説明

表示素子

【課題】簡便な部材構成、低電圧で駆動可能で、表示コントラスト、白表示反射率が高く、かつ表示画像のメモリー性が高い表示素子を提供する。
【解決手段】対向電極間に、銀または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質層を有し、銀の溶解析出を生じさせるように該対向電極の駆動操作を行う表示素子において、対向する電極間にアノード極で生成した化合物を吸着し、かつイオン伝導性である機能性膜を有していることを特徴とする表示素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀の溶解析出を利用した電気化学的な表示素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、パーソナルコンピューターの動作速度の向上、ネットワークインフラの普及、データストレージの大容量化と低価格化に伴い、従来紙への印刷物で提供されたドキュメントや画像等の情報を、より簡便な電子情報として入手、電子情報を閲覧する機会が益々増大している。
【0003】
この様な電子情報の閲覧手段として、従来の液晶ディスプレイやCRT、また近年では、有機ELディスプレイ等の発光型が主として用いられているが、特に、電子情報がドキュメント情報の場合、比較的長時間にわたってこの閲覧手段を注視する必要があり、これらの行為は必ずしも人間に優しい手段とは言い難く、一般に発光型のディスプレイの欠点として、フリッカーで目が疲労する、持ち運びに不便、読む姿勢が制限され、静止画面に視線を合わせる必要が生じる、長時間読むと消費電力が嵩む等が知られている。
【0004】
これらの欠点を補う表示手段として、外光を利用し、像保持の為に電力を消費しない(メモリー性)反射型ディスプレイが知られているが、下記の理由で十分な性能を有しているとは言い難い。
【0005】
すなわち、反射型液晶等の偏光板を用いる方式は、反射率が約40%と低く白表示に難があり、また構成部材の作製に用いる製法の多くは簡便とは言い難い。また、ポリマー分散型液晶は高い電圧を必要とし、また有機物同士の屈折率差を利用しているため、得られる画像のコントラストが十分でない。また、ポリマーネットワーク型液晶は駆動電圧が高いことと、メモリー性を向上させるために複雑なTFT回路が必要である等の課題を抱えている。また、電気泳動法による表示素子は、10V以上の高い電圧が必要となり、電気泳動性粒子凝集による耐久性に懸念がある。
【0006】
これら上述の各方式の欠点を解消する表示方式として、金属または金属塩の溶解析出を利用するエレクトロデポジション方式(以下、ED方式と略す)が知られている。ED方式は、3V以下の低電圧で駆動が可能で、簡便なセル構成、黒と白のコントラストや黒品質に優れる等の利点があり、様々な方法が開示されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0007】
本発明者は、上記各特許文献に開示されている技術を詳細に検討した結果、従来技術では、アノード反応で生成した酸化体がカソード反応で生成した析出銀を酸化し、表示画像のメモリー性を低下させるという課題が判明した。特にこのメモリー性の低下はアノード反応で生成した酸化体がヨウ素の酸化物であるときに顕著であることがわかった。
【0008】
本発明は、対向電極間にアノード極で生成した化合物を吸着する機能性膜を有する構成を取ることで、アノード反応で生成した酸化体の対向電極への拡散を抑制することで、表示画像のメモリー性を向上させることを特徴とする。
【特許文献1】米国特許第4,240,716号明細書
【特許文献2】特許第3428603号公報
【特許文献3】特開2003−241227号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡便な部材構成、低電圧で駆動可能で、表示コントラスト、白表示反射率が高く、かつ表示画像のメモリー性が高い表示素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成により解決することができた。
【0011】
1.対向電極間に、銀または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質層を有し、銀の溶解析出を生じさせるように該対向電極の駆動操作を行う表示素子において、対向する電極間にアノード極で生成した化合物を吸着し、かつイオン伝導性である機能性膜を有していることを特徴とする表示素子。
【0012】
2.前記機能性膜が吸着する化合物が、銀イオンまたは銀錯体以外である化合物であることを特徴とする前記1に記載の表示素子。
【0013】
3.前記機能性膜が吸着する化合物が、銀と錯体もしくは塩を形成するアニオン性化合物の酸化体であることを特徴とする前記2に記載の表示素子。
【0014】
4.前記銀と錯体もしくは塩を形成するアニオン性化合物が、ハロゲンもしくはメルカプト系化合物もしくはチオエーテル系化合物であることを特徴とする前記3に記載の表示素子。
【0015】
5.前記機能性膜が高分子化合物から形成されていることを特徴とする前記1〜4のいずれか1項に記載の表示素子。
【0016】
6.前記機能性膜がスルフォン酸基を含有していることを特徴とする前記5に記載の表示素子。
【0017】
7.前記機能性膜の主鎖がポリフルオロエチレンであることを特徴とする前記6に記載の表示素子。
【0018】
8.銀イオンを含む化合物のモル濃度を[Ag](モル/kg)、ハロゲンイオンまたはハロゲン分子のハロゲン原子の総モル濃度を[x](モル/kg)としたときに、0<[x]/[Ag]≦0.1という条件を満たしていることを特徴とする前記1〜7のいずれか1項に記載の表示素子。
【0019】
9.電解質中にメルカプト若しくはチオエーテル系化合物を含有していることを特徴とする前記8に記載の表示素子。
【0020】
10.メルカプト若しくはチオエーテル系化合物が、下記一般式(1)または(2)で表されることを特徴とする前記9に記載の表示素子。
【0021】
【化1】

【0022】
(式中、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zは含窒素複素環を表す。nは0〜5の整数を表し、R1はハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、カルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、スルファモイル基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基または複素環基を表し、nが2以上の場合、それぞれのR1は同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。)
一般式(2) R2−S−R3
(式中、R2、R3は各々置換または無置換の炭化水素基を表す。)
【発明の効果】
【0023】
本発明により、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、簡便な部材構成、低電圧で駆動可能で、表示コントラスト、白表示反射率が高く、かつ表示画像のメモリー性が高い表示素子を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明の詳細について説明する。
【0025】
(機能性膜)
本発明に係わる機能性膜は、画像表示に必要な析出銀を酸化してメモリー性を低下させるアノード反応を吸着する基を有していることが特徴であり、吸着する基としてはスルフォン酸、カルボン酸、安息香酸等が挙げられる。好ましい吸着基はスルフォン酸基である。
【0026】
本発明に係わる機能性膜は、高分子化合物から形成されていることが好ましく、該高分子化合物の主鎖としては、ポリフルオロエチレンが好ましい。
【0027】
メモリー性を低下させる化合物としては、例えば、ヨウ素、塩素、臭素等のハロゲンイオンの酸化体、メルカプトトリアゾール、メルカプトベンゾイミダゾール等のメルカプト系化合物の酸化体、ジチオオクタンジオール、ジチアオクタンジカルボン酸等のチオエーテル化合物の酸化体が挙げられる。
【0028】
(電解質層)
本発明に係る対向電極間に形成する電解質層は、有機溶媒、イオン性液体、酸化還元活性物質、白色散乱物、支持電解質等を必要に応じて選択して構成されている。
【0029】
以下、本発明に係る電解質層の各構成要素について、更に説明する。
【0030】
(有機溶媒)
本発明に係る電解質層で適用可能な有機溶媒としては、電解質層を形成した後、揮発を起こさず電解質層に留まることができる沸点が120〜300℃の範囲にある有機溶媒であれば特に制限はなく、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチルラクトン、テトラメチル尿素、スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−(N−メチル)−2−ピロリジノン、ヘキサメチルホスホルトリアミド、N−メチルプロピオンアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,Nジメチルホルムアミド、N−メチルホルムアミド、ブチロニトリル、プロピオニトリル、アセトニトリル、アセチルアセトン、4−メチル−2−ペンタノン、2−ブタノール、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノール、無水酢酸、酢酸エチル、プロピオン酸エチル、ジメトキシエタン、ジエトキシフラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、トリクレジルホスフェート、2エチルヘキシルホスフェート、ジオクチルフタレート、ジオクチルセバケート等をあげることができる。
【0031】
上記有機溶媒の中でも、特に環状カルボン酸化合物であるプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチルラクトンが好ましい。
【0032】
本発明で用いることのできるその他の溶媒として、J.A.Riddick,W.B.Bunger,T.K.Sakano,“Organic Solvents”,4th ed.,John Wiley & Sons(1986)、Y.Marcus,“Ion Solvation”,John Wiley & Sons(1985)、C.Reichardt,“Solvents and Solvent Effects in Chemistry”,2nd ed.,VCH(1988)、G.J.Janz,R.P.T.Tomkins,“Nonaqueous Electorlytes Handbook”,Vol.1,Academic Press(1972)に記載の化合物を挙げることができる。
【0033】
(イオン性液体)
本発明に係わるイオン性液体とは、室温でも液体で存在する塩を指し、イミダゾリウム、ピリジニウム等の陽イオンと、フッ化物イオンやトリフラート等の陰イオンの組合せから選択することができる。
【0034】
(表示素子の基本構成)
本発明の表示素子において、ED表示部には、対応する1つの対向電極が設けられている。
【0035】
表示部に近い対向電極の1つである電極1にはITO電極等の透明電極、他方の電極2には銀電極等の金属電極が設けられている。電極1と電極2との間には銀または銀を化学構造中に含む化合物を有する電解質層が担持されており、対向電極間に正負両極性の電圧を印加することにより、電極1と電極2上で銀の酸化還元反応が行なわれ、還元状態の黒い銀画像と、酸化状態の透明な銀の状態を可逆的に切り替えることができる。
【0036】
(銀または銀を化学構造中に含む化合物)
本発明に係る銀または銀を化学構造中に含む化合物とは、例えば、酸化銀、硫化銀、金属銀、銀コロイド粒子、ハロゲン化銀、銀錯体化合物、銀イオン等の化合物の総称であり、固体状態や液体への可溶化状態や気体状態等の相の状態種、中性、アニオン性、カチオン性等の荷電状態種は、特に問わない。
【0037】
(メルカプト系化合物、チオエーテル系化合物)
本発明に係る電解質層では、上記説明した銀または銀を化学構造中に含む化合物、有機溶媒と共に、メルカプト系化合物またはチオエーテル系化合物を含有していることが好ましく、更には、メルカプト系化合物が、前記一般式(1)で表される化合物であること、あるいはチオエーテル系化合物が、前記記一般式(2)で表される化合物であることが好ましい。
【0038】
本発明に係る前記一般式(1)で表されるメルカプト系化合物について説明する。
【0039】
前記一般式(1)において、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zは含窒素複素環を表す。nは0〜5の整数を表し、R1は水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、カルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、スルファモイル基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基または複素環基を表し、nが2以上の場合、それぞれのR1は同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。
【0040】
一般式(1)のMで表される金属原子としては、例えば、Li、Na、K、Mg、Ca、Zn、Ag等が挙げられ、4級アンモニウムとしては、例えば、NH4、N(CH34、N(C494、N(CH331225、N(CH331633、N(CH33CH265等が挙げられる。
【0041】
一般式(1)のZで表される含窒素複素環としては、例えば、テトラゾール環、トリアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、インドール環、オキサゾール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾセレナゾール環、ナフトオキサゾール環等が挙げられる。
【0042】
一般式(1)のR1で表されるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられ、アルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、ドデシル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、トリフルオロメチル、ベンジル等の各基が挙げられ、アリール基としては、例えば、フェニル、ナフチル等の各基が挙げられ、アルキルカルボンアミド基としては、例えば、アセチルアミノ、プロピオニルアミノ、ブチロイルアミノ等の各基が挙げられ、アリールカルボンアミド基としては、例えば、ベンゾイルアミノ等が挙げられ、アルキルスルホンアミド基としては、例えば、メタンスルホニルアミノ基、エタンスルホニルアミノ基等が挙げられ、アリールスルホンアミド基としては、例えば、ベンゼンスルホニルアミノ基、トルエンスルホニルアミノ基等が挙げられ、アリールオキシ基としては、例えば、フェノキシ等が挙げられ、アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ、エチルチオ、ブチルチオ等の各基が挙げられ、アリールチオ基としては、例えば、フェニルチオ基、トリルチオ基等が挙げられ、アルキルカルバモイル基としては、例えば、メチルカルバモイル、ジメチルカルバモイル、エチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、ジブチルカルバモイル、ピペリジルカルバモイル、モルホリルカルバモイル等の各基が挙げられ、アリールカルバモイル基としては、例えば、フェニルカルバモイル、メチルフェニルカルバモイル、エチルフェニルカルバモイル、ベンジルフェニルカルバモイル等の各基が挙げられ、アルキルスルファモイル基としては、例えば、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、エチルスルファモイル、ジエチルスルファモイル、ジブチルスルファモイル、ピペリジルスルファモイル、モルホリルスルファモイル等の各基が挙げられ、アリールスルファモイル基としては、例えば、フェニルスルファモイル、メチルフェニルスルファモイル、エチルフェニルスルファモイル、ベンジルフェニルスルファモイル等の各基が挙げられ、アルキルスルホニル基としては、例えば、メタンスルホニル基、エタンスルホニル基等が挙げられ、アリールスルホニル基としては、例えば、フェニルスルホニル、4−クロロフェニルスルホニル、p−トルエンスルホニル等の各基が挙げられ、アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、ブトキシカルボニル等の各基が挙げられ、アリールオキシカルボニル基としては、例えばフェノキシカルボニル等が挙げられ、アルキルカルボニル基としては、例えば、アセチル、プロピオニル、ブチロイル等の各基が挙げられ、アリールカルボニル基としては、例えば、ベンゾイル基、アルキルベンゾイル基等が挙げられ、アシルオキシ基としては、例えば、アセチルオキシ、プロピオニルオキシ、ブチロイルオキシ等の各基が挙げられ、複素環基としては、例えば、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、セレナゾール環、テトラゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、チアジン環、トリアジン環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、インドレニン環、ベンズセレナゾール環、ナフトチアゾール環、トリアザインドリジン環、ジアザインドリジン環、テトラアザインドリジン環基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換基を有するものを含む。
【0043】
次に、一般式(1)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらの化合物に限定されているわけではない。
【0044】
【化2】

【0045】
【化3】

【0046】
次いで、前記一般式(2)で表されるチオエーテル系化合物について説明する。
【0047】
前記一般式(2)において、R2、R3は各々アルキル基、アリール基または複素環基を表し、それぞれ同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して環を形成してもよい。
【0048】
前記一般式(2)のR2、R3で表されるアルキル基としては、例えば、メチル、エチル、プロピル、i−プロピル、ブチル、t−ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、オクチル、ドデシル、ヒドロキシエチル、メトキシエチル、トリフルオロメチル、ベンジル等の各基が挙げられ、アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基等が挙げられ、複素環基としては、例えば、オキサゾール環、イミダゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、セレナゾール環、テトラゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、チアジン環、トリアジン環、ベンズオキサゾール環、ベンズチアゾール環、ベンズイミダゾール環、インドレニン環、ベンズセレナゾール環、ナフトチアゾール環、トリアザインドリジン環、ジアザインドリジン環、テトラアザインドリジン環基等が挙げられる。これらの置換基はさらに置換基を有するものを含む。
【0049】
次に、一般式(2)で表される化合物の好ましい具体例を示すが、本発明はこれらの化合物に限定されているわけではない。
【0050】
2−1:CH3SCH2CH2OH
2−2:HOCH2CH2SCH2CH2OH
2−3:HOCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OH
2−4:HOCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OH
2−5:HOCH2CH2SCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SCH2CH2OH
2−6:HOCH2CH2OCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OCH2CH2OH
2−7:H3CSCH2CH2COOH
2−8:HOOCCH2SCH2COOH
2−9:HOOCCH2CH2SCH2CH2COOH
2−10:HOOCCH2SCH2CH2SCH2COOH
2−11:HOOCCH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2COOH
2−12:HOOCCH2CH2SCH2CH2SCH2CH(OH)CH2SCH2CH2SCH2CH2COOH
2−13:HOOCCH2CH2SCH2CH2SCH2CH(OH)CH(OH)CH2SCH2CH2SCH2CH2COOH
2−14:H3CSCH2CH2CH2NH2
2−15:H2NCH2CH2SCH2CH2NH2
2−16:H2NCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NH2
2−17:H3CSCH2CH2CH(NH2)COOH
2−18:H2NCH2CH2OCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OCH2CH2NH2
2−19:H2NCH2CH2SCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SCH2CH2NH2
2−20:H2NCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NH2
2−21:HOOC(NH2)CHCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2CH(NH2)COOH
2−22:HOOC(NH2)CHCH2SCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SCH2CH(NH2)COOH
2−23:HOOC(NH2)CHCH2OCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2OCH2CH(NH2)COOH
2−24:H2N(O=)CCH2SCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SCH2C(=O)NH2
2−25:H2N(O=)CCH2SCH2CH2SCH2C(=O)NH2
2−26:H2NHN(O=)CCH2SCH2CH2SCH2C(=O)NHNH2
2−27:H3C(O=)CNHCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NHC(=O)CH3
2−28:H2NO2SCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2SO2NH2
2−29:NaO3SCH2CH2CH2SCH2CH2SCH2CH2CH2SO3Na
2−30:H3CSO2NHCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NHO2SCH3
2−31:H2N(NH)CSCH2CH2SC(NH)NH2・2HBr
2−32:H2N(NH)CSCH2CH2OCH2CH2OCH2CH2SC(NH)NH2・2HCl
2−33:H2N(NH)CNHCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2NHC(NH)NH2・2HBr
2−34:〔(CH33NCH2CH2SCH2CH2SCH2CH2N(CH332+・2Cl-
【0051】
【化4】

【0052】
【化5】

【0053】
本発明に係るメルカプト系化合物またはチオエーテル系化合物は、1種のみで用いても複数種を併用して用いてもよく、電解質層のAgイオンのモル数に対するメルカプト系化合物及びチオエーテル系化合物の合計のモル数が0.2〜2の範囲にあることが好ましい。
【0054】
(ハロゲンイオン、銀イオン濃度比)
本発明の表示素子においては、電解質に含まれるハロゲンイオンまたはハロゲン原子のモル濃度を[X](モル/kg)とし、前記電解質に含まれる銀または銀を化学構造中に含む化合物の銀の総モル濃度を[Ag](モル/kg)としたとき、下式(1)で規定する条件を満たすことが好ましい。
【0055】
式(1)
0≦[X]/[Ag]≦0.01
本発明でいうハロゲン原子とは、ヨウ素原子、塩素原子、臭素原子、フッ素原子のことをいう。[X]/[Ag]が0.01よりも大きい場合は、銀の酸化還元反応時に、X-→X2が生じ、X2は黒化銀と容易にクロス酸化して黒化銀を溶解させ、メモリー性を低下させる要因の1つになるので、ハロゲン原子のモル濃度は銀のモル濃度に対してできるだけ低い方が好ましい。本発明においては、0≦[X]/[Ag]≦0.001がより好ましい。ハロゲンイオンを添加する場合、ハロゲン種については、メモリー性向上の観点から、各ハロゲン種モル濃度総和が[I]<[Br]<[Cl]<[F]であることが好ましい。
【0056】
(白色散乱物)
本発明で適用可能な白色散乱物しては、例えば、二酸化チタン(アナターゼ型あるいはルチル型)、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウムおよび水酸化亜鉛、水酸化マグネシウム、リン酸マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、アルカリ土類金属塩、タルク、カオリン、ゼオライト、酸性白土、ガラス、有機化合物としてポリエチレン、ポリスチレン、アクリル樹脂、アイオノマー、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂、ポリアミド樹脂などが単体または複合混合で、または粒子中に屈折率を変化させるボイドを有する状態で使用されてもよい。
【0057】
本発明では、上記白色粒子の中でも、二酸化チタン、酸化亜鉛、水酸化亜鉛が好ましく用いられる。また、無機酸化物(Al23、AlO(OH)、SiO2等)で表面処理した二酸化チタン、これらの表面処理に加えて、トリメチロールエタン、トリエタノールアミン酢酸塩、トリメチルシクロシラン等の有機物処理を施した二酸化チタンを用いることができる。
【0058】
本発明の白色散乱物は電解質中に分散されていても、対向電極間に多孔質白色散乱層として層中に存在していても良い。
【0059】
(電解質−銀塩)
本発明の表示素子においては、ヨウ化銀、塩化銀、臭化銀、酸化銀、硫化銀、クエン酸銀、酢酸銀、ベヘン酸銀、p−トルエンスルホン酸銀、メルカプト類との銀塩、イミノジ酢酸類との銀錯体、等の公知の銀塩化合物を用いることができる。これらの中でハロゲンやカルボン酸や銀との配位性を有する窒素原子を有しない化合物を銀塩として用いるのが好ましく、例えば、p−トルエンスルホン酸銀が好ましい。
【0060】
本発明に係る電解質に含まれる銀イオン濃度は、0.2モル/kg≦[Ag]≦2.0モル/kgが好ましい。銀イオン濃度が0.2モル/kgより少ないと希薄な銀溶液となり駆動速度が遅延し、2モル/kgよりも大きいと溶解性が劣化し、低温保存時に析出が起きやすくなる傾向にあり不利である。
【0061】
(電解質添加の増粘剤)
本発明の表示素子においては、本発明の目的効果を損なわない範囲で、本発明に係るブチラール樹脂の他に電解質層に増粘剤を使用することができ、例えば、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリ(ビニルピロリドン)、ポリ(アルキレングリコール)、カゼイン、デンプン、ポリ(アクリル酸)、ポリ(メチルメタクリル酸)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(メタクリル酸)、コポリ(スチレン−無水マレイン酸)、コポリ(スチレン−アクリロニトリル)、コポリ(スチレン−ブタジエン)、ポリ(エステル)類、ポリ(ウレタン)類、フェノキシ樹脂、ポリ(塩化ビニリデン)、ポリ(エポキシド)類、ポリ(カーボネート)類、セルロースエステル類、ポリ(アミド)類、疎水性透明バインダーとして、セルロースアセテート、セルロースアセテートブチレート、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアクリル酸、ポリウレタン等が挙げられる。
【0062】
(その他の構成要素)
本発明の表示素子においては、上記説明した構成要素の他、必要に応じて種々の構成層を設けることができる。
【0063】
(金属酸化物を含む多孔質電極)
また、本発明の表示素子においては、金属酸化物を含む多孔質電極を用いることもできる。
【0064】
本発明の表示素子で、該対向電極のうち、画像観察側でない面の電極面を、金属酸化物を含む多孔質電極により保護することで、画像観察側でない面での銀または銀を化学構造中に含む化合物の酸化還元反応が、該金属酸化物を含む多孔質電極上または多孔質電極中で行なわれことを見出したことにより、画像観察側でない電極の種類選択肢の拡大及び耐久性を向上させることができる。
【0065】
本発明に係る多孔質電極を構成する金属酸化物としては、例えば、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化スズ、Snドープ酸化インジウム(ITO)、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、アルミニウムドープ酸化亜鉛等、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0066】
多孔質電極は、上記金属酸化物の複数個の微粒子を結着または接触させることにより形成される。金属酸化物微粒子の平均粒子径は5nm〜10μmが好ましく、より好ましくは20nm〜1μmである。また、金属酸化物微粒子の比表面積は、簡易BET法で1×10-3〜1×1022/gであることが好ましく、より好ましくは1×10-2〜10m2/gである。また、金属酸化物微粒子の形状は、不定形、針状、球形など任意の形状のものが用いられる。
【0067】
金属酸化物微粒子の形成または結着法としては、公知のゾルゲル法や焼結法を採用することができ、例えば、1)Journal of the Ceramic Society of Japan,102,2,p200(1994)、2)窯業協会誌90,4,p157、3)J.of Non−Cryst.Solids,82,400(1986)等に記載の方法が挙げられる。また、気相法により作製した酸化チタンデンドリマー粒子を溶液上に分散して基体上に塗布し、120〜150℃程度の温度で乾燥して溶媒を除去して多孔質電極を得る方法を用いることもできる。金属酸化物微粒子は結着させた状態が好ましく、連続加重式表面性測定機(例えば、スクラッチ試験器)で0.1g以上、好ましくは1g以上の耐性を有する状態が好ましい。
【0068】
本発明でいう多孔質とは、多孔質電極を配置し、対向電極間に電位差を与え、銀の溶解析出反応を生じさせることが可能で、イオン種が多孔質電極内を移動可能な貫通状態を言う。
【0069】
(電子絶縁層)
本発明の表示素子においては、電気絶縁層を設けることができる。
【0070】
本発明に適用可能な電子絶縁層は、イオン電導性、電子絶縁性を合わせて有する層であればよく、例えば、極性基を有する高分子や塩をフィルム状にした固体電解質膜、電子絶縁性の高い多孔質膜とその空隙に電解質を担持する擬固体電解質膜、空隙を有する高分子多孔質膜、含ケイ素化合物の様な比誘電率が低い無機材料の多孔質体、等が挙げられる。
【0071】
多孔質膜の形成方法としては、燒結法(融着法)(高分子微粒子や無機粒子をバインダ等を添加して部分的に融着させ粒子間に生じた孔を利用する)、抽出法(溶剤に可溶な有機物又は無機物類と溶剤に溶解しないバインダ等で構成層を形成した後に、溶剤で有機物又は無機物類を溶解させ細孔を得る)、高分子重合体等を加熱や脱気するなどして発泡させる発泡法、良溶媒と貧溶媒を操作して高分子類の混合物を相分離させる相転換法、各種放射線を輻射して細孔を形成させる放射線照射法等の公知の形成方法を用いることができる。具体的には、特開平10−30181号、特開2003−107626号、特公平7−95403号、特許第2635715号、同第2849523号、同第2987474号、同第3066426号、同第3464513号、同第3483644号、同第3535942号、同第3062203号等に記載の電子絶縁層を挙げることができる。
【0072】
(その他の添加剤)
本発明の表示素子の構成層には、保護層、フィルター層、ハレーション防止層、クロスオーバー光カット層、バッキング層等の補助層を挙げることができ、これらの補助層中には、各種の化学増感剤、貴金属増感剤、感光色素、強色増感剤、カプラー、高沸点溶剤、カブリ防止剤、安定剤、現像抑制剤、漂白促進剤、定着促進剤、混色防止剤、ホルマリンスカベンジャー、色調剤、硬膜剤、界面活性剤、増粘剤、可塑剤、スベリ剤、紫外線吸収剤、イラジエーション防止染料、フィルター光吸収染料、防ばい剤、ポリマーラテックス、重金属、帯電防止剤、マット剤等を、必要に応じて含有させることができる。
【0073】
上述したこれらの添加剤は、より詳しくは、リサーチディスクロージャー(以下、RDと略す)第176巻Item/17643(1978年12月)、同184巻Item/18431(1979年8月)、同187巻Item/18716(1979年11月)及び同308巻Item/308119(1989年12月)に記載されている。
【0074】
これら三つのリサーチ・ディスクロージャーに示されている化合物種類と記載箇所を以下に掲載した。
【0075】
添加剤 RD17643 RD18716 RD308119
頁 分類 頁 分類 頁 分類
化学増感剤 23 III 648右上 96 III
増感色素 23 IV 648〜649 996〜8 IV
減感色素 23 IV 998 IV
染料 25〜26 VIII 649〜650 1003 VIII
現像促進剤 29 XXI 648右上
カブリ抑制剤・安定剤
24 IV 649右上 1006〜7 VI
増白剤 24 V 998 V
硬膜剤 26 X 651左 1004〜5 X
界面活性剤 26〜7 XI 650右 1005〜6 XI
帯電防止剤 27 XII 650右 1006〜7XIII
可塑剤 27 XII 650右 1006 XII
スベリ剤 27 XII
マット剤 28 XVI 650右 1008〜9 XVI
バインダー 26 XXII 1003〜4 IX
支持体 28 XVII 1009 XVII
(層構成)
本発明の表示素子の対向電極間の構成層について、更に説明する。
【0076】
本発明の表示素子に係る構成層として、正孔輸送材料を含む構成層を設けることができる。正孔輸送材料として、例えば、芳香族アミン類、トリフェニレン誘導体類、オリゴチオフェン化合物、ポリピロール類、ポリアセチレン誘導体、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリチエニレンビニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリアニリン誘導体、ポリトルイジン誘導体、CuI、CuSCN、CuInSe2、Cu(In,Ga)Se、CuGaSe2、Cu2O、CuS、CuGaS2、CuInS2、CuAlSe2、GaP、NiO、CoO、FeO、Bi23、MoO2、Cr23等を挙げることができる。
【0077】
(基板)
本発明の表示素子においては、対向電極の少なくとも一方の電極が、プラスチック基板上に構成されていることが好ましい。
【0078】
本発明で用いることのできる基板としては、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン類、ポリカーボネート類、セルロースアセテート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンジナフタレンジカルボキシラート、ポリエチレンナフタレート類、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアセタール類、ポリスチレン等の合成プラスチックフィルムも好ましく使用できる。また、シンジオタクチック構造ポリスチレン類も好ましい。これらは、例えば、特開昭62−117708号、特開平1−46912、同1−178505号の各公報に記載されている方法により得ることができる。更に、ステンレス等の金属製基盤や、バライタ紙、及びレジンコート紙等の紙支持体ならびに上記プラスチックフィルムに反射層を設けた支持体、特開昭62−253195号(29〜31頁)に支持体として記載されたものが挙げられる。RDNo.17643の28頁、同No.18716の647頁右欄から648頁左欄及び同No.307105の879頁に記載されたものも好ましく使用できる。これらの支持体には、米国特許第4,141,735号のようにTg以下の熱処理を施すことで、巻き癖をつきにくくしたものを用いることができる。また、これらの支持体表面を支持体と他の構成層との接着の向上を目的に表面処理を行っても良い。本発明では、グロー放電処理、紫外線照射処理、コロナ処理、火炎処理を表面処理として用いることができる。更に公知技術第5号(1991年3月22日アズテック有限会社発行)の44〜149頁に記載の支持体を用いることもできる。更にRDNo.308119の1009頁やプロダクト・ライセシング・インデックス、第92巻P108の「Supports」の項に記載されているものが挙げられる。その他に、ガラス基板や、ガラスを練りこんだエポキシ樹脂を用いることができる。
【0079】
(電極)
本発明の表示素子は、対向電極の少なくとも1種が透明電極であることが好ましい。透明電極としては、透明で電気を通じるものであれば特に制限はない。例えば、Indium Tin Oxide(ITO:インジウム錫酸化物)、Indium Zinc Oxide(IZO:インジウム亜鉛酸化物)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、酸化インジウム、酸化亜鉛、白金、金、銀、ロジウム、銅、クロム、炭素、アルミニウム、シリコン、アモルファスシリコン、BSO(Bismuth Silicon Oxide)等が挙げられる。電極をこのように形成するには、例えば、基板上にITO膜をスパッタリング法等でマスク蒸着するか、ITO膜を全面形成した後、フォトリソグラフィ法でパターニングすればよい。表面抵抗値としては、100Ω/□以下が好ましく、10Ω/□以下がより好ましい。透明電極の厚みは特に制限はないが、0.1〜20μmであるのが一般的である。
【0080】
(表示素子駆動方法)
本発明の表示素子においては、析出過電圧以上の電圧印加で黒化銀を析出させ、析出過電圧以下の電圧印加で黒化銀の析出を継続させる駆動操作を行なうことが好ましい。この駆動操作を行なうことにより、書き込みエネルギーの低下や、駆動回路負荷の低減や、画面としての書き込み速度を向上させることができる。一般に電気化学分野の電極反応において過電圧が存在することは公知である。例えば、過電圧については「電子移動の化学−電気化学入門」(1996年 朝倉書店刊)の121ページに詳しい解説がある。本発明の表示素子も電極と電解質中の銀との電極反応と見なすことができるので、銀溶解析出においても過電圧が存在することは容易に理解できる。過電圧の大きさは交換電流密度が支配するので、本発明のように黒化銀が生成した後に析出過電圧以下の電圧印加で黒化銀の析出を継続できるということは、黒化銀表面の方が余分な電気エネルギーが少なく容易に電子注入が行なえると推定される。
【0081】
本発明の表示素子の駆動操作は、単純マトリックス駆動であっても、アクティブマトリック駆動であってもよい。本発明でいう単純マトリックス駆動とは、複数の正極を含む正極ラインと複数の負極を含む負極ラインとが対向する形で互いのラインが垂直方向に交差した回路に、順次電流を印加する駆動方法のことを言う。単純マトリックス駆動を用いることにより、回路構成や駆動ICを簡略化でき安価に製造できるメリットがある。アクティブマトリックス駆動は、走査線、データライン、電流供給ラインが碁盤目状に形成され、各碁盤目に設けられたTFT回路により駆動させる方式である。画素毎にスイッチングが行えるので、階調やメモリー機能などのメリットがあり、例えば、特開2004−29327号の図5に記載されている回路を用いることができる。
【0082】
(商品適用)
本発明の表示素子は、電子書籍分野、IDカード関連分野、公共関連分野、交通関連分野、放送関連分野、決済関連分野、流通物流関連分野等の用いることができる。具体的には、ドア用のキー、学生証、社員証、各種会員カード、コンビニストアー用カード、デパート用カード、自動販売機用カード、ガソリンステーション用カード、地下鉄や鉄道用のカード、バスカード、キャッシュカード、クレジットカード、ハイウェーカード、運転免許証、病院の診察カード、電子カルテ、健康保険証、住民基本台帳、パスポート、電子ブック等が挙げられる。
【実施例】
【0083】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0084】
実施例1
《電解質液の調製》
(電解質液1の調製)
イソプロピルアルコール0.5gとジメチルスルフォキシド2.0gの混合溶媒に、ヨウ化銀を75mg加えて加熱溶解した後に、石原産業社製に酸化チタンCR−90_1.0g超音波分散器で5分間分散して電解質液1を得た。
【0085】
(電解質液2の調製)
イソプロピルアルコール0.5gとジメチルスルフォキシド2.0gの混合溶媒に、トシル酸銀を75mgと化合物1−19を150mg加えて加熱溶解した後に、石原産業社製に酸化チタンCR−90_1.0g超音波分散器で5分間分散して電解質液2を得た。
【0086】
(電解質液3の調製)
イソプロピルアルコール0.5gとγ−ブチロラクトン2.0gの混合溶媒に、トシル酸銀を75mgと化合物1−12を150mg加えて加熱溶解した後に、石原産業社製に酸化チタンCR−90_1.0g超音波分散器で5分間分散して電解質液3を得た。
【0087】
《電極の作製》
(電極1の作製)
厚さ1.5mmで3cm×3cmのガラス基板上に、ピッチ145μm、電極幅130μmのITO膜を公知の方法に従って形成して、透明電極(電極1)を得た。
【0088】
(電極2の作製)
厚さ1.5mmで3cm×3cmのガラス基板上に、公知の方法を用いて、電極厚み0.8μm、ピッチ145μm、電極間隔130μmの銀−パラジウム電極(電極2)を形成して、電極2を得た。
【0089】
《表示素子の作製》
(表示素子1の作製)
周辺部を、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むエポキシ系の紫外線硬化樹脂で縁取りした電極2と電極1を貼り合わせた後、加熱押圧して空セルを作製した。該空セルに電解液1を真空注入し、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子1を作製した。
【0090】
(表示素子2の作製)
周辺部を、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むエポキシ系の紫外線硬化樹脂で縁取りした電極2と電極1を貼り合わせた後、加熱押圧して空セルを作製した。該空セルに電解液2を真空注入し、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子2を作製した。
【0091】
(表示素子3の作製)
平均粒径が20μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布した電極2上に、膜厚1μmの、ゴアテックス社製の側鎖にスルフォン酸基を有するポリフロオロエチレン高分子膜GORE−SELECT(登録商標)を載せ、更に該高分子膜上に同ガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布し、周辺部を、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むオレフィン系封止剤で縁取りした後に、電極1を貼り合わせ、加熱押圧して空セルを作製した。得られた空セルに電解液1を真空注入し、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子3を作製した。
【0092】
(表示素子4の作製)
平均粒径が20μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布した電極2上に、膜厚1μmの、ゴアテックス社製の側鎖にスルフォン酸基を有するポリフロオロエチレン高分子膜GORE−SELECT(登録商標)を載せ、更に該高分子膜上に同ガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布し、周辺部を、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むオレフィン系封止剤で縁取りした後に、電極1を貼り合わせ、加熱押圧して空セルを作製した。得られた空セルに電解液2を真空注入し、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子4を作製した。
【0093】
(表示素子5の作製)
平均粒径が20μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布した電極2上に、膜厚1μmの、ゴアテックス社製の側鎖にスルフォン酸基を有するポリフロオロエチレン高分子膜GORE−SELECT(登録商標)を載せ、更に該高分子膜上に同ガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布し、周辺部を、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むオレフィン系封止剤で縁取りした後に、電極1を貼り合わせ、加熱押圧して空セルを作製した。得られた空セルに電解液3を真空注入し、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子5を作製した。
【0094】
(表示素子6の作製)
平均粒径が20μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布した電極2上に、膜厚2μmの、ゴアテックス社製の側鎖にスルフォン酸基を有するポリフロオロエチレン高分子膜GORE−SELECT(登録商標)を載せ、更に該高分子膜上に同ガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布し、周辺部を、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むオレフィン系封止剤で縁取りした後に、電極1を貼り合わせ、加熱押圧して空セルを作製した。得られた空セルに電解液3を真空注入し、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子6を作製した。
【0095】
(表示素子7の作製)
平均粒径が20μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布した電極2上に、膜厚1μmの側鎖にカルボン酸基を有するポリフロオロエチレン高分子膜を載せ、更に該高分子膜上に同ガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布し、周辺部を、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むオレフィン系封止剤で縁取りした後に、電極1を貼り合わせ、加熱押圧して空セルを作製した。得られた空セルに電解液3を真空注入し、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子7を作製した。
【0096】
(表示素子8の作製)
平均粒径が20μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布した電極2上に、膜厚1μmの側鎖にスルフォン酸基を有するポリフッ化ビリニデン高分子膜を載せ、更に該高分子膜上に同ガラス製球形ビーズ状スペーサーを散布し、周辺部を、平均粒径が40μmのガラス製球形ビーズ状スペーサーを体積分率として10%含むオレフィン系封止剤で縁取りした後に、電極1を貼り合わせ、加熱押圧して空セルを作製した。得られた空セルに電解液3を真空注入し、注入口をエポキシ系の紫外線硬化樹脂にて封止し、表示素子8を作製した。
【0097】
《表示素子の評価》
(メモリー性の評価)
上記で作製した各表示素子に1.5Vの電圧を1.5秒間印加して白色を表示させた時の550nmの反射率と、その後に−1.5Vの電圧を1.0秒間印加させてグレーを表示させた時の550nmの反射率をコニカミノルタセンシング社製の分光測色計CM−3700dで測定した。表示素子をグレー表示状態で静置し、反射率が白色の反射率とグレー表示直後の反射率の半分になるまでに要する時間を測定し、メモリー性の指標とした。
【0098】
ここでは反射率が白色の反射率とグレー表示直後の反射率の半分になるまでに要する時間が大きいほど、メモリー性が良好であるとする。
【0099】
以上により得られた結果を、表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
表1に記載の結果より明らかなように、本発明の機能性膜を有さない表示素子1および2はメモリー性が悪く、特に、電界質にヨウ素を含む表示素子1は著しくメモリー性が悪いことがわかる、
一方、本発明の機能性膜を有する表示素子3〜8は、いずれもメモリー性が向上しており、特に電解質にハロゲンイオンを含有しない構成において、メモリー性が高いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対向電極間に、銀または銀を化学構造中に含む化合物を含有する電解質層を有し、銀の溶解析出を生じさせるように該対向電極の駆動操作を行う表示素子において、対向する電極間にアノード極で生成した化合物を吸着し、かつイオン伝導性である機能性膜を有していることを特徴とする表示素子。
【請求項2】
前記機能性膜が吸着する化合物が、銀イオンまたは銀錯体以外である化合物であることを特徴とする請求項1に記載の表示素子。
【請求項3】
前記機能性膜が吸着する化合物が、銀と錯体もしくは塩を形成するアニオン性化合物の酸化体であることを特徴とする請求項2に記載の表示素子。
【請求項4】
前記銀と錯体もしくは塩を形成するアニオン性化合物が、ハロゲンもしくはメルカプト系化合物もしくはチオエーテル系化合物であることを特徴とする請求項3に記載の表示素子。
【請求項5】
前記機能性膜が高分子化合物から形成されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項6】
前記機能性膜がスルフォン酸基を含有していることを特徴とする請求項5に記載の表示素子。
【請求項7】
前記機能性膜の主鎖がポリフルオロエチレンであることを特徴とする請求項6に記載の表示素子。
【請求項8】
銀イオンを含む化合物のモル濃度を[Ag](モル/kg)、ハロゲンイオンまたはハロゲン分子のハロゲン原子の総モル濃度を[x](モル/kg)としたときに、0<[x]/[Ag]≦0.1という条件を満たしていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の表示素子。
【請求項9】
電解質中にメルカプト若しくはチオエーテル系化合物を含有していることを特徴とする請求項8に記載の表示素子。
【請求項10】
メルカプト若しくはチオエーテル系化合物が、下記一般式(1)または(2)で表されることを特徴とする請求項9に記載の表示素子。
【化1】

(式中、Mは水素原子、金属原子または4級アンモニウムを表す。Zは含窒素複素環を表す。nは0〜5の整数を表し、R1はハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルキルカルボンアミド基、アリールカルボンアミド基、アルキルスルホンアミド基、アリールスルホンアミド基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、カルバモイル基、アルキルスルファモイル基、アリールスルファモイル基、スルファモイル基、シアノ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アシルオキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、スルホニル基、アミノ基、ヒドロキシ基または複素環基を表し、nが2以上の場合、それぞれのR1は同じであってもよく、異なってもよく、お互いに連結して縮合環を形成してもよい。)
一般式(2) R2−S−R3
(式中、R2、R3は各々置換または無置換の炭化水素基を表す。)