説明

表示部材

【課題】 反射光源が蛍光灯のような輝線スペクトルを有するものである場合においても、十分に広い可視角度範囲において反射光を得ることによりゆらぎのない構造色、白濁のない構造色を観察することができ、かつ、容易に製造できる表示部材の提供。
【解決手段】 表示部材は、球体およびマトリックスよりなり構造色を発現する表示層が、複数積層されてなる積層体を有するものであって、前記積層体における第1の表示層および第2の表示層について、第1の表示層の平均屈折率をn1 、これを構成する球体の平均粒径をR1 、第2の表示層の平均屈折率をn2 、これを構成する球体の平均粒径をR2 とした場合に、平均屈折率n1 および平均屈折率n2 が、0.8<n1 /n2 <1.0を満たし、かつ、色定数n1 ・R1 および色定数n2 ・R2 の差の絶対値が、5〜60nmの範囲にあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造色を発現する表示部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、構造色を発現する周期構造体を高い彩度の得られる表示部材として用いることが提案されている。
【0003】
然るに、球体が規則的に配列されてなる周期構造体は、周期構造体の垂線との角度(以下、「観察角」ともいう。)に従って、光源より照射された光のうち観察角と正反射の角度に入射する特定波長の光のみを選択的に反射することにより当該特定波長の光による構造色を発現させるところ、光源が蛍光灯のような輝線スペクトルよりなる不連続光を発するものなどである場合に、観察角に基づいて選択される反射されるべき特定波長の光が輝線スペクトルに一致したときのみにしか反射光が出てこなくなり、反射光が光源の影響を受けてしまう、という問題がある。
【0004】
特許文献1には、このような構造色の特性を逆に利用した表示部材、すなわち、複数種の周期構造体を積層または並設した多層構造体により、それぞれR(レッド)、G(グリーン)、B(ブルー)の構造色を発現させた表示部材が開示されているが、この表示部材によっては上記の問題は解決されていない。
【0005】
【特許文献1】国際公開第03/50612号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上のような事情を考慮してなされたものであって、その目的は、反射光源が蛍光灯のような輝線スペクトルを有するものである場合においても、十分に広い可視角度範囲において反射光を得ることによりゆらぎのない構造色、白濁のない構造色を観察することができ、かつ、容易に製造できる表示部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の表示部材は、球体およびマトリックスよりなり構造色を発現する表示層が、複数積層されてなる積層体を有する表示部材であって、
前記積層体における第1の表示層および第2の表示層について、第1の表示層の平均屈折率をn1 、これを構成する球体の平均粒径をR1 、第2の表示層の平均屈折率をn2 、これを構成する球体の平均粒径をR2 とした場合に、
平均屈折率n1 および平均屈折率n2 が、0.8<n1 /n2 <1.0を満たし、かつ、
色定数n1 ・R1 および色定数n2 ・R2 の差の絶対値が、5〜60nmの範囲にあることを特徴とする。
【0008】
本発明の表示部材においては、前記第1の表示層を構成する球体の平均粒径R1 、および前記第2の表示層を構成する球体の平均粒径R2 が、各々100〜300nmの範囲にあることが好ましい。
【0009】
また、本発明の表示部材においては、前記色定数n1 ・R1 または色定数n2 ・R2 が、240〜490nmの範囲にあることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明の表示部材においては、前記平均屈折率n1 および平均屈折率n2 が、さらに0.87<n1 /n2 <0.97を満たすことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の表示部材によれば、第1および第2の表示層について、それぞれの平均屈折率n1 ,n2 、およびこれらを構成する球体の平均粒径R1 ,R2 が特定の関係式を満たすものであることにより、反射光源が蛍光灯のような輝線スペクトルを有するものである場合においても、十分に広い可視角度範囲において反射光を得ることによりゆらぎのない構造色を観察することができる。
本発明の表示部材が広い可視角度範囲を得られる理由は、以下の通りである。
【0012】
すなわち、通常、1層構成の表示部材や、2層構成のものであってもそれぞれの平均屈折率およびこれらを構成する球体の平均粒径が上記の特定の関係式を満たさない表示部材においては、反射光源が輝線スペクトルを有するものである場合には、観察角に基づいて選択される反射されるべき特定波長の光が当該輝線スペクトルに一致したときのみにしか反射光が得られない、換言すれば、当該輝線スペクトルについて、これに応じた極めて狭い角度範囲においてのみ反射光が得られる。一方、本発明の表示部材は、ある輝線スペクトルに応じた角度範囲がそれぞれ適宜の大きさに異なる複数の表示層が積層されたものであるため、表示部材全体として観察角が変化しても複数の表示層のいずれかによって当該輝線スペクトルを反射させることができ、結局、広い可視角度範囲において反射光を得ることができるため、ゆらぎのない構造色を観察することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】
本発明の表示部材は、球体およびマトリックスよりなり構造色を発現する表示層が複数積層された積層体を有し、この複数の表示層のうち任意の2層がそれぞれの表示層の平均屈折率およびこれらを構成する球体の平均粒径が後述する特定の関係式を満たすものであればよく、例えば、構造色を発現する第1の表示層10および第2の表示層20(図1参照)の2層が積層されてなる積層体を有するものとすることができる。
ここに、第1の表示層とは、積層体における任意の表示層において、平均屈折率の低い層を示すものである。また、この第1の表示層は、図1に示すように表示部材における表面側に配置されていてもよく、逆に基板13側に配置されていてもよい。
このような表示部材においては、光源が輝線スペクトルを有するものであっても、広い可視角度範囲においてゆらぎのない構造色を観察することができる。
本発明において「ゆらぎ」とは、反射光の有無によって人が表示部材を観察したときに感じる現象であり、目視で観察したときに多少ぼんやりする箇所があり、構造色の認識をしにくい状態を表現している。
輝線スペクトルを有する光源としては、具体的には、水銀灯および蛍光灯などが挙げられる。
【0015】
第1の表示層10および第2の表示層20は、例えば各々図1に示されるように、マトリックスM1 (M2 )中に周期構造体16(26)が形成されてなるものであり、より詳細には、例えば、マトリックスM1 (M2 )中に例えば固体の粒子よりなる球体12(22)同士が面方向に接触して規則的に形成される球体層15(25)が、厚み方向においても球体12(22)同士が接触する状態で規則的に配された構成を有するものとすることができる。
この球体層15(25)は、光が入射する方向に対して一方向に規則的に球体12(22)が配列された構成を有しており、特に、球体層15(25)が最密充填構造を呈するよう球体12(22)が配列された構成を有することが好ましい。なお、( )内に第2の表示層20に係る符号を示した。
【0016】
そして、この表示部材は、第1の表示層10および第2の表示層20が、第1の表示層10の平均屈折率をn1 、これを構成する球体12の平均粒径をR1 、第2の表示層20の平均屈折率をn2 、これを構成する球体22の平均粒径をR2 とした場合に、平均屈折率n1 および平均屈折率n2 が0.8<n1 /n2 <1.0、好ましくは0.90≦n1 /n2 ≦0.95、より好ましくは0.91≦n1 /n2 ≦0.92を満たし、かつ、色定数n1 ・R1 および色定数n2 ・R2 の差の絶対値(|n1 ・R1 −n2 ・R2 |)(以下、「色定数差」ともいう。)が5〜60nm、好ましくは10〜40nmの範囲にある関係を有する。
【0017】
平均屈折率n1 および平均屈折率n2 の関係n1 /n2 が0.8以下である場合は、得られる積層体が光散乱を大きく生じるものとなって発現される構造色が白濁化したものとなってしまう。一方、平均屈折率n1 および平均屈折率n2 の関係n1 /n2 が1.0である場合は、後述するスライド塗布法による複数層の同時塗布が困難であるため製造の歩留まりが低いものとなり、また、n1 ・R1 および色定数n2 ・R2 による色定数差を上記の範囲となるようR1 およびR2 のみの選択により調整しなければならず、設計の自由度が小さくなってしまう。
ここに、「平均屈折率」とは、下記式(1)で表される、球体12(22)の屈折率およびマトリックスM1 (M2 )の屈折率の体積分率による平均値をいう。
式(1):平均屈折率={na・c}+{nb・(1−c)}
この式(1)において、naは球体12(22)の屈折率、nbはマトリックスM1 (M2 )の屈折率、cは第1の表示層10または第2の表示層20における球体12(22)の体積分率である。
【0018】
色定数差が5nm未満である場合は、ピーク波長が近くなるため、十分に広い可視角度範囲が得られない。一方、色定数差が60nmより大きい場合は、単色性が消失して色としての鮮明さが失われたものとなってしまい、ゆらぎが生じやすくなってしまう。
【0019】
また、色定数n1 ・R1 および色定数n2 ・R2 がそれぞれ240〜490nmの範囲にあることが好ましい。色定数n1 ・R1 および色定数n2 ・R2 がそれぞれ上記の範囲にあることにより、得られる表示部材において発現する構造色が可視域にピーク波長を有するものとなる。
【0020】
〔構造色〕
本発明の表示部材において視認される表示色は、第1の表示層10において観察角に基づいて規定されて選択的に反射される光によって発現される構造色と、第2の表示層20において観察角に基づいて規定されて選択的に反射される光によって発現される構造色とが加法混色された色である。
本発明において、構造色とは、色素などの光の吸収による色ではなく、微粒子配列による周期構造による選択的な光の反射により発現される色のことである。
【0021】
第1の表示層10および第2の表示層20において選択的に反射される光は、それぞれ、ブラッグの法則、スネルの法則より、下記式(2)で表されるピーク波長を有する光とされる。
なお、下記式(2)は近似式であり、実際上はこれらの計算値に完全には合致しない場合もある。
式(2):λ=2nD(cosθ)
この式(2)において、λは構造色のピーク波長、nは上記式(1)で表される平均屈折率n1 (n2 )、Dは球体層15(25)の層間隔D1 (D2 )、θは表示部材の垂線との観察角である。
本発明において、色定数n1 ・R1 および色定数n2 ・R2 は、球体12,22の平均粒径R1 ,R2 がそれぞれ層間隔D1 ,D2 に相関することから、構造色のピーク波長の指標とされている。
構造色のピーク波長λは、例えばファイバーを用いて反射光源と観察角度との関係を確認できる「MCPD−3700」(大塚電子社製)を用いて測定することができる。
【0022】
第1の表示層10または第2の表示層20において選択的に反射されるべき波長の光が照射された光に含まれていない場合は、反射光が得られず、構造色は見えにくくなる。
【0023】
〔表示層〕
第1の表示層10および第2の表示層20においては、各々、球体12(22)の屈折率とマトリックスM1 (M2 )の屈折率との差の絶対値(以下、「屈折率差」という。)が、0.02〜2.0であることが好ましく、より好ましくは0.1〜1.6である。
この屈折率差が0.02未満である場合は、構造色が発色しにくくなり、この屈折率差が2.0より大きい場合は、光散乱が大きく生じることによって構造色が白濁化してしまう。
【0024】
第1の表示層10および第2の表示層20の厚みは、用途によって異なるが、各々、例えば0.1〜100μmとすることが好ましい。
【0025】
また、第1の表示層10および第2の表示層20における球体層15(25)の厚みは、各々、例えば0.1〜100μmであることが好ましい。
球体層の厚みが0.1μm未満である場合は、視認される構造色の色が薄いものとなり、一方、球体層の厚みが100μmよりも大きい場合は、光散乱が大きく生じることによって構造色が白濁化してしまう。
【0026】
第1の表示層10および第2の表示層20を構成する各周期構造体においては、球体層15(25)が積層することにより形成される層間隔D1 (D2 )の積層数である周期数が、少なくとも1以上であり、表示色の発色性の観点より好ましくは5〜500である。
【0027】
第1の表示層10および第2の表示層20における層間隔D1 (D2 )は、50〜500nmであることが好ましい。
層間隔D1 (D2 )が上記の範囲にあることにより、得られる表示部材において発現する構造色が可視域にピーク波長を有する表示色となる。一方、層間隔が500nmよりも大きい場合は、得られる表示層が構造色を発現するものとならないおそれがある。
【0028】
〔球体〕
本発明において、球体とは、3次元において球体形状を有する物質のことであり、真球に限定されるものではなく、おおよそ球体形状を有すればよい。この物質は、マトリックスの屈折率と異なる屈折率を有していれば、固体、液体、気体のどの形態を有していてもよい。
球体層15(25)を形成する球体12(22)を形成すべき材料としては、その屈折率がマトリックスM1 (M2 )の屈折率と異なるものであること、およびマトリックスM1 (M2 )を構成する材料と非相溶性であるものを、適宜に選択することができる。
また、第1の表示層10を構成する球体12は、マトリックスM1 を形成すべき材料との親和性の高い材料よりなることが好ましい。
【0029】
第1の表示層10を構成する球体12としては、種々のものを挙げることができる。
具体的には例えば、スチレン、メチルスチレン、メトキシスチレン、ブチルスチレン、フェニルスチレン、クロルスチレンなどのスチレン系単量体;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸(イソ)プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステル系単量体;アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸などのカルボン酸単量体などの重合性単量体のうちの1種を重合した粒子、または2種以上を共重合した有機粒子を挙げることができる。
また、重合性単量体に架橋性単量体を加えて重合した有機粒子であってもよく、架橋性単量体としては、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートなどを挙げることができる。
また例えば、シリカ、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化銅、硫酸バリウム、酸化第二鉄などの無機酸化物および複合酸化物などや、ガラス、セラミックスなどにより形成された無機粒子を挙げることができる。
また例えば、上記の有機粒子または無機粒子をコア粒子として、これの表面に当該コア粒子を構成する材料と異なる材料のシェル層が形成されてなるコア−シェル型粒子を挙げることができる。シェル層は、金属微粒子、チタニアなどよりなる金属酸化物微粒子、チタニアなどよりなる金属酸化物ナノシートなどを用いて形成することができる。
さらに例えば、上記のコア−シェル型粒子から、焼成、抽出などの方法によってコア粒子を除去することにより得られる中空型粒子を挙げることができる。
これらの粒子のうち、有機粒子が好適に用いられる。
【0030】
〔球体の平均粒径〕
球体12(22)の平均粒径R1 (R2 )は、色定数差が5〜60nmとなるよう設定する必要があり、さらに少なくともその分散液が安定したコロイド溶液となる大きさであることが好ましいところ、例えば100〜300nmとされることが好ましい。
第1の表示層10に係る球体12の平均粒径R1 と、第2の表示層20に係る球体22の平均粒径R2 とは、同じであっても異なっていてもよい。
球体12の平均粒径R1 (R2 )が各々上記の範囲にあることにより、その分散液を安定したコロイド溶液とすることができ、また、得られる表示部材において発現する構造色が可視域にピーク波長を有する色となる。
【0031】
また、粒径分布を表すCV値は15以下であることが好ましく、より好ましくは10以下、特に好ましくは5以下である。
CV値が15より大きい場合は、規則的に配列されるべき球体層が大きな乱れが生じたものとなって得られる表示部材が構造色を発現するものとならないおそれがある。
平均粒径R1 (R2 )は、球体12(22)について走査型電子顕微鏡「JSM−7410」(日本電子社製)を用いて50,000倍の写真を2枚撮影し、この2枚の写真画像における球体12(22)の100個ずつについて、それぞれ最大長を測定し、その個数平均値を算出することにより、得られるものである。ここに、「最大長」とは、球体12(22)の周上の任意の2点による2点間距離のうち、最大のものをいう。
なお、球体12(22)が凝集体として撮影される場合には、凝集体を形成する一次粒子(球体)の最大長を測定するものとする。
CV値は、個数基準の粒度分布における標準偏差および上記の平均粒径R1 (R2 )の値を用いて下記式(CV)より算出されるものである。
式(CV):CV値=((標準偏差)/(平均粒径))×100
【0032】
球体12(22)の屈折率は公知の種々の方法で測定することができるところ、本発明における球体12(22)の屈折率は、液浸法によって測定した値とする。
球体12(22)の屈折率の具体的な例としては、例えばポリスチレンが1.59、ポリメタクリル酸メチルが1.49、ポリエステルが1.60、フッ素変性ポリメタクリル酸メチルが1.40、ポリスチレン・ブタジエン共重合が1.56、ポリアクリル酸メチルが1.48、ポリアクリル酸ブチルが1.47、シリカが1.45、酸化チタン(アナターゼ型)が2.52、酸化チタン(ルチル型)が2.76、酸化銅が2.71、酸化アルミニウムが1.76、硫酸バリウムが1.64、酸化第二鉄が3.08である。
【0033】
球体層15(25)を構成する球体12(22)は、単一組成の単一物であっても複合物であってもよいが、球体の表面に球体同士を接着させる物質が付着されたものとしてもよく、あるいは、球体の内部に球体同士を接着させる物質が導入されたものとしてもよい。このような接着物質を用いることによって、球体層15(25)を形成する際に自己配列などを生じにくい物質による球体であっても、球体同士を接着させることができる。また、屈折率が高い材料によって球体を形成する場合は低屈折率物質を内添するなどしてもよい。
【0034】
球体層15(25)を構成する球体12(22)は、球体層15(25)を形成させる際に規則配列させやすいことから、単分散性の高いものであることが好ましい。
単分散性の高い球体を得るために、球体12(22)が有機物による粒子である場合は、球体12(22)は、通常一般的に用いられるソープフリー乳化重合法、懸濁重合法、乳化重合法などの重合法によって得ることが好ましい。
【0035】
粒子12(22)は、マトリックスM1 (M2 )との親和性を高いものとするために、各種の表面処理を行ってもよい。
【0036】
〔マトリックス〕
球体層15(25)を形成するマトリックスM1 (M2 )としては、気体状、液体状などのものであってもよいが、得られる表示部材が高い強度、球体剥離抑制能および可撓性を有するものとなることから、固体状またはゲル状のものを用いることが好ましい。
球体層15(25)を形成するマトリックスM1 (M2 )を形成すべき材料としては、その屈折率が球体12の屈折率と異なるものであり、球体12(22)を構成する材料と非相溶性であるものを、適宜に選択することができる。
また、マトリックスM1 (M2 )を形成すべき材料としては、球体12(22)との親和性の高い材料が好ましい。
【0037】
マトリックスM1 (M2 )を形成すべき材料としては、例えば有機溶剤に可溶である樹脂や水に可溶である樹脂、ヒドロゲル、オイルゲル、光硬化剤、熱硬化剤および湿気硬化剤などが挙げられる。
有機溶剤に可溶である樹脂としては、具体的には、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられ、水に可溶である樹脂としては、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
ヒドロゲルとしては、具体的にはゼラチン、カラギナン、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムなどのゲル化剤と水とを混合して得られるゲルが挙げられ、オイルゲルとしては、シリコーンゲル、フッ素系シリコーンゲルなどや、アミノ酸系誘導体、シクロヘキサン系誘導体、ポリシロキサン系誘導体などのゲル化剤とシリコーンオイル、有機溶剤とを混合して得られるゲルが挙げられる。
【0038】
マトリックスM1 (M2 )の屈折率は、公知の種々の方法で測定することができるところ、本発明におけるマトリックスM1 (M2 )の屈折率は、別個にマトリックスM1 (M2 )のみよりなる薄膜を作成し、この薄膜をアッベ屈折率計にて測定した値とされる。
マトリックスM1 (M2 )の屈折率の具体的な例としては、例えばゼラチン/アラビアゴムが1.53、ポリビニルアルコールが1.51、ポリアクリル酸ナトリウムが1.51、フッ素変性アクリル樹脂が1.34、N−イソプロピルアミドが1.51、発泡アクリル樹脂が1.43である。
【0039】
〔表示部材の作製方法〕
第1の表示層10および第2の表示層20が積層された積層体は、例えばスライド塗布法およびカーテン塗布法などにより作製することができる。具体的には、例えばスライド塗布法を採用する場合には、表示部材は、球体12のコロイド溶液(サスペンジョン液)を調製してこれにマトリックスM1 を形成すべき溶液を混合した塗布液を調製し、同様に、球体12のコロイド溶液(サスペンジョン液)を調製してこれにマトリックスM2 を形成すべき溶液を混合した塗布液を調製し、これらの塗布液を基板などの表面に同時に塗布し、それぞれ球体12,22を自己配列させて周期構造体16,26を形成させた後乾燥させることによって製造することができる。
スライド塗布法を用いることによって、例えば1層目を塗布して乾燥させ、この層上に2層目を塗布すると1層目の球体と2層目を形成すべき塗布液との間で塗布ハジキが発生するところ、これを回避できて精度の高い表示部材を製造することができ、また、1層目の乾燥時間を要さないため高い製造効率が得られる。
スライド塗布法によって表示部材を製造する際に、形成すべき第1の表示層および第2の表示層の関係がn1 /n2 =1である場合は、製造が困難となる。本発明の表示部材は0.8<n1 /n2 <1.0であるため、容易に製造することができる。
【0040】
〔表示部材〕
以上のような表示部材は、具体的には、例えば、基板13上に第1の表示層10および第2の表示層20よりなる積層体が積層されたシート状のものとして構成することができる。
【0041】
基板13としては、例えばガラス、セラミックスやポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)のフィルムやシートなどを使用することができ、当該基板13としては、色表示の効果を向上させるために、黒色、灰色など、所望に応じた光を吸収する色のものを使用することが好ましい。
また、基板13としては表面平滑性が高いものが好ましいことから、基板13について適宜の表面処理を行ってもよい。さらに、ブラスト処理などを行って球体が付着し易い状態にして使用することもできる。
【0042】
以上のような表示部材によれば、第1の表示層10および第2の表示層20について、それぞれの平均屈折率n1 ,n2 、およびこれらを構成する球体12,22の平均粒径R1 ,R2 が特定の関係式を満たすものであることにより、反射光源が蛍光灯のような輝線スペクトルを有するものである場合においても、十分に広い可視角度範囲においてゆらぎのない構造色を観察することができる。
この表示部材が広い可視角度範囲を得られる理由は、以下の通りである。
【0043】
すなわち、通常、1層構成の表示部材や、2層構成のものであってもそれぞれの平均屈折率およびこれらを構成する球体の平均粒径が上記の特定の関係式を満たさない表示部材においては、反射光源が輝線スペクトルを有するものである場合には、観察角に基づいて選択される反射されるべき特定波長の光が当該輝線スペクトルに一致したときのみにしか反射光が得られない、換言すれば、当該輝線スペクトルについて、これに応じた極めて狭い角度範囲においてのみ反射光が得られる。一方、この表示部材は、ある輝線スペクトルに応じた角度範囲がそれぞれ適宜の大きさに異なる2つの表示層10,20が積層されたものであるため、表示部材全体として観察角が変化しても第1の表示層10および第2の表示層20のいずれかによって当該輝線スペクトルを反射させることができ、結局、広い可視角度範囲において反射光を得ることができるため、ゆらぎのない構造色を観察することができる。
【0044】
以上、本発明の実施の形態について具体的に説明したが、本発明の実施の形態は上記の例に限定されるものではなく、種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、平均粒径、CV値および屈折率の測定は、上述の方法と同様の方法によって行った。
【0046】
<実施例1>
〔表示部材の作製例1〕
まず、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)粒子(屈折率1.49、平均粒径220nm)(以下、「PMMA粒子〔1〕」という。)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1A〕)と、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、メタクリル酸メチル(MMA)/スチレン(St)共重合体粒子(組成比MMA/St=99/1;屈折率1.57、平均粒径200nm)(以下、「アクリル粒子〔1〕」という。)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2A〕)を準備した。
サスペンジョン液〔1A〕に、シリコーンジェル「SE1891II」(東レ・ダウ社製)(屈折率1.41)を当該サスペンジョン液〔1A〕の固形分(PMMA粒子〔1〕)に対して、PMMA粒子〔1〕/シリコーンジェル=1/1となる質量比率となるように混合して混合液〔2A〕を調製した。一方、サスペンジョン液〔2A〕に、ハイドロジェル(屈折率1.47)を固形分(アクリル粒子〔1〕)に対して、アクリル粒子〔1〕/ハイドロジェル=1/1となる質量比率となるように混合して混合液〔2A〕を調製した。これらの混合液〔1A〕,〔2A〕を用いてスライド塗布法により親水処理した黒色のポリエチレンテレフタレート(PET)基板上に2層同時塗布を行った後、室温で50時間乾燥させて固形化することにより、第1および第2の表示層を有する表示部材〔1〕を得た。
【0047】
<実施例2>
〔表示部材の作製例2〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、PMMA粒子(屈折率1.49、平均粒径200nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1B〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径150nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2B〕)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルの代わりにフッ素樹脂溶液(屈折率1.30)を用いたことの他は同様にして、表示部材〔2〕を得た。
【0048】
<実施例3>
〔表示部材の作製例3〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、メタクリル酸メチル/スチレン共重合体粒子(組成比MMA/St=85/15;屈折率1.50、平均粒径310nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1C〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径320nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2C〕)を用いたことの他は同様にして、表示部材〔3〕を得た。
【0049】
<実施例4>
〔表示部材の作製例4〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径240nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1D〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(平均粒径235nm)に酸化チタンコートして屈折率を調整した粒子(屈折率1.74、平均粒径240nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2D〕)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルの代わりにハイドロジェル(屈折率1.47)を用い、第2の表示層用のマトリックスとしてハイドロジェルの代わりにウレタン樹脂溶液(屈折率1.65)を用いたことの他は同様にして、表示部材〔4〕を得た。
【0050】
<実施例5>
〔表示部材の作製例5〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径250nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1E〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(平均粒径265nm)に酸化チタンコートして屈折率を調整した粒子(屈折率1.62、平均粒径270nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2E〕)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルの代わりに(屈折率1.47)を用い、第2の表示層用のマトリックスとしてハイドロジェルの代わりにウレタン樹脂溶液(屈折率1.70)を用いたことの他は同様にして、表示部材〔5〕を得た。
【0051】
<比較例1>
〔比較用表示部材の作製例1〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径220nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1F〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径220nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2F〕)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルの代わりにハイドロジェル(屈折率1.47)を用いたことの他は同様にして、比較用表示部材〔1〕を得た。
【0052】
<比較例2>
〔比較用表示部材の作製例2〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径220nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1G〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径240nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2G〕)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルの代わりにハイドロジェル(屈折率1.47)を用いたことの他は同様にして、比較用表示部材〔2〕を得た。
【0053】
<比較例3>
〔比較用表示部材の作製例3〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子(屈折率1.36、平均粒径240nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液1H)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(平均粒径235nm)に酸化チタンコートして屈折率を調整した粒子(屈折率1.65、平均粒径240nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液2H)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルを用いずに空気(屈折率1.00)としたことの他は同様にして、比較用表示部材〔3〕を得た。
【0054】
<比較例4>
〔比較川表示部材の作製例4〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径220nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1I〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(平均粒径195nm)に酸化チタンコートして屈折率を調整した粒子(屈折率1.74、平均粒径200nm)の20質量%溶液(ザスペンジョン液〔2I〕)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルの代わりにハイドロジェル(屈折率1.47)を用い、第2の表示層用のマトリックスとしてハイドロジェルの代わりにウレタン樹脂溶液(屈折率1.65)を用いたことの他は同様にして、比較用表示部材〔4〕を得た。
【0055】
<比較例5>
〔比較用表示部材の作製例5〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリテトラフルオロエチレン粒子(屈折率1.36、平均数径250nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1J〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(平均粒径215nm)に酸化チタンコートして屈折率を調整した粒子(屈折率1.78、平均数径220nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2J〕)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルを用いずに空気(屈折率1.00)としたことの他は同様にして、比較用表示部材〔5〕を得た。
【0056】
<比較例6>
〔比較用表示部材の作製例6〕
表示部材の作製例1において、第1の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(屈折率1.59、平均粒径280nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔1K〕)を用い、第2の表示層用の球体を含有する分散液として、ポリスチレン粒子(平均粒径195nm)に酸化チタンコートして屈折率を調整した粒子(屈折率1.77、平均粒径200nm)の20質量%溶液(サスペンジョン液〔2K〕)を用いると共に、第1の表示層用のマトリックスとしてシリコーンジェルを用いずに空気(屈折率1.00)としたことの他は同様にして、比較用表示部材〔6〕を得た。
【0057】
以下、各表示部材の第1の表示層および第2の表示層の平均屈折率n1 ,n2 、およびこれらを構成する球体の平均粒径R1 ,R2 を表1および表2に示す。なお平均屈折率は、上記式(1)を用いて算出したものである。
【0058】
【表1】

【0059】
〔評価〕
上記の表示部材〔1〕〜〔5〕および比較用表示部材〔1〕〜〔6〕について以下の(1)〜(3)の各評価を行った。
【0060】
(1)ゆらぎ
表示部材〔1〕〜〔5〕および比較用表示部材〔1〕〜〔6〕について、10人の被験者に、蛍光灯スタンド下で観察角θ=0〜90度になるよう表示部材を連続的に動かしながら目視で観察してもらい、構造色にゆらぎを感じた被験者数が3人以下である場合を合格として評価とした。結果を表2に示す。
【0061】
(2)構造色の白濁
表示部材〔1〕〜〔5〕および比較用表示部材〔1〕〜〔6〕について、10人の被験者に、蛍光灯スタンド下で観察角60度において、目視で構造色を観察してもらい、白濁を感じた被験者数が3人以下である場合を合格として評価した。結果を表2に示す。
【0062】
(3)塗布界面
表示部材〔1〕〜〔5〕および比較用表示部材〔1〕〜〔6〕について、各表示部材を凍結させた後、カッターにて断面を切り出し、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて断面画像を撮影し、当該断面画像において、第1の表示層に係る球体と第2の表示層に係る球体とが同一周期層中に混在するような乱れがあるかどうか目視で観察して評価した。結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の表示部材の構成の一例を模式的に示す説明用断面図である。
【符号の説明】
【0065】
10 第1の表示層
12,22 球体
13 基板
15,25 球体層
16,26 周期構造体
20 第2の表示層
1 ,D2 層間隔
1 ,M2 マトリックス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球体およびマトリックスよりなり構造色を発現する表示層が、複数積層されてなる積層体を有する表示部材であって、
前記積層体における第1の表示層および第2の表示層について、第1の表示層の平均屈折率をn1 、これを構成する球体の平均粒径をR1 、第2の表示層の平均屈折率をn2 、これを構成する球体の平均粒径をR2 とした場合に、
平均屈折率n1 および平均屈折率n2 が、0.8<n1 /n2 <1.0を満たし、かつ、
色定数n1 ・R1 および色定数n2 ・R2 の差の絶対値が、5〜60nmの範囲にあることを特徴とする表示部材。
【請求項2】
前記第1の表示層を構成する球体の平均粒径R1 、および前記第2の表示層を構成する球体の平均粒径R2 が、各々100〜300nmの範囲にあることを特徴とする請求項1に記載の表示部材。
【請求項3】
前記色定数n1 ・R1 または色定数n2 ・R2 が、240〜490nmの範囲にあることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の表示部材。
【請求項4】
前記平均屈折率n1 および平均屈折率n2 が、さらに0.87<n1 /n2 <0.97を満たすことを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の表示部材。

【図1】
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【公開番号】特開2009−282093(P2009−282093A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131604(P2008−131604)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】