説明

裁断装置

【課題】固定刃がシート材から抵抗力を受けても、シート材の移動や破損を防止でき、また、固定刃の破損を防止できる裁断装置を提供すること。
【解決手段】
裁断装置1のカッターユニット4を、裁断テーブル2の長手方向のレールに沿って走行する一対のキャリッジ5と、キャリッジ5,5の間の梁部材6に設けられたレールに沿って走行するカッターヘッド7で構成する。カッターヘッド7は、回転刃29と、回転刃29の刃先に付勢される固定刃43を有する。固定刃4を、板バネ40の先端部に揺動可能に枢着された固定刃ホルダ42で保持し、固定刃ホルダ42を永久磁石44で吸着して固定刃43を切断位置に保持する。固定刃29が布地10から過大な抵抗力を受けると、固定刃43が反転してカッターヘッド7の駆動方向と反対方向に退避する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば布地等のシート材を裁断パターンに沿って裁断する裁断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、被服用の布地を裁断してパターンピースを作製する裁断装置として、プロッタ型の裁断装置がある。プロッタ型の裁断装置は、布地を支持する支持面を有する裁断テーブルと、裁断テーブルの長手方向の縁部に延在する2つのレールに沿って走行する1対のキャリッジと、これら1対のキャリッジの間に掛け渡された梁部材と、この梁部材に設置されたレールに沿って走行するカッターヘッドを備える。裁断装置は、パターンピースの裁断パターンを表す裁断データが制御部に入力され、この裁断データに基づき、カッターヘッドに内蔵したカッターを作動させながらカッターを平面方向に駆動して布地を裁断し、パターンピースを作製している。
【0003】
この種の裁断装置として、カッターヘッドにカッターとしての回転刃と固定刃を設け、回転刃と固定刃のせん断作用により布地を裁断するものがある(例えば、特許文献1参照)。この裁断装置は、図7に示すように、カッターヘッドのフレーム101に回転自在に枢着された回転刃102と、上記フレーム101に基端が連結された板バネ103と、この板バネ103の先端に固定されて回転刃102の刃先に付勢されて接触する固定刃104を備える。この裁断装置は、裁断テーブルのコンベヤベルト105上に支持された布地106を固定刃104が支持面側からすくい上げた状態で、固定刃104の先端側である矢印Fの方向にカッターヘッドが駆動される。回転刃102と固定刃104のせん断作用で布地106を切断すると共に、カッターヘッドを裁断パターンに応じた経路に駆動することにより、裁断パターンの形状に布地106を裁断するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−140468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の裁断装置は、回転刃102や固定刃104の切れ味の低下や布地の皺等に起因して、固定刃104が布地106から過大な抵抗力を受け、布地106に引っ掛かる場合がある。固定刃104が布地106に引っ掛かると、カッターヘッドの駆動方向に布地106を移動させて裁断動作が中断する不都合や、布地106が破損する不都合を招く恐れがある。また、固定刃104が布地106に引っ掛かったままカッターヘッドの駆動力が作用することにより、固定刃104が破損する恐れがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、固定刃がシート材から抵抗力を受けても、シート材の移動や破損を防止でき、また、固定刃の破損を防止できる裁断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の裁断装置は、シート材を支持する支持面を有する支持部と、
上記支持部の支持面に支持されたシート材を、このシート材に上記支持面に遠い側から接する第1の刃と、上記シート材に支持面に近い側から接する第2の刃とで切断するカッターヘッドと、
上記カッターヘッドを支持面と平行の面内に駆動するヘッド駆動部と、
上記第2の刃にシート材から所定の抵抗力が作用するに伴い、この第2の刃をカッターヘッドの駆動方向と反対方向に退避させる退避機構と
を備えることを特徴としている。
【0008】
上記構成によれば、支持部の支持面に支持されたシート材が、カッターヘッドの第1及び第2の刃で切断されると共に、このカッターヘッドがヘッド駆動部で支持面と平行の面内に駆動される。第1及び第2の刃がシート材を切断する際、第2の刃にシート材から所定の抵抗力が作用すると、退避機構によって第2の刃がカッターヘッドの駆動方向と反対方向に退避させられる。したがって、第2の刃は、支持面に近い側からシート材に接するにもかかわらず、シート材に引っ掛かることが防止される。その結果、第2の刃がシート材に引っ掛かった状態でカッターヘッドがヘッド駆動部で駆動されてシート材が移動する不都合や、シート材が第1又は第2の刃で破損する不都合が防止される。また、第2の刃がシート材に引っ掛かった状態でカッターヘッドの駆動力が作用することにより、第2の刃が破損する不都合が防止される。
【0009】
一実施形態の裁断装置は、上記カッターヘッドの第1の刃は、回転刃であり、
上記カッターヘッドの第2の刃は、先端が上記カッターヘッドの駆動方向を向いて上記回転刃に接する固定刃であり、
上記退避機構は、上記カッターヘッドの固定刃を、上記シート材から受けた抵抗力により、先端が上記カッターヘッドの駆動方向と反対方向を向くように反転させる反転機構である。
【0010】
上記実施形態によれば、シート材がカッターヘッドの回転刃と固定刃で切断され、上記固定刃にシート材から抵抗力が作用するに伴い、この抵抗力により、上記固定刃がカッターヘッドの駆動方向と反対方向に先端を向くように反転されられる。これにより、固定刃がシート材に引っ掛かることを効果的に防止でき、したがって、固定刃がシート材に引っ掛かってシート材が移動する不都合や、シート材が破損する不都合や、固定刃が破損する不都合を防止できる。
【0011】
一実施形態の裁断装置は、上記反転機構を介して上記固定刃を支持すると共に、この固定刃を回転刃の刃先に付勢する付勢支持部を備え、
上記反転機構は、上記付勢支持部に揺動可能に枢着されて上記固定刃を保持する固定刃ホルダと、この固定刃ホルダを吸着して上記固定刃を上記回転刃に接触する位置に保持する吸着部を有する。
【0012】
上記実施形態によれば、付勢支持部で固定刃が回転刃の刃先に付勢されることにより、固定刃と回転刃によりシート材が効果的に切断される。上記固定刃は、上記付勢支持部に枢着された固定刃ホルダに保持され、この固定刃ホルダが吸着部で吸着されて、上記回転刃に接触する位置に保持される。シート材を切断する際に所定の抵抗力が作用すると、吸着部による固定刃ホルダの保持が解除され、固定ホルダが揺動して固定刃がカッターヘッドの駆動方向と反対方向に先端を向くように反転する。こうして、固定刃を安定して保持してシート材を裁断できると共に、所定の抵抗力を受けたときには固定刃を速やかに退避させることができる。
【0013】
一実施形態の裁断装置は、上記付勢支持部は、上記反転機構及び固定刃を支持面に対して接離可能に形成され、
上記付勢支持部に付勢力を与えて上記固定刃を支持面側に保持する支持面側付勢手段を備える。
【0014】
上記実施形態によれば、付勢支持部が、反転機構及び固定刃を支持面に対して接離可能に形成され、この付勢支持部に支持面側付勢手段によって付勢力が与えられることにより、支持面側に固定刃が安定して保持されてシート材が安定して裁断される。ここで、シート材から固定刃に所定の抵抗力が作用すると、反転機構によって固定刃がカッターヘッドの駆動方向と反対方向に先端がむくように反転するが、このとき、反転機構及び固定刃が支持面に対して離隔するので固定刃を確実に反転させることができる。また、付勢支持部が支持面側付勢手段から付勢力を受けているので、反転した固定刃を速やかに支持面側に押圧して固定刃を安定させることができる。
【0015】
一実施形態の裁断装置は、上記付勢支持部は、一端に上記反転機構及び固定刃が配置されている一方、他端に、この付勢支持部を揺動可能に支持する揺動軸が設けられていると共に揺動レバーが連結されており、この揺動レバーに上記支持面側付勢手段によって付勢力が作用され、
上記回転刃でシート材に切り込みを形成する際に、上記揺動レバーを上記支持面側付勢手段の付勢力に抗して上記固定刃を支持面から離隔する方向に駆動力を作用させる一方、上記固定刃及び回転刃でシート材を裁断する際に、上記揺動レバーへの駆動力を解除する駆動手段を備える。
【0016】
上記実施形態によれば、付勢支持部の一端に反転機構及び固定刃が配置されている一方、この付勢支持部の他端に、揺動軸が設けられていると共に揺動レバーが連結されている。この連結レバーに、支持面側付勢手段によって付勢力が作用される。これらにより、反転機構及び固定刃が簡易な構成で支持面に対して接離可能となると共に、固定刃が支持面側に付勢される。その結果、固定刃が確実に反転可能な状態で、固定刃と回転刃で安定してシートを切断できる。ここで、例えばシート材の裁断を開始する場合、駆動手段により、上記揺動レバーに駆動力が作用して固定刃が支持面から離隔し、これにより、回転刃でシート材に効果的に切り込みを形成することができる。一方、駆動手段による揺動レバーの駆動力が解除されると、支持面付勢手段から揺動部に作用する付勢力によって固定刃が支持面側に保持され、固定刃及び回転刃の切断機能を安定して発揮させることができる。ここで、上記駆動手段としては、例えばエアシリンダ、リニア電磁ソレノイド、リニアモータ、リニア振動アクチュエータ、リニア電磁ポンプ等の線形駆動装置を用いることができ、上記駆動手段の動作形式は、電気式、油圧式、空気圧式の種々のものを用いることができる。
【0017】
一実施形態の裁断装置は、上記反転機構による固定刃の反転を検知するセンサと、
上記センサから上記固定刃の反転を示す信号を受けると、上記ヘッド駆動部の動作を停止させる制御部とを備える。
【0018】
上記実施形態によれば、反転機構による固定刃の反転がセンサで検知され、このセンサから検知信号を制御部が受けると、この制御部の制御により、ヘッド駆動部の動作が停止する。したがって、固定刃が反転してシート材の裁断が停止する位置に、カッターヘッドを停止させることができるので、カッターヘッドの構成部品によりシート材が移動又は破損する不都合や、カッターヘッドの構成部品がシート材からの抵抗力で破損する不都合を防止できる。ここで、上記センサとしては、検知媒体として磁界、電磁波、電界、光及び超音波を用いた近接センサ、変位センサ及び測距センサ等の種々のセンサを用いることができる。また、上記センサとして、接触式のスイッチを用いてもよい。
【0019】
一実施形態の裁断装置は、上記付勢支持部の支持面からの離隔動作を検知するセンサと、
上記センサから、上記付勢支持部の支持面からの離隔動作を示す信号を受けると、上記ヘッド駆動部の動作を停止させる制御部とを備える。
【0020】
上記実施形態によれば、付勢支持部の支持面からの離隔動作がセンサで検知されることにより、固定刃がカッターヘッドの駆動方向と反対方向に反転したことが検知され、したがって、シート材の裁断が停止したことが検知される。上記センサから検知信号を制御部が受けると、この制御部の制御により、ヘッド駆動部の動作が停止する。したがって、シート材の裁断が停止した位置に、カッターヘッドを停止させることができるので、カッターヘッドの構成部品によりシート材が移動又は破損する不都合や、カッターヘッドの構成部品がシート材からの抵抗力で破損する不都合を防止できる。ここで、上記センサとしては、検知媒体として磁界、電磁波、電界、光及び超音波を用いた近接センサ、変位センサ及び測距センサ等の種々のセンサを用いることができる。また、上記センサとして、接触式のスイッチを用いてもよい。
【0021】
一実施形態の裁断装置は、上記センサからの検知信号を受けて、上記回転刃の動作を停止する回転刃制御部を備える。
【0022】
上記実施形態によれば、センサからの検知信号を受けて、固定刃の反転や付勢支持部の支持面からの離隔動作が検知されると、回転刃制御部の制御により、カッターヘッドの回転刃の動作が停止する。したがって、カッターヘッドの駆動が停止した際に、回転刃でシート材が不正に切断される不都合を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態としての裁断装置の全体概要を示す斜視図である。
【図2】裁断装置のカッターヘッドの構成を示す部分断面図である。
【図3】裁断装置のカッターヘッドの要部を示す側面図である。
【図4】裁断開始時におけるカッターヘッドの様子を示す側面図である。
【図5】裁断実行時におけるカッターヘッドの様子を示す側面図である。
【図6】固定刃が反転したときのカッターヘッドの様子を示す側面図である。
【図7】従来の裁断装置のカッターヘッドを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態を、添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0025】
本発明の実施形態の裁断装置は、シート材としての布地を裁断して被服のパターンピースを作製するプロッタ型の裁断装置である。この裁断装置1は、図1に示すように、裁断テーブル2と、カッターユニット4と、解反機8と、制御部及び回転刃制御部としての制御装置11とで大略構成されている。
【0026】
裁断テーブル2は、布地10を解反機8から搬送すると共に裁断時に布地10を支持するベルトコンベヤを内蔵している。ベルトコンベヤは、裁断テーブル2の長手方向の両端に内蔵されて短手方向に延在する図示しないプーリの間に、支持部としてのコンベヤベルト3が掛け渡されて構成されている。このベルトコンベヤを構成するコンベヤベルト3の上側部の表面が、裁断テーブル2の上側面に露出して、支持面3aとして機能する。コンベヤベルト3は、基布46に立毛47が編み込まれてなるモケット状のシートで形成されている。
【0027】
カッターユニット4は、裁断テーブル2の長手方向の縁部に設置された2つのレールに沿って走行する一対のキャリッジ5と、これら1対のキャリッジ5,5の間に掛け渡されて裁断テーブル2の短手方向に延在する梁部材6と、この梁部材6に設置されたレールに沿って走行するカッターヘッド7を備える。カッターヘッド7は、後述のように、布地10を切断する回転刃28と固定刃43を内蔵している。カッターヘッド7は、キャリッジ5により裁断テーブル2の長手方向に移動すると共に、カッターヘッド7に内蔵された駆動機構により裁断テーブル2の短手方向に移動することにより、裁断テーブル2の支持面3aと平行の面内に駆動される。このように、キャリッジ5とカッターヘッド7の駆動機構により、ヘッド駆動部が構成されている。
【0028】
解反機8は、ベルトコンベヤの一端側に、裁断テーブル2の短辺に隣接して配置されている。解反機8は、布地のロール9が載置された状態で、このロール9を回転駆動して布地10を巻き出すものである。この解反機8は、図示しないモータによって回転駆動され、回転軸が所定間隔をおいて平行に配置された2つの解反ローラを有する。これら2つの解反ローラに接するように、解反ローラの間の上側にロール9が載置され、解反ローラが回転するに伴ってロール9から布地を巻き出すように構成されている。解反機8には、解反ローラよりも裁断テーブル2側に、解反ローラから巻き出された布地10を裁断テーブル2に送るガイドローラが設けられている。
【0029】
制御装置11は、裁断テーブル2及び解反機8に接続され、裁断テーブル2の支持面3aに布地10を引き出す際の解反機8及びベルトコンベヤの動作と、支持面3a上に載置された布地10を裁断する際のカッターユニット4の動作を制御する。制御装置11は、市販のノート型PC(パーソナルコンピュータ)によって構成されている。制御装置11は、解反機8の巻き出し動作や、ベルトコンベヤの動作や、カッターユニット4の動作や、裁断パターン50の情報に関する入力を操作者から受け、受け付けた入力に基づいて、解反機8、ベルトコンベヤ及びカッターユニット4の動作を制御する。なお、制御装置11と同様の機能を有する制御部又は回転刃制御部を裁断テーブル2や解反機8に内蔵し、裁断テーブル2のカッターユニット4のキャリッジ5や、解反機8のフレーム等に、タッチパネル等で形成された指令入力部を設けてもよい。
【0030】
図2は、カッターヘッド7の構成を示す部分断面図である。カッターヘッド7は、板状のフレーム14の背面に設けられたガイド13により、梁部材6の側面に固定されたガイドレール12に沿って移動可能に構成されている。カッターヘッド7は、内部に設置された図示しないモータにより、或いは、キャリッジ5,5の間に掛け渡されてフレームに固定された駆動ワイヤにより、ガイドレール12の延在方向に駆動される。
【0031】
カッターヘッド7のフレーム14の正面には、上下に離間して設置された一対の取り付けアーム16,16の間に、ガイド軸17が取り付けられている。このガイド軸17には、上下動フレーム19に固定されたスライド軸受け18が嵌合しており、この上下動フレーム19は、ロッドの先端が連結された上下動シリンダー15によって、ガイド軸17に沿って上下方向に駆動される。上記上下動フレーム19には、カッター旋回用モータ20が設置されており、このカッター旋回用モータ20の回転力は、カッター旋回用プーリ21によって、旋回軸受け23で支持された中空状の旋回軸22に伝達される。旋回軸22の上端は、固定刃移動用のエアジョイント24に連結されている一方、旋回軸22の下端には、板状の刃物フレーム25が固定されている。
【0032】
上記刃物フレーム25の下端よりもやや上方の位置に軸孔が形成されており、この軸孔に、刃物軸受27で刃物フレーム25に回転自在に支持された刃物軸26が挿通されている。刃物軸26の一端には、刃物止めナット28によって回転刃29が固定されている。回転刃29は、刃物フレーム25を正面側から視た図3に示すように、各辺が外径側に膨出して角部が丸みを帯びた四角形に形成されている。なお、回転刃29は、各辺が外径側に膨出して角部が丸みを帯びた多角形でもよく、或いは、円形でもよい。刃物フレーム25の旋回軸22の固定位置の下方には、刃物回転用モータ30が固定されており、この刃物回転モータ30の出力軸31に駆動プーリ32が固定されている。駆動プーリ32の下方に位置する刃物軸26の他端に、従動プーリ34が固定されており、上記駆動プーリ32と従動プーリ34に歯付ベルト33が巻き回されている。刃物回転モータ30の回転力が、駆動プーリ32から歯付ベルト33を通して従動プーリ34に伝達され、刃物軸26が回転し、回転刃29が回転駆動されるように構成されている。
【0033】
上記刃物フレーム25の下端よりもやや上方の位置には、刃物軸26に関してカッターの進行方向と反対側に、互いに連結された揺動レバー37及び付勢支持部としての板バネ40を揺動可能に枢着する揺動軸38が設けられている。
【0034】
揺動レバー37は、刃物フレーム25の回転刃29が配置された側と反対側に配置されており、揺動軸38の一端に揺動レバー37の下端が固定されている。上記刃物フレーム25の駆動プーリ32と従動プーリ34の間、かつ、カッターの進行方向と反対側には、揺動レバー37を駆動する固定刃シリンダー36が固定されており、この固定刃シリンダー36には、旋回軸22の下端に一端が接続されたエアホース35の他端が接続されている。この固定刃シリンダー36のロッドの先端が、上記揺動レバー37の上端よりもやや下方の位置に当接して揺動レバー37を揺動駆動する。この揺動レバー37の上記固定刃シリンダー36のロッドの当接位置よりも揺動軸38側に、支持面側付勢手段としてのコイルバネ39が連結されている。このコイルバネ39で揺動レバー37を固定刃シリンダー36側に付勢し、この揺動レバー37に連結された板バネ40の先端の固定刃43を、支持面側に付勢している。
【0035】
板バネ40は、刃物フレーム25の回転刃29が配置された側に配置されている。板バネ40の基端は、上記揺動軸38の他端に固定されており、図3に示される刃物フレーム25の正面視において、揺動レバー37との間に約120°の角度をなしている。
【0036】
板バネ40の先端には、固定刃43を保持する固定刃ホルダ42が反転軸41によって枢着されている。固定刃ホルダ42は、直方体の揺動軸38側に凸部を有する形状であり、この凸部の側面が、吸着部としての永久磁石44に吸着される被吸着部となっている。永久磁石44は、固定刃ホルダ42の凸部を吸着して、上記固定刃ホルダ42に保持された固定刃43を適正な姿勢に保持するように構成されている。板バネ40は、固定刃43を、刃物フレーム25の正面視において、回転刃28の刃物軸26が通る鉛直線上で回転刃28の刃先に付勢している。吸着部としての永久磁石44の吸着力は、固定刃43と回転刃29による切断動作を阻害しない程度の強さに設定されている。
【0037】
上記刃物フレーム25には、上記揺動レバー37の揺動を検知する図示しないリミットスイッチが設けられている。カッターヘッド7が駆動されて布地10の裁断を行っている際に、板バネ40の固定刃43が支持面3aから離隔する方向に揺動し、これにより揺動レバー37の先端部が固定刃シリンダー36から遠ざかる方向に揺動レバー37が揺動すると、リミットスイッチから検知信号が出力される。リミットスイッチからの検知信号は制御装置11に入力され、これに応じて、制御装置11が刃物回転用モータ30の回転を停止する制御を行うと共に、キャリッジ5とカッターヘッド7の駆動機構によるカッターヘッド7の駆動を停止する。なお、上記リミットスイッチは、光学式、電磁式及び接触式のいずれの形式でもよい。また、リミットスイッチからの検知信号に応じた刃物回転用モータ30及びカッターヘッド7の制御は、裁断テーブル2内に設けた制御部で行ってもよい。
【0038】
上記構成の裁断装置により、布地10を裁断してパターンピースを作製する動作を説明する。
【0039】
まず、操作者により、解反機8の解反ローラの上に布地のロール9が載置され、制御装置11に解反の指令が入力される。これに応じて解反ローラが動作し、ロール9から布地10が巻き出される。巻き出された布地10の先端部が、ベルトコンベヤの解反機8側の一端側の上側面に載置され、制御装置11に延出の指令が入力されると、解反機8の解反ローラが巻き出し動作を行うと共に、ベルトコンベヤが布地10を他端側に送る送り動作を行う。これにより、裁断テーブル2の支持面3a上の裁断領域に布地10が延出される。なお、裁断領域とは、カッターヘッド7のカッターにより裁断が実行可能な領域である。
【0040】
裁断テーブル2の支持面3a上に布地1が延出されると、操作者により、裁断パターン50の形状を示す裁断データが制御装置11に入力される。制御装置11のディスプレイに、裁断データに対応する裁断パターン50の形状や位置が表示され、表示された情報を視認した操作者により、布地10上の裁断パターン50の位置及び角度が調節される。裁断パターン50の位置及び角度の調節が終了すると、操作者により裁断開始の指令が制御装置11に入力され、この入力に応じて制御装置11が裁断の制御を開始する。以下、制御装置11による制御の内容を説明する。
【0041】
まず、制御装置11は、キャリッジ5とカッターヘッド7の駆動機構を作動させ、カッターヘッド7を支持面3aと平行の面内で駆動して、カッターヘッド7の回転刃28を布地10の裁断を開始する裁断開始位置に配置する。カッターヘッド7を裁断開始位置まで移動させる間は、上下動シリンダー15で上下動フレーム19を最上位置に保持して、回転刃28及び固定刃43が布地10に引っ掛からないようにする。カッターヘッド7が裁断開始位置に到達すると、図4の矢印C1で示すように固定刃シリンダー36のロッドを突出させ、揺動レバー37を固定刃シリンダー36から遠ざけ、固定刃43を支持面3aから離隔するように板バネ40を揺動する。続いて、刃物回転モータ30を起動して回転刃29を矢印Rで示すように回転駆動すると共に、上下動シリンダー15を作動させ、上下動フレーム19を支持面3aの方向に、すなわち、下方に駆動する。これにより、回転する回転刃29の刃先が布地10に接触し、布地10の裁断開始位置に切り込みが形成される。ここで、布地10はモケット状のコンベヤベルト3に支持されているので、コンベヤベルト3の立毛47の先端に接触する布地10に、回転刃29が貫通して効果的に切り込みが形成され、しかも、コンベヤベルト3の基布46には回転刃29が達しないのでコンベヤベルト3の破損が防止される。
【0042】
布地10の裁断開始位置に切り込みが形成されると回転刃29を一旦停止し、図5に示すように、固定刃シリンダー36のロッドを没入させる。これにより、収縮するコイルバネ39の付勢力によって揺動レバー37が固定刃シリンダー39側に揺動し、板バネ40が揺動して固定刃43が支持面3aに接近する。固定刃43が支持面3aに接近すると、板バネ40の付勢力により、固定刃43が回転刃29の刃先の側面を押圧する状態で接触する。これと共に、上下動シリンダー15を作動させ、上下動フレーム19を支持面3aから離隔する方向に、すなわち、上方に駆動する。これにより、固定刃43が布地10を支持面3aからすくい上げ、布地10の支持面3aと近い側に固定刃43が接する一方、布地10の支持面3aと遠い側に回転刃29が接する。続いて、矢印Rで示すように回転刃29の回転駆動を再開し、カッターヘッド7を矢印Fで示すように固定刃43の先端の向く方向に駆動する。なお、上記固定刃43を支持面3aに接近させて回転刃29の刃先に接触させると共に、上下動フレーム19を上方に駆動して固定刃43で布地10を支持面3aからすくい上げる一連の動作は、回転刃29の回転を継続した状態で行ってもよい。上記カッターヘッド7を、裁断パターンの形状に応じた経路に沿って平面方向に駆動すると共に、駆動方向に応じて旋回軸22回りに刃物フレーム25を旋回駆動することにより、固定刃43と回転刃29で裁断パターンに沿って布地10を切断し、パターンピースを作製する。
【0043】
こうしてカッターヘッド7が布地10の裁断動作を行う際、回転刃29や固定刃43の切れ味の低下や、布地10に生じた皺に起因して、過大な抵抗力が布地10から固定刃43に作用する場合がある。布地10からの過大な抵抗力は、多くの場合、回転刃29と固定刃43による切断線が途切れ、切断線の端に固定刃43が係止して生じる。固定刃43に過大な抵抗力が作用すると、図6に示すように、固定刃ホルダ42の被吸着部が永久磁石44の吸着力から開放され、固定刃43が矢印Sで示すように回動する。これにより、固定刃43の先端が、矢印Fで示されるカッターヘッド7の駆動方向と反対方向を向くように、固定刃43が反転する。このとき、固定刃43の先端が支持面3aから反力を受け、矢印P2で示すように板バネ40が上方に揺動するので、固定刃43の先端が支持面3aに引っ掛かることなく固定刃43が円滑に反転する。板バネ40が揺動して揺動レバー37が揺動すると、リミットスイッチが揺動レバー37の揺動を検知して検知信号を出力し、これに応じて刃物回転用モータ30が停止すると共に、キャリッジ5とカッターヘッド7の駆動機構が停止する。
【0044】
このように、過大な抵抗力が布地10から固定刃43に作用すると、固定刃43が反転してカッターヘッド7の駆動経路から退避すると共に、回転刃29の回転とカッターヘッド7の駆動が停止する。その結果、固定刃43が布地10に引っ掛かって布地10をカッターヘッド7の駆動方向に移動させる不都合を防止することができる。また、布地10から固定刃43に過大な抵抗力が持続して作用することを防止できるので、布地10の破損や固定刃43の破損を防止できる。さらに、回転刃29の回転を停止するので、固定刃43の反転に伴って布地10が浮き上がり、浮き上がった布地10が回転刃29に接触しても、布地10が不正に切断される不都合を防止できる。
【0045】
上記実施形態では、センサとしてのリミットスイッチが、揺動レバー37の揺動を検知したが、板バネ40の揺動を検知してもよい。また、センサは、固定刃43の反転を検知してもよい。
【0046】
また、上記実施形態の裁断装置1は、シート材としての布地を裁断したが、皮革や紙や樹脂等の他のシート材を裁断してもよい。
【0047】
また、本発明は、プロッタ型の裁断装置に限らず、カッターヘッドが所定位置に固定された裁断装置や、カッターヘッドが一方向のみに駆動される裁断装置にも適用できる。
【符号の説明】
【0048】
1 裁断装置
2 裁断テーブル
3 コンベヤベルト
3a 支持面
4 カッターユニット
7 カッターヘッド
28 回転刃
40 板バネ
41 反転軸
42 固定刃ホルダ
43 固定刃

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート材を支持する支持面を有する支持部と、
上記支持部の支持面に支持されたシート材を、このシート材に上記支持面に遠い側から接する第1の刃と、上記シート材に支持面に近い側から接する第2の刃とで切断するカッターヘッドと、
上記カッターヘッドを支持面と平行の面内に駆動するヘッド駆動部と、
上記第2の刃にシート材から所定の抵抗力が作用するに伴い、この第2の刃をカッターヘッドの駆動方向と反対方向に退避させる退避機構と
を備えることを特徴とする裁断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の裁断装置において、
上記カッターヘッドの第1の刃は、回転刃であり、
上記カッターヘッドの第2の刃は、先端が上記カッターヘッドの駆動方向を向いて上記回転刃に接する固定刃であり、
上記退避機構は、上記カッターヘッドの固定刃を、上記シート材から受けた抵抗力により、先端が上記カッターヘッドの駆動方向と反対方向を向くように反転させる反転機構であることを特徴とする裁断装置。
【請求項3】
請求項2に記載の裁断装置において、
上記反転機構を介して上記固定刃を支持すると共に、この固定刃を回転刃の刃先に付勢する付勢支持部を備え、
上記反転機構は、上記付勢支持部に揺動可能に枢着されて上記固定刃を保持する固定刃ホルダと、この固定刃ホルダを吸着して上記固定刃を上記回転刃に接触する位置に保持する吸着部を有することを特徴とする裁断装置。
【請求項4】
請求項2に記載の裁断装置において、
上記付勢支持部は、上記反転機構及び固定刃を支持面に対して接離可能に形成され、
上記付勢支持部に付勢力を与えて上記固定刃を支持面側に保持する支持面側付勢手段を備えることを特徴とする裁断装置。
【請求項5】
請求項4に記載の裁断装置において、
上記付勢支持部は、一端に上記反転機構及び固定刃が配置されている一方、他端に、この付勢支持部を揺動可能に支持する揺動軸が設けられていると共に揺動レバーが連結されており、この揺動レバーに上記支持面側付勢手段によって付勢力が作用され、
上記回転刃でシート材に切り込みを形成する際に、上記揺動レバーを上記支持面側付勢手段の付勢力に抗して上記固定刃を支持面から離隔する方向に駆動力を作用させる一方、上記固定刃及び回転刃でシート材を裁断する際に、上記揺動レバーへの駆動力を解除する駆動手段を備えることを特徴とする裁断装置。
【請求項6】
請求項2に記載の裁断装置において、
上記反転機構による固定刃の反転を検知するセンサと、
上記センサから上記固定刃の反転を示す信号を受けると、上記ヘッド駆動部の動作を停止させる制御部と
を備えることを特徴とする裁断装置。
【請求項7】
請求項4に記載の裁断装置において、
上記付勢支持部の支持面からの離隔動作を検知するセンサと、
上記センサから、上記付勢支持部の支持面からの離隔動作を示す信号を受けると、上記ヘッド駆動部の動作を停止させる制御部と
を備えることを特徴とする裁断装置。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の裁断装置において、
上記センサからの検知信号を受けて、上記回転刃の動作を停止する回転刃制御部を備えることを特徴とする裁断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−166316(P2012−166316A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30061(P2011−30061)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(591264474)有限会社ナムックス (10)
【Fターム(参考)】