説明

装軌式車両の走行体

【課題】 上ローラの転動体に形成した全周溝部に対し履帯のトラックリンクが嵌合するのを防止し、履帯を良好に周回動作できるようにする。
【解決手段】 上ローラ26の転動体28には、左,右の転動面部28A間を隔てるように左,右の拡径鍔部28Bを設け、この左,右の拡径鍔部28B間には縮径することによって全周溝部28Cを設ける。この上で、全周溝部28Cは、外径側の幅寸法W3を各トラックリンクの内周側の幅寸法W1以下に設定する。従って、履帯18が異物を噛み込んで左,右方向に位置ずれし、全周溝部28Cにトラックリンク20が嵌合しようとした場合でも、狭幅な全周溝部28Cは、トラックリンク20を受止めることにより、このトラックリンク20が深く嵌合するのを防止することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば油圧ショベル、油圧クレーン等の履帯を備えた装軌式車両の走行体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、油圧ショベル、油圧クレーン等の装軌式車両は、自走可能な下部走行体と、該下部走行体上に旋回可能に搭載された上部旋回体と、該上部旋回体に設けられた作業装置とにより大略構成されている。
【0003】
そして、下部走行体は、センタフレームと該センタフレームの左,右両側に位置して前,後方向に延びたサイドフレームとを有するトラックフレームと、該トラックフレームの各サイドフレームの長さ方向の一側に設けられた駆動輪と、前記各サイドフレームの長さ方向の他側に設けられた遊動輪と、前記駆動輪と遊動輪とに巻回して設けられた履帯と、前記各サイドフレームの下面側に設けられ前記駆動輪と遊動輪との間で該履帯を案内する複数個の下ローラと、前記各サイドフレームの上面側に設けられ前記駆動輪と遊動輪との間で前記履帯を案内する上ローラとにより大略構成されている。
【0004】
また、履帯は、左,右方向に離間して設けられ前,後方向で無端状に連結される複数のトラックリンクと、左,右方向に延びる板状体からなり該各トラックリンクの外周側に位置して設けられたトラックシューとにより構成されている。
【0005】
一方、上ローラは、左,右方向に延びてサイドフレームの上端面に設けられた軸部材と、該軸部材に回転可能に取付けられ前記各トラックリンクを下側から支持する転動体とにより構成されている。
【0006】
また、上ローラの転動体は、履帯を構成する左,右のトラックリンクが転動するように左,右方向に間隔をもって形成された左,右の転動面部と、該各転動面部間を隔てるために該各転動面部間に位置して該各転動面部よりも大径に形成された拡径鍔部とによって軸方向の中間部が拡径した段付筒体として構成されている。また、転動体に形成された拡径鍔部は、左,右の転動面部から履帯の左,右のトラックリンクが位置ずれしないようにするものである。
【0007】
さらに、従来技術による油圧ショベルには、転動体の軽量化、素材の使用量削減等のために、拡径鍔部の軸方向の中間部を全周に亘って縮径することにより全周溝部を設ける構成としたものがある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−80550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、上述した特許文献1による上ローラは、転動体の拡径鍔部に全周溝部を設けているから、例えば履帯が異物を噛み込んで左,右方向に位置ずれした場合には、該履帯のトラックリンクが拡径鍔部を乗り越えて全周溝部に達し、該全周溝部に深く嵌まり込む虞がある。この場合、履帯のトラックリンクが転動体の全周溝部に深く嵌合すると、全周溝部からトラックリンクが離脱できなくなり、履帯が良好に周回動作できなくなるという問題がある。
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題に鑑みなされたもので、本発明の目的は、上ローラの転動体に形成した全周溝部に対し履帯のトラックリンクが嵌合するのを防止し、履帯を良好に周回動作できるようにした装軌式車両の走行体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による装軌式車両の走行体は、センタフレームと該センタフレームの左,右両側に位置するサイドフレームとからなるトラックフレームと、前記各サイドフレームの長さ方向の一側に設けられた駆動輪と他側に設けられた遊動輪との間に巻回して設けられた履帯と、前記各サイドフレームの上面側に設けられ前記駆動輪と遊動輪との間で前記履帯を案内する上ローラとを備え、前記履帯は、左,右方向に離間して設けられ前,後方向で無端状に連結される複数のトラックリンクと、該各トラックリンクの外周側に位置して該各トラックリンクに設けられたトラックシューとにより構成し、前記上ローラは、左,右方向に延びて前記サイドフレームに設けられた軸部材と、該軸部材に回転可能に取付けられ前記各トラックリンクを下側から支持する転動体とにより構成してなる。
【0012】
そして、上述した課題を解決するために、請求項1の発明が採用する構成の特徴は、前記上ローラの転動体は、前記履帯を構成する左,右のトラックリンクが転動するように左,右方向に間隔をもって形成された左,右の転動面部と、該各転動面部間を隔てるために該各転動面部に隣接した位置で該各転動面部よりも大径に形成された左,右の拡径鍔部と、該各拡径鍔部間を縮径することにより形成された全周溝部とにより構成し、かつ前記全周溝部は、その外径側の幅寸法(W3)を前記トラックリンクのうち前記転動面部に当接する内周側の幅寸法(W1)以下に設定する構成としたことにある。
【0013】
請求項2の発明は、前記全周溝部は、前記拡径鍔部の位置から溝底に向け溝幅寸法が小さくなる傾斜溝として形成したことにある。
【0014】
請求項3の発明は、前記履帯のトラックリンクには、その内周側の角隅部に前記全周溝部と当接する面取り部を設ける構成としたことにある。
【0015】
請求項4の発明は、前記全周溝部は、その外径側の幅寸法(W6)を前記履帯のトラックリンクのうち前記面取り部によって切り取られた内周端部の幅寸法(W2)以下に設定したことにある。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、上ローラの転動体には、左,右の転動面部間を隔てる左,右の拡径鍔部間に全周溝部を設けているから、例えば履帯が異物を噛み込んで左,右方向に位置ずれした場合には、該履帯のトラックリンクが拡径鍔部を乗り越えて全周溝部に嵌合する虞がある。
【0017】
しかし、全周溝部は、その外径側の幅寸法(W3)を、トラックリンクのうち転動面部に当接する内周側の幅寸法(W1)以下に設定しているから、トラックリンクが嵌合するのを防止することができ、また、嵌合したとしても容易に離脱させることができる。この結果、履帯を良好に周回動作させることができ、走行体の走行時の安定性を向上することができる。
【0018】
請求項2の発明によれば、全周溝部を拡径鍔部の位置から溝底に向け溝幅寸法が小さくなる傾斜溝として形成しているから、この傾斜溝は、溝底に向けて狭くなるように傾斜した側面によって全周溝部に嵌合しようとするトラックリンクを受止めることができる。これにより、履帯のトラックリンクが転動体の全周溝部に深く嵌合するのを防止することができる。
【0019】
また、転動体は、拡径鍔部が摩耗して該拡径鍔部と転動面部との段差が小さくなると、トラックリンクが転動面部から拡径鍔部側に位置ずれし易くなる。このときに傾斜溝は、拡径鍔部の摩耗が進行すると、その溝幅寸法を小さくする。これにより、トラックリンクが転動面部から拡径鍔部側に位置ずれし易くなった状態でも、トラックリンクが全周溝部に嵌合するのを防止することができる。
【0020】
請求項3の発明によれば、トラックリンクの内周側の角隅部には全周溝部と当接する面取り部を設けているから、この面取り部を全周溝部に当接することにより、トラックリンクが全周溝部に嵌合しないように受止めることができる。また、面取り部は、トラックリンクの角隅部が欠損したり、上ローラ等が損傷するのを防止することができる。
【0021】
請求項4の発明によれば、全周溝部の外径側の幅寸法(W6)を、トラックリンクのうち上ローラに当接する内周端部の幅寸法(W2)よりも小さな寸法に設定しているから、全周溝部に対しトラックリンクが嵌合するのを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の第1の実施の形態による下部走行体を備えた油圧ショベルを示す正面図である。
【図2】サイドフレーム、履帯、下ローラ、上ローラを図1中の矢示II−II方向からみた拡大断面図である。
【図3】履帯の一部を拡大して示す外観斜視図である。
【図4】図2中の上ローラと履帯を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図5】上ローラに対して履帯が左,右方向に位置ずれした状態を図4と同様位置からみた要部拡大断面図である。
【図6】履帯と上ローラの転動体を拡大して示す要部拡大断面図である。
【図7】拡径鍔部が摩耗した転動体を履帯と一緒に示す要部拡大断面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態による転動体を履帯と一緒に示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態に係る装軌式車両の走行体として、油圧ショベルの下部走行体を例に挙げ、添付図面に従って説明する。
【0024】
まず、図1ないし図7は本発明の第1の実施の形態を示している。図1において、1は装軌式車両としての油圧ショベルを示している。この油圧ショベル1は、後述する下部走行体11と、該下部走行体11上に旋回装置2を介して旋回可能に搭載された上部旋回体3と、該上部旋回体3の前側に俯仰動可能に設けられ、土砂の掘削作業等を行う作業装置4とにより大略構成されている。
【0025】
次に、11は油圧ショベル1を走行させるために設けられた装軌式(クローラ式)の下部走行体を示している。この装軌式の下部走行体11は、凹凸のある地面、泥濘地等を安定して走行するためのものである。そして、下部走行体11は、後述のトラックフレーム12、駆動輪15、遊動輪17、履帯18、下ローラ23、上ローラ26等により構成されている。
【0026】
12は下部走行体11のベースとなるトラックフレームである。このトラックフレーム12は、左,右方向の中央部に位置し旋回装置2が取付けられるセンタフレーム13と、該センタフレーム13の左,右方向両側に設けられ前,後方向に延びた左,右のサイドフレーム14(左側のみ図示)とにより大略構成されている。
【0027】
ここで、サイドフレーム14の一端側および他端側には、後述する駆動輪15および遊動輪17が設けられている。また、サイドフレーム14は、図2に示すように、センタフレーム13側に位置して前,後方向に延びたほぼ垂直な内面板14Aと、該内面板14Aと左,右方向で対面した状態で前,後方向に延びたほぼ垂直な外面板14Bと、前記内面板14Aと外面板14Bの上端部間を連結するように前,後方向に延びたほぼ水平な上面板14Cと、前記内面板14A,外面板14Bの下端部に固着されて前,後方向に延びた内底板14D,外底板14Eとにより大略構成されている。
【0028】
そして、サイドフレーム14は、下側が開口した略コ字型の横断面形状を有し、下側の各底板14D,14Eには、後述する複数の下ローラ23が設けられている。一方、サイドフレーム14の上面板14Cには、前,後方向の中間部に位置して2個の台座14Fが固着され、該各台座14Fには後述の上ローラ26がそれぞれ取付けられている。
【0029】
15は各サイドフレーム14の長さ方向の一側に設けられた駆動輪(スプロケット)である(図1参照)。この駆動輪15は、油圧モータ16を介してサイドフレーム14に取付けられ、該油圧モータ16を動力として履帯18を周回駆動するものである。
【0030】
17は各サイドフレーム14の長さ方向の他側に設けられた遊動輪(アイドラ)である。この遊動輪17は、履帯張り調整機構(図示せず)によって履帯18の張りを調整するもので、サイドフレーム14の長さ方向の他側に向け付勢されている。
【0031】
18はサイドフレーム14を取囲むように駆動輪15と遊動輪17とに巻回して設けられた履帯(クローラ)を示している。この履帯18は、図2、図3に示すように、後述のトラックリンク19、ブッシュ20、トラックシュー22等により構成されている。
【0032】
19は左,右方向に離間して配置された2個を一対として設けられた左,右のトラックリンクである。この左,右のトラックリンク19は、履帯18の周回方向となる前,後方向に長尺な長円形状をなし、左,右方向で対称となるように配置されている。また、左,右のトラックリンク19は、長さ方向の一側が接近して配置された内側リンク部19Aとなり、他側が内側リンク部19Aの外側面に重なるように離間して配置された外側リンク部19Bとなっている。
【0033】
また、左,右の内側リンク部19Aは、左,右方向に延びた円筒状のブッシュ20によって連結されている。一方、左,右の外側リンク部19Bには、前記ブッシュ20に対応する位置にピン挿嵌穴19Cが形成されている。そして、各トラックリンク19は、各内側リンク部19Aを各外側リンク部19Bに挟み、この状態でブッシュ20とピン挿嵌穴19Cに連結ピン21を抜止め状態で挿嵌することにより、巻回方向の隣同士が回動可能に連結され、全体として無端状に形成されている。また、各トラックリンク19は、巻回したときの内側となる内周端部19Dが下ローラ23、上ローラ26の転動面部25A,28Aに当接し、外側には後述のトラックシュー22がボルト止めされている。
【0034】
さらに、各トラックリンク19には、内側リンク部19A側で内周端部19Dと内側面部19Eとの角隅部、外側リンク部19B側で内周端部19Dと外側面部19Fとの角隅部にそれぞれ面取り部19Gが形成されている。これらの面取り部19Gは、例えば後述する上ローラ26の転動体28に設けた全周溝部28Cの各傾斜面28C2に当接(面接触)するように傾斜角度が設定され、これにより、各傾斜面28C2がトラックリンク19を効果的に受止められるようにしている。また、面取り部19Gは、一般的な作用効果として、トラックリンク19の角隅部の欠損等を防止し、また、各転動体25,28等との当接部分を傷付けないようにするものである。
【0035】
ここで、トラックリンク19のうち各ローラ26の転動体28の転動面部28Aに当接する内周側の幅寸法について述べる。この場合、トラックリンク19は、その内側リンク部19Aと外側リンク部19Bとが重なっているから、内周側(内周端部19D側)の幅寸法は、内側リンク部19A側で内側面部19Eと面取り部19Gとの交点19Hと外側リンク部19B側で外側面部19Fと面取り部19Gとの交点19Jとの間の寸法W1となっている。
【0036】
また、各トラックリンク19の内周端部19Dの位置の幅寸法は、各面取り部19Gによって前述した幅寸法W1よりも狭幅に形成されている。詳しく述べると、内周端部19D位置の幅寸法は、内側リンク部19A側で内周端部19Dと面取り部19Gとの交点19Kと外側リンク部19B側で内周端部19Dと面取り部19Gとの交点19Lとの間の寸法W2となっている。そして、内周端部19Dの幅寸法W2は、転動体28に設けた全周溝部28Cの外径側の幅寸法W3よりも小さく、溝底28C1位置の幅寸法W4よりも大きな寸法に設定されている。これにより、傾斜溝を構成する全周溝部28Cの各傾斜面28C2によってトラックリンク19の各面取り部19Gを効果的に受止めることができる。
【0037】
また、22は各トラックリンク19の外周側に設けられた複数のトラックシュー(3枚のみ図示)である。これらのトラックシュー22は、外面側が地面に接地するもので、前,後方向の寸法が短く、左,右方向の寸法が長い略四角形の鋼板等により形成されている。また、各トラックシュー22は、内面側が各トラックリンク19に取付けられ、該各トラックリンク19を用いて前,後方向で無端状に配列されている。
【0038】
23はサイドフレーム14の下面側に位置して前,後方向に所定の間隔をもって配設された複数個の下ローラである。これらの下ローラ23は、サイドフレーム14の内底板14D、外底板14Eの下面に取付けられた軸受24と、両端側が該軸受24に回転可能に取付けられた転動体25とにより構成されている。また、各転動体25には、両端部と中央部との間に位置して、トラックリンク19の内周端部19Dに当接する転動面部25Aが形成されている。そして、各下ローラ23は、履帯18の周回動作に伴って回転しつつ駆動輪15と遊動輪17との間で履帯18を周回方向に案内するものである。
【0039】
次に、第1の実施の形態による下部走行体11に用いられ、その特徴部分をなす上ローラ26について説明する。
【0040】
即ち、26はサイドフレーム14の上面側に設けられた上ローラを示している。この上ローラ26は、例えば前,後方向に離間して2個設けられ、これら2個の上ローラ26は、図4、図5に示すように、サイドフレーム14の上面板14Cに設けた台座14Fに取付けられている。また、各上ローラ26は、駆動輪15と遊動輪17との間で履帯18を下側から支持しつつ周回方向に案内するものである。そして、上ローラ26は、後述の軸部材27、転動体28等によって大略構成されている。
【0041】
27は上ローラ26の取付ベースとなる軸部材で、該軸部材27は、サイドフレーム14の台座14F上にボルト止めされている。また、軸部材27は、左,右方向の外側に向けて延びる片持ち状態の軸部(図示せず)を有し、この軸部によって転動体28を支持するものである。
【0042】
28は軸部材27の軸部に回転可能に取付けられた転動体を示し、該転動体28は、例えば鉄鋼材料に切削加工等の機械加工を施すことにより、全体として段付筒状に形成されている。即ち、転動体28は、履帯18を構成する左,右のトラックリンク19の内周端部19Dが転動するように左,右方向に間隔をもって形成された左,右の転動面部28Aと、該各転動面部28A間を隔てるために該各転動面部28Aに隣接した位置で該各転動面部28Aよりも大径に形成された左,右の拡径鍔部28Bと、該各拡径鍔部28B間を縮径することにより形成された全周溝部28Cとにより構成されている。
【0043】
また、各拡径鍔部28Bは、図6に示す如く、転動面部28Aよりも半径方向で寸法H1だけ大径に形成されている。これにより、各拡径鍔部28Bは、通常の走行状態において各転動面部28Aに当接する履帯18のトラックリンク19が乗り越えないように、各転動面部28A間を隔てることができる。
【0044】
さらに、全周溝部28Cは、各拡径鍔部28Bの外径位置から溝底28C1に向け溝幅寸法が小さくなる左,右の傾斜面28C2を備えた傾斜溝として形成されている。そして、全周溝部28Cの側壁をなす左,右の傾斜面28C2は、全周溝部28Cに嵌合しようとする履帯18のトラックリンク19(面取り部19G)に当接して受止めることにより、このトラックリンク19が全周溝部28Cに対し深く嵌合するのを防止するものである。
【0045】
ここで、全周溝部28Cは、外径側の幅寸法、即ち、傾斜面28C2と拡径鍔部28Bの外周面28B1との交点28D間となる幅寸法が寸法W3に設定されている。この全周溝部28Cの外径側の幅寸法W3は、トラックリンク19の内周側の幅寸法W1以下に設定されている(W3≦W1)。これにより、図5に示す如く、履帯18のトラックリンク19が拡径鍔部28Bを乗り越えることがあっても、左,右の傾斜面28C2は、トラックリンク19を受止めることができ、転動体28の全周溝部28Cに対しトラックリンク19が離脱(脱出)が困難になるまで深く嵌合するのを防止することができる。
【0046】
また、全周溝部28Cの溝底28C1の幅寸法W4は、側壁をなす各傾斜面28C2により狭くなり、トラックリンク19の内周側の幅寸法W1よりも小さな寸法に設定されている(W4<W1)。このように構成することにより、各傾斜面28C2は、トラックリンク19が全周溝部28Cの奥部まで深く嵌合するのを防止することができる。
【0047】
第1の実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、油圧ショベル1の下部走行体11で走行するときの動作について説明する。
【0048】
まず、下部走行体11を走行させる場合には、油圧モータ16に圧油を供給して駆動輪15を回転駆動する。このときには、駆動輪15を履帯18を構成する各トラックリンク19のブッシュ20に噛み合わせることにより、該駆動輪15により履帯18を遊動輪17との間で周回動作させる。この履帯18の周回動作によって下部走行体11を走行させることができる。
【0049】
また、履帯18を周回動作させているときには、各下ローラ23は、その転動体25の各転動面部25Aに履帯18のトラックリンク19を当接させることにより、該履帯18を周回方向となる前,後方向に案内している。同様に、各上ローラ26は、その転動体28の各転動面部28Aに履帯18のトラックリンク19を当接させることにより、該履帯18を下側から支持しつつ前,後方向に案内している。
【0050】
ここで、上ローラ26の転動体28には、左,右の転動面部28A間を隔てるように左,右の拡径鍔部28Bを設け、この左,右の拡径鍔部28B間を縮径することによって全周溝部28Cを設けている。このために、例えば履帯18のトラックリンク19と転動体28の転動面部28Aとの間に異物等を噛み込み、図5に示すように、該トラックリンク19が上ローラ26に対して左,右方向に位置ずれした場合には、該トラックリンク19が拡径鍔部28Bを乗り越えて全周溝部28Cに深く嵌合する虞がある。
【0051】
然るに、第1の実施の形態によれば、全周溝部28Cは、その外径側の幅寸法W3を、トラックリンク19のうち転動体28の転動面部28Aに当接する内周側の幅寸法W1以下に設定しているから、狭幅な全周溝部28Cは、嵌合しようとする履帯18のトラックリンク19を外径側で受止めることができる。
【0052】
この結果、全周溝部28Cは、履帯18のトラックリンク19が深く嵌合するのを防止でき、また、トラックリンク19が嵌合したとしても、履帯18の周回動作の中で全周溝部28Cからトラックリンク19を自然に離脱させることができる。これにより、履帯18を良好に周回動作させることができ、下部走行体11の走行時の安定性を向上することができる。
【0053】
また、全周溝部28Cは、各拡径鍔部28Bの外周面28B1の位置から溝底28C1に向け溝幅寸法がW3からW4に小さくなる左,右の傾斜面28C2を備えた傾斜溝として形成しているから、該各傾斜面28C2によって全周溝部28Cに嵌合しようとする履帯18のトラックリンク19を受止めることができる。
【0054】
また、図6、図7に示すように、各拡径鍔部28Bが経年的な摩耗によって突出寸法H1が突出寸法H2まで小さくなると、該拡径鍔部28Bの外周面28B1′と転動面部28Aとの段差が小さくなり、履帯18のトラックリンク19が転動面部28Aから拡径鍔部28Bを乗り越えて位置ずれし易くなる。ここで、突出寸法H2は、拡径鍔部28Bが転動面部28Aの位置まで摩耗したときにH2=0とすると、0≦H2≦H1の範囲となっている。
【0055】
しかし、外径側から溝底28C1に向けて軸方向の幅寸法を小さくする各傾斜面28C2は、各拡径鍔部28Bの外周面28B1′が突出寸法H2まで摩耗したときに、全周溝部28Cの外径側の幅寸法を幅寸法W3よりも小さな寸法W5とすることができる。これにより、各拡径鍔部28Bが摩耗して履帯18のトラックリンク19が転動体28の拡径鍔部28Bを乗り越え易くなった場合でも、トラックリンク19が全周溝部28Cに嵌合するのを防止することができる。そして、各拡径鍔部28Bが、さらに摩耗して突出寸法H2が小さくなると、全周溝部28Cの外径側の幅寸法も寸法W5よりも小さくなるから、この全周溝部28Cに対しトラックリンク19が嵌合し難くすることができる。
【0056】
一方、履帯18のトラックリンク19には、各ローラ23,26の転動体25,28側となる内周端部19D側の角隅部に面取り部19Gを設けているから、この面取り部19Gを全周溝部28Cの各傾斜面28C2に当接することにより、各傾斜面28C2は、トラックリンク19を効果的に受止めることができる。また、各面取り部19Gは、トラックリンク19の角隅部が欠損したり、トラックリンク19の尖った角隅部によって各ローラ23,26等が損傷したりするのを防止することができる。
【0057】
さらに、各トラックリンク19は、面取り部19Gによって切り取られた内周端部19Dの幅寸法W2が、全周溝部28Cの外径側の幅寸法W3よりも小さく、溝底28C1位置の幅寸法W4よりも大きな寸法となっているから、左,右の傾斜面28C2によってトラックリンク19の面取り部19Gを効果的に受止めることができる。
【0058】
次に、図8は本発明の第2の実施の形態を示している。本実施の形態の特徴は、全周溝部の外径側の幅寸法(W6)を、履帯のトラックリンクのうち面取り部によって切り取られた内周端部の幅寸法(W2)以下に設定したことにある。なお、第2の実施の形態では、前述した第1の実施の形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略するものとする。
【0059】
図8において、31は第2の実施の形態による転動体で、該転動体31は、第1の実施の形態による転動体28とほぼ同様に、転動面部31A、拡径鍔部31Bおよび全周溝部31Cにより構成されている。しかし、第2の実施の形態による転動体31は、全周溝部31Cの外径側の幅寸法、即ち、傾斜面31C2と拡径鍔部31Bの外周面31B1との交点31D間となる幅寸法が寸法W6に設定されている。この全周溝部31Cの外径側の幅寸法W6は、トラックリンク19の内周端部19Dの幅寸法W2以下に設定されている(W6≦W2)。
【0060】
かくして、このように構成された第2の実施の形態においても、前述した第1の実施の形態とほぼ同様の作用効果を得ることができる。特に、第2の実施の形態によれば、全周溝部31Cの外径側の幅寸法W6を、トラックリンク19の内周端部19Dの幅寸法W2以下に設定しているから、全周溝部31Cに対しトラックリンク19が嵌合するのを確実に防止でき、履帯18を安定的に案内することができる。
【0061】
なお、各実施の形態では、上ローラ26をサイドフレーム14上に2個配設した場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば上ローラをサイドフレーム上に1個、または3個以上配設する構成としてもよい。
【0062】
また、各実施の形態では、装軌式車両の走行体として油圧ショベル1の下部走行体11を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば油圧クレーン、ブルドーザ等の他の装軌式車両の走行体にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0063】
1 油圧ショベル(装軌式車両)
11 下部走行体(走行体)
12 トラックフレーム
13 センタフレーム
14 サイドフレーム
15 駆動輪
17 遊動輪
18 履帯
19 トラックリンク
19A 内側リンク部
19B 外側リンク部
19D 内周端部
19G 面取り部
22 トラックシュー
23 下ローラ
26 上ローラ
27 軸部材
28,31 転動体
28A,31A 転動面部
28B,31B 拡径鍔部
28B1,28B1′,31B1 外周面
28C,31C 全周溝部(傾斜溝)
28C1,31C1 溝底
28C2,31C2 傾斜面
H1,H2 拡径鍔部の突出寸法
W1 トラックリンクの内周側の幅寸法
W2 トラックリンクの内周端部の幅寸法
W3,W5,W6 全周溝部の外径側の幅寸法
W4 全周溝部の溝底位置の幅寸法

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センタフレームと該センタフレームの左,右両側に位置するサイドフレームとからなるトラックフレームと、前記各サイドフレームの長さ方向の一側に設けられた駆動輪と他側に設けられた遊動輪との間に巻回して設けられた履帯と、前記各サイドフレームの上面側に設けられ前記駆動輪と遊動輪との間で前記履帯を案内する上ローラとを備え、
前記履帯は、左,右方向に離間して設けられ前,後方向で無端状に連結される複数のトラックリンクと、該各トラックリンクの外周側に位置して該各トラックリンクに設けられたトラックシューとにより構成し、
前記上ローラは、左,右方向に延びて前記サイドフレームに設けられた軸部材と、該軸部材に回転可能に取付けられ前記各トラックリンクを下側から支持する転動体とにより構成してなる装軌式車両の走行体において、
前記上ローラの転動体は、前記履帯を構成する左,右のトラックリンクが転動するように左,右方向に間隔をもって形成された左,右の転動面部と、該各転動面部間を隔てるために該各転動面部に隣接した位置で該各転動面部よりも大径に形成された左,右の拡径鍔部と、該各拡径鍔部間を縮径することにより形成された全周溝部とにより構成し、
かつ前記全周溝部は、その外径側の幅寸法(W3)を前記トラックリンクのうち前記転動面部に当接する内周側の幅寸法(W1)以下に設定する構成としたことを特徴とする装軌式車両の走行体。
【請求項2】
前記全周溝部は、前記拡径鍔部の位置から溝底に向け溝幅寸法が小さくなる傾斜溝として形成してなる請求項1に記載の装軌式車両の走行体。
【請求項3】
前記履帯のトラックリンクには、その内周側の角隅部に前記全周溝部と当接する面取り部を設ける構成としてなる請求項1または2に記載の装軌式車両の走行体。
【請求項4】
前記全周溝部は、その外径側の幅寸法(W6)を前記履帯のトラックリンクのうち前記面取り部によって切り取られた内周端部の幅寸法(W2)以下に設定してなる請求項3に記載の装軌式車両の走行体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−195353(P2010−195353A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−45663(P2009−45663)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(000005522)日立建機株式会社 (2,611)