説明

表面調整用組成物及び表面調整方法

【課題】従来よりも高い化成処理性能、すなわち、緻密なリン酸塩皮膜を金属材料表面に形成することができ、化成処理中のアルミニウム系金属材料の電食を抑制することができ、アルミニウム合金、高張力鋼板等の難化成性金属材料に適用した場合にも充分な皮膜量の化成皮膜を形成することができ、化成性の向上により化成処理工程を短時間化することができ、表面調整用処理液中での長期間の分散安定性に優れる表面調整用組成物を提供する。
【解決手段】2価又は3価の金属のリン酸塩粒子を含有する、pH3〜12の表面調整用組成物であって、上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子は、D50が3μm以下であり、上記表面調整用組成物は、更に、(1)シランアルコキシド、チタンアルコキシド及びアルミニウムアルコキシドからなる群から選択される少なくとも1の金属アルコキシド、並びに(2)安定化剤を含有するものであることを特徴とする表面調整用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面調整用組成物及び表面調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車車体、家電製品等は、鋼板、亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム系金属材料等の金属材料を金属成形物とした後、塗装し、組立て等を行うことにより製品化されている。このような金属成形物の塗装は、脱脂、表面調整、化成処理、電着塗装等の各種工程を経ることにより行われている。
【0003】
表面調整処理工程は、次の化成処理工程において、リン酸塩の結晶からなる化成皮膜を、金属材料表面全体に均一に、迅速に、高い密度で形成させるために施される処理である。表面調整処理は、通常、表面調整用処理液に浸漬することにより金属材料表面にリン酸塩の結晶核を形成させるものである。このような表面調整処理に使用する表面調整用処理液として、2価又は3価の金属のリン酸塩を各種安定化剤と併用した組成物が知られている(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献3等)。
【0004】
特許文献1には、粒径が5μm以下の粒子を含む2価若しくは3価の金属の少なくとも1種を含有するリン酸塩の中から選ばれる1種以上と、アルカリ金属塩若しくはアンモニウム塩又はこれらの混合物と、アニオン性に帯電し分散した酸化物微粒子、アニオン性の水溶性有機高分子、ノニオン性の水溶性有機高分子、アニオン性界面活性剤及びノニオン性界面活性剤の群から選ばれる少なくとも1種とを含有し、pHを4〜13に調整した金属の化成処理前の表面調整用前処理液が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、2価及び/又は3価の金属の1種以上を含有するリン酸塩から選ばれる1種以上のリン酸塩粒子を含有し、更に、単糖類、多糖類及びその誘導体から選ばれる1種以上、正リン酸、ポリリン酸又は有機ホスホン酸化合物、酢酸ビニルの重合体又はその誘導体若しくは酢酸ビニルと共重合可能な単量体と酢酸ビニルとの共重合体からなる水溶性高分子化合物の1種以上、又は、特定の単量体若しくはα,β不飽和カルボン酸単量体の中から選ばれる少なくとも1種以上と上記単量体と共重合可能な単量体50質量%以下とを重合して得られる重合体又は共重合体を含有する化成処理前の表面調整用処理液が開示されている。更に、特許文献3には、粘土鉱物をリン酸塩と併用した表面調整用組成物が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらの文献において開示されている表面調整用処理液であっても、化成性が不充分な場合がある。例えば、アルミニウム系金属材料と鋼板又は亜鉛メッキ鋼板とが接触している部分では、アルミニウム系金属材料がアノード、鋼板又は亜鉛メッキ鋼板部分がカソードとなるため、異種金属の電位差に起因した電気化学的な腐食反応(電食)が起こりやすくなり、アルミニウム系金属材料表面上に化成皮膜が形成されにくいという問題がある。このため、化成処理において、金属材料の電食を抑制できる表面調整用組成物が望まれている。
【0007】
また、これらの表面調整用処理液は、アルミニウム系金属材料及び高張力鋼板等の難化成性金属材料に適用した場合には、上記金属材料表面に、充分な皮膜量の化成皮膜が形成されにくいという問題がある。更に、近年、耐食性の要求レベルが上がり、より緻密なリン酸塩からなる化成皮膜の形成が求められてきた。また、これらの表面調整用処理液は、リン酸塩粒子の粒子径が大きく、比表面積が小さいため、化成処理浴中のリン酸塩粒子が沈降しやすいという問題を抱えていた。このため、上記問題が解決された、更に優れた性質を有する表面調整用組成物が求められている。
【特許文献1】特開平10−245685号公報
【特許文献2】特開2000−96256号公報
【特許文献3】特開昭59−226181号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑み、従来よりも高い化成処理性能、すなわち、化成処理において緻密なリン酸塩の結晶皮膜を金属材料表面に形成することができ、化成処理中の金属材料の電食を抑制でき、アルミニウム合金及び高張力鋼板等の難化成性金属材料に適用した場合にも充分な皮膜量の化成皮膜を形成することができ、化成性の向上により化成処理工程を短時間化することができ、表面調整用処理液中での長期間の分散安定性に優れる表面調整用組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、2価又は3価の金属のリン酸塩粒子を含有する、pH3〜12の表面調整用組成物であって、上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子は、D50が3μm以下であり、上記表面調整用組成物は、更に、(1)シランアルコキシド、チタンアルコキシド及びアルミニウムアルコキシドからなる群から選択される少なくとも1の金属アルコキシド、並びに(2)安定化剤を含有するものであることを特徴とする表面調整用組成物である。
【0010】
上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子は、リン酸亜鉛であることが好ましい。
上記(1)金属アルコキシドは、少なくとも1つのメルカプト基又は(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン化合物であることが好ましい。
【0011】
本発明の表面調整用組成物が表面調整用処理液である場合、上記(1)金属アルコキシドは、下限1ppm、上限1000ppmであることが好ましい。
【0012】
上記(2)安定化剤は、ホスホン酸、フィチン酸、ポリリン酸、ホスホン酸基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂、カルボキシル基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂、糖類及び層状粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0013】
本発明はまた、上記表面調整用組成物を金属材料と接触させる工程からなることを特徴とする表面調整方法でもある。
【0014】
本明細書においては、「表面調整用組成物」とは、表面調整処理において、金属材料と実際に接触させるための処理液である「表面調整用処理液」と、希釈して表面調整用処理液を製造するために用いられる金属のリン酸塩粒子の分散液である「濃厚分散液」とを含むものであるとする。表面調整用処理液は、濃厚分散液を水などの溶媒によって所定の濃度に希釈し、必要な添加剤を添加した後、pHを調整することにより得られるものである。
【0015】
また、本発明の表面調整用組成物を用いる場合、金属材料に必要な前処理を行った後、表面調整処理を行い、次いで化成処理を行う。すなわち、本明細書において、「表面調整処理」とは、第一のリン酸塩処理であって、金属材料表面に金属のリン酸塩粒子を付着させる工程を意味する。また、「化成処理」とは、表面調整処理に続く第二のリン酸塩処理であって、表面調整処理により金属材料表面に付着させたリン酸塩粒子を結晶成長させる処理を意味するものとする。さらに、本明細書においては、表面調整処理により形成される金属のリン酸塩からなる皮膜を「リン酸塩皮膜」と、化成処理により形成される金属のリン酸塩粒子からなる皮膜を「化成皮膜」と示すものとする。
【0016】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0017】
<金属表面処理用組成物>
本発明の表面調整用組成物は、2価又は3価の金属のリン酸塩粒子及び(2)安定化剤に対して、(1)シランアルコキシド、チタンアルコキシド及びアルミニウムアルコキシドからなる群から選択される少なくとも1の金属アルコキシドを更に含有するものである。これによって表面調整用組成物の機能が改善され、優れた性質を有するものである。なお、本発明の表面調整用組成物は、表面調整用処理液である場合と濃厚分散液である場合とがある。
【0018】
本発明の表面調整用組成物は、(1)シランアルコキシド、チタンアルコキシド及びアルミニウムアルコキシドからなる群から選択される少なくとも1の金属アルコキシド、D50が3μm以下の2価又は3価の金属のリン酸塩粒子、並びに(2)安定化剤を含有するものである。
【0019】
本発明の表面調整用組成物は、従来公知の表面調整用組成物と比較して、表面調整用処理液中での分散安定性に優れ、化成処理中の金属材料の電食を抑制でき、アルミニウム系金属材料及び高張力鋼板等の難化成性金属材料に適用した場合にも、充分な皮膜量の化成皮膜を形成することができる。
【0020】
上記(1)金属アルコキシドを含有する表面調整用組成物は、リン酸亜鉛粒子に非常に吸着されやすく、そのため優れた化成性能を有すると推測される。
【0021】
アルミニウム系金属材料及び高張力鋼板等の難化成性金属材料に、従来公知の2価又は3価の金属のリン酸塩粒子を含む表面調整用組成物を適用する場合には、表面調整処理に続く化成処理において充分な皮膜量の化成皮膜が形成されないため、上記金属材料に充分な耐食性を付与することが困難であるという問題が知られていた。
【0022】
本発明の表面調整用組成物を使用した場合には、アルミニウム系金属材料及び高張力鋼板等の難化成性の金属材料に対しても、化成処理時に充分な皮膜量の化成皮膜を形成することができるため、上記金属材料に対しても充分な耐食性を付与することができる。
【0023】
また、冷延鋼鈑、亜鉛メッキ鋼板等のような、従来の表面調整用組成物を使用した場合でも良好な耐食性が得られていた金属材料に、本発明の表面調整用組成物を適用した場合には、上記金属材料表面に形成される金属の化成皮膜を更に緻密なものとすることができ、耐食性を更に高めることができる。
【0024】
また、上記表面調整用組成物は、鉄又は亜鉛系金属材料とアルミニウム系金属材料とが併用される場合で、上記鉄又は亜鉛系金属材料と上記アルミニウム系金属材料とが接触している部分、すなわち異種金属接触部に適用した場合にも、その後の化成処理において十分な皮膜量の化成皮膜を形成させることができる。
【0025】
上記異種金属接触部を有する場合、通常の化成処理を行うと、異種金属接触部において、アルミニウム系金属材料部分がアノード、鉄又は亜鉛系金属材料部分がカソードとなるため、電気化学反応が進行し、結果として、異種金属接触部におけるアルミニウム系金属材料部分に充分な皮膜量の化成皮膜が形成され難くなる。
【0026】
一方、本発明の表面調整用組成物は、金属材料表面への金属のリン酸塩粒子の付着量が増加するため、化成処理性能が向上するものと推測される。その結果、上記異種金属接触部のアルミニウム系金属材料部分において、従来の表面調整用組成物を使用する場合に比べて、化成処理時に電食を抑制できるものと推測される。
【0027】
このため、例えば、鉄又は亜鉛系金属材料とアルミニウム系金属材料とが接触している異種金属接触部を有する金属材料表面を、本発明の表面調整用組成物を用いて表面調整処理を行い、次いで化成処理を行った場合に、上記異種金属接触部のアルミニウム系金属材料部分にも充分な皮膜量の化成皮膜を形成させることができる。また、上記難化成性の金属材料表面にも同様に、充分な皮膜量の化成皮膜を形成させることができる。
【0028】
[金属アルコキシド]
本発明においては、後述する(2)安定化剤だけでなく、上記(1)金属アルコキシドを併用することにより、(2)安定化剤を添加する効果が更に向上することを見出した。すなわち、上記(1)金属アルコキシドを含有することにより、安定化剤の添加効果である、金属のリン酸塩粒子の溶媒中での分散状態の安定化、金属のリン酸塩粒子の金属材料表面への付着能の向上、及び化成処理時に十分な皮膜量の化成皮膜の金属材料表面への形成がそれぞれ促進される。
【0029】
(2)安定化剤を添加する効果を更に向上させることができる理由は明らかではないが、上記(1)金属アルコキシドは溶液中でアルコキシ基の加水分解によりヒドロキシル基を生じ、これが金属のリン酸塩粒子の表面に水素結合等の相互作用を介して吸着等することによって、金属のリン酸塩粒子の再凝集が抑制されて、結果的に、分散安定性が向上し、比較的均一な密度で金属材料表面に金属のリン酸塩粒子が付着しやすくなり、化成処理の際に良好な化成皮膜が形成されるものと推測される。
【0030】
また、上記(1)金属アルコキシドは金属材料表面に付着しやすい傾向にあるため、上記金属のリン酸塩粒子と金属材料表面との親和性も増大するものと推測される。
【0031】
更に、上記(1)金属アルコキシドは、金属のリン酸塩粒子が沈降しやすい水道水中においても、好適に沈降を抑制することができる。水道水中においても好適に沈降を抑制することができる理由は明らかではないが、上記(1)金属アルコキシドが、溶媒中の水道水に由来するカルシウムイオン又はマグネシウムイオン等の金属ポリカチオンを捕捉し、金属のリン酸塩化合物粒子の再凝集による沈降を抑制するためであると推測される。
【0032】
上述のように、従来公知の(2)安定化剤に加えて、上記(1)金属アルコキシドを併用することにより、濃厚分散液において、金属のリン酸塩粒子の分散安定性を向上させることができる。
【0033】
上記(1)金属アルコキシドを添加することにより、金属のリン酸塩粒子の分散性が向上し、平均粒径が0.5μm以下の微小な金属のリン酸塩粒子を調製しやすくなる。また、金属の化成皮膜を形成した後、塗膜を形成したときの密着性や防食性が良好となる。
【0034】
上記(1)金属アルコキシドは、M−OR結合を有する化合物であれば特に限定されず、例えば、下記一般式(I)で表されるものを挙げることができる。
【化1】

[式中、Mは、ケイ素、チタン又はアルミニウム元素を表す。Rは、有機基で置換された又は置換されていない炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜11のエポキシアルキル基、アリール基、炭素数1〜11のアルケニル基、炭素数1〜5のアミノアルキル基、炭素数1〜5のメルカプトアルキル基又は炭素数1〜5のハロゲノアルキル基を表す。Rは、炭素数1〜6のアルキル基を表す。nは、0、1又は2である。]
【0035】
上記(1)金属アルコキシドは、少なくとも1つのメルカプト基又は(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン化合物であることが好ましい。
【0036】
(アルコキシシラン化合物)
上記アルコキシシラン化合物としては、水系で使用できるものであれば特に限定されず、例えば、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエチルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、N−(1,3−ジメチルブチリデン)−3−(トリエトキシシリル)−1−プロパンアミン、N,N’−ビス〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕エチレンジアミン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、N−〔2−(ビニルベンジルアミノ)エチル〕−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0037】
なかでも、上記アルコキシシラン1分子中に少なくとも1つのメルカプト基又は(メタ)アクリロキシ基を有するものが好ましく、例えば、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン及び3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシランが特に好ましい。
【0038】
(金属アルコキシドの含有量)
濃厚分散液における、上記(1)金属アルコキシドの含有量は、上記金属のリン酸塩粒子(固形分)100質量部に対して、下限0.01質量部、上限1000質量部であることが好ましい。0.01質量部未満であると、金属のリン酸塩粒子への吸着が不充分となり、分散促進効果及び粒子の金属材料への付着効果が得られず、表面調整効果が充分に期待できないおそれがある。1000質量部を超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記含有量は、下限0.1質量部、上限100質量部であることがより好ましく、下限0.5質量部、上限25質量部であることが更に好ましい。上記含有量は、下限1質量部、上限10質量部であることが、特に好ましい。
【0039】
表面調整用処理液における上記(1)金属アルコキシドの含有量は、表面調整処理浴中で、下限1ppm、上限1000ppmであることが好ましい。1ppm未満であると、金属アルコキシドの金属のリン酸塩粒子への吸着が不充分であるため、分散促進効果、粒子の金属材料への付着効果が得られず、表面調整効果が充分期待できない。1000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記含有量は、下限10ppm、上限500ppmであることがより好ましく、下限10ppm、上限200ppmであることが更に好ましい。上記含有量の特に好ましい上限は100ppmである。
【0040】
[金属のリン酸塩粒子]
本発明の表面調整用組成物は、2価又は3価の金属のリン酸塩粒子を含有する。上記金属のリン酸塩粒子は、表面調整機能を得るための結晶核となるものであり、これらの粒子が金属材料表面に付着することによって化成処理反応が促進されると考えられている。
【0041】
上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子としては、特に限定されず、例えば、Zn(PO、ZnFe(PO、ZnNi(PO、Ni(PO、ZnMn(PO、Mn(PO、MnFe(PO、Ca(PO、ZnCa(PO、FePO、AlPO、CoPO、Co(PO等の粒子を挙げることができる。なかでも、化成処理のリン酸処理、特にリン酸亜鉛処理の皮膜結晶との類似性がある点で、リン酸亜鉛粒子であることが好ましい。
【0042】
上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子のD50は、3μm以下である。D50を上記範囲内とすることによって、緻密な化成皮膜を形成することができる。更に、金属のリン酸塩粒子が粗大化すると、表面調整用処理液中での上記金属のリン酸塩粒子の分散安定性が不充分となり、上記金属のリン酸塩粒子が沈降し易くなる傾向がある。
【0043】
これに対して、本発明の表面調整用組成物は、D50で示される平均粒径が3μm以下のリン酸亜鉛粒子を含むものであるため、金属のリン酸塩粒子の表面調整用処理液中での安定性に優れ、かつ緻密な化成皮膜を形成することができる。
【0044】
上記金属のリン酸塩粒子のD50は、下限0.01μmであることが好ましい。0.01μm未満では金属材料表面に形成される化成皮膜の生産効率が悪く不経済である。より好ましくは、下限0.1μm、上限1μmである。
【0045】
上記金属のリン酸塩粒子は、D90が4μm以下であることが好ましい。この場合、上記金属のリン酸塩粒子は、D50が3μm以下であるだけでなく、D90が4μm以下であるため、粗大な金属のリン酸塩粒子の割合が比較的少ないものである。
【0046】
上述のように、D50が3μm以下である上記金属のリン酸塩を用いることによって、短時間の表面調整処理で充分な量の微細なリン酸塩皮膜を金属材料表面に形成させることができるが、3μm以下に分散するために粉砕等の機械的手段を用いる場合、過度に粉砕を行うと、比表面積の増大に伴い分散剤が相対的に不足し、再凝集を起こし、かえって粗大粒子を形成して分散安定性を損なうおそれがある。また、表面調整用組成物の配合成分や調製条件によっては上記金属のリン酸塩粒子の粒径分布がブロードになり、微細粒子同士の再凝集や増粘等の問題を引き起こすおそれがある。これに対して、上記金属のリン酸塩粒子のD90が4μm以下である場合には、上述のような問題発生が抑制される。
【0047】
上記金属のリン酸塩粒子のD90は、下限が0.01μm、上限4μmであることが好ましい。0.01μm未満であると、過分散の現象により粒子が再凝集するおそれがある。4μmを超えると、微細な金属のリン酸塩粒子の割合が少なくなるため、不適当である。上記下限は、0.05μmであることがより好ましく、上記上限は、2μmであることがより好ましい。
【0048】
上記D50(体積50%径)及びD90(体積90%径)は、分散液中での粒度分布に基づき、粒子の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブがそれぞれ50%、90%となる点の粒径である。上記D50及びD90は、例えば、光回折式粒度測定装置(「LA−500」、商品名、堀場製作所社製)等の粒度測定装置を用いて測定することができる。なお、本明細書において、平均粒径と記載した場合には、D50を意味する。
【0049】
(金属のリン酸塩粒子の含有量)
本発明の表面調整用処理液において、上記金属のリン酸塩粒子の含量は、下限50ppm、上限20000ppmであることが好ましい。50ppm未満であると、結晶核となる上記金属のリン酸塩が不足し、充分な表面調整効果が得られないおそれがある。20000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記含有量は、下限150ppm、上限10000ppmであることがより好ましく、下限250ppm、上限2500ppmであることが更に好ましい。上記含有量は、下限500ppm、上限2000ppmであることが特に好ましい。
【0050】
[安定化剤]
上記(2)安定化剤は、金属のリン酸塩粒子の、溶媒中での分散状態を安定化させる効果を有する化合物を意味する。このような化合物としては、公知のものを使用することができ、例えば、ホスホン酸、フィチン酸、ポリリン酸、ホスホン酸基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂、カルボキシル基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂、糖類、層状粘土鉱物等を挙げることができる。入手が容易で取り扱いに優れている点から、ホスホン酸、フィチン酸、ポリリン酸が好ましい。なお、これらの化合物のうち、2種を併用するものであってもよい。
【0051】
(カルボキシル基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂)
上記カルボキシル基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂としては、特に限定されず、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体を含有する単量体組成物のラジカル重合等によって得られた樹脂等が挙げられる。
【0052】
(ホスホン酸基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂)
上記ホスホン酸基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂としては、特に限定されず、例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピルホスホン酸等のホスホン酸基含有エチレン性単量体を含有する単量体組成物を重合させて得られる樹脂等が挙げられる。
【0053】
(糖類)
上記糖類としては、特に限定されず、多糖類、多糖類誘導体およびこれらのナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩等が挙げられる。
【0054】
多糖類としては、例えば、セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、ヘミセルロース、デンプン、メチルデンプン、エチルデンプン、メチルエチルデンプン、寒天、カラギーナン、アルギン酸、ペクチン酸、グアーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、コンニャクマンナン、デキストラン、ザンサンガム、プルラン、ゲランガム、キチン、キトサン、コンドロイチン硫酸、ヘパリン、ヒアルロン酸等を挙げることができる。
【0055】
上記多糖類誘導体としては、例えば、上記多糖類をカルボキシアルキル化あるいはヒドロキシアルキル化したカルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース、デンプングリコール酸、寒天誘導体、カラギーナン誘導体等が挙げられる。
【0056】
(層状粘土鉱物)
上記層状粘土鉱物としては特に限定されず、例えば、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト等のスメクタイト族;カオリナイト、ハロイサイト等のカオリナイト族;ジオクタヘドラルバーミキュライト、トリオクタヘドラルバーミキュライト等のバーミキュライト族;テニオライト、テトラシリシックマイカ、マスコバイト、イライト、セリサイト、フロゴパイト、バイオタイト等のマイカ等;ハイドロタルサイト;パイロフィロライト;カネマイト、マカタイト、アイラアイト、マガディアイト、ケニヤアイト等の層状ポリケイ酸塩等を挙げることができる。
【0057】
これらの層状粘土鉱物は、天然鉱物であってもよく、水熱合成、溶融法、固相法等による合成鉱物であってもよい。なかでも、スメクタイト族が好ましく、天然ヘクトライト及び/又は合成ヘクトライトが、更に好ましい。これにより、金属のリン酸塩の濃厚液に、より優れた分散安定性を付与することができ、また、上記濃厚液の生産効率と品質をより高めることもできる。
【0058】
上記(2)安定化剤は、溶液中でマイナスに帯電する傾向にあり、これが金属のリン酸塩粒子の表面に吸着することによって、金属のリン酸塩粒子同士の反発作用等により再凝集が抑制され、結果として、表面調整処理時に金属のリン酸塩粒子が結晶核として均一な密度で金属材料表面に付着し、化成処理時に充分な皮膜量の化成皮膜が金属材料表面に形成されやすくなるものと推測される。
【0059】
上記(2)安定化剤は、表面調整用組成物中の上記金属のリン酸塩粒子の沈降を抑制するだけでなく、濃厚分散液中の金属のリン酸塩粒子の沈降も抑制し、濃厚分散液の長期間の貯蔵安定性を維持することができるものである。
【0060】
(安定化剤の含有量)
濃厚分散液において、上記(2)安定化剤の含有量は、金属のリン酸塩粒子(固形分)100質量部に対し、下限0.01質量部、上限1000質量部であることが好ましい。0.01質量部未満であると、沈降防止効果を充分に得られないおそれがある。1000質量部を超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記濃度は、下限0.1質量部、上限100質量部であることがより好ましく、下限0.5質量部、上限25質量部であることが更に好ましい。上記濃度は、下限1質量部、上限10質量部であることが特に好ましい。
【0061】
上記(2)安定化剤の含有量は、表面調整用処理液中で、下限1ppm、上限1000ppmであることが好ましい。1ppm未満であると、沈降防止効果を充分に得られないおそれがある。1000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく経済的でない。上記濃度は、下限10ppm、上限500ppmであることがより好ましい。上記濃度の更に好ましい上限は、200ppmであり、特に好ましい上限は、100ppmである。なお、上記(2)安定化剤は二種以上を併用してもよい。
【0062】
[キレート剤及び/又は界面活性剤]
本発明の表面調整用組成物は、更にキレート剤及び/又は界面活性剤を含むものであってもよい。キレート剤を含有することにより、硬度成分に対してより優れた分散安定性を付与することができる。すなわち、水道水中に含まれるマグネシウムイオンやカルシウムイオン等の硬度成分が本発明の表面調整用組成物中に混入した場合でも、上記金属のリン酸塩粒子を再凝集させることがなく、表面調整用処理液の安定性を維持しやすくなる。また、水道水を用いることができるので、経済的にも好ましい。
【0063】
(キレート剤)
上記キレート剤としては、マグネシウムイオンやカルシウムイオン等の硬度成分とキレートできるものであれば、特に限定されず、例えば、クエン酸、酒石酸、ピロリン酸、トリポリリン酸Na、EDTA、グルコン酸、コハク酸及びリンゴ酸と、これらの化合物や誘導体が挙げられる。
【0064】
(キレート剤の含有量)
表面調整用処理液における上記キレート剤の含有量は、下限1ppm、上限10000ppmであることが好ましい。1ppm未満であると、上記硬度成分を充分キレートできず、上記金属のリン酸塩粒子の再凝集を抑制できないおそれがある。10000ppmを超えても所望の効果を超える効果が得られるわけでなく、また、表面調整用処理液中の有効成分をキレートし表面調整反応を阻害するおそれがある。上記含有量は、下限10ppm、上限1000ppmであることがより好ましい。上記含有量の更に好ましい上限は200ppmである。
【0065】
(界面活性剤)
上記界面活性剤は、より好ましくは、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤である。
上記アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤は、本発明の表面調整用組成物に含有されることにより、例えば、鉄又は亜鉛系金属材料とアルミニウム系金属材料との接触部を有するアルミニウム系金属材料部分に充分な皮膜量の化成皮膜を形成することができ、一般部及び電食部の化成皮膜量の差を小さくすることができる。
【0066】
また、各種金属材料に、緻密な化成皮膜を形成することができる。また、アルミニウム系金属材料及び高張力鋼板等の難化成性の金属材料にも、充分な皮膜量の化成皮膜を形成することができる。
【0067】
上記ノニオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、オキシエチレン−オキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、アルキルアルカノードアミド、ノニルフェノール、アルキルノニルフェノール、ポリオキシアルキレングリコール、アルキルアミンオキサイド、アセチレンジオール、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル変性シリコン等のシリコン系界面活性剤、炭化水素系界面活性剤の疎水基にある水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたフッ素系界面活性剤等から選ばれるノニオン界面活性剤で親水性親油性バランス(HLB)が6以上のものを挙げることができる。なかでも、本発明の効果をより得られる点から、HLBが6以上のポリオキシエチレンアルキルエーテル及びポリオキシアルキレンアルキルエーテルが好ましい。
【0068】
上記アニオン性界面活性剤としては特に限定されないが、例えば、脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキルスルホコハク酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、ポリビスフェノールスルホン酸塩、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチルアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチルアルキルアリル硫酸エステル塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、メチルタウリン酸塩、ポリアスパラギン酸塩、エーテルカルボン酸塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル塩、アルキルエーテルリン酸エステル塩等を挙げることができる。なかでも、本発明の効果をより得られる点から、アルキルエーテルリン酸エステル塩が好ましい。
【0069】
上記アニオン性界面活性剤は、アンモニア又はアミン系中和剤で中和させて用いることができる。上記アミン系中和剤としては、例えば、ジエチルアミン(DEA)、トリエチルアミン(TEA)、モノエタノールアミン(META)、ジエタノールアミン(DETA)、トリエタノールアミン(TETA)、ジメチルエタノールアミン(DMEA)、ジエチルエタノールアミン(DEEA)、イソプロピルエタノールアミン(IPEA)、ジイソプロパノールアミン(DIPA)、2−アミノ−2−メチルプロパノール(AMP)、2−(ジメチルアミノ)−2−メチルプロパノール(DMAMP)、モルホリン(MOR)、N−メチルモルホリン(NMM)、N−エチルモルホリン(NEM)等を挙げることができる。なかでも、2−アミノ−2−メチルプロパノール(AMP)を使用することが好ましい。
【0070】
(界面活性剤の含有量)
表面調整用処理液における、上記アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤の含有量は、下限3ppm、上限500ppmであることが好ましい。上記範囲内であると、本発明の効果を良好に得ることができる。上記含有量は、下限5ppm、上限300ppmであることがより好ましい。
上記界面活性剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0071】
[金属亜硝酸化合物]
上記表面調整用組成物は、錆の発生をより抑制するために、必要に応じて2価又は3価の金属亜硝酸化合物を添加することができる。
【0072】
[分散媒]
上記表面調整用組成物は、上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子を分散させる分散媒を含有させることができる。
【0073】
上記分散媒としては、水を80質量%以上含む水性媒体が挙げられる他、水以外の媒体としては各種水溶性の有機溶剤を用いることができるが、上記有機溶剤の含有量は低く抑えるのが良く、好ましくは水性媒体の10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。水のみからなる分散媒とすることもできる。
【0074】
上記水溶性の有機溶剤は特に限定されず、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール等のアルコール系溶剤;エチレングリコールモノプロピルエーテル、ブチルグリコール、1−メトキシ−2−プロパノール等のエーテル系溶剤;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン系溶剤;ジメチルアセトアミド、メチルピロリドン等のアミド系溶剤;エチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤等を挙げることができる。これらは2種以上を併用してもよい。
【0075】
[アルカリ塩]
上記表面調整用組成物には、更に上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子を安定させ、次に行われる化成処理工程において微細な化成皮膜を形成する目的でソーダ灰等のアルカリ塩が添加されてもよい。
【0076】
[pH]
上記表面調整用組成物のpHは、下限3、上限12である。pHが3未満であると、上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子が溶解しやすくなり、不安定となり、次工程に影響を与えるおそれがある。pHが12を超えると、次工程の化成処理浴のpH上昇を招くことにより化成不良が生じるおそれがある。上記下限は、pH6であることが更に好ましく、上記上限は、pH11であることが更に好ましい。
【0077】
<表面調整用組成物の製造方法>
本発明の表面調整用組成物は、例えば、以下の方法により製造することができる。上記2価又は3価の金属のリン酸塩としてリン酸亜鉛を使用する場合、リン酸亜鉛粒子は、例えば、原料として使用するリン酸亜鉛を用いて得ることができる。原料のリン酸亜鉛はZn(PO・4HOで表されるものであり、一般に無色、結晶性の固体であるが、白色の粉末状態の市販品を入手可能である。
【0078】
上記原料のリン酸亜鉛の製造方法としては、例えば、硫酸亜鉛とリン酸水素二ナトリウムの希釈液をモル比3:2で混合加温すると、リン酸亜鉛の四水和物が結晶性沈殿物として生成する。また、希リン酸水溶液と酸化亜鉛又は炭酸亜鉛とを反応させてもリン酸亜鉛の四水和物を得ることができる。四水和物の結晶は斜方晶系で、3種の変態がある。加熱すると、100℃で二水和物、190℃で一水和物、250℃で無水和物となる。本発明におけるリン酸亜鉛は、これら四水和物、二水和物、一水和物、無水和物のいずれも利用可能であるが、一般に入手容易な四水和物をそのまま用いれば足りる。
【0079】
上記原料の2価又は3価の金属のリン酸塩の形状としては特に限定されず、任意の形状のものを使用することができる。市販品は白色の粉末状が一般的であるが、粉末の形状は、微粒子状、板状、鱗片状等、いずれの形状でも構わない。上記2価又は3価の金属のリン酸塩の粒径も特に限定されないが、通常、平均粒径が数μm程度の粉末である。特に塩基性付与の処理をすることにより緩衝作用を高めた製品等、防錆顔料として市販されているものが好適に使用される。
【0080】
後述するように、本発明に従うと、原料の2価又は3価の金属のリン酸塩としての一次粒径や形状にかかわらず、微細に均一分散した安定な2価又は3価の金属のリン酸塩分散液を調製することができる。
【0081】
上記表面調整用組成物は、上記原料の2価又は3価の金属のリン酸塩粒子をあらかじめ微細に分散させて用いることが好ましい。上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子の濃厚分散液を調製する方法は限定されないが、好ましくは、水又は水溶性の有機溶媒等の上述した分散媒中に原料の2価又は3価の金属のリン酸塩を配合し、上述した(1)金属アルコキシド及び(2)安定化剤の存在下で湿式粉砕を行うことにより達成できる。また、上記(1)金属アルコキシドは、必要に応じて、上記濃厚分散液の調製後に添加しても良い。
【0082】
なお、上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子の濃厚分散液を得るにあたっては、濃厚分散液の調製時に原料の2価又は3価の金属のリン酸塩を水性媒体に配合して湿式粉砕を行うのが工程上好都合であるが、湿式粉砕を水性媒体以外の分散媒中で行ってから溶媒置換により調製してもよい。
【0083】
上記濃厚分散液の調製において、上記原料の2価又は3価の金属のリン酸塩の配合量は、濃厚分散液の質量に対して、通常、下限0.5質量%、上限50質量%であることが好ましい。0.5質量%未満であると、2価又は3価の金属のリン酸塩の含有量が少なすぎるため濃厚分散液を用いて得られる表面調整用処理液において、表面調整効果が充分に得られないおそれがある。50質量%を超えると、湿式粉砕により均一で微細な粒度分布を得ることが困難となり、また、微細に分散するのが困難となるおそれがある。上記配合量は、下限1質量%、上限40質量%であることがより好ましく、下限10質量%、上限30質量%であることが特に好ましい。
【0084】
また、上記(1)金属アルコキシド及び(2)安定化剤の添加量は、濃厚分散液の質量に対して、それぞれ下限0.1質量%、上限50質量%であることが好ましい。0.1質量%未満であると、充分に分散できないおそれがある。50質量%を超えると、過剰な上記(1)金属アルコキシド及び/又は上記(2)安定化剤の影響により分散性が低下する場合があり、また、充分分散できたとしても、経済的には有利ではない。上記下限は、0.5質量%であることがより好ましく、上記上限は、20質量%であることがより好ましい。特に好ましい下限は1質量%、特に好ましい上限は10質量%である。
【0085】
上記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子がD50を3μm以下に微細に分散した濃厚分散液を得る方法は限定されないが、好ましくは、分散媒に原料の2価又は3価の金属のリン酸塩を0.5〜50質量%と、上記(1)金属アルコキシド並びに上記(2)安定化剤を0.1〜50質量%となるように存在させて、湿式粉砕する。上記湿式粉砕の方法は特に限定されず、一般的な湿式粉砕の手段を用いれば良く、例えば、ディスク型、ピン型等に代表されるビーズミル、高圧ホモジェナイザー、超音波分散機等に代表されるメディアレス分散機等を用いることができる。
【0086】
上記湿式粉砕において、2価又は3価の金属のリン酸塩粒子のD90をモニターすることによって、過分散を防止し、凝集や増粘、微細粒子同士の再凝集等を抑制することができる。本発明では、D90を4μm以下となるようにすることが好ましい。また、過分散を生じない程度の配合及び分散条件を選択することが望ましい。
【0087】
上述した濃厚分散液の調製方法により、水性媒体中での2価又は3価の金属のリン酸塩のD50を3μm以下に調節することができ、安定性に優れ、表面調整用組成物として優れた性能を有する濃厚分散液を得ることができる。D50は通常、下限0.01μm、上限3μmの範囲で所望の程度に調節できる。
【0088】
上述した濃厚分散液の調製方法によって濃厚分散液を調製することにより、3μmを超える2価又は3価の金属のリン酸塩であっても、D50が3μm以下の状態で水性媒体中に分散することができる。数十μmの一次粒子径を有する2価又は3価の金属のリン酸塩であっても同様である。これは、もともと一次粒子径の小さな2価又は3価の金属のリン酸塩を用いなくとも、上述した方法に従って湿式粉砕することにより2価又は3価の金属のリン酸塩粒子の一次粒子径を小さくすることができることも意味している。上述の方法によれば、水性分散液中の2価又は3価の金属のリン酸塩粒子のD50を3μm以下、更には1μm以下、更には0.2μm以下とすることもできるのである。
【0089】
上述のようにして得られた濃厚分散液は、表面調整用組成物中の2価又は3価の金属のリン酸塩粒子のD50を3μm以下で用途に合せて調節することができ、分散安定性に優れた濃厚分散液である。
【0090】
上記湿式粉砕法により、D90を超える粒径の粒子として示される粗大粒子の割合を低減できるため、特に、分散径の分布としてD90が4μm以下、更には2.6μm以下、更には0.3μm以下の、大分散径のものの抑えられた、分散径の分布のシャープな濃厚分散液とすることができる。このため、微細な分散径で2価又は3価の金属のリン酸塩が分散し、かつ分散状態が極めて安定しているものと推測される。
【0091】
また、粗大粒子の割合が低いことから表面調整用処理液中の2価又は3価の金属のリン酸塩が効率的に結晶核の生成に寄与すること、また分散径の分布がシャープで粒径が比較的均一であることから、表面調整処理工程においては、より均一な結晶核が形成され、引き続く化成処理により均一なリン酸塩結晶皮膜の形成をもたらし、得られる化成処理鋼板の表面性状が均一で優れたものとなること、更に、このことが複雑な構造を有する金属材料の袋部や黒皮鋼板のような難化成鋼板に対する処理性を向上していることが推測される。
【0092】
なお、濃厚分散液中の2価又は3価の金属のリン酸塩のD50及びD90は、先に述べたように、光回折式粒度測定装置を用いて粒度分布測定を行い求めることができる。
【0093】
上記濃厚分散液は、特に、2価又は3価の金属のリン酸塩を10質量%以上、更には20質量%以上、更には30質量%以上まで配合した高濃度の濃厚分散液を得ることもできる。このため、優れた表面調整能を有する表面調整用組成物を調製することができる。
【0094】
上述のようにして得られた濃厚分散液に、必要に応じて、他の成分(2価又は3価の金属亜硝酸化合物、分散媒、増粘剤等)を混合することもできる。上記濃厚分散液と上記他の成分との混合方法は特に限定されず、例えば、濃厚分散液に他の成分を添加して混合してもよいし、濃厚分散液の調製中に他の成分が配合されてもよい。
【0095】
表面調整用処理液は、例えば、上記濃厚分散液を水で希釈して調製されるものである。上記(1)金属アルコキシドは、必要に応じて、2価又は3価の金属のリン酸塩の添加と同時に水系媒体に添加されるのが好ましいが、2価又は3価の金属のリン酸塩を分散させた濃厚分散液に後添加されても良い。上記表面調整用処理液は、分散安定性に優れ、金属材料に良好な表面調整を施すことができる。
【0096】
<表面調整方法>
本発明の表面調整方法は、上記表面調整用処理液を金属材料表面に接触させる工程からなるものである。これにより、鉄系及び亜鉛系金属材料に加え、アルミニウム系金属材料及び高張力鋼板等の難化成性の金属材料にも2価又は3価の金属のリン酸塩の微細粒子を充分な量付着させることができ、化成処理工程で良好な化成皮膜を形成させることができる。
【0097】
また、例えば、鉄又は亜鉛系金属材料とアルミニウム系金属材料等との異種金属接触部を有する複数種の金属材料を同時に処理することができ、化成処理工程において充分な皮膜量の化成皮膜を金属材料表面に形成することができる。
【0098】
上記表面調整方法における表面調整用処理液と金属材料表面とを接触させる方法は、特に限定されず、浸漬やスプレー等の従来公知の方法を適宜採用することができる。
【0099】
上記表面調整が行われる金属材料としては特に限定されず、一般にリン酸塩化成処理を行う種々の金属、例えば亜鉛メッキ鋼板、アルミニウム又はアルミニウム合金、マグネシウム合金、或いは冷延鋼板、高張力鋼板等の鉄系金属材料に適用可能である。
【0100】
また、例えば、鉄鋼又は亜鉛メッキ鋼板とアルミニウム又はアルミニウム合金等の複数種の金属材料とを同時に処理する用途にも好適に適用することができる。
【0101】
また、本発明の表面調整用組成物を用いて、脱脂兼表面調整工程に使用することができる。これにより、脱脂処理後の水洗工程を省略することができる。上記脱脂兼表面調整工程では、洗浄力を高めるために公知の無機アルカリビルダー及び有機ビルダー等を添加しても構わない。また、公知の縮合リン酸塩等を添加しても構わない。
【0102】
上記表面調整において、表面調整用処理液と金属材料表面との接触時間や表面調整用処理液の温度は特に限定されず、従来公知の条件で行うことができる。
【0103】
上記表面調整を行い、次いで化成処理を行って化成処理金属板を製造することができる。上記化成処理方法は特に限定されず、浸漬(ディップ)処理、スプレー処理、電解処理等の種々の公知の方法を適用することができる。これらを複数組み合わせてもよい。
【0104】
金属材料表面に形成させる化成皮膜に関しても、金属のリン酸塩であれば特に限定されず、リン酸亜鉛、リン酸鉄、リン酸マンガン、リン酸亜鉛カルシウム等、何ら制限されるものではないが、リン酸亜鉛が好ましい。
【0105】
上記化成処理において、化成処理剤と金属材料との接触時間、化成処理剤の温度は特に限定されず、従来公知の条件で行うことができる。
【0106】
上記表面調整及び上記化成処理を行った後、更に塗装を行うことにより塗装鋼板を製造することができる。上記塗装方法は電着塗装が一般的である。塗装に用いられる塗料は特に限定されず、一般に化成処理金属板の塗装に用いられる種々のもの、例えばエポキシメラミン塗料、カチオン電着塗料とポリエステル系中塗り塗料とポリエステル系上塗り塗料等を挙げることができる。なお、化成処理後、塗装に先だっては洗浄工程を行うといった公知の方法が採用される。
【0107】
本発明の表面調整用組成物は、pHが3〜12であり、上記(1)金属アルコキシド、D50が3μm以下である2価又は3価の金属のリン酸塩粒子、及び上記(2)安定化剤を含有するものである。これにより、鉄又は亜鉛系金属材料とアルミニウム系金属材料とが接触している部分を有する金属材料に対して、上記表面調整用組成物によって表面調整を施し、次いで化成処理を行った場合に、接触部のアルミニウム系金属材料部分に充分な皮膜量の化成皮膜を良好に形成することができる。また、アルミニウム合金や高張力鋼板等の難化成性の金属材料に適用した場合にも充分な皮膜量の化成皮膜を形成することができる。
【0108】
更に、特定の成分を使用するものであるため、化成皮膜の形成を促進し、緻密な化成皮膜を形成することができ、D50が3μm以下である2価又は3価の金属のリン酸塩粒子を含有するものであるため、表面調整用処理液中での分散安定性にも優れている。従って、上記表面調整用組成物は、各種金属材料の表面調整に好適に用いることができる。
【発明の効果】
【0109】
本発明の表面調整用組成物は、上述した構成よりなるので、鉄、亜鉛、アルミニウム等の金属材料、特に、アルミニウム系金属材料や高張力鋼板等の難化成性の金属材料に適用した場合にも充分な被膜量の化成皮膜を形成することができ、表面調整用処理液中での分散安定性に優れ、化成処理中の金属材料の電食を抑制できるものである。
【0110】
上記表面調整用組成物は、各種金属材料、特に鉄又は亜鉛系金属材料とアルミニウム系金属材料との接触部を有する金属材料に対しても好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0111】
以下、本発明について実施例を掲げて更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。また実施例中、「部」、「%」は特に断りのない限り「質量部」、「質量%」を意味する。また、表面調整処理において、金属材料と実際に接触させるための処理液を「表面調整用処理液」と、希釈して表面調整用処理液を製造するために用いられる金属のリン酸塩粒子の分散液を「濃厚分散液」と示す。表面調整用処理液は、濃厚分散液を水などの溶媒によって所定の濃度に希釈し、必要な添加剤を添加した後、pHを調整することにより得られるものである。
【0112】
なお、以下に示す実施例1〜4、比較例1〜6の表面調整用組成物中において、リン酸亜鉛粒子のD50(測定方法は、以下の通り)は、表1に示した通りである。シランカップリング剤は、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(「KBM803」、商品名、信越化学工業社製)、γ−(メタクリロキシプロピル)トリメトキシシラン(「KBM503」、商品名、信越化学工業社製)を用いた。(2)安定化剤として、カルボキシメチルセルロース(「APP84」、商品名、日本製紙社製)を用いた。
【0113】
<実施例1 表面調整用組成物の調製>
純水60質量部に、「KBM803」1質量部、ポリリン酸(「SN2060」、商品名、サンノプコ社製)固形分1質量部及びリン酸亜鉛粒子20質量部を添加し、残りの水を添加して全量100質量部とした。ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルを用いて180分間分散処理を行った。得られた濃厚分散液を水道水でリン酸亜鉛濃度0.1%になるように希釈し、NaOHでpHを9に調整して表面調整用処理液を得た。
【0114】
<実施例2、3 表面調整用組成物の調製>
アルコキシシラン、安定剤の種類を表1に示したように変更した以外は、実施例1と同様にして、表面調整用処理液を調整した。
【0115】
<実施例4 表面調整用組成物の調製>
純水60質量部に、「KBM803」1質量部及びリン酸亜鉛粒子20質量部を添加し、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルを用いて180分間分散処理を行い、ポリリン酸(「SN2060」、商品名、サンノプコ社製)を固形分1質量部添加し、残りの水を添加して全量100質量部とした。得られた濃厚分散液を水道水でリン酸亜鉛濃度0.1%になるように希釈し、NaOHでpHを9に調整して表面調整用処理液を得た。
【0116】
<比較例1 表面調整用組成物の調製>
純水60質量部に、「KBM803」1質量部及びリン酸亜鉛粒子を30質量部添加し、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルを用いて180分間分散処理を行った。残りの水を添加して全量100質量部とし、濃厚分散液を得た。得られた濃厚分散液を水道水でリン酸亜鉛濃度0.1%になるように希釈し、NaOHでpHを9に調整して表面調整用処理液を得た。
【0117】
<比較例2 表面調整用組成物の調製>
水60質量部に、ポリアクリル酸(「SN44C」、商品名、サンノプコ社製)固形分1質量部及びリン酸亜鉛粒子を20質量部添加し、ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルを用いて180分間分散処理を行った。残りの水を添加して全量100質量部とし、濃厚分散液を得た。得られた濃厚分散液を水道水でリン酸亜鉛濃度0.1%になるように希釈し、NaOHでpHを9に調整して表面調整用処理液を得た。
【0118】
<比較例3、4 表面調整用組成物の調製>
安定剤の種類を表1に示したように変更した以外は、比較例2と同様にして、表面調整用処理液を調整した。
【0119】
<比較例5 表面調整用組成物の調製>
純水60質量部に、「SN44C」1質量部、コロイダルシリカ(「ST−30」、商品名、日産化学社製)固形分1質量部及びリン酸亜鉛粒子20質量部添加し、残りの水を添加して全量100質量部とした。ジルコニアビーズ(1mm)充填率80%でSGミルを用いて180分間分散処理を行った。得られた濃厚分散液を水道水でリン酸亜鉛濃度0.1%になるように希釈し、NaOHでpHを9に調整して表面調整用処理液を得た。
【0120】
<比較例6 表面調整用組成物の調製>
リン酸チタン系粉体表面調整用組成物(「5N10」、商品名、日本ペイント社製)を水道水で0.1%に希釈し、NaOHでpH9に調製した。
【0121】
<実施例1〜4及び比較例1〜6>
[試験板の作製1]
冷延鋼板(SPC)(70mm×150mm×0.8mm)、アルミニウム板(Al)(♯6000系、70mm×150mm×0.8mm)、亜鉛メッキ鋼板(GA)(70mm×150mm×0.8mm)、高張力鋼板(70mm×150mm×1.0mm)のそれぞれに、脱脂剤(「サーフクリーナーEC92」、商品名、2%、日本ペイント社製)を使用して、40℃で2分間脱脂処理し、次いで、実施例及び比較例で得られた表面調整用処理液を用いて、室温で30秒間表面調整処理した。
続いて、それぞれの金属板に、リン酸亜鉛処理液(「サーフダインSD6350」、商品名、日本ペイント社製)を用いて浸漬法で35℃、120秒間化成処理し、水洗、純水洗、乾燥して試験板を得た。
【0122】
[試験板の作製2]
上述した試験板の作製1と同様に、脱脂処理したアルミニウム板3及び亜鉛メッキ鋼板2を作製し、脱脂処理後のアルミニウム板3と亜鉛メッキ鋼板2とを、図1に示すようにクリップ5にて接続した。次いで、接続した金属板に対して、試験板の作製1と同様に表面調整処理、化成処理、水洗、純水洗、乾燥して試験板を得た。
上記で得られた表面調整用組成物の組成を表1に示す。
【0123】
[評価試験]
下記の方法により、得られた表面調整用組成物のリン酸亜鉛粒子の粒径及び安定性、並びに、得られた試験板の各種評価を行い、結果を表2に示した。試験板の作製2で作製した鋼板については、アルミニウム板3の電食部1の部分について評価を行った。なお、表2において、試験板の作製1で作製したものは、「SPC」、「GA」、「Al」、「高張力鋼板」と、試験板の作製2で作製したものは、「Al(電食部)」と記す。
【0124】
(リン酸亜鉛粒子の粒径の測定)
実施例又は比較例で得られた表面調整用組成物に含まれるリン酸亜鉛粒子の粒径について、光回折式粒度測定装置(「LA−500」、商品名、堀場製作所社製)を用いて粒度分布測定を行い、D50(分散体の平均径)をモニターし、D50を決定した。
【0125】
(皮膜外観)
形成された皮膜の外観を、目視にて、下記の基準で評価した。また、乾燥後のサビの発生の有無について観察し、サビが発生した場合は、程度に応じて、「一部サビ」「サビ」と記載した。
◎:全面に均一に細かく被覆されている
〇:全面に粗く被覆されている
△:一部被覆されていない
×:化成皮膜がほとんど形成されていない
また、形成された化成皮膜の結晶の大きさを電子顕微鏡により測定した。
【0126】
(化成皮膜量(C/W))
SPC試験板及びGA試験板の化成皮膜量の測定は、蛍光X線測定装置(「XRF−1700」、商品名、島津製作所社製)にて行った。
【0127】
なお、SPCやGAのように比較的化成性が高い金属材料を使用した場合は、できるだけ緻密な結晶が形成されることが望ましいため、結晶粒子径が小さく、皮膜量が少ないほうが化成性能が高いと判断される。一方、アルミニウム金属材料や高張力鋼板等の難化成性金属材料の場合は、化成処理反応性が低いため、結晶皮膜量を増加させることが必要とされる。このため、皮膜量は多いほうが、化成性能が高いと判断される。
【0128】
(耐食性)
試験板1の作製1で得られた試験板(SPC、高張力鋼板)に、カチオン電着塗料(「パワーニックス110」、商品名、日本ペイント社製)を用いて乾燥膜厚20μmとなるよう電着塗装し、水洗後170℃20分間加熱して焼付け、試験板を作製した。素地まで達するよう縦平行カットを2本入れた後、ソルトディップ試験(5%塩水、35℃、480h浸漬)に供した後、カット部をテープ剥離し、剥離幅を評価した。結果を表2に示した。
【0129】
【表1】

【0130】
【表2】

【0131】
表2より、実施例の表面調整用組成物を使用した場合には、冷延鋼板、亜鉛メッキ鋼板、高張力鋼板のすべての金属素材に対して、充分な皮膜量の化成皮膜が形成され、更に、アルミニウム板と亜鉛鋼板との異種金属接触部におけるアルミニウム板表面にも充分な皮膜量の化成皮膜が形成されていた。すなわち、実施例の表面調整用組成物は、複数種の金属材料を同時に処理しても充分な皮膜量の化成皮膜を形成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明の表面調整用組成物は、自動車車体、家電製品等に使用されている各種金属材料に対して、好適に使用することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0133】
【図1】実施例で使用した電食アルミニウム試験板の概略図である。
【符号の説明】
【0134】
1 電食部
2 亜鉛メッキ板
3 アルミニウム板
4 一般部
5 クリップ


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2価又は3価の金属のリン酸塩粒子を含有するpH3〜12の表面調整用組成物であって、
前記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子は、D50が3μm以下であり、
前記表面調整用組成物は、更に、
(1)シランアルコキシド、チタンアルコキシド及びアルミニウムアルコキシドからなる群から選択される少なくとも1の金属アルコキシド、並びに
(2)安定化剤、を含有するものであることを特徴とする表面調整用組成物。
【請求項2】
前記2価又は3価の金属のリン酸塩粒子は、リン酸亜鉛である請求項1記載の表面調整用組成物。
【請求項3】
前記(1)金属アルコキシドは、少なくとも1つのメルカプト基又は(メタ)アクリロキシ基を有するアルコキシシラン化合物である請求項1又は2記載の表面調整用組成物。
【請求項4】
表面調整用処理液として、前記(1)金属アルコキシドを1〜1000ppm含有する請求項1、2、又は3記載の表面調整用組成物。
【請求項5】
前記(2)安定化剤は、ホスホン酸、フィチン酸、ポリリン酸、ホスホン酸基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂、カルボキシル基含有アクリル樹脂及びビニル樹脂、糖類及び層状粘土鉱物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1、2、3又は4記載の表面調整用組成物。
【請求項6】
表面調整用処理液として、前記(2)安定化剤を1〜1000ppm含有する請求項1、2、3、4又は5記載の表面調整用組成物。
【請求項7】
請求項1、2、3、4、5又は6記載の表面調整用組成物を金属材料と接触させる工程からなることを特徴とする表面調整方法。

【図1】
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