説明

表示素子及び表示デバイス

【課題】複雑な駆動回路や緻密なデバイスを用いることなく、情報を表示する表示デバイス及びこの表示デバイスに用いる表示素子を提供する。
【解決手段】表示デバイスに用いる表示素子は、包接化合物またはこの包接化合物の誘導体を含む液体状の透明材料を充填したセル容器と、セル容器内の透明材料に面し、制御された電位を与える制御電極として機能する金属層と、を有する。この制御電極である金属層に与える電位を制御することによって、包接化合物またはこの包接化合物の誘導体の導電層への吸着を制御する。これによって、導電層の光学特性を変化させ、この特性の変化により表示内容を切り替える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、与える電位の制御により表示内容を切り替える、デジタル製品に使用される表示デバイスと、この表示デバイスに用いる表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイは、携帯電話をはじめとするモバイル機器、電子広告、電子書籍あるいは電子値札等において必要不可欠なものとなっており、小型化、薄型化の他、高精度、高精細な機能要求も高まっている。今日、表示用ディスプレイとして、液晶ディスプレイが用いられ、さらに、有機ELディスプレイや電子ペーパ等の各種ディスプレイが種々提案されている。電子ペーパは、低消費電力という点で有効であるが、素子構成や駆動回路が複雑化するといった問題がある。
【0003】
下記特許文献1には、電子ペーパに匹敵する低消費電力で、カラーフィルターを必要としない表示デバイスとして、エレクトロクロミックデバイスが提案されている。エレクトロクロミックデバイスは、電極界面あるいはその近傍で生じる酸化還元反応による可逆的な電子構造の変化に伴って生じる色の変化を利用するものである。
また、下記非特許文献1,2や特許文献2において、相転移分子、光異方性分子、pH応答性分子などを用いた修飾電極上での光学機能の発現を利用した手法も提案されている。
【0004】
【特許文献1】特表2000−506629号公報
【特許文献2】特開2004−27195号公報
【非特許文献1】Y.Takeoka et al., Langmuir, 2003,19,9554-9557
【非特許文献2】T.Seki et al., Bull.Chem.Soc.Jpn., 2003,76,2217-2223
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1では、有機化合物や有機金属錯体の還元体は酸素との反応により失活し易く、酸化体は、アルコールやアミンなどの還元性物質が存在すると直ちに失活するため、酸化還元反応を生じさせる電位を保持するような電気化学的に安定した材料が見出されていない。
非特許文献1,2や特許文献2に記載される相転移分子、光異方性分子、pH応答性分子などを用いた手法では、駆動因子が熱、光、pHといった物理量を用いるため、制御が困難である。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題点を解決するために、複雑な駆動回路や緻密なデバイスを用いることなく、さらに、駆動因子が熱、光、pHといった物理量によらない、情報を表示する表示デバイス及びこの表示デバイスに用いる表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者は、公知の非特許文献(A.Ohira et al., J.Am.Chem.Soc., 2003,125,5057-5065)に記載された内容、具体的には、β−シクロデキストリンが電位に応じて金属基板へ吸脱着すること、及びβ−シクロデキストリンの吸着による集合体の構造を電位により可逆的に制御できること、に注目し、この記載内容を利用して表示デバイスに用いることを検討して本発明に至っている。
【0008】
すなわち、本発明は、与える電位の制御により表示内容を切り替える表示デバイスに用いる表示素子であって、包接化合物またはこの包接化合物の誘導体を含む液体状の透明材料を充填したセル容器と、前記セル容器内の前記透明材料に面し、制御された電位を与える制御電極として機能する導電層と、を有し、
前記制御電極に与える電位の制御によって、前記包接化合物またはこの包接化合物の誘導体の前記導電層への吸着を制御し、この吸着の制御によって、前記導電層の表面の光学特性を変化させ、この特性の変化により表示内容を切り替えることを特徴とする表示素子を提供する。
【0009】
その際、前記セル容器の前記導電層と対向する面には、透明板が設けられ、前記導電層の光学特性は前記導電層の表面の散乱光特性であり、この散乱光特性の変化により、前記導電層の表面から前記透明板を通って出射する光の強度を制御することが好ましい。
あるいは、前記セル容器の前記導電層と対向する面には、透明板が設けられ、前記制御電極は透明電極であり、さらに、前記透明板と対向する側には、前記セル容器及び前記透明電極を載置する、透明性を有する絶縁性基板を有し、前記導電層の光学特性は前記導電層を透過する光の透過特性であり、前記包接化合物または包接化合物の誘導体の前記導電層への吸着を制御することによって、前記透明板を通過し前記導電層に向けて到来した透過光を制御し、この透過光の制御により表示内容を切り替えることも、同様に好ましい。
【0010】
前記包接化合物は、疎水性化合物を包接することのできる水溶性包接化合物であることが好ましい。前記包接化合物に、前記疎水性化合物として、直鎖状高分子を包接することが好ましい。
さらに、前記包接化合物は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンの群から選択された化合物であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明は、上述の表示素子を複数配列し、前記表示素子の前記制御電極のそれぞれに電位を与える制御ユニットを有することを特徴とする表示デバイスを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明の表示デバイス及び表示素子は、セル容器に包接化合物またはこの包接化合物の誘導体を含む液体状の透明材料を充填する。このため、制御電極に与える電位の制御によって、包接化合物またはこの包接化合物の誘導体の前記導電層への吸着を制御することができ、この制御によって、導電層の表面の光学特性を変化させ、この特性の変化により表示内容を切り替える。したがって、複雑な駆動回路や緻密なデバイスを用いることなく、熱、光、pHといった物理量を駆動因子とせず、電位を駆動因子とする。上記電位は制御が容易な駆動因子であるので、情報の表示を容易に制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1(a)は、本発明の表示デバイスの一実施形態を示す概略構成図であり、図1(b)は、本発明の表示デバイスの表示セルを構成する表示素子の概略構成図である。
図1(a)に示す表示デバイス10は、基板12、セル部材14、対向基板16、及び制御ユニット18を有する。セル部材14は、縦方向及び横方向に伸びる細長い複数の部材を一定間隔で交差させて形成した部材であり、縦方向及び横方向に伸びる部材によって区切られたマス目状の領域を複数形成する。セル部材14の縦方向及び横方向に伸びる部材の側面と基板12の面と対向基板16の面とにより空間を形成する各セル容器と、各セル容器の空間に充填された透明溶液と、によって表示セル15が構成される。
図1(b)には、セル部材14で形成された表示セル15の構成を説明している。図1(b)に示す表示セル15は、隣接する表示セル15と画されるように、セル部材14の隔壁で周囲が囲まれた領域である。
【0014】
基板12は絶縁性基板である。基板12上には、金属層(導電層)20(図1(b)参照)が、セル部材14の側面を隔壁として区切ることにより形成された各表示セル15に対応した基板12の面上の各領域に、パターニングされて設けられている。この金属層20は制御電極として機能する。金属層20として、例えばAu(111)面が用いられる。本発明において、金属層20は特に限定されないが、金属層20の表面の光反射率が高いこと、すなわち光沢面であることが好ましい。さらに、金属層20は、原子が細密配列した平面を形成する金属を用いることが好ましく、この細密配列が、後述する金属層20に吸着される包接化合物の集合体の格子定数に近い原子配列を有することが好ましい。
各表示セル15の金属層20の端部から配線ライン22が引き出され、基板12の端部に設けられた電極端子(図示せず)と接続されている。さらに、対向基板16には、金属層20の制御電極に対する対向電極として機能する透明電極21が、表示セル15毎に設けられ、配線ライン23が引き出され、基板12の端部に設けられた電極端子(図示せず)と接続されている。電極端子は、制御ユニット18に接続されたコネクタ24と接続されている。
【0015】
一方、各表示セル15を区切るセル部材14の隔壁の側面には、参照電極26が設けられている。参照電極26は、例えば、飽和KCl銀・塩化銀参照電極や飽和カロメル電極が用いられる。金属層20に与える電位は、参照電極26の電位を基準として制御電極である金属層20に与える電位を制御する。与える電位は、基準とする電位に対して、例えば−0.6〜+0.2Vの範囲で制御される。参照電極26の端部から配線ライン28が引き出され、基板12の端部に設けられた電極端子(図示せず)と接続されている。この電極端子は、制御ユニット18に接続されたコネクタ24と接続されている。したがって、制御ユニット18では、各表示セル15における参照電極26の電位を基準として、金属層20の表面の色調が変化するように金属層20に与える電位を定め、この電位を金属層20に与える。なお、本発明では、電位が変動せず光学特性の変化が安定して行われる場合、参照電極26は用いなくてもよい。
【0016】
対向基板16は、透明性を有する基板であり、例えばガラスやプロピレンカーボネートの板が用いられる。対向基板16を透明性基板とするのは、表示デバイス10の各表示セル15に外光を取り込むとともに、金属層20への電位を制御することによって作られる表示内容を視認できるようにするためである。すなわち、対向基板16が表示デバイス10の表示面となる。
【0017】
セル部材14の隔壁にて区切られた各表示セル15には、水溶性の包接化合物またはその包接化合物の誘導体を含む液体状の透明溶液30が充填されている。
包接化合物とは、王冠のような立体形状を成しており、この王冠のリング形状の内側には疎水基が、外側には親水基が配置され、あるいは、内側には親水基が、外側には疎水基が配置された構造をなし、上記王冠のリング形状の内側に、疎水基を持つ分子(又はイオン)、あるいは親水基を持つ分子(又はイオン)を取り込んで包接状態の化合物をつくるものをいう。取り込まれた分子をゲスト分子、取り込んだ分子をホスト分子という。例えば、ゲスト分子が化学的に不安定な物質や水に溶けにくい物質であっても、この物質が、リング形状の内側には疎水基が、外側には親水基が配置された包接化合物に取り込まれると、包接状態の化合物は化学的に安定する。これにより、水への溶解性は向上する。透明溶液30には、周知の支持塩を含ませてもよい。
【0018】
包接化合物の誘導体として導入される置換基は、例えば、アルキル基、アルキルチオ基、フェニル環、フェニルチオ基等の芳香族基、あるいはアミノ基、水酸基、カルボキシル基等の官能基、ならびに有機色素等の発色残基が挙げられる。
【0019】
このような包接化合物として、上記王冠のリング形状の内側には疎水基が、外側には親水基が配置された包接化合物であることが、水に溶解する点で好ましい。包接化合物として、シクロデキストリンやカリックスアレーンが挙げられるが、分子の修飾性の容易性及び化合物としての安全性の点から、シクロデキストリンが好ましく、特に、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンの群から選択された化合物を好適に用いることができる。本発明において、包接化合物または包接化合物の誘導体を用いるのは、後述するように、制御電極である金属層20に包接化合物またはその誘導体を吸着させるとき、ゲスト分子を取り込んだ状態で吸着され、これにより、金属層20表面の光学特性を有効に変更させるためである。
【0020】
セル部材14の各表示セル15に充填されている透明溶液30には、さらに、包接化合物のゲスト分子として、疎水性を有する直鎖状高分子(一次元高分子、線状高分子)が含まれると、より好適になる場合がある。例えば、α−シクロデキストリンまたはその誘導体が包接化合物として用いられる場合、ポリエチレングリコールが用いられ、β−シクロデキストリンまたはその誘導体が包接化合物として用いられる場合、ポリプロピレングリコールが用いられる。疎水性を有する直鎖状高分子を用いるのは、水溶液である透明溶液30に溶解する複数のシクロデキストリン(又はシクロデキストリンの誘導体)に1つの直鎖状高分子を包接させることにより、後述するように、包接化合物が金属層20に吸着したとき、金属層20表面の光学特性(反射特性、散乱特性、透過特性)を有効に変更させる吸着パターンを生成するからである。この吸着パターンが変わることにより、包接化合物の吸着密度は変わることになる。
直鎖状高分子として、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコールの他に、例えば、ポリエーテルやポリイミドが挙げられる。
【0021】
このような表示デバイス10では、制御ユニット18にて、各表示セル15における参照電極26の電位を基準電位として、制御電極である金属層20に与える電位が制御される。この電位は、表示しようとする内容に応じて各表示セル15毎に設定され、制御された値であり、この制御された電位が、制御ユニット18から配線ライン22を通して、各表示セル15の金属層20へ付与される。
金属層20では、制御された電位により、透明溶液30中の包接化合物(または包接化合物の誘導体)が金属層20に吸着される。後述するように、電位の程度に応じて包接化合物の吸着パターンが異なっている。
【0022】
透明溶液30に、包接化合物のゲスト分子として、直鎖状高分子を用いている場合、1つの直鎖状高分子は複数の包接化合物により取り込まれ、1つの直鎖状高分子をゲスト分子として取り込んだ複数の包接化合物が金属層20に吸着される。
図2(a),(b)は、包接化合物Aの金属層20への吸着と、反射光及び散乱光の関係を説明する図である。
図2(a)に示すように、包接化合物Aが透明溶液30中にあるとき、包接化合物Aの透明溶液30中での密度は小さい。このため、対向基板16を透過した光は、金属層20の表面に達し、光反射率が高い金属層20の表面で反射される。すなわち、反射光は、金属層20の光沢面の色調を呈するような波長成分を持つ光となる。
【0023】
透明溶液30に、直鎖状高分子が含まれている場合、1つの直鎖状高分子をゲスト分子として取り込んだ複数の包接化合物の集合体が平衡状態で生成されている。これらの状態で、金属層20に制御された電位が与えられると包接化合物Aあるいはホスト−ゲスト化合物は金属層20に吸着され、吸着される包接化合物Aの密度を高めることができる。吸着した包接化合物Aの密度は、金属層20の散乱光強度に影響を与える。このため、包接化合物Aの密度を制御することにより、散乱光強度を制御することができる。図3(b)に示す散乱光強度が強い場合、金属層20表面が白濁したように見える散乱光が出射される。したがって、金属層20の表面で反射した反射光により視認できる金属層20の光沢表面と、散乱光により視認できる白濁した金属層20の表面とを、各表示セル15毎に制御することにより、表示デバイス10にて表示される情報を切り替えることができる。
【0024】
包接化合物に直鎖状高分子をゲスト分子として取り込むのは、散乱光強度を効率よく高めるためである。包接化合物、例えばβ−シクロデキストリンの分子サイズは1nm程度であり、この分子サイズは可視光の波長(380〜800nm)より小さい。このため可視光は透過する。しかし、上記分子サイズを大きくし、可視光の20分の1以上のサイズにすると散乱光強度が大きくなることが知られている。このため、1つの直鎖状高分子を用いることにより、この直鎖状高分子を取り込むように集合した複数の包接化合物からなる集合体を作り、この集合体が、金属層20に吸着するとき包接化合物の集合体のサイズが大きくなることを利用して、散乱光強度を大きくすることができる。
さらに、上記分子サイズを大きくするために、シクロデキストリン等の包接化合物を重合したものを用いてもよい。例えば、シクロデキストリン分子間で形成される重合体を用いてもよいし、シクロデキストリンの分子同士が架橋剤を介して結合された重合体を用いることもできる。
【0025】
このように、制御電極である金属層20の電位を変えることで、金属層20表面の光学特性(反射特性、散乱光特性)を変えることにより、表示セル15として用いることができる。
【0026】
図3は、後述する実施例と同様に、支持塩として10mMのNaClO4水溶液中で、金属層20として所定の電位を与えたAu(111)電極表面に、β−シクロデキストリン(200μM)を吸着させた状態を示す写真である。この写真は、電気化学原子間力顕微鏡(EC−AFM)で観測したときの結果である。包接化合物は、吸着時、自己組織的に吸着の構造や吸着パターンを作る。図3に示すように、包接化合物が所定のパターン(密度)で配列した領域が複数存在し、この複数の領域における光学特性に基づいて、金属層20表面の光学特性が作られる。
【0027】
一方、金属層20に与える電位を高くすると、金属層20による包接化合物の吸着力が、包接化合物がゲスト分子を包接する作用力に比べて強くなり、包接化合物の吸着パターンはランダムパターンになる。
【0028】
図4は、β−シクロデキストリンが、金属層20が金で作られた金電極に吸着することを示す図である。具体的には、β−シクロデキストリンの吸着により、酸化還元反応を示すことを、サイクリックボルタンメトリー法(走査速度40mV/秒)を用いて確認した図である。このサイクリックボルタンメトリー法による確認実験では、水溶液に10mMのNaClO4を支持塩として含ませ、2μM、20μM、200μM、あるいは2mMのβ−シクロデキストリンを加えて測定サンプルを用意した。この測定サンプルを用いて金電極に電位を与え、そのときの電流密度(μA/cm2)を測定した。図4からわかるように、2μMから高濃度領域の2mMまで、酸化還元の波形を観測することができ、これより、酸化還元反応がβ−シクロデキストリンの吸脱着によって生じたことを確認することができる。なお。図4中には、β−シクロデキストリンが存在しない(濃度0μM)の例も示している。
【0029】
〔第1実施例〕
β−シクロデキストリンを用いて、制御電極である金属層20の表面状態の変化を調べた。
具体的には、図1に示す表示デバイスの1つの表示セル15を作製し、透明溶液30としてβ−シクロデキストリンを含む水溶液を用い、β−シクロデキストリンの金属層20への吸着によって、金属層20の光学特性の変化(表面の変化)を、対向基板16の側から目視によって調べた。電位は、−0.6V〜+0.2V変化させた。透明溶液30には、支持塩として10mMのNaClO4(過塩素酸ナトリウム;和光純薬工業社製)を用い、2mMのβ−シクロデキストリンを加えた。
【0030】
下記表1は、その測定結果である。金属層20の表面状態の変化のほかに光反射率についても、反射光の強度の高低により調べた。反射光の強度の高低は目視により判断した。なお、参照電極26として飽和カロメル電極(S.C.E)を用いた。
表1

【0031】
表1から明らかなように、電位を−600mVから+200mVとしたとき、金属層20の表面は光沢表面から白濁した表面へ、さらに、光沢表面と白濁した表面との中間の表面へと変化する。上記光沢表面と白濁した表面を各表示セル15毎に制御することで、情報を表示することができる。
【0032】
上述の実施形態では、包接化合物の吸着により、金属層20の表面の光学特性(反射特性及び散乱光特性)を変化させて、所望の情報を表示する反射型表示デバイスである。しかし、この実施形態の他に、上記表示デバイス10の絶縁性の基板12にガラス板等の透明性基板を用い、制御電極として機能する金属層20に、ITO(酸化インジウム錫)等の透明電極を用いた構成としてもよい。この場合、表示デバイスは、対向基板16を通過して透明電極に入射し透明電極を透過しようとする光を、透明電極である金属層20の表面状態の変化によって制御することで、所望の情報を表示する透過型表示デバイスを形成することができる。
【0033】
〔第2実施例〕
上述の透過型表示デバイスに用いる透過型の表示セル15を作製し、その効果を調べた。基板12に透明性を有するガラス板を用い、制御電極として機能する金属層20に、ITOの透明電極を用いた。
透明溶液30としてβ−シクロデキストリンを含む水溶液を用い、β−シクロデキストリンの金属層20への吸着によって、金属層20の表面の変化を基板12の側から目視によって調べた。電位は−0.6V〜+0.2V変化させた。透明溶液30には、支持塩として10mMのNaClO4(過塩素酸ナトリウム;和光純薬工業社製)を用い、2mMのβ−シクロデキストリンを加えた。
【0034】
下記表2は、その測定結果である。金属層20の表面状態の変化の他に光透過率についても、透過光の強度の高低により調べた。透過光の強度の高低は目視により判断した。なお、参照電極26として飽和カロメル電極(S.C.E)を用いた。
【0035】
表2

【0036】
表2から明らかなように、電位を−600mVから+200mVとしたとき、金属層20の表面は光沢表面から白濁した表面へ変化する。このときの光透過率も「高」から「低」に変化する。このため、透過光の強弱を表示セル15毎に調整することで、情報を表示することができる。
【0037】
なお、本発明では、包接化合物に色素分子を連結して、包接化合物に発色機能を持たせてもよい。この場合、用いる色素分子として、フルオレセインやローダミンのような疎水性色素でも親水性色素でもよい。
【0038】
以上、本発明の表示素子及び表示デバイスについて詳細に説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更してもよいのはもちろんである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】(a)は、本発明の表示デバイスの一実施形態を示す概略構成図であり、(b)は、本発明の表示デバイスの表示セルを構成する表示素子の概略構成図である。
【図2】(a)及び(b)は、包接化合物の吸着とこのときの光学特性を説明する図である。
【図3】包接化合物が金属層へ吸着した状態の一例を示す図である。
【図4】包接化合物が金属層に吸着することによって発生する酸化還元反応を示すサイクリックボルタモグラムを示す図である。
【符号の説明】
【0040】
10 表示デバイス
12 基板
14 セル部材
15 表示セル
16 対向基板
18 制御ユニット
20 金属層
21 透明電極
22,23,28 配線ライン
26 参照電極
30 透明溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
与える電位の制御により表示内容を切り替える表示デバイスに用いる表示素子であって、
包接化合物またはこの包接化合物の誘導体を含む液体状の透明材料を充填したセル容器と、
前記セル容器内の前記透明材料に面し、制御された電位を与える制御電極として機能する導電層と、を有し、
前記制御電極に与える電位の制御によって、前記包接化合物またはこの包接化合物の誘導体の前記導電層への吸着を制御し、この吸着の制御によって、前記導電層の表面の光学特性を変化させ、この特性の変化により表示内容を切り替えることを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記セル容器の前記導電層と対向する面には、透明板が設けられ、
前記導電層の光学特性は前記導電層の表面の散乱光特性であり、この散乱光特性の変化により、前記導電層の表面から前記透明板を通って出射する光の強度を制御する請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記セル容器の前記導電層と対向する面には、透明板が設けられ、
前記制御電極は透明電極であり、
さらに、前記透明板と対向する側には、前記セル容器及び前記透明電極を載置する、透明性を有する絶縁性基板を有し、
前記導電層の光学特性は前記導電層を透過する光の透過特性であり、
前記包接化合物または包接化合物の誘導体の前記導電層への吸着を制御することによって、前記透明板を通過し前記導電層に向けて到来した透過光を制御し、この透過光の制御により表示内容を切り替える請求項1に記載の表示素子。
【請求項4】
前記包接化合物は、疎水性化合物を包接することのできる水溶性包接化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項5】
前記包接化合物に、前記疎水性化合物として、直鎖状高分子を包接する請求項4に記載の表示素子。
【請求項6】
前記包接化合物は、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンの群から選択された化合物である請求項1〜5のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の表示素子を複数配列し、前記表示素子の前記制御電極のそれぞれに電位を与える制御ユニットを有することを特徴とする表示デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−222946(P2009−222946A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−66842(P2008−66842)
【出願日】平成20年3月14日(2008.3.14)
【出願人】(000231073)日本航空電子工業株式会社 (1,081)
【Fターム(参考)】