説明

被洗浄ガラス体の製造方法、光学素子及び光学機器

【課題】ガラス塊の損傷を抑制しつつ表面処理された被洗浄ガラス体を効率的に製造できる方法、及びその方法で製造される被洗浄ガラス体から製造される光学素子、及びこの光学素子を用いた光学機器を提供すること。
【解決手段】ガラス塊の表面を洗浄して被洗浄ガラス体を製造する方法において、洗浄は、ガラス塊を表面処理液に浸漬し、この表面処理液に100kHz以上200kHz以下の超音波を5秒以上100秒以下に亘って照射することで行う。超音波は、100W以上600W以下の出力で発生させることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス塊の表面を洗浄する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プリフォームやガラス成形体等のガラス塊の表面を処理する技術が知られている。かかる表面処理は、一般的には、所定の水溶液中にガラス塊を浸漬することで行われる。例えば特許文献1には、B成分を含むガラス塊を酸性又はアルカリ性の溶液に浸漬し、ガラス塊の表面を処理することで、脈理を除去することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−281124号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に示される技術では、表面処理に長時間を要する。そこで、表面処理を効率化する技術として、溶液への超音波照射が考えられるが、ガラス塊が柔らかい場合等では、表面に傷が生じやすい。
【0005】
本発明は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、ガラス塊の損傷を抑制しつつ表面処理された被洗浄ガラス体を効率的に製造できる方法、及びその方法で製造される被洗浄ガラス体から製造される光学素子、及びこの光学素子を用いた光学機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、高周波の超音波を照射することで、ガラス塊の損傷を抑制されつつ表面が処理されることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
(1) ガラス塊の表面を洗浄して被洗浄ガラス体を製造する方法であって、
前記洗浄は、前記ガラス塊を表面処理液に浸漬し、この表面処理液に100kHz以上200kHz以下の超音波を5秒以上100秒以下に亘って照射することで行う方法。
【0008】
(2) 前記超音波は、100W以上600W以下の出力で発生させる(1)記載の方法。
【0009】
(3) 前記表面処理液は、8以上11以下のpHを有する(1)又は(2)記載の方法。
【0010】
(4) 洗浄後のガラス塊を水及び/又は有機溶媒中に浸漬し、前記水及び/又は有機溶媒に100kHz以上200kHz以下の超音波を10秒以上120秒以下に亘って照射する工程を更に有する(1)から(3)いずれか記載の方法。
【0011】
(5) 前記超音波は、100W以上600W以下の出力で発生させる(4)記載の方法。
【0012】
(6) 前記ガラス塊は、微小硬度計で測定される400以下のヌープ硬さを有する(1)から(5)いずれか記載の方法。
【0013】
(7) 前記ガラス塊は、600以下の磨耗度(9.8Nの一定荷重が負荷された鋳鉄製平面皿で研磨液を供給しながら磨耗させたときの磨耗質量から算出される)を有する(1)から(6)いずれか記載の方法。
【0014】
(8) 前記ガラス塊は、プレス成形前のプリフォーム又はプレス成形後のガラス成形体である(1)から(7)いずれか記載の方法。
【0015】
(9) (1)から(8)いずれか記載の方法で製造される被洗浄ガラス体から製造される光学素子。
【0016】
(10) (9)記載の光学素子を用いた光学機器。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ガラス塊を浸漬した表面処理液に100kHz以上200kHz以下の超音波を5秒以上100秒以下に亘って照射するので、ガラス塊の損傷を抑制しつつ表面処理された被洗浄ガラス体を製造することができる。また、5秒以上100秒以下という必要十分な時間で良質の被洗浄ガラス体が得られ、従来のように表面処理を再度行う等の必要が小さいため、製造効率が優れる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について説明するが、これに本発明が限定されるものではない。
【0019】
本発明に係る被洗浄ガラス体の製造方法は、ガラス塊を表面処理液に浸漬し、この表面処理液に100kHz以上200kHz以下の超音波を5秒以上100秒以下に亘って照射することで、ガラス塊の表面を洗浄する工程を有する。周波数200kHz以下の超音波の照射によって、ガラス塊表面の洗浄効率が向上し、5秒以上100秒以下という比較的短時間でガラス塊の表面を充分に洗浄することができる。また、超音波の周波数を100kHz以上にすることで、ガラス塊の表面に傷が生じるのを抑制することができる。
【0020】
周波数の下限は、110kHzであることがより好ましく、最も好ましくは130kHzであり、周波数の上限は、190kHzであることがより好ましく、最も好ましくは170kHzである。また、照射時間の下限は、10秒であることがより好ましく、最も好ましくは40秒であり、周波数の上限は、90秒であることがより好ましく、最も好ましくは60秒である。
【0021】
超音波の出力は、特に限定されないが、過大であると、ガラス塊の表面に傷がつきやすくなる一方、過小であると、ガラス塊表面の洗浄効率が充分に向上しないおそれがある。そこで、超音波の出力の下限は、100Wであることが好ましく、より好ましくは150Wであり、最も好ましくは200Wである。また、超音波の出力の上限は、600Wであることが好ましく、より好ましくは500Wであり、最も好ましくは300Wである。
【0022】
表面処理液は、酸性、中性、アルカリ性のいずれであってもよいが、洗浄力の点でアルカリ性であることが好ましい。ただし、pHが過大であると、ガラス塊が侵されやすかったり、ガラス塊からの表面処理液の除去にかかる時間が長くなったりする一方、過小(つまり中性に近づく)であると、表面処理の効率が充分に得られないおそれがある。そこで、表面処理液のpHの上限は、11であることが好ましく、より好ましくは10.5であり、最も好ましくは9.5である。また、表面処理液のpHの下限は、8であることが好ましく、より好ましくは8.5であり、最も好ましくは9.0である。
【0023】
表面処理液の組成は、特に限定されず、用いるガラス塊を侵しにくいよう、従来周知の成分から適宜選択されてよい。
【0024】
洗浄後のガラス塊は、そのまま被洗浄ガラス体として用いてもよいが、多少量の表面処理液が残存し得るため、被洗浄ガラス体の用途等によって必要な場合には、残存する表面処理液を除去することが好ましい。具体的には、洗浄後のガラス塊を水及び/又は有機溶媒中に浸漬すればよい。
【0025】
残存する表面処理液の除去を効率的に行うためには、水及び/又は有機溶媒に超音波を照射することが好ましいが、その際におけるガラス塊の損傷を抑制する必要がある。そこで、水及び/又は有機溶媒に、100kHz以上200kHz以下の超音波を10秒以上120秒以下に亘って照射することが好ましい。
【0026】
周波数の下限は、110kHzであることがより好ましく、最も好ましくは130kHzであり、周波数の上限は、190kHzであることがより好ましく、最も好ましくは170kHzである。また、照射時間の下限は、20秒であることがより好ましく、最も好ましくは60秒であり、周波数の上限は、110秒であることがより好ましく、最も好ましくは90秒である。
【0027】
超音波の出力は、特に限定されないが、過大であると、ガラス塊の表面に傷がつきやすくなる一方、過小であると、ガラス塊表面の洗浄効率が充分に向上しないおそれがある。そこで、超音波の出力の下限は、100Wであることが好ましく、より好ましくは150Wであり、最も好ましくは200Wである。また、超音波の出力の上限は、600Wであることが好ましく、より好ましくは500Wであり、最も好ましくは300Wである。
【0028】
水及び有機溶媒は、一方のみを用いてもよく、双方を用いてもよい。ただし、この工程後のガラス塊の乾燥が容易である点では、少なくとも有機溶媒を用いることが好ましい。なお、有機溶媒は、揮発性を有するものから適宜選択されてよい。特に限定されないが、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、エーテル等の1種又は2種以上が挙げられる。
【0029】
このような残存する表面処理液の除去工程は、1回に限られず、複数回繰り返して行ってもよい。後者の場合、ある回の工程の条件と、他の回の工程の条件とは、同一であっても異なっていてもよい。例えば、初回の工程では水を用い、2回目以降の工程では有機溶媒を用いてよい。また、上記工程を複数回繰り返して行う場合、その少なくとも一部において、上記条件での超音波照射を行えばよく、必ずしも全工程に亘り、上記条件での超音波照射を行わなくてもよい。
【0030】
なお、ガラス塊の、表面処理液、水、有機溶媒中への浸漬は、ガラス塊が他の物体(例えば、容器、他のガラス塊)に接触して損傷することを予防する観点で、ガラス塊を保持し動きを抑制した状態で行うことが好ましい。かかる保持部材は公知であるため、説明を省略する。また、1個又は複数個のガラス塊を洗浄してもよく、被洗浄ガラス体の製造効率を向上する観点では複数個のガラス塊を洗浄することが好ましい。また、超音波の照射は、任意の超音波洗浄機を用い、周波数、出力等を適宜設定して、従来公知の方法に従って行えばよい。
【0031】
以上の各工程は、その一部又は全部を同一の容器内で行ってもよく、別々の容器内で行ってもよい。後者は、工程ごとに容器内の液を交換する手間が省ける点で好ましい。また、全工程が終了した後、ガラス塊が浸漬されていた液を除去するため、ガラス塊を乾燥させてもよい。
【0032】
このように、本発明の方法によれば、ガラス塊の損傷を抑制しつつ表面処理された被洗浄ガラス体を製造できるため、種々の特性を有するガラス塊を用いることができる。特に、微小硬度計で測定されるヌープ硬さが400以下のガラス塊、9.8Nの一定荷重が負荷された鋳鉄製平面皿で研磨液を供給しながら磨耗させたときの磨耗質量から算出される磨耗度が600以下のガラス塊は損傷しやすいため、本発明の方法において好ましく使用し得る。
【0033】
ヌープ硬さの上限は390であることがより好ましく、最も好ましくは370であり、下限は330であることがより好ましく、最も好ましくは350である。また、磨耗度の上限は590であることがより好ましく、最も好ましくは550であり、下限は450であることがより好ましく、最も好ましくは500である。
【0034】
本発明の方法は、種々の状態のガラス塊に対して有用である。例えば、ガラス塊としてプレス成形前のプリフォームを用いる場合、プリフォーム製造の過程で表面に付着した汚れが除去されるため、高品質のプレス成形体を得ることができる。また、ガラス塊としてプレス成形後のガラス成形体を用い、本発明の方法によって所望の外形状へと加工(いわゆる芯取)してもよい。
【0035】
本発明は、以上の方法で製造される被洗浄ガラス体から製造される光学素子、並びに、この光学素子を用いた光学機器を包含する。本発明の被洗浄ガラス体は、ガラス塊の損傷を抑制しつつ効率的に表面処理されているので、高品質且つ安価である。このため、かかる被洗浄ガラス体を用いて得られる光学素子及び光学機器も、高品質且つ安価である。
【実施例】
【0036】
<実施例1、参考例>
リン酸系ガラスからなるプリフォーム(前述の方法で測定されるヌープ硬さ370、磨耗度470)を、洗浄槽内に収容した1.0vol%の表面処理液(pH約10)中に浸漬し、この表面処理液に、周波数170kHz、出力300Wの超音波を、表1に示す時間に亘って照射した。その後、洗浄槽内からプリフォームを取り出し、その表面状態を目視で観察した。その結果を表1に示す。
【0037】
(比較例1〜3)
周波数を40kHz(比較例1)、72kHz(比較例2)に変更し、超音波の照射時間を3秒に変更した点を除き、実施例1と同様の手順で超音波照射を行い、プリフォームの表面状態を目視で観察した。その結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1及び後述の表において、汚れ及び傷は、以下の基準で評価した。
汚れ: ◎ 汚れが全く確認されなかった。
○ 僅かな汚れが確認された。
△ 少なからぬ汚れが確認された。
× 汚れが目立った。
傷: ◎ 傷が全く確認されなかった。
○ 僅かな傷が確認された。
△ 少なからぬ傷が確認された。
× 傷が目立った。
【0040】
<実施例2、参考例>
超音波の周波数を表2に示す値に設定し、照射時間を5秒又は100秒とした点を除き、実施例1と同様の手順で超音波照射を行い、プリフォームの表面状態を目視で観察した。その結果を表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
<実施例3>
超音波の周波数及び出力を表3、4に示す値に設定し、照射時間を5秒又は100秒とした点を除き、実施例1と同様の手順で超音波照射を行い、プリフォームの表面状態を目視で観察した。その結果を表3及び4に示す。
【0043】
【表3】

【0044】
【表4】

【0045】
<実施例4>
表面処理液として、表5に示すpHを有するものを用いた点を除き、実施例1と同様の手順で超音波照射を行い、プリフォームの表面形状を目視で観察した。その結果を表5に示す。
【0046】
【表5】

【0047】
<実施例5>
実施例4での洗浄後のプリフォーム(pH8、11、12の表面処理液を用いて得たもの)を、純水槽内に収容した純水中に浸漬し、純水に、周波数170kHz、出力300Wの超音波を90秒間に亘って照射した。プリフォームを取り出し、再び別の純水槽内に収容した純水中に浸漬し、純水に、周波数170kHz、出力300Wの超音波を90秒間に亘って照射した。
【0048】
その後、プリフォームを取り出し、IPA槽内に収容したイソプロピルアルコール中に浸漬し、このイソプロピルアルコールに、周波数170kHz、出力300Wの超音波を90秒間に亘って照射した。プリフォームを取り出し、別のIPA槽内に収容したイソプロピルアルコール中に浸漬し、5分間静置した。その後、プリフォームを取り出し、イソプロピルアルコール蒸気の雰囲気の乾燥槽内で15分間静置した。
【0049】
以上の工程を終えたプリフォームを、各々100個ずつ、一般的なプレス成形型で成形し、プレス成形体を製造した。各プレス成形体を観察したところ、いずれにも傷及び汚れがなかった。ただし、pH12の表面処理液を用いて得たプリフォームの場合、得られるプレス成形体のいくつかに、プリフォームに残存していた表面処理液に起因する白色化したものが混在していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス塊の表面を洗浄して被洗浄ガラス体を製造する方法であって、
前記洗浄は、前記ガラス塊を表面処理液に浸漬し、この表面処理液に100kHz以上200kHz以下の超音波を5秒以上100秒以下に亘って照射することで行う方法。
【請求項2】
前記超音波は、100W以上600W以下の出力で発生させる請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記表面処理液は、8以上11以下のpHを有する請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
洗浄後のガラス塊を水及び/又は有機溶媒中に浸漬し、前記水及び/又は有機溶媒に100kHz以上200kHz以下の超音波を10秒以上120秒以下に亘って照射する工程を更に有する請求項1から3いずれか記載の方法。
【請求項5】
前記超音波は、100W以上600W以下の出力で発生させる請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記ガラス塊は、微小硬度計で測定される400以下のヌープ硬さを有する請求項1から5いずれか記載の方法。
【請求項7】
前記ガラス塊は、600以下の磨耗度(9.8Nの一定荷重が負荷された鋳鉄製平面皿で研磨液を供給しながら磨耗させたときの磨耗質量から算出される)を有する請求項1から6いずれか記載の方法。
【請求項8】
前記ガラス塊は、プレス成形前のプリフォーム又はプレス成形後のガラス成形体である請求項1から7いずれか記載の方法。
【請求項9】
請求項1から8いずれか記載の方法で製造される被洗浄ガラス体から製造される光学素子。
【請求項10】
請求項9記載の光学素子を用いた光学機器。