説明

表面修飾基板の製造方法

【課題】表面に微細で高精度な修飾パターンを有する表面修飾基板の製造方法の提供。
【解決手段】光透過性を有する基板表面11aの所定箇所を金属マスク12で被覆し、エッチングして、基板表面11aに凹部110を形成する工程と、金属マスク12を除去することなく、基板11上の全面をネガ型フォトレジスト13で被覆する工程と、基板11の裏面11b側からネガ型フォトレジスト13を露光させ、次いで現像することで、レジスト層13’をパターニングする工程と、レジスト層13’を除去することなく、金属マスク12を除去し、次いで基板11上の全面を修飾剤で被覆して修飾層15を設ける工程と、レジスト層13’上の修飾層15を、該修飾層15で被覆されているレジスト層13’と共に除去する工程と、を有することを特徴とする表面修飾基板1の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板表面に修飾層が設けられた表面修飾基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の生産技術及び解析技術の進展に伴い、より高度な機能を有する基板が、各分野において精力的に開発されている。このような解析用の基板は、その表面上に化学物質や組成物を配置してパターニングすることにより、微小なパターンが多数設けられたものが主流である。一方、研究や製品開発の期間短縮が大きな課題となっており、解析効率を向上させるため、多数・多種類の試料を同時に解析できる基板の開発が強く望まれている。これは、膨大な試料を短時間で処理する必要がある、医学・薬学分野において、特に顕著である。
【0003】
このような解析用基板としては、生体関連物質を特異的に検出するように表面を修飾したものや、解析対象である細胞を固定化できるように表面を修飾したものが例示できる。
例えば、基板表面に細胞を固定化することで、生命現象の解明、有用物質の生産、化学物質の生理活性や毒性といった細胞の応答を解析するためのアッセイが可能となる。また、このような固定化技術を応用することで、培養細胞を利用した人工臓器の開発が大きく進展すると期待されている。
そこで、基板表面に細胞接着性が異なる微小領域をパターニングし、細胞接着性が高い領域に細胞を選択的に接着させることで、基板上の微小領域に細胞を配置する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このように、表面の所定領域が修飾された基板では、目的に応じて、基板表面の非修飾領域に凹部を設けることが必要となる場合がある。このような表面修飾基板の従来の製造方法について、図3を引用しながら説明する。図3は、表面修飾基板の従来の製造工程の一例を説明するための断面図である。
まず、図3(a)に示すような、表面91aに凹部910が形成された基板91を作製する。基板91は、例えば、凹部910のパターンに対応したマスクで基板表面91aを被覆し、エッチングすることで容易に作製できる。マスクは、フォトレジスト、クロム(Cr)やニッケル(Ni)等の金属で作製すれば良い。
次いで、図3(b)に示すように、凹部910が形成された基板91上の全面を、ネガ型又はポジ型のフォトレジスト93で被覆する。
そして、フォトレジストの種類に応じて選択したマスクを使用して、基板表面91a側からフォトレジスト93を露光させ、現像することで、図3(c)に示すように、レジスト層93’をパターニングする。
次いで、レジスト層93’で所定箇所が被覆された基板91上の全面を修飾剤で被覆することにより、図3(d)に示すように、基板表面91a上及びレジスト層93’上に修飾層95が積層された基板91が得られる。
次いで、レジスト層93’上の修飾層95を、該修飾層95で被覆されているレジスト層93’と共に除去することで、図3(e)に示すように、凹部表面910aが露出され、該表面910aを除く基板表面91aが修飾層95で被覆された、表面修飾基板9が得られる。
【特許文献1】特開平5−176753号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、図3に示す方法では、図3(c)においてレジスト層93’のパターニング精度が悪いと、例えば、図4(a)に示すように、基板91上における凹部910の形成部位と、レジスト層93’の積層部位とが一致しなくなってしまう。この場合、凹部表面910aの一部がレジスト層93’で被覆されず、さらに凹部表面910aを除く基板表面91aの一部がレジスト層93’で被覆される。このような状態の基板を使用して次工程以降を行うと、図4(b)に示すように、露出された凹部表面910a上に修飾層95が積層されると共に、レジスト層93’で被覆された基板表面91a上には修飾層95が積層されない。したがって、レジスト層93’を除去して得られる表面修飾基板9では、図4(c)に示すように、凹部表面910aの一部が修飾層95で被覆され、凹部表面910aを除く基板表面91aの一部が修飾層95で被覆されずに露出される。したがって、基板91の上方から平面視した時の凹部910のパターンと、修飾層95で被覆されていない非修飾部902のパターンとが一致せず、基板表面91aの修飾精度が劣ったものとなる。そして、修飾精度が著しく低下した表面修飾基板は、実用に適さない。
【0006】
このような修飾精度の低下は、図4(a)に示すように、レジスト層93’のパターニング精度の低下が原因で生じる。そして、レジスト層93’のパターニング精度は、基板表面の修飾パターンが微細であるほど低下し易く、例えば、ナノメートルオーダーの微細な修飾パターンを有する表面修飾基板を効率的に製造することが困難な場合がある。すなわち、従来の製造方法は、表面に微細な修飾パターンを有する表面修飾基板の製造には、必ずしも適さないという問題点があった。
【0007】
本発明は上記事情に鑑みて為されたものであり、表面に微細で高精度な修飾パターンを有する表面修飾基板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、基板表面に修飾層が設けられた表面修飾基板の製造方法であって、光透過性を有する基板表面の所定箇所を金属マスクで被覆し、エッチングして、基板表面に凹部を形成する工程と、前記金属マスクを除去することなく、前記基板上の全面をネガ型フォトレジストで被覆する工程と、前記基板の裏面側から前記ネガ型フォトレジストを露光させ、次いで現像することで、レジスト層をパターニングする工程と、前記レジスト層を除去することなく、前記金属マスクを除去し、次いで基板上の全面を修飾剤で被覆して修飾層を設ける工程と、前記レジスト層上の修飾層を、該修飾層で被覆されているレジスト層と共に除去する工程と、を有することを特徴とする表面修飾基板の製造方法である。
請求項2に記載の発明は、CF、C、C、C、C、C、CHF、CH及びSFからなる群から選択される少なくとも一種のガスから生成されるプラズマを使用したドライエッチングで前記凹部を形成することを特徴とする請求項1に記載の表面修飾基板の製造方法である。
請求項3に記載の発明は、前記修飾剤として撥液性を発現する撥液処理剤を使用し、前記修飾層を撥液性とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面修飾基板の製造方法である。
請求項4に記載の発明は、前記撥液処理剤が、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項3に記載の表面修飾基板の製造方法である。
【0009】
【化1】

【0010】
(式中、Rは炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基を表し;R’は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基から一つのフッ素原子を除いた基を表し;Rは下記式(11)〜(16)で表される基のいずれかであり、複数のRは互いに同一でも異なっていても良く;Yは式「−NH−C(=O)−」で表される基又はカルボニル基であり、複数のYは互いに同一でも異なっていても良く;Zは、一つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基又はアルキルオキシアルキル基に、一つの水素原子が置換されたエチレンオキシ基であり、複数のZは互いに同一でも異なっていても良く;j及びkはそれぞれ独立して0又は1であり、複数のj又はkは互いに同一でも異なっていても良く;l及びmはそれぞれ独立して0以上の整数であり、複数のl又はmは互いに同一でも異なっていても良く;lが2以上の整数である場合にはl個のZは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0011】
【化2】

【0012】
(式中、Rは水酸基あるいは水酸基に置換可能な原子又は基を表し;Rは水素原子又は1価の炭化水素基を表し;nは1、2又は3であり、nが2又は3である場合にはn個のRは互いに同一でも異なっていても良く;nが1である場合には2個のRは互いに同一でも異なっていても良い。)
請求項5に記載の発明は、前記一般式(1)又は(2)で表される化合物が、下記一般式(3)又は(4)で表されることを特徴とする請求項4に記載の表面修飾基板の製造方法である。
【0013】
【化3】

【0014】
(式中、Rは炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基を表し;R’は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基から一つのフッ素原子を除いた基を表し;Rは下記式(11)〜(16)で表される基のいずれかであり、複数のRは互いに同一でも異なっていても良く;mは0以上の整数であり、複数のmは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0015】
【化4】

【0016】
(式中、Rは水酸基あるいは水酸基に置換可能な原子又は基を表し;Rは水素原子又は1価の炭化水素基を表し;nは1、2又は3であり、nが2又は3である場合にはn個のRは互いに同一でも異なっていても良く;nが1である場合には2個のRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、表面に微細で高精度な修飾パターンを有する表面修飾基板を安定して製造できる。例えば、ナノメートルオーダーの微細な修飾パターンを有する表面修飾基板でも効率的に製造できるので、本発明は、細胞アレイチップ等の製造に好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の表面修飾基板の製造方法は、基板表面に修飾層が設けられた表面修飾基板の製造方法であって、光透過性を有する基板表面の所定箇所を金属マスクで被覆し、エッチングして、基板表面に凹部を形成する工程と、前記金属マスクを除去することなく、前記基板上の全面をネガ型フォトレジストで被覆する工程と、前記基板の裏面側から前記ネガ型フォトレジストを露光させ、次いで現像することで、レジスト層をパターニングする工程と、前記レジスト層を除去することなく、前記金属マスクを除去し、次いで基板上の全面を修飾剤で被覆して修飾層を設ける工程と、前記レジスト層上の修飾層を、該修飾層で被覆されているレジスト層と共に除去する工程と、を有することを特徴とする。
本発明において、修飾層とは、基板表面に積層され、基板表面とは異なる性質を有する層のことを指す。
以下、本発明について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0019】
図1は、本発明の表面修飾基板の製造工程の一例を説明するための断面図である。
まず、図1(a)に示すように、基板11の表面11a上の所定箇所を金属マスク12で被覆する。金属マスク12は、例えば、スパッタリング等により、基板表面11a上に金属薄膜を成膜した後、該金属薄膜上にフォトレジストを積層させてパターニングし、ウェットエッチングすることにより作製すれば良い。
【0020】
基板11は、光透過性を有する材質からなり、このような材質としては、石英(SiO2)、ガラス、窒化ケイ素(SiN)、サファイア及び樹脂等が例示でき、石英及びガラスが特に好ましい。また、石英(SiO2)、ガラス、窒化ケイ素(SiN)、サファイア及び樹脂等の基材に、窒化ケイ素膜(SiN)、酸化ケイ素膜(SiO2)、ITO等の透明電極膜やサファイアが成膜されたものを基板11として使用してもよい。そして、基板11の材質は、透明度の高いものほど好ましい。ここで、「光透過性を有する」とは、後記するフォトレジストの露光光に対して透過性を有することを指す。一般的にフォトレジストの露光には紫外光領域の波長を有する光が使用されるので、このような光に対して吸収が少ないものが好ましい。
基板11の厚さ及び表面積は、目的に応じて適宜選定すれば良い。本発明は、特に微細な修飾パターンを有する表面修飾基板の製造に好適であるが、細胞アレイチップ等への適用を考慮すると、例えば厚さであれば、通常、0.1〜10mmであることが好ましく、0.15〜1.5mmであることがより好ましい。このような範囲であれば、基板11の微細加工性や得られた表面修飾基板の使用性に特に優れたものとなる。
【0021】
金属マスク12は、光透過性が低いものほど好ましい。具体的な材質としては、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、タンタル(Ta)又はチタン(Ti)が例示できる。または、これら金属を接着層として基板11表面上に堆積させ、その表面上にさらに金(Au)、銀(Ag)又は白金(Pt)を積層させた二層構造の金属マスクでも良い。金属マスク12は、後記する露光工程における露光光の波長に応じて、該露光光を透過させない材質を、適宜選択することが好ましい。
金属マスク12の厚さは、基板11の厚さや、形成する凹部の深さ等を考慮して適宜調整すれば良いが、基板11の厚さが上記範囲内である場合には通常、0.05〜2.0μmであることが好ましく、0.1〜1.0μmであることがより好ましい。
【0022】
次いで、図1(b)に示すように、金属マスク12で所定箇所が被覆された基板11上をウェットエッチングすることにより、凹部110を形成する。ウェットエッチングの方法は、基板11の材質に応じて適宜選択すれば良く、例えば、基板11の材質がガラスである場合には、バッファードフッ酸(BHF)を使用したエッチングが好ましい。
【0023】
凹部110は椀状であって、その表面110aは、基板裏面11b側に向かって膨出するように曲面をなし、中心部において最も深さが深くなっている。また、凹部110は、基板11の上方から平面視した時の外形が略円形状である(図示略)。
凹部110の大きさは、目的に応じて適宜調整すれば良い。例えば、細胞アレイチップ等の微細な修飾パターンを有する表面修飾基板の場合には、凹部110の幅Xは5〜500μmであることが好ましく、15〜200μmであることがより好ましい。また、凹部110の最大深さYは0.1〜7μmであることが好ましく、0.5〜5μmであることがより好ましい。
そして、凹部110の開口部110bの面積も、目的に応じて適宜調整すれば良いが、同様に細胞アレイチップ等の場合には、1.9×10−11〜2.5×10−7であることが好ましく、1.7×10−10〜4×10−8であることがより好ましい。
【0024】
このようなエッチング工程を経ることで、基板11の上方から平面視した時の凹部110のパターンと、金属マスク12で被覆されていない露出部101のパターンとは、高精度に一致する。
【0025】
次いで、図1(c)に示すように、金属マスク12を除去することなく、凹部110が形成された基板11上の全面を、ネガ型フォトレジスト13で被覆する。ネガ型フォトレジスト13は特に限定されるものではなく、公知のもので良い。
そして、基板11の裏面11b側からネガ型フォトレジスト13を露光させる。露光条件は、通常の基板表面側からの条件と同様でよく、目的に応じて任意に設定すれば良い。これにより、露光光14は基板11を裏面11b側から透過し、金属マスク12が設けられていない部位でネガ型フォトレジスト13を感光させる。
【0026】
そして、露光後に現像することで、レジスト層をパターニングする。これにより、図1(d)に示すように、金属マスク12の被覆パターンに対応して、凹部表面110a上がレジスト層13’で被覆された基板11が得られる。
上記のように、凹部110のパターンと露出部101のパターンとは高精度に一致しているので、このような露光及び現像工程を経ることにより、凹部表面110a上にのみレジスト層13’が積層される。したがって、基板11の上方から平面視した時の凹部110のパターンとレジスト層13’のパターンとは高精度に一致するようになる。
【0027】
次いで、レジスト層13’が除去されない条件で金属マスク12を除去することにより、図1(e)に示すように、凹部表面110a上がレジスト層13’で被覆された基板11が得られる。金属マスク12の除去は、その作製時と同様の方法で行うのが好ましく、ウェットエッチングで行うのが好ましい。
【0028】
次いで、レジスト層13’で所定箇所が被覆された基板11上の全面を修飾剤で被覆することにより、図1(f)に示すように、基板表面11a上及びレジスト層13’上に修飾層15が積層された基板11が得られる。
本発明において、修飾剤とは、基板表面を被覆して、基板表面とは異なる性質を発現するものを指す。修飾剤として具体的には、基板と化学結合を形成することなく単に基板表面に積層されるもの、基板と化学結合を形成して基板表面に固定化されるものが例示できる。いずれの場合も、修飾剤としては、通常、基板表面を被覆する前の段階で所望の性質を有しているものが使用できる。また、基板と化学結合を形成する修飾剤の場合には、該化学結合形成後に所望の性質を有するようになるものでも良い。なお、ここで化学結合とは、共有結合等を指す。
【0029】
修飾剤の被覆方法は、修飾剤の種類に応じて適宜選択すれば良いが、ディップ塗布法、スピンコート法、真空蒸着法、CVD(化学気相蒸着)法、プラズマ重合法が例示できる。例えば、ディップ塗布法の場合には、修飾剤溶液を調製し、これを塗布して乾燥することにより、溶媒成分を除去することが好ましい。
修飾層15が積層された基板11は、必要に応じて洗浄及び乾燥させる。洗浄は、メタノールやエタノール等のアルコールを使用しても良いし、例えば、修飾剤溶液がフッ素系溶媒を含有する場合には、フッ素系溶媒を使用しても良い。
【0030】
修飾層15の厚さは、目的に応じて適宜設定すれば良い。また、修飾層15の厚さは、修飾剤の分子の大きさや使用量で調整できる。
【0031】
次いで、レジスト層13’上の修飾層15を、該修飾層15で被覆されているレジスト層13’と共に除去することで、図1(g)に示すように、凹部表面110aが露出され、該表面110aを除く基板表面11aが修飾層15で被覆された、表面修飾基板1が得られる。
修飾層15及びレジスト層13’の除去は、ウェット条件下で行うのが好ましく、レジスト層13’の種類に応じて、各種有機溶媒、酸又はアルカリを使用して行なうのがより好ましい。
【0032】
上記のように、基板11上を修飾剤で被覆する段階では、凹部表面110a上にのみレジスト層13’が積層されているので、表面修飾基板1では、凹部表面110aの一部が修飾層15で被覆されたり、凹部表面110aを除く基板表面11aが修飾層15で被覆されずに露出されたりすることがない。したがって、基板11の上方から平面視した時の凹部110のパターンと、修飾層15で被覆されていない非修飾部102のパターンとが高精度に一致した表面修飾基板1が得られる。このように、本発明によれば、基板表面に微細で高精度な修飾パターン及び非修飾部を形成できる。
【0033】
図2は、本発明の表面修飾基板の製造工程の他の例を説明するための断面図である。
まず、図2(a)に示すように、基板21の表面21a上の所定箇所を金属マスク22で被覆する。
基板21及び金属マスク22は、図1における基板11及び金属マスク12とそれぞれ同様である。
【0034】
次いで、図2(b)に示すように、金属マスク22で所定箇所が被覆された基板21上をドライエッチングすることにより、凹部210を形成する。ドライエッチングは、フッ素原子を含有するガスから生成されるプラズマを使用したエッチングが好ましい。このようなガスとして好ましいものとしては、CF、C、C、C、C、C、CHF、CH及びSFからなる群から選択される少なくとも一種が例示できる。また、必要に応じて、アルゴン(Ar)、水素(H)、酸素(O)及び一酸化炭素(CO)からなる群から選択される少なくとも一種のガスを併用しても良い。
【0035】
凹部210は略円柱状であって、基板21の上方から平面視した時の外形が略円形状であり(図示略)、その底面210aは平坦である。
凹部210の大きさは、図1の凹部110と同様に調整すれば良い。微細な修飾パターンを有する表面修飾基板の場合には、凹部210の幅X及び深さYは、図1におけるX及びYと同様で良い。また、凹部210の開口部210bの面積も、図1における開口部110bの面積と同様で良い。
【0036】
ドライエッチングは、例えば、以下のように行うことができる。すなわち、真空層内に搬入した基板を静電チャック上に載置して密着させ、真空層内を好ましくは0.01Pa以下の圧力となるように真空排気すると共に、基板裏面21b側に冷却用不活性ガスを導入して、放電時の基板表面温度が80〜100℃程度となるように冷却する。次いで、プラズマを生成させるガスを導入して、真空層内の圧力が0.5Pa程度となるように調整し、アンテナに500〜2000Wの電力を、基板にバイアスパワーとして50〜500Wの電力をそれぞれ印加することで、所定の形状となるように基板をドライエッチングする。該ドライエッチング前には、必要に応じて、アルゴン等から生成されたプラズマを使用して基板上をプリエッチングすることで、クリーニングしても良い。また、該ドライエッチング後にも、必要に応じて、酸素等から生成されたプラズマを使用して、基板上に付着した不純物ポリマーをアッシングすることで、クリーニングしても良い。
このようなエッチング工程を経ることで、基板21の上方から平面視した時の凹部210のパターンと、金属マスク22で被覆されていない露出部201のパターンとは、高精度に一致する。
【0037】
以下、図1で説明した場合と同様に、表面修飾基板2が得られる。
まず、図2(c)に示すように、金属マスク22を除去することなく、凹部210が形成された基板21上の全面を、ネガ型フォトレジスト23で被覆する。
そして、基板21の裏面21b側からネガ型フォトレジスト23を露光させる。ネガ型フォトレジスト23及び露光光24は、図1におけるネガ型フォトレジスト13及び露光光14と同様である。
そして、露光後に現像することで、レジスト層をパターニングする。これにより、図2(d)に示すように、金属マスク22の被覆パターンに対応して、凹部表面210a上にのみレジスト層23’が積層された基板21が得られる。基板21の上方から平面視した時の凹部210のパターンとレジスト層23’のパターンとは高精度に一致する。
【0038】
次いで、レジスト層23’が除去されない条件で金属マスク22を除去することにより、図2(e)に示すように、凹部表面210a上がレジスト層23’で被覆された基板21が得られる。金属マスク22の除去は、その作製時と同様の方法で行うのが好ましく、ドライエッチングで行うのが好ましい。
【0039】
次いで、レジスト層23’で所定箇所が被覆された基板11上の全面を修飾剤で被覆することにより、図2(f)に示すように、基板表面21a上及びレジスト層23’上に修飾層25が積層された基板21が得られる。修飾層25は、図1における修飾層15と同様である。
次いで、図1で説明した場合と同様の方法で、レジスト層23’上の修飾層25を、該修飾層25で被覆されているレジスト層23’と共に除去することで、図2(g)に示すように、凹部表面210aが露出され、該表面210aを除く基板表面21aが修飾層25で被覆された、表面修飾基板2が得られる。
【0040】
上記のように、基板21上を修飾剤で被覆する段階では、凹部表面210a上にのみレジスト層23’が積層されているので、基板21の上方から平面視した時の凹部210のパターンと、修飾層25で被覆されていない非修飾部202のパターンとが高精度に一致した表面修飾基板2が得られる。
【0041】
ここでは、基板のエッチングを、図1ではウェットエッチング、図2ではドライエッチングにより行った例をそれぞれ示したが、エッチング方法は、例えば、形成しようとする基板上の凹部の形状によらず、任意に選択できる。ただし、より微細な凹部や形状が精密に制御された凹部を形成する場合には、ドライエッチングを適用するのが好ましい。
また、凹部の形状及び大きさは、図1及び2で説明したものに限定されず、エッチング条件を調整することにより、目的に応じて適宜選択すれば良い。
また、金属マスクの作製と除去は、同様の方法で行なうのが好ましい。
さらに、金属マスクの作製をウェットエッチングで行った場合には、基板のエッチングもウェットエッチングで行うのが好ましい。同様に、金属マスクの作製をドライエッチングで行った場合には、基板のエッチングもドライエッチングで行うのが好ましい。このようにすることで、工程を簡略化できる。
本発明においてドライエッチングを行う場合には、プラズマを使用してエッチングしても良いし、紫外光又はオゾン照射によりエッチングしても良い。
【0042】
本発明においては、特定の性質を有する修飾層を適宜選択して形成することにより、当該性質を反映した種々の表面修飾基板を製造できる。そして、本発明は、微細な修飾パターンを有する表面修飾基板の製造に特に好適である。例えば、生体関連物質検出用センサ、細胞接着用基板、細胞培養用基板、細胞電位計測用の微小電極アレイデバイス等の各種細胞アレイチップでは、基板表面の所定箇所に微小な撥液性を有する層(以下、撥液層と略記する)を形成するが、このような表面修飾基板の製造に、本発明は特に好適である。なお、ここで「撥液」とは、「撥水」及び/又は「撥油」を指す。
以下、一例として、微小な撥液層の形成について説明する。
【0043】
撥液層は、修飾剤として撥液処理剤を使用し、これで基板表面11a又は12a上の所定箇所を被覆することで形成できる。
例えば、細胞アレイチップを製造する場合には、撥液層表面は、水の接触角が100°以上である撥水性を有することが好ましく、ヘキサデカンの接触角が50°以上である撥油性を有することが好ましい。撥水性及び撥油性の大きさは、撥液処理剤の種類により調整できる。
このような撥液性を有することにより、撥液層表面においては生体関連物質の吸着が抑制されるので、該生体関連物質に特異的に結合する物質を、撥液層が形成されていない非修飾部に選択的に固定化することで、生体関連物質検出用センサ等を製造できる。また、撥液層表面において生体関連物質の吸着が抑制されることで、細胞が吸着する際の足場が形成されないので、撥液層が形成されていない非修飾部に細胞を選択的に吸着させて固定化することで、細胞接着用基板、細胞培養用基板、細胞電位計測用の微小電極アレイデバイス等を製造できる。
【0044】
撥液層は、如何なる材質でも良い。例えば、ポリテトラフオロエチレン等、従来より汎用されている撥液処理剤で形成できる。
しかし、本発明において撥液層は、光透過性を有するものが好ましい。ここで言う「光透過性を有する」とは、基板11及び21の場合とは異なり、例えば、フォトレジストの露光の際に使用する紫外光に対して透過性を有することを指すものではなく、多岐波長領域、具体的には紫外光、可視光、赤外光に対して十分な透過性を有することを指し、特に可視光に対して透過性を有することが好ましい。このようにすることで、例えば、顕微鏡等を使用して計測対象の細胞を光学的に解析する際に、効果的にノイズを低減でき、より高感度に解析できる。特に、顕微鏡観察下でレーザを照射し、通常光ピンセットと呼ばれる技術を適用したり、細胞に光刺激を与えて解析するのに好適である。そして、撥液層は、透明ガラスや石英(SiO)と同等の透明度であることが好ましい。撥液層をこのような光透過性とするためには、酸化ケイ素膜、石英(SiO)、およびガラスと同様の屈折率を有し、かつ紫外光、可視光、赤外光の波長に対して十分薄い厚さで成膜できる撥液処理剤を使用すれば良い。このような撥液処理剤としては好ましいものとしては、撥液性及び光透過性を有するフッ素含有化合物が例示できる。
【0045】
前記フッ素含有化合物としては、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基を分子の一端に有する化合物が好ましく、より好ましいものとして、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物(以下、それぞれ化合物(1)、化合物(2)と略記する)が例示できる。
【0046】
【化5】

【0047】
(式中、Rは炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基を表し;R’は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基から一つのフッ素原子を除いた基を表し;Rは下記式(11)〜(16)で表される基のいずれかであり、複数のRは互いに同一でも異なっていても良く;Yは式「−NH−C(=O)−」で表される基又はカルボニル基であり、複数のYは互いに同一でも異なっていても良く;Zは、一つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基又はアルキルオキシアルキル基に、一つの水素原子が置換されたエチレンオキシ基であり、複数のZは互いに同一でも異なっていても良く;j及びkはそれぞれ独立して0又は1であり、複数のj又はkは互いに同一でも異なっていても良く;l及びmはそれぞれ独立して0以上の整数であり、複数のl又はmは互いに同一でも異なっていても良く;lが2以上の整数である場合にはl個のZは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0048】
【化6】

【0049】
(式中、Rは水酸基あるいは水酸基に置換可能な原子又は基を表し;Rは水素原子又は1価の炭化水素基を表し;nは1、2又は3であり、nが2又は3である場合にはn個のRは互いに同一でも異なっていても良く;nが1である場合には2個のRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【0050】
は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基である。ここで「パーフルオロアルキル基」とは、「アルキル基の水素原子がすべてフッ素原子に置換されたもの」を指す。また、「パーフルオロアルキルエーテル基」とは、「前記パーフルオロアルキル基が酸素原子に結合した一価の基」を指す。
における前記アルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシルが例示できる。
の炭素数は、3〜12であることが好ましく、6〜10であることがより好ましい。
また、Rは直鎖状であることが好ましく、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。
【0051】
’は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基から一つのフッ素原子を除いた基を表す。具体的には、前記Rから一つのフッ素原子を除いた二価の基が例示できる。R’の炭素数が2以上である場合には、前記Rの「Z」に結合している炭素原子とは反対側の末端の炭素原子に結合しているフッ素原子を一つ除いた二価の基が好ましい。
【0052】
は前記式(11)〜(16)で表される基のいずれかである。そして、複数のRは互いに同一でも異なっていても良く、例えば、化合物(2)における両分子末端のRは互いに同一でも異なっていても良いし、化合物(1)におけるRと化合物(2)におけるRとは互いに同一でも異なっていても良い。
【0053】
は水酸基あるいは水酸基に置換可能な原子又は基を表す。
の水酸基に置換可能な原子としては、好ましいものとしてフッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子等のハロゲン原子が挙げられ、なかでも塩素原子が特に好ましい。
また、水酸基に置換可能な基としては、好ましいものとして、炭素数が1〜6のアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基及びアシルオキシ基が挙げられる。
炭素数が1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペントキシ基及びヘキシルオキシ基が例示できる。
アリールオキシ基としては、フェノキシ基及びナフトキシ基が例示できる。
アラルキルオキシ基としては、ベンジルオキシ基及びフェネチルオキシ基が例示できる。
アシルオキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基及びベンゾイルオキシ基が例示できる。
これらのなかでもRとしては、塩素原子、メトキシ基及びエトキシ基がより好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0054】
は水素原子又は1価の炭化水素基を表す。
の1価の炭化水素基は特に限定されず、鎖状構造及び環状構造のいずれでも良く、飽和及び不飽和のいずれでも良い。鎖状構造の場合には、直鎖状及び分岐鎖状のいずれでも良く、環状構造である場合には、単環構造及び多環構造のいずれでも良い。
なかでも、好ましいものとして、炭素数が1〜6のアルキル基、アリール基及びアラルキル基が挙げられる。
炭素数が1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基及びヘキシル基が例示できる。
アリール基としては、フェニル基及びナフチル基が例示できる。
アラルキル基としては、ベンジル基及びフェネチル基が例示できる。
これらのなかでもRとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基がより好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0055】
Yは式「−NH−C(=O)−」で表される基又はカルボニル基である。すなわち、隣り合うメチレン基及び酸素原子とは、以下のように結合する。
「−(CH−(NH−C(=O))−(O)−」
「−(CH−(C(=O))−(O)−」
そして、複数のYは互いに同一でも異なっていても良く、例えば、化合物(2)において「R’」を挟んで対峙しているY同士は互いに同一でも異なっていても良いし、化合物(1)におけるYと化合物(2)におけるYとは互いに同一でも異なっていても良い。
【0056】
Zは、一つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基又はアルキルオキシアルキル基に、一つの水素原子が置換されたエチレンオキシ基である。前記エチレンオキシ基の末端の酸素原子が隣り合うRに結合する。
前記エチレンオキシ基の置換されていても良い水素原子の数は、一つであることが好ましい。また、一つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていても良い前記アルキル基又はアルキルオキシアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であることが好ましく、直鎖状であることがより好ましい。そして、炭素数は1〜16であることが好ましい。
そして、複数のZは互いに同一でも異なっていても良く、例えば、化合物(2)において「R’」を挟んで対峙しているZ同士は互いに同一でも異なっていても良いし、化合物(1)におけるZと化合物(2)におけるZとは互いに同一でも異なっていても良い。
【0057】
j及びkはそれぞれ独立して0又は1であり、0であることが特に好ましい。また、複数のj又はkは互いに同一でも異なっていても良い。例えば、化合物(2)において「R’」を挟んで対峙しているYにかかるj同士は互いに同一でも異なっていても良いし、化合物(1)におけるYにかかるjと化合物(2)におけるYにかかるjとは互いに同一でも異なっていても良い。kについても同様である。
【0058】
l及びmはそれぞれ独立して0以上の整数である。
そして、lは0であることが特に好ましい。
mは0〜3であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、2であることが特に好ましい。
また、複数のl又はmは互いに同一でも異なっていても良い。例えば、化合物(2)において「R’」を挟んで対峙しているZにかかるl同士は互いに同一でも異なっていても良いし、化合物(1)におけるZにかかるlと化合物(2)におけるZにかかるlとは互いに同一でも異なっていても良い。mについても同様である。
さらに、lが2以上の整数である場合には、l個のZは互いに同一でも異なっていても良い。
【0059】
nは1、2又は3であり、nが2又は3である場合には、n個のRは互いに同一でも異なっていても良く、nが1である場合には、2個のRは互いに同一でも異なっていても良い。
【0060】
化合物(1)又は(2)としては、より好ましいものとして、下記一般式(3)又は(4)で表されるものが挙げられる。
【0061】
【化7】

【0062】
(式中、R、R’、R、mは前記と同様である。)
【0063】
また、前記一般式(1)又は(2)において、Zが「−(CHR−CHR−O)l’−(CHR−CHR−O)l’’」で表される化合物も、より好ましいものとして挙げられる。
ここで、R及びRの一方は水素原子を表し、他方はメチル基の一つの水素原子が、炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のフルオロアルキル基又はフルオロアルキルエーテル基に置換された基を表す。ここで「フルオロアルキルエーテル基」とは、「前記炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のフルオロアルキル基が酸素原子に結合した一価の基」を指す。
また、R及びRの一方は水素原子を表し、他方は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はアルキルエーテル基を表す。ここで「アルキルエーテル基」とは、「前記炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基が酸素原子に結合した一価の基」を指す。
【0064】
l’は、2以上の整数であり、2〜20であることが好ましく、5〜10であることがより好ましい。
l’’は、0以上の整数であり、0〜20であることが好ましく、0であることがより好ましい。
【0065】
及びRにおける、メチル基の一つの水素原子が置換された前記フルオロアルキル基としては、CF−、CHF−、CClF−、C−、CHFCF−、CClFCF−、(CFCF−、CFCFCF−、(CHFCF−、(CF)(CHF)CF−、(CFCFCFCF−、(CFCF(CFCF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF−、CF(CF11−、CF(CF13−、CF(CF15−が例示できる。
そしてR及びRにおける、メチル基の一つの水素原子が置換された前記フルオロアルキルエーテル基としては、これらフルオロアルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
【0066】
及びRにおける前記アルキル基としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、トリデシル、テトラデシル、ペンタデシル、ヘキサデシルが例示できる。
そしてR及びRにおける前記アルキルエーテル基としては、これらアルキル基が酸素原子に結合した一価の基が例示できる。
【0067】
撥液層は、上記のように、撥液処理剤を前記基板に結合させることで形成できる。撥液処理剤は、市販品を使用しても良い。
例えば、基板表面が水酸基を有する場合には、前記化合物(1)又は(2)として、Rが前記式(11)、(12)又は(16)等で表される基を有するものを使用することが好ましい。
なかでも、前記式(16)等で表される有機シリル基を有する化合物(1)又は(2)は、市販品の入手が容易であり好適である。このような市販品としては、例えば、サイトップシリーズ(商標、旭硝子株式会社製)、メガファック(商標、大日本インキ化学工業株式会社製)、ディックガード(商標、大日本インキ化学工業株式会社製)、FPX−30G(商標、JSR株式会社製)、ノベックEGC−1720(商標、住友スリーエム株式会社製)、Patinalシリーズ(substance WR1,WR2,WR3)(商標、メルク株式会社製)、オプツールDSX(商標、ダイキン工業株式会社製)が例示できる。
【0068】
また、Rが前記式(11)、(12)及び(16)以外の基、例えば、前記式(13)、(14)又は(15)等で表される基を有するものである場合には、これらの基と反応可能な官能基を有するように基板表面を処理しても良い。
例えば、Chembiochem,2,686−694(2001)(Benters R. Et al.)に記載の方法によれば、Rとして前記式(14)で表される基(すなわち、アミノ基)を有する化合物(1)又は(2)を、基板に結合させることができる。
また、例えば、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルジエトキシメチルシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチルアミノ)プロピルジメトキシメチルシラン等のアミノ基を有する有機シラン化合物を基板表面に結合させておけば、Rとして前記式(13)で表される基(すなわち、カルボキシル基)又は前記式(15)で表される基(すなわち、エポキシ基)を有する化合物(1)あるいは(2)を、基板に結合させることができる。前記有機シラン化合物は、入手も容易である。
【0069】
撥液層において、撥液処理剤は、少なくとも分子の一部、好ましくは分子の一端が基板上の特定の原子や官能基と結合する一方、撥液性を有する部位が基板の外側へ向けて露出するように配向すると推測される。例えば、撥液処理剤として前記化合物(1)を使用した場合には、そのRが基板と結合する一方、Rが基板の外側へ向けて露出するように配向する。また、前記化合物(2)を使用した場合には、その一つ又は二つのRが基板と結合する一方、R’が基板の外側へ向けて露出するように配向すると推測される。
このように、撥液性を有する部位が配向することで、撥液層が撥液効果を発現すると推測される。したがって、前記化合物(1)又は(2)のように、パーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基を有する化合物を使用することで、基板により高い撥液効果を発現させることが可能となる。
【0070】
また、前記化合物(1)又は(2)を使用して形成した撥液層は、従来のポリテトラフオロエチレンなどを含む層よりも、透明度に優れ、薄い単層薄膜とするのに好適であり、パターニングや除去などの微細加工性に優れる。透明度が優れているので、例えば、細胞や物質を光学的に計測する場合には、ノイズの大幅な低減が可能であり、高感度な解析が可能である。また、微細加工性に優れているので、上記のように基板11又は12上に、微小な非修飾部102又は202を多数形成できる。これにより、表面修飾基板1又は2上での解析対象物の配置密度を高くできるので、高い効率で解析できる。
【0071】
撥液層中の撥液処理剤は一種でも良いし、二種以上でも良い。二種以上を併用する場合には、その組み合わせ及び比率等は目的に応じて適宜選択できる。
また、撥液層は、本発明の効果を妨げない範囲で、撥液処理剤以外の如何なる成分を含んでいても良い。
【0072】
撥液層の厚さは、基板の用途等に応じて適宜調整することが好ましい。例えば、各種細胞アレイチップの場合であれば、通常は、100nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが特に好ましい。このような範囲とすることで、撥液層は微細加工性に優れたものとなる。さらに、例えば、高感度に解析可能な細胞アレイチップ等が作製できる。なかでも、前記化合物(1)又は(2)を使用して基板表面上に単分子膜を形成することで、撥液層の厚さを10nm以下とすることができ、特に優れた効果を奏する表面修飾基板が得られる。
【0073】
本発明によれば、基板の上方から平面視した時の凹部のパターンと、修飾層で被覆されていない非修飾部のパターンとが高精度に一致した表面修飾基板が得られるので、基板表面に微細で高精度な修飾パターン及び非修飾部を形成できる。そして、例えば、修飾剤として前記化合物(1)又は(2)を使用することで、微細加工性に一層優れた撥液層を形成できるので、これらの効果が相乗的に発揮される。
【実施例】
【0074】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
(実施例1)
図1で説明した方法により、細胞アレイチップを作製した。
すなわち、基板11として、パイレックス(登録商標)(コード7059、コーニングインターナショナル株式会社製)のガラス基板(厚さ;0.7mm)を使用し、その表面11a全面に、アルゴンプラズマを使用したスパッタリングにより、厚さ0.3μmのクロム薄膜を成膜した。そして、該クロム薄膜上に所定のパターンでフォトレジストをパターニングし、このガラス基板をクロムエッチング溶液に浸漬することで、金属マスク12としてクロムマスクを形成した。
次いで、クロムマスクを形成したガラス基板をバッファードフッ酸(BHF)に浸漬して、ガラス基板をエッチングすることで、図1と同様の形状で、Xが25μm、Yが1μmである凹部110を形成した。
次いで、ネガ型フォトレジスト13としてZPN(日本ゼオン株式会社製)を、凹部110が形成された基板11上の全面に塗布し、基板裏面11b側から露光させ、露光後の基板をクロムエッチング溶液に浸漬して、クロムマスクを剥離させた。
そして、レジストでパターニングされたガラス基板上の全面に、修飾剤としてオプツールDSX(商標、ダイキン工業株式会社製)をディップ塗布し、一晩乾燥させた後、100℃で1時間加熱して、フッ素系溶媒(0.02mol/LのCF−(CF−(CH−SiCl)であるノベックHFE(商標、住友スリーエム株式会社製)を使用して洗浄することで、修飾層15として非細胞接着層(撥液層)を形成した。非細胞接着層の厚さをエリプソメータで測定した結果、4.5nmであった。
次いで、ガラス基板上のレジストを、これを被覆する非細胞接着層と共にすべて除去することで、細胞配置部である凹部110を形成し、該細胞配置部以外のガラス基板表面が非細胞接着層で被覆された細胞アレイチップを得た。
【0075】
(実施例2)
図2で説明した方法により、細胞アレイチップを作製した。
すなわち、基板21として、パイレックス(登録商標)(コード7059、コーニングインターナショナル株式会社製)のガラス基板(厚さ;0.7mm)を使用し、その表面21a全面に、アルゴンプラズマを使用したスパッタリングにより、厚さ0.5μmのアルミニウム薄膜を成膜した。そして、該アルミニウム薄膜上に所定のパターンでフォトレジストをパターニングし、このパターニング面をドライエッチングした。ドライエッチングは、Cl、BCl及びCClの混合ガスから生成されたプラズマを使用して行なった。これにより、金属マスク22としてアルミニウムマスクを形成した。
次いで、ドライエッチングを行い、図2と同様の形状で、Xが15μm、Yが3μmである凹部210を形成した。この時のドライエッチングの条件は、先に図2において説明した通りであり、Cガスから生成されたプラズマを使用して行った。
次いで、ネガ型フォトレジスト23としてZPN(日本ゼオン株式会社製)を、凹部210が形成された基板21上の全面に塗布し、基板裏面21b側から露光させ、上記と同様に混合ガスから生成されたプラズマを使用してドライエッチングを行い、アルミニウムマスクを剥離させた。
そして、レジストでパターニングされたガラス基板上の全面に、WR1 Partinal(商品名、メルク株式会社製)を蒸着源とした真空蒸着法により、修飾層25として非細胞接着層(撥液層)を形成した。この時、蒸着源の温度は360℃から450℃とし、10−3Paの真空度で30秒間蒸着した。また、非細胞接着層の厚さをエリプソメータで測定した結果、約5nmであった。
次いで、ガラス基板上のレジストを、これを被覆する非細胞接着層と共にすべて除去することで、細胞配置部である凹部210を形成し、該細胞配置部以外のガラス基板表面が非細胞接着層で被覆された細胞アレイチップを得た。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明は、細胞機能の研究、細胞を用いるバイオアッセイや物質生産などの分野に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の表面修飾基板の製造工程の一例を説明するための断面図である。
【図2】本発明の表面修飾基板の製造工程の他の例を説明するための断面図である。
【図3】表面修飾基板の従来の製造工程の一例を説明するための断面図である。
【図4】表面修飾基板の従来の製造方法における問題点を説明するための断面図である。
【符号の説明】
【0078】
1,2・・・表面修飾基板、11,12・・・基板、11a,12a・・・基板表面、11b,12b・・・基板裏面、12,22・・・金属マスク、110,120・・・凹部、13,23・・・ネガ型フォトレジスト、14,24・・・露光光、13’,23’・・・レジスト層、15,25・・・修飾層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板表面に修飾層が設けられた表面修飾基板の製造方法であって、
光透過性を有する基板表面の所定箇所を金属マスクで被覆し、エッチングして、基板表面に凹部を形成する工程と、
前記金属マスクを除去することなく、前記基板上の全面をネガ型フォトレジストで被覆する工程と、
前記基板の裏面側から前記ネガ型フォトレジストを露光させ、次いで現像することで、レジスト層をパターニングする工程と、
前記レジスト層を除去することなく、前記金属マスクを除去し、次いで基板上の全面を修飾剤で被覆して修飾層を設ける工程と、
前記レジスト層上の修飾層を、該修飾層で被覆されているレジスト層と共に除去する工程と、
を有することを特徴とする表面修飾基板の製造方法。
【請求項2】
CF、C、C、C、C、C、CHF、CH及びSFからなる群から選択される少なくとも一種のガスから生成されるプラズマを使用したドライエッチングで前記凹部を形成することを特徴とする請求項1に記載の表面修飾基板の製造方法。
【請求項3】
前記修飾剤として撥液性を発現する撥液処理剤を使用し、前記修飾層を撥液性とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の表面修飾基板の製造方法。
【請求項4】
前記撥液処理剤が、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であることを特徴とする請求項3に記載の表面修飾基板の製造方法。
【化1】

(式中、Rは炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基を表し;R’は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基から一つのフッ素原子を除いた基を表し;Rは下記式(11)〜(16)で表される基のいずれかであり、複数のRは互いに同一でも異なっていても良く;Yは式「−NH−C(=O)−」で表される基又はカルボニル基であり、複数のYは互いに同一でも異なっていても良く;Zは、一つ以上の水素原子がフッ素原子で置換されていても良いアルキル基又はアルキルオキシアルキル基に、一つの水素原子が置換されたエチレンオキシ基であり、複数のZは互いに同一でも異なっていても良く;j及びkはそれぞれ独立して0又は1であり、複数のj又はkは互いに同一でも異なっていても良く;l及びmはそれぞれ独立して0以上の整数であり、複数のl又はmは互いに同一でも異なっていても良く;lが2以上の整数である場合にはl個のZは互いに同一でも異なっていても良い。)
【化2】

(式中、Rは水酸基あるいは水酸基に置換可能な原子又は基を表し;Rは水素原子又は1価の炭化水素基を表し;nは1、2又は3であり、nが2又は3である場合にはn個のRは互いに同一でも異なっていても良く;nが1である場合には2個のRは互いに同一でも異なっていても良い。)
【請求項5】
前記一般式(1)又は(2)で表される化合物が、下記一般式(3)又は(4)で表されることを特徴とする請求項4に記載の表面修飾基板の製造方法。
【化3】

(式中、Rは炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基を表し;R’は炭素数1〜16の直鎖状若しくは分岐鎖状のパーフルオロアルキル基又はパーフルオロアルキルエーテル基から一つのフッ素原子を除いた基を表し;Rは下記式(11)〜(16)で表される基のいずれかであり、複数のRは互いに同一でも異なっていても良く;mは0以上の整数であり、複数のmは互いに同一でも異なっていても良い。)
【化4】

(式中、Rは水酸基あるいは水酸基に置換可能な原子又は基を表し;Rは水素原子又は1価の炭化水素基を表し;nは1、2又は3であり、nが2又は3である場合にはn個のRは互いに同一でも異なっていても良く;nが1である場合には2個のRは互いに同一でも異なっていても良い。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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