説明

表面処理銅箔及び表面処理銅箔の製造方法

【課題】超音波溶接による銅箔同士、あるいは銅箔と他の金属との溶接性に優れた表面処理銅箔を提供する。
【解決手段】本発明の表面処理銅箔は、銅箔の少なくとも片面に有機防錆皮膜が形成され、該片面の電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3〜0.8cm2/μFであることを特徴とする表面処理銅箔である。前記有機防錆皮膜はトリアゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類とで、又はテトラゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類とで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に、銅箔相互、あるいは銅箔と他の金属材料とを超音波溶接法により溶接する、超音波溶接性に優れた銅箔、ならびにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車等に用いられる電子部品の場合、近年の高密度化にともない、その電気接続部はより信頼性の高いものが要求され、特に、端子と銅箔等の異種金属同士の接合部については、より確実に接合されることが求められている。
また近年、リチウムイオン二次電池等の非水溶媒二次電池の負極集電体としての銅箔同士、あるいは銅箔とタブ端子の接続は超音波溶接により行われており、強い接合強度が求められている。
【0003】
このような要求を満たす溶接法の一つに、超音波溶接がある。
この超音波溶接法は抵抗溶接に比較して接合温度が低いため母材を痛めにくく、特に異種金属同士の接合ではその接合部に脆い生成物がみられず、低コストであるという利点がある。
超音波溶接法は、接合面に一定の圧力を加えた状態で超音波振動を印加すると、被接合面が摩擦され、酸化被膜や不純物が機械的にクリーニングされるとともに、原子拡散が誘起され相互に接合される。
【0004】
一般に超音波溶接の振動・圧力・時間等の溶接条件を強くすると強い接合強度が得られることは知られているが、ホーン先端のチップ及びアンビルの消耗が早くなるという欠点がある。このチップ及びアンビルは高価であるため、コストの面から弱い溶接条件でも強い接合力を有する各種条件が求められている。
【0005】
銅箔はその表面に防錆処理を施さない方が溶接性は優れる。しかし、防錆処理を施さないと銅箔表面は大気中で容易に酸化してしまい実用には適さない。この銅箔表面の酸化を防ぐため、酸性浴(pH1〜2)でクロメート処理を行い、クロメート被膜と呼ばれる、クロム水和酸化物膜を形成する方法及びトリアゾール化合物、テトラゾール化合物を含む溶液中に浸漬し有機防錆皮膜を形成する方法が知られている。
このように防錆被膜を施した銅箔は、大気中で変色し難いが、一方で防錆被膜の厚さが厚い場合、超音波溶接による接合強度が充分でない事態が発生することがある。
これは、防錆被膜が銅箔表面を覆っているため、超音波振動を印加しても、表面がクリーニングされにくく、純銅が表面に出てこないため、原子拡散が起こり難く、接合力が弱められるためであると考えられる。
【0006】
本発明者等は先にクロム水和酸化物を銅箔表面に薄く形成した銅箔が超音波溶接性に優れる、との提案を行った(特許文献1参照)。
しかし、クロム水和酸化物はクロム金属を扱うために環境問題に留意する必要があり、また、クロム水和酸化物皮膜は加熱条件によっては高温処理に適さないとの指摘がなされている。
【0007】
ところで、非水溶媒二次電池の性能を左右する条件の一つに集電体と活物質の密着性が問題となる。銅箔を該電池の集電体として採用する場合、銅箔表面に防錆皮膜としてクロム水和酸化物皮膜が存在すると集電体(銅箔)と活物質との接着強度が低下する、との実験結果が得られている。
また、非水溶媒二次電池において、集電体(銅箔)に活物質を設ける製造工程中で100〜160℃で数分〜10分程度加熱(乾燥)が必要となる。この加熱で銅箔表面にある厚み以上の酸化膜が生成すると電池の特性に悪影響を及ぼすと共に、上述した様に表面がクリーニングされ難くなるため超音波溶接性に悪影響を及ぼす、との実験結果が得られている。
【0008】
また、特許文献2においては、電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.1〜0.3cm/μF以下である防錆皮膜が形成されている銅箔が、非水溶媒二次電池の負極集電体用銅箔として優れているという提案がなされている。しかし、1/C値がこの範囲内であっても、トリアゾール系防錆剤を単独で塗布しただけの防錆処理ではトリアゾール系防錆剤と溶媒との親和性が不十分であり、塗布後の乾燥工程、もしくは非水溶媒二次電池の製造における乾燥工程においてトリアゾール系防錆剤成分の一部が粉状となって銅箔表面に表出することがある。
【0009】
銅箔表面に表出したトリアゾール系防錆剤の粉状体が銅箔表面に存在すると、銅箔を非水溶媒二次電池の負極集電体として使用した際、集電体(銅箔)と活物質との密着を阻害する。また、超音波溶接時にはこの粉状体により銅箔表面がクリーニングされない状態として残るため、超音波溶接性に悪影響を及ぼす結果となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2009−068042号公報
【特許文献2】特許第3581784号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明者等は、複数の銅箔相互を超音波溶接する場合、あるいは銅箔と例えばタブ端子等の他の金属とを超音波で溶接を行う場合に、銅箔表面に設けた防錆皮膜の種類とその厚さが超音波溶接性(接合強度)に大きく影響することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
また本発明者等は、銅箔の超音波溶接による接合力には、銅箔の表面の粗さも影響することを見出した。即ち、表面粗さの粗い銅箔に超音波振動を印加して相互を接合した場合、表面粗さの粗い銅箔は接合強度が弱い。これは、粗さが粗いため接合時の接触が局部的になり、凹凸の凸の部分では接合が起こるが、凹の部分では接合が起こらず、接合強度が小さくなると推定される。
このため、銅箔と銅箔、あるいは銅箔と異種金属との溶接性に優れ、また、銅箔を電池の集電体として採用するときの活物質との密着性、高温安定性に優れる銅箔の要望が強くなってきている。
【0013】
さらに、本発明者等は、銅箔の超音波溶接による接合力には、前述した銅箔表面に表出する粉状体の有無が影響することを見出した。即ち、銅箔表面に防錆剤の粉状体が存在する場合、超音波溶接時に銅箔と銅箔、あるいは銅箔と異種金属との接触面積が防錆剤粉末体が障害となって小さくなり、粉末体存在部分が十分にクリーニングされず、接合強度が小さくなると推定した。
【0014】
本発明は、上記要望(課題)を解決するために、超音波溶接で銅箔同士、あるいは銅箔と他の金属とを接合する場合、超音波溶接性に優れた銅箔を提供することを目的とする。
また、該銅箔の表面処理方法を提供するものである。
更に、本発明は超音波溶接性に優れるとともに、電池の集電体として活物質との密着性に優れる銅箔を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の銅箔は、銅箔の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3cm/μFを超え、0.8cm/μF以下である有機防錆皮膜が形成されている表面処理銅箔とその製造方法である。
【0016】
前記有機防錆皮膜がトリアゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類、あるいはテトラゾール化合物、ジカルボン酸、アミン類で形成されていることが好ましい。
【0017】
本発明の表面処理銅箔の製造方法は、銅箔の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3〜0.8cm2/μFである有機防錆皮膜を、銅箔表面にトリアゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類を含有する溶液を接触、乾燥させて形成することを特徴とする。
【0018】
本発明の表面処理銅箔の製造方法は、銅箔の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3〜0.8cm2/μFである有機防錆皮膜を、銅箔表面にテトラゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類を含有する溶液を接触、乾燥させて形成することを特徴とする。
【0019】
前記銅箔の少なくとも有機防錆皮膜が形成される面のRz(JISB0601−1994で規定する10点平均粗さ)は2.0μm以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、超音波溶接による銅箔同士、あるいは銅箔と他の金属との溶接性に優れた表面処理銅箔を提供することができる。
また、本発明の超音波溶接性に優れた銅箔の表面処理方法は、超音波溶接による銅箔同士、あるいは銅箔と他の金属との溶接性に優れた表面処理銅箔を容易に製造することができる。
更に、本発明は超音波溶接性に優れるとともに、電池の集電体として活物質との密着性に優れる表面処理銅箔を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の表面処理銅箔は、銅箔(本発明において、電解銅箔、圧延銅箔を個別に表現する必要がないときは、これらを総称して銅箔と表現する)の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3cm/μFを超え、0.8cm/μF以下である有機防錆皮膜が形成されている。
なお、有機防錆皮膜の厚みは、市販の直読式電気二重層容量測定器で銅箔表面の電気二重層容量(C:μF)を測定し、(1)式で示すように、その逆数値(1/C)として算出した。
1/C=A・d+B ……(1)
(dは銅箔表面に形成されている電気二重層の厚み、A,Bは定数)
【0022】
本発明の表面処理銅箔における電気二重層容量の逆数(1/C)値は、0.3〜0.8cm/μFの範囲内に設定される。
1/C値が0.1cm/μFを下回った状態では防錆皮膜の厚さが不十分であり、室温において大気中の水分と銅表面との接触を十分に防ぐことができないため、保管・輸送時に表面の酸化・変色が発生しやすい。また、0.1〜0.3cm2/μFの範囲では、保管・輸送時の表面の酸化・変色は発生しにくいものの、非水溶媒二次電池の負極集電体の製造における乾燥工程のような100〜160℃の高温な環境おいては、防錆皮膜の強度が酸化を防ぐには不十分となり、酸化膜厚が過度に増加するために溶接性が落ちる。また0.8cm/μFを超えると変色及び酸化はし難くなるが、防錆皮膜の厚さが過度になるために接合強度が落ちるためである。
【0023】
有機防錆皮膜の厚さが溶接性に影響する理由は、前述のように有機防錆被膜が銅箔表面を覆っているため、被覆厚さが厚い場合には、超音波振動を印加しても、表面がクリーニングされ難く、純銅が表面に出てこないため、原子拡散が起こり難く、接合力が弱いと考えられる。
【0024】
超音波溶接の接合力には、銅箔の表面の粗さも影響する。JISB0601−1994で規定する10点平均粗さ(Rz)で2.0μmを超える銅箔に超音波振動を印加した場合、接合強度が小さくなる。
Rzで2.0μmを超える銅箔相互を超音波接合し、その銅箔の接合部断面を観察すると、ボイドの発生が多い。これは、粗さが粗いため接合時の接触が局部的になり、凹凸の凸の部分では接合が起こるが、凹の部分相互では接合が起こらず、その部分がボイドとなり、接合強度が小さくなると考えられる。
【0025】
本発明の表面処理銅箔は、その少なくとも片面を、トリアゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類、又はテトラゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類の溶液に銅箔を浸漬し、銅箔の表面に有機防錆皮膜を形成することが好ましい。
【0026】
本発明においてトリアゾール化合物としては、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、クロロベンゾトリアゾール、エチルベンゾトリアゾール、ナフトトリアゾール等が挙げられる。
【0027】
本発明においてテトラゾール化合物としては、1H−テトラゾール・モノエタノールアミン塩等が挙げられる。
【0028】
本発明においてジカルボン酸類としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フタル酸等が挙げられる。
【0029】
本発明においてアミン類としては、モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、モノシクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどのモノアミン類、1〜4個のアルキル基で置換されたジアミン類、アルキル基の少なくとも1個が水酸基やポリオキシエチレン基のような親水性基を有するアルキルモノアミン、アルキルジアミンなどがある。具体的には、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、モノメチルエタノール
アミン、モノエチルエタノールアミン、モノブチルエタノールアミン等が挙げられる。
【0030】
トリアゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類の配合割合は、重量にしてトリアゾール化合物に対しジカルボン酸類を0.4倍〜2倍位、アミン類を0.5〜2倍位が有効である。ジカルボン酸類を2倍以上加えても最早防錆機能の向上が望めず、また、0.4倍を下回ると防錆機能効果が発現しないためである。また、アミン類を2倍以上加えても最早防錆機能の向上が望めず、また、0.5倍を下回るとトリアゾール化合物と溶媒である水との親和性向上の効果が発現しないためである。銅箔表面に防錆皮膜を形成するトリアゾール化合物、ジカルボン酸、アミン類との溶液の濃度は、50〜6,000ppmとすることが望ましい。50ppmを下回ると防錆機能を保持できるほどの厚さの有機防錆皮膜とならず、6,000ppmをこえると有機防錆皮膜の厚さが厚くなって超音波溶接における接合条件を阻害するようになり、防錆機能向上の効果もさほど望めないからである。
【0031】
トリアゾール化合物、ジカルボン酸、アミン類の溶液のpHは6〜9が好ましい。また、銅箔表面への皮膜形成時の溶液の温度は30〜70℃であればよいが、必要に応じて更に加温して使用してもよい。なお、溶液温度を30℃未満とすると、形成される防錆皮膜が脆弱なものとなり、大気中の水分と銅との接触を防ぎ切れず、防錆機能の向上が期待できない。
【0032】
テトラゾール化合物、ジカルボン酸類とアミン類の配合割合は、重量にしてテトラゾール化合物に対し0.4〜2倍位、アミン類を0.5〜2倍位が有効である。ジカルボン酸類を2倍以上加えても最早防錆機能の向上が望めず、また0.4倍を下回ると防錆機能効果が発現しないためである。また、アミン類を2倍以上加えても最早防錆機能の向上が望めず、また、0.5倍を下回るとテトラゾール化合物と溶媒との親和性向上の効果が発現しないためである。
銅箔表面に防錆皮膜を形成するテトラゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類の溶液の合計濃度は、50〜6,000ppmとすることが好ましい。50ppmを下回ると防性機能を保持できるほどの厚さの有機防錆皮膜とならず、6,000ppmをこえると有機防錆皮膜の厚さが厚くなって超音波溶接における接合条件を阻害するようになり、防性機能向上の効果もさほど望めないからである。
【0033】
テトラゾール化合物、ジカルボン酸、アミン類の溶液のpHは6〜9が好ましい。また、銅箔表面への皮膜形成時の溶液の温度は30〜70℃であればよいが、必要に応じて更に加温して使用してもよい。なお、溶液温度を30℃未満とすると、形成される防錆皮膜が脆弱なものとなり、大気中の水分と銅との接触を防ぎ切れず、防錆機能の向上が期待できない。
【0034】
溶液への銅箔の浸漬時間は、トリアゾール化合物、テトラゾール化合物、ジカルボン酸類及びアミン類の溶解濃度、溶液温度や形成する有機防錆皮膜の厚みとの関係で適宜に決められるが、通常、0.5〜30秒程度であればよい。
【0035】
有機防錆皮膜の形成方法は、電解銅箔の場合は酸洗いし、水洗ないしは水洗・乾燥処理を行い、その後、銅箔をトリアゾール化合物にジカルボン酸、アミン類を加えた防錆剤溶液、あるいはテトラゾール化合物にジカルボン酸、アミン類を加えた防錆剤溶液に浸漬し、有機防錆皮膜を被着する。なお、酸洗いし、水洗ないしは水洗乾燥処理を行った後、防錆剤溶液に浸漬させるまでの間に、大気に晒されることにより20Å程度のごく薄い酸化銅の膜が銅箔表面に形成されることがあるが、超音波溶接性や耐変色性など本発明の代表的な特性に影響を与えるものではない。また、溶媒にはトリアゾール化合物およびテトラゾール化合物の種類により、水若しくは炭化水素系の溶剤が用いられるが、どちらを用いても本発明の効果は変わらない。
【0036】
圧延銅箔の場合は、表面に残る圧延油を脱脂処理し、脱脂後の銅箔を水洗ないしは水洗・乾燥処理し、該脱脂後の銅箔をトリアゾール化合物にジカルボン酸、アミン類を加えた防錆剤溶液、あるいはテトラゾール化合物にジカルボン酸、アミン類を加えた防錆剤溶液に浸漬し、有機防錆皮膜を被着する。
なお、脱脂処理後に酸洗いし、水洗ないしは水洗乾燥処理を行った後、防錆剤溶液に浸漬させるまでの間に、大気に晒されることにより20Å程度のごく薄い酸化銅の膜が銅箔表面に形成されることがあるが、超音波溶接性など本発明の代表的な特性に影響を与えるものではない。また、溶媒にはトリアゾール化合物およびテトラゾール化合物の種類により、水若しくは炭化水素系の溶剤が用いられるが、どちらを用いても本発明の効果は変わらない。
【0037】
有機防錆剤による銅箔の表面処理を行う前の処理方法として、酸洗いは、HSO=5〜200g/l、温度=10℃〜80℃の希硫酸に浸漬する方法が効果的である。また、脱脂の場合は、NaOH=5〜200g/l、温度=10℃〜80℃の水溶液中で、電流密度=1〜10A/dm、0.1分〜5分で陰極又は/及び陽極電解脱脂を行うのが効果的である。
[実施例及び比較例]
【0038】
・〔銅箔の製造〕
電解液
銅: 70〜130g/l
硫酸: 80〜140g/l
添加剤: 3−メルカプト1−プロパンスルホン酸ナトリウム=1〜10ppm
ヒドロキシエチルセルロース=1〜100ppm
低分子量膠(分子量3,000)=1〜50ppm
塩化物イオン濃度=10〜50ppm
温度: 50〜60℃
この電解液を用いて、アノードには貴金属酸化物被覆チタン電極、カソードにはチタン製回転ドラムを用いて、電流密度=50〜100A/dm2で厚さ6〜20μmの電解銅箔を製造した。製造した銅箔の両面の表面粗度(Rz)を表1に示す。
【0039】
・〔皮膜形成用有機化合物〕
製造した銅箔を表1に示す組成の防錆溶液に浸漬し、銅箔表面に防錆皮膜を施した。なお、液温は20〜70℃、pHは6〜9とした。
【0040】
・〔防錆溶液〕
トリアゾール化合物:ベンゾトリアゾール
テトラゾール化合物:1H−テトラゾール・モノエタノールアミン塩
ジカルボン酸類:マロン酸
アミン類:トリエタノールアミン
・〔クロメート処理〕
CrO=1g/lを溶解した水溶液中に銅箔を浸漬した後乾燥を行った。
【0041】
【表1】

【0042】
・〔表面に形成した有機防錆被膜の厚み〕
作成した防錆皮膜付き銅箔表面の誘電体層の厚みを、電気二重層容量(C:μF)を測定し、次式:
1/C=A・d+B ……(1)
(dは銅箔表面に形成されている電気二重層の厚み、A,Bは定数)
に基づいてその厚みを測定した。
なお、1/Cの測定には日置電機株式会社製ケミカルインピーダンスメーター HIOKI3532−80を用いた。測定結果(1/C)の値を表2に示す。
また、クロメート付着量を表3に示す。クロメート皮膜は1/Cでは評価できないので、クロメート処理におけるクロム付着量として表3に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
【表3】

【0045】
・〔耐酸化性比較および防錆剤成分表出の有無〕
本発明の表面処理銅箔をLiイオン二次電池の集電体として採用する場合、電池の電極製造工程に於いて集電体(銅箔)に活物質を塗布した後100〜160℃で乾燥する。この乾燥が不十分であり水分がLiイオン二次電池に持ち込まれた場合、電池のサイクル特性及び充放電容量に大きな影響を与える。このため銅箔にはこの乾燥工程で酸化し難いことが要求される。そこで実施例と比較例の耐酸化性を測定した。
測定は表面処理銅箔を大気オーブン中で160℃×10分加熱した後カソード還元法を用いて測定した。測定結果を表4に示す。
また、加熱後の防錆剤成分の表出(粉状体)の有無(粉状体表出なし=○、あり=×)を観察し結果を表5に示す。
【0046】
〔恒温恒湿試験とその結果〕
作成した表面処理銅箔を温度60℃、湿度90%に設定した恒温恒湿槽に10日間放置した後その外観を観察し、劣化度を評価した。評価結果を表4に併記して示す。
評価は表面に異常が見られなかったものを○、やや変色したものを△、変色がみられたものを×とした。
【0047】
【表4】

【0048】
【表5】

【0049】
・〔超音波溶接の溶接性の評価〕
超音波溶接の条件を表6に示す。表6の条件で実施例と比較例の銅箔につき表7に示す材料からなるダブ端子に超音波溶接を施した。その結果を表8に示す。なお評価結果は重ねた銅箔全てと相手方のタブ端子とが完全に溶接されているものを○、相手方タブ端子とは溶接できたが重ねた銅箔相互の溶接が不十分なものを△、銅箔と相手方タブ端子との溶接が不十分であるものを×とした。
【0050】
【表6】

【0051】
【表7】

【0052】
【表8】

【0053】
トリアゾール化合物、ジカルボン酸、アミンを含む防錆皮膜を設けた実施例1〜8、テトラゾール化合物、ジカルボン酸、アミンを含む防錆皮膜を設けた実施例9はいずれも高温での酸化量が最小限に抑えられており、外観の劣化、および粉状体の表出が見られなかった。さらに、高温多湿環境下に暴露したあとでも外観の劣化が見られず、超音波溶接性も優れている。
従って、この表面処理銅箔は超音波溶接性に優れているために電子部品等の組立が容易となり、また、この銅箔をLi電池等の非水溶液二次電池用の集電体として使用しても優れた効果をもたらす。
【0054】
一方、トリアゾール化合物のみからなる溶液で防錆皮膜を形成した比較例1〜4は、高温加温後の酸化が酷く、さらに粉状体の表出により、溶接性は劣る結果となった。さらに、防錆膜が脆弱であり、銅箔と大気中の水分との接触を抑制する機能が十分でないため、高温高湿環境暴露後の変色も酷かった。
【0055】
トリアゾール化合物、ジカルボン酸の2成分からなる溶液で防錆皮膜を形成した比較例5〜8は、ジカルボン酸が防錆膜を強化するため、高温高湿環境暴露後の変色は比較例1〜4に比べるとやや抑制されている。しかし、高温加温後の酸化膜、粉状体の表出は抑制されておらず、溶接性はやや劣る結果となっている。
【0056】
トリアゾール化合物とアミンの2成分からなる溶液で防錆皮膜を形成した比較例9〜12では、アミンによりトリアゾール化合物と溶媒である水との親和性が向上し、高温加温後の粉状体の表出は確認されなかった。しかし、防錆膜は脆弱であり、高温加温後の酸化膜の発生、および高温高湿環境暴露後の変色は抑制されておらず、溶接性はやや劣る結果となっている。
【0057】
トリアゾール化合物、ジカルボン酸、アミンの3成分からなる溶液で、20℃で防錆皮膜を形成した比較例13、テトラゾール化合物、ジカルボン酸、アミンの3成分からなる溶液で、20℃で防錆皮膜を形成した比較例14では、形成される防錆皮膜の強度が十分でないため、銅箔と大気中の水分との接触を抑制する機能が十分でないため、高温高湿環境暴露後の変色も酷かった。また、高温加温後の酸化膜及び粉状体の表出を抑制することができず、溶接性は劣る結果となっている。
【0058】
なお、光沢面およびマット面の粗さ(Rz)が2.0を超える銅箔につき超音波溶接を試みた比較例15では、粗さのRz値が大きいため接合時の接触が局部的になっており、銅箔と溶接相手方タブ端子との接合強度が小さいため、超音波溶接性は十分なものではなかった。
【0059】
このほか、クロメート処理を行った比較例16は、粉状体の表出はまったくないものの、銅箔と大気中の水分との接触を抑制する機能が十分でなく、高温高湿環境暴露後の変色が酷かった。また、高温加熱後の酸化膜を抑制することができず、溶接性は劣る結果となっている。
【0060】
上述したように本発明は、超音波溶接による銅箔同士、あるいは銅箔と他の金属との溶接性に優れた表面処理銅箔を提供することができる。
また、本発明の超音波溶接性に優れた銅箔の表面処理方法は、超音波溶接による銅箔同士、あるいは銅箔と他の金属との溶接性に優れた表面処理銅箔を容易に製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3〜0.8cm/μFである有機防錆皮膜が形成されている表面処理銅箔。
【請求項2】
前記銅箔の有機防錆皮膜が形成される面の表面粗さが、JISB0601−1994で規定する10点平均粗さ(Rz)で2.0μm以下である請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項3】
前記有機防錆皮膜がトリアゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類とで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項4】
前記有機防錆皮膜がテトラゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類とで形成されていることを特徴とする請求項1に記載の表面処理銅箔。
【請求項5】
銅箔の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3〜0.8cm2/μFである有機防錆皮膜を、銅箔表面にトリアゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類を含有する溶液を接触、乾燥させて形成する表面処理銅箔の製造方法。
【請求項6】
銅箔の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3〜0.8cm2/μFである有機防錆皮膜を、銅箔表面にテトラゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類を含有する溶液を接触、乾燥させて形成する表面処理銅箔の製造方法。
【請求項7】
JISB0601−1994で規定する10点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である銅箔の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.3〜0.8cm2/μFである有機防錆皮膜を、銅箔表面にトリアゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類を含有する溶液を接触、乾燥させて形成する表面処理銅箔の製造方法。
【請求項8】
JISB0601−1994で規定する10点平均粗さ(Rz)が2.0μm以下である銅箔の少なくとも片面に電気二重層容量の逆数(1/C)値が0.2〜0.8cm2/μFである有機防錆皮膜を、銅箔表面にテトラゾール化合物、ジカルボン酸類、アミン類を含有する溶液を接触、乾燥させて形成する表面処理銅箔の製造方法。