説明

表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子

【課題】より高い難燃性を示し、樹脂に充填する時に発生する混練トルクが小さいギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を提供する。
【解決手段】本発明の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子の表面をシリコーンオイルにより表面処理がなされた表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子であって、
前記ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、平均一次粒子径が0.01〜0.3μmであり、DOP給油量が90〜300mL/100gであり、平均二次粒子径が0.1〜10μmであって、
前記シリコーンオイルの使用量が前記表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム中、0.5〜4重量部である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子に関し、詳しくは樹脂に充填される難燃剤として好適に使用される表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、樹脂に充填される難燃剤として有用であり、例えば特許文献1〔特開平3−8715号公報〕には、平均一次粒子径が0.15μm以下のギブサイト型水酸化アルミニウム粒子が難燃剤として用いうる旨が開示されている。
【0003】
しかし、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子としては、より難燃性に優れたものが求められて、かつ、樹脂に充填する時に発生する混練トルクが小さなものが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平3−8715号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明者は、より高い難燃性を示し、樹脂に充填する時に発生する混練トルクが小さいギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を開発するべく鋭意検討した結果、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち本発明の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子の表面をシリコーンオイルにより表面処理がなされた表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子であって、
前記ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、平均一次粒子径が0.01〜0.3μmであり、DOP給油量が90〜300mL/100gであり、平均二次粒子径が0.1〜10μmであって、
前記シリコーンオイルの使用量が前記表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム中、0.5〜4重量部である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、より高い難燃性を示し、樹脂に充填する時に発生する混練トルクが小さいので、樹脂に充填されて用いられる難燃剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
<表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子>
本発明の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子の表面をシリコーンオイルにより表面処理がなされたものである。ギブサイト型の結晶構造を主結晶相とする水酸化アルミニウムの粒子であり、化学式Al23・3H2Oで示される化合物である。結晶構造は粉末X線回折法(粉末XRD法)により調べることができる。
【0009】
本発明におけるギブサイト型水酸化アルミニウム粒子の平均一次粒子径は、0.01〜0.3μmであり、好ましくは0.03μm以上、0.2μm以下、さらに好ましくは0.1μm以下である。平均一次粒子径が0.01μm未満であったり、0.3μmを超えると、十分な難燃性を示さない。平均一次粒子径は、例えば透過型電子顕微鏡(TEM)により得られる顕微鏡写真から測定することができる。
【0010】
DOP吸油量は、90〜300mL/100gであり、好ましくは100〜180mL/100gである。DOP吸油量が90mL/100g未満では、難燃性が十分ではなくなる傾向にあり、また300mL/100gを超えると、加熱溶融状態の樹脂に加えると、その流動性が低下して、成形が困難となる傾向にある。
【0011】
本発明におけるギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、平均二次粒子径が0.01〜10μmである。平均二次粒子径は、水酸化アルミニウム粒子を水に分散させ、レーザー散乱式粒度分布計により測定することができる。平均二次粒子径が10μmを超えると、樹脂に充填したときに物性に劣る樹脂組成物が得られ易い。
【0012】
本発明におけるギブサイト型水酸化アルミニウム粒子のBET比表面積は、15〜100m2/gであることが好ましい。
【0013】
本発明におけるギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、例えばアルミン酸ナトリウム水溶液を部分中和することにより水酸化アルミニウムを析出させて水酸化アルミニウムスラリーとし、該スラリーを40〜90℃で熟成処理する方法により製造することができる。
【0014】
アルミン酸ナトリウム水溶液のアルミニウム含有量は、該水溶液を基準とするAl23換算で通常100〜150g/Lであり、ナトリウム含有量は、該水溶液を基準とするNa2O換算で通常100〜150g/Lである。
【0015】
部分中和するには、例えばアルミニウム酸性塩を加えればよい。アルミニウム酸性塩とは、これ単独を水に溶解させた水溶液が酸性を示す塩であり、例えば硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが挙げられる。アルミニウム酸性塩の使用量(W)は、アルミン酸ナトリウム水溶液を完全に中和することなく、水酸化アルミニウムを析出させることができる程度であり、具体的にはアルミン酸ナトリウム水溶液を完全に中和するに要するアルミニウム酸性塩の使用量(W0)に対する使用量比として示される中和モル比(=W/W0)で、0.3〜0.7程度である。アルミニウム酸性塩を加える際の温度は、通常0〜40℃程度である。アルミニウム酸性塩は攪拌下で加えることが好ましい。
【0016】
アルミニウム酸性塩を加えることにより、アルミン酸ナトリウム水溶液が中和されて、水酸化アルミニウムが析出し、水に水酸化アルミニウムが分散された水酸化アルミニウムスラリーが得られる。
【0017】
得られた水酸化アルミニウムスラリーを熟成する。熟成は、40〜90℃に加温することにより行われる。熟成に要する時間は、通常5時間〜7日程度である。熟成により、析出した水酸化アルミニウムが徐々にギブサイト化して、本発明におけるギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を得ることができる。
【0018】
得られたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、例えば熟成後のスラリーを遠心分離処理して固液分離したのち、固形分として取り出すことができる。取り出されたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、さらに純水、メタノールなどのアルコール類により洗浄して、ナトリウム分を除去することが好ましい。
【0019】
得られたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子とシリコーンオイルとを攪拌機等で攪拌することによりギブサイト型水酸化アルミニウム粒子の表面がシリコーンオイルにより表面処理がなされ、表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子が得られる。シリコーンオイルの使用量は、表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム中、0.5〜4重量部である。このようにして得られた本発明の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、より高い難燃性を示し、樹脂に充填する時に発生する混練トルクが小さいので、樹脂に充填されて用いられる難燃剤として有用である。
【0020】
樹脂としては、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が用いられる。
熱可塑性樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどのオレフィン単独重合体、エチレン−プロピレンランダム共重合体、エチレン−プロピレンブロック共重合体、プロピレンーブテンランダム共重合体、プロピレン−ブテンブロック共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン共重合体などのオレフィン共重合体などのオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートなどの芳香族ポリエステル、ポリカプロラクタム、ポリヒドロキシブチレートなどのポリエステル、ナイロン−6、ナイロン−66、ナイロン−10、ナイロン−12、ナイロン−46などのポリアミドなどが挙げられる。
【0021】
熱硬化性樹脂としては、例えばエポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリイミド、ポリウレタン、メラミン樹脂などが挙げられる。
【0022】
表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子の充填量は、樹脂100重量部あたり通常30〜150重量部程度である。
【0023】
表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を樹脂に充填する充填方法は特に限定されるものではなく、樹脂の種類に応じて適宜選択され、例えば熱可塑性樹脂に本発明の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を充填する場合には、熱可塑性樹脂を本発明の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子と混合し、加熱して溶融混練すればよい。
【実施例】
【0024】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定されるものではない。
【0025】
なお、各実施例において、得られたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子のDOP吸油量は、JIS K6221(1982)の吸油量B法(へら練り法)においてDBP(ジブチルフタレート)に代えてDOP(ジオクチルフタレート)を用いる以外は同法に従って求めた。
平均一次粒子径は、透過型電子顕微鏡写真から求めた。
主結晶相は、X線回折装置〔理学電機製、「RAD−RB RU−200」〕を用いて求めたX線回折スペクトルにおいて、最も高い相対ピーク強度を示すピークから求めた。
平均二次粒子径は、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を純水に分散させ、レーザー散乱式粒度分布計〔リード アンド ノースラップ社製、「マイクロトラックHRA」〕により、粒度分布曲線を求め、50重量%粒子径として求めた。
BET比表面積は窒素吸着法(JIS Z 8830)により求めた。
難燃性は1mm厚の樹脂組成物を成形し、これを用いて難燃性の評価尺度として、米国UL規格のUL−94に規定されている垂直燃焼試験に従って評価を行った。
【0026】
実施例1
〔ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子の製造〕
ナトリウム含有量(Na2O換算)133g/L、アルミニウム含有量(Al23換算)137g/Lのアルミン酸ナトリウム水溶液1358重量部に、30℃にて、5.3重量%濃度の硫酸アルミニウム水溶液537重量部を加えたところ、水酸化アルミニウムが析出した。その後、同温度で60分間撹拌した。なお、硫酸アルミニウムの使用量は、アルミン酸ナトリウム水溶液を完全に中和するに要する量の0.5倍である。
【0027】
次いで、純水500重量部を加え、60℃に加温し、同温度で4日間静置して熟成したのち、室温(約25℃)まで冷却し、遠心分離により固液分離して、固形分を取り出した。得られた固形分は、純水3990重量部を加え、撹拌したのち、遠心分離により固液分離する操作を3回繰り返して、洗浄した。洗浄後の固形分を大気中、120℃で乾燥し、解砕機〔奈良機械社製、「自由粉砕機」〕により解砕処理して、ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を得た。
【0028】
得られたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子のDOP吸油量は112mL/100gであり、平均一次粒子径は概ね0.2μmであり、主結晶相はギブサイト型であった。また、平均二次粒子径は0.4μmであり、105μmを超える粒子径の二次粒子を含まず、BET比表面積は17m2/gであった。
【0029】
〔表面処理〕
上記で得られたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子97重量部に対してシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、「SH200−50cs」)3重量部を混合した後、ヘンシェル型ミキサー(カワタ製作所製、「スーパーミキサー」)で設定温度を110℃、回転速度を1200rpmで30分間攪拌して、表面処理することにより表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を得た。
【0030】
実施例2
実施例1で得られたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子99重量部に対してシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、「SH200−100cs」)1重量部を混合した以外は実施例1と同じ操作を行って表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を得た。
【0031】
実施例3
実施例1で得られたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子97重量部に対してシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、「SH200−100cs」)3重量部を混合した以外は実施例1と同じ操作を行って表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を得た。
【0032】
比較例1
実施例1で得られたギブサイト型水酸化アルミニウム粒子95重量部に対してシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、「SH200−100cs」)5重量部を混合した以外は実施例1と同じ操作を行って表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を得た。
【0033】
比較例2
実施例3においてギブサイト型水酸化アルミニウム粒子として、DOP吸油量が47ml/100gである水酸化アルミニウム粒子(住友化学社製、「C−303」)を使用した以外は実施例3と同じ操作を行って表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子を得た。
【0034】
実施例4
〔評価〕
実施例1で得られた表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子200重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体(住友化学社製、「エバート H−2031」)100重量部、および酸化防止剤(チバスペシャリティーケミカル社製、「IRGANOX1010」)1重量部を混合した混合物を混練機(東洋精機社製、「ラボプラストミル」)を用いて、設定温度を160℃、スクリューの回転速度を40rpmで混練し混練物を得た。この混練物を190℃でプレス成型し、1mm厚にした後に切り出して樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0035】
実施例5
実施例2の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子200重量部を使用した以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0036】
比較例3
比較例1の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子200重量部を使用した以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0037】
比較例4
実施例1における表面処理がなされる前のギブサイト型水酸化アルミニウム粒子200重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体(住友化学社製、「エバート H−2031」)100重量部、および酸化防止剤(チバスペシャリティーケミカル社製、「IRGANOX1010」)1重量部を混合した混合物を実施例4と同様にして樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0038】
比較例5
実施例1における表面処理がなされる前のギブサイト型水酸化アルミニウム粒子196重量部、エチレン−酢酸ビニル共重合体(住友化学社製、「エバート H−2031」)100重量部、シリコーンオイル(東レ・ダウコーニング社製、「SH200−100cs」)6重量部、および酸化防止剤(チバスペシャリティーケミカル社製、「IRGANOX1010」)1重量部を混合した混合物を実施例4と同様にして樹脂組成物を得た。評価結果を表1に示す。
【0039】
第 1 表

注:上記第1表のUL−94の評価結果における規格外とは、可燃性側に外れることを意味する。
【0040】
実施例6
実施例3の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子150重量部を使用以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物を得た。評価結果を表2に示す。
【0041】
比較例6
比較例2の表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子150重量部を使用以外は、実施例4と同様にして樹脂組成物を得た。評価結果を表2に示す。
【0042】
第 2 表

注:上記第2表のUL−94の評価結果における規格外とは、可燃性側に外れることを意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子の表面をシリコーンオイルにより表面処理がなされた表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子であって、
前記ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子は、平均一次粒子径が0.01〜0.3μmであり、DOP給油量が90〜300mL/100gであり、平均二次粒子径が0.1〜10μmであって、
前記シリコーンオイルの使用量が前記表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム中、0.5〜4重量部である、表面処理ギブサイト型水酸化アルミニウム粒子。

【公開番号】特開2011−105540(P2011−105540A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261632(P2009−261632)
【出願日】平成21年11月17日(2009.11.17)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】