説明

被覆直流電力ケーブル支持構造および被覆直流電力ケーブルの漏れ電流検知方法

【課題】本発明は、被覆直流電力ケーブルの漏れ電流の存在を検知することが容易にできる構造であり、かつ、安価で設備コストの面でも有利な漏れ電流検知技術の提供を目的とする。
【解決手段】本発明は、導電性の導体が絶縁性の被覆部で覆われた被覆直流電力ケーブルを被覆部の外側から挟持して該被覆直流電力ケーブルを支持する支持クリートを備え、該支持クリートの一部が接地構造物に取り付けられた被覆直流電力ケーブル支持構造であって、前記被覆直流電力ケーブルを支持する部分と前記接地構造物との間に、設置位置のpH変化を検知して表示するpH表示手段が設置されたことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆直流電力ケーブルの支持構造および被覆直流電力ケーブルの漏れ電流検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
直流電気鉄道の直流電力ケーブルは、「クリート」と呼ばれる電線支持装置により壁や鉄構等の接地構造物に取り付けられている。図3にクリートの一例を示すが、水平配置されている被覆直流電力ケーブル100を上下から挟み付けるように絶縁物からなるブロック状の支持構成体101、102が設けられ、これらを上下に貫通したボルト103、104を壁や鉄構等の接地構造物105のネジ穴に螺合することにより支持構成体101、102が一体化され、接地構造物105に固定されている。図3の例ではブロック状の支持構成体101、102からクリート106が構成されている。なお、ブロック状の支持構成体101、102の対向面中央部には被覆直流電力ケーブル100を収容するための丸溝型の溝107が形成され、これらの溝107、107を合わせてできる丸型の挿通孔に被覆直流電力ケーブル100が挿通され、被覆直流電力ケーブル100が支持構成体101、102により支持されている。
【0003】
図3に示す構造のクリート106によって支持されている被覆直流電力ケーブル100は、この例では中心導体110とその周囲を順次取り囲む架橋ポリエチレンなどの絶縁被覆層111と難燃性絶縁体からなるシース112により被覆された複層構造とされている。
ところで、前記構造の被覆直流電力ケーブル100の絶縁被覆層111とシース112に亀裂などの損傷部分を生じると、損傷部分から漏電が発生する可能性がある。また、被覆直流電力ケーブル100の敷設作業時に折り曲げや衝撃等を与えた結果、絶縁被覆層111とシース112の一部に傷を付けたまま、あるいは歪みを与えたまま設置完了し、これが原因となって、敷設後、経時的に亀裂や損傷につながる場合も考えられる。
上述のような漏電が発生した場合、その初期段階においては数mA〜数10mA程度と小さい電流が流れる程度であるため、漏電を検知することが極めて難しい問題がある。
【0004】
前記被覆直流電力ケーブル100の漏電について詳しく説明すると、図4に示す如く絶縁被覆層111とシース112に亀裂114が生じた場合、中心導体110に1500Vなどの直流電圧が印加され、被覆直流電力ケーブル100とその周囲が乾燥していると仮定すると、亀裂114が生成したことにより生じる抵抗は数10〜1000MΩと考えられ、極めて大きいので、漏れ電流は殆ど流れないと想定されるので問題にならない。
ところが、被覆直流電力ケーブル100に雨水や塩水が触れて亀裂114とその周囲に電解質が存在すると仮定すると、被覆直流電力ケーブル100の表面部分やクリート106の表面部分での漏れ抵抗が数10kΩ〜数10Ωに低下することが考えられ、状況によっては、電圧が異常に上昇し、漏電部分周囲で火花が発生することが考えられる。また、被覆直流電力ケーブル100を接地した場所が塩害を受ける可能性の高い地域などである場合、特に塩分を含む雨水に恒常的に触れる可能性が高いため、上述の漏電の問題が顕在化する可能性がある。
なお、交流電力ケーブルの場合、電力ケーブルの被覆層の内側に導電性の遮蔽層を有しているので、漏れ電流が発生しても、遮蔽層に漏れ電流が分流するので、問題にならないが、被覆直流電力ケーブル100の場合、漏れ電流は直接クリート106と設置構造物105に沿って流れるので、上述の如く火花を発生させるおそれがある。
【0005】
このような背景から本願出願人は、クリート106において被覆直流電力ケーブル100を挟持した部分に電極を設け、この電極と接地部分との間に生じるケーブル地絡時の漏れ電流を駆動電源とする検知システムについて先に特許出願している。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−247081号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載した漏れ電流の検知システムは、図5に示す如く、被覆直流電力ケーブル100が配設されるクリート106の溝107に第1電極120を設け、この第1電極120と接地電極121との間に漏電検知部122を設け、この漏電検知部122が検知した漏電情報を出力する処理部123を備えている。そして、処理部123に接続した発信部125のアンテナ126から漏電情報を送信し、遠隔地にて監視装置127が受信器128により漏電情報を受信することによって、漏電情報を監視することができる構成とされている。
前記特許文献1に記載された漏れ電流の検知システムは、検知部122が漏れ電流を検知するなら確実な検知が可能であるが、図4を基に上述した如く、被覆直流電力ケーブル100やクリート106の乾燥時に漏れ電流が低い場合は電流検知が難しい場合もあると考えられる。
例えば、漏れ電流が数mA〜数10mAのように微弱な場合は、高性能なセンサを適用しなくてはならないが、そのようなセンサを備えた検知システムは、高価な検知装置になるおそれがあり、設備コストの面で問題がある。
また、被覆直流電力ケーブル100の全長のどの位置に漏れ電流が生じるかは不明なので、被覆直流電力ケーブル100の長さ方向に相当数の検知システムを設置しなくてはならないが、高価なセンサに加え、検知部122、発信部125などの電子部品を備えた装置を相当数設置することは、設備コストの面、設置個数の制約の面で問題がある。
【0008】
本発明は、係る実情に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、被覆直流電力ケーブルからの漏れ電流の存在を検知することが容易にできる構造であり、かつ、安価で設備コストの面でも有利な漏れ電流の検知装置と漏れ電流検知方法の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、本発明の被覆直流電力ケーブル支持構造は、導体が絶縁性の被覆部で覆われた被覆直流電力ケーブルを被覆部の外側から支持して該被覆直流電力ケーブルを支持する支持クリートを備え、該支持クリートの一部が接地構造物に取り付けられた被覆直流電力ケーブル支持構造であって、前記被覆直流電力ケーブルを支持する部分と前記接地構造物との間に、設置位置のpH変化を検知して表示するpH表示手段が設置されたことを特徴とする。
本発明の被覆直流電力ケーブル支持構造において、前記pH表示手段が、テープ状の本体部の少なくとも一部にアルカリ性に反応して色変化するpH表示体を備えてなる構成とすることができる。
【0010】
本発明の被覆直流電力ケーブル支持構造において、前記直流電力ケーブルを支持する支持クリートの挟持部分に第1の電極が設置され、前記接地構造物の一部に第2の電極が設置されるとともに、前記第1の電極と第2の電極に接続されたpH測定器が前記pH表示手段とされてなる構成とすることができる。
【0011】
本発明の被覆直流電力ケーブルの漏れ電流検知方法は、導体が絶縁性の被覆部で覆われた被覆直流電力ケーブルを被覆部の外側から挟持して該被覆直流電力ケーブルを支持する支持クリートを備え、該支持クリートの一部が接地構造物に取り付けられた被覆直流電力ケーブルの漏れ電流を検知する方法であって、前記被覆直流電力ケーブルを支持する部分と前記接地構造物との間に、設置位置のpHを検知して表示するpH表示手段を設置し、このpH表示手段の色変わりを認識して漏れ電流の有無を検知することを特徴とする。
【0012】
本発明の被覆直流電力ケーブルの漏れ電流検知方法は、前記pH表示手段として、テープ状の本体部の少なくとも一部にアルカリ性に反応して色変化するpH表示体を備えたものを用いることができる。
本発明の被覆直流電力ケーブルの漏れ電流検知方法は、前記pH表示手段を設置する位置を、被覆直流電力ケーブルを支持する支持クリートの一部か、あるいは、該支持クリートを支持する設置構造物の一部とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、被覆直流電力ケーブルの支持部分と接地構造物との間の部分にpH表示手段を設けたので、被覆直流電力ケーブルの被覆部に損傷箇所が生じて亀裂や孔が生成し、導体を流れる電流の一部が損傷箇所から被覆部の外表面を伝わり、接地構造物に至る経路で漏れ電流が発生し、地絡電流となった場合、塩分を含む雨水などの電解質の存在と漏れ電流の存在により地絡経路に存在する電解質が電気分解されてアルカリ性に変性する結果、該アルカリ性に変位したことを検出することで、漏れ電流の有無を検知できる。例えば、塩分を含む雨水は、漏れ電流による電気分解により水酸化ナトリウムを生成するので、雨水などの電解質がアルカリ性になり、これをpH検知手段で検知することで、漏れ電流の存在を確認できる。この効果は、特に塩害発生の可能性の高い地域において有効であり、該地域に設置されている被覆直流電力ケーブルの漏れ電流の有無をpH変化を検知することにより確実に検知できる。
【0014】
乾燥時期において、漏れ電流経路の抵抗が上がった場合に漏れ電流の有無を検出することは難しいが、雨水などの電解質がアルカリ性に変性したところをpH表示手段で検知するならば、pH表示手段が表示した内容を確認することで、漏れ電流の有無を検知できる。
pH表示手段としてアルカリ性に反応して色変化するpH表示体を備えた構成とするならば、数mA〜数10mAレベルの漏れ電流であったとしても、塩分を含む雨水の存在時にpH表示体が変色する。ここで、一端色変化したpH表示体の色はその後、雨水が乾燥して無くなった後であっても色を保持するので、pH表示体の色変わりを確認する際に雨水が存在していても、存在していない乾燥状態であっても、支障なく色の確認が出来、漏れ電流の有無の確実な検知ができる。
また、漏れ電流は一端流れ始めると、導体への通電中は常に流れ続け、塩分を含む雨水等の電解質を電気分解してアルカリ性にするとともに、アルカリ性の電解質からpH表示体に時間積でアルカリ分が作用し、pH表示体の色を変化させるため、微弱な漏れ電流であったとしても、時間積で生じたアルカリ分がpH表示体の色を確実に変化させる。このため、漏れ電流値が小さい漏電の初期状態であってもpH表示体の色観察により漏れ電流の検知が確実にできる。
【0015】
色変化するpH表示体を備えた構成であれば、高価なセンサは不要であり、極めて安価に提供できる。このため、本発明を被覆直流電力ケーブルに沿って相当数設置される支持構成体の個々に適用することが可能となるので、漏れ電流の検出位置を飛躍的に増大できる結果、検出精度を高くすることができる。
また、pH表示手段として、第1の電極と第2の電極との間に設置されるpH測定器を用いることによっても塩分を含む雨水等の電解質がアルカリ性に変性したことを検知することが可能であり、この現象を検知することにより漏れ電流の発生の有無を検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る被覆直流電力ケーブル支持構造の一実施形態を示すもので、図1(A)は斜視図、図1(B)は正面図。
【図2】本発明に係る被覆直流電力ケーブル支持構造の他の実施形態を示す構成図。
【図3】従来の被覆直流電力ケーブル支持構造の一例を示すもので、図3(A)は斜視図、図3(B)は正面図。
【図4】従来の被覆直流電力ケーブル支持構造とその周囲の設置構造物との地絡現象を説明するための回路図。
【図5】従来の被覆直流電力ケーブル支持構造の提案の一例を示す回路構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る被覆直流電力ケーブル支持構造の第1実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は本実施形態の被覆直流電力ケーブル支持構造を示すもので、本実施形態において支持しようとするのは、例えば、直流電気鉄道において適用されている被覆直流電力ケーブル1であり、この例の被覆直流電力ケーブル1は、銅線などの導電性の導体2と、この導体2の周面を覆っている架橋ポリエチレンなどの電気絶縁性の樹脂材料からなる被覆層3と、この被覆層3の周面を覆っている電気絶縁性かつ難燃性のビニルシースなどからなる外被5から構成されている。本実施形態の被覆直流電力ケーブル1は、導体2を被覆層3と外被5により覆っている2重被覆構造とされているので、被覆層3と外被5から被覆部4が構成されている。なお、被覆部4の構成は上述の2層構造に限らず、単層被覆構造、3層以上の複合被覆構造のいずれであっても良い。
【0018】
この形態の被覆直流電力ケーブル1は、図1においては水平に配設された状態として示され、この被覆直流電力ケーブル1の上下をブロック状の第1半体6と第2半体7とからなる支持クリート(支持構成体)8により支持し、この支持クリート8を接地構造物10に固定して被覆直流電力ケーブル1が支持されている。支持クリート8は被覆直流電力ケーブル1の長さ方向に所定の間隔で複数設けられ、各々の位置において設置構造物10に固定されて被覆直流電力ケーブル1が支持されている。支持クリート8を設置する間隔などは、一概には規定されないが、被覆直流電力ケーブル1の重量に応じて支持クリート8の大きさ、重量、設置間隔が決められる。
支持クリート8を構成する第1半体6と第2半体7はそれらの突き合わせ面の中央に丸溝型の収容溝6a、7aが形成され、第1半体6の上面と第2半体7の下面を突き合わせて一体化することで両者の溝6a、7a間に挿通孔8aが形成され、この挿通孔8aに被覆直流電力ケーブル1が挿通され挟持されている。また、第1半体6と第2半体7はそれらの両端部を上下に貫通してそれらの下方の設置構造物10のネジ穴10aに螺合されたボルト11、12により一体化され、支持クリート8が設置構造物10にボルト止めされている。
【0019】
前記接地構造物10は、壁、地盤、ケーブルラック、床、鉄構等、接地されている構造物に該当する。また、支持クリート8を構成する第1半体6と第2半体7のうち、接地構造物10に近い側の第2半体7の正面下部、即ち、被覆直流電力ケーブル1の支持部分と接地構造物10との間の部分に、テープ状のpH表示手段15が貼着されている。このpH表示手段15は、この例ではテープ状の本体部15aの長さ方向中央部にシート状のpH表示体16が形成され、このpH表示体16の両側に本体部15の長さ方向に沿って間欠的に複数のpH色見本表示部17が形成されている。
【0020】
前記pH表示体16は、一例として、水素イオン濃度により変色するpH指示薬を吸水性の支持体に含浸させてなり、pH表示体16に触れた雨水などの電解質がアルカリ性である場合に色変わりする構成とされている。例えば、リトマスは変色域が4.5〜8.3であり、酸性側において赤色、アルカリ性側において青色を呈する。
このほか、変色域が4.5〜6.8で酸性側で黄色、アルカリ側で紫色を呈するブロモクレゾールパープル、変色域が6.0〜7.6で酸性側で黄色、アルカリ側で青色を呈するブロモチモールブルー、変色域が6.8〜8.4で酸性側で黄色、アルカリ側で赤色を呈するフェノールレッド、変色域が6.8〜8.0で酸性側で赤色、アルカリ側で黄色を呈するニュートラルレッド、変色域が7.3〜8.7で酸性側でやや赤色、アルカリ側で青緑色を呈するナフタノールフタレイン、変色域が7.2〜8.8で酸性側で黄色、アルカリ側で赤紫色を呈するクレゾールレッド、変色域が8.3〜10.0で酸性側で無色、アルカリ側で桃色を呈するフェノールフタレイン、などのいずれかを単独であるいは適宜組み合わせて構成した指示薬を含むpH表示体のいずれかであっても良い。
【0021】
pH色見本表示部17は、pH表示体16の両側に配列されていて、pH表示体16の色が変わった場合にその色に応じて酸性であるかアルカリ性であるかの色見本の対比例として配置され、一例としてpH色見本表示部17の各々にはpHの数値と、その数値に対応した色が表記されている。これらのpH色見本表示部17の存在により、pH表示体16が変色した場合、どの程度のアルカリ性であるのか、観察者は色の対比で認識することができる。よって、pH色見本表示部17を設けていることにより、pH表示体16の変色が電解質のアルカリ性によるものか否かを確実に把握することができる。
なお、より具体的には、変色域が1〜12の1刻みであって、酸性側で赤色、アルカリ側で青色を呈する指示薬を複数混合したpH表示体であるストライプpH試験紙(例えば、(株)三商、製品名:PEHANON pH Indicator Papers MN90401)、あるいは、変色域が6.0〜8.1の0.3刻みであって、アルカリ側で青色を呈する指示薬を含むpH表示体であるストライプpH試験紙(例えば、(株)三商、製品名:PEHANON pH Indicator Papers MN90417)などを用いることができる。
【0022】
前記pH表示体16を備えた複数の支持クリート8で被覆直流電力ケーブル1を支持しているならば、被覆直流電力ケーブル1に何らかの原因によって図1に示すように亀裂や孔などの損傷部1aが生じ、通電中にこの損傷部1aから漏れ電流が生じ、塩分を含む雨水などの電解質が損傷部1aとその周囲に存在することがある。この場合、損傷部1aから被覆直流電力ケーブル1の外被5の表面部分、支持クリート8を構成する第1半体6、第2半体7の表面、設置構造物10の表面を経路とする漏れ電流を生じる。ここで塩分を含む雨水などの電解質が漏れ電流により電気分解されると、電解質中に水酸化ナトリウムが生成するので、電解質がアルカリ性に変性し、この結果、電解質に接触しているpH表示体16の色が変化する。
【0023】
なお、電解質の電気分解は漏れ電流が生じている限り継続的に進行するので、漏れ電流の電圧が低い状態、即ち、漏電発生の初期状態であったとしても時間積により徐々に確実に電解質がアルカリ性に変性する。即ち、pH表示体16の色変化により、漏電発生の初期状態であって、漏れ電流の電圧が低い状態であったとしても、高価なセンサを用いることなく、漏電が発生していることを確実に検知することができる。
上述の漏れ電流が電解質に流れると、電解質中において2HO+2e→H+2OHの反応が起こり、電解質中のNaにおいて、Na+OHの反応からNaOH(水酸化ナトリウム)が生成し、電解質はアルカリ性に変性する。なお、漏れ電流が存在しない状態で電解質が存在すると、現状の日本における一般的な環境においては、大気中のCOが溶解してpH6.6〜5.6程度となり、酸性雨が発生した状況ではもう少し酸性側へ移行する可能性があるが、漏れ電流が生じると、上述の関係から塩分を含む雨水などの電解質はアルカリ性となる。
【0024】
前記構成のpH表示体16を備えたpH表示手段15により被覆直流電力ケーブル1の漏れ電流を検知する方法は、被覆直流電力ケーブル1を支持している支持クリート8の全てあるいは複数の支持クリート8のいずれかにpH表示手段15を設けておき、被覆直流電力ケーブル1を定期的に検査する際、支持クリート8に取り付けられているpH表示手段15の色の変化を観察すれば良い。
被覆直流電力ケーブル1を支持する支持クリート8は、通常、多数設置されているので、被覆直流電力ケーブル1の検査時などに同時に支持クリート8に貼着されているpH表示体16の色の変化を逐一、作業者が目視で観察するか、観察者等が監視カメラにてpH表示体16の色の変化を観察し、色の変化が生じている場合は漏電発生の可能性があると認識し、該当する位置の被覆直流電力ケーブル1の被覆部4が損傷していないか検査することにより、漏電発生の有無を調べることができる。
また、上述の方法によれば、被覆直流電力ケーブル1の損傷部分が小さく、漏電発生の初期状態であって、発生している漏れ電流が数mA〜数10mAレベルであっても、塩分を含む雨水などの電解質を導体2への通電中に常時電気分解するように作用させてアルカリ性にすることができ、アルカリ性への反応を時間積で生じさせてpH表示体16の変色に有効に利用できるので、微弱な漏れ電流であってもpH表示体16の色変わりを確実に発生させることができ、検出精度を高くすることができる。
【0025】
ところで、以上説明した第1実施形態において、支持クリート8の設置構造物10側にpH表示体16を取り付けた構造としているが、pH表示体16を設ける位置は、被覆直流電力ケーブル1の外被5と設置構造物10との間の任意の位置であれば、いずれの位置に設けても良い。よって、例えば、被覆直流電力ケーブル1を鉄構などの設置構造物10で支持している構造において、設置構造物10の少なくとも一部にpH表示体16を取り付けた構造を採用しても良い。本発明でpH表示体16を備えたpH表示手段15を設けるのは、被覆直流電力ケーブル1の導体2を正極側とすると、支持クリート8あるいは設置構造物10を負極側として、負極側のいずれの位置でも良いので、pH表示手段15を設ける位置は、支持クリート8における設置構造物10側の一部、設置構造部10の少なくとも一部であれば、設置位置は制限されない。
【0026】
図2は本発明に係る被覆直流電力ケーブルの支持構造の第2実施形態を示すもので、この実施形態の支持構造は、第1実施形態のpH表示手段15としてのpH表示体16の代わりに、pH測定器30を設けた点に特徴を有する。
本実施形態の構造においては、支持クリート8を構成するための第2半体7の収容溝7aの内面に第1の電極31が配置されるとともに、第2半体7が固定されている設置構造物10の一部あるいは設置構造部10側の第2半体7の端部に第2の電極32が配置され、第1の電極31と第2の電極32に接続するように配線33、34を介しpH測定器30が接続されている。なお、pH測定器30はそれ自身にpH表示部を設けてpH表示ができるように構成されている。また、pH測定器30に送信機35を接続しておき、pH測定器30がアルカリ性を検知した場合、漏れ電流の発生したことを知らせる信号を送信できるように構成しても良い。
【0027】
このpH測定器30により上述の塩分を含む雨水などの電解質がアルカリ性に変性することを検出すれば、漏れ電流の存在を検知することができる。
pH測定器30であれば、従来技術において使用されていた数mA〜数10mAの微弱電流を形成する高価なセンサよりも遙かに安価に提供できるので、実施が容易であり、かつ、第1の実施形態の構成において得られていた確実な漏れ電流の検知ができる。
【0028】
以上説明したpH測定器30を適用することにより、被覆直流電力ケーブル1の漏れ電流を検知することができるので、先の第1実施形態の構成を用いて行った漏れ電流の検知と同様に、被覆直流電力ケーブル1を定期的に検査する際、支持クリート8の近傍に取り付けられているpH表示器30のpH変化を観察すれば、漏れ電流の有無を検知できる。
【0029】
「通電試験」
本発明者は、電解質の電気分解によって電解質がアルカリ性に変性するか否かを把握するため試験を行った。
樹脂製の容器に5%塩水を満たし、この塩水に図1に示す支持クリート(樹脂製)の下側の第2半体を浸漬し、第2半体の一側端部を貫通した鉄製のボルトに陰極を接続し、第2半体の他側端部に銅板からなる正極を設置し、陰極と陽極間に30V−100mAの直流電圧を2分間印加する通電試験を行った。
2分通電後、変色域が6.0〜8.1の0.3刻みであって、酸性側で黄緑色、アルカリ側で青色を呈する指示薬を含むpH表示体であるストライプpH試験紙((株)三商、製品名:PEHANON pH Indicator Papers MN90417)を含むpH表示体を塩水に浸漬させたところ、陰極側のpH表示体の色が青色に変色した。このことから、支持クリートの周囲の陰極側の電解質(塩水)がアルカリ性に変性したことを確認できた。
【0030】
以上の試験結果から、塩水の電気分解として100mAの通電試験によるアルカリ性への変性を2分間の通電試験により検知することができた。
この試験結果から、例えば、1500Vもの高電圧を流している直流鉄道用の被覆直流電力ケーブルに亀裂が生じて数mA〜数10mAレベルの漏れ電流が発生し、漏れ電流を生じている箇所に電解質が存在した場合、その電解質のアルカリ性への変性を確実に検知できると想定できるので、本発明の有効性を検証できた。
【符号の説明】
【0031】
1…被覆直流電力ケーブル、1a…損傷部、2…導体、3…被覆層、4…被覆部、5…外被、6…第1半体、6a…溝、7…第2半体、7a…溝、8…クリート、8a…収納孔、10…設置構造物、10a…ネジ穴、11、12…ボルト、15…pH表示手段、15a…本体部、16…pH表示体、17…pH色見本表示部、30…pH測定器、31…第1の電極、32…第2の電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導体が絶縁性の被覆部で覆われた被覆直流電力ケーブルを被覆部の外側から挟持して該被覆直流電力ケーブルを支持する支持クリートを備え、該支持クリートの一部が接地構造物に取り付けられた被覆直流電力ケーブル支持構造であって、
前記被覆直流電力ケーブルを支持する部分と前記接地構造物との間に、設置位置のpH変化を検知して表示するpH表示手段が設置されたことを特徴とする被覆直流電力ケーブル支持構造。
【請求項2】
前記pH表示手段が、テープ状の本体部の少なくとも一部にアルカリ性に反応して色変化するpH表示体を備えてなることを特徴とする請求項1に記載の被覆直流電力ケーブル支持構造。
【請求項3】
前記pH表示手段を設置する位置が、被覆直流電力ケーブルを支持する支持クリートの一部か、あるいは、該支持クリートを支持する設置構造物の一部であることを特徴とする請求項1または2に記載の被覆直流電力ケーブル支持構造。
【請求項4】
前記直流電力ケーブルを挟持する支持クリートの支持部分に第1の電極が設置され、前記接地構造物の一部に第2の電極が設置されるとともに、前記第1の電極と第2の電極に接続されたpH測定器が前記pH表示手段とされてなることを特徴とする請求項1に記載の被覆直流電力ケーブル支持構造。
【請求項5】
導体が絶縁性の被覆部で覆われた被覆直流電力ケーブルを被覆部の外側から支持して該被覆直流電力ケーブルを支持する支持クリートを備え、該支持クリートの一部が接地構造物に取り付けられた被覆直流電力ケーブルの漏れ電流を検知する方法であって、
前記被覆直流電力ケーブルを支持する部分と前記接地構造物との間に、設置位置のpHを検知して表示するpH表示手段を設置し、このpH表示手段の色変わりを認識して漏れ電流の有無を検知することを特徴とする被覆直流電力ケーブルの漏れ電流検知方法。
【請求項6】
前記pH表示手段として、テープ状の本体部の少なくとも一部にアルカリ性に反応して色変化するpH表示体を備えたものを用いることを特徴とする請求項5に記載の被覆直流電力ケーブルの漏れ電流検知方法。
【請求項7】
前記pH表示手段を設置する位置を、被覆直流電力ケーブルを支持する支持クリートの一部か、あるいは、該支持クリートを支持する設置構造物の一部とすることを特徴とする請求項5または6に記載の被覆直流電力ケーブルの漏れ電流検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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