説明

装着型動作支援装置

【課題】
少なくともしゃがんだ状態から立ち上がる動作を補助することができ、使用時に受ける違和感が少ない装着型動作支援装置を提供する。
【解決手段】
本発明に係る装着型動作支援装置100は、膝上フレーム部103に取り付けられており、使用者Hがしゃがんだ状態で、膝駆動装置30が膝上フレーム部103を立ち上げる方向へ回転駆動することにより、使用者Hの大腿部と臀部の境界部分に接して使用者の臀部を押し上げる臀部支持部材50を有しており、さらに、膝上フレーム部103に取り付けられており、使用者Hの大腿部の付け根付近の前面及び股下を通って臀部支持部材50に連結され、臀部支持部材50を吊る吊り部材80を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の下肢部に装着して、その使用者の動作を補助する装着型動作支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
身体に装着して人の動作を補助する装着型動作支援装置については、高齢者や身体障害者の歩行や移乗(車椅子とベッド間の移動等)などを補助する用途のみならず、健常者が重量物を持ち上げる動作を補助するなど、幅広い用途が検討されている。このような装着型動作支援装置に関するものとしては、以下のものが開示されている。
【0003】
特許文献1では、使用者の大腿部に大腿部装具(30)を巻き付けて大腿部を支え、歩行を補助する歩行補助装置が開示されている。また、特許文献2では、使用者の大腿部及び下腿部のそれぞれに大腿部支持具(2)及び下腿部支持具(3)を前後から挟むようにしてしっかりと固定し、歩行を補助する歩行補助装置が開示されている。さらに、特許文献3では、複数のハーネスを組み合わせた体取付部(2)を使用者の腰部にしっかりと固定し、歩行を補助する歩行補助装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−95645号公報
【特許文献2】特開2006−75198号公報
【特許文献3】特開2007−20672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した装置のうち、特許文献1に記載の装置は、大腿部装具(30)で大腿部を持ち上げる構造ではあるが、しゃがんだ状態から立ち上がる動作を補助することはできない。そのため、特許文献1に記載の装置では、例えば床に置かれている重量物を持ち上げるといった動作を補助することはできず、用途範囲が狭い。
【0006】
また、特許文献2に記載の装置は、アシスト効果を向上させるために剛性の高い大腿部支持具(2)及び下腿部支持具(3)をそれぞれ使用者の大腿部及び下腿部に前後から挟むようにしてしっかりと固定しなければならない。そのため、装着作業に手間がかかるとともに、大腿部や下腿部が各支持具に擦れたり圧迫されたりするため、付け心地が悪く、使用者は大きな違和感を受ける。また、特許文献3に記載の装置は、複数のハーネスを組み合わせた体取付部(2)を使用者の腰部にしっかりと固定するものであるから、特許文献2に記載の装置と同様の問題が生じる。
【0007】
このように、構造が比較的単純な装置は用途範囲が狭い一方、用途範囲が比較的広い装置は装着に問題があった。本発明はかかる事情を鑑みてなされたもので、少なくともしゃがんだ状態から立ち上がる動作を補助することができ、使用者が使用時に受ける違和感が少ない装着型動作支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある形態に係る装着型動作支援装置は、使用者の左右の下肢部のうち少なくとも一方に装着する下肢装着部を備え、前記下肢装着部は、使用者の膝部よりも下方に位置する膝下フレーム部と、使用者の前記膝部よりも上方に位置する膝上フレーム部と、使用者の前記膝部付近を軸にして前記膝上フレーム部を前記膝下フレーム部に対して回転駆動する膝駆動装置と、前記膝上フレーム部に取り付けられており、使用者がしゃがんだ状態で、前記膝駆動装置が前記膝上フレーム部を立ち上げる方向へ回転駆動することにより、使用者の大腿部と臀部の境界部分に接して使用者の前記臀部を押し上げる臀部支持部材と、前記膝上フレーム部に取り付けられており、使用者の前記大腿部の付け根付近の前面及び股下を通って前記臀部支持部材に連結され、前記臀部支持部材を吊る吊り部材と、を有する。
【0009】
かかる構成によれば、しゃがんだ状態の使用者の臀部を臀部支持部材により押し上げることができるため、使用者の立ち上がる動作を補助することができる。なお、臀部支持部材が接触する臀部と大腿部の境界部分は、皮下脂肪が薄く、しゃがみ込んだときにも厚みの変化が小さいことから、臀部支持部材からの力は使用者に効率よく伝えられる。また、臀部支持部材は吊り部材によって吊られているため、臀部支持部材には大きな力が加わるにもかかわらず、その構造を単純なものにすることができる。そのため、臀部支持部材は装着を容易に行うことができ、また、使用時における使用者の違和感を抑えることができる。
【0010】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記吊り部材は、前記臀部支持部材が取り付けられている位置よりも上方で前記膝上フレーム部に取り付けられており、前記臀部支持部材及び前記吊り部材が全体として螺旋状に延びるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、吊り部材は臀部支持部材を上方へと引き上げるように支持することができるため、臀部支持部材により使用者の臀部をよりしっかりと支えることができる。
【0011】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記臀部支持部材は前記吊り部材よりも剛性が高くなるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、臀部支持部材は比較的変形しにくいため、臀部支持部材からの力をより効果的に使用者に伝えることができる。
【0012】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記前記膝上フレーム部は、前記臀部支持部材の高さ位置を調整することができる高さ位置調整機構を有するように構成されていてもよい。かかる構成によれば、使用者の体型にあわせて臀部支持部材を適切な位置に配置することができる。
【0013】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記吊り部材は弾性を有しており、使用者がしゃがんだ状態において、前記臀部支持部材が前記吊り部材の弾性力によって引き上げられるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、臀部支持部材は吊り部材によって引き上げられることから、臀部支持部材と使用者の臀部付近との間に隙間が生じにくく、使用者が立ち上がる際すぐに動作を補助することができる。
【0014】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記臀部支持部材は、使用者の前記大腿部と前記臀部の境界部分に接触する臀部接触部と、前記臀部接触部と前記膝上フレーム部を連結するフレーム連結部と、を有し、前記臀部接触部は可撓性を有し、前記フレーム連結部は前記臀部接触部よりも剛性が高くなるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、フレーム連結部の剛性を高くすることで使用者へ効率よく力を伝えることができる一方、臀部接触部をフレーム連結部よりも剛性を低くして使用者の体の形状になじませ、使用者の違和感を低減させることができる。
【0015】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記臀部接触部は左右方向を回動軸方向として回動可能となるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、臀部接触部が臀部付近に接触して回動することにより、臀部付近と臀部接触部との隙間を均一に低減することができる。
【0016】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記膝上フレーム部は、使用者の前記大腿部の左右方向外側に位置する大腿フレームと、使用者の骨盤の左右方向外側に位置する骨盤フレームと、前記膝駆動装置の動作に同期して、使用者の前記大腿部の付け根付近を軸に前記骨盤フレームを前記大腿フレームに対して回転駆動する骨盤駆動装置と、を有し、前記臀部支持部材は前記大腿フレームに取り付けられ、前記吊り部材は前記骨盤フレームに取り付けられ、前記骨盤フレームにおける前記吊り部材の取付位置は、使用者がしゃがんで前記骨盤フレームが回動すると、その回動によって前記吊り部材が引っ張られるような位置に設定されていてもよい。
【0017】
かかる構成によれば、使用者がしゃがんで骨盤フレームが回動すると、その回動によって吊り部材が引っ張られるため、臀部接触部材も引き上げられ、しゃがんだ際に生じる使用者の臀部付近と臀部接触部との隙間をさらに低減することができる。
【0018】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記大腿フレームは、本体部と、該本体部の上方に位置する関節部とを有し、前記関節部は、前記本体部の前記骨盤フレームに対するねじれ方向及び左右方向への回動が可能となるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、使用者がしゃがむ際には、下肢部が自然に開いたり捻れたりすることがあるが、使用者はその動作を違和感なく行うことができる。
【0019】
また、上記の装着型動作支援装置において、前記下肢装着部を左右に備え、左右の前記吊り部材が使用者の前記股下付近で連結されるように構成されていてもよい。かかる構成によれば、吊り部材が大腿部に食い込みにくくなり、使用者のフィット感をさらに向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明に係る装着型動作支援装置によれば、少なくともしゃがんだ状態から立ち上がる動作を補助することができ、また、使用者の使用時に受ける違和感を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の第1実施形態に係る装着型動作支援装置の正面図である。
【図2】図2は、図1に示す装着型動作支援装置の腰部付近における拡大図である。
【図3】図3は、図2に示す装着型動作支援装置の左側面図である。
【図4】図4は、図2に示す装着型動作支援装置の背面図である。
【図5】図5は、図3に示す装着型動作支援装置の斜視図である。
【図6】図6は、図1に示す装着型動作支援装置の左側面図であって、(a)は使用者がしゃがんだ状態を示し、(b)は立ち上がった状態を示している。
【図7】図7は、本発明の第3実施形態に係る装着型動作支援装置の腰部付近における拡大左側面図であって、図3に対応する図である。
【図8】図8は、図7に示す装着型動作支援装置の左側面図であって、(a)は使用者がしゃがんだ状態を示し、(b)は立ち上がった状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。なお、以下では全ての図を通じて同一または相当する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
(第1実施形態)
まず、図1乃至図6を参照し、本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態に係る装着型動作支援装置100は、使用者Hの下肢部に装着して、その使用者の動作を補助する装置である。以下、装着型動作支援装置100の各構成要素について、地面に近いものから順に説明する。なお、以下において、単に「前後」、「左右」、及び「上下」というときは、使用者Hが立ち上がったときを基準とし、それぞれ使用者Hの「前後」、「左右」、及び「上下」を意味することとする。また、本実施形態に係る装着型動作支援装置100は、左右対称に構成されている。
【0024】
足下フレーム10は、装着型動作支援装置100のうち最も下方に位置する部材である。図1に示すように、足下フレーム10は、靴状に形成されており、通常の靴と同様に使用者Hの足首から下の部分が挿入される。図6に示すように、足下フレーム10は、使用者Hのつま先部分にあたる前方部11と、土踏まずから踵にあたる後方部12を有している。前方部11と後方部12の境界部分は、靴底にあたる部分が薄く形成されており、柔軟性が高い。そのため、図6(a)で示すように、使用者Hは、しゃがんだときに後方部12を地面から浮かせ、前方部11で体を支える姿勢をとることができる。
【0025】
下腿フレーム20は、下腿部の左右方向外側に位置する部材である。なお、下腿フレーム20は、上述した足下フレーム10とともに膝下フレーム部102を構成している。図6に示すように、下腿フレーム20は棒状の形状を有しており、足下フレーム10の後方部12において、その後方部12の底面に対して垂直になるよう取り付けられている。そのため、図6(a)に示すように後方部12を地面から浮かすと、これに伴って下腿フレーム20は地面に対して傾倒する。なお、下腿フレーム20は上記のような構成に限らず、例えば下腿フレーム20が足下フレーム10(後方部12)に回動可能に取り付けられていてもよい。この場合、使用者Hがしゃがんだとき、後方部12を浮かせなくとも、膝部の位置に応じて下腿フレーム20は前方に傾倒する。なお、下腿フレーム20の上端部分は、後述する膝駆動装置30に取り付けられている。
【0026】
膝駆動装置30は、後述する大腿フレーム40を回転駆動するための装置である。本実施形態に係る膝駆動装置30は、電動モータを用いており、図1に示すように使用者Hの膝部付近に位置している。膝駆動装置30は、内側部31と外側部32が相対的に回動するように構成されている。この回動は、膝駆動装置30の中心を通って左右方向に延びる軸を回動軸として行われる。そして、膝駆動装置30の内側部31には下腿フレーム20の上端部分が連結されており、外側部32には大腿フレーム40の下端部分が連結されている。これにより、膝駆動装置30は、膝部付近を中心に下腿フレーム20に対して大腿フレーム40を回動することができる。なお、膝駆動装置30は上記のような構成に限らず、例えばリンク機構を用いて、大腿フレーム40を下腿フレーム20に対して回転駆動するような構成であってもよい。
【0027】
大腿フレーム40は、大腿部の左右方向外側に位置する部材である。大腿フレーム40は、上端部分に関節部41を有している。より具体的には、図5に示すように、大腿フレーム40の本体部42に固定された第1関節部材43に上下方向に延びる挿入孔44が形成されており、この挿入孔44に第2関節部材45の縦軸部材46が摺動可能に挿入されている。さらに、第2関節部材45は、前後方向に延びる横軸部材47を介して第3関節部材48に回動可能に連結されている。そして、この第3関節部材48は、後述する骨盤駆動装置60に取り付けられている。これにより、大腿フレーム40の本体部42は、上下方向及び前後方向を回動軸方向として骨盤駆動装置60(ひいては後述する骨盤フレーム70)に対して回動することができる。言い換えれば、大腿フレーム40の本体部42は、骨盤フレーム70に対してねじれ方向及び左右方向へ回動することができる。使用者Hがしゃがむ際には、下肢部が自然に開いたり捻れたりすることがあるが、上記の構成によれば、使用者Hはその動作を違和感なく行うことができる。
【0028】
また、大腿フレーム40は、後述する臀部支持部材50の高さ位置を調整できる高さ位置調整機構53を有している。より具体的には、図5に示すように、第2関節部材45に第1調整部材54が固定されており、この第1調整部材54の後端部分には第2調整部材55の上端部分が取り付けられている。なお、これらの取付は、いずれもボルト56により行われる。第2調整部材55には、上下方向にボルト孔57が複数並んで形成されており、この複数のボルト孔57のうちの2つのボルト孔57に臀部支持部材50を貫通したボルト56が固定されている。つまり、どのボルト孔57にボルト56を取り付けるかによって、臀部支持部材50の高さ位置を調整することができる。なお、高さ位置調整機構53は、上記のような構成に限らず、例えば臀部支持部材50が大腿フレーム40に対して上下方向にスライドできるような構成であってもよい。なお、以上の説明から理解できるように、後述する臀部支持部材50は、第2調整部材55及び第1調整部材54を介して、第2関節部材45に取り付けられている。
【0029】
臀部支持部材50は、使用者Hの臀部付近を支持する部材である。図5に示すように、本実施形態に係る臀部支持部材50は、L字状の形状を有しており、臀部接触部51とフレーム連結部52によって主に構成されている。それぞれの構成は次のとおりである。
【0030】
臀部接触部51は、大腿部と臀部の境界部分に接触する部分である。この大腿部と臀部の境界部分は、皮下脂肪が薄く、臀部接触部51からの力が臀部付近に伝わりやすい。臀部接触部51は可撓性と剛性を兼ね備えており、例えば金属製の薄板や樹脂板によって形成することができる。図5に示すように、臀部接触部51は左右方向に延びており、厳密には、前面が斜め上方に向いているとともに、臀部の形状に沿って全体が湾曲している。これにより、臀部接触部51が上記の境界部分に接したとき、接触圧力が分散して使用者Hは良好なフィット感を得ることができる。また、図4に示すように、臀部接触部51は、その内側先端が使用者Hの股下に至らない程度に形成されている。なお、臀部接触部51の前面には、スポンジやウレタンのようなクッション材を貼り付けてもよい。
【0031】
フレーム連結部52は、上述した臀部接触部51と大腿フレーム40を連結する部分である。図5に示すように、フレーム連結部52は厚みのある金属板によって形成されており、臀部接触部51よりも剛性が高い。また、フレーム連結部52と臀部接触部51とは互いに直交するように連結されている。フレーム連結部52には、前後方向に延びる長孔58が上下2箇所に形成されており、この長孔58を貫通したボルト56が上述の第2調整部材55のボルト孔57に挿入されている。このボルト56を緩めるとフレーム連結部52は、大腿フレーム40に対して前後方向にスライドすることができ、ボルト56を締めるとフレーム連結部52の位置は固定される。かかる構成により使用者Hの体型に合わせて臀部支持部材50の前後方向位置を調整することができる。なお、臀部接触部51とフレーム連結部52は、金属材料や樹脂材料によって一体に成形してもよい。
【0032】
骨盤駆動装置60は、後述する骨盤フレーム70を回転駆動するための装置である。本実施形態に係る骨盤駆動装置60は、電動モータを用いており、図1に示すように使用者の大腿部の付け根付近に位置している。骨盤駆動装置60は、図5に示すように、膝駆動装置30と同様に内側部61と外側部62が相対的に回動するように構成されている。この回動は、骨盤駆動装置60の中心を通って左右方向に延びる軸を回動軸として行われる。そして、骨盤駆動装置60の内側部61には大腿フレーム40の上端部分(第3関節部材48)が連結されており、外側部62には骨盤フレーム70が連結されている。これにより、骨盤駆動装置60は、大腿部の付け根付近を中心に骨盤フレーム70を回動することができる。なお、骨盤駆動装置60は上記のような構成に限らず、例えばリンク機構を用いて、骨盤フレーム70を大腿フレーム40に対して回転駆動するような構成であってもよい。
【0033】
また、骨盤駆動装置60は、他の構成要素とともに使用者Hの腰部付近で3つの自由度機構を構成している。つまり、骨盤駆動機構60は、骨盤フレーム70を基準とすると、身体を左右に切り分ける面(解剖学でいう「矢上面」)内で大腿フレーム40の本体部42を回動可能とする第1の自由度機構を構成している。また、上述した第3関節部材48、横軸部材47、及び第2関節部材45により、骨盤フレーム70を基準として、身体を前後に切り分ける面(解剖学でいう「前額面」)内で本体部42を回動可能とする第2の自由度機構を構成している。さらに、上述した第2関節部材45及び第1関節部材43により、骨盤フレーム70を基準として、身体を上下に切り分ける面(解剖学でいう「水平面」)内で本体部42を回動可能とする第3の自由度機構を構成している。
【0034】
骨盤フレーム70は、骨盤の左右方向外側に位置する部材である。なお、骨盤フレーム70は、上述した大腿フレーム40及び骨盤駆動装置60とともに膝上フレーム部103を構成している。図3に示すように、骨盤フレーム70は、前方部分が骨盤駆動装置60に連結されており、その連結部分から後方斜め上方に延びて、更に後方へと水平に延びている。つまり、側面視において、骨盤フレーム70は屈曲したような形状を有している。また、図4に示すように、左側の骨盤フレーム70と右側の骨盤フレーム70とは使用者Hの腰部後方に位置する骨盤連結部材71によって連結されている。そして、この骨盤連結部材71には、それ自体を使用者の腰部に取り付けるためのベルトやフックなどの係止具(図示略)が取り付けられている。このように、骨盤フレーム70を屈曲した形状とすることにより、骨盤フレーム70の回動軸の高さ位置と、骨盤連結部材71を使用者に取り付ける高さ位置との間に段差を生み出している。
【0035】
吊り部材80は、臀部支持部材50を吊るための部材である。図3に示すように、吊り部材80は、上端部分が骨盤フレーム70に取り付けられており、そこから使用者Hの大腿部の付け根前面側及び股下を通り、下端部分が臀部支持部材50の内側部分に取り付けられている。これにより、臀部支持部材50は左右方向外側が大腿フレーム40に取り付けられ、左右方向内側が吊り部材80に吊られることになる(図5参照)。つまり、臀部支持部材50は、両端が支持された「両持ち」の状態となっている。
【0036】
また、吊り部材80は、上述したように骨盤フレーム70に取り付けられているため、臀部支持部材50よりも上方で膝上フレーム部103(大腿フレーム40、骨盤駆動装置60、及び骨盤フレーム70からなる部分)に取り付けられることになる。これにより、臀部支持部材50及び吊り部材80は、全体として螺旋状に延びて、吊り部材80が使用者Hの股間から腰部と大腿部との境目(いわゆるVライン)に沿って装着されることになる。そのため、吊り部材80はしっかりと臀部支持部材50を引き上げることができるとともに、使用者Hが歩く、しゃがむ、立ち上がるといった動作を行う際、吊り部材80が腰部や大腿部と擦れるのを低減することができる。なお、図3に示すように、本実施形態では、吊り部材80は骨盤駆動装置60の上方において骨盤フレーム70に取り付けられている。
【0037】
また、吊り部材80は、臀部支持部材50はよりも剛性が低く形成されており、例えばナイロンベルト、革ベルト、紐などによって形成することができる。吊り部材80はこのように剛性が低く、言い換えると柔軟性が大きいため、使用者Hが受ける違和感を低減することができる。また、図5に示すように、吊り部材80は、フィット感を向上させるために全体の長さを調整する調整部材81を有している。さらに、図2に示すように、左右の吊り部材80は、股下において互いに連結されている。より具体的には、左右の吊り部材80を結びあわせて結び目82を形成してもよく、筒状の部材に左右両方の吊り部材80を通すことで連結してもよい。このように左右の吊り部材80を連結すれば、吊り部材80が大腿部に食い込みにくくなり、フィット感がさらに向上する。
【0038】
背部フレーム90は、使用者Hの背面側に位置するフレームである。背部フレーム90は、上述の骨盤連結部材71に固定されている。背部フレーム90はいわゆる背負子であって、図1に示すように、骨盤連結部材71から上方に向かって延びる一対のシャフト91が上端部分で折れ曲って連結された形状を有している。この背部フレーム90には、バッテリや制御器を収容したバックパック(不図示)が取り付けられる。バックパックに収容された制御器は、骨盤フレーム70以下の部分(以下、これらを総称して「下肢装着部」という)101を制御する。なお、制御器は、下肢装着部101に取り付けられた重心位置や負荷を検出するセンサ、使用者に取り付けられた生体信号を検出するセンサ、又はこれら両種のセンサから送信される信号に基づいて、下肢装着部101を制御するように構成してもよい。
【0039】
次に、図6を参照して、本実施形態に係る装着型動作支援装置100の動作について説明する。ここでは、使用者がしゃがんだ状態から立ち上がるまでの装着型動作支援装置100の動作について説明する。図6(a)に示すように、使用者Hがしゃがんだ状態では、地面に対して下腿フレーム20が前方に傾いており、大腿フレーム40が後方に傾いている。また、骨盤フレーム70は水平よりも僅かに後方部が高くなるよう傾斜している。この状態から使用者Hが立ち上がるとき、膝駆動装置30は大腿フレーム40を下腿フレーム20に対して立ち上げる方向(図6(a)では反時計方向)へ回転駆動する。これにより、臀部支持部材50が使用者の臀部を押し上げて(図中の黒矢印F参照)、使用者は容易に立ち上がることができる(図6(b)参照)。また、この動作と同期して、骨盤駆動装置60は、大腿フレーム40に対して骨盤フレーム70を上記の大腿フレーム40の回動方向とは逆の方向(図6(a)では時計方向)に回転駆動し、骨盤フレーム70(背部フレーム90)が地面に対して大きく傾かないように調整している。
【0040】
以上のように、本実施形態に係る装着型動作支援装置100によれば、少なくともしゃがんだ状態から立ち上がる動作を補助することが可能である。しかも、使用者Hの臀部付近を押し上げる臀部支持部材50は非常に単純な構造であるから、使用者Hへの装着が容易である。そのうえ、このような単純な構造であるにもかかわらず、臀部支持部材50は使用者Hの大腿部の付け根前面側から股下を通る吊り部材80に吊られているため、使用者Hの臀部をしっかりと支えることができる。また、本実施形態では、臀部支持部材50及び吊り部材80が全体として螺旋状に延びるように構成されているため、使用者Hが立ち上がる際に吊り部材80が臀部支持部材50をしっかりと引き上げることができる。
【0041】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態に係る装着型動作支援装置は、吊り部材80が弾性を有しており、吊り部材80の弾性力によって臀部支持部材50が引き上げられるように構成されている点で第1実施形態に係る装着型動作支援装置100と異なる。その他の点については、基本的に第1実施形態に係る装着型動作支援装置100と同じである。吊り部材80は、全体がゴムなどの弾性部材によって形成されていてもよく、上端部分などの一部が引張ばね等で形成されていてもよく、これ以外の構成であっても良い。
【0042】
ここで、使用者Hが立ち上がった状態では大腿部と臀部の境界部分のうち臀部側に臀部支持部材50が位置しているが、使用者Hがしゃがんだ状態に姿勢を変えると、臀部支持部材50の位置は大腿部側へと相対的に移動する。つまり、使用者Hがしゃがむと臀部支持部材50は臀部側から大腿部側へと相対的に移動する。そして、大腿部は臀部に比べてふくらみが少ないため、使用者Hがしゃがむことで臀部支持部材50と上記の境界部分との間に隙間が生じる(以下、この隙間を「臀部隙間」と呼ぶ)。さらに、前述した第1実施形態の場合には、使用者Hがしゃがむことで骨盤フレーム70が回動し、骨盤フレーム70は吊り部材80を前方へ押し出すこととなり、臀部隙間が一層大きくなる傾向にある。仮にしゃがんだ状態において臀部隙間が大きくなると、使用者Hが立ち上がる際に速やかに使用者を補助できなくなる。
【0043】
これに対し、本実施形態では、使用者Hがしゃがんだときにも臀部支持部材50が吊り部材80によって引き上げられるため、臀部隙間が大きくなるのを抑えることができる。よって本実施形態によれば、使用者Hが立ち上がる際、比較的速やかに使用者を補助することができる。
【0044】
(第3実施形態)
次に、図7及び図8を参照して、第3実施形態について説明する。本実施形態に係る装着型動作支援装置300は、第2実施形態に係る装着型動作支援装置とは別の構成によって上記の臀部隙間を低減している。具体的には、次の通りである。
【0045】
また、本実施形態では、図7及び図8に示すように、吊り部材380の骨盤フレーム70における取付位置は、骨盤駆動装置60からみて斜め下後方に位置している。かかる構成によれば、使用者がしゃがんで骨盤フレーム70が大腿フレーム40に対して回動(図8(a)では反時計回りに回動)すると、吊り部材380の取付位置が後方へ移動することになるため、吊り部材380は後方へ引っ張られる。これにより、吊り部材380は臀部支持部材350を引き上げるように作用し、臀部隙間を低減することができる。なお、本実施形態では、吊り部材380は骨盤フレーム70の内側の面に取り付けられている。これにより、吊り部材380は他の構成と干渉しにくく、安定して臀部支持部材350を引き上げることができる。
【0046】
なお、吊り部材380の骨盤フレーム70における取付位置が以下で説明する所定の領域内にあり、かつ、その領域内で移動するように構成されていれば、上記の作用を奏することができる。ここでいう「所定の領域」とは、吊り部材380が固体(本実施形態では使用者H)と接触する部分のうち最も骨盤フレーム70に近い点(以下、「接触点」という)Xと、骨盤フレームの回動軸Yとを通る仮想線Lを引いたとき、側面側から見てその仮想線Lよりも下側に位置する領域である。図7に示すように、本実施形態での接触点Xは、使用者Hの前面に位置している。なお、例えば、吊り部材380が骨盤フレーム70の直前である部材のある点を経由するように構成すれば、その経由する点が接触点Xとなり、上記の「所定の領域」を変えることができる。
【0047】
なお、使用者Hがしゃがむ途中に上記の取付位置が上記の所定の領域に入ったり、上記の所定の領域から出たりする場合であっても、骨盤フレーム70の回転角度によっては、吊り部材380が引き上げられることがある。また、場合によっては、使用者Hがしゃがむ途中で接触点Xそのものが移動する場合もある。そこで、本実施形態のように吊り部材380が使用者Hの股下付近と骨盤フレームを直接つなぐような構成であれば、例えば次のように構成してもよい。つまり、使用者Hが立ち上がった状態において、骨盤フレーム70の回動軸Yを通り、鉛直方向に対して30度から60度後方に傾斜した線(上記の仮想線に相当)を仮想し、側面視においてその線よりも下方側(後方側)で吊り部材380を骨盤フレーム70に取り付けてもよい。かかる構成によれば、実質的に上記の作用を奏することができる。ここでは、吊り部材380の取付位置について、視点を変えつつ説明したが、要するに使用者Hがしゃがむ動作のときに吊り部材が引っ張られるような位置に吊り部材380が取り付けられていればよい。
【0048】
さらに、本実施形態では、臀部接触部351が回動可能に構成されている。より具体的には、図7に示すように、本実施形態に係るフレーム連結部352は、固定部352aと可動部352bとを有しており、可動部352bは左右方向を回動軸方向として固定部352aに対して回動するように構成されている。そして、固定部352aは大腿フレーム40に固定されており、可動部352bには臀部接触部351が固定されている。これにより、臀部接触部351は、可動部352bの回動軸を中心に回動することができる。かかる構成によれば、吊り部材380が引き上げられることで臀部接触部351が臀部付近に接して回動し、臀部隙間を均一に低減することができる。なお、臀部接触部351の回動軸の位置は上記の場合に限られない。例えば、フレーム連結部352を固定部352a及び可動部352bに分割することなく、大腿フレーム40に対して回動可能に取り付けるように構成してもよい。かかる構成によれば、臀部接触部351は、フレーム連結部352と大腿フレーム40の境界付近を回動軸として回動可能となる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について図を参照して説明したが、具体的な構成はこれらの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても本発明に含まれる。例えば、以上では下肢装着部101(骨盤フレーム70以下の部分)を、使用者Hの左右両方の下肢部に取り付ける場合について説明したが、下肢装着部101を一方の下肢部にのみ装着する構成であっても本発明に含まれる。また、例えば、臀部支持部材50が板状に形成されておらず、ナイロンベルト等の比較的柔軟な部材で形成されていても本発明に含まれる。また、例えば、以上では臀部支持部材50と吊り部材80とが異なる材料によって形成されている場合について説明したが、両者が同じ材料で形成されていても本発明に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明に係る装着型動作支援装置は、しゃがんだ状態から立ち上がる動作を補助することができ、また、使用者が使用時に受ける違和感を低減することができるため、装着型動作支援装置の技術分野において有益である。
【符号の説明】
【0051】
30 膝駆動装置
40 大腿フレーム
41 関節部
42 本体部
50、350 臀部支持部材
51、351 臀部接触部
52、352 フレーム連結部
53 高さ位置調整機構
60 骨盤駆動装置
70 骨盤フレーム
80、380 吊り部材
100、300 装着型動作支援装置
101 下肢装着部
102 膝下フレーム部
103 膝上フレーム部
H 使用者

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の左右の下肢部のうち少なくとも一方に装着する下肢装着部を備え、
前記下肢装着部は、
使用者の膝部よりも下方に位置する膝下フレーム部と、
使用者の前記膝部よりも上方に位置する膝上フレーム部と、
使用者の前記膝部付近を軸にして前記膝上フレーム部を前記膝下フレーム部に対して回転駆動する膝駆動装置と、
前記膝上フレーム部に取り付けられており、使用者がしゃがんだ状態で、前記膝駆動装置が前記膝上フレーム部を立ち上げる方向へ回転駆動することにより、使用者の大腿部と臀部の境界部分に接して使用者の前記臀部を押し上げる臀部支持部材と、
前記膝上フレーム部に取り付けられており、使用者の前記大腿部の付け根付近の前面及び股下を通って前記臀部支持部材に連結され、前記臀部支持部材を吊る吊り部材と、を有する、
装着型動作支援装置。
【請求項2】
前記吊り部材は、前記臀部支持部材が取り付けられている位置よりも上方で前記膝上フレーム部に取り付けられており、前記臀部支持部材及び前記吊り部材が全体として螺旋状に延びるように構成されている、請求項1に記載の装着型動作支援装置。
【請求項3】
前記臀部支持部材は前記吊り部材よりも剛性が高い、請求項1又は2に記載の装着型動作支援装置。
【請求項4】
前記膝上フレーム部は、前記臀部支持部材の高さ位置を調整することができる高さ位置調整機構を有している、請求項1乃至3のうちいずれか一の項に記載の装着型動作支援装置。
【請求項5】
前記吊り部材は弾性を有しており、使用者がしゃがんだ状態において、前記臀部支持部材が前記吊り部材の弾性力によって引き上げられるように構成されている、請求項1乃至4のうちいずれか一の項に記載の装着型動作支援装置。
【請求項6】
前記臀部支持部材は、
使用者の前記大腿部と前記臀部の境界部分に接触する臀部接触部と、
前記臀部接触部と前記膝上フレーム部を連結するフレーム連結部と、を有し、
前記臀部接触部は可撓性を有し、
前記フレーム連結部は前記臀部接触部よりも剛性が高い、
請求項1乃至5のうちいずれか一の項に記載の装着型動作支援装置。
【請求項7】
前記臀部接触部は左右方向を回動軸方向として回動可能に構成されている、請求項6に記載の装着型動作支援装置。
【請求項8】
前記膝上フレーム部は、
使用者の前記大腿部の左右方向外側に位置する大腿フレームと、
使用者の骨盤の左右方向外側に位置する骨盤フレームと、
前記膝駆動装置の動作に同期して、使用者の前記大腿部の付け根付近を軸に前記骨盤フレームを前記大腿フレームに対して回転駆動する骨盤駆動装置と、を有し、
前記臀部支持部材は前記大腿フレームに取り付けられ、
前記吊り部材は前記骨盤フレームに取り付けられ、
前記骨盤フレームにおける前記吊り部材の取付位置は、使用者がしゃがんで前記骨盤フレームが回動すると、その回動によって前記吊り部材が引っ張られるような位置に設定されている、
請求項1乃至7のうちいずれか一の項に記載の装着型動作支援装置。
【請求項9】
前記大腿フレームは、本体部と、該本体部の上方に位置する関節部とを有し、
前記関節部は、前記本体部の前記骨盤フレームに対するねじれ方向及び左右方向への回動を可能としている、
請求項8に記載の装着型動作支援装置。
【請求項10】
前記下肢装着部を左右に備え、
左右の前記吊り部材が使用者の前記股下付近で連結されている、請求項1乃至9のうちいずれか一の項に記載の装着型動作支援装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−187385(P2012−187385A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−207370(P2011−207370)
【出願日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】