出した際にエネルギーが散乱することにより凹凸構造に影響が出ないように電子線レーザー等の荷電粒子ビームによるピンポイントな描画によりレジスト材料に形成することが望ましい。描画したレジスト材料を電鋳することにより金属版を作製することが望ましく、その版を樹脂に加圧し成形する。また、金属板にはUV硬化樹脂を塗布し版を樹脂に加圧し成形すると、より正確な凹凸構造が得られるために好ましい。ここではUV硬化樹脂を使用したが、光硬化性樹脂等を使用しても良い。このようにして、凹凸構造を正確に成形することが可能になり、このことにより、可視光の一部のスペクトル領域の光が視線方向に射出されず、そのため白色光を前記曲線状の凹凸構造領域に入射させた際に、観察される像は白色光から一部のスペクトル領域の光を除いたおだやかな色で着色されているため、従来のように表示色が虹色に変化してしまう現象を抑える効果を得ることが出来る。
【0014】
このような画像表示体で回折される光に色が着く原理について説明する。
凹凸構造がある場合、入射した光は凹凸構造で回折され一部の光は正反射方向に進む光となり、別の一部は回折光となる。
表面の凹凸構造に関して、屈折率n、深さd、波長λとしたときに、内部の角度θで入射する照明光の山部と谷部で反射される光の光路差は、2dcosθとなる。そして、これらの光の位相差は、2πn/λをかけた4πndcosθ/λとなる。
この時に、位相差が2πの整数倍であれば、正反射方向の光の位相が揃うため、凸部、凹部からの光の干渉によって正反射光が強くなり、回折光の強度は弱くなる。
位相差が2πの整数倍+πであれば、正反射方向の光の位相が反対になるので、干渉によって正反射方向の光が弱くなり、回折光の強度は強くなる。
ところで、可視光の波長は380〜780nmのある程度広い範囲に分布している。
通常の回折画像表示体で用いられているような、0.1μm程度の深さ(波長の半分程度の光路差)以下の場合には、波長による違いは小さく大きな違いはない。
しかし、凹凸の深さがある程度深くなると、ある波長では位相差が2πの整数倍+πとなって回折光が強くなり、別のある波長では位相差が2πの整数倍となって回折光が弱くなる。
このため、波長によって回折光の強度が大きく違ってくることになる。
また、本発明の画像表示体では、凹凸構造がランダムであり、周期性を持っていない。
よって、ホログラムや回折格子などのように、回折光の方向が波長によって大きく変わることが無く、ほぼ同じような方向に射出される。
つまり、各波長に対する回折光が重なって観察されることになり、回折光の強度の違いによる色が着くことになる。画像表示体に入射する照明光の角度が表示体の凹凸構造の面との垂線から30度で観察位置を垂線方向とした場合の色変化は、深さD1が0.3umでイエロー、深さD2が0.2umでマゼンタの色が確認される。
【0015】
次に回折光の拡がりからピッチの条件について検討する。
回折光と正反射方向の光が分離して観察できるように、回折される光は正反射方向から、十分離れた方向まで拡がることが必要である。
上記の拡がりは、
a=mλ/(sinα−sinβ)・・・式(1)
で表すことができる。aは格子の大きさ、mは回折次数、λは入射光及び回折光の波長、αは入射角度、βは射出角度を表している。
【0016】
通常の場合、照明光と観察角度は30°程度異なるのが一般的である。よって回折光は表示体から30°程度の角度で拡がる必要がある。透明な樹脂層の屈折率を1.5前後、空気中の屈折率を1.0と仮定する。表示体からの回折角度を30°にするには、スネルの法則により透明な樹脂内での回折角βは約20度以上にする必要がある。照明光の波長を500nmと仮定した場合には、格子の大きさaは1.5um以下となる。つまり、回折光が十分な拡がりを持つためには、格子の大きさを1.5um以下にする必要があり、格子の山と谷を合わせたピッチとしては3um以下にしておく必要がある。このようにすることによって、表示体から十分な角度の広がりを持った回折光が得られる。
【0017】
式1より、格子に対してαの入射角で入射した照明光は、角度β方向に回折光を射出する。この際、波長λの光の射出強度、すなわち回折効率は、格子の大きさや高さなどによって変化し、式2によって導出される。

ここで、ηは回折効率(0〜1の値をとる)、rは回折格子の高さ、Lは回折格子線幅、dは格子線のピッチ、θは照明光の角度、λは入射光及び回折光の波長である。この式は、凹凸構造からなる浅い矩形回折格子に成り立つものである。
【0018】
式2から明らかなように回折効率は回折格子の高さrや、格子線のピッチd、入射光の入射角θや波長λによって変化する。また、実際には回折効率は回折次数mが高次になるに伴って徐々に減少していく傾向にある。
【0019】
凸部又は凹部の占有面積は20%以上且つ80%以下であることが好ましい。式2から、凸部または凹部の幅(式2の格子線幅Lに相当)はピッチdの半分であるときに回折効率が最も高くなる。よって凸部又は凹部の占有面積は、50%程度のときが最も明るい表示画像が得られ最も望ましく、20%以上且つ80%以下程度であれば、50%から離れるにしたがって回折効率が低下し表示画像が暗くなっていくものの、十分に複数の波長の光からなる表示画像を視認することができる。なお、占有面積が20%及び80%のときの回折効率は、式2より、50%のものの約3割程度の明るさとなる。
凸部又は凹部の占有面積が20%より小さい場合、もしくは80%より大きい場合には、十分な明るさが得られず、十分なアイキャッチ効果を得ることが難しくなる。
【0020】
また、凸部の高さ、又は凹部の深さの最適な値は0.1um以上且つ0.5um以下の範囲であることが好ましい。式2において、ピッチd、格子線幅Lを一定と仮定した場合、可視光の範囲の波長の光が入射角θ(0度より大きく90度未満の範囲)で入射すると、回折効率が最も高くなる凸部の高さ、又は凹部の深さの値は前記0.1um以上且つ0.5um以下の範囲内にある。なお、式2から、回折効率が最も高くなる条件は、それよりも大きい値であっても繰り返し訪れるが、製造上、凸部の高さ又は凹部の深さは極力浅い方が作製が容易であるので、より浅い値で高い回折効率を得られるのは0.1um以上且つ0.5um以下の条件が好ましい。
従来の表示体では、凹凸構造が図2に示すような断面形状になっておらず、図6に示すような、いわゆる角の崩れた波型等の断面形状であり、凸部の高さ又は凹部の深さもバラバラであったため、前述で説明した式2のような、凹凸構造の高さに応じて回折効率が変化する作用がおきにくくなる。従来のこのような凹凸構造では、光の回折を起こすものの、レインボウホログラムしか作成できなかった。また、凹凸構造を図2のように正確に整えることによって、本発明のようなおだやかな色で着色されたホログラムが作成されることは知られていなかった。しかし、本発明では、凸部の高さまたは凹部の深さが略同一であり、基材面と略平行であるので、色のついた画像を表示させることが可能になる。つまり、本発明では、可視光の一部のスペクトル領域の光が視線方向に射出されず、そのため白色光を前記曲線状の凹凸構造領域に入射させた際に、観察される像は白色光から一部のスペクトル領域の光を除いたおだやかな色で着色されているため、従来のように表示色が虹色に変化してしまう現象を抑えることができる。
【0021】
なお、凸部の高さ、又は凹部の深さが0.1umより浅い場合は製造時の外的要因(機械や環境のコンディションの変動や材料組成のわずかな変化等)により安定して同じ品質のものを作製することが困難となり、0.5umより深い凹凸構造を形成する場合は、細かく深い構造を精密に転写成形することが難しくなる。
【0022】
またピッチ、凸部の高さ、又は凹部の高さは単体の要素のみで考えるのではなく、そのアスペクト比(ピッチに対する深さの割合)についても考えておく必要がある。凹凸構造はアスペクト比が高いほど、転写することが難しくなる。また、アスペクト比が高い場合、つまりピッチに対する深さの割合が高い場合は、凹凸の底部に光が届きにくくなるため、色が出にくくなることや、像が暗くなるということも生じる。アスペクト比が1以上になると、これらの問題点が顕著にでることから、0.5μm程度までの深さを用いることを考慮すると、各格子の大きさは0.5μm以上にしておくほうが良く、ピッチは1μm以上にすることが特に良いと考えられる。
【0023】
次に凹凸構造によるY−Z、X−Z平面での回折光の拡がりについて説明する。
図5ではY−Z平面に平行な光軸を持った入射光の場合を示している。この場合、図の+1次の回折光の回折角βx,βyは、次式に従う。
λ=dx(sinβx) 式(3)
λ=dy(sinβy−sinθy) 式(4)
ただし、λは光の波長、dx及びdyは格子間隔のX成及びY成分、θx及びθyはX―Z面内及びY―Z面内での回折角、βyはY−Z面内での回折角を示している。なお、X−Y面内での回折格子の勾配は、Ω=arctan(dy/dx)である。
【0024】
式3、4から、凹凸構造からどの範囲に光を射出するかがわかる。つまり凹凸構造が樹脂層と平行の面内で曲線状の形状であることにより、直線状と比較してX−Z平面の回折光の拡がりを広げることが可能で、表示体を広範囲から視認することが可能となる。
【0025】
また本発明では曲線の勾配角度は90度以下又は−90度以上であることが望ましい。式3のようにdxの値が小さくなると回折角は大きくなり、表示体の回折光を広範囲から確認できるが、回折光が広範囲に射出されるため明るさが低下する。曲線の勾配角度が90度又は−90度の場合には輝度が、凹凸構造が樹脂層と平行の面内で直線状であるものに対して5割程度となる。このように勾配を設けることで輝度が低下し表示画像が暗くなっていくものの、広範囲から十分な明るさの表示画像を視認できすることができる。曲線の勾配が90度以上の場合には明るさが5割未満になるため、十分な明るさが得られずアイキャッチ効果を得ることが困難となってくる。
勾配角度範囲とは、曲線を線分に分割し、分割したそれぞれの線分が示す勾配の最小値から最大値までの範囲である。勾配角度範囲は、−90度〜90度でありX−YグラフのX軸を基準(0度)とし反時計回りが正とする。
勾配角度範囲と輝度にはトレードオフの関係がある。例えば画像を画素に分割した領域の輝度を0〜255段階に分けて、輝度が0の場合には勾配角度範囲を−90度〜90度に設定する。また輝度が255の場合には、勾配角度範囲を−1度〜1度に設定する。このように設定することにより、表示体にグラデーション効果を有することができる。
【0026】
表示体10を観察すると文字「T」及び凹凸構造領域17aはイエローに視認することができる。「T」と凹凸構造領域17aの重なっている部分は色による判断はできないが、回折光の拡がりが違うため「T」の部分では広範囲でイエローの色を確認することができるが、凹凸構造領域17aでは、広範囲で色を確認することができない。つまり、観察位置を変更することによって凹凸構造領域17aの色が観察できない位置にて「T」部分のみ色を確認できる位置が存在する。よって「T」部分と凹凸構造領域17aで違う視覚効果を発現することが可能である。
また文字「P」と凹凸構造領域17bでは深さが0.3umと0.2umと異なるため、表示体に入射する照明光の角度が、表示体の凹凸構造の面との垂線から30度で観察位置を垂線方向とした場合には、「P」はイエローに視認され、凹凸構造領域17bはマゼンタに視認されるため、色による判別が可能である。勿論、本実施形態では凹凸構造領域の深さを、背景と同様の深さにしたものと、背景と異なった深さにしたものとを組み合わせた表示体を記載しているが、必ずしもこのような形態をとる必要はなく、それぞれの凹凸構造領域の深さは、適宜設定したものを採用すればよい。
【0027】
また、表示体の色は、凹部と凸部の光路差の違いによって生じるので、深さを領域ごとに制御することによって、色のコントロールが可能である。色をコントロールすることによってオレンジ、ブルー、シアンなどの色の表現が可能でデザイン性を向上させることが可能である。
【符号の説明】
【0028】
10…表示体、11,12…凹凸構造領域(曲線)、17a,b…凹凸構造領域(直線)、15…凹凸構造がない領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも
(a)基材と
(b)前記基材の一方の面側に設けられた、凹凸構造を有する凹凸構造形成層と、
(c)前記凹凸構造形成層の少なくとも一部を被覆する反射層と、を備えた表示体であって、
前記凹凸構造を構成する凸部の上面及び凹部の下面が前記基材面と略平行であり、
前記凹凸構造は、その隣接する凸部同士又は凹部同士の平均配置間隔が1〜3μmとなる範囲で、ランダムな間隔で凹凸が配置され、
前記凹凸構造形成層は、直線状の凹凸構造領域と、曲線状の凹凸構造領域を備え、
前記曲線状の凹凸構造は、予め用意した画像の画素の輝度に対応するように、勾配角度を有しており、
前記曲線状の凹凸構造領域を構成する凸部の上面及び凹部の下面の高さの差が、その領域全体で一定であり、かつ0.1μm以上0.5μm以下の範囲であることによって、可視光の一部のスペクトル領域の光が射出されず、そのため白色光を前記曲線状の凹凸構造領域に入射させた際に、観察される像は白色光から一部のスペクトル領域の光を除いたおだやかな色で着色されていることを特徴とする表示体。
【請求項2】
前記曲線状の凹凸構造領域の凸部の上面及び凹部の下面の高さの差と、前記直線状の凹凸構造領域の凸部の上面及び凹部の下面の高さの差が略同一であることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項3】
前記曲線状の凹凸構造領域の凸部の上面及び凹部の下面の高さの差と、前記直線状の凹凸構造領域の凸部の上面及び凹部の下面の高さの差が異なることを特徴とする請求項1に記載の表示体。
【請求項4】
前記勾配角度を有する領域の凸部または凹部の高さ又は深さが、前記予め用意した画像の画像領域毎に異なることを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の表示体。
【請求項5】
前記輝度と前記勾配角度をトレードオフの対応関係にすることを特徴とする請求項1〜4の何れか一項に記載の表示体。
【請求項6】
前記領域における複数の凸部または凹部の占有面積が20%以上80%以下であることを特徴とする請求項1〜5の何れか一項に記載の表示体。
【請求項7】
印刷物基材と、前記印刷物基材の表面の少なくとも一部の領域に設けられた請求項1〜6の何れか一項に記載の表示体とを備えることを特徴とする情報印刷物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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