説明

被試験車両用排ガス吸引装置

【課題】マフラーとホッパーの間から漏れる排ガスを無くすことができる小型で、また試験を都合の良い場所で簡単に行うことができるようにした被試験車両用排ガス吸引装置を提供する。
【解決手段】排ガス導出管11と、排ガス導出管11の一端側に設けられた排気部12と、排ガス導出管11の他端側に設けられた筒状の吸気ホッパー13を備え、吸気ホッパー13を被試験車両15のマフラー16に対向配置させて排ガスを吸引する被試験車両用排ガス吸引装置において、吸気ホッパー13の上面部側に、被試験車両15の車体の一部を逃がす切り欠き17を、排気ガス導出管11側から先端開口13側に下って傾斜するようにして設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は被試験車両用排ガス吸引装置に関するものであり、特に、室内等でエンジンを駆動して試験を行う被試験車両のエンジン排ガスを吸引して外部等に導出する被試験車両用排ガス吸引装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、室内で自動車等の車両のエンジンを駆動して試験を行う方法として、シャーシダイナモメータ上で行う走行試験や、車両の排ガス測定試験等がある。このような試験を行う場合、被試験車両からエンジン排ガス以下、単に「排ガス」というが排出され、この排ガスが室内に充満すると人体に危険を及ぼすので、排ガスを吸引して外部に導出する必要がある。
【0003】
そこで、被試験車両からの排ガスを吸引して外部等に導出する装置も各種提案されており、例えば特許文献1、特許文献2等で知ることができる。
【0004】
特許文献1で知られる試験装置は、車両の走行試験を行うシャーシダイナモメータの一端側に風を噴流して空気の流れを形成する噴流装置を設けるとともに、他端側に該流装置からの風と車両からの排ガスを同時に吸引する吸引装置を設け、排ガスを風の流れに乗せて強制的に吸い取るようにしたものである。
【0005】
特許文献2で知られる試験装置は、車両のマフラーに予めアタッチメントを取り付けておき、試験室内で、該車両側のアタッチメントを試験室内側に設けられている排ガス導出管のアタッチメントと接続させ、排ガスの導出経路を確保するようにしたものである。
【0006】
しかし、特許文献1及び特許文献2のいずれの装置も、大がかりな装置であり、また設置する位置も固定され、自由な位置で試験を行うことができないという不都合がある。また、特許文献2の場合では、マフラーと排ガス導出管の間を直結した構造となるため、試験に影響を与える場合がある。
【0007】
そこで、小型で、また都合の良い自由な場所で試験を行うことができる被試験車両用排ガス吸引装置として、例えば図5に示すように、排ガス導出管51と、該排ガス導出管51の一端側に設けられた排気部52と、該排ガス導出管51の他端側に設けられた筒状の吸気ホッパー53を備え、該吸気ホッパー53を疑似走行する被試験車両54のマフラー55に対向配置させ、該マフラーを通して排出される排気ガスを、吸気ホッパーを介して吸引して外部等へ排出する被試験車両用排ガス吸引装置50が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−28494号公報。
【特許文献2】特開2005−321337号公報。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の被試験車両用排ガス吸引装置50は、吸気ホッパー53が完全な筒状に形成されている。このため、図5に示すように、吸気ホッパー53をマフラー55に近づけると、マフラー55は車体の後方下部にあるから、吸気ホッパー53の上部先端の部分が被試験車両54のバンパーを含む車体の一部と干渉し、吸気ホッパー53をマフラー55の近傍まで移動させて設置することができない。このため、マフラー55と吸気ホッパー53の間から排ガスが漏れやすく、漏れた排ガスが室内に充満するという問題点があった。
【0010】
そこで、マフラーとホッパーの間から漏れる排ガスを無くすことができる、小型で、また都合の良い場所で簡単に試験を行うことができるようにした被試験車両用排ガス吸引装置を提供するために解決すべき技術的課題が生じてくるのであり、本発明はこの課題を解決することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記目的を達成するために提案されたものであり、請求項1記載の発明は、排ガス導出管と、該排ガス導出管の一端側に設けられた排気部と、該排ガス導出管の他端側に設けられた筒状の吸気ホッパーを備え、該吸気ホッパーを被試験車両のマフラーに対向配置させて排ガスを吸引する被試験車両用排ガス吸引装置において、前記吸気ホッパーの上面部側に、前記被試験車両の車体の一部を逃がす切り欠きを、前記排気ガス導出管側から先端開口部側に下って傾斜するようにして設けた被試験車両用排ガス吸引装置を提供する。
【0012】
この構成によれば、筒状の吸気ホッパーを車体の後方下部のマフラーに近づけたとき、切り欠きの部分で被試験車両の車体の一部を逃がして、車体との干渉を避けて、マフラーとの間から排ガスが漏れない位置まで吸気ホッパーをマフラーに近づけて配置することができる。
【0013】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の構成において、上記排気ガス導出管は蛇腹状で可撓性を有する伸縮自在な管で形成され、前記吸気ホッパーは移動台車に搭載されて該移動台と一体に水平移動可能に設置されてなる被試験車両用排ガス吸引装置を提供する。
【0014】
この構成によれば、吸気ホッパーを移動台車と一緒に、試験場内の床面上を移動させて、試験場内の自由な位置で試験を行うことができる。
【0015】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の構成において、上記前記吸気ホッパーは、上記移動台車上に高さ調整可能に設置されてなる被試験車両用排ガス吸引装置を提供する。
【0016】
この構成によれば、車両の高さによって変わるマフラーの位置に合わせて吸気ホッパーの高さ位置を調整し、該吸気ホッパーを常に最良な位置に設置して試験を行うことができる。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明は、マフラーとの間から排ガスが漏れない位置まで、吸気ホッパーをマフラーに近づけて配置することができるので、試験場内に漏れる排ガスを無くして試験場内の環境を改善することができる小型化された被試験車両用排ガス吸引装置を提供できる。
【0018】
請求項2記載の発明は、吸気ホッパーを移動台車と一緒に室内の床面上を移動させ、室内の自由な位置で試験を行うことができるので、請求項1に記載の発明の効果に加えて、試験を都合の良い場所で簡単に行うことができる効果が期待される。
【0019】
請求項3記載の発明は、車両の高さによって変わるマフラーの位置に合わせて吸気ホッパーの高さ位置を調整し、吸気ホッパーを常に最良な位置に設置して試験を行うことができるので、請求項2に記載の発明の効果に加えて、常に最良な状態で試験を行うことができる効果が期待される。また、1個の装置で多種多様な車両の試験に使用することができるので、汎用性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態に係る被試験車両用排ガス吸引装置を、試験実施状態で示す側面模式図。
【図2】同上実施形態に係る被試験車両用排ガス吸引装置の吸気部周辺構造を示す側面図。
【図3】同上実施形態に係る被試験車両用排ガス吸引装置の吸気部周辺構造を示す正面図。
【図4】図3のA−A断矢視図。
【図5】従来の被試験車両用排ガス吸引装置の一例を、試験実施状態で示す側面模式図。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明はマフラーとホッパーとの間から漏れる排ガスを無くすことができる小型で、また試験を都合の良い自由な場所で簡単に行うことができるようにした被試験車両用排ガス吸引装置を提供するという目的を達成するために、排ガス導出管と、該排ガス導出管の一端側に設けられた排気部と、該排ガス導出管の他端側に設けられた筒状の吸気ホッパーを備え、該吸気ホッパーを被試験車両のマフラーに対向配置させて排ガスを吸引する被試験車両用排ガス吸引装置において、前記吸気ホッパーの上面部側に、前記被試験車両の車体の一部を逃がす切り欠きを、前記排気ガス導出管側から先端開口部側に下って傾斜するようにして設けたことにより実現した。
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る被試験車両用排ガス吸引装置の実施例を、図1乃至図4を参照しながら詳細に説明する。
【実施例】
【0023】
図1は本発明の一実施例に係る被試験車両用排ガス吸引装置を、試験実施状態で示す側面模式図である。同図において、被試験車両用排ガス吸引装置10は、排ガス導出管11と、該排ガス導出管11の一端側に設けられた排気部12と、該排ガス導出管11の他端側に設けられた筒状の吸気ホッパー13と、該吸気ホッパー13を保持して試験場の床面30上を自由に移動させるための移動台車14を備え、該吸気ホッパー13を、エンジンを駆動して試験を行う被試験車両15のマフラー16に対向配置させ、該吸気ホッパー13と前記排気ガス導出管11を介して、排気部12側から排ガスを吸引して外部に排出する構成になっている。
【0024】
図2乃至図4を用いてさらに詳述すると、前記排ガス導出管11は、蛇腹状で、また可撓性を有する伸縮自在な管として形成されている。そして、該排ガス導出管11の伸縮と可撓性により、前記排気部12を固定位置に配置させた状態で、前記ホッパー13を前記ガス導出管11と共に、床面30上の比較的自由な位置に引き回すことが出来るようになっている。なお、前記排ガス導出管11は、可撓性を有して屈曲できる構造であれば必ずしも蛇腹状でなくても良い。
【0025】
前記排気部12は、電動排気ファン12aを有し、該電動排気ファン12aが回転駆動することにより、排ガスを吸気ホッパー13側から吸い込み、この排ガスを排ガス導出管11を通して排気部12側に送り、さらに該排気部12から外部等に排気できるようになっている。
【0026】
前記吸気ホッパー13は、金属製の筒状体で、先端側には開口13aを有し、前記排気ガス導出管11との接続部分13b側根元側は、図1、図2、図4に示すように、該吸気ホッパー13内に吸い込まれた排ガスを該排気ガス導出管11内へスムーズに吸い込むことができるように、漏斗状に形成されている。また、吸気ホッパー13の左右両側には、それぞれ外方へ延びるようにして、1対の取付アーム18,18が固定して設けられている。
【0027】
さらに、該各取付アーム18,18の先端部にはそれぞれガイド用パイプ19が上下方向に開口させて設けられている。また、各ガイド用パイプ19にはそれぞれ、ロック解除可能なロックノブ20,20が取り付けられている。該ロックノブ20は、一方向に回転させると該ロックノブ20の軸先端部が前記ガイド用パイプ19内に突出し、かつ後述するステー22の支柱部22a,22aの周面に当接してロック状態となり、反対方向に回転させると該ロックノブ20の軸先端部が前記ガイド用パイプ19内から退避し、後述するステー22の支柱部22a,22aの周面から離れ、ロック解除状態となるように構成されている。
【0028】
また、前記吸気ホッパー13の前記開口13aを設けた一端側の上面部には、前記被試験車両15のバンパーを含む車体の一部を逃がすための切り欠き17が設けられている。該切り欠き17は、前記排気ガス導出管11側である他端側、すなわち接続部分13b側から前記一端側開口13a側に下って傾斜するようにして形成されている。該切り欠き17は、図1に示すようにこの筒状の吸気ホッパー13を車体の後方下部に設けられているマフラー16に近づけたとき、吸気ホッパー13が被試験車両15の車体と干渉するのを避けるように該被試験車両15の一部を逃がし、該吸気ホッパー13を、該吸気ホッパー13と前記マフラー16の間から排ガスが漏れない位置まで該マフラー16に近づけて配置することができる機能を有している。
【0029】
前記移動台車14は、台板21と、該台板21から上方に向かって突設されたステー22等より成る。
【0030】
前記台板21は、平面視概略四角形をした板状の部材であり、下面四隅近傍にはそれぞれ双輪自在キャスター23,23,23,23が取り付けられている。そして、該台板21は、該双輪自在キャスター23,23,23,23により、床面30上を自由に移動できるようになっている。
【0031】
前記ステー22は、左右の支柱部22a,22aと、該左右の支柱部22a,22aの上部を連結している梁部22bを一体に有して、側面視概略コ字状に形成されており、該各支柱部22a,22aの下部がそれぞれ、回動調整部材24,24を介して台板21上に固定して取り付けられている。また、前記台板21に取り付けられる際、各支柱部22a,22aを前記吸気ホッパー13側の前記ガイド用パイプ19,19内に通し、該ステー22と該吸気ホッパー13を一体化し、その後、台板21上に前記回動調整部材24,24を介して取り付けられる。
【0032】
このようにして該吸気ホッパー13と一体化された前記支柱部22a,22aは、該ロックノブ20,20をロック方向に回転させると、該ロックノブ20,20の軸先端部が該ガイド用パイプ19内で支柱22aの周面に当接し、これによってガイド用パイプ19,19が該支柱部22a,22aに対して固定される。すなわち、該支柱部22aに対して前記吸気ホッパー13がロックされた状態となって固定される。また、該ロックノブ20,20を反対方向に回転させると、該ロックノブ20,20の軸先端部が前記ガイド用パイプ19,19内から退避する。これにより、該ロックノブ20,20の先端部が該支柱部22a,22aの周面から離れてロック状態が解除され、前記吸気ホッパー13が該支柱部22a,22aに沿って上下方向へ自由に移動可能となり、この上下方向への移動で、前記吸気ホッパー13の、床面30からの高さ調整を行うことができるようになっている。
【0033】
前記回動調整部材24,24は、前記ステー22の前記支柱部22a,22aを前記台板21に対して前後方向に移動可能に支持している。また、該回動調整部材24,24は、ロックノブ24a,24aを有し、該ロックノブ24a,24aのロック・ロック解除操作により、該台板21に対する前後方向の傾きを調整することができるようになっている。
【0034】
したがって、このように構成された本実施例の被試験車両用排ガス吸引装置10では、試験場の床面30上で、前記吸気ホッパー13を移動台車14と共に移動させて、該吸気ホッパー13を被試験車両15が配置されている位置へ自由に移動することができる。また、移動された位置で被試験車両15における後方下部のマフラー16の高さ及び向きに合わせて、前記吸気ホッパー13の高さ調整と、前記台板21に対する前記支柱部22a,22aの前後方向の傾きを調整による前記吸気ホッパー13の向き調整を行い、その後、該吸気ホッパー13を該被試験車両15の該マフラー16に近づけると、切り欠き17の部分で被試験車両15の車体の一部が逃がされ、該吸気ホッパー13を、車体との干渉を避けて該マフラー16との間から排ガスが漏れない位置まで該マフラー16に近づけて配置することができる。
【0035】
なお、本発明は、本発明の精神を逸脱しない限り種々の改変を為すことができ、そして、本発明が該改変されたものに及ぶことは当然である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、室外でエンジンを駆動して試験を行う場合にも応用できる。
【符号の説明】
【0037】
10 被試験車両用排ガス吸引装置
11 排ガス排出管
12 排気部
12a 電動排気ファン
13 吸気ホッパー
13a 開口
13b 接続部分側
14 移動台車
15 被試験車両
16 マフラー
17 切り欠き
18 取付アーム
19 ガイド用パイプ
20 ロックノブ
21 台板
22 ステー
23 双輪自在キャスター
24 回動調整部材
24a ロックノブ
30 床面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス導出管と、該排ガス導出管の一端側に設けられた排気部と、該排ガス導出管の他端側に設けられた筒状の吸気ホッパーを備え、該吸気ホッパーを疑似走行する被試験車両のマフラーに対向配置させて排ガスを吸引する被試験車両用排ガス吸引装置において、
前記吸気ホッパーの上面部側に、前記被試験車両の車体の一部を逃がす切り欠きを、前記排気ガス導出管側から先端開口部側に下って傾斜するようにして設けたことを特徴とする被試験車両用排ガス吸引装置。
【請求項2】
上記排気ガス導出管は蛇腹状で可撓性を有する伸縮自在な管で形成され、前記吸気ホッパーは移動台車に搭載されて該移動台と一体に水平移動可能に設置されてなることを特徴とする請求項2に記載の被試験車両用排ガス吸引装置。
【請求項3】
上記前記吸気ホッパーは、上記移動台車上に高さ調整可能に設置されてなることを特徴とする請求項2に記載の被試験車両用排ガス吸引装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2012−202845(P2012−202845A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−68110(P2011−68110)
【出願日】平成23年3月25日(2011.3.25)
【出願人】(390026974)株式会社東洋製作所 (132)