説明

表面温度測定方法および表面温度測定装置

【課題】振動が存在する測定環境下においても、各フィルタに対応する静止画像を確実に取得することを可能にし、表面温度分布の測定精度を確保することができる表面温度測定方法およびそれに用いられる表面温度測定装置を提供する。
【解決手段】画像撮影工程は、複数の異なる波長帯の赤外線について、各波長帯の熱画像を撮影するための撮影期間をそれぞれに割り当てて、各撮影期間において、撮影時刻順にフレーム番号を付与しつつ所定の間隔で複数回撮影することで、それぞれの波長帯の熱画像を複数取得し、かつ、前記各撮影期間を連続させることにより、複数の異なる波長帯の複数の熱画像の集合である動画を取得する動画撮影工程と、取得した一連の動画から、それぞれの波長帯に対応する各撮影期間を検出するとともに、各撮影期間において取得した複数の熱画像から、それぞれの波長帯に対応する最適な熱画像を一つずつ抽出する最適画像抽出工程と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤外線サーモグラフィによる表面温度測定方法および当該測定方法に用いられる表面温度測定装置の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、波長帯の異なる複数種類の赤外線を検出することで行われる対象物の表面温度(表面温度分布)の測定において、表面状態(即ち、表面の反射率等の状態)が不安定な対象物であっても、当該対象物の表面温度分布を精度良く測定することができる多色法を用いた赤外線サーモグラフィの技術が知られており、例えば、以下に示す特許文献1にその技術が開示され公知となっている。
【0003】
特許文献1には、三色放射温度計を用いた赤外線サーモグラフィによる表面温度測定方法(三色法)および当該測定方法に用いられる表面温度測定装置に係る従来技術が開示されている。当該従来技術は、異なる三種類のフィルタを通して赤外線の強度分布を表す静止画像(以下、「赤外線の強度分布を表す静止画像」を「熱画像」と記載する)を撮影(取得)することによって、波長帯の異なる三種類の熱画像を撮影し、三種類の熱画像に基づいて真の表面温度分布の演算を行うことによって、精度の良い表面温度分布の測定を実現するものである。
【0004】
当該従来技術では、異なる三種類のフィルタを通して熱画像を撮影するときには、赤外線カメラの視野を覆う位置において各フィルタを一定時間ずつ停止させつつ、各フィルタを切り替えて、各フィルタが赤外線カメラの視野において停止しているそれぞれのタイミングで熱画像を撮影する構成としている。
【0005】
また当該従来技術では、各フィルタが赤外線カメラの視野において停止するときには、各フィルタの切替え装置から停止状態を示す信号(以下、停止信号と記載する)を発信する構成としており、停止信号を測定トリガとして、各フィルタに対応する熱画像を撮影する構成としている。つまり、当該従来技術では、波長帯の異なる三種類の熱画像を撮影するためには、各フィルタが赤外線カメラの視野を覆うタイミングで三回以上発信される測定トリガに同期して、三回以上の熱画像の撮影を行う必要があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−292324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に示された当該従来技術では、例えば振動が存在する測定環境下等では、測定トリガ(フィルタの停止信号)が発信されるタイミングと熱画像を撮影するタイミングの同期がうまく行かず、必要な三種類の熱画像を撮影することができない場合があった。この場合、三種類に満たない(二種類以下の)熱画像に基づいて真の表面温度分布の演算が行われるため、表面温度分布の測定精度が低下するという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、斯かる現状の課題を鑑みてなされたものであり、振動が存在する測定環境下においても、各フィルタに対応する熱画像を確実に撮影することを可能にし、これにより、表面温度分布の測定精度を確保することができる表面温度測定方法およびそれに用いられる表面温度測定装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0010】
即ち、請求項1においては、対象物の表面から放射される赤外線の強度分布を表す静止画像である熱画像を、複数の異なる波長帯の赤外線について撮影し、複数の前記熱画像を取得する熱画像取得工程と、撮影した複数の前記熱画像に基づいて、前記対象物の真の表面温度の分布を演算する表面温度演算工程と、を有する表面温度測定方法であって、前記画像撮影工程は、複数の異なる波長帯の赤外線について、各波長帯の熱画像を撮影するための撮影期間をそれぞれに割り当てて、各撮影期間において、それぞれの波長帯の熱画像を、撮影時刻順にフレーム番号を付与しつつ所定の間隔で複数回撮影することで、それぞれの波長帯の熱画像を複数取得し、かつ、前記各撮影期間を連続させることにより、複数の異なる波長帯の複数の熱画像の集合である動画を取得する動画撮影工程と、該動画撮影工程で取得した前記一連の動画から、それぞれの波長帯に対応する各撮影期間を検出するとともに、各撮影期間において取得した複数の熱画像から、それぞれの波長帯に対応する最適な熱画像を一つずつ抽出する最適画像抽出工程と、を有するものである。
【0011】
請求項2においては、前記最適画像抽出工程は、前記一連の動画を構成する各熱画像において検出した各最高温度と、前記各最高温度の微分値と、該各最高温度の微分値に対して規定する判定閾値と、に基づいて、前記各最高温度の微分値のうち、当該熱画像の最高温度の微分値が前記判定閾値以上であり、かつ、当該熱画像より一つ前のフレーム番号に該当する熱画像の最高温度の微分値が前記判定閾値未満である当該熱画像のフレーム番号を、波長帯ごとに検出し、波長帯ごとに検出した各フレーム番号を基準として、該基準となる各フレーム番号から所定のフレーム数だけ遡った各フレーム番号に該当する複数の熱画像を、前記それぞれの波長帯に対応する最適な熱画像として抽出するものである。
【0012】
請求項3においては、前記判定閾値は、前記各最高温度の微分値の標準偏差とするものである。
【0013】
請求項4においては、赤外線の強度分布を検出する赤外線分布検出手段と、それぞれ異なる波長帯の赤外線が透過可能な三種類以上のフィルタと、前記三種類以上のフィルタのいずれが前記赤外線分布検出手段の光路を覆うかを切り替える切り替え装置と、を備え、波長帯が異なる三種類以上の赤外線の強度分布を検出する表面温度測定装置であって、該表面温度測定装置は、前記三種類以上のフィルタに加えて、赤外線を透過しないパネルを備え、かつ、前記赤外線分布検出手段は、赤外線の強度分布を表す静止画像である熱画像を、該熱画像の集合である動画として取得するものである。
【0014】
請求項5においては、前記パネルは、黒体によって形成するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の効果として、以下に示すような効果を奏する。
【0016】
請求項1においては、振動が存在する測定環境下において、複数の熱画像を確実に取得することができる。
【0017】
請求項2においては、振動が存在する測定環境下において、表面温度分布の演算に必要な複数の異なる波長帯に対応する熱画像を確実に取得することができる。
【0018】
請求項3においては、判定閾値を自動的に設定することができ、これにより、表面温度分布の演算に必要な複数の異なる波長帯に対応する熱画像を容易、かつ、確実に取得することができる。
【0019】
請求項4においては、振動が存在する測定環境下において、表面温度分布の演算に必要な複数の異なる波長帯に対応する熱画像を確実に取得することができる。
【0020】
請求項5においては、複数の異なる波長帯に対応する熱画像の撮影タイミングを精度良く確実に判別するとともに、表面温度分布の測定精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例に係る表面温度測定装置の全体構成を示す模式図。
【図2】本発明の一実施例に係る赤外線カメラのフィルタ部を示す模式図、(a)正面模式図、(b)図2(a)におけるA−A断面模式図。
【図3】本発明の一実施例に係る赤外線カメラの他の実施形態を示す模式図。
【図4】本発明の一実施例に係るフィルタ部の回転状況((ア)〜(エ))を示す模式図。
【図5】本発明の一実施例に係る表面温度測定方法を示す全体フロー図。
【図6】本発明の一実施例に係る赤外線カメラによる撮影状況を示す模式図、(a)第一フィルタ適用時(待機角度)の撮影状況を示す斜視模式図、(b)パネル適用時の撮影状況を示す斜視模式図。
【図7】本発明の一実施例に係る赤外線カメラによる撮影状況(ディスク回転中)を示す模式図。
【図8】本発明の一実施例に係る表面温度測定方法((STEP−1)〜(STEP−3))を示す部分フロー図。
【図9】本発明の一実施例に係る赤外線カメラによる撮影状況を示す模式図、(a)第一フィルタ適用時の撮影状況を示す斜視模式図、(b)第二フィルタ適用時の撮影状況を示す斜視模式図。
【図10】本発明の一実施例に係る赤外線カメラによる撮影状況を示す模式図、(a)第三フィルタ適用時の撮影状況を示す斜視模式図、(b)パネル適用時の撮影状況を示す斜視模式図。
【図11】本発明の一実施例に係る表面温度測定方法(STEP−4)を示す部分フロー図。
【図12】本発明の一実施例に係る表面温度測定方法における最適画像の抽出に用いるグラフを示す図。
【図13】本発明の一実施例に係る表面温度測定方法(STEP−5)を示す部分フロー図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、発明の実施の形態を説明する。
まず始めに、本発明の一実施例に係る表面温度測定装置の全体構成について、図1〜図3を用いて説明をする。
図1に示す如く、表面温度測定装置1は、金型2の表面、特にキャビティ面2aの温度分布を測定するために用いられる装置であり、赤外線カメラ3、制御装置4等を備えている。
【0023】
本発明の一実施例に係る表面温度測定装置1による温度分布の測定対象物である金型2は、鍛造や鋳造に用いられる型であり、その合わせ面には、成形されるワーク(金型2により所定の形状に成形されたもの)に対応する形状のキャビティ面2aが形成される。そして、本発明の一実施例に係る表面温度測定装置1は、ワークの成形工程において、キャビティ面2aに離型剤を塗布するときのキャビティ面2aの温度分布が所定の温度域にあるか否かを判定するための用途に用いられている。
【0024】
尚、本発明に係る表面温度測定装置の用途は、本実施例に示す鍛造や鋳造に用いられる金型(特にキャビティ面)の表面温度分布を測定する用途に限定されず、種々の対象物の表面温度分布を測定する用途に広く適用することが可能である。
【0025】
赤外線カメラ3は、本発明に係る赤外線分布検出手段の実施の一形態であり、金型2のキャビティ面2aから放射される赤外線のうち、波長帯が異なる三種類の赤外線の強度分布をそれぞれ異なる測定タイミングにおいて検出するものである。ここで、「強度分布」とは、対象物の表面における赤外線のエネルギー強度の分布を指す。
赤外線カメラ3は、検出素子3a、レンズ3b、フィルタ部6、切り替え装置10等を備えている。
【0026】
図1および図2(a)・(b)に示す如く、レンズ3bは、所定の領域(視野)に存在する対象物から放射される赤外線を検出素子3aに向けて収束させるものである。本実施例の場合、所定の領域(視野)内に金型2のキャビティ面2aを配置することにより、レンズ3bによって、金型2のキャビティ面2aから放射される赤外線を検出素子3aに収束させることができる。尚、以下の説明では、赤外線カメラ3に向かって放射される赤外線が通る道筋であって、測定対象物を含むレンズ3bの視野から検出素子3aに至るまでの範囲を、赤外線カメラ3の光路と呼ぶ(図1参照)。また、レンズ3bの光軸を光軸Xと呼び、レンズ3bから検出素子3aに向けて出射される赤外線の光線束を光線束Yと呼ぶ(図2(a)・(b)参照)。
【0027】
フィルタ部6は、ディスク7、フィルタ8およびパネル9等を備えている。そして、フィルタ部6は、赤外線カメラ3における検出素子3aとレンズ3bとの間であって光線束Yと交錯する位置に配設され、フィルタ部6によって、赤外線カメラ3の光路を覆うことができる構成としている。
【0028】
ディスク7は、略円盤状の部材であり、フィルタ8あるいはパネル9をそれぞれ嵌め込むための複数の孔が形成されている。これらの孔は、それぞれディスク7の回転中心からの距離が略同じとなる位置であって、ディスク7の回転中心に対して90度ずつ位相が異なる位置に形成されている。
【0029】
フィルタ8は、第一フィルタ8a、第二フィルタ8bおよび第三フィルタ8cからなり、ディスク7に形成される孔に対応する形状である略円盤状の光学フィルタ(バンドパスフィルタ)を採用している。そして、各フィルタ8a・8b・8cには、それぞれ異なる特定の波長帯の赤外線を透過できるものを選定している。本実施例では、第一フィルタ8aとして短波長(波長が7.4μm〜9.0μm)の赤外線を透過可能なバンドパスフィルタを、第二フィルタ8bとして中波長(波長が9.3μm〜11.3μm)の赤外線を透過可能なバンドパスフィルタを、第三フィルタ8cとして長波長(波長が10.9μm〜14.3μm)の赤外線を透過可能なバンドパスフィルタを、それぞれ選定している。
【0030】
パネル9は、前記各フィルタ8a・8b・8cと略同一の外形形状に形成される略円盤状の部材であり、赤外線を遮蔽できる素材によって形成されている。尚、パネル9の形状はこれに限定されず、各フィルタ8a・8b・8cに対して異なる外形形状および大きさに形成されるものであっても良い。
【0031】
そして、本実施例では、ディスク7に各フィルタ8a・8b・8cおよびパネル9が合計四個備えられる構成とし、それぞれディスク7の回転中心からの距離が略同じとなる位置であって、ディスク7の回転中心に対して90度ずつ位相が異なる位置に各フィルタ8a・8b・8cおよびパネル9が配設される構成としている。
【0032】
そして、各フィルタ8a・8b・8cが、検出素子3aとレンズ3bの間の赤外線カメラ3の光路に配置されるときには、レンズ3bによって収束される赤外線の光線束Yが各フィルタ8a・8b・8cを通過するため、各フィルタ8a・8b・8cの特性に応じた波長帯の赤外線が検出素子3aに到達する(図2(b)参照)。
【0033】
また、パネル9が、検出素子3aとレンズ3bの間の赤外線カメラ3の光路に配置されるときには、レンズ3bによって収束される赤外線の光線束Yがパネル9によって遮られるため、赤外線(光線束Y)が検出素子3aに到達しない。このため、パネル9によって光線束Yが遮られている間は、検出素子3aに対する赤外線の入力が途絶え、検出素子3aからの出力信号も途絶える状態となる。よってこの状態では、対象物の温度が見掛け上「0」として検出され、前記各フィルタ8a・8b・8cを透過した赤外線の強度分布を検出する場合と、明確に差異のある測定結果が得られる。
【0034】
尚、本実施例の赤外線カメラ3では、三種類の異なる波長帯の赤外線を透過する各フィルタ8a・8b・8cを備える構成としているが、本発明に係るフィルタは、これら三種類の波長帯に対応するものに限定されず、必要に応じて種々の波長帯に対応するバンドパスフィルタを採用することができ、また、四種類以上のバンドパスフィルタを組み合わせて適用することもできる。
【0035】
また、本実施例では、ディスク7に備えられる各フィルタ8a・8b・8cおよびパネル9の個数が合計四個であり、ディスク7の回転中心に対して90度ずつ位相が異なる位置に各フィルタ8a・8b・8cおよびパネル9が配設される構成としているが、本発明に係るフィルタ部の構成をこれに限定するものではなく、フィルタやパネルの合計個数が五個以上であっても良く、そして、フィルタおよびパネルのディスクの回転中心に対する位相差が90度以外の配置となる構成であっても良い。また、フィルタおよびパネルのディスクの回転中心に対する位相差がそれぞれ異なっていても良い。
【0036】
また、本発明の一実施例に係る表面温度測定装置1では、図3に示すように、赤外線カメラ3を、レンズ3bと測定の対象物(金型2)との間にフィルタ部6を配設する構成とすることも可能である。
図3に示す赤外線カメラ3の構成において、レンズ3bの視野(即ち、赤外線カメラ3の光路)をパネル9で覆った場合には、検出素子3aが、パネル9から放射される赤外線の強度分布を検出する。この場合にも、検出素子3aが、前記各フィルタ8a・8b・8cを透過した赤外線の強度分布を検出する場合と、明確に差異のある測定結果が得られる。
【0037】
またフィルタ部6を、レンズ3bと測定の対象物(金型2)の間に配設する構成の赤外線カメラ3では、パネル9に替えて、黒体パネル9aを用いることが可能である。
黒体パネル9aは、前記各フィルタ8a・8b・8cと略同一の外形形状に形成される円盤状の部材であり、その表面には全面的に黒体塗料が塗布され、黒体として取り扱うことができるパネルとして構成されている。尚、黒体パネル9aの態様はこれに限定されず、例えば、円盤状パネルの表面に全面的に黒体テープを貼り付けた態様のもの等を採用することも可能である。
【0038】
黒体パネル9aを用いれば、赤外線カメラ3の視野を黒体パネル9aで覆った状態では、検出素子3aが、黒体パネル9aから放射される赤外線の強度分布を検出するため、放射率の影響を考慮する必要のない状態で、黒体パネル9aの表面温度を正確に測定することができるとともに、前記各フィルタ8a・8b・8cを透過した赤外線の強度分布を検出する場合と、明確に差異のある測定結果が得られる。さらに、黒体パネル9aの表面温度の測定結果を利用して、各フィルタ8a・8b・8cを透過した赤外線の強度分布の検出結果から求める表面温度分布を補正し、温度分布の測定精度をさらに向上させることも可能である。
【0039】
即ち、本発明の一実施例に係る表面温度測定装置1においては、パネル9は、黒体によって形成される黒体パネル9とすることが可能である。
このような構成により、複数の異なる波長帯に対応する熱画像の撮影タイミングを精度良く確実に判別するとともに、温度分布の測定精度を向上させることができる。
【0040】
図1〜図3に示す如く、切り替え装置10は、ディスク7を回転駆動することができるアクチュエータであり、モータ軸10bを有するモータ10aによって構成されており、モータ軸10bはディスク7の中心に固定されている。
そして、モータ10aを駆動するとモータ軸10b回りにディスク7が回転し、各フィルタ8a・8b・8c、あるいはパネル9のうち、赤外線の光線束Y(即ち、赤外線カメラ3の光路)を覆う位置に配置されるものが切り替わる。尚、本実施例に示す赤外線カメラ3では、ディスク7の中心から図2(a)中における左斜め下45度の角度の位置にレンズ3bの光軸Xを配置する構成としている。
【0041】
図1に示す如く、制御装置4は、制御部4a、入力部4b、表示部4c等を備えている。
制御部4aは表面温度測定装置1の一連の動作を制御するものであり、実体的には、種々のプログラム等(例えば、表面温度演算プログラムや、後述する最適熱画像抽出プログラム等)を格納する格納手段、各プログラム等を展開する展開手段、各プログラム等に従って所定の演算を行う演算手段、演算結果(図1中に示すグラフ等)を保管する保管手段等を備えている。
【0042】
係る制御部4aは、より具体的には、CPU、ROM、RAM、HDD等がバス接続される構成や、あるいはワンチップのLSI等からなる構成とすることができる。
図1に示すように、本実施例の制御部4aは市販のパーソナルコンピュータを用いて達成されるが、前記CPU等を備える専用品に前記プログラム群を格納したもので達成することもできる。
【0043】
また、制御部4aは赤外線カメラ3に接続され、赤外線カメラ3を動作させるための信号を送信可能であるとともに、赤外線カメラ3により撮影された画像情報(例えば、金型2のキャビティ面2aから放射される各波長帯における赤外線の強度分布に係る情報等)を受信(取得)することができる。
【0044】
また、制御部4aは切り替え装置10のモータ10aに接続され、モータ10aの駆動および停止に係る信号を送信することにより、モータ軸10bの動作を制御することができる。即ち、切り替え装置10によって、制御部4aからの指令信号に応じて、各フィルタ8a・8b・8c、あるいはパネル9のいずれが赤外線カメラ3の光路を覆うかを選択することができる。
【0045】
入力部4bは制御部4aに接続され、制御部4aに表面温度測定装置1の動作に係る種々の情報・指示等を入力するものである。
図1に示すように、本実施例の入力部4bは、市販のパーソナルコンピュータに備えられるキーボードによって達成されるが、その他の専用品やマウス、ポインティングデバイス、ボタン、スイッチ等を用いても同様の効果を達成することができる。
【0046】
表示部4cは表面温度測定装置1の動作状況、入力部4bから制御部4aへの入力内容、表面温度測定装置1による測定結果等を表示するものである。
図1に示すように、本実施例の表示部4cは市販のパーソナルコンピュータに備えられるディスプレイによって達成されるが、その他の専用品や外部モニター等を用いても同様の効果を達成することができる。
【0047】
ここで、フィルタ8の切り替え状況について、図1および図4を用いて説明をする。
ディスク7は、制御装置4の制御部4aから出力される指令信号に応じて、切り替え装置10のモータ10aによって回転駆動されるが、このときのディスク7の回転状況(即ち、ディスク7の回転角度)に応じて、適用されるフィルタ8(即ち、各フィルタ8a・8b・8c)あるいはパネル9が切り替えられる。
【0048】
具体的には、図4の状態(ア)に示す如く、ディスク7が、第一フィルタ8aの中心と光軸Xが略一致する回転角度となる状態では、レンズ3bによって収束される赤外線(光線束Y)が、第一フィルタ8aを透過して検出素子3aに到達する。そしてこの状態では、検出素子3aによって、特定の波長帯(本実施例では、波長が7.4μm〜9.0μmである短波長の赤外線)における赤外線の強度分布を検出することができる。
【0049】
また、この状態からディスク7を90度だけ所定の方向(本実施例では、図4中における時計回り)に回転することによって、ディスク7が、第二フィルタ8bの中心と光軸Xが略一致する回転角度となる状態(図4に示す状態(イ))に切り替えることができる。
第二フィルタ8bの中心と光軸Xが略一致する状態では、レンズ3bによって収束される赤外線(光線束Y)が、第二フィルタ8aを透過して検出素子3aに到達する。そしてこの状態では、検出素子3aによって、特定の波長帯(本実施例では、(波長が9.3μm〜11.3μmである中波長の赤外線)における赤外線の強度分布を検出することができる。
【0050】
また、この状態からディスク7を90度だけ所定の方向(図4中における時計回り)に回転することによって、ディスク7が、第三フィルタ8cの中心と光軸Xが略一致する回転角度となる状態(図4に示す状態(ウ))に切り替えることができる。
第三フィルタ8cの中心と光軸Xが略一致する状態では、レンズ3bによって収束される赤外線(光線束Y)が、第三フィルタ8cを透過して検出素子3aに到達する。そしてこの状態では、検出素子3aによって、特定の波長帯(本実施例では、(波長が10.9μm〜14.3μmである長波長の赤外線)における赤外線の強度分布を検出することができる。
【0051】
また、この状態からディスク7を90度だけ所定の方向(図4中における時計回り)に回転することによって、ディスク7が、パネル9の中心と光軸Xが略一致する回転角度となる状態(図4に示す状態(エ))に切り替えることができる。
パネル9の中心と光軸Xが略一致する状態では、レンズ3bによって収束される赤外線が、パネル9によって遮られるため、赤外線(光線束Y)が検出素子3aに到達しない。この状態では、検出素子3aによって、赤外線の強度分布を検出することはできないが、これにより、測定温度が見掛け上「0」となる測定結果を積極的に得ることができる。
【0052】
尚、本実施例ではディスク7にそれぞれ異なる波長帯の赤外線を透過可能な三つの各フィルタ8a・8b・8cとパネル9を嵌め込み、モータ10aでディスク7を回転駆動することにより三つの各フィルタ8a・8b・8cあるいはパネル9のいずれが光線束Yを覆うかを切り替える構成としたが、本発明はこれに限定されず、他の方法(例えば、三つ以上のフィルタやパネルを並列させて嵌め込んだ部材を並列方向に沿ってスライドさせる等)により光線束Yを覆うフィルタやパネルを切り替える構成としても同様の効果を奏する。
【0053】
次に、本発明の一実施例に係る表面温度測定装置による表面温度測定方法について、図5〜図13を用いて説明をする。
図5に示す如く、本発明の一実施例に係る表面温度測定装置1による表面温度測定方法では、測定開始当初において、表面温度測定装置1は測定トリガの入力待ち状態となっている(STEP−1)。
そして、図6(a)に示す如く、測定トリガの入力待ち状態(STEP−1)である赤外線カメラ3では、ディスク7が、第一フィルタ8aの中心と光軸Xが略一致する回転角度となる状態(即ち、第一フィルタ8aによって光線束Yを覆う状態)で保持されている。尚、このときのディスク7の回転角度を「待機角度」と呼ぶ。これは、動画撮影工程以外のときにも赤外線カメラ3により撮影される映像が確認できる方が便利であるためであり、測定トリガの入力待ち状態においては、パネル9以外の各フィルタ8a・8b・8cのいずれかが赤外線カメラ3の光路を覆う状態に保持しておくことが望ましい。
【0054】
そして、測定対象物たる金型2を含む生産装置(例えば、鍛造装置や鋳造装置)から成形工程を開始する旨の信号(生産工程開始信号)が表面温度測定装置に入力され、当該生産工程開始信号の受信する(即ち、測定トリガがONとなる)ことを条件として(STEP−2)、次工程である熱画像取得工程に移行する。
【0055】
熱画像取得工程では、対象物(金型2)の真の表面温度を演算するために必要な、赤外線の波長帯が異なる複数の熱画像を取得する。本発明の一実施例に係る表面温度測定装置1による表面温度測定方法では、当該熱画像取得工程が、動画撮影工程(STEP−3)と、最適画像抽出工程(STEP−4)の各工程からなる構成としている。
そして、熱画像取得工程が完了すると、表面温度演算工程(STEP−5)に移行し、熱画像取得工程で取得した熱画像に基づいて、真の表面温度を演算する。
これが、表面温度測定装置1による表面温度測定方法の概要であるが、以下で各工程をさらに詳細に説明をする。
【0056】
まず、動画撮影工程(STEP−3)について、さらに詳細に説明をする。
図5および図8に示す如く、表面温度測定装置1に対して測定トリガとなる生産工程開始信号が入力されると(STEP−2)、熱画像取得工程の第一段階である動画撮影工程に移行する(STEP−3)。動画撮影工程では、表面温度測定装置1による金型2(キャビティ面2a)の熱画像の撮影が行われるが、この熱画像の撮影は、赤外線カメラ3によって熱画像を動画で撮影することによって行われる。
【0057】
ここで「動画」とは、略一定のフレームレート(単位時間あたりに撮影される静止画像のコマ数)で間欠的に撮影された複数の熱画像(フレーム)の集合体であり、撮影された各熱画像には、動画の撮影開始時点から撮影終了時点に至るまで、時刻順に連続するフレーム番号が付与されるものである。
【0058】
図5および図8に示す如く、測定トリガが入力されると(STEP−2)、ディスク7を次の停止角度とするべく、パネル9の中心と光軸Xが略一致するように、ディスク7を図6(a)に示す状態から矢印αの方向に90度回転させて、図6(b)に示す状態とする。これにより、光線束Yがパネル9によって遮られる状態となる(STEP−3−1)。尚、このときのディスク7の回転角度を「基準角度」と呼ぶ。また、測定トリガの入力と同時に、赤外線カメラ3による動画の撮影を開始する(STEP−3−2)。
【0059】
このとき赤外線カメラ3による動画の撮影は、図7に示すように、ディスク7が所定の角速度で回転している状況下(即ち、第一フィルタ8aが光線束Yを覆う面積と、第一フィルタ8aとパネル9の境目に位置するディスク7が光線束Yを遮る面積と、パネル9が光線束Yを遮る面積と、が刻々と変化している状態)において行われる。尚、説明の便宜上、このタイミングの撮影期間を識別する番号として、期間番号(1)を付与する。そして、図8および図12において、対応する期間には当該期間番号を表示している。以下の説明で付与する期間番号(2)〜(10)についても同様とする。また、以下の説明では、説明の便宜上、図7以外の態様である回転中のディスク7の図示は割愛する。
【0060】
次に、所定時間(例えば、100msec)だけディスク7の回転を停止させて、パネル9によって光線束Yを遮る状態を保持する(STEP−3−3)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、パネル9が静止し安定している状態で行われる。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、期間番号(2)を付与する。
【0061】
次に、ディスク7を次の停止角度とするべく、第一フィルタ8aの中心と光軸Xが略一致するように、ディスク7を図6(b)に示す状態から矢印βの方向に90度回転させて、図9(a)に示す状態とする。これにより、光線束Yが第一フィルタ8aによって覆われる(STEP−3−4)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、ディスク7が所定の角速度で回転している状況下(即ち、パネル9が光線束Yを遮る面積と、第一フィルタ8aとパネル9の境目に位置するディスク7が光線束Yを遮る面積と、第一フィルタ8aが光線束Yを覆う面積と、が刻々と変化している状態)において行われる。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、期間番号(3)を付与する。
【0062】
次に、所定時間(例えば、100msec)だけディスク7の回転を停止させて、第一フィルタ8aによって光線束Yを覆う状態を保持する(STEP−3−5)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、第一フィルタ8aが静止し安定している状態において行われ、第一フィルタ8aを透過した特定の波長帯の赤外線強度を示す画像が動画として安定して撮影される。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、期間番号(4)を付与する。
【0063】
次に、ディスク7を次の停止角度とするべく、第二フィルタ8bの中心と光軸Xが略一致するように、ディスク7を図9(a)に示す状態から矢印βの方向に90度回転させて、図9(b)に示す状態とする。これにより、光線束Yが第二フィルタ8bによって覆われる(STEP−3−6)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、ディスク7が所定の角速度で回転している状況下(即ち、第一フィルタ8aが光線束Yを覆う面積と、第一フィルタ8aと第二フィルタ8bの境目に位置するディスク7が光線束Yを遮る面積と、を第二フィルタ8bが光線束Yが覆う面積と、が刻々と変化している状態)において行われる。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、期間番号(5)を付与する。
【0064】
次に、所定時間(例えば、100msec)だけディスク7の回転を停止させて、第二フィルタ8bによって光線束Yを覆う状態を保持する(STEP−3−7)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、第二フィルタ8bが静止し安定した状態において行われ、第二フィルタ8bを透過した特定の波長帯の赤外線を示す画像が動画として安定して撮影される。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、期間番号(6)を付与する。
【0065】
次に、ディスク7を次の停止角度とするべく、第三フィルタ8cの中心と光軸Xが略一致するように、ディスク7を図9(b)に示す状態から矢印βの方向に90度回転させて、図10(a)に示す状態とする。これにより、光線束Yが第三フィルタ8cによって覆われる(STEP−3−8)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、ディスク7が所定の角速度で回転している状況下(即ち、第二フィルタ8bが光線束Yを覆う面積と、第二フィルタ8bと第三フィルタ8cの境目に位置するディスク7が光線束Yを遮る面積と、第三フィルタ8cが光線束Yを覆う面積と、が刻々と変化している状態)において行われる。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、期間番号(7)を付与する。
【0066】
次に、所定時間(例えば、100msec)だけディスク7の回転を停止させて、第三フィルタ8cによって光線束Yを覆う状態を保持する(STEP−3−9)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、第三フィルタ8cが静止し安定している状態において行われ、第三フィルタ8cを透過した特定の波長帯の赤外線を示す画像が動画として安定して撮影される。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、期間番号(8)を付与する。
【0067】
次に、ディスク7を次の停止角度とするべく、パネル9の中心と光軸Xが略一致する(即ち、ディスク7が「基準角度」となる)ように、ディスク7を図10(a)に示す状態から矢印βの方向に90度回転させて、図10(b)に示す状態とする。これにより、光線束Yがパネル9によって再び遮られる(STEP−3−10)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、ディスク7が所定の角速度で回転している状況下(即ち、第三フィルタ8cが光線束Yを覆う面積と、第三フィルタ8cとパネル9の境目に位置するディスク7が光線束Yを遮る面積と、パネル9が光線束Yを遮る面積と、が刻々と変化している状態)において行われる。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、期間番号(9)を付与する。
【0068】
次に、所定時間(例えば、100msec)だけディスク7の回転を停止させて、パネル9によって光線束Yを遮る状態を保持する(STEP−3−11)。
このときの赤外線カメラ3による動画の撮影は、パネル9が静止し安定している状態で行われる。尚、説明の便宜上、この撮影期間を識別する番号として、番号(10)を付与する。そして、以上で赤外線カメラ3による動画の撮影を終了する(STEP−3−12)。
【0069】
さらに、動画の撮影終了後には、ディスク7を次の停止角度とするべく、第一フィルタ8aの中心と光軸Xが略一致する(即ち、ディスク7が「待機角度」となる)ように、ディスク7を図10(b)に示す状態から矢印βの方向に90度回転させて、図6(a)に示す状態とする。
これにより、赤外線カメラ3を、光線束Yが第一フィルタ8aによって覆われる状態(即ち、測定トリガの入力待ち状態)に待機させる(STEP−3−13)とともに、動画撮影工程(STEP−3)を完了して、その後、各波長帯における最適画像抽出工程(STEP−4)に移行する。
【0070】
尚、本発明に係る表面温度測定装置および表面温度測定方法では、各フィルタ8a・8b・8cおよびパネル9によって、光線束Yを覆うあるいは遮る状態において、必ずしもディスク7の回転を所定時間停止させる必要はなく、例えば、所定の一定の角速度で継続してディスク7を回転させたり、ディスク7の回転位相に応じて角速度を変化させながらディスク7を回転させたりする構成等とすることも可能であり、各フィルタ8a・8b・8cおよびパネル9によって、光線束Yを覆った状態を一定時間形成できる構成であればよい。
【0071】
即ち、本発明の一実施例に係る表面温度測定装置1は、赤外線の強度分布を検出する赤外線カメラ3と、それぞれ異なる波長帯の赤外線が透過可能な三種類以上のフィルタ8(各フィルタ8a・8b・8c)と、各フィルタ8a・8b・8cのいずれが赤外線カメラ3の光路を覆うかを切り替える切り替え装置10と、を備え、波長帯が異なる三種類以上の赤外線の強度分布を検出する表面温度測定装置1であって、該表面温度測定装置1は、各フィルタ8a・8b・8cに加えて、赤外線を透過しないパネル9を備え、かつ、赤外線カメラ3は、赤外線の強度分布を表す静止画像である熱画像を、該熱画像の集合である動画として撮影するものである。
このような構成により、振動が存在する測定環境下において、表面温度分布の演算に必要な複数の異なる波長帯に対応する熱画像を確実に取得することができる。
【0072】
次に、最適画像抽出工程(STEP−4)について、説明をする。
図5および図11に示す如く、動画撮影工程(STEP−3)が完了すると、最適画像抽出工程(STEP−4)に移行する。
【0073】
図11に示す如く、熱画像取得工程の第二段階である最適画像抽出工程(STEP−4)では、制御装置4によって、まず撮影された動画を構成する各熱画像を解析し、各熱画像から算出した表面温度分布における最高温度を検出する(STEP−4−1)。
そして、検出した各熱画像における最高温度を、フレーム番号順(時刻順)にプロットしたグラフ(図12中に示すグラフ(a))を作成する(STEP−4−2)。
【0074】
次に、検出した各熱画像における最高温度に基づいて、各熱画像における最高温度の微分値を算出する(STEP−4−3)。
具体的には、フレーム番号m(mは0を含む自然数)の熱画像の最高温度をTと表し、最高温度の微分値をdTと表すとき、最高温度の微分値dTは、以下に示す数式1によって算出される。
【0075】
【数1】

【0076】
そして、算出した各熱画像における最高温度の微分値dTを、フレーム番号順(時刻順)にプロットしたグラフ(図12中に示すグラフ(b))を作成する(STEP−4−4)。
さらに、算出した各熱画像における最高温度の微分値dTの標準偏差σを算出し、算出した標準偏差σ(図12中に示す標準偏差(c))をグラフ上に判定閾値Sとして表示する(STEP−4−5)。このようにして作成されるグラフは、図12に示すようなグラフとして表され、当該グラフは制御部4aに記憶される(図1参照)。
【0077】
尚、本実施例では、検出した最高温度Tや、算出した最高温度の微分値dTおよびその標準偏差σ(判定閾値S)のデータをグラフ化する構成としているが、本発明に係る表面温度測定方法では、必ずしも各データをグラフ化する必要はなく、数値データのまま制御部4aに保持し利用することも可能である。
【0078】
そして、本発明の一実施例に係る表面温度測定方法では、作成したグラフ(図12参照)に基づいて、以後各波長帯における最適画像の選択に移行する。
まず、図12に示すグラフから、最高温度が「0」となっている熱画像のフレーム番号を検出する(STEP−4−6)。これは、光線束Yがパネル9によって遮られた状態で撮影された各熱画像が含まれるフレーム番号を検出することを意図するものである。そして、本実施例では、期間番号(2)および(10)の撮影期間に含まれる各フレーム番号が最高温度が「0」となっている熱画像のフレーム番号に該当する。
【0079】
本発明の一実施例に係る赤外線カメラ3では、赤外線カメラ3の光路を覆うあるいは遮るフィルタ8およびパネル9が、動画の撮影中に、「パネル9」→「第一フィルタ8a」→「第二フィルタ8b」→「第三フィルタ8c」→「パネル9」の順序で切り替えられる設定としている。
即ち、フィルタ部6に各フィルタ8a・8b・8cに加えてパネル9を備える構成とし、最高温度が「0」となっている熱画像のフレーム番号を検出することにより、有効な熱画像(各フィルタ8a・8b・8cを通過させて撮影される熱画像)が含まれ得るフレーム番号の範囲(開始点と終了点)をより明確に把握することが可能になる。
【0080】
さらに、図12に示すグラフからは、期間番号(4)の撮影期間では第一フィルタ8aによって光線束Yが覆われた状態で動画が撮影され、期間番号(6)の撮影期間では第二フィルタ8bによって光線束Yが覆われた状態で動画が撮影され、期間番号(8)の撮影期間では第三フィルタ8cによって光線束Yが覆われた状態で動画が撮影されたものであることを、測定者は一見して把握することができる。
【0081】
これにより、図12に示すグラフを用いれば、測定者の判断により、各フィルタ8a・8b・8cに対応する各熱画像のフレーム番号を容易かつ確実に取得することができる。
【0082】
そして、本発明の一実施例に係る表面温度測定方法では、このような最適画像の選択を、制御装置4の制御部4aに格納された最適熱画像抽出プログラムによって自動的に行うようにしている。
【0083】
具体的には、図12に示すグラフから、制御部4aによって最適熱画像抽出プログラムに従って、まず最高温度の微分値が判定閾値S以下である状態から判定閾値S以上である状態に遷移した直後の各プロット点を検出するとともに、当該各プロット点の各フレーム番号P・Q・Rを検出する(STEP−4−7)。
これは、ディスク7が回転し始めた直後に撮影された熱画像のフレーム番号を検出することを意図するものである。本実施例の場合、各フレーム番号P・Q・Rの具体的な番号はそれぞれフレーム番号(31)・(43)・(55)に該当する。
【0084】
次に、制御部4aによって最適熱画像抽出プログラムに従って、ディスク7が回転し始めた直後に撮影された熱画像に該当する各フレーム番号P・Q・Rから、それぞれ所定数(n・n・n)だけ前に遡った各フレーム番号(P−n)・(Q−n)・(R−n)を抽出(算出)する(STEP−4−8)。
これは、ディスク7が回転し始めた直後のタイミングにあたる各フレーム番号P・Q・Rをより前の所定の撮影区間(コマ数)に撮影された各熱画像は、各フィルタ8a・8b・8cが、光線束Yを覆って停止している状態で撮影された各熱画像に確実に該当するからである。これにより、各フィルタ8a・8b・8cが、光線束Yを覆って停止している状態で撮影された熱画像の各フレーム番号を確実に検出することができる。
【0085】
また、所定の各数(n・n・n)は、各熱画像を実際に確認した上で、測定者が最適であると判断する熱画像のフレーム番号を基準に求めたり、あるいは、ディスク7の回転速度(角速度)や停止時間および赤外線カメラ3のフレームレート等に応じて自動的に求めたりする構成とすることが可能である。具体的には、本実施例では、所定数n・n・nの各数の値はそれぞれ「4」・「5」・「5」としており、各フレーム番号(P−n)・(Q−n)・(R−n)はそれぞれフレーム番号(27)・(38)・(50)に該当する。
【0086】
そして、制御部4aによって最適熱画像抽出プログラムに従って、光線束Yを各フィルタ8a・8b・8cで覆って停止している状態に該当するものとして検出された各フレーム番号(P−n)・(Q−n)・(R−n)に対応する熱画像を、各フィルタ8a・8b・8cに対応する(即ち、波長帯が異なる)各熱画像として取得する(STEP−4−9)。
具体的には、本実施例では、フレーム番号(27)・(38)・(50)に該当する各熱画像を取得する。
【0087】
最後に、制御部4aによって最適熱画像抽出プログラムに従って、熱画像を取得した各フレーム番号(P−n)・(Q−n)・(R−n)以外のフレーム番号に対応する熱画像を廃棄する(STEP−4−10)。
このように、表面温度の演算に必要となる三種類の熱画像だけを残しつつ、その他の熱画像を廃棄することにより、制御装置4に多大な容量の記憶装置を備える必要がなくなり、比較的低容量の記憶装置で制御装置4を構成することが可能になる。
以上で、最適画像選択工程(STEP−4)を終了する。
そして、熱画像取得工程(STEP−3およびSTEP−4)が完了すると、次の表面温度演算工程(STEP−5)に移行する。
【0088】
即ち、本発明の一実施例に係る表面温度測定方法は、対象物たる金型2のキャビティ面2aの表面から放射される赤外線の強度分布を表す静止画像である熱画像を、複数の異なる波長帯の赤外線について撮影し、複数の前記熱画像を取得する熱画像取得工程と、撮影した複数の熱画像に基づいて、キャビティ面2aの真の表面温度の分布を演算する表面温度演算工程と、を有する表面温度測定方法であって、画像撮影工程は、複数の異なる波長帯の赤外線について、各波長帯の熱画像を撮影するための撮影期間(例えば、期間番号(4)・(6)・(8)の撮影期間)をそれぞれに割り当てて、各撮影期間において、それぞれの波長帯の熱画像を、撮影時刻順にフレーム番号を付与しつつ所定の間隔で複数回撮影することで、それぞれの波長帯の熱画像を複数取得し、かつ、前記各撮影期間を連続させることにより、複数の異なる波長帯の複数の熱画像の集合である動画を取得する動画撮影工程(STEP−3)と、該動画撮影工程(STEP−3)で取得した一連の動画から、それぞれの波長帯に対応する各撮影期間(例えば、期間番号(4)・(6)・(8)の撮影期間)を検出するとともに、各撮影期間(例えば、期間番号(4)・(6)・(8)の撮影期間)において取得した複数の熱画像から、それぞれの波長帯に対応する最適な熱画像を一つずつ抽出する最適画像抽出工程(STEP−4)と、を有するものである。
このような構成により、振動が存在する測定環境下において、複数の熱画像を確実に取得することができる。
【0089】
また、本発明の一実施例に係る表面温度測定方法では、最適画像抽出工程(STEP−4)は、一連の動画を構成する各熱画像において検出した各最高温度Tと、前記各最高温度の微分値dTと、該各最高温度の微分値dTに対して規定する判定閾値Sと、に基づいて、前記各最高温度の微分値dTのうち、当該熱画像の最高温度の微分値dTが前記判定閾値S以上であり、かつ、当該熱画像より一つ前のフレーム番号に該当する熱画像の最高温度の微分値dTが前記判定閾値S未満である当該熱画像のフレーム番号を、波長帯ごとに検出し、波長帯ごとに検出した各フレーム番号(P・Q・R)を基準として、該基準となる各フレーム番号(P・Q・R)から所定のフレーム数(n・n・n)だけ遡った各フレーム番号(P−n)・(Q−n)・(R−n)に該当する複数の熱画像を、前記それぞれの波長帯に対応する最適な熱画像として抽出するものである。
このような構成により、振動が存在する測定環境下において、表面温度分布の演算に必要な複数の異なる波長帯に対応する熱画像を確実に取得することができる。
【0090】
また、本発明の一実施例に係る表面温度測定方法では、判定閾値Sは、各最高温度の微分値dTの標準偏差σとするものである。
このような構成により、判定閾値Sを自動的に設定することができ、これにより、表面温度分布の演算に必要な複数の異なる波長帯に対応する熱画像を容易、かつ、確実に取得することができる。
【0091】
次に、(STEP−5)における表面温度演算工程について、図13を用いて説明をする。
図13に示す如く、表面温度演算工程では、取得した波長帯が異なる三種類の赤外線強度を示す静止画像に基づいて、制御部4aにより表面温度演算プログラムに従って、真の表面温度の演算を行う(STEP−5−1)。
そして、制御部4aによる真の表面温度の演算結果を、熱画像として制御装置4の表示部4cに表示するようにしている(STEP−5−2)。
【0092】
以上により、一連の真の表面温度の測定が行われるとともに、再び(STEP−1)の状態に戻って、表面温度測定装置1が測定トリガの入力待ち状態となり、次の対象物(金型2)に対する測定に備える。これにより、連続的に行われる生産工程に対応することができ、例えば、連続して鍛造が行われる工程において、離型剤の塗布が行われる度に、金型2のキャビティ面2aについて、表面温度分布の測定を精度良く行うことが可能になる。
【符号の説明】
【0093】
1 表面温度測定装置
3 赤外線カメラ
6 フィルタ部
7 ディスク
8 フィルタ
8a 第一フィルタ
8b 第二フィルタ
8c 第三フィルタ
9 パネル
9a 黒体パネル
10 切り替え装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の表面から放射される赤外線の強度分布を表す静止画像である熱画像を、複数の異なる波長帯の赤外線について撮影し、複数の前記熱画像を取得する熱画像取得工程と、
撮影した複数の前記熱画像に基づいて、前記対象物の真の表面温度の分布を演算する表面温度演算工程と、
を有する表面温度測定方法であって、
前記画像撮影工程は、
複数の異なる波長帯の赤外線について、各波長帯の熱画像を撮影するための撮影期間をそれぞれに割り当てて、各撮影期間において、それぞれの波長帯の熱画像を、撮影時刻順にフレーム番号を付与しつつ所定の間隔で複数回撮影することで、それぞれの波長帯の熱画像を複数取得し、かつ、
前記各撮影期間を連続させることにより、複数の異なる波長帯の複数の熱画像の集合である動画を取得する動画撮影工程と、
該動画撮影工程で取得した前記一連の動画から、それぞれの波長帯に対応する各撮影期間を検出するとともに、各撮影期間において取得した複数の熱画像から、それぞれの波長帯に対応する最適な熱画像を一つずつ抽出する最適画像抽出工程と、
を有する、
ことを特徴とする表面温度測定方法。
【請求項2】
前記最適画像抽出工程は、
前記一連の動画を構成する各熱画像において検出した各最高温度と、
前記各最高温度の微分値と、
該各最高温度の微分値に対して規定する判定閾値と、
に基づいて、
前記各最高温度の微分値のうち、
当該熱画像の最高温度の微分値が前記判定閾値以上であり、かつ、
当該熱画像より一つ前のフレーム番号に該当する熱画像の最高温度の微分値が前記判定閾値未満である当該熱画像のフレーム番号を、波長帯ごとに検出し、
波長帯ごとに検出した各フレーム番号を基準として、
該基準となる各フレーム番号から所定のフレーム数だけ遡った各フレーム番号に該当する複数の熱画像を、
前記それぞれの波長帯に対応する最適な熱画像として抽出する、
ことを特徴とする請求項1記載の表面温度測定方法。
【請求項3】
前記判定閾値は、
前記各最高温度の微分値の標準偏差とする、
ことを特徴とする請求項2記載の表面温度測定方法。
【請求項4】
赤外線の強度分布を検出する赤外線分布検出手段と、
それぞれ異なる波長帯の赤外線が透過可能な三種類以上のフィルタと、
前記三種類以上のフィルタのいずれが前記赤外線分布検出手段の光路を覆うかを切り替える切り替え装置と、
を備え、
波長帯が異なる三種類以上の赤外線の強度分布を検出する表面温度測定装置であって、
該表面温度測定装置は、
前記三種類以上のフィルタに加えて、赤外線を透過しないパネルを備え、かつ、
前記赤外線分布検出手段は、
赤外線の強度分布を表す静止画像である熱画像を、
該熱画像の集合である動画として取得する、
ことを特徴とする表面温度測定装置。
【請求項5】
前記パネルは、
黒体によって形成する、
ことを特徴とする請求項4記載の表面温度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−261814(P2010−261814A)
【公開日】平成22年11月18日(2010.11.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−112873(P2009−112873)
【出願日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】