説明

表面分析装置

【課題】試料上の関心領域における高さと位相等、複数の物理量の定量的な比較を簡便な操作で行えるようにする。
【解決手段】分析結果表示画面30内に、試料表面高さの2次元分布データに基づく3次元画像に位相に対応した色情報をマッピングして重ねたカラー3次元画像32を表示し、該画像32上にユーザ操作により任意の移動可能な2つのポインタP、Qに基づいて形成される仮想平面像33を重ねて表示する。仮想平面像33と試料とが交差した一次元領域を関心領域とし、この関心領域に沿った高さと位相とをグラフ化してグラフ表示領域37に表示し、さらにそのグラフ上に表示したカーソルA〜Fで特定される位置における高さ及び位相の値や2本のカーソル間の差分値などを特性値テーブル38中に表記する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査型プローブ顕微鏡、レーザ顕微鏡、電子線プローブマイクロアナライザといった、試料上の所定領域に対し複数の異なる種類の物理量の2次元分布データを取得することが可能な表面分析装置に関し、さらに詳しくは、そうした表面分析装置において得られた結果をグラフィカルに表示する表示処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的な表面分析装置の一つである走査型プローブ顕微鏡(Scanning Probe Microscope:以下「SPM」と略す) では、微小な探針(プローブ)により試料の表面を走査しながら試料表面と探針との間の相互作用による力を検出することで、試料上の同一領域について、表面の高さ(凹凸)情報のみならず、位相、電流、粘弾性、磁気力、表面電位、静電気力など、様々な物理量の2次元分布データを取得することができる。従来の一般的なSPMでは、試料上の所定領域における上記物理量の2次元分布データは例えば色情報などを加えた2次元画像や3次元画像として、モニタの表示画面上に表示されるようになっている。
【0003】
また、SPMでは、或る1種の物理量の分布画像からは得られない情報が他の種類の物理量の分布画像から得られることがあるため、観察者としては、例えば高さ画像と位相画像、表面電位画像と電流画像などのように、複数種の物理量の画像情報を同時に参照したい場合がよくある。こうした要求に対し、特許文献1に記載のSPMでは、或る物理量の2次元分布データに基づく3次元画像上に他の物理量の2次元分布の色情報をマッピングして重ね合わせることで、2つの異なる種類の物理量の分布の対応関係を画像上で分かり易く表示することができるようになっている。
【0004】
上記特許文献1に記載の表示方法によれば、試料上の所定の測定領域内における複数種の物理量の2次元分布の関係等についておおまかな傾向を把握することは可能である。しかしながら、こうした方法では、試料表面の所定領域内における各物理量による特性の関係などを詳細且つ定量的に把握することは困難である。また、試料上の特定位置における複数の特性値を正確に対比することも困難である。もちろん、従来のSPMにおいても、収集された各物理量についての2次元分布データから目的とする特性値を抽出することで上述したような定量的な把握や対比は可能ではあるものの、そうした作業は非常に煩雑であって手間が掛かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−110532号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、試料上の同一領域に対する複数の物理量の2次元分布データが3次元画像として表示される表面分析装置において、その表示されている3次元画像上で観察者が着目する部位を簡便に指定することができ、さらにその指定された部位における各物理量を定量的に且つ分かり易く提示することをその主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明は、試料上の同一領域から複数種の物理量の2次元分布データを収集し、該データに基づいて表示画面を作成して表示手段に表示する表面分析装置であって、
a)前記複数種の物理量の2次元分布データのうちの任意の第1の物理量の2次元分布データに基づいて前記領域についての3次元画像を作成するとともに、該3次元画像に別の種類である第2の物理量の2次元分布データに基づいて作成した色分布を重ね合わせたカラー3次元画像を作成して表示画面の第1の表示領域に表示する第1表示処理手段と、
b)ユーザによる操作手段の操作に応じて、前記表示画面上に表示されている前記カラー3次元画像上の任意の位置に試料表面と交差する仮想面像を形成して該カラー3次元画像に重畳して表示する仮想面像形成手段と、
c)前記仮想面像と試料表面とが交差する一次元領域を関心領域とし、第1及び第2の物理量の2次元分布データを用いて前記関心領域の延伸方向に沿った第1及び第2の物理量の値の分布又は変化をグラフ化して、前記表示画面の第1の表示領域とは異なる第2の表示領域に表示する第2表示処理手段と、
を備えることを特徴としている。
【0008】
例えば本発明に係る表面分析装置がSPMである場合には、上記「複数種類の物理量」とは表面高さ、位相、電流、粘弾性、磁気力、表面電位、静電気力、圧電特性、非線形誘電率、複素透過率などである。
【0009】
本発明に係る表面分析装置において第1及び第2表示処理手段、並びに仮想面像形成手段は、典型的には、表面分析装置のシステムを構成するパーソナルコンピュータにインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより具現化される手段である。
【0010】
本発明に係る表面分析装置において、第2表示処理手段により表示されるグラフとは、一次元領域つまり線状領域である関心領域内の位置を横軸にとり第1又は第2の物理量の値を縦軸にとったグラフとすることができる。第1又は第2の物理量が試料表面高さである場合、上記グラフ上に描出されるカーブは、仮想面でもって切断された試料断面における表面の凹凸形状を示す。また、第1又は第2の物理量が位相等の物性値である場合には、上記グラフ上に描出されるカーブは、仮想面でもって切断された試料断面における表面の物性値の分布を示すことになる。
【0011】
本発明に係る表面分析装置では、仮想面像形成手段において操作手段でどのような操作が行われたときにどのような仮想面像を形成するのかについて特段の限定はないが、本発明の一実施態様として、操作手段により前記カラー3次元画像上で試料の上方の任意の位置に2つの点が指定されたとき、該2点を結ぶ線と、それら2点からそれぞれ試料基準面に鉛直に引かれた2本の線とを3つの辺として仮想面像を形成する構成とすることができる。なお、試料基準面とは試料表面高さを求める際のゼロ基準となる平面であり、一般的には試料が載置される試料台の平坦な上面に対し平行な平面である。
【0012】
上記実施態様によれば、ユーザがカラー3次元画像上で単に2つの点を指定しさえすれば仮想面像が決まり、それによって関心領域も定まる。したがって、一次元的な関心領域を設定するためにユーザが行うべき操作は非常に簡単である。また、ユーザがカラー3次元画像上で或る2点を指定する際に、その2点に対して試料上のどの位置にどのような長さに関心領域が設定されるのかが視覚的且つ直感的に理解し易い。そのため、ユーザが試料上の所望の部位の物理的特性などを観察したい場合に、その部位が関心領域となるように的確且つ容易に指定を行うことができる。なお、カラー3次元画像上に重ねて表示される仮想面像は典型的には平面であるが、曲面であっても構わない。即ち、カラー3次元画像上で或る2点が指定されたときに、その2点間を結ぶ線は直線であっても、湾曲形状等の曲線であってもよい。
【0013】
また本発明に係る表面分析装置では、好ましくは、
d)ユーザによる前記操作手段の操作に応じて、前記表示画面の第2の表示領域に表示されたグラフ上で前記関心領域上の任意の位置を設定する特定位置設定手段と、
e)前記特定位置設定手段により設定された前記関心領域上の特定位置における第1及び第2の物理量の値をそれら物理量の2次元分布データから求め、それを数値情報として前記表示画面の第2の表示領域又は第1及び第2の表示領域とは異なる第3の表示領域に表示する数値情報提示手段と、
をさらに備える構成とするとよい。
【0014】
一般に、SPM等の表面分析装置により収集される或る物理量の2次元分布データは、試料上で離散的に設定される(当然のことながら、離散的であってもその離散距離は非常に小さい)微小部位毎に得られるデータである。そのため、特定位置設定手段により関心領域上の任意の特定位置が設定されたときに、厳密にはその特定位置に対応したデータは存在しない場合があり得る。その場合には、関心領域の延伸方向に沿って特定位置の近傍で得られている複数のデータを用いた補間処理等によって、特定位置に対応した計算上のデータを求めればよい。
【0015】
なお、さらに好ましい態様として、前記特定位置設定手段は、ユーザによる操作手段の操作に応じて前記関心領域上の任意の複数の特定位置を設定可能であり、前記数値情報提示手段は、その複数の特定位置における第1及び第2の物理量の数値情報を表形式で第3の表示領域に表示するようにするとよい。これにより、関心領域上の複数の特定位置における物理量の特性値をユーザが把握し易くなり、その比較も一層正確に行えるようになる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る表面分析装置によれば、試料上の同一領域に対する複数の物理量の2次元的な分布の関係などをおおまかに把握しながら、その試料上の領域内でユーザが着目する関心領域を簡便に指定することができ、その指定された部位における各物理量の特性値を正確に知ることができる。それにより、ユーザは煩雑な操作や作業を行うことなく、関心領域における複数の物理量の関係などを定量的に把握することができる。また、関心領域内の任意の特定位置における複数の物理量を数値で表示する構成とすることにより、例えばSPMであれば、試料表面高さと位相、或いは、試料表面高さと表面電位、などの、異なる特性の比較が簡単な操作でもって正確に行え、試料表面の物性解析・評価などが効率良く行えるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施例であるSPMの要部の構成図。
【図2】SPMで得られるデータから作成される2次元の高さ画像(a)と位相画像(b)の一例を示す図。
【図3】SPMで得られるデータから作成される3次元の高さ画像の一例を示す図。
【図4】図3に示した3次元高さ画像に2次元の位相色情報をマッピングして作成した、高さ分布と位相分布とを表現したカラー3次元画像の一例を示す図。
【図5】本実施例のSPMにおける特徴的な分析結果表示画面の一例を示す図。
【図6】本実施例のSPMにおける特徴的な表示処理の説明図。
【図7】図5に示した分析結果表示画面内のグラフ表示領域におけるグラフ表示の変形例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係る表面分析装置の一実施例であるSPMについて、添付図面を参照して説明する。図1は本実施例によるSPMの要部の構成図である。
【0019】
観察対象である試料1は略円筒形状であるスキャナ3の上端に設けられた試料台2の上に載置される。スキャナ3は複数の圧電素子を備え、スキャナ駆動部7から印加される電圧に応じて、試料1をX、Yの2軸方向に走査し且つZ軸方向に微動させる。試料1の上方には先端にプローブ5を有するカンチレバー4が配置され、カンチレバー4は図示しない圧電素子を含む励振部により振動される。カンチレバー4の上方には、カンチレバー4のZ軸方向の変位を検出するために、レーザ光源11、レンズ12、ビームスプリッタ13、ミラー14、光検出器15などを含む変位検出部10が設けられている。変位検出部10では、レーザ光源11から出射しレンズ12で集光したレーザ光をビームスプリッタ13で反射させ、カンチレバー4の先端付近に照射する。その反射光をミラー14を介して光検出器15で検出する。光検出器15はカンチレバー4の変位方向(Z軸方向)に複数に分割された受光面を有する。
【0020】
例えばDFM(ダイナミックフォースモード)による観察を行う際には、カンチレバー4はその共振点付近の周波数でZ軸方向に振動される。このときプローブ5と試料1の表面との間に原子間力などによる引力又は斥力が作用すると、カンチレバー4の振動振幅が変化する。カンチレバー4がZ軸方向に変位すると、光検出器15の複数の受光面に入射する光量の割合が変化する。変位量算出部6は、その複数の受光光量に応じた検出信号を演算処理することにより、カンチレバー4の変位量を算出し制御部21に入力する。
【0021】
制御部21は、カンチレバー4の変位量をゼロにするように、つまりプローブ5と試料1表面との間の距離が常に一定になるように、スキャナ駆動部7を介してスキャナ3をZ軸方向に微小変位させる電圧値を算出し、スキャナ駆動部7を介してスキャナ3をZ軸方向に微動させる。また、制御部21は予め決められた走査パターンに従って、試料1がX−Y平面内でプローブ5に対して相対移動するようにX軸、Y軸方向の電圧値を算出し、スキャナ駆動部7を介してスキャナ3をX軸及びY軸方向に微動させる。Z軸方向のフィードバック量(スキャナ電圧)を反映した信号は制御部21からデータ処理部22にも送られ、データ処理部22はX軸、Y軸方向の各位置においてその信号を処理することによって試料1の表面高さ等に対応するデータを計算し、表示処理部24はこれにより2次元画像等を形成して表示部26の画面上に描出する。また、取得されたデータはデータ記憶部23に格納される。
【0022】
このSPMでは、上記のような試料1の表面の高さ、つまり凹凸形状のほか、様々な測定モードを用いて、試料1の表面の位相、電流、磁気力、表面電位、誘電率などの物理量(機械的物性、電磁気的物性)の測定も同時に行うことができ、こうして得られたデータも全てデータ記憶部23に格納される。なお、多くの場合、制御部21、データ処理部22、データ記憶部23、表示処理部24などは、キーボードやマウスなどのポインティングデバイスを含む入力部25と、モニタである表示部26とが接続されたパーソナルコンピュータ20により具現化され、このコンピュータ20に予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを実行することにより、上述したようなデータ収集のための動作や後述する表示処理などを行うようにすることができる。
【0023】
次に本実施例のSPMにおいて表示処理部24で実行される特徴的な画像表示処理の一例について、図2〜図6を参照して説明する。この画像表示処理が実行される以前に、試料1上の略矩形状の所定領域に対して上述したようなプローブ5の走査による測定が実施され、少なくとも、その同一領域に対する試料表面高さの2次元分布データと位相の2次元分布データとが取得され、データ記憶部23に格納されているものとする。
【0024】
観察者が入力部25で所定の操作を行うと、この操作を受けて表示処理部24は図5に示すような分析結果表示画面30を表示部26の画面上に表示する。この分析結果表示画面30内には、3次元画像表示領域31、表示設定領域35、断面解析結果表示領域36などが配置されている。
【0025】
3次元画像表示領域31内には後述するように所定領域内における2つの物理量(この例では、試料表面高さと位相)の分布を示すカラー3次元画像32が表示され、この3次元画像表示領域31の右にはカラー3次元画像32のカラースケール34が表示される。表示設定領域35には、カラー3次元画像32に反映される物理量の種類を選択するためのデータ設定欄35a、データ設定欄35aで設定されるテクスチャのカラー表示の種類を選択するためのテクスチャカラー設定欄35b、及び、カラー3次元画像32の表示態様を指定するための3次元表示設定欄35cが設けられている。また、断面解析結果表示領域36内の上には、後述するように指定される一次元的な関心領域に沿った物理量(この例では、試料表面高さと位相)の定量的なグラフを表示するグラフ表示領域37が設けられ、その下には、関心領域中の特定位置における物理量の値などをまとめた特性値テーブル38が配置される。
【0026】
観察者はデータ設定欄35aで「地形」及び「テクスチャ」に対応する物理量をそれぞれ選択する。「地形」とはカラー3次元画像32の凹凸形状であり、「テクスチャ」とはそのカラー3次元画像32上の色情報によるマッピングである。ここでは、「地形」として試料表面高さが、「テクスチャ」として位相が選択されているが、測定により得られた任意の物理量を「地形」及び「テクスチャ」にそれぞれ設定することができる。
【0027】
表示処理部24は上述した「地形」及び「テクスチャ」の選択指示やそのほかの各種設定を受けて、対応する2次元分布データをデータ記憶部23から読み出してきてカラー3次元画像32を作成し、これを3次元画像表示領域31内に表示する。具体例で説明すると、図2(a)、(b)は試料の同一領域から得られた高さ及び位相の2次元分布データに基づいて作成される2次元の高さ画像及び位相画像の一例である。図3は図2(a)に示した2次元高さ画像を3次元画像に拡張したものである。このように3次元化することにより、試料表面の凹凸が直感的に理解し易くなる。
【0028】
図2(b)に示したように2次元位相画像において位相は色情報で表現されているから、図3に示した3次元高さ画像に図2(b)に示した位相対応の色情報をマッピングして重ね合わせることにより、図4に示すようなカラー3次元画像を得ることができる。即ち、このカラー3次元画像では、凹凸形状が試料表面高さを示す一方、色が位相を示しており、試料表面高さ及び位相という2つの物理量が1つの画像に反映されている。表示処理部24はデータ記憶部23から読み出した2次元分布データを基づいて上記のような処理を行うことで図4に示したようなカラー3次元画像を作成し、これを3次元画像表示領域31内に表示する。観察者は表示されたカラー3次元画像32から、試料上の所定領域における表面の凹凸と位相との関係をおおまか把握することができる。
【0029】
図5に示すように、表示処理部24は3次元画像表示領域31内に、入力部25による操作によって位置が移動可能な2つの球状のポインタP、Qを重ねて表示する。観察者はマウス等のポインティングデバイスを操作することにより、この2つのポインタP、Qを任意の位置に移動させる。表示処理部24は、この2つのポインタP、Qの位置に応じて、カラー3次元画像32上に仮想平面像33を形成して表示する。ここで、図6により、仮想平面像33を形成方法の一例を説明する。
【0030】
図6に示すように、SPMにおける測定では、試料1の表面高さを定量化するために試料基準面40が仮想的に設定されている。この試料基準面40は例えば試料台2の平坦な上面に平行な平面である。上述したようにカラー3次元画像32で表現される試料の上方に2つのポインタP、Qが設定されると、この2つのポインタP、Qを結ぶ直線U1のほかに、ポインタPを通り試料基準面40に直交する直線U2と、ポインタQを通り試料基準面40に直交する直線U3とを描くことができる。そこで、この3本の直線U1、U2、U3を3辺とし他の1辺を試料表面の下方に適宜にとった平面を仮定しこれを仮想平面とする。そして、この仮想平面を可視化した仮想平面像33と試料とが交差する試料上の1次元的領域を試料基準面40又はそれに平行な平面に投影した領域を関心領域41とする。観察者が2つのポインタP、Qを試料面の拡がり方向(つまりX方向及びY方向)に移動させる操作を行えば、それに伴って仮想平面像33も移動するから、当然のことながら関心領域41も移動することになる。
【0031】
さらに表示処理部24は、上述のように2つのポインタP、Qの位置によって決まる関心領域についてのX−Y面内での位置情報を取得し、この位置情報に対応した高さデータ及び位相データをそれぞれの2次元分布データから抽出する。即ち、図6に示すように、関心領域41は一次元領域であるから、この一次元領域に沿った各位置における高さデータ及び位相データが抽出される。そして表示処理部24は、横軸が関心領域内の位置、縦軸が高さ及び位相である図5に示したようなグラフをそれぞれ作成し、これをグラフ表示領域37中に上下に並べて表示する。観察者が2つのポイントP、Qを移動させる操作を行うことで関心領域が試料上で移動すると、その関心領域の位置情報が変化するから、それに従ってグラフ表示領域37に表示されるグラフ中のカーブが変動する。即ち、観察者による2つのポインタP、Qの移動操作に応じて、その時点毎のポインタP、Qの位置で決まる一次元的な関心領域における高さ分布と位相分布とがグラフで表示されることになる。
【0032】
パーソナルコンピュータ20の処理速度にも依存するが、観察者が2つのポインタP、Qをゆっくりと移動させれば、その移動に従って、グラフ表示領域37に表示される高さ分布及び位相分布が変動する。これにより、試料上の任意の一次元領域における高さ分布及び位相分布を定量的に把握することができる。また、グラフ表示領域37において高さ分布のグラフと位相分布のグラフとは同一の横軸目盛に対して上下に並べて表示されるので、同一関心領域に対する高さと位相との関係、或いはその関心領域内の或る位置における高さと位相との関係を、容易に定量的に把握することができる。
【0033】
また表示処理部24はグラフ表示領域37の2つのグラフに縦線(図5、図6では点線であるが実際には異なるカラーで表示された実線)で示される6本のカーソルA、B、C、D、E、Fを重ねて表示する。このカーソルは観察者によるマウス等のポインティングデバイスの操作により、横軸方向に移動自在である。これらカーソルはA−B、C−D、E−Fと2本ずつが対になっており、表示処理部24は、対である2本のカーソルで挟まれる区間の幅(距離)、それら各区間における高さの差分、それら各区間における位相の差分、各カーソルの位置における高さの絶対値、各カーソルの位置における位相の特性値などを求めて、それぞれの値を特性値テーブル38中に表記する。なお、図5の例では、各カーソルA〜Fの位置における高さの絶対値は求めていない。観察者がポインティングデバイスの操作によりカーソルA〜Fを適宜の位置に移動させると、その移動操作に応じて、特性値テーブル38中の数値は変化する。これにより、関心領域中の同一位置に対応する各特性を数値として正確に比較することができる。
【0034】
なお、実際には試料上の所定領域内の2次元分布データの取得はX方向及びY方向に連続的に行われるわけではなく、所定間隔離れた地点毎に、つまり離散的に行われる。そのため、カーソルA〜Fの位置に対応するデータが実際には存在しないということも起こりえるが、その場合には関心領域に沿ってその位置に近い位置で得られたデータを利用して補間処理などを行うことにより、計算上、特性値を求めて特性値テーブル38に表記すればよい。
【0035】
以上のように、本実施例のSPMによれば、複数の物理量の2次元分布を反映したカラー3次元画像を観察者が見ながら、簡単な操作・作業で所望の一次元の関心領域を定め、その関心領域全体に亘る、或いは関心領域の中の特定位置における物理量を定量的に確認することができる。
【0036】
上記実施例のSPMでは、分析結果表示画面30内のグラフ表示領域37に、観察者により指定されたポイントP、Qで規定される関心領域に沿った複数の物理量(高さ、位相)の分布を示すグラフがそれぞれ独立に表示されるようになっているが、1つのグラフ上に複数の物理量の分布を重ねて表示するようにしてもよい。一例として、高さ分布及び位相分布を重ねて表示した場合のグラフを図7に示す。図7では表現できないが、一点鎖線で示しているカーブ(高さ分布)と実線で示しているカーブ(位相分布)とは実際には異なる線色で表され、観察者が容易に識別できるようになっている。
【0037】
なお、上記実施例はSPMを例に挙げて説明したが、本発明は、試料表面の所定領域に対し複数種の物理量の2次元分布を測定可能な表面分析装置全般に適用できることは明白である。こうした表面分析装置として、具体的には、レーザ顕微鏡、電子線プローブマイクロアナライザなどが挙げられる。
【0038】
また、上記実施例は本発明の一例にすぎず、本発明の趣旨に沿った範囲で適宜変形や修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは明らかである。
【符号の説明】
【0039】
1…試料
2…試料台
3…スキャナ
4…カンチレバー
5…プローブ
6…変位量算出部
7…スキャナ駆動部
10…変位検出部
11…レーザ光源
12…レンズ
13…ビームスプリッタ
14…ミラー
15…光検出器
20…パーソナルコンピュータ
21…制御部
22…データ処理部
23…データ記憶部
24…表示処理部
25…入力部
26…表示部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料上の同一領域から複数種の物理量の2次元分布データを収集し、該データに基づいて表示画面を作成して表示手段に表示する表面分析装置であって、
a)前記複数種の物理量の2次元分布データのうちの任意の第1の物理量の2次元分布データに基づいて前記領域についての3次元画像を作成するとともに、該3次元画像に別の種類である第2の物理量の2次元分布データに基づいて作成した色分布を重ね合わせたカラー3次元画像を作成して表示画面の第1の表示領域に表示する第1表示処理手段と、
b)ユーザによる操作手段の操作に応じて、前記表示画面上に表示されている前記カラー3次元画像上の任意の位置に試料表面と交差する仮想面像を形成して該カラー3次元画像に重畳して表示する仮想面像形成手段と、
c)前記仮想面像と試料表面とが交差する一次元領域を関心領域とし、第1及び第2の物理量の2次元分布データを用いて前記関心領域の延伸方向に沿った第1及び第2の物理量の値の分布又は変化をグラフ化して、前記表示画面の第1の表示領域とは異なる第2の表示領域に表示する第2表示処理手段と、
を備えることを特徴とする表面分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の表面分析装置であって、
前記仮想面像形成手段は、前記操作手段により前記カラー3次元画像上で試料の上方の任意の位置に2つの点が指定されたとき、該2点を結ぶ線と、それら2点からそれぞれ試料基準面に鉛直に引かれた2本の線とを3つの辺として仮想面像を形成することを特徴とする表面分析装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の表面分析装置であって、
d)ユーザによる前記操作手段の操作に応じて、前記表示画面の第2の表示領域に表示されたグラフ上で前記関心領域上の任意の位置を設定する特定位置設定手段と、
e)前記特定位置設定手段により設定された前記関心領域上の特定位置における第1及び第2の物理量の値をそれら物理量の2次元分布データから求め、それを数値情報として前記表示画面の第2の表示領域又は第1及び第2の表示領域とは異なる第3の表示領域に表示する数値情報提示手段と、
をさらに備えることを特徴とする表面分析装置。

【図1】
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【図6】
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【図7】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−63255(P2012−63255A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207807(P2010−207807)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)