説明

表面プラズモン共鳴を利用した測定装置

【目的】 表面プラズモン共鳴を利用した測定装置において、刺激に対する試料の状態変化を測定できる表面プラズモン共鳴を利用した測定装置を提供する。
【構成】 表面プラズモン顕微鏡(2,21)と化学・バイオセンサ(41,42,51,52,53)、または表面プラズモン顕微鏡および化学・バイオセンサと外部刺激手段(3,31,32,111) および/または他の測定手段(61,71,81,91,101) 、あるいは表面プラズモン顕微鏡と外部刺激手段および/または他の測定手段とを設けて試料を測定・分析する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、誘電体物質の表面近傍の情報や誘電体薄膜の膜厚分布を高感度で測定する表面プラズモン共鳴を利用した測定装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】近年、誘電体物質の表面近傍の情報や誘電体薄膜の膜厚分布を高感度で測定するものとして、表面プラズモン共鳴を利用した顕微鏡がいくつか開発されている。例えば、「Thin Solid Films,187,(1990)349-356」には、ラングミュアーブロジェット膜(LB)膜を試料として、平行光で表面プラズモン共鳴を誘起させ、その反射光の強度分布を検出してLB膜の膜厚分布を観察したことが報告されている。また、「光学,19,(1990)682-686 」には、玉葱を試料として、収束光で表面プラズモンを誘起させ、その反射光強度の角度分布を1次元イメージセンサを用いて求めると共に、試料をX−Yステージで2次元走査しながら角度分布を色分けしてマッピングすることで、玉葱の表皮細胞を擬似カラー像として観察したことが報告されている。
【0003】一方、表面プラズモン共鳴は、境界の誘電的・幾何学的変化に対して高い感度を持っていることから、表面上での物質の反応や濃度を検出する化学・バイオセンサへ応用した研究が盛んに行われている。例えば、「電子情報通信学会論文誌,J74-C-2,5,(1991)443-449」には、免疫反応を示す物質を用いて表面プラズモンの共鳴角を検出することで、抗原・抗体反応を測定するバイオセンサが報告されている。また、本出願人らも「特願平3−195052号」において、イオン感応を示すLB膜を用いて表面プラズモンの共鳴角を検出することで、イオン濃度を測定するイオンセンサを提案している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】表面プラズモン共鳴を利用した顕微鏡は、生体膜、合成二分子膜やLB膜のような擬似生体膜、液晶性の配向膜等の状態を高感度で観察することができる。このような有機膜は、加熱による結晶−液晶相転移や相分離等の状態変化、電場の印加による配向変化、あるいは酸化還元反応による状態変化等の刺激応答性を示すものが多い。
【0005】しかしながら、上記の文献「Thin Solid Films,187,(1990)349-356」および「光学,19,(1990)682-686 」に記載された技術では、試料を単に基板に固定して観察するものであるため、上述した加熱や電場等の刺激を与えた場合の試料の状態変化を測定することができないという問題がある。
【0006】さらに、試料表面に誘起される表面プラズモン共鳴のみを検出し、試料表面を直接観察する手段がないため、試料の目的の部位の表面プラズモン共鳴を正確に観察しているかどうかを確認することができないという問題があった。
【0007】そこで、この発明は、薄膜に対して、刺激を加え、その刺激による状態変化を測定することのできるよう適切に構成した表面プラズモン共鳴を利用した測定装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するため、この発明では、金属薄膜の一方の面に誘電体試料を接触させるとともに、この金属薄膜の他方の面に全反射の条件で偏光光を入射して表面プラズモン共鳴を誘起させ、その反射光を検出することで、前記誘電体試料の状態を測定する表面プラズモン測定手段と、前記誘電体試料に物理的又は化学的な刺激を加える刺激手段と、この刺激手段により刺激された前記誘電体試料の状態変化を前記表面プラズモン測定手段により測定するように構成したものである。
【0009】
【作用】このような構成の測定装置によれば、誘電体試料に刺激を加え、この刺激による試料の状態変化を検出することができる。
【0010】さらに、誘電体試料の表面を観察する観察手段を備えることにより、表面プラズモン測定を行っている試料の測定位置における試料の状態変化について、表面プラズモン共鳴による情報以外の情報を得ることができるので、試料のより正確な情報を得ることもできる。
【0011】
【実施例】図1は、この発明の第1実施例を示す断面図である。この測定装置1は、表面プラズモン顕微鏡2と加熱ヒータ3とを具え、誘電体物質からなる測定試料4の加熱に伴う状態変化の観察を可能にしたものである。表面プラズモン顕微鏡2は、透明基板5の一方の表面に測定試料4を接触保持する金属薄膜6を、他方の表面にマッチングオイル7を介して光学プリズム8を設け、単色光レーザ光源9から偏光板10、ビームエキスパンダ11、絞り12、集光レンズ13、光学プリズム8、マッチングオイル7、透明基板5を経て金属薄膜6にP偏光の収束光を入射させ、その反射光をNDフィルタ14およびシリンドリカルレンズ15を経て焦平面に平行に配置したフォトダイオードアレイ16で受光して反射光強度の角度依存性を求めるよう構成する。
【0012】かかる構成において、全反射の条件で金属薄膜6にP偏光を入射しても、表面プラズモンが誘起されると、その誘起された角度では反射率が極端に減少する。したがって、フォトダイオードアレイ16をシリンドリカルレンズ15の焦平面に平行に配置してその各素子を光の反射角に対応させれば、その出力から表面プラズモン共鳴により発生した暗線、すなわち最低の反射率に対応する素子を検知することができ、その素子位置から吸収ピークの反射角を求めることにより、表面プラズモン共鳴が生じる入射角つまり共鳴角を検出することができる。
【0013】透明基板5は、パルスモータ(図示せず)によってX−Yステージ17により2次元走査する。ここで、走査範囲がそれほど大きくない場合には、光学プリズム8を透明基板5と一体に移動させても入射角変動の問題は少ないが、走査範囲が大きい場合には、入射角を保証するために入射面とX−Yステージ17に対する光学プリズム8との位置合わせ精度に厳密さが要求される。そこで、この実施例では、プリズム固定部材18を用いて2次元走査時に光学プリズム8を光学系に対して固定し、透明基板5のみを移動させるようにする。なお、この動作を円滑に行わせるためには、マッチングオイル7は、好適には測定部周辺の極一部に限定して使用する。
【0014】パルスモータは、パーソナルコンピュータによって制御し、その位置情報と共鳴角との角度分布を色分けによりマッピングして、CRT(図示せず)に濃淡像や擬似カラー像として表示する。なお、共鳴角は、フォトダイオードアレイ16からの信号をA/D変換した後、パーソナルコンピュータに取込んで、演算により求める。
【0015】加熱ヒータ3は、測定試料4を保持する金属薄膜6を加熱するように設け、その温度をサーミスタ19により制御するようにする。この加熱ヒータ3は、任意のものを使用することができるが、この実施例では絶縁性のシート状のもの、例えばシリコンラバーヒータ等を用いる。
【0016】金属薄膜6は、「表面」20,6,(1982)289-304, に記載されているように、複素誘電率の実部が負で大きな、Ag,Au,Cu,Zn,Al,Kが望ましく、虚部との大きさの関係から、特にPd,Ni,Feは好ましくない。また、金属薄膜6は、合金組成で構成することもできるが、AgにPdを混合した場合には、表面プラズモン共鳴が消失するため、この合金の使用は好ましくない。さらに、金属薄膜6は、透明基板5への密着性を向上させるために、例えばその表面にCr膜を極めて薄く形成し、その上にAu膜等を形成した多層構造をもって構成することもできる。
【0017】単色光レーザ光源9は、ランダム偏光あるいは直線偏光の光を放射する任意の光源を用いることができると共に、直線偏光の光を放射する光源を用いる場合には、偏光板10は省略してもよい。また、光源は、白色光をモノクロメータで単色光にするものを用いることもできる。なお、絞り12、NDフィルタ14およびシリンドリカルレンズ15は省略することができる。
【0018】この実施例によれば、測定試料4を加熱ヒータ3により加熱しながら、その表面状態を表面プラズモン顕微鏡2で観察することができるので、測定試料4が加熱により結晶−液晶相転移を示す物質であれば、相転移に伴う状態の変化を観察することができる。また、測定試料4が加熱により相分離を示す物質であれば、その相分離の変化およびクラスターサイズを観察することができる。したがって、生体膜、または合成二分子膜やLB膜のような擬似生体膜のように、結晶−液晶相転移や相分離を示す誘電体物質の状態変化を容易に観察することができる。
【0019】図2は、この発明の第2実施例を示す断面図である。この測定装置20は、第1実施例と同様に、表面プラズモン顕微鏡21と加熱ヒータ3とを具え、誘電体物質からなる測定試料4の加熱に伴う状態変化の観察を可能にしたものである。この実施例では、表面プラズモン顕微鏡21を、図1に示した表面プラズモン顕微鏡2において、集光レンズ13、シリンドリカルレンズ15およびフォトダイオードアレイ16を省略し、フォトダイオードアレイ16の位置にCCDカメラ22を設けて構成する。
【0020】このようにして、単色光レーザ光源9からの光を、偏光板10、ビームエキスパンダ11、絞り12、光学プリズム8、マッチングオイル7および透明基板5を経て金属薄膜6にP偏光の平行光として入射して表面プラズモン共鳴を誘起させ、その反射光をNDフィルタ14を経てその焦平面に平行に配置したCCDカメラ22で検出して、反射光の強度分布を検出する。
【0021】また、この実施例では、測定試料4の表面状態をCCDカメラ22で直接観察するため、透明基板5は2次元走査することなく、固定ステージ23に設ける。その他の構成については、図1と同様に構成する。したがって、この実施例においても、図1に示した実施例と同様の効果を得ることができる。
【0022】図3は、この発明の第3実施例を示すものである。この測定装置30は、図1に示した測定装置1において、測定試料4の透明基板5とは反対側の表面に接して電極31を設けると共に、表面プラズモン励起用金属薄膜6を対電極に兼用して、これら電極31および金属薄膜6間に直流電源32から直流電圧を印加するようにしたものである。電極31は、電圧印加によって測定試料4と反応しないもの、例えばPt,Au,Al,ITOガラス等の薄板や、ガラス基板に蒸着、スパッタ等の既知の方法で形成した厚さ100Å以上の導電性薄膜等をもって構成する。なお、加熱ヒータ3は、X−Yステージ17と電極31との間に配置して、測定試料4を電極31を介して加熱するようにすると共に、その温度を透明基板5上に設けたサーミスタ19で制御するようにする。
【0023】このように、測定試料4に対して電圧を印加する手段を付加すれば、液晶のように電場によって配向変化を生じる測定試料4の表面状態の変化を、表面プラズモン顕微鏡2によって容易に観察することができる。
【0024】図4は、この発明の第4実施例を示すものである。この測定装置40は、図3に示した測定装置30において、金属薄膜6と電極31との間にセル枠41を設けてセル42を形成し、このセル42内に支持電解質溶液を保持し得るようにしたものである。なお、この場合の電極31は、電圧印加により測定試料4や支持電解質中の成分と反応しないもの、例えばPt,Au,ITOガラス等の薄板や、ガラス基板に蒸着、スパッタ等の既知の方法で形成した厚さ100Å以上の導電性薄膜等をもって構成する。
【0025】この実施例によれば、測定試料4がフェロセン基やビオロゲン基を有する有機薄膜の場合に、セル42内の支持電解質溶液に酸化剤を加えて直流電源32による印加電圧を掃引することにより、測定試料4の酸化還元に伴う相変化の状態変化を表面プラズモン顕微鏡2によって容易に観察することができる。
【0026】図5は、この発明の第5実施例を示すものである。この測定装置50は、図4に示した測定装置40において、セル枠41に注入管51および排出管52を設けて、セル42をフローセル構造にすると共に、測定試料4に代えて、気体又は液体の特定成分と相互作用を示す機能性薄膜を用いた例を示したものである。この例は、機能性薄膜として、特定物質に感応するイオン感応膜または免疫反応膜よりなる物質センシング機能を有する薄膜状の誘電体物質53を設けて、フローセル内に流した液体の特定のイオン濃度または免疫物質を、表面プラズモン顕微鏡2により表面プラズモンの共鳴角を検出することで測定する化学・バイオセンサの機能を付加したものである。
【0027】なお、上記機能性薄膜とは、特定の原子又は分子に対して物理的、化学的、電気化学的な作用を生ずる薄膜であり、特異な例としては特定のイオンと感応するもの、特定の抗体又は抗原に免疫反応を示すもの、特定の基質に酵素反応を示すものなどがある。
【0028】表面プラズモン共鳴を利用したセンサについては、上述した「特願平3−195052号」および「電子情報通信学会論文誌,J74-C-2,5,(1991)443-449」において提案されており、新しいタイプのセンサとして注目されている。しかしながら、表面プラズモン共鳴を利用したセンサにおいては、感応膜の表面状態によって、検出される結果が大きく左右されるため、正確なセンシングを行うためには、センサとして測定を行う前および測定後に、その感応膜の状態をそれぞれ観察することが必要になる。
【0029】この実施例によれば、上述したように表面プラズモン顕微鏡に化学・バイオセンサ機能を付加しているので、センサとして測定する前および測定後において、感応膜としての誘電体物質53の表面状態を単一の測定装置50で測定することができる。したがって、センサの研究開発を遂行する上で極めて有効となる。
【0030】なお、この実施例において、電極31は免疫センサ等に用いる場合には使用しないが、酸化還元反応を応用したセンサ等では必要となる場合がある。この電極31は、上述したと同様に、電圧印加により誘電体物質53や電解質溶液中の成分と反応しないもの、例えばPt,Au,ITOガラス等の薄板や、ガラス基板に蒸着、スパッタ等の既知の方法で形成した厚さ100Å以上の導電性薄膜等をもって構成する。また、電圧の印加や掃引は、ポテンショスタットやガルバノスタット等を用いて行うようにする。
【0031】図6は、この発明の第6実施例を示すものである。この測定装置60は、図1に示した表面プラズモン顕微鏡2と赤外分光光度計61とを設けて、測定試料4の表面状態を観察すると同時に、測定試料4の赤外線吸収スペクトルを分析し得るようにしたものである。赤外分光光度計61は、全反射法を採用する場合には、図6に示すように、測定試料4の金属薄膜6とは反対側の表面に接してATRプリズム62を設け、このATRプリズム62を介して赤外光光源63からの赤外光を測定試料4に全反射の条件で入射させ、その反射光をATRプリズム62を介して検知器64で検出して、測定試料4の赤外線吸収スペクトルを測定するよう構成し、高感度反射法を採用する場合には、上記構成においてATRプリズム62を省略して構成する。なお、赤外分光分析法については、例えば「FT−IRの基礎と実際」、田隅三生著、東京化学同人、(1986)P47-82,P92-113、に詳しく説明されている。
【0032】この実施例によれば、表面プラズモン顕微鏡2による観察と同時に、赤外分光光度計61を用いることによって、全反射法によりATRプリズム62に接した測定試料4の表面近傍の状態を、また高感度反射法により金属薄膜6上の薄膜状の測定試料4の状態を、定性的・定量的に分析することができ、さらに測定試料4が配向した膜の場合には、その配向状態を知ることができる。また、加熱ヒータ3をも付加しているので、測定試料4が配向した膜の場合には、これを加熱ヒータ3で加熱することにより、加熱に伴った相転移、相分離等の状態変化やそれに伴う膜の配向状態を同時に測定することができる。
【0033】図7は、この発明の第7実施例を示すものである。この測定装置70は、図5に示した測定装置50に、レーザラマン分光光度計71を設けたものである。レーザラマン分光光度計71は、測定試料4の金属薄膜6とは反対側にレーザ光源72および分光検知器73を配置して、レーザ光源72から電極31を経て測定試料4に強い単色光を入射し、これによって分子の振動のうち分子の分極率の変化を起こすものに起因して入射光が受ける波数変化(ラマン散乱)を分光検知器73で検出するよう構成する。なお、ラマンスペクトル法については、例えば「機器分析」、田中誠之、飯田芳男著、裳華房、P104-109、に記されている。
【0034】この実施例によれば、化学・バイオセンサとして測定する前および測定後において、感応膜としての誘電体物質53の状態を観察および分析することができ、より正確なセンシングが可能となる。また、レーザラマン分光光度計71は、可視光を用いるので、水による吸収の大きい赤外光を用いる場合に比べ、水溶液系の測定も可能になる。
【0035】図8は、この発明の第8実施例を示すものである。この測定装置80は、図1に示した測定装置1に既知の光学顕微鏡81を設けて、測定試料4のある一定の部位を二つの手段で同時に観察し得るようにしたものである。光学顕微鏡81は、測定試料4の金属薄膜6に接していない表面側に対物レンズ82を配置して、表面プラズモン顕微鏡2と同時に同じ部位を観察できるようにする。なお、対物レンズ82は、構成上の点からは長焦点のものを用いる。
【0036】この実施例によれば、表面プラズモン顕微鏡2で観察する測定試料4の目的の部位を光学顕微鏡81で観察しながら調整することが可能となる。例えば、一般に表面プラズモン顕微鏡2のX−Yステージ17の走査範囲は、200μm×200μm程度であるので、光学顕微鏡81の視野範囲内に存在する。したがって、光学顕微鏡81で測定試料4の所望の部位を決めて光学顕微鏡像を観察した後、X−Yステージ17を走査して表面プラズモン像を得ることができる。なお、測定試料4が透明な生体物質試料等の場合には、その試料を蛍光物質で染色し、光学顕微鏡81を蛍光顕微鏡とすることにより観察することができる。
【0037】図9は、この発明の第9実施例を示すものである。この測定装置90は、図1に示した測定装置1に走査型トンネル顕微鏡91を設けて、測定試料4のある一定の部位を二つの手段で同時に観察し得るようにしたものである。走査型トンネル顕微鏡91は、測定試料4の金属薄膜6に接していない表面側に探針92と圧電体93とを配置して、探針92と金属薄膜6との間に直流電源94により所要の電圧を印加し、これにより表面プラズモン顕微鏡2と同時に同じ部位を走査型トンネル顕微鏡91で測定できるようにする。したがって、この場合の測定試料4は、トンネル電流が流れる超薄膜誘電体に限定される。
【0038】この実施例によれば、表面プラズモン励起状態におけるトンネル電流効果またはトンネル電流発生時における表面プラズモン状態の変化を測定することができるので、薄膜を構成する物質の原子レベルの物性を調べることができる。すなわち、表面プラズモン励起前に測定試料4にトンネル電流を流しておき、表面プラズモン励起によるトンネル電流の変化や表面プラズモン励起前後のトンネル顕微鏡像の比較等を行うことができる。
【0039】図10は、この発明の第10実施例を示すものである。この測定装置100は、図1に示した測定装置1に走査型原子間力顕微鏡101を設けて、測定試料4のある一定の部位を二つの手段で同時に観察し得るようにしたものである。走査型原子間力顕微鏡101は、測定試料4の金属薄膜6に接していない表面側にカンチレバー102と圧電体93とを配置して、表面プラズモン顕微鏡2と同時に同じ部位を走査型原子間力顕微鏡101で測定できるようにする。したがって、この場合の測定試料4は、表面プラズモンを励起するエバネッセント波の波長以下の厚みの超薄膜誘電体に限定される。
【0040】この実施例によれば、表面プラズモン励起時における原子間力の変化を測定することができるので、薄膜を構成する原子レベルの物性を調べることができる。すなわち、表面プラズモン励起前に測定試料4とカンチレバー102との間に原子間力を生じさせておき、表面プラズモン励起による原子間力の変化や表面プラズモン励起前後の原子間力顕微鏡像の比較等を行うことができる。
【0041】図11は、この発明の第11実施例を示すものである。この測定装置110は、図3に示した測定装置30に磁気コイル111を設けて、測定試料4の磁場の印加に伴う状態変化の観察を可能にしたものである。磁気コイル111は、測定試料4の金属薄膜6に接していない表面側に配置して、測定試料4に磁場を印加するようにする。
【0042】この実施例によれば、磁場によって配向変化を生じる測定試料4の表面状態の変化を、表面プラズモン顕微鏡2によって容易に観察することができる。
【0043】なお、この発明は、上述した実施例にのみ限定されるものではなく、幾多の変形または変更が可能である。例えば、上述した各実施例では、表面プラズモン顕微鏡を上方に配置したが、これを下方、あるいは横方向等の任意の方向に配置することができる。また、第3〜11実施例においては、表面プラズモン顕微鏡を第1実施例と同様に構成したが、これを第2実施例のものと同様に構成することができると共に、加熱ヒータ3を省略することもできる。
【0044】さらに、第8実施例に示す光学顕微鏡81は、第2〜6実施例の測定装置に付加することもできる。ただし、第3〜6実施例の測定装置に付加する場合には、電極31を透明電極をもって構成する。また、第9実施例に示す走査型トンネル顕微鏡91を、第2および6実施例の測定装置に付加することもできるし、同様に第10実施例に示す走査型原子間力顕微鏡101を、第2および6実施例の測定装置に付加することもできる。ただし、第6実施例の測定装置に走査型トンネル顕微鏡91や走査型原子間力顕微鏡101を付加する場合には、赤外分光光度系61をATRプリズム62を用いない高感度法で構成する。
【0045】また、第11実施例に示す磁気コイル111は、第1,2,4〜8実施例の測定装置に付加することもできる。さらに、外部刺激手段としては、上述した熱的、電気的および磁気的手段に限らず、音波を作用させる手段を付加することもできる。
【0046】さらに、この発明は、表面プラズモン顕微鏡に、上述した各種の外部刺激手段および/または測定手段を任意に組み合わせて構成することができる。ところで、上記実施例では表面プラズモン顕微鏡に、上述した各種の刺激手段にさらに、試料表面を観察する観察手段を合わせて設けているが、刺激手段を設けなくても、観察手段を有していれば、試料表面の目的の箇所を観察したり、測定したりすることができるので、測定位置の確認や、表面プラズモン共鳴による情報以外の各種の測定データを比較することが可能になり、試料に対する情報をより正確に求めることができる。
【0047】さらに、前記刺激手段としては、前記誘電体試料に対して、熱、音波、電界、磁界、化学反応、電気化学反応などのうちの1つ又は複数の刺激を組み合わせて加える手段であればよく、また、前記観察手段としては、赤外分光光度計、ラマン分光光度計、光学顕微鏡、走査型トンネル顕微鏡(STM)、走査型原子間力顕微鏡(AFM)など各種の手段のうちの1つ又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0048】
【発明の効果】以上のように、この発明によれば、表面プラズモン共鳴を利用した測定装置において、表面プラズモン測定手段に、刺激手段を設けたので、刺激を加えたときの試料の状態変化を測定することができ、試料に対する種々の情報を正確に得ることができる。
【0049】さらに、誘電体試料の表面を観察する観察手段を設けることにより、表面プラズモン測定を行っている試料の測定位置における試料の状態変化について、表面プラズモン共鳴による情報以外の情報を得ることができるので、試料のより正確な情報を得ることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1実施例を示す断面図である。
【図2】同じく第2実施例を示す断面図である。
【図3】同じく第3実施例を示す断面図である。
【図4】同じく第4実施例を示す断面図である。
【図5】同じく第5実施例を示す断面図である。
【図6】同じく第6実施例を示す断面図である。
【図7】同じく第7実施例を示す断面図である。
【図8】同じく第8実施例を示す断面図である。
【図9】同じく第9実施例を示す断面図である。
【図10】同じく第10実施例を示す断面図である。
【図11】同じく第11実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
1,20,30,40,50,60,70,80,90,100,110 測定装置
2,21 表面プラズモン顕微鏡
3 加熱ヒータ
4 測定試料
5 透明基板
6 金属薄膜
7 マッチングオイル
8 光学プリズム
9 単色光レーザ光源
10 偏光板
11 ビームエキスパンダ
12 絞り
13 集光レンズ
14 NDフィルタ
15 シリンドリカルレンズ
16 フォトダイオードアレイ
17 X−Yステージ
18 プリズム固定部材
19 サーミスタ
22 CCDカメラ
23 固定ステージ
31 電極
32 直流電源
41 セル枠
42 セル
51 注入管
52 排出管
53 誘電体物質
61 赤外分光光度計
62 ATRプリズム
63 赤外光光源
64 検知器
71 レーザラマン分光光度計
72 レーザ光源
73 分光検知器
81 光学顕微鏡
82 対物レンズ
91 走査型トンネル顕微鏡
92 探針
93 圧電体
94 直流電源
101 走査型原子間力顕微鏡
102 カンチレバー
111 磁気コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属薄膜の一方の面に誘電体試料を接触させるとともに、この金属薄膜の他方の面に全反射の条件で偏光光を入射して表面プラズモン共鳴を誘起させ、その反射光を検出することで、前記誘電体試料の状態を測定する表面プラズモン測定手段と、前記誘電体試料に物理的又は化学的な刺激を加える刺激手段とを備え、この刺激手段により刺激された前記誘電体試料の状態変化を前記表面プラズモン測定手段により測定するように構成したことを特徴とする表面プラズモン共鳴を利用した測定装置。
【請求項2】 請求項1記載の測定装置において、前記誘電体試料の前記金属薄膜と接触していない側の表面を観察する観察手段をさらに備えたことを特徴とする表面プラズモン共鳴を利用した測定装置。
【請求項3】 請求項1記載の測定装置において、前記誘電体試料が気体又は液体の特定成分に対して相互作用を生じる材料からなる機能性薄膜であり、この薄膜に生じる相互作用を測定することにより前記気体又は液体の特定成分の濃度を検出する検出手段を備えたことを特徴とする表面プラズモン共鳴を利用した測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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