表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法
【目的】 簡易に測定することができる表面抵抗および複素誘電率測定用治具を提供することである。
【構成】 治具10Aは、金属板1A,1Bを所定の間隔で平行に支持している。標準共振器5は、誘電体材料で形成され、金属板1A,1Bの表面抵抗測定時に金属板1A,1B間に実装される。また、標準共振器5は、共振器51と、共振器51と結合することにより生じる2つ以上の異なる周波数において共振ピークを生成する1つの結合共振器を形成する共振器52とを含んでいる。試料共振器6は、誘電体試料61を含み、誘電体試料61の複素誘電率測定時に金属板1A,1B間に実装される。誘電体試料61の複素誘電率は、標準共振器5により求めた表面抵抗を用いて求める。
【構成】 治具10Aは、金属板1A,1Bを所定の間隔で平行に支持している。標準共振器5は、誘電体材料で形成され、金属板1A,1Bの表面抵抗測定時に金属板1A,1B間に実装される。また、標準共振器5は、共振器51と、共振器51と結合することにより生じる2つ以上の異なる周波数において共振ピークを生成する1つの結合共振器を形成する共振器52とを含んでいる。試料共振器6は、誘電体試料61を含み、誘電体試料61の複素誘電率測定時に金属板1A,1B間に実装される。誘電体試料61の複素誘電率は、標準共振器5により求めた表面抵抗を用いて求める。
【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法に関し、より特定的には、少なくともその表面を導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な治具およびその測定系構成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、電波需要の急増、通信の高速化、部品の小型化等に対応するため、高周波(マイクロ波およびミリ波)に注目が集まり、セラミック等の種々の誘電体材料の開発が盛んに行われている。したがって、その誘電体材料を評価するため、高周波における簡易かつ高精度な複素誘電率測定技術の確立が要望されている。
【0003】ところで、誘電体試料の複素誘電率測定する場合、特に誘電正接tanδを求める場合、誘電正接tanδの計算に金属の表面抵抗Rsを用いるため、表面抵抗Rsが解っている必要がある。また、実際の表面抵抗Rsは、周波数で異なるとともに、表面の仕上げの程度、電流分布および経時変化に起因して、金属表面がなめらかな場合より増加する。したがって、誘電体試料の複素誘電率を測定する前に、使用周波数における表面抵抗Rsを測定しておく必要がある。
【0004】図25は、従来の両端短絡型誘電体共振器法に用いられる治具の構成を示す図である。特に、図25R>5(a)は試料共振器700のセット状態を、図25(b)は標準共振器500のセット状態を、図25(c)は標準共振器600のセット状態をそれぞれ示している。
【0005】図25において、治具は、大略的に、2枚の導体板100,200と、2本のセミリジッドケーブル300,400とを備えている。導体板100と平行を保ちつつ導体板200を上下に移動させることにより、導体板100,200間に2個の標準共振器500,600と、試料共振器700のそれぞれの高さに合わせることができる。セミリジッドケーブル300,400の先端には、金属製で小さな径のループプローブ300a,400aがそれぞれ形成されている。ループプローブ300a,400aのループ面は、標準共振器500,600および試料共振器700の共振磁界を検知するために、導体板100,200と平行に配設されている。なお、両標準共振器500,600は、同じ誘電体材料(比誘電率εr、誘電正接tanδ)で、同じ直径dの円柱状に形成されている。また、標準共振器600の高さは、標準共振器500の高さhの3倍の3hに形成されている。
【0006】導体板100,200の表面抵抗Rsを測定する場合、まず、測定周波数範囲の透過減衰量を測定し、セミリジッドケーブル等の測定系の基準レベルを設定する。次いで、図25(b)に示すように、標準共振器500を導体板100,200の中央にセットして、TE011モードの共振周波数f01と、無負荷Q、Qu1とを測定する。次いで、図25(c)に示すように、標準共振器600を導体板100,200の中央にセットして、TE013モードの共振周波数f03と、無負荷Q、Qu3とを測定する。次いで、導体板100,200の表面抵抗Rsを計算する。
【0007】次いで、試料共振器700の複素誘電率、すなわち比誘電率εrおよび誘電正接tanδを測定する場合、図25(a)に示すように、試料共振器700を導体板100,200の中央にセットして、TE011モードの共振周波数f0と、無負荷Q、Quとを測定する。次いで、試料共振器700の寸法と共振周波数f0の測定値とから比誘電率εrを求めるとともに、さらに導体板100,200の表面抵抗Rsを用いて、誘電正接tanδを求める。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の両端短絡型誘電体共振器法では、導体の表面抵抗を計測する場合、標準共振器500の測定と、標準共振器600の測定との2回測定しなければならないため、複素誘電率の測定に手間がかかるという第1の問題点があった。
【0009】また、標準共振器500,600や試料共振器700が導体板100,200に直接当接する構造、すなわち両端短絡構造で、かつ標準共振器500,600や試料共振器700にセラミック等硬質な材料が用いられることが多いため、導体板100,200の導体表面を磨耗劣化させるという第2の問題点があった。
【0010】また、試料共振器700が短絡構造であるため、表面抵抗の測定精度が誘電体試料の誘電正接の測定精度に大きく影響するという第3の問題点があった。
【0011】さらに、ループプローブにより磁界が乱されるため、共振系の無負荷Qの劣化を引き起こし、複素誘電率を高精度に求めることができないという第4の問題点があった。
【0012】本発明は、上述の技術的課題を解決し、簡易に測定することができる表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法を提供することを第1の目的とする。
【0013】また、導体表面の磨耗劣化を防止した表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法を提供することを第2の目的とする。
【0014】さらに、誘電体試料の複素誘電率を高精度に求めることができる表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法を提供することを第3の目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、少なくともその表面が導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な治具であって、導体を所定の間隔で平行に支持する支持手段と、表面抵抗測定時に導体間に実装され、誘電体材料で形成された標準共振器と、誘電体試料を含み、複素誘電率測定時に導体間に実装される試料共振器とを備え、標準共振器は、第1の共振器と、第1の共振器と結合することにより生じる2つ以上の異なる周波数において共振ピークを生成する1つの結合共振器を形成する第2の共振器とを含み、標準共振器により求めた表面抵抗を用いて、誘電体試料の複素誘電率を求めることを特徴とする。
【0016】請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、第1および第2の共振器は、同軸に配置されることを特徴とする。
【0017】請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の発明において、標準共振器は、第1および第2の共振器の位置関係を一定に保つ支持部材をさらに備える。
【0018】請求項4に係る発明は、請求項3に記載の発明において、各支持部材は、第1および第2の共振器と一対の導体との間にそれぞれ配設され、柔らかい材料で形成される一対の第1の支持台を含む。
【0019】請求項5に係る発明は、請求項4に記載の発明において、第1の支持台の第1および第2の共振器と一対の導体との間の厚みは、薄く形成されることを特徴とする。
【0020】請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の発明において、誘電体ストリップを含み、標準共振器および試料共振器をその同一平面で励振する一対の非放射性誘電体線路をさらに備える。
【0021】請求項7に係る発明は、請求項6に記載の発明において、非放射性誘電体線路の誘電体ストリップを所定の角度に配設することを特徴とする。
【0022】請求項8に係る発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の発明において、試料共振器は、誘電体試料と導体との間にそれぞれ配設される一対の第2の支持台を備える。
【0023】請求項9に係る発明は、少なくともその表面が導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な測定系を構成する方法であって、一対の導体間に誘電体材料で形成された第1および第2の共振器を含む標準共振器を実装する第1のステップと、第1および第2の共振器が結合することにより生成された2つ以上の異なる周波数における共振ピークを計測する第2のステップと、一対の導体間に誘電体試料を含む試料共振器を実装する第3のステップと、第2のステップで求めた表面抵抗を用いて、誘電体試料の複素誘電率を求める第4のステップとを備える。
【0024】
【作用】請求項1および9に係る発明においては、表面抵抗測定時に一対の導体間に誘電体材料で形成された第1および第2の共振器を含む標準共振器を実装し、第1および第2の共振器が結合することにより生成された2つ以上の異なる周波数における共振ピークを計測し、標準共振器により求めた表面抵抗を用いて、誘電体試料の複素誘電率を求めるようにしている。したがって、1回の測定で、簡単に表面抵抗を求めることができ、複素誘電率を簡易に求めることができる。
【0025】請求項2に係る発明においては、第1および第2の共振器を同軸に配置するようにしている。したがって、3次元解析の必要がなく、計算が簡単な2次元解析で表面抵抗を求めることができる。
【0026】請求項3に係る発明おいては、標準共振器は、第1および第2の共振器の位置関係を一定に保つ支持部材をさらに備えている。したがって、標準共振器の共振特性を一定に保つことができる。
【0027】請求項4に係る発明においては、各支持部材は、第1および第2の共振器と一対の導体との間にそれぞれ配設され、柔らかい材料で形成される一対の第1の支持台を含んでいる。したがって、導体の磨耗劣化を防止することができ、測定した表面抵抗の値を維持しつつ複素誘電率の測定、部品の測定等に使用することができる。
【0028】請求項5に係る発明においては、支持台の第1および第2の共振器と一対の導体との間の厚みは、薄く形成されている。したがって、両端短絡型と同程度の高感度で表面抵抗を測定できる。
【0029】請求項6に係る発明においては、誘電体ストリップを含み、標準共振器および試料共振器をその同一平面で励振する一対の非放射性誘電体線路をさらに備えている。したがって、従来のループプローブのように磁界を乱すことがないので、共振系の無負荷Qの劣化を引き起こすことがなく、準ミリ波、ミリ波においても高精度に表面抵抗および複素誘電率を求めることができる。
【0030】請求項7に係る発明においては、非放射性誘電体線路の誘電体ストリップを所定の角度に配設するようにしている。したがって、不要なモードが発生しても、この不要モードを励振せず必要な共振ピークを観測できる。
【0031】請求項8に係る発明においては、試料共振器は、誘電体試料と導体との間にそれぞれ配設される一対の第2の支持台を備えるようにしている。したがって、導体の磨耗劣化を防止することができ、測定した表面抵抗の値を維持しつつ、表面抵抗の測定誤差の影響を少なくし、高精度に複素誘電率を測定することができる。
【0032】
【実施例】以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例の両端開放型誘電体共振器法の治具の構成を示す斜視図である。
【0033】図1において、治具10Aは、大略的に、表面抵抗測定用の一対の金属板1A,1Bを着脱自在にかつ平行に支持するための一対の金属板支持部2A,2Bと、金属板支持部2A,2Bに固定可能な入出力ポート部3A,3Bと、金属板1A,1B、金属板支持部2A,2Bおよび入出力ポート部3A,3Bを連通する誘電体ストリップ4A,4Bを備えている。なお、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsを測定する場合には、金属板1A,1B間に標準共振器5が実装される。また、誘電体試料の複素誘電率を測定する場合には、金属板1A,1B間に試料共振器6が実装される。金属板1A,1B、金属板支持部2A,2Bおよび入出力ポート部3A,3Bは、金属材料(例えば、硬質アルミ(A7075))を加工することにより形成されている。
【0034】図2は図1の標準共振器5の構成を示す図であり、図3は標準共振器5の等価回路図である。図2において、標準共振器5は、同じ誘電体材料(例えば、Ba(Mg,Ta)O3 、比誘電率εst=24、誘電正接tanδst=2.0×10-4)から切り出されたリング状の共振器51(TE031モード)および円柱状の共振器52(TE021モード)と、柔らかくかつ同じ誘電体材料(例えば、PTFE、比誘電率εs=2.04、誘電正接tanδs=1.5×10-4)から切り出され、共振器51,52を同軸にかつその位置関係を一定に保ち、共振器51,52と金属板1A,1Bとの接触を妨げる支持台53,54とを備える。
【0035】支持台53,54には、共振器51,52と対応する位置に凹部が形成されている。この凹部に共振器51,52を装着することにより、共振器51,52と、支持台53,54とが一体化される。なお、支持台53,54によって共振器51,52が金属板1A,1Bから浮かされているため、金属板1A,1Bの磨耗劣化が防止される。また、支持台53,54の凹部の厚みは、電磁界分布への影響が無視できる範囲を計算し、50μmに設定されている。したがって、表面抵抗Rsを両端短絡型と同じ感度で測定することができる。なお、共振器51,52は、ほぼ等しい共振周波数を有するように設計されている。また、標準共振器5の原理、測定公式、設計等については、後で詳述する。
【0036】図4は、図1に示す試料共振器6の構成を示す図である。図4において、試料共振器6は、誘電体試料(例えば、Ba(Mg,Ta)O3 、比誘電率εr=24、誘電正接tanδr=2.0×10-4)61と、柔らかく、かつ同じ誘電体材料(例えば、PTFE、比誘電率εs=2.04、誘電正接tanδs=1.5×10-4)から切り出され、誘電体試料61と金属板1A,1Bとの接触を妨げる支持台62,63とを備える。誘電体試料61は、直径D、厚みLの円柱状に形成されている。支持台62,63は、それぞれ直径Ds1,Ds2(例えば、D=Ds1=Ds2)、厚みhs1,hs2(例えば、L=hs1=hs2)の円柱状に形成されている。なお、誘電体試料61を支持台62,63で上下支持としたのは、誘電体試料61の平行度を確保し、測定再現性を向上させるためである。
【0037】図1において、各金属板支持部2A,2Bは、押さえ板21,22と、押さえ板21,22間の間隔および金属板1A,1B間の間隔を誘電体ストリップ4A,4B、標準共振器5および試料共振器6の高さHと同じ高さに支持するためのスペーサ23とをそれぞれ備える。押さえ板21,22と、スペーサ23と、誘電体ストリップ4A,4Bとを一体化するために、押さえ板22には4つのネジ孔22aが形成されており、押さえ板21にはネジ孔22aと対応する位置にネジ孔(図示せず)が形成されている。なお、スペーサ23および誘電体ストリップ4A,4Bの一部は、押さえ板21,22から金属板1A,1B方向に突出している。
【0038】誘電体ストリップ4A,4Bは、ミリ波帯で低損失な比誘電率2.04のPTFEで、60GHz帯で一般に用いられる幅2.5mm、高さH=2.25mmに形成されている。金属板1A,1B間および金属板支持部2A,2Bの押さえ板21,22間において、誘電体ストリップ4A,4Bは、その上下を金属平面、その左右を空間で対称に囲まれている。このため、誘電体ストリップ4A,4Bと、押さえ板21,22および金属板1A,1Bとによって非放射性誘電体線路7A,7Bが形成される。なお、標準共振器5および試料共振器6は、誘電体ストリップ4A,4Bの延長線上で、その端面から等距離g、すなわち中心に誘電体ストリップ4A,4Bと磁界結合するように実装される。このような構造では、試料共振器6と誘電体ストリップ4A,4Bの端面距離gを変えることにより、図5に示すように、容易に誘電体試料61の外部Q、Qexを制御することができる。
【0039】ところで、ミリ波帯の伝送反射特性の測定には、一般的に導波管が用いられる。したがって、入出力線路として非放射性誘電体線路を用いるには、両者のモード変換が必要である。このため、各入出力ポート部3A,3Bは、上下に2分割可能なブロック31,32と、その内部に形成されたモード変換部(図6参照)33とをそれぞれ備える。
【0040】ブロック31,32を一体化するために、ブロック32には6つのネジ孔32aが形成され、ブロック31にはネジ孔32aと対応する位置にネジ孔(図示せず)が形成されている。また、ブロック32と押さえ板22とを一体化するために、ブロック32には、2つの長溝32bが形成されている。各長溝32bにはネジ孔(図示せず)が形成されるとともに、押さえ板22にはネジ孔(図示せず)が形成されている。なお、ブロック31と押さえ板21とを一体化するために、ブロック31にはブロック32と同様な長溝、ネジ孔が形成されており、押さえ板21にはネジ孔が形成されている。また、入出力ポート部3A,3Bの側面には、図示しない導波管のフランジを固定するため、4つのネジ孔32c、2つの位置合わせ穴dが形成されている。
【0041】図6は、モード変換部33の構造を示す図である。モード変換部33は、導波管の基本伝送モードであるTE10モードの導波管部33aと、非放射性誘電体線路7A,7Bに連通し、非放射性誘電体線路の基本伝送モードであるLSM01モードの非放射性誘電体線路部33bと、2つのテーパ状の変換部33c,変換部33dと、変換部33c,33d間に設けられたバッファ部33eとを備えている。これにより、導波管の基本伝送モードであるTE10モードと、非放射性誘電体線路の基本伝送モードであるLSM01モードとの間のモード変換を行っている。
【0042】このモード変換部33は、周波数60GHzで設計されている。変換部33cでは、コサインカーブを用いてWR−15の導波管のE面間距離3.76mmを非放射性誘電体線路33bの導体板間距離2.25mmにテーパ状に変換し、同時にPTFE(比誘電率εs=2.04)製の誘電体ストリップ3をテーパ状に形成して装荷した。変換部33cのテーパ長は、反射損失の理論値が40dBとれる15mmに定められている。また、変換部33dでは、コサインカーブを用いてH面間距離を広げるとともに、誘電体ストリップ3の幅を広げ、非放射性誘電体線路33bに変換している。変換部33dのテーパ長は、反射損失の理論値が30dB取れる15mmに定められている。また、バッファ部33eのバッファ長は、高次モードの十分な減衰(100dB以上)が得られる6mmに定められている。これにより、特性インピーダンスがなめらかに変化し、また高次モードの発生が抑えられるため、反射が小さく、広帯域特性を持たせることができる。
【0043】その特性を図8に示す。(a)は挿入損失を、(b)は反射損失をそれぞれ示している。図8に示すように、57〜65GHzの周波数帯域において、共振特性測定に使用可能なレベルの反射損失20dBが得られている。
【0044】図7は、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsおよび試料共振器6の複素誘電率を測定するための測定システムの全体構成を示すブロック図である。図7において、測定システムは、治具10Aと、Sパラメータを測定するためのテストセットモジュール11と、ネットワークアナライザシステム12とを備えている。ネットワークアナライザシステム12は、ネットワークアナライザ12aと、RF用シンセサイズドスイーパ12bと、LO用スイーパ12cと、ミリ波コントローラ12dとを備えている。
【0045】次いで、測定系の基準レベルの設定について説明する。測定系の基準レベルを設定する場合、誘電体ストリップ4A,4Bが一直線状になるように金属板支持部2Bおよび入出力ポート部3Bを移動させておき(図1の点線参照)、誘電体ストリップ4A,4B間に誘電体ストリップ4Cを挿入し、測定系のスルーの透過特性を測定する。測定系の校正、すなわち基準レベルの設定は、標準共振器5の表面抵抗Rsおよび試料共振器6の複素誘電率の測定ごとに行われる。
【0046】図9は、誘電体ストリップ4A,4B間の直接結合特性を示す図である。すなわち、図9は、誘電体ストリップ4A,4B間に誘電体ストリップ4Cも標準共振器5,試料共振器6もない状態の透過特性の測定結果の一例(入出力線間距離2g=14mm)を示す図である。この結果より、上下非対称性等の不連続部により、発生したTEMモード等による入出力間の直接結合は−70dBと小さく、表面抵抗Rsおよび試料共振器6の測定に対して影響を与えないレベルであることを示している。
【0047】したがって、このモード変換部33によれば、同一平面に配置される標準共振器5および試料共振器6と一体化が容易であるため、耐久性、再現性に優れている。また、2つの2次元構造の変換部33c,33dに分割されているため、設計性と加工性に優れている。また、変換部33c,33dにテーパー状になめらかな曲線を採用したため、良好な変換特性が得られている。
【0048】次いで、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsの測定原理と測定公式について説明する。図10は標準共振器5の共振特性を示す図であり、図11は共振時の磁界分布を示す図である。等価回路上ほぼ等しい共振周波数を有する2個の共振器51,52を図2に示すように同軸に配置すると、両共振器51,52が互いに結合し、図10に示すように2つの周波数f0odd ,f0evenにおいて共振ピークを有し、周波数f0odd ,f0evenにおいて図11に示す磁界分布をもったTE041モード(以下、奇モードと記す。図11(a)参照)と、TE051モード(以下、偶モードと記す。図11(b)参照)との2つの共振状態が存在する。なお、モード名は、標準共振器5を1つのTE0m1共振器と見たときの命名法によるものである。
【0049】ところで、リング状または円柱状の2つのTE0mδモード共振器を軸を平行にして結合した場合、軸対称性が失われ、Ez成分が発生するため、両共振器によって形成される結合共振器は、ハイブリッドモードになる。ハイブリッドモードになった場合には、3次元的電磁界解析が必要となり、精度、計算時間ともに一般的に標準測定用としては適さないといえる。したがって、本願発明者は、共振器51,52の軸を共通に配置した標準共振器5を考案した。これによって、軸対称性は完全に保たれ、回転対称モードの2次元的電磁界解析で標準共振器5の測定結果を簡単に数値処理することが可能になった。
【0050】また、標準共振器5は、入出力ともに誘電体ストリップ4A,4Bに対して外側の共振器51にのみ結合する回路構成をもっている。したがって、後述するように、2つの共振器51,52の自己共振周波数差を容易に検出することができる。
【0051】両共振器51,52間における両モードの磁界分布の違いのため、金属板1A,1Bの導体面において奇モードの結合部分の電流密度が偶モードよりも強く、奇モードの導体損によるQ、Qcodd が偶モードの導体損によるQ、Qcevenより低くなる。この差は、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsに比例するため、両モードの磁界分布を計算することにより、表面抵抗Rsを求めることができる。なお、偶モードの導体損によるQ、Qcevenや、奇モードの導体損によるQ、Qcodd は、単独で測定することはできない。しかしながら、両モードの誘電体損によるQ、Qdeven,Qdodd と併せて両モードの無負荷Q、Queven,Quoddとして測定できる。
【0052】次に、表面抵抗Rsの測定法について説明する。図10の共振特性より、偶モードの挿入損失ILevenおよび負荷Q、QL evenと、奇モードの挿入損失ILodd および負荷Q、QL odd とをそれぞれ測定し、偶モードの無負荷Q、Quevenと、奇モードの無負荷Q、Quodd とを(1)式からそれぞれ求める。なお、ILevenは偶モードの挿入損失、QL evenは偶モードの負荷Q、ILodd は奇モードの挿入損失、QL oddは奇モードの負荷Q、Quevenは偶モードの無負荷Q、Quodd は奇モードの無負荷Qである。
【0053】
【数1】
【0054】一方、両共振モードについて(2),(3)式が成り立つ。なお、Qdevenは偶モードの誘電体損によるQ、Qdodd は奇モードの誘電体損によるQ、Aevenは偶モード共振器内に蓄積されているエネルギーの集中度、Aodd は奇モード共振器内に蓄積されているエネルギーの集中度、tanδevenは偶モードの共振周波数f0 evenにおけるtanδ、tanδodd は奇モードの共振周波数f0 oddにおけるtanδである。
【0055】
【数2】
【0056】一般に、マイクロ波帯で使われるセラミックにおいてf/tanδ=一定が知られているので、(4)式が成立する。
【0057】
【数3】
【0058】(4)式の関係を用いて、(2)式,(3)式より、tanδを消去すると、(5)式が得られる。
【0059】
【数4】
【0060】ここで、QcevenとQcodd は、定義よりそれぞれ、(6)式、(7)式のようにそれぞれ表せる。なお、Rsevenはf0 evenにおける表面抵抗、DA は減衰パラメータである。また、測定周波数に近い周波数における表面抵抗は、周波数の比の平方根に比例すると仮定した。
【0061】
【数5】
【0062】式(6),(7)を式(5)に代入し整理すると、表面抵抗Rsの測定公式として(8)式を得ることができる。
【0063】
【数6】
【0064】ここで、エネルギの集中度Aeven,Aodd および減衰パラメータDA even,DA oddは、共振器51,52の比誘電率εstと構造パラメータより、有限要素法とkajfezの摂動論とを用いてそれぞれ(9)式で計算される。なお、比誘電率εstは、予め測定した値を用いた。
【0065】
【数7】
【0066】次いで、標準共振器5の設計について説明する。偶モードと奇モードの電流分布の差による導体損によるQ、Qcの差から表面抵抗Rsを求めるときには、偶モードと奇モード共振における共振器51,52のそれぞれの蓄積エネルギW1,W2の入り方が重要である。両共振モードの電流分布に周波数依存性がないと仮定すれば、損失エネルギの差ΔPLOSSは、(10)式で表せる。なお、PevenLOSSは偶モードの損失エネルギ、Podd LOSSは奇モードの損失エネルギ、J1 は共振器51による導体板上の電流ベクトル、J2 は共振器52による導体板上の電流ベクトルである。
【0067】
【数8】
【0068】ここで、各モードのトータルの蓄積エネルギWsが一定とすれば、(11)式の関係が成立する。なお、αはエネルギ比Rwによる誤差係数、[ΔPLOSS]0はRw=1のときのΔPLOSSである。
【0069】
【数9】
【0070】共振器51の自己共振周波数f1と共振器52の自己共振周波数f2の差Δf0 と、エネルギ比Rwの関係について、図3の等価回路を用いて回路シュミレータで計算した。図12は、Δf0 に対する両共振器51,52の蓄積エネルギW1,W2の周波数特性を示す図であり、特に(a)は共振器51の蓄積エネルギW1の周波数特性を示し、(b)は共振器52の蓄積エネルギW2の周波数特性を示している。また、図13は、Δf0 に対するエネルギ比Rwの関係を示す図である。
【0071】図12,図13より、偶モード、奇モードともにエネルギ比Rw=100%のときには、Δf0 =0のときに対応し、エネルギ比Rwをある範囲に抑えるには、Δf0 をどれだけ以下にすればよいかわかる。また、各モードの外部QをそれぞれQexevenとQexodd 、その差をΔQexとするとき、図13中に示したΔf0に対するΔQexの関係から、ΔQexをどの範囲にすればよいかわかる。この意味で、図3の等価回路は、Δf0 の検出に適した共振回路系を構成している。一方、ΔQexは、図10の波形から測定できるため、結局、エネルギ比Rwの検出が可能となり、(11)式から標準共振器5の表面抵抗Rs測定における誤差の程度が判定できる。
【0072】次いで、標準共振器5の設計手順について述べる。まず、結合していない状態での自己共振周波数f1’とf2’が等しい寸法のもとで、結合係数kとΔQcの関係(図14参照)を電磁界計算により求め、この結果から測定精度を考慮し、ΔQcが大きくなる共振器51の外形寸法d1、厚み寸法tを設定する。ここで、結合係数kは、偶モードの共振周波数f0 evenと奇モードの共振周波数f0odd との差を用いて、(12)式で定義した。
【0073】
【数10】
【0074】次に、QexevenとQexodd を一致させるため、入出力端子である非放射性誘電体線路の誘電体ストリップ4A,4Bの基準面位置での磁界成分Hzを共振エネルギを一定にした状態で偶モードと奇モードで一致するように、共振器52の外形寸法d2を調整する(図1515)。これにより、Qexeven=Qexodd が達成でき、結合状態にある互いに形状の異なる一組の共振器51,52の自己共振周波数がほぼ等しい(Δf≒0)ことが設計上保証できたことになる。電磁界計算には、2次元の有限要素法を用いた。
【0075】図16は標準共振器5を治具10Aに実装して得られた共振特性を示し、図17は図16の共振特性から測定された各パラメータと表面抵抗Rsの計算結果を示す図である。この結果のΔQexは、図13の関係よりエネルギ比Rwの100±20%以下に対応し、式(11)の誤差係数の値は1%以下であり、すなわちその影響は無視できる。なお、標準共振器5および試料共振器6の共振特性の測定時には、図1に示すように、誘電体ストリップ4A,4Bの延長線が90゜の角度で交わるように、金属板支持部2Bおよび入出力ポート部3Bが移動されている。これは、ミリ波では高次モードを使用するため、標準共振器5および試料共振器6で発生する奇モード、偶モードの他の不要モードを誘電体ストリップ4A,4Bが拾わないようにし、測定に必要な共振特性が不要モードでマスクされないようにするためである。
【0076】したがって、従来の両端短絡型誘電体共振器法における表面抵抗Rs測定では、測定ごとに2個の共振器を軸ずれなく実装しなければならず、ミリ波では共振器サイズが小さいため難しく、しかも耐久性、再現性が悪いが、標準共振器5によれば、軸合わせを一度ですませることができるため、簡単で、耐久性、再現性を向上させることができる。また、標準共振器5の1回の実装で、Queven,Quodd の2つの測定量が同時に得られ、表面抵抗Rsを算出できるため、高い測定確度が期待できる。また、表面抵抗Rs測定時の電流ベクトルが試料測定時と同じ回転方向であるため、金属表面の加工の方向性を考えなくても信頼性の高い測定値が期待できる。また、標準共振器5が両端短絡型に近い構造のため、表面抵抗Rsの測定感度がよい。
【0077】次いで、試料共振器6の複素誘電率の測定について説明する。図18は試料共振器6を治具10Aに実装して得られた共振特性を示す図であり、図19は誘電体試料61の複素誘電率決定のフローチャートを示す図であり、図20は試料寸法と測定結果を示す図である。なお、試料共振器6の共振モードは、TE01δモードではそのサイズが小さく、取り扱いにくいため、TE02δモードを用いた。
【0078】まず、試料共振器6の各寸法等の設定(ステップS1)と、表面抵抗Rs等の設定(ステップS2)とが行われる。なお、支持台62,63の比誘電率εs、誘電正接tanδsは、導体円筒形誘電体円板共振器法による測定値を用いた。表面抵抗Rsは、図17の測定結果を周波数換算した値を用いた。次いで、試料共振器6の各寸法等(ステップS1)と、図18に示す共振周波数f0 の測定値(ステップS3)より、ステップS4〜S6を繰り返し、誘電体試料61の比誘電率εrを求める(ステップS7)。また、誘電体試料61の誘電正接tanδは、無負荷Q、Quの測定値(ステップS3)より、(13)式によって求められる。なお、μ0 =4π×10-7H/mは真空の透磁率、ADRは試料のエネルギー集中度、Asは支持台へのエネルギー集中度、DA は減衰パラメータである。
【0079】
【数11】
【0080】試料のエネルギー集中度ADR、支持台へのエネルギー集中度As、減衰パラメータDA は、試料の比誘電率εrおよび支持台の比誘電率εsと構造パラメータとを与えることによって、有限要素法の固有値計算とkajfezの摂動論とを組み合わせた(14)式で計算される。
【0081】
【数12】
【0082】有限要素法による固有値の計算精度は、TE011モード共振器に対する解析解との比較を行い、60GHzで計算するとき、分割要素サイズが一辺0.05mmに対し、0.01%以下であることを確認し、本方法ではこの条件で計算した。また、実際に測定に使用する共振器は、開放系であるが、計算では十分離れた側面に電気壁をおいたモデルを用いた。
【0083】図20より、f0の測定の再現性は、±0.005%以下である。また、無負荷Q、Quの測定の再現性は、±1%以下である。
【0084】ところで、本実施例では、図1に示すように、試料共振器6を非放射性誘電体線路7A,7Bで励振するようにしている。このため、非放射性誘電体線路7A,7Bを伝搬するLSM01モードの磁界分布は、図4に示すように、比較的大きく空間に広がり、かつ試料共振器6のTE0mδモードにきわめて近い。したがって、誘電体ストリップ4A,4Bの基準面が試料共振器6から空間的に十分離れた位置で測定に必要な結合が取れるため、共振電磁界分布に及ぼす影響が小さく、単一モード測定理論の信頼性が高い。また、励振部にループプローブのような金属を使用していないため、結合磁界のつくる電流損による無負荷Qの劣化がほとんど起こらない。
【0085】本願発明者は、これを調べるため実験を行った。図21は距離g(挿入損失IL)と共振周波数f0 (無負荷Q、Qu)との関係を示す図であり、図22は図21の関係を非放射性誘電体線路とループプローブとの間で比較して示す図である。なお、小さな径のループプローブの加工の限界(1.5mm)から、図22においては、35GHzで測定した。
【0086】さらに、本実施例では、図4に示すように、試料共振器6を両端開放型共振器としている。したがって、誘電体試料61のセラミックが直接、金属板1A,1Bに触れないため、金属板1A,1Bの劣化が防止され、治具に耐久性が向上する。また、複素誘電率を共振器を実際に使用する状態(TE0mδモード)に近い状態で測定できる。また、上下導体板の表面抵抗の影響による無負荷Qの劣化が短絡型に比べて小さいため、誘電正接の算出時に表面抵抗の測定誤差の影響が小さい。
【0087】なお、本願発明者は、両端開放型と短絡型との表面抵抗の測定誤差ΔRsが誘電正接の測定誤差Δtanδに与える影響を実験で調べた。図23は測定誤差ΔRsが測定誤差Δtanδに与える影響を示す図である。なお、図23において、実線α1,α2は両端開放型で比誘電率εr=7,24の試料を測定した場合を示し、一点鎖線α3,α4は両端短絡型でその試料を測定した場合を示している。したがって、図23から、両端開放型の方が両端短絡型より誘電正接を正確に測定できることがわかる。
【0088】図24は本発明の他の実施例の治具の構成を一部切り欠いて示す斜視図であり、図1の治具10Aと対応する部分に同一の番号を付し説明を省略する。図2424の治具10Bにおいて注目すべきは、下板25と上板35〜37とで治具Aの金属板支持部2A,2Bおよび入出力ポート部3A,3Bに対応する部分が形成され、下板25および上板36に金属板1A,1Bを着脱自在にかつ平行に支持するための一対の装着孔25a,36aが形成されることである。この治具10Bによっても、治具10Aと同様に、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsおよび試料共振器6の複素誘電率を高精度に測定することができる。
【0089】なお、上述の実施例では、金属板1A,1Bが金属材料自体で形成されていたが、セラミックスや樹脂等の表面だけを金属メッキしたものでもよい。
【0090】
【発明の効果】請求項1および9に係る発明によれば、表面抵抗測定時に一対の導体間に誘電体材料で形成された第1および第2の共振器を含む標準共振器を実装し、第1および第2の共振器と結合することにより生成された2つ以上の異なる周波数における共振ピークを計測し、標準共振器により求めた表面抵抗を用いて、誘電体試料の複素誘電率を求めるようにしているので、1回の測定で、簡単に表面抵抗を求めることができ、複素誘電率を簡易に求めることができる。
【0091】請求項2に係る発明によれば、第1および第2の共振器を同軸に配置するようにしているので、3次元解析の必要がなく、計算が簡単な2次元解析で表面抵抗を求めることができる。
【0092】請求項3に係る発明によれば、標準共振器は、第1および第2の共振器の位置関係を一定に保つ支持部材をさらに備えているので、標準共振器の共振特性を一定に保つことができる。
【0093】請求項4に係る発明によれば、各支持部材は、第1および第2の共振器と一対の導体との間にそれぞれ配設され、柔らかい材料で形成される一対の第1の支持台を含んでいるので、導体の磨耗劣化を防止することができ、測定した表面抵抗の値を維持しつつ複素誘電率の測定、部品の測定等に使用することができる。
【0094】請求項5に係る発明によれば、支持台の第1および第2の共振器と一対の導体との間の厚みは、薄く形成されているので、両端短絡型と同程度の高感度で表面抵抗を測定できる。
【0095】請求項6に係る発明によれば、誘電体ストリップを含み、標準共振器および試料共振器をその同一平面で励振する一対の非放射性誘電体線路をさらに備えているので、従来のループプローブのように磁界を乱すことがなく、共振系の無負荷Qの劣化を引き起こすことがなく、準ミリ波、ミリ波においても高精度に表面抵抗および複素誘電率を求めることができる。
【0096】請求項7に係る発明によれば、非放射性誘電体線路の誘電体ストリップを所定の角度に配設するようにしているので、不要なモードが発生しても、この不要モードを励振せず必要な共振ピークを観測できる。
【0097】請求項8に係る発明によれば、試料共振器は、誘電体試料と導体との間にそれぞれ配設される一対の第2の支持台を備えるようにしているので、導体の磨耗劣化を防止することができ、測定した表面抵抗の値を維持しつつ、表面抵抗の測定誤差の影響を少なくし、高精度に複素誘電率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の両端開放型誘電体共振器法の治具の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の標準共振器5の構成を示す図である。
【図3】図1の標準共振器5の等価回路図である。
【図4】図1の試料共振器6の構成を示す図である。
【図5】距離gと外部Q、Qexとの関係を示す図である。
【図6】モード変換部33の構造を示す図である。
【図7】金属板1A,1Bの表面抵抗Rsおよび試料共振器6の複素誘電率を測定するための測定システムの全体構成を示すブロック図である。
【図8】測定系の透過・反射特性を示す図である。
【図9】誘電体ストリップ4A,4B間の直接結合特性を示す図である。
【図10】標準共振器5の共振特性を示す図である。
【図11】標準共振器5の共振時の磁界分布を示す図である。
【図12】Δf0 に対する共振器51,52の蓄積エネルギW1,W2の周波数特性を示す図である。
【図13】Δf0 に対する外部Qの差ΔQexエネルギ比Rwの関係を示す図である。
【図14】結合係数kとQcとの関係を示す図である。
【図15】共振器52の外形d2に対する磁界成分HzとΔf’との関係を示す図である。
【図16】標準共振器5を治具10Aに実装して得られた共振特性を示す図である。
【図17】図16の共振特性から測定された各パラメータと表面抵抗Rsの計算結果を示す図である。
【図18】試料共振器6を治具10Aに実装して得られた共振特性を示す図である。
【図19】誘電体試料61の複素誘電率決定のフローチャートを示す図である。
【図20】試料寸法と測定結果を示す図である。
【図21】挿入損失IL(距離g)と共振周波数f0 、無負荷Q(Qu)との関係を示す図である。
【図22】図21の関係を非放射性誘電体線路とループプローブとの間で比較して示す図である。
【図23】測定誤差ΔRsが測定誤差Δtanδに与える影響を示す図である。
【図24】本発明の他の実施例の治具の構成を一部切り欠いて示す斜視図である。
【図25】従来の両端短絡型誘電体共振器法に用いられる治具の構成を示す図である。
【符号の説明】
1A,1B…金属板
2A,2B…金属板支持部
4A,4B…誘電体ストリップ
5…標準共振器
6…試料共振器
7A,7B…非放射性誘電体線路
51,52…共振器
53,54,62,63…支持台
61…誘電体試料
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法に関し、より特定的には、少なくともその表面を導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な治具およびその測定系構成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、電波需要の急増、通信の高速化、部品の小型化等に対応するため、高周波(マイクロ波およびミリ波)に注目が集まり、セラミック等の種々の誘電体材料の開発が盛んに行われている。したがって、その誘電体材料を評価するため、高周波における簡易かつ高精度な複素誘電率測定技術の確立が要望されている。
【0003】ところで、誘電体試料の複素誘電率測定する場合、特に誘電正接tanδを求める場合、誘電正接tanδの計算に金属の表面抵抗Rsを用いるため、表面抵抗Rsが解っている必要がある。また、実際の表面抵抗Rsは、周波数で異なるとともに、表面の仕上げの程度、電流分布および経時変化に起因して、金属表面がなめらかな場合より増加する。したがって、誘電体試料の複素誘電率を測定する前に、使用周波数における表面抵抗Rsを測定しておく必要がある。
【0004】図25は、従来の両端短絡型誘電体共振器法に用いられる治具の構成を示す図である。特に、図25R>5(a)は試料共振器700のセット状態を、図25(b)は標準共振器500のセット状態を、図25(c)は標準共振器600のセット状態をそれぞれ示している。
【0005】図25において、治具は、大略的に、2枚の導体板100,200と、2本のセミリジッドケーブル300,400とを備えている。導体板100と平行を保ちつつ導体板200を上下に移動させることにより、導体板100,200間に2個の標準共振器500,600と、試料共振器700のそれぞれの高さに合わせることができる。セミリジッドケーブル300,400の先端には、金属製で小さな径のループプローブ300a,400aがそれぞれ形成されている。ループプローブ300a,400aのループ面は、標準共振器500,600および試料共振器700の共振磁界を検知するために、導体板100,200と平行に配設されている。なお、両標準共振器500,600は、同じ誘電体材料(比誘電率εr、誘電正接tanδ)で、同じ直径dの円柱状に形成されている。また、標準共振器600の高さは、標準共振器500の高さhの3倍の3hに形成されている。
【0006】導体板100,200の表面抵抗Rsを測定する場合、まず、測定周波数範囲の透過減衰量を測定し、セミリジッドケーブル等の測定系の基準レベルを設定する。次いで、図25(b)に示すように、標準共振器500を導体板100,200の中央にセットして、TE011モードの共振周波数f01と、無負荷Q、Qu1とを測定する。次いで、図25(c)に示すように、標準共振器600を導体板100,200の中央にセットして、TE013モードの共振周波数f03と、無負荷Q、Qu3とを測定する。次いで、導体板100,200の表面抵抗Rsを計算する。
【0007】次いで、試料共振器700の複素誘電率、すなわち比誘電率εrおよび誘電正接tanδを測定する場合、図25(a)に示すように、試料共振器700を導体板100,200の中央にセットして、TE011モードの共振周波数f0と、無負荷Q、Quとを測定する。次いで、試料共振器700の寸法と共振周波数f0の測定値とから比誘電率εrを求めるとともに、さらに導体板100,200の表面抵抗Rsを用いて、誘電正接tanδを求める。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、従来の両端短絡型誘電体共振器法では、導体の表面抵抗を計測する場合、標準共振器500の測定と、標準共振器600の測定との2回測定しなければならないため、複素誘電率の測定に手間がかかるという第1の問題点があった。
【0009】また、標準共振器500,600や試料共振器700が導体板100,200に直接当接する構造、すなわち両端短絡構造で、かつ標準共振器500,600や試料共振器700にセラミック等硬質な材料が用いられることが多いため、導体板100,200の導体表面を磨耗劣化させるという第2の問題点があった。
【0010】また、試料共振器700が短絡構造であるため、表面抵抗の測定精度が誘電体試料の誘電正接の測定精度に大きく影響するという第3の問題点があった。
【0011】さらに、ループプローブにより磁界が乱されるため、共振系の無負荷Qの劣化を引き起こし、複素誘電率を高精度に求めることができないという第4の問題点があった。
【0012】本発明は、上述の技術的課題を解決し、簡易に測定することができる表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法を提供することを第1の目的とする。
【0013】また、導体表面の磨耗劣化を防止した表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法を提供することを第2の目的とする。
【0014】さらに、誘電体試料の複素誘電率を高精度に求めることができる表面抵抗および複素誘電率測定用治具ならびにその測定系構成方法を提供することを第3の目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】請求項1に係る発明は、少なくともその表面が導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な治具であって、導体を所定の間隔で平行に支持する支持手段と、表面抵抗測定時に導体間に実装され、誘電体材料で形成された標準共振器と、誘電体試料を含み、複素誘電率測定時に導体間に実装される試料共振器とを備え、標準共振器は、第1の共振器と、第1の共振器と結合することにより生じる2つ以上の異なる周波数において共振ピークを生成する1つの結合共振器を形成する第2の共振器とを含み、標準共振器により求めた表面抵抗を用いて、誘電体試料の複素誘電率を求めることを特徴とする。
【0016】請求項2に係る発明は、請求項1に記載の発明において、第1および第2の共振器は、同軸に配置されることを特徴とする。
【0017】請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の発明において、標準共振器は、第1および第2の共振器の位置関係を一定に保つ支持部材をさらに備える。
【0018】請求項4に係る発明は、請求項3に記載の発明において、各支持部材は、第1および第2の共振器と一対の導体との間にそれぞれ配設され、柔らかい材料で形成される一対の第1の支持台を含む。
【0019】請求項5に係る発明は、請求項4に記載の発明において、第1の支持台の第1および第2の共振器と一対の導体との間の厚みは、薄く形成されることを特徴とする。
【0020】請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれかに記載の発明において、誘電体ストリップを含み、標準共振器および試料共振器をその同一平面で励振する一対の非放射性誘電体線路をさらに備える。
【0021】請求項7に係る発明は、請求項6に記載の発明において、非放射性誘電体線路の誘電体ストリップを所定の角度に配設することを特徴とする。
【0022】請求項8に係る発明は、請求項1ないし7のいずれかに記載の発明において、試料共振器は、誘電体試料と導体との間にそれぞれ配設される一対の第2の支持台を備える。
【0023】請求項9に係る発明は、少なくともその表面が導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な測定系を構成する方法であって、一対の導体間に誘電体材料で形成された第1および第2の共振器を含む標準共振器を実装する第1のステップと、第1および第2の共振器が結合することにより生成された2つ以上の異なる周波数における共振ピークを計測する第2のステップと、一対の導体間に誘電体試料を含む試料共振器を実装する第3のステップと、第2のステップで求めた表面抵抗を用いて、誘電体試料の複素誘電率を求める第4のステップとを備える。
【0024】
【作用】請求項1および9に係る発明においては、表面抵抗測定時に一対の導体間に誘電体材料で形成された第1および第2の共振器を含む標準共振器を実装し、第1および第2の共振器が結合することにより生成された2つ以上の異なる周波数における共振ピークを計測し、標準共振器により求めた表面抵抗を用いて、誘電体試料の複素誘電率を求めるようにしている。したがって、1回の測定で、簡単に表面抵抗を求めることができ、複素誘電率を簡易に求めることができる。
【0025】請求項2に係る発明においては、第1および第2の共振器を同軸に配置するようにしている。したがって、3次元解析の必要がなく、計算が簡単な2次元解析で表面抵抗を求めることができる。
【0026】請求項3に係る発明おいては、標準共振器は、第1および第2の共振器の位置関係を一定に保つ支持部材をさらに備えている。したがって、標準共振器の共振特性を一定に保つことができる。
【0027】請求項4に係る発明においては、各支持部材は、第1および第2の共振器と一対の導体との間にそれぞれ配設され、柔らかい材料で形成される一対の第1の支持台を含んでいる。したがって、導体の磨耗劣化を防止することができ、測定した表面抵抗の値を維持しつつ複素誘電率の測定、部品の測定等に使用することができる。
【0028】請求項5に係る発明においては、支持台の第1および第2の共振器と一対の導体との間の厚みは、薄く形成されている。したがって、両端短絡型と同程度の高感度で表面抵抗を測定できる。
【0029】請求項6に係る発明においては、誘電体ストリップを含み、標準共振器および試料共振器をその同一平面で励振する一対の非放射性誘電体線路をさらに備えている。したがって、従来のループプローブのように磁界を乱すことがないので、共振系の無負荷Qの劣化を引き起こすことがなく、準ミリ波、ミリ波においても高精度に表面抵抗および複素誘電率を求めることができる。
【0030】請求項7に係る発明においては、非放射性誘電体線路の誘電体ストリップを所定の角度に配設するようにしている。したがって、不要なモードが発生しても、この不要モードを励振せず必要な共振ピークを観測できる。
【0031】請求項8に係る発明においては、試料共振器は、誘電体試料と導体との間にそれぞれ配設される一対の第2の支持台を備えるようにしている。したがって、導体の磨耗劣化を防止することができ、測定した表面抵抗の値を維持しつつ、表面抵抗の測定誤差の影響を少なくし、高精度に複素誘電率を測定することができる。
【0032】
【実施例】以下、図面に基づいて、本発明の実施例を説明する。図1は、本発明の一実施例の両端開放型誘電体共振器法の治具の構成を示す斜視図である。
【0033】図1において、治具10Aは、大略的に、表面抵抗測定用の一対の金属板1A,1Bを着脱自在にかつ平行に支持するための一対の金属板支持部2A,2Bと、金属板支持部2A,2Bに固定可能な入出力ポート部3A,3Bと、金属板1A,1B、金属板支持部2A,2Bおよび入出力ポート部3A,3Bを連通する誘電体ストリップ4A,4Bを備えている。なお、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsを測定する場合には、金属板1A,1B間に標準共振器5が実装される。また、誘電体試料の複素誘電率を測定する場合には、金属板1A,1B間に試料共振器6が実装される。金属板1A,1B、金属板支持部2A,2Bおよび入出力ポート部3A,3Bは、金属材料(例えば、硬質アルミ(A7075))を加工することにより形成されている。
【0034】図2は図1の標準共振器5の構成を示す図であり、図3は標準共振器5の等価回路図である。図2において、標準共振器5は、同じ誘電体材料(例えば、Ba(Mg,Ta)O3 、比誘電率εst=24、誘電正接tanδst=2.0×10-4)から切り出されたリング状の共振器51(TE031モード)および円柱状の共振器52(TE021モード)と、柔らかくかつ同じ誘電体材料(例えば、PTFE、比誘電率εs=2.04、誘電正接tanδs=1.5×10-4)から切り出され、共振器51,52を同軸にかつその位置関係を一定に保ち、共振器51,52と金属板1A,1Bとの接触を妨げる支持台53,54とを備える。
【0035】支持台53,54には、共振器51,52と対応する位置に凹部が形成されている。この凹部に共振器51,52を装着することにより、共振器51,52と、支持台53,54とが一体化される。なお、支持台53,54によって共振器51,52が金属板1A,1Bから浮かされているため、金属板1A,1Bの磨耗劣化が防止される。また、支持台53,54の凹部の厚みは、電磁界分布への影響が無視できる範囲を計算し、50μmに設定されている。したがって、表面抵抗Rsを両端短絡型と同じ感度で測定することができる。なお、共振器51,52は、ほぼ等しい共振周波数を有するように設計されている。また、標準共振器5の原理、測定公式、設計等については、後で詳述する。
【0036】図4は、図1に示す試料共振器6の構成を示す図である。図4において、試料共振器6は、誘電体試料(例えば、Ba(Mg,Ta)O3 、比誘電率εr=24、誘電正接tanδr=2.0×10-4)61と、柔らかく、かつ同じ誘電体材料(例えば、PTFE、比誘電率εs=2.04、誘電正接tanδs=1.5×10-4)から切り出され、誘電体試料61と金属板1A,1Bとの接触を妨げる支持台62,63とを備える。誘電体試料61は、直径D、厚みLの円柱状に形成されている。支持台62,63は、それぞれ直径Ds1,Ds2(例えば、D=Ds1=Ds2)、厚みhs1,hs2(例えば、L=hs1=hs2)の円柱状に形成されている。なお、誘電体試料61を支持台62,63で上下支持としたのは、誘電体試料61の平行度を確保し、測定再現性を向上させるためである。
【0037】図1において、各金属板支持部2A,2Bは、押さえ板21,22と、押さえ板21,22間の間隔および金属板1A,1B間の間隔を誘電体ストリップ4A,4B、標準共振器5および試料共振器6の高さHと同じ高さに支持するためのスペーサ23とをそれぞれ備える。押さえ板21,22と、スペーサ23と、誘電体ストリップ4A,4Bとを一体化するために、押さえ板22には4つのネジ孔22aが形成されており、押さえ板21にはネジ孔22aと対応する位置にネジ孔(図示せず)が形成されている。なお、スペーサ23および誘電体ストリップ4A,4Bの一部は、押さえ板21,22から金属板1A,1B方向に突出している。
【0038】誘電体ストリップ4A,4Bは、ミリ波帯で低損失な比誘電率2.04のPTFEで、60GHz帯で一般に用いられる幅2.5mm、高さH=2.25mmに形成されている。金属板1A,1B間および金属板支持部2A,2Bの押さえ板21,22間において、誘電体ストリップ4A,4Bは、その上下を金属平面、その左右を空間で対称に囲まれている。このため、誘電体ストリップ4A,4Bと、押さえ板21,22および金属板1A,1Bとによって非放射性誘電体線路7A,7Bが形成される。なお、標準共振器5および試料共振器6は、誘電体ストリップ4A,4Bの延長線上で、その端面から等距離g、すなわち中心に誘電体ストリップ4A,4Bと磁界結合するように実装される。このような構造では、試料共振器6と誘電体ストリップ4A,4Bの端面距離gを変えることにより、図5に示すように、容易に誘電体試料61の外部Q、Qexを制御することができる。
【0039】ところで、ミリ波帯の伝送反射特性の測定には、一般的に導波管が用いられる。したがって、入出力線路として非放射性誘電体線路を用いるには、両者のモード変換が必要である。このため、各入出力ポート部3A,3Bは、上下に2分割可能なブロック31,32と、その内部に形成されたモード変換部(図6参照)33とをそれぞれ備える。
【0040】ブロック31,32を一体化するために、ブロック32には6つのネジ孔32aが形成され、ブロック31にはネジ孔32aと対応する位置にネジ孔(図示せず)が形成されている。また、ブロック32と押さえ板22とを一体化するために、ブロック32には、2つの長溝32bが形成されている。各長溝32bにはネジ孔(図示せず)が形成されるとともに、押さえ板22にはネジ孔(図示せず)が形成されている。なお、ブロック31と押さえ板21とを一体化するために、ブロック31にはブロック32と同様な長溝、ネジ孔が形成されており、押さえ板21にはネジ孔が形成されている。また、入出力ポート部3A,3Bの側面には、図示しない導波管のフランジを固定するため、4つのネジ孔32c、2つの位置合わせ穴dが形成されている。
【0041】図6は、モード変換部33の構造を示す図である。モード変換部33は、導波管の基本伝送モードであるTE10モードの導波管部33aと、非放射性誘電体線路7A,7Bに連通し、非放射性誘電体線路の基本伝送モードであるLSM01モードの非放射性誘電体線路部33bと、2つのテーパ状の変換部33c,変換部33dと、変換部33c,33d間に設けられたバッファ部33eとを備えている。これにより、導波管の基本伝送モードであるTE10モードと、非放射性誘電体線路の基本伝送モードであるLSM01モードとの間のモード変換を行っている。
【0042】このモード変換部33は、周波数60GHzで設計されている。変換部33cでは、コサインカーブを用いてWR−15の導波管のE面間距離3.76mmを非放射性誘電体線路33bの導体板間距離2.25mmにテーパ状に変換し、同時にPTFE(比誘電率εs=2.04)製の誘電体ストリップ3をテーパ状に形成して装荷した。変換部33cのテーパ長は、反射損失の理論値が40dBとれる15mmに定められている。また、変換部33dでは、コサインカーブを用いてH面間距離を広げるとともに、誘電体ストリップ3の幅を広げ、非放射性誘電体線路33bに変換している。変換部33dのテーパ長は、反射損失の理論値が30dB取れる15mmに定められている。また、バッファ部33eのバッファ長は、高次モードの十分な減衰(100dB以上)が得られる6mmに定められている。これにより、特性インピーダンスがなめらかに変化し、また高次モードの発生が抑えられるため、反射が小さく、広帯域特性を持たせることができる。
【0043】その特性を図8に示す。(a)は挿入損失を、(b)は反射損失をそれぞれ示している。図8に示すように、57〜65GHzの周波数帯域において、共振特性測定に使用可能なレベルの反射損失20dBが得られている。
【0044】図7は、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsおよび試料共振器6の複素誘電率を測定するための測定システムの全体構成を示すブロック図である。図7において、測定システムは、治具10Aと、Sパラメータを測定するためのテストセットモジュール11と、ネットワークアナライザシステム12とを備えている。ネットワークアナライザシステム12は、ネットワークアナライザ12aと、RF用シンセサイズドスイーパ12bと、LO用スイーパ12cと、ミリ波コントローラ12dとを備えている。
【0045】次いで、測定系の基準レベルの設定について説明する。測定系の基準レベルを設定する場合、誘電体ストリップ4A,4Bが一直線状になるように金属板支持部2Bおよび入出力ポート部3Bを移動させておき(図1の点線参照)、誘電体ストリップ4A,4B間に誘電体ストリップ4Cを挿入し、測定系のスルーの透過特性を測定する。測定系の校正、すなわち基準レベルの設定は、標準共振器5の表面抵抗Rsおよび試料共振器6の複素誘電率の測定ごとに行われる。
【0046】図9は、誘電体ストリップ4A,4B間の直接結合特性を示す図である。すなわち、図9は、誘電体ストリップ4A,4B間に誘電体ストリップ4Cも標準共振器5,試料共振器6もない状態の透過特性の測定結果の一例(入出力線間距離2g=14mm)を示す図である。この結果より、上下非対称性等の不連続部により、発生したTEMモード等による入出力間の直接結合は−70dBと小さく、表面抵抗Rsおよび試料共振器6の測定に対して影響を与えないレベルであることを示している。
【0047】したがって、このモード変換部33によれば、同一平面に配置される標準共振器5および試料共振器6と一体化が容易であるため、耐久性、再現性に優れている。また、2つの2次元構造の変換部33c,33dに分割されているため、設計性と加工性に優れている。また、変換部33c,33dにテーパー状になめらかな曲線を採用したため、良好な変換特性が得られている。
【0048】次いで、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsの測定原理と測定公式について説明する。図10は標準共振器5の共振特性を示す図であり、図11は共振時の磁界分布を示す図である。等価回路上ほぼ等しい共振周波数を有する2個の共振器51,52を図2に示すように同軸に配置すると、両共振器51,52が互いに結合し、図10に示すように2つの周波数f0odd ,f0evenにおいて共振ピークを有し、周波数f0odd ,f0evenにおいて図11に示す磁界分布をもったTE041モード(以下、奇モードと記す。図11(a)参照)と、TE051モード(以下、偶モードと記す。図11(b)参照)との2つの共振状態が存在する。なお、モード名は、標準共振器5を1つのTE0m1共振器と見たときの命名法によるものである。
【0049】ところで、リング状または円柱状の2つのTE0mδモード共振器を軸を平行にして結合した場合、軸対称性が失われ、Ez成分が発生するため、両共振器によって形成される結合共振器は、ハイブリッドモードになる。ハイブリッドモードになった場合には、3次元的電磁界解析が必要となり、精度、計算時間ともに一般的に標準測定用としては適さないといえる。したがって、本願発明者は、共振器51,52の軸を共通に配置した標準共振器5を考案した。これによって、軸対称性は完全に保たれ、回転対称モードの2次元的電磁界解析で標準共振器5の測定結果を簡単に数値処理することが可能になった。
【0050】また、標準共振器5は、入出力ともに誘電体ストリップ4A,4Bに対して外側の共振器51にのみ結合する回路構成をもっている。したがって、後述するように、2つの共振器51,52の自己共振周波数差を容易に検出することができる。
【0051】両共振器51,52間における両モードの磁界分布の違いのため、金属板1A,1Bの導体面において奇モードの結合部分の電流密度が偶モードよりも強く、奇モードの導体損によるQ、Qcodd が偶モードの導体損によるQ、Qcevenより低くなる。この差は、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsに比例するため、両モードの磁界分布を計算することにより、表面抵抗Rsを求めることができる。なお、偶モードの導体損によるQ、Qcevenや、奇モードの導体損によるQ、Qcodd は、単独で測定することはできない。しかしながら、両モードの誘電体損によるQ、Qdeven,Qdodd と併せて両モードの無負荷Q、Queven,Quoddとして測定できる。
【0052】次に、表面抵抗Rsの測定法について説明する。図10の共振特性より、偶モードの挿入損失ILevenおよび負荷Q、QL evenと、奇モードの挿入損失ILodd および負荷Q、QL odd とをそれぞれ測定し、偶モードの無負荷Q、Quevenと、奇モードの無負荷Q、Quodd とを(1)式からそれぞれ求める。なお、ILevenは偶モードの挿入損失、QL evenは偶モードの負荷Q、ILodd は奇モードの挿入損失、QL oddは奇モードの負荷Q、Quevenは偶モードの無負荷Q、Quodd は奇モードの無負荷Qである。
【0053】
【数1】
【0054】一方、両共振モードについて(2),(3)式が成り立つ。なお、Qdevenは偶モードの誘電体損によるQ、Qdodd は奇モードの誘電体損によるQ、Aevenは偶モード共振器内に蓄積されているエネルギーの集中度、Aodd は奇モード共振器内に蓄積されているエネルギーの集中度、tanδevenは偶モードの共振周波数f0 evenにおけるtanδ、tanδodd は奇モードの共振周波数f0 oddにおけるtanδである。
【0055】
【数2】
【0056】一般に、マイクロ波帯で使われるセラミックにおいてf/tanδ=一定が知られているので、(4)式が成立する。
【0057】
【数3】
【0058】(4)式の関係を用いて、(2)式,(3)式より、tanδを消去すると、(5)式が得られる。
【0059】
【数4】
【0060】ここで、QcevenとQcodd は、定義よりそれぞれ、(6)式、(7)式のようにそれぞれ表せる。なお、Rsevenはf0 evenにおける表面抵抗、DA は減衰パラメータである。また、測定周波数に近い周波数における表面抵抗は、周波数の比の平方根に比例すると仮定した。
【0061】
【数5】
【0062】式(6),(7)を式(5)に代入し整理すると、表面抵抗Rsの測定公式として(8)式を得ることができる。
【0063】
【数6】
【0064】ここで、エネルギの集中度Aeven,Aodd および減衰パラメータDA even,DA oddは、共振器51,52の比誘電率εstと構造パラメータより、有限要素法とkajfezの摂動論とを用いてそれぞれ(9)式で計算される。なお、比誘電率εstは、予め測定した値を用いた。
【0065】
【数7】
【0066】次いで、標準共振器5の設計について説明する。偶モードと奇モードの電流分布の差による導体損によるQ、Qcの差から表面抵抗Rsを求めるときには、偶モードと奇モード共振における共振器51,52のそれぞれの蓄積エネルギW1,W2の入り方が重要である。両共振モードの電流分布に周波数依存性がないと仮定すれば、損失エネルギの差ΔPLOSSは、(10)式で表せる。なお、PevenLOSSは偶モードの損失エネルギ、Podd LOSSは奇モードの損失エネルギ、J1 は共振器51による導体板上の電流ベクトル、J2 は共振器52による導体板上の電流ベクトルである。
【0067】
【数8】
【0068】ここで、各モードのトータルの蓄積エネルギWsが一定とすれば、(11)式の関係が成立する。なお、αはエネルギ比Rwによる誤差係数、[ΔPLOSS]0はRw=1のときのΔPLOSSである。
【0069】
【数9】
【0070】共振器51の自己共振周波数f1と共振器52の自己共振周波数f2の差Δf0 と、エネルギ比Rwの関係について、図3の等価回路を用いて回路シュミレータで計算した。図12は、Δf0 に対する両共振器51,52の蓄積エネルギW1,W2の周波数特性を示す図であり、特に(a)は共振器51の蓄積エネルギW1の周波数特性を示し、(b)は共振器52の蓄積エネルギW2の周波数特性を示している。また、図13は、Δf0 に対するエネルギ比Rwの関係を示す図である。
【0071】図12,図13より、偶モード、奇モードともにエネルギ比Rw=100%のときには、Δf0 =0のときに対応し、エネルギ比Rwをある範囲に抑えるには、Δf0 をどれだけ以下にすればよいかわかる。また、各モードの外部QをそれぞれQexevenとQexodd 、その差をΔQexとするとき、図13中に示したΔf0に対するΔQexの関係から、ΔQexをどの範囲にすればよいかわかる。この意味で、図3の等価回路は、Δf0 の検出に適した共振回路系を構成している。一方、ΔQexは、図10の波形から測定できるため、結局、エネルギ比Rwの検出が可能となり、(11)式から標準共振器5の表面抵抗Rs測定における誤差の程度が判定できる。
【0072】次いで、標準共振器5の設計手順について述べる。まず、結合していない状態での自己共振周波数f1’とf2’が等しい寸法のもとで、結合係数kとΔQcの関係(図14参照)を電磁界計算により求め、この結果から測定精度を考慮し、ΔQcが大きくなる共振器51の外形寸法d1、厚み寸法tを設定する。ここで、結合係数kは、偶モードの共振周波数f0 evenと奇モードの共振周波数f0odd との差を用いて、(12)式で定義した。
【0073】
【数10】
【0074】次に、QexevenとQexodd を一致させるため、入出力端子である非放射性誘電体線路の誘電体ストリップ4A,4Bの基準面位置での磁界成分Hzを共振エネルギを一定にした状態で偶モードと奇モードで一致するように、共振器52の外形寸法d2を調整する(図1515)。これにより、Qexeven=Qexodd が達成でき、結合状態にある互いに形状の異なる一組の共振器51,52の自己共振周波数がほぼ等しい(Δf≒0)ことが設計上保証できたことになる。電磁界計算には、2次元の有限要素法を用いた。
【0075】図16は標準共振器5を治具10Aに実装して得られた共振特性を示し、図17は図16の共振特性から測定された各パラメータと表面抵抗Rsの計算結果を示す図である。この結果のΔQexは、図13の関係よりエネルギ比Rwの100±20%以下に対応し、式(11)の誤差係数の値は1%以下であり、すなわちその影響は無視できる。なお、標準共振器5および試料共振器6の共振特性の測定時には、図1に示すように、誘電体ストリップ4A,4Bの延長線が90゜の角度で交わるように、金属板支持部2Bおよび入出力ポート部3Bが移動されている。これは、ミリ波では高次モードを使用するため、標準共振器5および試料共振器6で発生する奇モード、偶モードの他の不要モードを誘電体ストリップ4A,4Bが拾わないようにし、測定に必要な共振特性が不要モードでマスクされないようにするためである。
【0076】したがって、従来の両端短絡型誘電体共振器法における表面抵抗Rs測定では、測定ごとに2個の共振器を軸ずれなく実装しなければならず、ミリ波では共振器サイズが小さいため難しく、しかも耐久性、再現性が悪いが、標準共振器5によれば、軸合わせを一度ですませることができるため、簡単で、耐久性、再現性を向上させることができる。また、標準共振器5の1回の実装で、Queven,Quodd の2つの測定量が同時に得られ、表面抵抗Rsを算出できるため、高い測定確度が期待できる。また、表面抵抗Rs測定時の電流ベクトルが試料測定時と同じ回転方向であるため、金属表面の加工の方向性を考えなくても信頼性の高い測定値が期待できる。また、標準共振器5が両端短絡型に近い構造のため、表面抵抗Rsの測定感度がよい。
【0077】次いで、試料共振器6の複素誘電率の測定について説明する。図18は試料共振器6を治具10Aに実装して得られた共振特性を示す図であり、図19は誘電体試料61の複素誘電率決定のフローチャートを示す図であり、図20は試料寸法と測定結果を示す図である。なお、試料共振器6の共振モードは、TE01δモードではそのサイズが小さく、取り扱いにくいため、TE02δモードを用いた。
【0078】まず、試料共振器6の各寸法等の設定(ステップS1)と、表面抵抗Rs等の設定(ステップS2)とが行われる。なお、支持台62,63の比誘電率εs、誘電正接tanδsは、導体円筒形誘電体円板共振器法による測定値を用いた。表面抵抗Rsは、図17の測定結果を周波数換算した値を用いた。次いで、試料共振器6の各寸法等(ステップS1)と、図18に示す共振周波数f0 の測定値(ステップS3)より、ステップS4〜S6を繰り返し、誘電体試料61の比誘電率εrを求める(ステップS7)。また、誘電体試料61の誘電正接tanδは、無負荷Q、Quの測定値(ステップS3)より、(13)式によって求められる。なお、μ0 =4π×10-7H/mは真空の透磁率、ADRは試料のエネルギー集中度、Asは支持台へのエネルギー集中度、DA は減衰パラメータである。
【0079】
【数11】
【0080】試料のエネルギー集中度ADR、支持台へのエネルギー集中度As、減衰パラメータDA は、試料の比誘電率εrおよび支持台の比誘電率εsと構造パラメータとを与えることによって、有限要素法の固有値計算とkajfezの摂動論とを組み合わせた(14)式で計算される。
【0081】
【数12】
【0082】有限要素法による固有値の計算精度は、TE011モード共振器に対する解析解との比較を行い、60GHzで計算するとき、分割要素サイズが一辺0.05mmに対し、0.01%以下であることを確認し、本方法ではこの条件で計算した。また、実際に測定に使用する共振器は、開放系であるが、計算では十分離れた側面に電気壁をおいたモデルを用いた。
【0083】図20より、f0の測定の再現性は、±0.005%以下である。また、無負荷Q、Quの測定の再現性は、±1%以下である。
【0084】ところで、本実施例では、図1に示すように、試料共振器6を非放射性誘電体線路7A,7Bで励振するようにしている。このため、非放射性誘電体線路7A,7Bを伝搬するLSM01モードの磁界分布は、図4に示すように、比較的大きく空間に広がり、かつ試料共振器6のTE0mδモードにきわめて近い。したがって、誘電体ストリップ4A,4Bの基準面が試料共振器6から空間的に十分離れた位置で測定に必要な結合が取れるため、共振電磁界分布に及ぼす影響が小さく、単一モード測定理論の信頼性が高い。また、励振部にループプローブのような金属を使用していないため、結合磁界のつくる電流損による無負荷Qの劣化がほとんど起こらない。
【0085】本願発明者は、これを調べるため実験を行った。図21は距離g(挿入損失IL)と共振周波数f0 (無負荷Q、Qu)との関係を示す図であり、図22は図21の関係を非放射性誘電体線路とループプローブとの間で比較して示す図である。なお、小さな径のループプローブの加工の限界(1.5mm)から、図22においては、35GHzで測定した。
【0086】さらに、本実施例では、図4に示すように、試料共振器6を両端開放型共振器としている。したがって、誘電体試料61のセラミックが直接、金属板1A,1Bに触れないため、金属板1A,1Bの劣化が防止され、治具に耐久性が向上する。また、複素誘電率を共振器を実際に使用する状態(TE0mδモード)に近い状態で測定できる。また、上下導体板の表面抵抗の影響による無負荷Qの劣化が短絡型に比べて小さいため、誘電正接の算出時に表面抵抗の測定誤差の影響が小さい。
【0087】なお、本願発明者は、両端開放型と短絡型との表面抵抗の測定誤差ΔRsが誘電正接の測定誤差Δtanδに与える影響を実験で調べた。図23は測定誤差ΔRsが測定誤差Δtanδに与える影響を示す図である。なお、図23において、実線α1,α2は両端開放型で比誘電率εr=7,24の試料を測定した場合を示し、一点鎖線α3,α4は両端短絡型でその試料を測定した場合を示している。したがって、図23から、両端開放型の方が両端短絡型より誘電正接を正確に測定できることがわかる。
【0088】図24は本発明の他の実施例の治具の構成を一部切り欠いて示す斜視図であり、図1の治具10Aと対応する部分に同一の番号を付し説明を省略する。図2424の治具10Bにおいて注目すべきは、下板25と上板35〜37とで治具Aの金属板支持部2A,2Bおよび入出力ポート部3A,3Bに対応する部分が形成され、下板25および上板36に金属板1A,1Bを着脱自在にかつ平行に支持するための一対の装着孔25a,36aが形成されることである。この治具10Bによっても、治具10Aと同様に、金属板1A,1Bの表面抵抗Rsおよび試料共振器6の複素誘電率を高精度に測定することができる。
【0089】なお、上述の実施例では、金属板1A,1Bが金属材料自体で形成されていたが、セラミックスや樹脂等の表面だけを金属メッキしたものでもよい。
【0090】
【発明の効果】請求項1および9に係る発明によれば、表面抵抗測定時に一対の導体間に誘電体材料で形成された第1および第2の共振器を含む標準共振器を実装し、第1および第2の共振器と結合することにより生成された2つ以上の異なる周波数における共振ピークを計測し、標準共振器により求めた表面抵抗を用いて、誘電体試料の複素誘電率を求めるようにしているので、1回の測定で、簡単に表面抵抗を求めることができ、複素誘電率を簡易に求めることができる。
【0091】請求項2に係る発明によれば、第1および第2の共振器を同軸に配置するようにしているので、3次元解析の必要がなく、計算が簡単な2次元解析で表面抵抗を求めることができる。
【0092】請求項3に係る発明によれば、標準共振器は、第1および第2の共振器の位置関係を一定に保つ支持部材をさらに備えているので、標準共振器の共振特性を一定に保つことができる。
【0093】請求項4に係る発明によれば、各支持部材は、第1および第2の共振器と一対の導体との間にそれぞれ配設され、柔らかい材料で形成される一対の第1の支持台を含んでいるので、導体の磨耗劣化を防止することができ、測定した表面抵抗の値を維持しつつ複素誘電率の測定、部品の測定等に使用することができる。
【0094】請求項5に係る発明によれば、支持台の第1および第2の共振器と一対の導体との間の厚みは、薄く形成されているので、両端短絡型と同程度の高感度で表面抵抗を測定できる。
【0095】請求項6に係る発明によれば、誘電体ストリップを含み、標準共振器および試料共振器をその同一平面で励振する一対の非放射性誘電体線路をさらに備えているので、従来のループプローブのように磁界を乱すことがなく、共振系の無負荷Qの劣化を引き起こすことがなく、準ミリ波、ミリ波においても高精度に表面抵抗および複素誘電率を求めることができる。
【0096】請求項7に係る発明によれば、非放射性誘電体線路の誘電体ストリップを所定の角度に配設するようにしているので、不要なモードが発生しても、この不要モードを励振せず必要な共振ピークを観測できる。
【0097】請求項8に係る発明によれば、試料共振器は、誘電体試料と導体との間にそれぞれ配設される一対の第2の支持台を備えるようにしているので、導体の磨耗劣化を防止することができ、測定した表面抵抗の値を維持しつつ、表面抵抗の測定誤差の影響を少なくし、高精度に複素誘電率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施例の両端開放型誘電体共振器法の治具の構成を示す斜視図である。
【図2】図1の標準共振器5の構成を示す図である。
【図3】図1の標準共振器5の等価回路図である。
【図4】図1の試料共振器6の構成を示す図である。
【図5】距離gと外部Q、Qexとの関係を示す図である。
【図6】モード変換部33の構造を示す図である。
【図7】金属板1A,1Bの表面抵抗Rsおよび試料共振器6の複素誘電率を測定するための測定システムの全体構成を示すブロック図である。
【図8】測定系の透過・反射特性を示す図である。
【図9】誘電体ストリップ4A,4B間の直接結合特性を示す図である。
【図10】標準共振器5の共振特性を示す図である。
【図11】標準共振器5の共振時の磁界分布を示す図である。
【図12】Δf0 に対する共振器51,52の蓄積エネルギW1,W2の周波数特性を示す図である。
【図13】Δf0 に対する外部Qの差ΔQexエネルギ比Rwの関係を示す図である。
【図14】結合係数kとQcとの関係を示す図である。
【図15】共振器52の外形d2に対する磁界成分HzとΔf’との関係を示す図である。
【図16】標準共振器5を治具10Aに実装して得られた共振特性を示す図である。
【図17】図16の共振特性から測定された各パラメータと表面抵抗Rsの計算結果を示す図である。
【図18】試料共振器6を治具10Aに実装して得られた共振特性を示す図である。
【図19】誘電体試料61の複素誘電率決定のフローチャートを示す図である。
【図20】試料寸法と測定結果を示す図である。
【図21】挿入損失IL(距離g)と共振周波数f0 、無負荷Q(Qu)との関係を示す図である。
【図22】図21の関係を非放射性誘電体線路とループプローブとの間で比較して示す図である。
【図23】測定誤差ΔRsが測定誤差Δtanδに与える影響を示す図である。
【図24】本発明の他の実施例の治具の構成を一部切り欠いて示す斜視図である。
【図25】従来の両端短絡型誘電体共振器法に用いられる治具の構成を示す図である。
【符号の説明】
1A,1B…金属板
2A,2B…金属板支持部
4A,4B…誘電体ストリップ
5…標準共振器
6…試料共振器
7A,7B…非放射性誘電体線路
51,52…共振器
53,54,62,63…支持台
61…誘電体試料
【特許請求の範囲】
【請求項1】 少なくともその表面が導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な治具であって、前記導体を所定の間隔で平行に支持する支持手段と、前記表面抵抗測定時に前記導体間に実装され、誘電体材料で形成された標準共振器と、前記誘電体試料を含み、前記複素誘電率測定時に前記導体間に実装される試料共振器とを備え、前記標準共振器は、第1の共振器と、前記第1の共振器と結合することにより生じる2つ以上の異なる周波数において共振ピークを生成する1つの結合共振器を形成する第2の共振器とを含み、前記標準共振器により求めた表面抵抗を用いて、前記誘電体試料の複素誘電率を求めることを特徴とする、表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項2】 前記第1および第2の共振器は、同軸に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項3】 前記標準共振器は、前記第1および第2の共振器の位置関係を一定に保つ支持部材をさらに備える、請求項1または2に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項4】 各前記支持部材は、前記第1および第2の共振器と前記一対の導体との間にそれぞれ配設され、柔らかい材料で形成される一対の第1の支持台を含む、請求項3に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項5】 前記第1の支持台の前記第1および第2の共振器と前記一対の導体との間の厚みは、薄く形成されることを特徴とする請求項4に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項6】 誘電体ストリップを含み、前記標準共振器および前記試料共振器をその同一平面で励振する一対の非放射性誘電体線路をさらに備える、請求項1ないし5のいずれかに記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項7】 前記非放射性誘電体線路の誘電体ストリップを所定の角度に配設することを特徴とする、請求項6に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項8】 前記試料共振器は、前記誘電体試料と前記導体との間にそれぞれ配設される一対の第2の支持台を備える、請求項1ないし7のいずれかに記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項9】 少なくともその表面が導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な測定系を構成する方法であって、前記一対の導体間に誘電体材料で形成された第1および第2の共振器を含む標準共振器を実装する第1のステップと、前記第1および第2の共振器が結合することにより生成された2つ以上の異なる周波数における共振ピークを計測する第2のステップと、前記一対の導体間に前記誘電体試料を含む試料共振器を実装する第3のステップと、前記第2のステップで求めた表面抵抗を用いて、前記誘電体試料の複素誘電率を求める第4のステップとを備える、表面抵抗および複素誘電率の測定系構成方法。
【請求項1】 少なくともその表面が導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な治具であって、前記導体を所定の間隔で平行に支持する支持手段と、前記表面抵抗測定時に前記導体間に実装され、誘電体材料で形成された標準共振器と、前記誘電体試料を含み、前記複素誘電率測定時に前記導体間に実装される試料共振器とを備え、前記標準共振器は、第1の共振器と、前記第1の共振器と結合することにより生じる2つ以上の異なる周波数において共振ピークを生成する1つの結合共振器を形成する第2の共振器とを含み、前記標準共振器により求めた表面抵抗を用いて、前記誘電体試料の複素誘電率を求めることを特徴とする、表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項2】 前記第1および第2の共振器は、同軸に配置されることを特徴とする、請求項1に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項3】 前記標準共振器は、前記第1および第2の共振器の位置関係を一定に保つ支持部材をさらに備える、請求項1または2に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項4】 各前記支持部材は、前記第1および第2の共振器と前記一対の導体との間にそれぞれ配設され、柔らかい材料で形成される一対の第1の支持台を含む、請求項3に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項5】 前記第1の支持台の前記第1および第2の共振器と前記一対の導体との間の厚みは、薄く形成されることを特徴とする請求項4に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項6】 誘電体ストリップを含み、前記標準共振器および前記試料共振器をその同一平面で励振する一対の非放射性誘電体線路をさらに備える、請求項1ないし5のいずれかに記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項7】 前記非放射性誘電体線路の誘電体ストリップを所定の角度に配設することを特徴とする、請求項6に記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項8】 前記試料共振器は、前記誘電体試料と前記導体との間にそれぞれ配設される一対の第2の支持台を備える、請求項1ないし7のいずれかに記載の表面抵抗および複素誘電率測定用治具。
【請求項9】 少なくともその表面が導電材料で形成された一対の導体の表面抵抗と誘電体試料の複素誘電率とを測定可能な測定系を構成する方法であって、前記一対の導体間に誘電体材料で形成された第1および第2の共振器を含む標準共振器を実装する第1のステップと、前記第1および第2の共振器が結合することにより生成された2つ以上の異なる周波数における共振ピークを計測する第2のステップと、前記一対の導体間に前記誘電体試料を含む試料共振器を実装する第3のステップと、前記第2のステップで求めた表面抵抗を用いて、前記誘電体試料の複素誘電率を求める第4のステップとを備える、表面抵抗および複素誘電率の測定系構成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図20】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
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【図9】
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【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開平8−220160
【公開日】平成8年(1996)8月30日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平7−23151
【出願日】平成7年(1995)2月10日
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
【公開日】平成8年(1996)8月30日
【国際特許分類】
【出願日】平成7年(1995)2月10日
【出願人】(000006231)株式会社村田製作所 (3,635)
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