説明

表面処理設備及び表面処理方法

【課題】被処理材に処理液を吹き付けて表面処理を行う際に、被処理材上方での結露発生を抑制する。
【解決手段】処理タンク1内に搬送された被処理材3に向けて処理液6を吹き付けて被処理材3の表面処理を行う。このとき、上記処理タンク1内における被処理材3上方に位置するタンクカバー7の下面(天井面)を加熱する天井面加熱装置12を備え、その天井面加熱装置12によって上記天井面を上記処理液6の温度以上に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼材料にクロメート処理液などを吹き付けることで処理液を塗布して化成処理を行うなど、処理槽内で被処理材に向けて処理液を吹き付ける工程を有する表面処理の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
連続して搬送されてくる鉄鋼材料に対し連続的に処理液を塗布する工程を有する表面処理設備としては、例えば特許文献1に記載の設備がある。この特許文献1に記載の設備では、表面処理を行う鉄鋼材料の上方にフードが配置されている。そして、外気温が低い場合には、フード内面で処理液の蒸気が結露し、結露した液滴が処理中の鉄鋼材料に落下するおそれがある。
【0003】
これに対し、特許文献1では、フード内面に付着している液滴が処理中の鉄鋼材料に落下することを防止するために、上記フード内面に水を吹き付けて、当該フード内面に結露している液滴を除去、洗浄することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−96275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来技術では、フード内面に液滴が結露することを前提とし、その液滴に水を吹き付けて除去する構成である。したがって、フード内面での結露を抑制出来ない。
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、被処理材に処理液を吹き付けて表面処理を行う際に、被処理材上方での結露発生を抑制することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、処理槽内に搬送された被処理材に向けて処理液を吹き付けて当該被処理材の表面処理を行う表面処理設備において、
上記処理槽内における被処理材上方に位置する天井面を加熱する加熱装置を備え、その加熱装置によって上記天井面を上記処理液の温度以上に調整することを特徴とするものである。
【0007】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記加熱装置は、上記処理槽の天井面を形成する天井板部材に沿って配置した管路内を上記処理液の温度以上の液体を循環させることで、上記天井面を加熱することを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した構成に対し、上記表面処理は、鋼材の化成処理であることを特徴とするものである。
【0008】
次に、請求項4に記載した発明は、処理槽内に搬送された被処理材に向けて処理液を吹き付けて当該被処理材の表面処理を行う表面処理方法において、
上記処理槽内における被処理材上方に位置する天井面を上記処理液の温度以上に調整しながら上記処理液の吹き付けを行うことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、処理液の温度以上に天井面を調整することで、被処理材の上方に位置する天井面での結露を抑制可能となる。この結果、被処理材への液滴の落下を抑制出来る。
このとき請求項2に係る発明によれば、安定して天井面を目的とする温度に加熱することが可能となる。
【0010】
また化成処理設備を対象とすることで、結露した液滴の被処理材への落下による化成処理の不具合の発生を防止可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る化成処理設備を説明するための模式図である。
【図2】本発明に基づく実施形態に係るタンクカバーを加熱する加熱装置を説明するための図である。
【図3】タンクカバー温度と処理液塗布後のムラ個数との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、表面処理設備として、鋼板を被処理材とした化成処理設備を例に挙げて説明する。
図1は、本実施形態の表面処理設備としての化成処理設備を示す概要図である。
【0013】
(構成)
本実施形態の化成処理設備は、水平方向若しくは略水平方向に沿って被処理材を搬送しながら処理液の塗布を行う横型の処理設備とする。
本実施形態の化成処理設備は、図1に示すように、1または2以上の処理槽を構成する処理タンク1(図1では、一つの処理タンク1だけを図示している。)と、被処理材3の表面に塗布された処理液を乾燥するドライヤ設備2とを備える。そして、被処理材3が予め規定した搬送ラインに沿って連続して搬送され、順次、上記処理タンク1内で処理液の塗布処理が実施される。
【0014】
ここで、上記被処理材3は、例えば鋼板である。
上記処理タンク1内には、被処理材3を挟んで上下に配置されるスプレーヘッダ4と、2対のリンガーロール5とが配置されている。
上記スプレーヘッダ4にはそれぞれ複数の噴射口4aが形成され、各噴射口4aから被処理材3の表面に向けてクロメート処理液などの処理液6を吹き付け可能に、当該噴射口4aが配置されている。すなわち、複数の噴射口4aから処理液6を噴射することで、被処理材3の表面全面に処理液6を塗布することが出来る。
【0015】
上記リンガーロール5は、処理タンク1内の入口側及び出口側にそれぞれ配置されて、被処理材3表面に塗布された処理液6などを絞る。
上記処理タンク1は、被処理材3と上下で対向するタンクカバー7を有する。タンクカバー7は天井板部材を構成し、そのタンクカバー7の下面が天井面を形成する。なお、タンクカバー7と被処理材3の間にフードを配置する場合には、フード下面が天井面を構成する。
【0016】
また処理タンク1の底面1aは、落下してきた処理液6を回収可能なホッパー形状となっていて、処理タンク1の底面1aに落下した処理液6は、処理液回収路8を介して処理液タンク9に戻される。処理液タンク9内の処理液6は、所定の温度となるように加熱装置10で加熱処理されると共に攪拌装置11で攪拌される。その処理液タンク9内の処理液6が、処理液送り路25を通じて上記スプレーヘッダ4に供給されることで循環する。
【0017】
上記実施形態では、上記タンクカバー7を加熱する天井面加熱装置12を備える。天井面加熱装置12は、天井面コントローラ13の指令によって、天井面となるタンクカバー7の下面を処理液6の温度以上に調整する装置である。
本実施形態の天井面加熱装置12は、図2に示すように、加熱用管路14、加熱用循環タンク15、タンクカバー7の温度を測定する第1温度計18を備える。
【0018】
上記加熱用管路14は、上記タンクカバー7の上面に敷設されている。具体的には、上記加熱用管路14は、上記タンクカバー7上面に沿って蛇行するよう敷設されて、当該タンクカバー7全面を加熱及び保温可能となっている。その加熱用管路14の両端部は加熱用循環タンク15に接続して、当該加熱用循環タンク15内の液体22が加熱用管路14を循環可能となっている。上記加熱用管路14の1端部側にはポンプ16が介装されていて、当該ポンプ16を駆動することで加熱用管路14へ液体22を圧送可能となっている。すなわち、上記ポンプ16を駆動することで、加熱用循環タンク15内の液体22は上記加熱用管路14内を連続して流れるようになる。上記加熱用循環タンク15内の液体22は、昇温装置17によって加熱可能となっている。昇温装置17は、加熱用循環タンク15に設けても良いし上記加熱用管路14に介装させても良い。
【0019】
ここで、上記液体22は、例えば温水を利用すればよい。
また、第1温度計18は、タンクカバー7の温度を測定して天井面コントローラ13に出力する。また、第2温度計19が加熱用循環タンク15内の液体22の温度を測定し、その測定値を天井面コントローラ13に出力する。
また、天井面コントローラ13には、第3温度計20が測定した処理タンク1内の処理液6の温度を入力する。処理液6の温度は、処理液6の目標管理温度であっても良い。
【0020】
天井面コントローラ13は、入力した処理液6の温度に基づき、処理液6の温度以上の温度を目標温度に設定する。そして、天井面コントローラ13は、例えば、加熱用循環タンク15内の液体22の温度を、処理液6の温度よりも高い温度に保持した状態で、上記第1温度計18からの温度情報に基づき、タンクカバー7の温度が目標温度以上となるように、ポンプ16の圧送量(つまり加熱用管路14を流れる液体22の流速)を制御する。または、タンクカバー7の温度が目標温度となるように、第1温度計18からの温度情報に基づき、タンクカバー7の温度が目標温度以上となるように、昇温装置17で液体22を加熱するフィードバック制御を行う。ここで、制御の誤差を考慮して、所定の余裕代だけ目標温度を高く設定しておいても良い。
【0021】
なお、化成処理を始める前に、タンクカバー7の温度を、予め上記処理液6の温度以上に調整しておく。
ここで、処理液6の液温に対する、タンクカバー7の温度を色々変えて化成処理をしたときにおける、化成処理後の鋼板(被処理材3)に生じたムラの個数についてそれぞれ測定してみた。処理液6の液温として30℃、35℃、40℃の3つの温度で個々に実験した。図3がその結果である。
【0022】
図3から分かるように、処理液6の液温が30℃若しくは35℃の場合には、処理液6の液温と同じ温度にタンクカバー7の温度を調整することで、液滴の落下によるムラの発生をゼロに抑制することが出来ていることが分かる。また、処理液6の液温が40℃の場合には、処理液6と同じ温度にタンクカバー7の温度を調整することで、大幅に液滴の落下によるムラの発生が抑えられ、特に、処理液6の液温よりも5℃以上高く設定することで、液滴の落下によるムラの発生をゼロに抑制できることが分かる。
【0023】
以上の事から、タンクカバー7の温度を処理液6の温度よりも5℃以上高く設定することが好ましい。
ここで、鋼板に対する通常の化成処理を考えた場合、処理液6の液温が30℃より低くなると、化成処理の反応が悪くなる傾向にある。また、処理液6の液温が40℃を超えると、処理液6の付着量が多すぎる傾向にある。従って、通常は、処理液6は、30℃〜40℃程度に管理されている。
【0024】
(作用・効果その他)
本実施形態では、連続して鋼板などの被処理材3が処理タンク1に搬送され、処理タンク1内で目標管理温度の処理液6が被処理材3の表面に吹き付けによって塗布されると共に、リンガーロール5で塗布された処理液6が絞られることで、被処理材3の表面に所定量の処理液6が塗布された状態となる。
【0025】
このとき、処理タンク1内で処理液6の一部が蒸発するが、タンクカバー7の温度は、処理液6の温度以上であるため、処理液6がタンクカバー7の下面で結露することが防止される。この結果、結露による液滴が被処理材3に落下することが防止、つまり被処理材3に対する処理ムラ発生を防止出来る。特に、タンクカバー7の温度を処理液6よりも5℃以上に調整することで、液滴落下による被処理材3の処理ムラ発生を無くすことが可能となる(図3参照)。
【0026】
なお、処理タンク1内の側壁面で結露が発生する可能性はあるが、結露による液滴は、側壁面に沿って下方に流れるため、被処理材3に落下しない。
ここで、上記タンクカバー7への結露を抑制する解決策として、処理液6の温度を下げることで天井面への結露の量を低減する方法が考えられる。しかしこの方法では、処理液6の反応性を阻害して耐食性を劣化させる恐れがある。
【0027】
これに対し、本実施形態では、処理液6の温度を下げる必要がないので、化成処理の処理への上記悪影響を抑制出来る。
ここで、上記実施形態では、天井面加熱装置12として温水などの液体22を循環させてタンクカバー7を加熱する場合を例示したが、天井加熱装置は、これに限定しない。電熱線など他の熱発生機構でタンクカバー7の温度を処理液6の温度以上に調整するようにしても良い。または、処理液6以上の温度の温風をタンクカバー7に吹き付けることで、タンクカバー7の温度を処理液6の温度以上に調整するようにしても良い。温水などの液体22を循環させて加熱する方法は、タンクカバー7の温度を目標温度状態に安定した調整をする場合に好適である。
【0028】
また、上記実施形態では、表面処理として化成処理を例示したが、酸洗処理設備などの洗浄処理設備など、処理液6を吹き付けたり滴下したりして処理を行うような、処理液が天井に結露する可能性のある表面処理であれば、本実施形態は適用可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 処理タンク
3 被処理材
4 スプレーヘッダ
4a 噴射口
5 リンガーロール
6 処理液
7 タンクカバー(天井板部材)
12 天井面加熱装置
12 天井面用加熱装置
13 天井面コントローラ
14 加熱用管路
15 加熱用循環タンク
16 ポンプ
17 昇温装置
18 第1温度計
19 第2温度計
20 第3温度計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
処理槽内に搬送された被処理材に向けて処理液を吹き付けて当該被処理材の表面処理を行う表面処理設備において、
上記処理槽内における被処理材上方に位置する天井面を加熱する加熱装置を備え、その加熱装置によって上記天井面を上記処理液の温度以上に調整することを特徴とする表面処理設備。
【請求項2】
上記加熱装置は、上記処理槽の天井面を形成する天井板部材に沿って配置した管路内を上記処理液の温度以上の液体を循環させることで、上記天井面を加熱することを特徴とする請求項1に記載した表面処理設備。
【請求項3】
上記表面処理は、鋼材の化成処理であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載した表面処理設備。
【請求項4】
処理槽内に搬送された被処理材に向けて処理液を吹き付けて当該被処理材の表面処理を行う表面処理方法において、
上記処理槽内における被処理材上方に位置する天井面を上記処理液の温度以上に調整しながら上記処理液の吹き付けを行うことを特徴とする表面処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−174109(P2011−174109A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37289(P2010−37289)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】