説明

表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップ、この分析素子チップを用いて検体の分析を行う表面プラズモン共鳴蛍光分析装置、及び表面プラズモン共鳴蛍光分析方法

【課題】検体に含まれる蛍光物質を励起させるための電場が最も大きくなるようなプリズムの所定の面への光線の入射角を精度よく求めることを可能とする表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップ、この分析素子チップを用いて検体の分析を行う表面プラズモン共鳴蛍光分析装置、及び表面プラズモン共鳴蛍光分析方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、所定の面23の面上に金属薄膜25が形成されたプリズム21を有し、プリズム21内における所定の面23への光αの入射角θ5に関する情報35が搭載された分析素子チップ20を準備し、分析素子チップ20に搭載されている情報35に基づいた入射角θ5で光αが所定の面23に入射するようにプリズム21に対して光αを出射することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)によって生じたエバネッセント波の電場を利用して検体に含まれる蛍光物質を発光させ、この蛍光を検出することにより検体を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析装置及び表面プラズモン共鳴蛍光分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面プラズモン共鳴蛍光分析装置(以下、単に「蛍光分析装置」とも称する。)としては、特許文献1に記載のものが知られている。この分析装置では、プリズムに成膜した薄膜金属において表面プラズモン共鳴を生じさせ、金属薄膜の表面近傍に増強された電場(増強電場)を形成し、この増強電場を利用することにより高感度且つ高精度の検体の分析が行われる。
【0003】
具体的に、この蛍光分析装置は、図7及び図8に示されるように、金属薄膜112が形成された分析素子チップ110と、この分析素子チップ110に向けて光αを射出する光源120と、分析素子チップ110で反射された光αを測定する受光部130と、金属薄膜112の近傍で増強電場に基づく光(蛍光)を測定するための蛍光測定手段140と、を備える。
【0004】
分析素子チップ110は、三角プリズム(以下、単に「プリズム」と称する。)114と、このプリズム114の頂角に対向する所定の面(反射面)114b上に成膜された金属薄膜112と、この金属薄膜112の表面(プリズム114と反対側の面)上に成膜され、検体(試料溶液)中の特定の抗原を捕捉する抗体が表面に固定された抗体固層膜112aと、検体が抗体固層膜112aの表面と接しつつ流れる流路116を有する流路部材117とを備える。
【0005】
この分析素子チップ110において、プリズム114は、光源120から射出された光αを一方の斜面(入射面)114aから内部に入射させ、この内部に入射した光αを反射面114b(金属薄膜112の裏面)で全反射して他方の斜面(射出面)114cから外部に出射する。光源120は、プリズム114の入射面114aに向けて光αを出射するものである。この光源120は、反射面114bへの光αの入射角θを変更可能に構成されている。受光部130は、反射面114bで全反射され、プリズム114の出射面114cから出射された光αを受光し、その強度を測定する。蛍光測定手段140は、金属薄膜112に対して流路116を挟んで対向する位置に配置され、金属薄膜112の表面近傍に形成される増強電場により励起された蛍光物質の蛍光を測定(検出)する。
【0006】
この蛍光分析装置100においては、以下のようにして検体の分析が行われる。
【0007】
蛍光分析装置100は、流路116に検体を流す前に、金属薄膜112の表面近傍に増強電場を形成するための反射面114bへの光αの入射角θを決定する。具体的には、反射面114bへの光αの入射角θを変えながら光源120から光αが出射される。このとき、反射面114bで反射した光αを受光部130によって受光し、その強度を測定することにより、金属薄膜112において表面プラズモン共鳴が生じる反射面114bへの入射角である共鳴角(SPR角)θ1が求まる(図9参照)。即ち、反射光の強度が最も小さくなった反射面114bへの入射角(即ち、反射率が最も小さくなった入射角)が共鳴角θ1となる。ここで、金属薄膜112において表面プラズモン共鳴が生じる共鳴角θ1と、増強電場が最も大きくなる反射面114bへの光αの入射角(増強電場最大角)θ2との間には、図9に示すように、ズレがある、即ち、共鳴角θ1と増強電場最大角θ2とは一致しない。そのため、蛍光分析装置100は、求めた共鳴角θ1から所定の角度を加減(通常、±0.5°)して、検体を検査する際の入射角(測定角)θ3を決定する。
【0008】
光αの反射面114bへの入射角が測定角θ3となるように光源120の出射方向が調整される。これにより、金属薄膜112の表面近傍(金属薄膜112の流路116側近傍)に電場強度の大きな増強電場が形成され、この状態で流路116に検体が流される。
【0009】
流路116に検体が流されると、抗原抗体反応により検体中の標的物質(特定の抗原)が抗体固層膜112aに固定された抗体に捕捉される。そして、流路116に蛍光標識された抗体を流すことにより、抗原が捕捉された部分にのみ蛍光物質が標識される。この標識された蛍光物質は、金属薄膜112の表面近傍に形成されている増強電場により励起され、発光する。この蛍光を測定することによって抗原の反応量を高感度且つ高精度に測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4370383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金属薄膜112において表面プラズモン共鳴が生じる共鳴角θ1と、金属薄膜112の表面近傍の増強電場が最大となる増強電場最大角θ2との間の角度のズレ量は、金属薄膜の膜厚や分析素子チップの屈折率等の種々のパラメータにより決定される。従って、例えば、分析素子チップが異なれば、共鳴角θ1と増強電場最大角θ2との間の角度のズレ量が変化するため、検査毎に共鳴角θ1を精度よく求めて測定角θ3を決定しても、金属薄膜112の表面近傍に形成される増強電場が最大とならない場合がある、即ち、増強電場の大きさにバラつきが生じる。そのため、同一検体の検査を行っても測定結果にバラつきが生じる場合があった。
【0012】
そこで、本発明では、上記問題点に鑑み、検体に含まれる蛍光物質を励起させるための電場が最も大きくなるようなプリズムの所定の面への光の入射角を精度よく求めることを可能とする表面プラズモン共鳴蛍光分析装置用の分析素子チップ、この分析素子チップを用いて検体の分析を行う表面プラズモン共鳴蛍光分析装置、及び表面プラズモン共鳴蛍光分析方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
そこで、本発明者らは、上記課題を解消すべく鋭意研究を行った結果、表面プラズモン共鳴に基づいて金属薄膜のプリズムと反対の面(表面)側で生じる電場の強度が最大となる所定の面への光の入射角(電場最大角)が、この面に実際に光を反射させてこの反射光の測定を行わなくても所定のパラメータに基づく演算によって精度よく導出できることを発見した。そこで、この発見に基づき、前記発明者らは、所定のパラメータに基づく演算によって電場最大角を求めることができることに着目し、以下の表面プラズモン共鳴蛍光分析装置用の分析素子チップ、この分析素子チップを用いて検体の分析を行う表面プラズモン共鳴蛍光分析装置、及び表面プラズモン共鳴蛍光分析方法を創作した。
【0014】
上記課題を解消すべく、本発明は、検体に含まれる蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく電場により励起されて発した蛍光を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析装置で用いられる分析素子チップであって、所定の面の面上に金属薄膜が形成されたプリズムを備え、前記プリズム内における前記所定の面への光の入射角に関する情報が搭載されることを特徴とする。
【0015】
かかる構成によれば、分析素子チップに搭載された所定の面への光の入射角(以下、単に「入射角」とも称する。)に関する情報から、当該分析素子チップの金属薄膜の表面(プリズムと反対側の面)近傍に形成される電場の強度が最大となる入射角(電場最大角)が高精度に得られる。即ち、分析素子チップに搭載された入射角に関する情報を取得して演算することにより、当該分析素子チップにおける電場最大角を高精度に得ることができる。そのため、表面プラズモン共鳴蛍光分析装置において当該分析素子チップを用いることにより、当該分析素子チップのプリズムの所定の面に電場最大角で光を入射させることが可能となり、検体の高感度且つ高精度な分析が可能となる。
【0016】
さらに、当該分析素子チップを用いることにより、従来の表面プラズモン共鳴蛍光分析装置のようにプリズムの所定の面で反射された後の光線を測定する必要がないため、表面プラズモン共鳴蛍光分析装置において前記所定の面で反射された光を測定する光学系を設けなくてもよくなり、当該分析装置の小型化及び省コスト化を図ることが可能となる。
【0017】
本発明に係る表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップにおいては、前記入射角に関する情報は、前記金属薄膜の膜厚であること、が好ましい。
【0018】
かかる構成によれば、搭載された情報から得られる入射角(電場最大角)の精度の確保と、分析素子チップの作成工程の簡素化との両立を図ることができる。
【0019】
具体的に、入射角に関する情報のうち、他のパラメータに比べて分析素子チップ毎のばらつきの大きい金属薄膜の膜厚を実際に測定してチップに搭載する。そして、膜厚以外のパラメータを一定値とし、これら一定値のパラメータと実測した膜厚とを用いて入射角を導出することにより、分析素子チップ毎の電場最大角を十分な精度で導出することが可能となる。また、入射角に関する情報のうち、膜厚以外のパラメータを分析素子チップ毎に測定する必要がなくなるため、分析素子チップの作成工程の簡素化を図ることができる。
【0020】
また、前記プリズムの所定の面上に前記検体を流す流路を形成するための流路部材を備え、前記入射角に関する情報は、前記金属薄膜の屈折率、前記金属薄膜の消衰係数、前記プリズムの屈折率、前記流路部材の屈折率、並びに前記所定の面へ入射する光の波長及び強度であること、が好ましい。
【0021】
これらの各値に基づく演算により、電場最大角をより高精度に得ることができる。その結果、当該分析素子チップを用いることによって、より高感度且つ高精度な検体の分析が可能となる。
【0022】
尚、分析素子チップに搭載する前記入射角に関する情報は、前記入射角の値であってもよい。このように電場最大角の値を搭載しておくことにより、当該分析素子チップを用いる表面プラズモン共鳴蛍光分析装置において、複数のパラメータから入射角(電場最大角)を演算により求めるデバイスが不要となる。また、分析素子チップから取得した情報(複数のパラメータ)に基づく演算を行わなくても電場最大角が得られるため、当該分析素子チップを用いることにより、表面プラズモン共鳴蛍光分析装置における検体の分析時間を短縮することが可能となる。
【0023】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、検体に含まれる蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく電場により励起されて発した蛍光を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析装置であって、上記いずれかの分析素子チップと、前記所定の面で全反射されるように前記所定の面と異なる面からプリズム内に光を入射させる光源と、前記分析素子チップに搭載された前記入射角に関する情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部が取得した前記情報に基づいて前記光源における光の射出方向を調整する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0024】
かかる構成によれば、分析素子チップに搭載された入射角に関する情報から、当該分析素子チップの電場最大角が高精度で得られるため、検体の分析を高感度且つ高精度に行うことが可能となる。しかも、分析素子チップに搭載された入射角に関する情報から電場最大角が高精度に得られるため、分析素子チップが交換されても、常に金属薄膜の表面近傍の電場強度を最大にすることが可能である。
【0025】
さらに、従来の表面プラズモン共鳴蛍光分析装置のように、プリズムの所定の面で反射された後の光線を測定する必要がないため、前記所定の面で反射された光を測定する光学系を設ける必要がなくなり、当該分析装置の小型化及び省コスト化を図ることが可能となる。
【0026】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、検体に含まれる蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく電場により励起されて発した蛍光を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析装置であって、上記いずれかの分析素子チップを着脱できるように保持可能な保持部と、前記保持部で保持された状態の分析素子チップに対し、前記所定の面で全反射されるように前記所定の面と異なる面からプリズム内に光を入射させる光源と、前記分析素子チップに搭載された前記入射角に関する情報を取得する情報取得部と、前記情報取得部が取得した前記情報に基づいて前記光源における光の射出方向を調整する制御手段とを備えることを特徴とする。
【0027】
かかる構成によれば、入射角に関する情報が搭載された分析素子チップを準備して保持部に保持させることにより、この分析素子チップに搭載された情報から当該分析素子チップの電場最大角が高精度で得られるため、検体の分析を高感度且つ高精度に行うことができる。しかも、分析素子チップに搭載された入射角に関する情報から電場最大角が高精度に得られるため、分析素子チップが交換されても、常に金属薄膜の表面近傍の電場強度を最大にすることが可能である。
【0028】
さらに、従来の表面プラズモン共鳴蛍光分析装置のように、プリズムの所定の面で反射された後の光線を測定する必要がないため、前記所定の面で反射された光を測定する光学系を設ける必要がなくなり、当該分析装置の小型化及び省コスト化を図ることが可能となる。
【0029】
また、上記課題を解消すべく、本発明は、検体に含まれる蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく電場により励起されて発した蛍光を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析方法であって、所定の面の面上に金属薄膜が形成されたプリズムを有し、前記プリズム内における前記所定の面への光の入射角に関する情報が搭載された分析素子チップを準備する準備工程と、前記分析素子チップに搭載されている情報に基づいた入射角で光が前記所定の面に入射するように前記プリズムに対して光を出射する出射工程と、前記金属薄膜の前記プリズムと反対側の面に接するように前記検体を流し、前記出射工程における光に基づく前記金属薄膜のプリズムと反対の面側で生じた蛍光を測定する検査工程と、を備えることを特徴とする。
【0030】
かかる構成によれば、分析素子チップに搭載された入射角に関する情報から当該分析素子チップの電場最大角が高精度で得られるため、この入射角に基づいてプリズムに光を照射することにより、検体の分析を高感度且つ高精度で行うことが可能となる。
【発明の効果】
【0031】
以上より、本発明によれば、検体に含まれる蛍光物質を励起させるための電場が最も大きくなるようなプリズムの所定の面への光線の入射角を精度よく求めることを可能とする表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップ、この分析素子チップを用いて検体の分析を行う表面プラズモン共鳴蛍光分析装置、及び表面プラズモン共鳴蛍光分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本実施形態に係る表面プラズモン共鳴蛍光分析装置の概略構成図である。
【図2】前記表面プラズモン共鳴蛍光分析装置の分析素子チップであって、(A)は拡大平面図であり、(B)は図2(A)のIIB−IIB断面図である。
【図3】前記分析素子チップへの入射角情報の記載方法を説明するための図である。
【図4】前記表面プラズモン共鳴蛍光分析装置の角度演算部における演算に用いられるパラメータを説明するための図である。
【図5】試薬チップを説明するための拡大斜視図である。
【図6】他実施形態に係る分析素子チップの拡大平面図である。
【図7】従来の表面プラズモン共鳴蛍光分析装置の概略構成図である。
【図8】前記表面プラズモン共鳴蛍光分析装置のプリズム部の構造を示す拡大縦断面図である。
【図9】プリズムの反射面における光線の反射率と金属薄膜の表面近傍に生じるプラズモン散乱光の強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の一実施形態について、添付図面を参照しつつ説明する。
【0034】
本実施形態に係る表面プラズモン共鳴蛍光分析装置(以下、単に「蛍光分析装置」とも称する。)は、図1に示されるように、分析素子チップ20と、分析素子チップ20に向けて光αを出射する光源40と、分析素子チップ20を着脱可能に保持する保持部12と、分析素子チップ20に搭載された情報に基づき光源40の出射方向を調整する角度調整部(制御手段)50と、分析素子チップ20で生じた蛍光を測定する蛍光測定手段60と、を備える。また、蛍光分析装置10は、患者からの血液等の検体の前処理を行う前処理部(図示省略)と、蛍光測定手段60により測定した蛍光を分析するための演算部14と、演算部14における演算結果等の各種情報を表示するための表示手段16とを備える。
【0035】
分析素子チップ20は、図2(A)及び図2(B)にも示されるように、プリズム21と、プリズム21の表面に成膜される金属薄膜25と、金属薄膜25上を当該金属薄膜25に接しつつ検体や試薬、洗浄液等の試料溶液が流れる流路31を形成する流路部材30とを備える。
【0036】
プリズム21は、光源40からの光αを内部に入射させる入射面22と、この内部に入射した光αを反射する反射面(所定の面)23と、反射面23で反射された光αがプリズム21の外部に出射される出射面24とをその表面に含み、透明なガラス又は樹脂により形成されている。本実施形態のプリズム21は、屈折率が1.40〜1.75程度の透明なガラス又は樹脂により形成され、平面視において反射面23が上下(図2(A)における上下)方向に長い矩形状となるように形成されている。尚、プリズムは、正面視が本実施形態のように三角プリズムの頂角部分を切り取ったような形状でもよく、また、正面視が三角形状であってもよい(図2(B)の点線部参照)。即ち、プリズムは、入射面と反射面と出射面とをその表面に含み、入射面から内部に入射した光αが反射面で全反射し、この全反射した光αが内部で乱反射せずに出射面から外部に出射されるような形状であればよい。
【0037】
金属薄膜25は、プリズム21の反射面23上に成膜(形成)された金属製の薄膜であり、本実施形態では、金により形成されている。この金属薄膜25は、プリズム21の反射面23で光αが全反射されることにより生じるエバネッセント波を増幅するための部材である。即ち、反射面23上に金属薄膜25を設けて表面プラズモン共鳴を生じさせることにより、金属薄膜25のない反射面23で光αを全反射させてエバネッセント波を生じさせた場合に比べ、反射面23の表面近傍に形成される電場を増強させることができる。本実施形態における電場の増強度(電場増強度)は、金属薄膜25がない場合に比べて10倍程度となる。金属薄膜25は、膜厚が30〜70nmとなるようにスパッタ法や蒸着法、メッキ法等の各種成膜方法により形成されている。本実施形態の金属薄膜25は、プリズム21の反射面23上の略全面に成膜されているが、反射面23上において少なくとも流路31と対応する部位に成膜されていればよい。尚、金属薄膜25の素材は、金に限定されず、表面プラズモンを発生させる金属であればよく、例えば、銀、銅、アルミ等(合金を含む)であってもよい。
【0038】
また、金属薄膜25の表面(プリズムと反対側の面)25aには、特定の抗原を捕捉するための捕捉体26が固定されている。この捕捉体26は、表面処理によって金属薄膜25の表面25a(少なくとも流路31に対応する部位)に固定される。
【0039】
流路部材30は、プリズム21の反射面23上に設けられ、検体等の試料溶液が流れる流路31を有する。この流路部材30は、透明な樹脂により形成される。本実施形態の流路部材30は、水平方向に(即ち、プリズム21の反射面23に沿って)拡がり、平面視において反射面23全体を覆うような大きさの矩形の板状部材である。この流路部材30には、反射面23への光αの入射角θに関する情報(以下、単に「入射角情報」とも称する。)35が搭載されている。この入射角情報35とは、光源40からの光αがプリズム21内において反射面23で反射したときに、この反射に起因するエバネッセント波による金属薄膜25の表面25a近傍に形成される電場(増強電場)の強度が最大となる反射面23への光αの入射角(電場最大角)θ5を導出するための情報である。具体的に、本実施形態の入射角情報35は、金属薄膜25の膜厚と、金属薄膜25の屈折率と、金属薄膜25の消衰係数と、プリズム21の屈折率と、流路部材30の屈折率と、光源40から出射される光αの波長及び強度とをパラメータとして有する。
【0040】
これらの入射角情報35は、流路部材30の表面30aの端部にバーコードとして記載される(図2(A)参照)。尚、入射角情報35は、外部から読み取ることができ、且つ、プリズム21内に入射した光αが反射面23で全反射すること及び流路31内で生じる蛍光を蛍光測定手段60が測定することを妨げない部位であれば、他の部位に記載されてもよい。また、入射角情報35は、バーコードに限定されず、記号表記、ホログラム、文字、二次元バーコード等であってもよく、また、これらを組み合わせたものでもよい。
【0041】
本実施形態の入射角情報35は、分析素子チップ20の作成時や作成後に適宜記載される。例えば、検体の検査の種類により決まる光αの波長及び強度が第1の情報35aとして記載される(図3(A)参照)。そして、金属薄膜25の屈折率及び消衰係数が分光エリプソメトリー法等によって測定され、第2の情報35bとして流路部材30に記載される(図3(B)参照)。次に、金属薄膜25の膜厚が接触式若しくは非接触式の膜厚計等により測定され、第3の情報35cとして流路部材30に記載される(図3(C)参照)。最後に、プリズム21の屈折率と流路部材30の屈折率とをそれぞれ測定し(本実施形態では、プリズム21と流路部材30とが共通の素材により形成されているため、屈折率は同一である。)、第4の情報35dとして流路部材30に記載される(図3(D)参照)。尚、本実施形態のように測定毎に各情報を流路部材30にそれぞれ記載してもよく、また、全ての入射角情報35a〜35cを測定した後にこれらを一括して流路部材30に記載してもよい。
【0042】
流路31は、抗原抗体反応が行われる検出部32と、分析素子チップ20の外部から検出部32へ試料溶液を案内し、又は検出部32から外部へ試料溶液を案内する案内部33とから成る。この流路31は、分析素子チップ20において複数本(本実施形態では、3本)設けられている。これら複数本の流路31は、それぞれ異なる検体の分析に用いられてもよく、特定の流路が検体の分析に用いられ、他の流路が蛍光測定手段60等の測定機器の校正等に用いられてもよい。
【0043】
検出部32は、流路部材30の裏面(図2(B)において下側の面)30bに設けられた溝とプリズム21上の金属薄膜25とにより囲まれている。即ち、この検出部32では、試料溶液が金属薄膜25の表面(捕捉体26が固定されている面)25aと接しつつ流れる。各案内部33は、一方の端部が流路部材30の表面(図1において上側の面)30aにおいて開口33aし、他方の端部(前記一方の端部と反対側の端部)が検出部32と連通している。このように案内部33と検出部32と案内部33とが順に繋がることで、一本の流路31が形成される。
【0044】
この流路部材30は、プリズム21と接着剤により接着(接合)されている。本実施形態では、検出部32を水平方向から囲み且つ流路部材30とプリズム21との間となる位置に、弾性体からなるシール部材36が設けられている。これにより、流路部材30とプリズム21との接合部位からの試料溶液の漏れが防止される。尚、流路部材30とプリズム21との接合は、接着に限定されず、レーザ溶着や超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着等であってもよい。流路部材30とプリズム21とが液密に接合されていれば、前記検出部32を囲むシール部材36はなくてもよい。
【0045】
光源40は、プリズム21の入射面22(詳しくは、反射面23における流路31の検出部32と対応する部位に到達するように入射面22)に向けて光αを出射する光源装置である。この光源40は、半導体レーザやLED等の発光素子41と、発光素子41の光αの射出方向を変更する角度変更部42と、発光素子41からの光αを偏光する偏光板(図示省略)とを有する。
【0046】
角度変更部42は、発光素子41から出射された光αが入射面22からプリズム21の内部に入射して反射面23で全反射している状態で、この光αの反射面23に対する入射角θを変更するように発光素子41の光αの出射方向を変更する部位である。詳しくは、角度変更部42は、反射面23における光αの反射される位置を変えることなく反射面23への光αの入射角θを変更するように、発光素子41の出射方向を変更可能に構成される。本実施形態の角度変更部42は、角度調整部50の制御部56と接続され、この制御部56からの指示信号に従って発光素子41の光αの出射方向を変更する。
【0047】
偏光板は、プリズム21の反射面23に対してP偏光となるように発光素子41から射出される光αを偏光する部材である。尚、発光素子41として半導体レーザを用いた場合、当該半導体レーザを自身の偏光面が反射面23に対してP偏光となるように出射する配置にすれば偏光板は設けなくてもよい。
【0048】
保持部12は、検体の分析のときに分析素子チップ20を蛍光分析装置10内で保持する部位である。具体的に、この保持部12は、光源40から出射された光αが入射面22からプリズム21の内部に入射してこの入射した光αが反射面23で全反射されるような姿勢となるように分析素子チップ20を着脱可能に保持する。
【0049】
本実施形態では、分析素子チップ20が複数本の流路31を有しているため、保持部12は分析素子チップ20を保持した状態で前後方向(図2(A)における上下方向)に当該分析素子チップ20を移動可能に構成される。これにより、光源40が1つであっても、反射面23における各流路31の検出部32に対応する部位に光αを照射することが可能となる。
【0050】
角度調整部50は、分析素子チップ20に搭載された入射角情報35を取得する情報取得部52と、情報取得部52が取得した情報に基づいて電場最大角θ5を導出する角度演算部54と、この角度演算部54における演算結果に基づいて光源40の角度変更部42の制御を行う制御部56と、を備える。
【0051】
情報取得部52は、保持部12に保持された状態の分析素子チップ20から、その流路部材30に記載された入射角情報35を取得する部位である。本実施形態の情報取得部52は、流路部材30の表面30aに記載されたバーコードを非接触で読み取るバーコードリーダーである。この情報取得部52は、読み取った入射角情報35を情報信号として角度演算部54に出力する。尚、情報取得部52は、分析素子チップ20から非接触で入射角情報35を取得する構成に限定されず、接触により入射角情報35を取得する構成であってもよい。また、本実施形態の情報取得部52は、保持部12に分析素子チップ20が保持された状態で入射角情報35を読み取るが、これに限定されない。即ち、情報取得部52は、分析素子チップ20が保持部12に保持される前(例えば、蛍光分析装置10に挿入された分析素子チップ20が保持位置まで搬送される間等)に流路部材30に記載された入射角情報35を読み取るように構成されてもよい。
【0052】
角度演算部54は、情報取得部52により分析素子チップ20から得られた入射角情報35に基づいて演算を行うことにより、電場最大角θ5を算出する部位である。具体的には、角度演算部54は、情報取得部52から情報信号を受信し、これに基づき以下の演算により電場最大角θ5を算出する。
【0053】
角度演算部54は、情報取得部52により取得した入射角情報35に基づいて、図4を参照しつつ以下の式(1)〜式(5)の演算を行う。
【数1】

【0054】
次に、角度演算部54は、上記式(1)〜式(5)により得られたt01,r01,t12,r12,kzlの各値を以下の式(6)に代入し、この式(6)の演算を行う。
【数2】

これにより、角度演算部54において、入射角情報35から電場最大角θ5が得られる。そして、角度演算部54は、演算結果(電場最大角θ5)を制御部56に結果信号として出力する。
【0055】
制御部56は、蛍光分析装置10において蛍光測定手段60等の各構成の制御を行う部位であり、角度調整部50においては、角度演算部54からの演算結果に基づいて光源40の光αの出射方向を調整すると共に、発光素子41が出射する光αの波長及び強度を調整する役割を担う。制御部56は、角度演算部54の演算結果に基づいて、電場最大角θ5で光αが反射面23に入射するように光源40の光αの出射方向を求め、発光素子41の向きを調整してこの出射方向に光αを出射できるよう角度変更部42に指示信号を出力する。また、制御部56は、発光素子41から出射される光αの波長及び強度が情報取得部52により取得した入射角情報35における光の波長及び強度となるように、発光素子41を制御する。
【0056】
蛍光測定手段60は、金属薄膜25の表面25a側に生じた蛍光を検出する受光素子61と、レンズ等により構成され、金属薄膜25の表面25a側で生じた蛍光を受光素子61まで導光する光学系62とを有する。本実施形態の受光素子61としては、微弱な光(検体中の抗原に標識した蛍光物質を励起させることにより生じた蛍光)を検出するため、光電子倍増管(いわゆるフォトマル:Photomultiplier Tube)が用いられている。
【0057】
前処理部は、試薬チップ70(図5参照)を受け入れ、この試薬チップ70に注入されている検査対象となる血液等の検体の前処理(血球分離や希釈、混合等)を行い、処理後の検体等(試料溶液)を分析素子チップ20に注入する部位である。試薬チップ70には、複数の収納部71が設けられ、各収納部71には血液等の検体の他に、試薬、希釈液、洗浄液等が個別に封入されている。
【0058】
演算部14は、検体の検査時において、蛍光測定手段60から送られてきた出力信号を演算してこの蛍光測定手段60により測定された蛍光に関する分析を行うための部位である。具体的に、例えば、演算部14は、蛍光測定手段60により検出した単位面積あたりの蛍光の数のカウントや時間の経過に伴う蛍光の増加量の算出等を行う。演算部14での演算結果は、この演算部14に接続される表示手段16に出力される。
【0059】
表示手段16は、演算部14からの出力信号に基づき、演算結果を表示するものである。表示手段16は、モニター等のように結果を画面に表示するものでもよく、プリンター等のように結果をプリントアウトするものであってもよい。また、これらを組み合わせたものでもよい。
【0060】
このように構成される蛍光分析装置10では、以下のようにして検体の検査が行われる。
【0061】
患者から血液等の検体が採取され、この採取された検体が試薬チップ70に注入される。この検体が注入された試薬チップ70が蛍光分析装置10の前処理部にセットされる。前処理部では、このセットされた試薬チップ70の検体の前処理(血球分離や希釈、混合等)が行われる。
【0062】
また、分析素子チップ20を保持部12に保持させることにより、当該分析素子チップ20が蛍光分析装置10にセットされる。
【0063】
分析素子チップ20が保持部12に保持された状態で、流路部材30の表面30aに記載された入射角情報35が情報取得部52により読み取られ、読み取られた入射角情報35が角度演算部54に情報信号として送られる。
【0064】
角度演算部54は、分析素子チップ20から取得した入射角情報35に基づいて、式(1)〜式(6)の演算を行うことにより、電場最大角θ5を算出し、演算結果を制御部56に結果信号として出力する。
【0065】
この結果信号を受信した制御部56は、角度変更部42を制御して、電場最大角θ5で光αが反射面23に入射するように光源40から出射される光αの方向を調整する。また、制御部56は、発光素子41から出射される光αの波長及び強度が情報取得部52により取得した入射角情報35における光の波長及び強度と同一となるように、発光素子41を制御する。
【0066】
このように検体の分析を行うときの光αの射出方向、波長、及び強度が定まると、蛍光分析装置10は、前記の処理後の検体等の試料溶液を分析素子チップ20に注入し、流路31の検出部32において抗原抗体反応等を行わせる。このとき、蛍光分析装置10は、方向が調整された光源40から光αを射出させる。この光αにより、金属薄膜25において表面プラズモン共鳴が発生し、この表面プラズモン共鳴により発生したエバネッセント波による電場が流路31の検出部32内に生じる。
【0067】
流路31の検出部32では、当該流路31を流れる検体中の特定の抗原を金属薄膜25の表面25aに固定された捕捉体26が捕捉する。そして、流路31に蛍光物質が標識された抗体を流すことにより、捕捉体26に捕捉された抗原に蛍光物質が標識される。このとき、検出部32の金属薄膜25の表面25a近傍には、蛍光物質を励起するのに十分な強度の電場が形成されているため、この電場によって抗原に標識された蛍光物質が励起されて光る。
【0068】
この蛍光が蛍光測定手段50の受光素子51に到達することにより検出される。受光素子51は、この検出結果を出力信号として演算部14に出力する。演算部14では、この出力信号を受信し、これを演算部14が演算処理することにより、抗原の定量分析が行われる。尚、蛍光測定手段60においてこの蛍光を測定する際、検体を流路31に流しながら光源40から光αを射出し続けて時間の経過に伴う蛍光点の数の変化を測定してもよく、検体を流す前後での蛍光点の数の変化を測定してもよい。また、検体を流し終えた後、洗浄剤で流路31内を洗浄し、その後に光源40から光αを照射して捕捉体26に捉えられた抗原に標識された蛍光物質からの蛍光を検出するようにしてもよい。
【0069】
そして、演算部14により演算結果が表示手段16に送られ、当該表示手段16によって外部に表示される。
【0070】
以上の蛍光分析装置10によれば、分析素子チップ20に搭載された入射角情報35から、当該分析素子チップ20の電場最大角θ5が高精度で得られるため、検体の分析を高感度且つ高精度に行うことが可能となる。しかも、分析素子チップ20に搭載された入射角情報35から電場最大角θ5が高精度に得られるため、分析素子チップ20が交換されても、常に金属薄膜25の表面25a近傍の電場強度を最大にして高感度且つ高精度な分析を行うことが可能である。
【0071】
さらに、従来の表面プラズモン共鳴蛍光分析装置のように、プリズムの反射面で反射された後の光αを測定する必要がないため、反射面で反射された光を測定する光学系を設ける必要がなくなり、当該蛍光分析装置10の小型化及び省コスト化を図ることが可能となる。
【0072】
また、電場最大角θ5を求める際に、分析素子チップ20に実際に検体等の試料溶液を流して求める必要がないため、試料溶液を流すことによる分析素子チップ20の汚染を防ぐことができる。
【0073】
また、入射角情報35として、金属薄膜25の屈折率と、金属薄膜25の消衰係数と、プリズム21の屈折率と、流路部材30の屈折率と、反射面23へ入射する光αの波長及び強度とを用いて、上記式(1)〜式(5)により電場最大角θ5を算出することにより、高精度な値を算出することができる。その結果、分析素子チップ20にこれら入射角情報35を搭載させてこれを用いることによって、高感度且つ高精度な検体の分析が可能となる。
【0074】
尚、本発明の表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップ、この分析素子チップを用いて検体の分析を行う表面プラズモン共鳴蛍光分析装置、及び表面プラズモン共鳴蛍光分析方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0075】
上記実施形態では、分析素子チップ20に搭載される入射角情報35の全てが分析素子チップ20毎に測定され、この測定された情報が搭載されているが、これに限定されない。即ち、分析素子チップ20において、入射角情報35のうちの一部の情報のみを分析素子チップ20毎に測定してこれを搭載し、他の各パラメータを一定値として搭載してもよい。
【0076】
具体的に、分析素子チップ20の作成時において、図6に示されるように、金属薄膜25の膜厚以外のパラメータ(第1の情報35a,第2の情報35b,及び第4の情報35d)を一定値として予め流路部材30に記載しておき、分析素子チップ20が完成してから当該分析素子チップ20の金属薄膜25の膜厚を測定して、その測定値を記載するようにしてもよい。このように、金属薄膜25の膜厚のみを測定して分析素子チップ20に搭載し、他のパラメータを一定値として搭載することにより、搭載された情報から得られる入射角(電場最大角)θ5の精度の確保と、分析素子チップ20の作成工程の簡素化との両立を図ることができる。
【0077】
詳しくは、入射角情報35のうち、他のパラメータに比べて分析素子チップ20毎のばらつきの大きい金属薄膜25の膜厚を実際に測定して分析素子チップ20に搭載する。そして、膜厚以外のパラメータを一定値とし、これら一定値のパラメータと実測した膜厚とを用いて入射角(電場最大角)θ5を導出することにより、分析素子チップ20毎の電場最大角θ5を十分な精度で導出することが可能となる。また、入射角情報35のうち、膜厚以外のパラメータを分析素子チップ20毎に測定する必要がなくなるため、分析素子チップ20の作成工程の簡素化を図ることができる。
【0078】
尚、この場合、蛍光分析装置10は、金属薄膜25の膜厚のみが流路部材30に記載され、この膜厚情報だけを情報取得部52により読み取るように構成されてもよい。即ち、膜厚以外の他のパラメータが一定値であるため、このパラメータを他の部材等に記載(搭載)しておき、検体の分析の前にこれを蛍光分析装置10に読み取らせるように構成されてもよく、また、操作者等が前記他のパラメータを蛍光分析装置10に入力するように構成されてもよい。このように膜厚のみが分析素子チップ20に搭載される場合、分析素子チップ20に搭載される情報が少ないため、流路部材30に切欠きを形成してこれを入射角情報35として用いてもよい。具体的には、例えば、膜厚を40〜45nm、46〜50nm、51〜55nmのように複数のグループに分け、膜厚の実測結果がどのグループに属するかを切欠きの位置や形状等で表し、これを蛍光分析装置10の情報取得部52が読み取るように構成されてもよい。
【0079】
また、入射角情報35の全てのパラメータを分析素子チップ20毎に測定せずに、ロット毎に測定するようにしてもよい。これは、同一ロット内では、比較的、入射角情報35の各パラメータのバラつきが小さいためである。これにより、分析素子チップ20毎に入射角情報35の全パラメータをそれぞれ測定する場合に比べ、測定回数を減らして分析素子チップ20の作成工程の簡略化を図ることが可能となる。
【0080】
入射角情報35として電場最大角θ5が分析素子チップ20に搭載されてもよい。このように電場最大角θ5そのものが分析素子チップ20に搭載されることにより、当該分析素子チップ20を用いる蛍光分析装置10において複数のパラメータ(上記実施形態では、金属薄膜25の膜厚と、金属薄膜25の屈折率と、金属薄膜25の消衰係数と、プリズム21の屈折率と、流路部材30の屈折率と、光源40から出射される光αの波長及び強度)から電場最大角θ5を演算により求めるデバイスが不要となる。また、分析素子チップ20から取得した情報に基づく演算を行わなくても電場最大角θ5が得られるため、当該電場最大角θ5が搭載された分析素子チップ20を用いることにより、蛍光分析装置10における検体の分析時間を短縮することができる。
【0081】
上記実施形態においては蛍光分析装置10の構成に分析素子チップ20が含まれるが、これに限定されず、蛍光分析装置10の構成に分析素子チップ20が含まれず、別に準備しておいた分析素子チップ20を用いる構成であってもよい。
【符号の説明】
【0082】
10 表面プラズモン共鳴蛍光分析装置
20 分析素子チップ
21 プリズム
23 反射面(所定の面)
25 金属薄膜
35 入射角情報(所定の面への光の入射角に関する情報)
40 光源
50 角度調整部(制御手段)
60 蛍光測定手段
70 試薬チップ
α 光
θ 入射角
θ5 電場最大角

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体に含まれる蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく電場により励起されて発した蛍光を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析装置で用いられる分析素子チップであって、
所定の面の面上に金属薄膜が形成されたプリズムを備え、前記プリズム内における前記所定の面への光の入射角に関する情報が搭載されることを特徴とする表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップ。
【請求項2】
前記入射角に関する情報は、前記金属薄膜の膜厚であることを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップ。
【請求項3】
前記プリズムの所定の面上に前記検体を流す流路を形成するための流路部材を備え、
前記入射角に関する情報は、前記金属薄膜の屈折率、前記金属薄膜の消衰係数、前記プリズムの屈折率、前記流路部材の屈折率、並びに前記所定の面へ入射する光の波長及び強度であることを特徴とする請求項2に記載の表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップ。
【請求項4】
前記入射角に関する情報は、前記入射角の値であることを特徴とする請求項1に記載の表面プラズモン共鳴蛍光分析用の分析素子チップ。
【請求項5】
検体に含まれる蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく電場により励起されて発した蛍光を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析装置であって、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の分析素子チップと、
前記所定の面で全反射されるように前記所定の面と異なる面からプリズム内に光を入射させる光源と、
前記分析素子チップに搭載された前記入射角に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した前記情報に基づいて前記光源における光の射出方向を調整する制御手段とを備えることを特徴とする表面プラズモン共鳴蛍光分析装置。
【請求項6】
検体に含まれる蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく電場により励起されて発した蛍光を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析装置であって、
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の分析素子チップを着脱できるように保持可能な保持部と、
前記保持部で保持された状態の分析素子チップに対し、前記所定の面で全反射されるように前記所定の面と異なる面からプリズム内に光を入射させる光源と、
前記分析素子チップに搭載された前記入射角に関する情報を取得する情報取得部と、
前記情報取得部が取得した前記情報に基づいて前記光源における光の射出方向を調整する制御手段とを備えることを特徴とする表面プラズモン共鳴蛍光分析装置。
【請求項7】
検体に含まれる蛍光物質が表面プラズモン共鳴に基づく電場により励起されて発した蛍光を測定する表面プラズモン共鳴蛍光分析方法であって、
所定の面の面上に金属薄膜が形成されたプリズムを有し、前記プリズム内における前記所定の面への光の入射角に関する情報が搭載された分析素子チップを準備する準備工程と、
前記分析素子チップに搭載されている情報に基づいた入射角で光が前記所定の面に入射するように前記プリズムに対して光を出射する出射工程と、
前記金属薄膜の前記プリズムと反対側の面に接するように前記検体を流し、前記出射工程における光に基づく前記金属薄膜のプリズムと反対の面側で生じた蛍光を測定する検査工程と、を備えることを特徴とする表面プラズモン共鳴蛍光分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−242161(P2011−242161A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112279(P2010−112279)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】