説明

表面に凸模様を有するシート及びその凸模様を形成する方法

【課題】各露光部毎に高さ変化を与え、又は凸模様の上面隅部に丸みを与えることができるシートを提供する。
【解決手段】得るべき凸模様に対応して、凸形成領域40を有するマスキングフィルム4を感光性樹脂フィルム21に被せる工程と、該マスキングフィルム4の外側から感光性樹脂フィルム21を露光する工程と、露光後の感光性樹脂フィルム21の未露光部を除去して、露光部22を残してシート2を形成する工程を具えたシート表面に凸模様を形成する方法であって、マスキングフィルム4の凸形成領域40は、濃淡を階調にて表すように、遮光部42の外側に、半透光部43、透光部41を順に形成して、透光率を遮光部42から透光部41に向かって段階的に上げている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面に凸模様を有するシート及びその凸模様を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のダッシュボード等の内装品は、軽量、量産性等の点で合成樹脂にて形成され、高級感、重厚感、暖か味を得るために表面に梨地、皮シボ等の微細な凸模様が施されている。上記樹脂製の内装品は、成形時に金型型面にエッチング等によって製品の凸模様とは逆の凹模様を形成しておくことによって簡単に成形できる。
【0003】
しかし、展示会に出展する試作車の製作の段階では、金型に凹模様を形成することは、コスト、時間等の問題から難しい。例えば、金型に一旦凹模様を形成すると、後で該凹模様の形状等を変更することが難しい。従って、試作車等の製品表面へ、凸模様を形成したシートを貼り付ける方法が採用されている。
図10乃至図13は、以前に出願人が提案した凸模様を形成したシートの製法を示す図である(特許文献1参照)。先ず、図10に示すように、透明体である感光性樹脂フィルム(21)に伸縮性を有する薄手樹脂フィルム(3)を裏打ちする、即ち裏から貼り付ける。薄手樹脂フィルム(3)は上下両面に接着剤層(31)(32)を有して、下側の接着剤層(32)に剥離紙(33)が被さる。
図11に示すように、感光性樹脂フィルム(21)上にマスキングフィルム(4)を被せ、該マスキングフィルム(4)上から光源(5)からの光で露光する。マスキングフィルム(4)は周知の如く、透光部(41)と遮光部(42)を形成しており、光源(5)からの光は透光部(41)を通って、感光性樹脂フィルム(21)の対応する箇所を硬化させる。この硬化した箇所が露光部(22)であり、遮光部(42)に遮られた箇所は硬化せず、未露光部(23)となる。
【0004】
図12に示すように、露光を中止して、マスキングフィルム(4)を感光性樹脂フィルム(21)から外し、感光性樹脂フィルム(21)を例えば水等の洗浄液にて洗い、未露光部(23)を除去する。露光部(22)が交互に配備されて凸模様を形成するシート(2)が得られ、剥離紙(33)を剥がして、図13に示すように、製品(1)上に貼り付ける。尚、露光後に、露光部(22)全面及び薄手樹脂フィルム(3)上に木目等の塗装(28)をしてもよい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−144898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の凸模様を形成したシートでは、全ての露光部(22)の高さが略等しいから、上から見て、平面的な模様しか形成できない、即ち露光部(22)毎に高さ変化を与えることができない。また、図12に示すように、露光部(22)の上面は角張っており、表示される模様に柔らかみ、暖かみが欠けることがあった。
本発明の目的は、露光部(22)毎に高さ変化を与え、又は凸模様の上面隅部に丸みを与えることができる製法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
得るべき凸模様に対応して、凸形成領域(40)を有するマスキングフィルム(4)を感光性樹脂フィルム(21)に被せる工程と、該マスキングフィルム(4)の外側から感光性樹脂フィルム(21)を露光する工程と、露光後の感光性樹脂フィルム(21)の未露光部を除去して、露光部(22)を残してシート(2)を形成する工程を具えたシート表面に凸模様を形成する方法であって、マスキングフィルム(4)の凸形成領域(40)は、濃淡が階調で表現された遮光部(42)の外側に、半透光部(43)、透光部(41)を順に形成して、透光率を遮光部(42)から透光部(41)に向かって段階的に上げている。
【発明の効果】
【0008】
露光の際には、マスキングフィルム(4)の凸形成領域(40)の外側から、光を照射する。透光部(41)は光を通すから、該透光部(41)に対応した感光性樹脂フィルム(21)の部分は硬化し、遮光部(42)に対応した感光性樹脂フィルム(21)の部分は、全く硬化しない、
半透光部(43)に対応した感光性樹脂フィルム(21)の部分は、完全に硬化せず、硬化部分と未硬化部分が混ざった状態となる。
従って、露光後の感光性樹脂フィルム(21)から未露光部を除去すると、硬化部分と未硬化部分が混ざった箇所は、角張らない形状となる。これにより、各露光部(22)毎に高さ変化を与え、又は凸模様の上面隅部に丸みを与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】感光性樹脂フィルムにマスキングフィルムを被せる工程を示す図である。
【図2】本例に係わる遮光部の側面拡大図である。
【図3】図1のマスキングフィルムを、A方向から見た平面図である。
【図4】露光工程を示す図である。
【図5】露光後の感光性樹脂フィルムを示す図である。
【図6】別の露光工程を示す図である。
【図7】色と紫外線の透光率の関係を示す図である。
【図8】別の実施例のマスキングフィルムを示す平面図である。
【図9】別の実施例のマスキングフィルムを示す平面図である。
【図10】従来の凸模様を形成したシートの製法を示す図である。
【図11】従来の凸模様を形成したシートの製法を示す図である。
【図12】従来の凸模様を形成したシートの製法を示す図である。
【図13】凸模様を形成したシートを製品に貼り付けた状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例を図を用いて説明する。
第1実施例
従来と同様に、本例は試作車等の製品表面へ貼り付ける凸模様を形成したシートの製法に関する。該製法の概略は、裏側からの露光、未露光部の除去の順である。
先ず、図1に示すように、透明体である感光性樹脂フィルム(21)を用意する。
後記する製品(1)への貼り付けの容易さ、金型での量産品とのイメージが極めて近いことから感光性樹脂フィルム(21)の厚みは、100〜300μmが望ましい。実施例では厚みは100−150μmとした。また、感光性樹脂フィルム(21)の上面及び下面は、略平坦である。また、透明体である感光性樹脂フィルム(21)は、無色であっても、着色されていてもよい。
この感光性樹脂フィルム(21)に伸縮性を有する透光性の薄手樹脂フィルム(3)を予め裏打ちする。薄手樹脂フィルム(3)は上下両面に接着剤層(31)(32)を有して、下側の接着剤層(32)に剥離紙(33)が被さるのは従来と同様である。薄手樹脂フィルム(3)は感光性樹脂フィルム(21)よりも薄い15−30μm程度の厚みであるが、この厚みに限定されない。
【0011】
図1に示すように、薄手樹脂フィルム(3)の下面にマスキングフィルム(4)を被せ、該マスキングフィルム(4)の下面から露光して、後記の如く、凸部を形成する。
マスキングフィルム(4)の凸形成領域(40)は、濃淡を階調にて表すように、遮光部(42)の外側に、半透光部(43)、透光部(41)を順に形成している(図3参照)。ここで、階調とは、明度のグラデーション、即ち段階のことであり、具体的には遮光部(42)は黒、半透光部(43)は灰色、透光部(41)は透明である。即ち、マスキングフィルム(4)の凸形成領域(40)は、透光率を遮光部(42)から透光部(41)に向かって段階的に上げている。
尚、遮光部(42)の外側に、半透光部(43)、透光部(41)を順に形成しているとしたのは、図示の便宜上であって、遮光部(42)、半透光部(43)、透光部(41)が混じり合ってもよい。
【0012】
ここで、遮光部(42)及び半透光部(43)は、例えばインクジェット印刷にて形成され、図2に示すように、遮光材料の液滴であるインク粒子(6)の層を複数重ねて、多層に形成している。これにより、光が遮光部(42)を通過する隙間を無くすとともに、半透光部(43)が或る一定部分量の光を透過させるように形成している。
斯種の遮光部(42)の黒色を形成する方法として、所謂網点と呼ばれる手法が知られている。これはインク層を1層で形成し、単位面積当たりのインク層の密度を違えて、遮光部と透光部を形成したものである。
しかし、これでは、光が完全に通る箇所と、全く通らない箇所しか形成されず、或る一定部分量の光が透過する半透光部が形成されない。従って、本例の特徴とする隅部が角張らない形状が形成されない。
そこで、本例では、インク粒子(6)の層を多層に形成して、遮光部(42)、透光部(41)の他に、透光率が遮光部(42)と透光部(41)の間の値である半透光部(43)を形成している。
【0013】
次に、図4に示すように、薄手樹脂フィルム(3)の下面にマスキングフィルム(4)を被せた状態で、該マスキングフィルム(4)の下方から光源(5)にて光を照射する。光が透光部(41)を通って、感光性樹脂フィルム(21)を厚み方向に通過すると、感光性樹脂フィルム(21)の該通過箇所(図4の一点鎖線で挟まれた箇所)は厚み方向に亘って硬化する。
光が半透光部(43)を通ると、感光性樹脂フィルム(21)は厚み半ばまで硬化する。即ち、硬化部分と未硬化部分が混ざった状態となる。
光が遮光部(42)を照射しても、光は感光性樹脂フィルム(21)を通らないから、感光性樹脂フィルム(21)の遮光部(42)に対応する箇所は硬化しない。
光源(5)の照射後に、マスキングフィルム(4)を除去すると、硬化した露光部(22)と、硬化しない未露光部(23)を形成した感光性樹脂フィルム(21)ができる。
【0014】
図5に示すように、露光後の感光性樹脂フィルム(21)を水等の洗浄液で洗うことにより、未露光部(23)が洗い流されて、露光部(22)が凸状に残ったシート(2)が得られる。隣り合う露光部(22)は繋がっていない。
この場合、露光後の感光性樹脂フィルム(21)から未露光部(23)を除去すると、硬化部分と未硬化部分が混ざった箇所は、隅部が角張らない形状となる。これにより、各露光部(22)毎に高さ変化を与え、又は凸模様の上面隅部に丸みを与えることができ、表示される模様に柔らかみ、暖かみを持たせることができる。
【0015】
露光部(22)が凸状に残ったシート(2)は、十分に乾燥させる。シート(2)は露光の必要性から透明体であるから、必要であれば全体に装飾や色彩を塗装して、感光性樹脂フィルム(21)及び薄手樹脂フィルム(3)の地色を隠す。装飾が例えば木目であれば、凸状の露光部(22)と装飾の色合いが調和して、リアリティが溢れた木目が表現できる。
乾燥したシート(2)は、従来と同様に、剥離紙(33)を剥がして、製品(1)に貼り付ける(図13参照)。貼り付け前に、シートの接着剤層(32)との接着性を高めるために、溶剤、アルコール等にて製品(1)の表面の汚れ、油分を除去する。製品(1)は試作品に限定されず、また合成樹脂製に限定されず、木製、金属製であってもよい。シート(2)を製品(1)に貼り付けた後に、装飾や色彩を塗装してもよい。
尚、剥離紙(33)は、透光性の薄手材料であればよい。
【0016】
露光部(22)が凸状に残ったシートは、薄手樹脂フィルム(3)で裏打ちされて強度が高まっており、又、露光部(22)は、薄手樹脂フィルム(3)で繋がっているだけである。薄手樹脂フィルム(3)は伸縮性を有するから、露光部(22)が凸状に残ったシート(2)は引っ張ると多少は延びる。このため、製品(1)の立体形状に沿って貼り易い。
薄手樹脂フィルム(3)は両面接着フィルムであるから、シート(2)や製品(1)に接着剤を塗布する手間が省け、接着の作業性が向上する。又、製品表面へ接着するための接着剤層(32)の厚みが均一であるから、接着剤の部分的な過不足よる接着斑が生じず綺麗に接着できる。
尚、製品(1)の立体の凹凸によっては、シート(2)に皺を生じさせずに製品(1)表面に接着することが難しいことがある。この場合は、シート(2)の余分な部分を切り取って、製品(1)上に皺が生じない様に接着すればよい。
上記例では、感光性樹脂フィルム(21)の下側から露光している。しかし、図6に示すように、感光性樹脂フィルム(21)の上に、マスキングフィルム(4)を被せ、該マスキングフィルム(4)の上から露光してもよい。
【0017】
第2実施例
本例では、マスキングフィルム(4)の凸形成領域(40)の遮光部(42)、半透光部(43)、透光部(41)を濃淡で表すのに代えて、光、具体的には紫外線の透光率が異なる複数の色にて表している。
図7は、色と紫外線の透光率の関係を示す図である。周知の如く、紫色は紫外線が通りやすく、即ち透光率が大きく、紫色から、藍色、青色、緑色、黄色、橙色、赤色の順に透光率が小さくなる。
この性質を利用して、図8の平面図に示すように、透光部(41)を透光率が大きい例えば、紫色で形成し、半透光部(43)を稍透光率が小さい例えば、緑色で形成し、遮光部(42)を透光率が上記色の中で最も小さい赤色で形成する。このように凸形成領域(40)を設けたマスキングフィルム(4)を用いて露光しても、各露光部(22)毎に高さ変化を与え、又は凸模様の上面隅部に丸みを与えることができるシート(2)を形成することができる。
遮光部(42)、半透光部(43)、透光部(41)は横方向に整然と並べられる必要はない。例えば、図9の平面図に示す如く、遮光部(42)、半透光部(43)、透光部(41)が混じり合ってもよい。
【0018】
上記実施例の説明は、本発明を説明するためのものであって、特許請求の範囲に記載の発明を限定し、或は範囲を減縮する様に解すべきではない。又、本発明の各部構成は上記実施例に限らず、特許請求の範囲に記載の技術的範囲内で種々の変形が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0019】
(1) 製品
(2) シート
(3) 薄手樹脂フィルム
(4) マスキングフィルム
(21) 感光性樹脂フィルム
(22) 露光部
(40) 凸形成領域
(41) 透光部
(42) 遮光部
(43) 半透光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
得るべき凸模様に対応して、凸形成領域(40)を有するマスキングフィルム(4)を感光性樹脂フィルム(21)に被せる工程と、該マスキングフィルム(4)の外側から感光性樹脂フィルム(21)を露光する工程と、露光後の感光性樹脂フィルム(21)の未露光部を除去して、露光部(22)を残してシート(2)を形成する工程を具えたシート表面に凸模様を形成する方法であって、
マスキングフィルム(4)の凸形成領域(40)は、濃淡が階調で表現された遮光部(42)、半透光部(43)、透光部(41)を形成して、
透光率を遮光部(42)から透光部(41)に向かって段階的に上げていることを特徴とするシート表面に凸模様を形成する方法。
【請求項2】
遮光部(42)の外側に、半透光部(43)、透光部(41)が順に形成されている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
マスキングフィルム(4)を感光性樹脂フィルム(21)に被せる工程の前に、予め感光性樹脂フィルム(21)に薄手樹脂フィルム(3)を裏打ちする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
得るべき凸模様に対応して、凸形成領域(40)を有するマスキングフィルム(4)を感光性樹脂フィルム(21)に被せる工程と、該マスキングフィルム(4)の外側から感光性樹脂フィルム(21)を露光する工程と、露光後の感光性樹脂フィルム(21)の未露光部を除去して、露光部(22)を残してシート(2)を形成する工程を具えたシート表面に凸模様を形成する方法であって、
マスキングフィルム(4)の凸形成領域(40)は、紫外線の透光率が異なる色彩が夫々に付された遮光部(42)、半透光部(43)、透光部(41)を形成して、
透光率を遮光部(42)から透光部(41)に向かって段階的に上げていることを特徴とするシート表面に凸模様を形成する方法。
【請求項5】
薄手樹脂フィルム(3)は両面に接着剤層(31)(32)を施した両面接着フィルムであって、一方の接着剤層(31)が感光性樹脂フィルム(21)を接着し、他方の接着剤層(32)が製品(1)を接着する請求項3に記載の方法。
【請求項6】
薄手樹脂フィルム(3)を製品(1)に接着する前に、シート(2)の凸模様面に塗装を施す工程を具えた、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
製品(1)の表面に接着されたシート(2)の上から塗装を施す工程を具えた、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
請求項1乃至7の何れかに記載の方法で形成された表面に凸模様が施されたシート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−247357(P2010−247357A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−96613(P2009−96613)
【出願日】平成21年4月13日(2009.4.13)
【出願人】(000149907)株式会社棚澤八光社 (7)