説明

被膜形成用ポリエステル樹脂

【課題】耐摩耗性、溶剤溶解性、可視光線の短波長側領域から紫外線領域における光線透過性に優れた被膜を形成し得るポリエステル樹脂の提供。
【解決手段】ジカルボキシジフェニルエーテル構造からなる二価カルボン酸残基と、二価フェノール残基とから構成される被膜形成用ポリエステル樹脂。また、二価フェノール残基が2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールC〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン〔ビスフェノールAP〕の残基である前記ポリエステル樹脂。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐摩耗性、耐熱性、透明性、電気的特性、溶解性に優れた被膜形成用ポリエステル樹脂、ならびにこの樹脂より構成される被膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、「ビスフェノールA」と略称する場合がある。)の残基とテレフタル酸およびイソフタル酸の残基とからなる非晶性ポリエステル(以下、「フタル酸ポリアリレート」と略称する。)はエンジニアリングプラスチックとして知られている。
【0003】
フタル酸ポリアリレートは耐熱性が高く、衝撃強度に代表される機械的強度や寸法安定性に優れ、かつ透明であるため、その成形品は電気・電子、自動車、機械などの分野に幅広く応用されている。特に電気的特性(絶縁性、誘電特性等)および可視光線領域の透明性が優れていることより、コンデンサー用のフィルム等の電子部品や液晶表示装置の各種フィルムやコーティング樹脂のような被膜を形成する用途への応用がおこなわれている(特許文献1、2など)。
【0004】
また、フィルムの光学特性に関しては、近年、可視光線領域のみならず短波長領域での高透過性が求められるようになっている。例えば、被膜上に部品を組み立てる際には接着剤が使われるが、以前は有機溶剤に溶解したものが主流であった。しかし最近ではプロセスの簡略化や環境改善のために紫外線硬化型接着剤がよく使われるようになってきている。この場合、被膜を透過させて紫外線硬化型接着剤に紫外光線を照射するケースが多く、被膜の紫外線透過性が低いものは利用できなかった。
【0005】
またCD−RやDVD−Rなどのような光記録メディアや平面ディスプレー、電子写真方式のプリンターなどでは、半導体レーザーや発光ダイオードなどが光源として使用されており、これらの光源の波長は短くするほど記録密度や解像度が向上することが知られていることから、短波長光源の開発が盛んになっており、これらのシステムで使用される被膜には、短波長光線に対する高い透過性が必要であった。
【0006】
さらに、フタル酸ポリアリレートは、アリールアミン化合物、アゾ化合物、含窒素スチルベン化合物、ヒドラゾン化合物、ヒンダードアミン化合物、トリアゾール化合物などの窒素元素を含有する有機化合物を添加すると、塗膜が強く着色し、被膜としたときに可視光線の短波長側領域から紫外線領域における透過率の低いことが指摘されていた。上記の化合物は(1)酸化防止剤や光安定剤などの性能改良材料、(2)硬化剤などの反応に寄与する材料、(3)導電剤や電荷輸送剤・電荷発生剤のように機能を付与する材料として重要な役割を担うものが多かったにもかかわらず、このように混合すると着色する樹脂では使用することが困難であった。
【0007】
さらに、加工性においては、フタル酸ポリアリレートはジクロロメタンやクロロホルムといった限られた溶媒にしか溶解せず、各種被膜形成用樹脂に使用するには溶媒の選択肢が限られていた。特に、前記した被膜を形成するための溶媒として一般的に使用されるケトン系溶剤(シクロヘキサノン等)や、プリンター等の電子写真感光体製造において使用される芳香族炭化水素系溶剤(クロロベンゼン等)への溶解性を有していなかったため、こうした用途へ適用することができなかった。
【0008】
加えて、昨今の技術革新に伴い、被膜形成用樹脂の使用条件は厳しくなってきており、従来のフタル酸ポリアリレートよりも高い耐摩耗性を有する樹脂が求められていた。
【0009】
【特許文献1】特開2004−277642号公報
【特許文献2】特開2003−292756号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前記のような実状に鑑み、本発明の課題は、従来の樹脂が有していた耐熱性、電気特性に加えて、さらに、ケトン系溶剤や芳香族炭化水素系溶剤への溶解性を有し、耐摩耗性と特定波長領域における光線透過性に優れた被膜を形成し得るポリエステル樹脂の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らはこのような課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の二価カルボン酸成分を含む構造単位を有するポリエステルは、従来知られているフタル酸ポリアリレートと同等の電気特性と耐熱性を有しながら、耐摩耗性が高く、可視光線の短波長側領域から紫外線領域における光線透過率が高く、各種溶剤に対する溶解性に優れ被膜形成用途に好適であることを見出し、さらに本発明の被膜形成用ポリエステル樹脂よりなる被膜に窒素原子含有有機化合物を含有しても着色が起こらず高い透過率を有することを見出し、本発明の完成に到った。
【0012】
すなわち、本発明の要旨は、第一に、下記構造式(1)で示される二価カルボン酸残基と二価フェノール残基とから構成される被膜形成用ポリエステル樹脂であり、また前記ポリエステル樹脂より構成される被膜である。
【0013】
【化1】

【0014】
第二に、二価カルボン酸残基が式(2)で示される構造である前記の被膜形成用ポリエステル樹脂である。
【0015】
【化2】

【0016】
第三に、二価フェノール残基が下記構造式(3)で示される構造である前記の被膜形成用ポリエステル樹脂である。
【0017】
【化3】

【0018】
第四に、二価フェノール残基が下記構造式(4)で示される構造である前記の被膜形成用ポリエステル樹脂である。
【0019】
【化4】

【0020】
第五に、前記の被膜形成用ポリエステル樹脂より構成される被膜である。
第六に、前記の被膜形成用ポリエステル樹脂と窒素原子含有有機化合物より構成される被膜である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、耐摩耗性、耐熱性、電気的特性に優れ、可視光線の短波長側領域から紫外線領域における光線透過率が高いポリエステル樹脂被膜が得られる。この被膜は、窒素原子含有有機化合物を配合した場合でも変色することがない。また、このポリエステル樹脂はシクロヘキサノン等のケトン系溶剤やクロロベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤への溶解性に優れるため、これらの溶剤に溶解させて使用することにより、各種基材への塗工を容易に行うことができる。特に、電気機器、モータ、発電機、相間絶縁等の絶縁被膜、変圧器、電線の被覆、コンデンサーなどの誘電体被膜、液晶の表示被膜、情報記録用ディスクなどの被膜や、電子写真感光体のバインダーなどへの適用が可能であり、産業上の利用価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明の被膜形成用ポリエステル樹脂は、下記構造式(1)で示される二価カルボン酸残基と二価フェノール残基とから構成されるポリエステルである。
【0023】
【化5】

【0024】
上記式(1)で示される各種ジカルボキシジフェニルエーテル異性体の残基を骨格とすることにより、フタル酸ポリアリレートと比較して、汎用溶剤への溶解性が改善され、被膜としたときの耐摩耗量が向上し、また、可視光線領域から紫外線領域の波長の光線透過率が向上する。式(1)の二価カルボン酸残基を与える二価カルボン酸としては、2,2’−ジカルボキシジフェニルエーテル、2,3’−ジカルボキシジフェニルエーテル、2,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、3,3’−ジカルボキシジフェニルエーテル、3,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテルが挙げられるが、この中でも特に4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテルが、上記の効果のほかに、さらに耐熱性をも向上させることができるため好ましく用いられる。これらの二価カルボン酸は1種類で用いることもできるし、2種類以上を併用してもよい。
【0025】
式(1)の残基を与える二価カルボン酸以外の他の二価カルボン酸を組合せてもよく、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェン酸、4,4’−ジカルボキシジフェニルエーテル、ビス(p−カルボキシフェニル)アルカン、4,4’−ジカルボキシフェニルスルホンや、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸などの脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。本発明の効果を損なわないためには、式(1)の残基を与える二価カルボン酸は、ポリエステルを構成する二価カルボン酸成分全体の50モル%よりも多いことが望ましく、70モル%よりも多いことがより好ましい。
【0026】
本発明の被膜形成用ポリエステル樹脂を構成する二価フェノール残基としては、次のような一般式(A)の構造が挙げられる。
【0027】
【化6】

【0028】
〔式(A)において、Xは、単結合、酸素原子、硫黄原子、アルキレン基、アルキリデン基、シクロアルキレン基、シクロアルキリデン基、ハロゲン置換アルキレン基、ハロゲン置換アルキリデン基、フェニルアルキリデン基、置換フェニルアルキリデン基、カルボニル基、スルホニル基、カルボキシルアルキレン基、カルボキシルアルキリデン基、アルコキシカルボニルアルキレン基、アルコキシカルボニルアルキリデン基、フルオレン基、イサチン基、アルキルシラン基、ジアルキルシラン基からなる群より選ばれ、R1、R2は、各々独立にハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数3〜20の脂環族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、ニトロ基、ハロゲン化アルキル基からなる群より選ばれ、p、qは0〜4の整数を表わす。〕
【0029】
本発明のポリエステル樹脂を構成する二価フェノール残基を与えるニ価フェノールを例示すれば、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−メチル−2−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン、2,2−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)オクタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(3−アリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−イソプロピル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−sec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビスフェノールフルオレン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2−メチルプロパン、4,4’−[1,4−フェニレン−ビス(2−プロピリデン)−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)]、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、4,4’−ジヒドロキシフェニルエーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)メタン、2,4’−メチレンビスフェノール、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、3,3−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ノナン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)デカン、ビス(2−ヒドロキシ−3−tert−ブチル−5−メチルフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、テルペンジフェノール、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)−2−メチルプロパン、2,2−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3,5−ジsec−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(3−シクロヘキシル−4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチルフェニル)エタン、ビス(3−ノニル−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチル−6−メチルフェニル)メタン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(2−ヒドロキシ−5−フルオロフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−フェニルメタン、ビス(3ーフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)−(p−フルオロフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−(p−フルオロフェニル)メタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラtert−ブチル−4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン、3,3’−ジフルオロ−4,4’−ビフェノール、3,3’,5,5’−テトラフルオロ−4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジメチルシラン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2,3,5−トリメチル−4−ヒドロキシフェニル)−フェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ドデカン、1,1−ビス(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−シクロヘキシルフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチルフェニル)エタン、イサチンビスフェノール、イサチンビスクレゾール、2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチル−4,4’−ビフェノール、ビス(2ーヒドロキシフェニル)メタン、2,4’−メチレンビスフェノール、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(2−ヒドロキシ−3−アリルフェニル)メタン、1,1−ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジメチルフェニル)−2−メチルプロパン、1,1−ビス(2ーヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)エタン、ビス(2−ヒドロキシ−5−フェニルフェニル)メタン、1,1−ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、ビス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−シクロヘキシルフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)ペンタデカン、1,2−ビス(3,5−ジtert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)エタン、ビス(2−ヒドロキシ−3,5−ジtert−ブチルフェニル)メタン、2,2−ビス(3−スチリル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−(p−ニトロフェニル)エタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、ビス(3,5−ジフルオロ−4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、ビス(3−フルオロ−4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、2,2−ビス(3−クロロ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、3,3’,5,5’−テトラtert−ブチル−2,2’−ビフェノール、2,2’−ジアリル−4,4’−ビフェノール、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5,5−テトラメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,4−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチル−5−エチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロペンタン、1,1−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジフェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、1,1−ビス(3,5−ジクロロ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9、9−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、1,1−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチル−シクロヘキサン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(2−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3,5−ジエチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(3−エチル−4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、2,4−ジヒドロキシジフェニルスルホンなどが挙げられる。
【0030】
上記の二価フェノールの中でも、耐摩耗性の観点からは、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールC〕が好ましい。
【0031】
また、耐熱性の面から好ましい二価フェノールは、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン〔ビスフェノールZ〕、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔TMビスフェノールA〕、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン〔ビスフェノールAP〕であり、ビスフェノールZが最も好ましい。
【0032】
また、本発明のポリエステル樹脂の末端は、一価フェノール、一価酸クロライド、一価アルコール、一価カルボン酸などで封止されていてもよい。そのような末端封止剤として用いられる一価フェノールとしては、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、o−フェニルフェノール、m−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、o−メトキシフェノール、m−メトキシフェノール、p−メトキシフェノール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール、2−フェニルー2−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(「p−(α−クミル)フェノール)」と記すことがある。)2−フェニルー2−(2−ヒドロキシフェニル)プロパン、2−フェニルー2−(3−ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられ、一価酸クロライドとしては、ベンゾイルクロライド、安息香酸クロライド、メタンスルホニルクロライド、フェニルクロロホルメートなどが挙げられ、一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ドデシルアルコール、ステアリルアルコール、ベンジルアルコール、フェネチルアルコールなどが挙げられ、一価カルボン酸としては、酢酸、プロピオン酸、オクタン酸、シクロヘキサンカルボン酸、安息香酸、トルイル酸、フェニル酢酸、p−tert−ブチル安息香酸、p−メトキシフェニル酢酸などが挙げられる。
【0033】
本発明のポリエステル樹脂の分子量は、固有粘度(1,1,2,2−テトラクロロエタン中、25℃で測定)を指標として表すことができ、0.60〜2.5dl/gが好ましく、より好ましくは0.80〜2.0dl/gである。固有粘度が0.60dl/g未満では、樹脂の耐摩耗性が不足する場合や、塗工液としたときの溶液粘度が低すぎて塗工が困難になったり、その結果として塗工した被膜の電気的特性が低下する場合がある。一方、固有粘度が2.5dl/gより高いと、塗工液として用いるときに、曳糸性が生じたり、粘度が上昇して取扱いが困難になる傾向がある。ポリエステル樹脂の分子量は、製造に際して、前記した末端封止剤の添加量によって制御することができる。
【0034】
ポリエステル樹脂のカルボキシル価は、30当量/t以下とすることが好ましく、より好ましくは25当量/t以下であり、最適には20当量/t以下である。カルボキシル価が30当量/tを超えると、樹脂の絶縁破壊電圧、耐アーク性や誘電率等の電気的特性が悪化する傾向があり、さらに、樹脂を溶媒に溶解して塗工液としたときの保存安定性が低下する傾向がある。塗工液の保存安定性が低下すると、時間の経過とともに、白濁したり沈澱、不溶物が生じたり、増粘してゲル化したりして、その結果として均一な被膜が形成できなくなり、被膜の機械特性や電気的特性が低下する場合がある。
【0035】
本発明のポリエステル樹脂を製造する方法としては、界面重合法、溶液重合法などが挙げられるが、界面重合法によって製造することが最も好ましい。すわなち、水と相溶しない有機溶剤に溶解させた二価カルボン酸ハライドと、アルカリ水溶液に溶解させた二価フェノールとを混合することによってポリエステルが重合される。界面重合法に関する文献として、W.M.EARECKSON J.Poly.Sci.XL399 1959年や、特公昭40−1959号公報などが挙げられる。界面重合法は溶液重合法と比較すると、反応が速いため、酸ハライドの加水分解を抑えることができ、結果として高分子量のポリマーを得ることができる。
【0036】
界面重合法についてさらに詳細に説明する。
まず、水相として、二価フェノールのアルカリ水溶液を調製し、続いて、重合触媒を添加する。一方、有機相として、水と相溶せずポリエステルを溶解する溶媒に二価カルボン酸のハライドを溶解させ、この溶液を先のアルカリ溶液に混合した後、50℃以下の温度で1時間〜8時間撹拌しながら重合反応をおこなうことによって所望のポリエステルを得ることができる。
【0037】
界面重合において二価フェノール水溶液を調製する際に用いられるアルカリとしては、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムなどが挙げられる。
【0038】
界面重合の重合触媒としては、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、トリメチルベンジルアンモニウムハライド、トリエチルベンジルアンモニウムハライドなどの第四級アンモニウム塩や、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライド、トリメチルベンジルホスホニウムハライド、トリエチルベンジルホスホニウムハライドなどの第四級ホスホニウム塩が挙げられるが、中でも、高分子量で低カルボキシル価のポリマーを得ることができる点で、トリブチルベンジルアンモニウムハライド、テトラブチルアンモニウムハライド、トリブチルベンジルホスホニウムハライド、テトラブチルホスホニウムハライドが好ましい。
【0039】
界面重合における有機相の溶媒としては、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、クロロベンゼン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼンなどの塩素系溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系炭化水素、テトラヒドロフランなどを用いることができる。
【0040】
上記のようにして得られたポリエステル樹脂は、汎用溶媒に対して高い溶解性を有しているので、溶媒に溶解させて、容易に本発明の塗工液とすることができる。塗工液とするときに用いる溶媒としては、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、m−ジクロロベンゼン、p−ジクロロベンゼン、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶剤、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン(MEK)などのケトン系溶剤、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタンなどの塩素系溶媒、その他、N−メチル−2ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられ、これらの溶媒を単独で、もしくは混合溶媒として用いることができる。
【0041】
塗工液の濃度は、好ましくは5質量%以上、10〜20質量%とすることがより好ましい。塗工液の濃度が5質量%未満では、塗工性が低下したり、塗工したときの被膜の厚さが不均一になったりする場合がある。
【0042】
本発明のポリエステル樹脂には、必要に応じて各種添加物を含有させてもよい。添加物としては、アリールアミン化合物、アゾ化合物、窒素原子含有スチルベン化合物、ヒドラゾン化合物、ヒンダードアミン化合物、トリアゾール化合物などの窒素原子含有有機化合物、ヒンダードフェノール系化合物、チオエーテル系化合物、リン系化合物などを添加することができる。窒素原子含有有機化合物は、酸化防止剤、光安定剤、電荷輸送剤などとしてポリエステル樹脂に添加されるものである。
【0043】
被膜に添加される窒素原子含有有機化合物が、酸化防止剤または光安定剤として用いられるときは樹脂:窒素原子含有有機化合物の質量比率が99.999:0.001〜80:20が好ましい。また、窒素原子含有有機化合物が、電荷輸送剤として用いられるときは樹脂:窒素原子含有有機化合物の質量比率が90:10〜20:80が好ましく、さらには70:30〜30:70がさらに好ましい。
【0044】
上記の添加物は、ポリエステル樹脂の塗工液の状態で添加することが好ましい。
【0045】
本発明のポリエステル樹脂は、その溶液を基材上に塗工・乾燥して被膜を形成させることができる。この被膜は、被覆物としてあるいは基材から剥離してフィルムとして用いることができる。
【0046】
塗工方法は特に限定されないが、ワイヤーバーコーター塗り、フィルムアプリケーター塗り、はけ塗りやエアレススプレー塗りといったJIS K5400で記載されている方法の他、グラビアロールコーティング法、スクリーン印刷、インクジェット印刷、リバースロールコーティング法、ディップコーティング、スピンコーティング、エアナイフコーティング法、カーテンフローコーティング法、浸漬コーティング法などが挙げられる。
【0047】
乾燥方法は特に限定されないが、効率よく溶媒を除去するためには加熱乾燥することが好ましい。乾燥温度はコーティングするポリアリレートの物性により適宜選択されるが、経済性を考慮した場合、乾燥温度は40℃〜300℃が好ましく、60℃〜200℃がさらに好ましい。
【実施例】
【0048】
次に、本発明を実施例および比較例によって具体的に説明する。
樹脂の各種の特性評価は、以下に記載する方法でおこなった。
【0049】
(1)固有粘度粘度:
溶媒として1,1,2,2−テトラクロロエタンを用い、濃度1g/dl、温度25℃の条件で測定した。
【0050】
(2)カルボキシル価:
試験管に樹脂0.15gを精秤し、ベンジルアルコール5mlに加熱溶解した。クロロホルム10mlと前記の樹脂のベンジルアルコール溶液とを混合した後、フェノールレッドを指示薬として加え、撹拌しながら0.1N−KOHベンジルアルコール溶液で中和滴定を行なってカルボキシル価を求めた。
【0051】
(3)溶剤溶解性:
樹脂10質量部に対してシクロヘキサノン90質量部を加え、室温において24時間攪拌後の溶解状態を観察した。また、シクロヘキサノンに代えてモノクロロベンゼンを用い、同様の操作を行って溶解状態を観察した。
【0052】
(4)耐摩耗性:
樹脂10質量部およびトリフェニルアミン10質量部にクロロベンゼン80質量部を加えて作成した溶液を用い、PETフィルム上に溶液流延塗布を行い20μmの被膜を作製した。(なお、比較例1で得られた樹脂はクロロベンゼンに溶解しなかったため、クロロベンゼン80質量部の代わりにジクロロメタン80質量部を用いて溶液を調製し、被膜を得た。)得られた被膜について、スガ試験機(株)製、スガ摩耗試験機を用い、200gの荷重をかけた摩耗紙上に試料を2500回往復させ、その後の摩耗量の変化を測定した。
【0053】
(5)絶縁破壊強度:
前記(4)で作成した厚み120μmの溶液流延フィルムを用いて、ASTM D−149に従って測定を行なった。
【0054】
(6)樹脂フィルムの光線透過率:
前記(4)と同様にして厚さ20μmの溶液流延フィルムを作製し、波長350nmにおける光線透過率を測定した。さらに、樹脂10質量部およびトリフェニルアミン10質量部にモノクロロベンゼン80質量部を加えて作成した溶液を用い、同様にして20μmの被膜を作製し、波長400nmにおける光線透過率を測定した。
【0055】
(7)ガラス転移温度(Tg):
被膜形成用樹脂10mgをサンプルとし、DSC(示差走査熱量測定)装置(パーキンエルマー社製DSC7)を用いて昇温速度10℃/分の条件で測定を行い、得られた昇温曲線中のガラス転移に由来する2つの折曲点の温度の中間値を求め、これをガラス転移温度とした。
【0056】
(実施例1)
撹拌装置を備えた反応容器中に二価フェノールである2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールC〕15.8質量部(61.8モル部)、分子量調節剤としてのp−tert−ブチルフェノール(PTBPと記す)0.28質量部(1.9モル部)、水酸化ナトリウムNaOH6.5質量部(163.0モル部)、重合触媒であるトリ−n−ブチルベンジルアンモニウムクロライド0.14質量部を仕込み、水521質量部に溶解して水相を調製した。ジクロロメタン400質量部に、二価カルボン酸として4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸クロライド18.5質量部(62.7モル部)を溶解して有機相を調製した。この有機相を先に調製した水相中に強撹拌下で添加し、20℃で2時間重合反応を行なった。この後酢酸15質量部を添加して反応を停止し、水相と有機相をデカンテーションして分離した。さらに有機相が中性になるまで水洗を繰り返し行った。水洗後の有機相をメタノール中に添加してポリマーを沈澱させ、このポリマーを分離し、乾燥させてポリエステル樹脂を得た。
【0057】
(実施例2〜6、比較例1)
表1に示すように二価フェノール、酸クロライド、NaOH、触媒およびPTBPの使用量を変更し、実施例1と同様の操作を行ってポリエステル樹脂を製造した。
【0058】
【表1】

【0059】
実施例1〜6、比較例1の評価結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2に示した結果から、実施例1〜6で得られた被膜形成用樹脂は比較例1と同等以上の耐熱性、電気特性をもちながら、比較例1で得られた被膜形成用樹脂よりも光線透過率、耐摩耗性に優れ、シクロヘキサノン、クロロベンゼンへの溶解性も有していた。また、被膜形成用樹脂に含窒素化合物を添加しても光線透過率は維持されていた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(1)で示される二価カルボン酸残基と二価フェノール残基とから構成される被膜形成用ポリエステル樹脂。
【化1】

【請求項2】
二価カルボン酸残基が式(2)で示される構造である請求項1記載の被膜形成用ポリエステル樹脂。
【化2】

【請求項3】
二価フェノール残基が下記構造式(3)で示される構造である請求項1または2に記載の被膜形成用ポリエステル樹脂。
【化3】

【請求項4】
二価フェノール残基が下記構造式(4)で示される構造である請求項1または2に記載の被膜形成用ポリエステル樹脂。
【化4】

【請求項5】
請求項1〜4記載の被膜形成用ポリエステル樹脂より構成される被膜。
【請求項6】
請求項1〜4記載の被膜形成用ポリエステル樹脂と窒素原子含有有機化合物より構成される被膜。


【公開番号】特開2006−290959(P2006−290959A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110956(P2005−110956)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】