説明

裁断装置

【課題】シート材の歪みを操作者に正確に認識させることができ、したがって、シート材の歪みに対応した裁断パターンに沿ってシート材を裁断でき、その結果、歪みの少ないパターンピースが得られる裁断装置を提供すること。
【解決手段】裁断装置1は、裁断テーブル2と、延反装置3と、投射制御装置4と、プロジェクタ5を備える。裁断テーブル2の支持面21上に載置された布地7の表面に、プロジェクタ5でグリッド6を投射する。グリッド6を視認する操作者によってコントローラ41が操作され、グリッド6の調節点P1〜P9の位置が調節されて、グリッド6が布地7の柄に沿うように変形する。変形したグリッド6に対応して裁断パターン75,76が変形し、布地7の表面に投射される。裁断パターン75,76の位置及び角度が調整され、裁断パターン75,76に沿う形状に布地7が裁断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歪みを有するシート材から、歪みの無いパターンピースを裁断するための裁断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被服用の布地を裁断してパターンピースを作製する裁断装置として、プロッタ型の裁断装置がある。この種の裁断装置は、布地を支持する支持面を有する裁断テーブルと、裁断刃を内蔵して裁断テーブルの支持面上を平面方向に駆動される裁断ユニットを有する。この裁断装置は、パターンピースの裁断パターンを表す裁断データが入力され、この裁断データに基づき、裁断ユニットを駆動しながら裁断刃を作動させて布地を裁断して、パターンピースを作製するようになっている。
【0003】
多くの裁断装置では、布地がロール状に巻回されてなるロール体から、一連の裁断工程で必要な長さの布地を、裁断テーブル上に引き出して載置する。ここで、ロール体の状態や、ロール体から巻き出す際に作用する張力等に起因して、布地が歪みを含んだ状態で載置される。歪みを含んだ布地を裁断して得られたパターンピースは、歪みを形成していた応力が裁断によって消失し、裁断パターンと異なる不正の形状になる。不正の形状のパターンピースは、縫製工程に投入されると、他のパターンピースとの間に柄のずれを生じ、また、被服の形状が不良となる問題を招く。
【0004】
そこで、従来、プロッタ型の裁断装置の裁断ユニットにカメラを搭載し、布地を走査するように裁断ユニットを駆動しながらカメラで布地の模様を撮影し、撮影した布地の模様を表示装置に表示する裁断装置が提案されている(特許文献1参照)。この裁断装置は、布地の模様を表示装置に表示して操作者に視認させ、この操作者から、布地の歪みの位置を特定する入力を受ける。この入力に基づいて、画像処理によって布地の模様の歪を除去し、歪の無い布地の模様を表示装置に表示する。次いで、表示装置を視認した操作者から裁断パターンの位置を指定する入力を受け、布地からパターンピースを裁断すべき位置を調整するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−166165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の裁断装置は、布地の模様を撮影した画像を表示装置に表示するので、模様によっては表示装置に歪みが表れ難く、操作者が歪みを認識し難くて、歪みの特定が困難な場合がある。また、画像処理で歪みを修正した布地の模様を表示装置に表示し、この表示装置を視認して操作者が裁断パターンの位置を指定するので、実際の布地における裁断パターンの位置が操作者に把握され難いという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の課題は、シート材の歪みを操作者に正確に認識させることができ、したがって、シート材の歪みに対応した裁断パターンに沿ってシート材を裁断でき、その結果、歪みの少ないパターンピースが得られる裁断装置を提供することにある。また、実際のシート材における裁断パターンの位置を把握できる裁断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の裁断装置は、
シート材を支持する支持面と、
上記支持面上のシート材の表面に、裁断パターンと基準パターンを投射するパターン投射手段と、
操作者による入力を受ける入力部と、
上記入力部への操作者による入力に基づいて、上記シート材の表面に投射される基準パターンを、上記支持面上のシート材の模様又は織目に沿うように変形させる基準パターン変形手段と、
上記基準パターン変形手段によって変形した基準パターンに対応するように、上記裁断パターンの形状を変形させる裁断パターン変形手段と、
上記裁断パターン変形手段によって変形した裁断パターンに沿うように、シート材を切断する切断手段と
を備えることを特徴としている。
【0009】
上記構成によれば、支持面上にシート材が支持され、このシート材の表面に、パターン投射手段によって裁断パターンと基準パターンが投射される。パターン投射手段は、例えば、プロジェクタ等の投射型表示装置を用いることができる。操作者による入力部への入力に基づいて、上記シート材の表面に投射される基準パターンが、上記支持面上のシート材の模様又は織目に沿うように基準パターン変形手段によって変形される。この基準パターン変形手段によって変形した基準パターンに対応するように、裁断パターン変形手段によって裁断パターンの形状が変形される。これにより、裁断パターンは、シート材の歪みに応じた形状に変形される。この後、上記裁断パターン変形手段によって変形した裁断パターンに沿うように、切断手段でシート材が切断される。シート材は、歪みが存在する状態で、この歪みに応じて変形された裁断パターンに沿うように切断される。したがって、歪みを有するシート材が切断されて得られたパターンピースは、シート材の他の部分から切り離されて歪みが解消し、適正な形状となる。
【0010】
上記入力部を操作する操作者は、上記シート材の表面に投射される基準パターンを視認しながら入力部へ入力を行って、基準パターン変形手段により、シート材の模様又は織目に沿うように基準パターンを変形させる。したがって、操作者は、シート材の模様や織目を直接視認しながら入力を行うことができるので、表示装置に表示されたシート材の撮影画像を視認するよりも、正確にシート材の歪みを認識することができる。また、操作者の入力部への入力に応じて変形した基準パターンが、シート材の表面に直接投射されるので、シート材の歪みに沿うように精度良く基準パターンを変形させることができる。したがって、シート材の歪みを良好な精度で特定することができる。
【0011】
一実施形態の裁断装置は、上記基準パターンは、シート材の幅方向に延びる幅方向基準線を有し、上記基準パターン変形手段は、幅方向基準線を、歪みが無ければ幅方向の一直線上に位置すべきシート材上の複数の点を通るように屈曲させる。
【0012】
上記実施形態によれば、基準パターンの幅方向基準線が、基準パターン変形手段により、歪みが無ければ幅方向の一直線上に位置すべきシート材上の複数の点を通るように屈曲される。これにより、ロール体から引き出されたシート材に生じることが多い歪みであって、幅方向の一直線上に位置すべき複数の点が長さ方向にずれる歪みを、良好な精度で特定することができる。なお、ここで、長さ方向とは、シート材がロール体から引き出される方向が相当する。
【0013】
一実施形態の裁断装置は、上記基準パターンは、シート材の長さ方向に延びる長さ方向基準線を有し、上記基準パターン変形手段は、長さ方向基準線を、歪みが無ければ長さ方向の一直線上に位置すべきシート材上の複数の点を通るように屈曲させる。
【0014】
上記実施形態によれば、基準パターンの長さ方向基準線が、基準パターン変形手段により、歪みが無ければ長さ方向の一直線上に位置すべきシート材上の複数の点を通るように屈曲される。これにより、長さ方向の一直線上に位置すべき複数の点が幅方向にずれる歪みを、良好な精度で特定することができる。
【0015】
一実施形態の裁断装置は、基準パターンは、複数の幅方向基準線と、複数の長さ方向基準線とを有するグリッド状に形成されている。
【0016】
上記実施形態によれば、基準パターンの幅方向基準線と長さ方向基準線との両方を、基準パターン変形手段で変形させることにより、シート材の歪を高い精度で特定することができる。
【0017】
一実施形態の裁断装置は、上記裁断パターン変形手段で変形された裁断パターンのシート材における配置状態を変更する配置変更手段を備える。
【0018】
上記実施形態によれば、歪に対応して裁断パターン変形手段で変形された裁断パターンの配置状態を、配置変更手段によって変更することにより、歪みを有するシート材から適切にパターンピースを得ることができる。これにより、例えば、裁断パターンに沿って裁断されてなるパターンピースの柄合わせや、シート材の不良部を避けた裁断を行うことができる。なお、裁断パターンの配置状態とは、裁断パターンを配置する幅方向及び長さ方向の位置と、裁断パターンのシート材の法線回りの角度をいう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態の裁断装置を示す図である。
【図2】支持面にグリッドを投射した様子を示す平面図である。
【図3】裁断パターンを支持面に投射した様子を示す平面図である。
【図4】歪みを有する布地が支持面に載置された様子を示す平面図である。
【図5】裁断装置の裁断テーブルの制御装置と投射制御装置を示すブロック図である。
【図6】裁断装置の動作を示すフローチャートである。
【図7】載置面上の布地の表面にグリッドを投射した様子を示す平面図である。
【図8】布地の模様に沿ってグリッドを変形させる過程を示す平面図である。
【図9】グリッドの調整が完了した様子を示す平面図である。
【図10】グリッドに対応して変形させた裁断パターンを布地の表面に投射した様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本発明の実施形態の裁断装置は、布地を裁断して被服のパターンピースを作製するプロッタ型の裁断装置である。図1に示すように、この裁断装置1は、裁断テーブル2と、延反装置3と、投射制御装置4と、プロジェクタ5を備える。
【0022】
裁断テーブル2は、シート材としての布地7を支持する支持面21を備え、この支持面21上で駆動される裁断ユニット22により、布地7を裁断パターンに沿って裁断するように構成されている。支持面21は、可撓性を有する剛毛が植えられてブラシ状に形成されており、このブラシ状の支持面21を通して、図示しない真空ポンプで布地7を吸引し、布地7を固定するように形成されている。支持面21には、裁断ユニット22を駆動する際に用いるテーブル原点と座標が設定されている。以下、支持面21の幅方向にX軸を設定し、長手方向にY軸を設定した場合を説明する。
【0023】
裁断ユニット22は、裁断テーブル2の幅方向の両側の縁に沿って長手方向(Y軸方向)に移動する2つのキャリア23,23と、このキャリア23,23の間に掛け渡されたレール24と、このレール24に沿って幅方向(X軸方向)に移動するカッターヘッド25を有する。カッターヘッド25は、表面側の回転刃と裏面側の下刃とのせん断作用により、布地7を切断するように形成されている。なお、カッターヘッド25は、鋸状のカッターを往復駆動して布地7を切断するものでもよく、布地7の種類や枚数に応じた種々の切断方式のものを設定できる。
【0024】
延反装置3は、裁断テーブル2の長手方向(Y軸方向)に移動するように形成され、裁断テーブル2の端部に保持されたロール体31から布地を引き出して切断し、所定の寸法の布地7を作成して支持面21まで運搬するように形成されている。なお、本実施形態では、支持面21上に単層の布地7を配置して裁断を行う場合について説明するが、延反装置3による布地7の作成と運搬を繰り返して、支持面21上に複数の布地7を積層して裁断を行うこともできる。
【0025】
投射制御装置4は、裁断テーブル2の支持面21上の布地7に投射する基準パターンとしてのグリッド6と、裁断パターンとに関する制御を行うものであり、市販のノート型PC(パーソナルコンピュータ)によって構成されている。投射制御装置4は、操作者に操作される入力部としてのコントローラ41に接続されている。コントローラ41に、操作者から、グリッド6の調整のための入力や、裁断パターンの位置及び回転角度の調整のための入力が行われるようになっている。コントローラ41は、市販のゲーム用コントローラを用いることができる。投射制御装置4は、ディスプレイ42を備え、後述するプロジェクタ5で布地7に投射するものと同じグリッド6及び裁断パターンを表示し、また、グリッド6や裁断パターンに関する情報を表示する。投射制御装置4は、裁断テーブル2の図示しない制御装置に接続され、裁断パターンに関する情報を交換するようになっている。
【0026】
プロジェクタ5は、裁断テーブル2の支持面21上の布地7にグリッド6と裁断パターンを投射するパターン投射手段であり、市販の液晶プロジェクタによって構成されている。このプロジェクタ5は、約1.6mの幅と約2.5mの長さを有する支持面21の全面に、裁断パターンを実寸で投射するものであり、支持面21から約1.5mの高さに設置されている。なお、プロジェクタ5は、液晶プロジェクタ以外に、DLP(デジタル・ライト・プロセッシング)プロジェクタ等の他のプロジェクタを用いてもよく、種々の投射型表示装置を用いることができるが、安価に所定の精度を得るため、ライトバルブ方式のプロジェクタが好ましい。
【0027】
裁断テーブル2の支持面21上に延反装置3で布地7が配置されると、操作者による操作のもと、投射制御装置4によってグリッド6の表示と調整を行う。図2は、支持面21にグリッド6を投射した様子を模式的に示す平面図である。グリッド6は、図2に示すように、支持面21の幅方向に延在して長手方向に等間隔に配列された複数のXグリッド線X1,X2,・・・X12と、支持面21の長手方向に延在して幅方向に等間隔に配列された複数のYグリッド線Y1,Y2,・・・Y9とで構成されている。Xグリッド線とYグリッド線は、初期状態において、互いに直交して配列されている。第1のXグリッド線X1と第1のYグリッド線Y1との交点に、裁断ユニット22の駆動の際の基準となるテーブル原点P0が設定されている。第6のXグリッド線X6には、Yグリッド線との交点に、布地7の歪みに応じてグリッド6を変形させるための調節点P1〜P9が設定されている。操作者によるコントローラ41への入力により、所定の調節点P1〜P9を選択し、選択した調節点P1〜P9の位置をY軸方向に任意の距離だけ独立して移動させることが可能になっている。なお、調節点は、いずれのXグリッド線に沿って設定されてもよく、また、Yグリッド線に沿って設定されてもよい。
【0028】
図3は、布地7に対して裁断を行うべき裁断パターン75,76を、支持面21に投射した様子を示す平面図であり、図4は、支持面21上に載置された布地7を示す平面図である。図4の布地7は、ロール体31の製造工程や延反装置3による引出工程に起因して、幅方向の中央部が両端部よりも引出方向にずれた歪みが生じている。この布地7は、歪みが存在しない状態では、幅方向に真っ直ぐに延びる線状の柄71を有するが、布地7の歪みにより、線状の柄71は、幅方向の中央部が両端部よりも引出方向に膨出している。
【0029】
図5は、裁断テーブル2の動作を制御する裁断テーブル制御装置26と、投射制御装置4と、プロジェクタ5と、コントローラ41を示すブロック図である。裁断テーブル制御装置26は、被服のマーカーデータが入力されるマーカーデータ入力部27と、マーカーデータから裁断データを作成する裁断データ作成部28を有する。マーカーデータは、布地7から裁断すべきパターンピースの形状を表す情報で構成されている。裁断データは、パターンピースを作製するために裁断ユニットに裁断を実行させる情報で構成されている。裁断テーブル制御装置26は、更に、投射制御装置4で確定された形状と位置及び回転角度で裁断を行うように裁断データを調整する裁断データ調整部29を有する。裁断データ調整部29で調整された裁断データに基づいて、裁断ユニット制御部30により、裁断ユニット22を駆動して布地7の裁断を実行するようになっている。
【0030】
なお、裁断テーブル制御装置26は、裁断テーブル2に内蔵してもよい。また、裁断テーブル制御装置26の裁断ユニット制御部30のみを裁断テーブル2に内蔵する一方、裁断テーブル制御装置26のマーカーデータ入力部27と、裁断データ作成部28と、裁断データ調整部29を、投射制御装置4を構成するコンピュータに搭載してもよい。これにより、裁断パターンのデータの調整に関する処理を集約して、裁断データ処理装置を構成することができる。この裁断データ処理装置を、裁断機能のみを有する既存の裁断装置に接続することにより、布地7の歪みに対応した裁断パターンの調整機能を既存の裁断装置に付加することができる。なお、裁断テーブル制御装置26のマーカーデータ入力部27、裁断データ作成部28、裁断データ調整部29及び裁断ユニット制御部30と、投射制御装置4のグリッド表示調整部43、座標変換部44、投射データ作成部45及び投射データ調整部46は、いずれも、ソフトウェアをコンピュータで実行して実現することができるが、各々の機能を専ら発揮する専用回路により実現してもよい。
【0031】
投射制御装置4は、操作者からのコントローラ41への入力に基づいてグリッドの調整を行うグリッド表示調整部43を有する。グリッド表示調整部43は、コントローラ41から、調整を行うべき調節点P1〜P9の指定と、調節点P1〜P9の変位方向と変位量の入力を受ける。入力された変位方向と変位量を、入力に係る調節点P1〜P9が属するXグリッド線を通過する全ての交点に対して適用することにより、グリッド6を調整するようになっている。すなわち、グリッド表示調整部43は、本発明の基準パターン変形手段として機能する。
【0032】
グリッド表示調整部43によりグリッド6が調整されると、座標変換部44により、裁断パターンを支持面21に投射するための投射データの処理が行われる。座標変換部44は、グリッド表示調整部43への操作者の入力に基づき、調整前のグリッド6から調整後のグリッド6を導く座標変換のパラメータを算出し、このパラメータを投射データ作成部45に出力する。
【0033】
投射制御装置4の投射データ作成部45は、裁断テーブル制御装置26の裁断データ作成部28から裁断データを受け取り、受け取った裁断データから投射データを作成する。投射データ作成部45で作成された投射データがプロジェクタ5へ出力され、プロジェクタ5は、投射データに対応する裁断パターン75,76を布地7に投射する。投射データ作成部45が出力する投射データは、座標変換部44により、グリッド6の調整に対応したパラメータで変換が行われる。これにより、裁断パターン75,76の形状が、グリッド6と同様に調整されて、支持面21上の布地7に投射される。このように、座標変換部44と投射データ作成部45が、本発明の裁断パターン変形手段として機能する。
【0034】
グリッド6の調整に対応して調整された裁断パターン75,76は、布地7上における位置及び角度が、投射データ調整部46によって調整可能になっている。投射データ調整部46は、操作者が操作するコントローラ41からの入力により、支持面21上に投射する裁断パターン75,76の座標値を調整する。これにより、操作者が、裁断テーブル2上の布地7に投射された裁断パターン75,76を視認しながらコントローラ41を操作し、プロジェクタ5から投射される裁断パターン75,76の位置及び角度をリアルタイムで調整可能になっている。こうして、操作者は、裁断パターン75,76で表されるパターンピースを布地7の上に配置して移動させるような感覚が得られる。このように、投射データ調整部46は、本発明の配置変更手段として機能する。
【0035】
裁断パターン75,76の位置及び角度が確定すると、操作者のコントローラ41の操作により、投射データ調整部46から、確定した裁断パターン75,76の形状と、位置及び角度に関する情報が裁断データ調整部28へ出力される。裁断データ調整部28は、裁断パターン75,76の形状と位置及び角度に関する情報に基づいて裁断データを調整し、調整した裁断データを裁断ユニット制御部29に出力する。裁断ユニット制御部29は、調整された裁断データに基づいて裁断ユニット22を駆動し、その結果、裁断ユニット22により、裁断パターン75,76の形状に沿って布地7が裁断される。こうして、布地7の歪みに応じて調整された形状のパターンピースが、布地7の不良部を避け、また、柄合わせが調整された状態で作成される。作成されたパターンピースは、布地7の他の部分から切り離されることにより、布地7に歪みを生じさせていた応力が解消する。これにより、調整前の適正な形状の裁断パターン75,76に対応する形状のパターンピースが得られる。
【0036】
図6のフローチャートは、実施形態の裁断装置1に布地7を載置して歪みを特定し、マーカーデータを読み込み、マーカーデータで表される裁断パターンを調整した後、裁断パターンの位置等を調整し、これらの調整を経た裁断パターンに沿って布地7を裁断する場合の裁断装置1の動作を示したものである。以下、フローチャートに沿って裁断装置1の動作を説明する。
【0037】
まず、延反装置3により、布地7を裁断テーブル2の支持面21上に載置し(ステップS1)、操作者のコントローラ41の操作に応じて、布地7の表面にグリッド6を投射する(ステップS2)。グリッド6の投射は、投射制御装置4のグリッド表示調整部43により実行され、直交するXグリッド線X1,X2,・・・X12とYグリッド線Y1,Y2,・・・Y9が、支持面21上の布地7にプロジェクタ5で投射されて行われる。支持面21上に載置された布地7に歪みが形成されている場合、図7に示すように、グリッド6が布地7の柄に対して不整合の状態で投射される。
【0038】
続いて、操作者のコントローラ41の操作により、グリッド6の基準線であるXグリッド線を、布地7の柄に沿うように調整する(ステップS3)。詳しくは、グリッド6の基準線のうち、布地7の長手方向の中央に位置する幅方向基準線としての第6のXグリッド線X6を、布地4の湾曲した線状の柄71に沿うように変形させて調整する。Xグリッド線X6の調整は、Yグリッド線Y1〜Y9との交点に設定された調節点P1〜P9を、第1の調節点P1から順次選択し、選択した調節点P1〜P9の位置を、Y軸方向に移動させて行う。調節点P1〜P9の位置の調整は、コントローラ41の選択ボタンによって調節点P1〜P9を選択し、コントローラ41の十字状の方向ボタンを操作して移動方向と移動距離を入力する。なお、ロール体31から布地7を引き出す場合、Y軸方向の歪みが生じることが多いが、X軸方向の歪みが大きい場合、調節点をX軸方向に移動させてもよい。図8は、第1の調節点P1から第5の調節点P3までの位置の調整が完了した様子を示している。図8に示すように、各調節点P1〜P3を調節してX軸方向に移動させると、その調節点P1〜P3が含まれるYグリッド線Y1〜Y3との全ての交点が、各調節点P1〜P3の移動距離と同じ距離だけ移動する。このような第6のXグリッド線X6の調節点の調整を、第9の調節点P9まで繰り返すことにより、図9に示すようにグリッド6の全体の形状が調整される。これは、ロール体31から引き出された布地7に生じる歪みは、Y方向においてずれの大きさの差が少ないことに着目し、X方向の異なる位置に設定された調節点P1〜P9でY方向の調節を行うことにより、布地7の歪みを効率的に特定可能としたものである。
【0039】
調節点P1〜P9の調整によりグリッド6の調整が完了すると、グリッド6の調整量である調節点P1〜P9の移動方向及び移動量に基づいて、XY座標の変換パラメータを求める(ステップS4)。このパラメータは、支持面21上に設定したX軸とY軸で規定される座標において、グリッド6を、調整前の直交形状から、調整後の幅方向の中央部が両端部よりもY軸方向に膨出した形状に変換するものである。求められたパラメータは、投射制御装置4の座標変換部4に設定される。
【0040】
投射制御装置4に変換パラメータが設定されると、裁断テーブル2の制御装置にマーカーデータが読み込まれ(ステップS5)、マーカーデータに基づいて、裁断テーブル制御装置26の裁断データ作成部28で裁断データが作成される。裁断データ作成部28で作成された裁断データは、投射制御装置4の投射データ作成部45で投射データに変換される。更に、投射データ作成部45では、グリッド6の調整に対応して設定されたパラメータが座標変換部44から入力され、このパラメータにしたがって投射データの座標が変換される(ステップS6)。座標が変換された投射データはプロジェクタ5に出力され、プロジェクタ5によって布地7の表面に投射される(ステップS7)。布地7の表面には、図10に示すように、裁断パターン75,76が、布地7の歪みに対応する形状に調整されて投影される。
【0041】
座標が変換された裁断パターン75,76が、歪みを有する布地7の表面に投射されると、この布地7における裁断パターン75,76の位置で裁断を実行してもよいか否かを確認する(ステップS8)。布地7に不良部分が存在する場合や、裁断パターン75,76の裁断位置が柄合わせに不適合である場合、裁断パターン75,76の位置及び角度を変更する(ステップS9)。裁断パターン75,76の位置及び角度の変更は、操作者によるコントローラ41への入力によって行う。すなわち、操作者がコントローラ41の選択ボタンを操作して対象の裁断パターン75,76を選択し、コントローラ41の十字状の方向ボタンを操作して移動方向及び移動距離、或いは、回転方向及び回転角度を入力する。なお、裁断パターン75,76の回転とは、布地7の法線回りの回転である。
【0042】
裁断パターン75,76の位置及び角度が変更されると、ステップS6に戻り、裁断パターン75,76の元の投射データが、変更後の位置及び角度を基準として、座標変換部44から入力されたパラメータにより座標変換される。座標が変換された投射データはプロジェクタ5に出力され、プロジェクタ5によって布地7の表面に投射される(ステップS7)。布地7の表面には、布地7の歪みに対応する形状に調整された裁断パターン75,76が、布地7の不良部分を回避した位置及び角度に、或いは、柄合わせが適正な位置及び角度に調整されて投影される。
【0043】
続いてステップS8に進み、調整後の裁断パターン75,76の位置及び角度でよいと判断されると、投射データ調整部46から裁断データ調整部29に調整後の裁断パターン75,76の情報が入力され、裁断データ調整部29により、調整後の裁断パターン75,76の形状と、位置及び回転角度が裁断データに反映される。この後、裁断パターン75,76に対応する裁断データが、裁断ユニット制御部30に出力され、この裁断ユニット制御部30の制御のもと、裁断ユニット22が駆動されて裁断パターン75,76に沿って裁断が行われる(ステップS10)。
【0044】
こうして得られたパターンピースは、布地7の不良部を避け、また、柄合わせが調整される。さらに、このパターンピースは、布地7の他の部分から切り離されることにより、布地7に歪みを生じさせていた応力が解消し、調整前の適正な形状の裁断パターン75,76に対応する形状となる。したがって、歪みを有する布地7から、不良部を避け、また、柄合わせを適切に行った状態の歪みの無いパターンピースを得ることができる。
【0045】
このように、本実施形態の裁断装置1によれば、グリッド表示調整部43によりグリッド6を布地7の歪に一致するように調整し、調整されたグリッド6に対応するように座標変換部44で裁断パターン75,76を変形させるので、裁断パターン75,76の形状を簡易かつ効果的に布地7の歪みに対応させることができる。また、グリッド6と裁断パターン75,76を、プロジェクタ5で支持面21上の布地7に投影するので、操作者は、布地7の歪を直接視認しながら、布地7の歪に対応する柄71に沿うように、グリッド6を正確に変形させて調整することができる。したがって、画像処理により歪みを特定する従来の裁断装置よりも、高い精度で布地7の歪みを特定できる。その結果、裁断パターン75,76の形状を、布地7の歪みに対応した形状に精度良く調整することができるので、この調整後の裁断パターン75,76に沿って裁断して得たパターンピースは、布地7の歪が解消することにより、裁断パターン75,76の適正な形状を精度よく再現することができる。
【0046】
また、本実施形態の裁断装置1によれば、布地7の歪みを、布地7の幅方向に延在するXグリッド線X1,X2,・・・X12と、布地7の引出方向に延在するYグリッド線Y1,Y2,・・・Y9とが直交するグリッドを用いて特定するので、ロール体31を用いる場合に生じる歪を簡易かつ適切に特定することができる。
【0047】
また、本実施形態の裁断装置1によれば、グリッド6に対応して変形した裁断パターン75,76を布地7の表面に投射するので、実際の布地7が有する不良部分や柄を視認しながら、裁断パターン75,76の位置及び角度を容易に、しかも、適切に調整することができる。
【0048】
上記実施形態において、基準パターンとしてグリッド6を用いたが、グリッド6に限られず、ポリゴンメッシュや、平面方向に分散して配置されたドット又は十字等を基準パターンに用いてもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、グリッド6を布地7の柄71に沿うように変形させたが、グリッド6を布地7の織目に沿うように変形させてもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 裁断装置
2 裁断テーブル
3 延反装置
4 投射制御装置
5 プロジェクタ
6 グリッド
7 布地
41 コントローラ
75,76 裁断パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材を支持する支持面と、
上記支持面上のシート材の表面に、裁断パターンと基準パターンを投射するパターン投射手段と、
操作者による入力を受ける入力部と、
上記入力部への操作者による入力に基づいて、上記シート材の表面に投射される基準パターンを、上記支持面上のシート材の模様又は織目に沿うように変形させる基準パターン変形手段と、
上記基準パターン変形手段によって変形した基準パターンに対応するように、上記裁断パターンの形状を変形させる裁断パターン変形手段と、
上記裁断パターン変形手段によって変形した裁断パターンに沿うように、シート材を切断する切断手段と
を備える裁断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の裁断装置において、
上記基準パターンは、シート材の幅方向に延びる幅方向基準線を有し、上記基準パターン変形手段は、幅方向基準線を、歪みが無ければ幅方向の一直線上に位置すべきシート材上の複数の点を通るように屈曲させることを特徴とする裁断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の裁断装置において、
上記基準パターンは、シート材の長さ方向に延びる長さ方向基準線を有し、上記基準パターン変形手段は、長さ方向基準線を、歪みが無ければ長さ方向の一直線上に位置すべきシート材上の複数の点を通るように屈曲させることを特徴とする裁断装置。
【請求項4】
請求項3に記載の裁断装置において、
上記基準パターンは、複数の幅方向基準線と、複数の長さ方向基準線とを有するグリッド状に形成されていることを特徴とする裁断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の裁断装置において、
上記裁断パターン変形手段で変形された裁断パターンのシート材における配置状態を変更する配置変更手段を備えることを特徴とする裁断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−5579(P2011−5579A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150310(P2009−150310)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【特許番号】特許第4592808号(P4592808)
【特許公報発行日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【出願人】(591264474)有限会社ナムックス (10)
【Fターム(参考)】