説明

装飾モールおよび枠体付き車両用窓ガラス

【課題】射出成形によって窓ガラスに枠体が成形され、枠体の射出成形と同時に枠体に固定される装飾モールにおいて、射出成形時の外観不良が発生せず、多色化に対応する装飾モールおよび枠体付き車両用窓ガラスの提供を可能にする。
【解決手段】装飾モールの形状部が金属で形成され、表面にカチオン電着塗装膜が形成され、該カチオン電着塗装膜の上に樹脂膜が塗膜されてなる。メラミン系、アクリル系、ポリエステル系、フッ素系、アクリル系、エポキシ系の樹脂膜に顔料あるいは染料が混入されて、装飾モールが枠体あるいは車体と同色なることを特徴とする。また、溶融状態の樹脂がキャビティ空間に射出されて枠体が形成され、装飾モールが枠体に固定されてなる枠体付き車両用窓ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用窓ガラスの枠体が射出成形で形成される枠体付き車両用窓ガラスに関し、特に、射出成形に用いる金型のキャビティ空間にガラス板と装飾モールとが設置され、溶融樹脂がキャビティ空間に射出されて枠体がガラス板に射出成形されることにより作製される、装飾モールが枠体に固定されている枠体付き車両用窓ガラスに関する。
【背景技術】
【0002】
電車や自動車等の車両の窓において、ガラス板は、金属製の車体に樹脂製の枠体を用いて装着されるのが一般的である。
【0003】
樹脂製の枠体は、流動性を有する状態の樹脂を押出成形あるいは射出成形により、ガラス板に直接成形され、枠体とガラス板とが一体となった枠体付きガラスが、車両の組み立て用部品として多く用いられている。
【0004】
さらに、枠体には装飾や補強のために、プレス成形や押し出し成形などで作製された装飾モールが接着剤などを用いて固定されることが多い。
【0005】
特許文献1には、枠体を射出成形する場合は、枠体の成形と同時に、射出成形に用いる金型のキャビティ空間に装飾モ−ルを配し、ガラス板、枠体および装飾モ−ルを一体化する技術が開示されている。
【0006】
さらに、特許文献2には、枠体を射出成形によってガラスに成形すると同時に、装飾あるいは枠体の補強等を目的として、樹脂製あるいは金属製のソ装飾モールや補強材を金型のキャビティ空間にインサート部品として固定し、インサート部品が一体に成形される、枠体付きガラスが記載されている。
【0007】
塗膜を設けた装飾モールとして、特許文献3には、不溶性金属塩及び可溶性金属塩を含むクロムフリー化成皮膜を介して、アクリル系,ポリエステル系又はフッ素系塗料から成膜されるクリア塗膜を設けた、プレコートステンレス鋼板から作製される装飾モールが開示されている。
【0008】
また、カチオン電着塗装に関しては、特許文献4のように、ウレタン変性アクリル樹脂20〜25重量%、ポリアミン樹脂1〜2重量%、ポリアクリル樹脂2〜3重量%、着色顔料、非鉛系防錆顔料、硬化解媒を含有する厚膜カチオン電着塗料と、該カチオン電着塗料の塗膜の上に、熱硬化型塗料の塗膜を設けることが開示されている。
【0009】
近年、ユーザーの嗜好により、装飾モールの色を、車体や枠体と同色にするという要求があり、装飾モールを多色化する必要が生じている。
【0010】
さらに、枠体を射出成形で窓ガラスに形成し、射出成形時に装飾モールをキャビティ空間に保持して、枠体の成形と装飾モールの枠体への固定が同時に行われる場合には、キャビティ空間を高温・高圧の溶融樹脂が流動するので、そのような高温・高圧に対して、装飾モール表面に、変形・変色等の外観不良が生じることがあり、特に、金型のキャビティ空間に装飾モールを固定するための固定部付近に外観不良が生じやすく、そのような外観不良の生じにくい装飾モールが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平6−72144号公報
【特許文献2】特開2007−001535号公報
【特許文献3】特開2008−001122号公報
【特許文献4】特開2008−174663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
射出成形によって窓ガラスに枠体が成形され、枠体の射出成形と同時に枠体に固定される装飾モールにおいて、射出成形時の外観不良が発生せず、多色化に対応する装飾モールおよび枠体付き車両用窓ガラスの提供を可能にする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の装飾モールは、枠体付き車両用窓ガラスの枠体に固定される装飾モールにおいて、枠体が溶融樹脂の射出成形によってガラスの周辺部に形成され、射出成形時に枠体に固定される装飾モールであって、該装飾モールの形状部が金属で形成され、該装飾モールの形状部の表面にカチオン電着塗装膜が形成され、該カチオン電着塗装膜の上に樹脂膜が塗膜されてなることを特徴とする装飾モールである。
【0014】
また、本発明の装飾モールは、前記装飾モールにおいて、樹脂膜に顔料あるいは染料が混入されてなることを特徴とする装飾モールである。
【0015】
また、本発明の装飾モールは、前記装飾モールにおいて、樹脂膜がメラミン系、アクリル系、ポリエステル系、フッ素系、エポキシ系から選ばれる1種以上の樹脂でなることを特徴とする装飾モールである。
【0016】
また、本発明の枠体付き車両用窓ガラスは、前記枠体付き車両用窓ガラスにおいて、射出成形用金型に設置されるガラスの周辺部にキャビティ空間が形成され、該キャビティ空間に前記本発明による装飾モールが保持され、溶融状態の樹脂がキャビティ空間に射出されて枠体が形成され、装飾モールが枠体に固定されてなることを特徴とする枠体付き車両用窓ガラスである。
【0017】
また、本発明の枠体付き車両用窓ガラスは、前記枠体付き車両用窓ガラスにおいて、樹脂膜に混入される顔料あるいは染料によって、装飾モールが枠体あるいは車体と同色になっていることを特徴とする枠体付き車両用窓ガラスである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の装飾モールおよび枠体付き車両用ガラスは、多様な色に対する要求に対応できる装飾モールが枠体に固定されてなる枠体付き車両用窓ガラスの提供を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】装飾モールの構成を示す概略断面図である。
【図2】装飾モールを用いて作製される、枠体付き車両用ガラスの端部の概略断面図である。
【図3】本発明の枠体付き車両用ガラスを作製する、金型の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の装飾モールは、枠体付きガラスの枠体が射出成形で形成され、装飾モールが射出成形の金型のキャビティ空間に設置され、溶融樹脂がキャビティ空間に射出され、装飾モールが枠体に固定される枠体付き車両用窓ガラスの作製に用いるものである。
【0021】
本発明による装飾モールは、図1に示すように、装飾モール10の形状部13にカチオン電着塗装膜12が形成され、さらに、カチオン電着塗装膜12の上に樹脂膜11が形成されている。
【0022】
形状部13は、ステンレス鋼、鉄、鋼、アルミニウムなどの金属材料を、プレス成形、押し出し成形、引抜法などで成形されたものを好適に用いることができる。
【0023】
カチオン電着塗膜12には、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリウレタンポリオール、ポリオレフィンポリオールおよびアクリルポリオールなどをイソシアナート基、カルボキシル基およびエポキシ基などで変性させた樹脂組成物を用いることができる。
【0024】
カチオン電着塗装膜12は、金属に対して密着性がよく、樹脂膜11と金属材料でなる形状部13との密着性を向上させる。
樹脂膜11には、メラミン系、アクリル系、ポリエステル系、フッ素系、エポキシ系などの樹脂を用いることができ、樹脂膜の種類によっては、塗布後加熱処理をして、樹脂膜の強度を向上させてもよい。
【0025】
樹脂膜11を塗布することにより、装飾モールの耐久性を向上させることができ、好ましい。
【0026】
また、樹脂膜11によって、装飾モールの表面の光沢性を与えることができるので好ましい。
【0027】
メラミン系樹脂でなる樹脂膜は、耐熱性に優れており、枠体の射出成形において、高温高圧の溶融樹脂に接しても変性することが無いので、特に好ましい。
【0028】
さらに、カチオン電着塗膜12や樹脂膜11に用いる塗料に着色顔料を含有させて、装飾モール10を着色し、枠体や車体の色と同色にすることができ、好ましい。
【0029】
着色顔料としては、特に限定しないが、酸化チタン、カーボンブラック、酸化鉄などの無機顔料、アニリンブラック、バーミリオンレッド、レーキレッド、フタロシアニンブルー、ファストスカイブルーのような有機顔料が使用できる。
【0030】
図2は、装飾モール10が、ガラス15の枠体14に固定されている枠体付き車両用窓ガラス1である。
【0031】
装飾モール10は、枠体を装飾する他に、枠体の強度不足を補う補強材としての作用も有する。
【0032】
枠体14を形成する樹脂には、スチレン系、オレフィン系、塩化ビニル系、ウレタン系等の熱可塑性エラストマーを用いることができる。
【0033】
図3は、装飾モール10の、キャビティ空間19を形成する射出成形用金型20への設置を示すもので、上金型(開閉型)17と下金型(固定型)18との間に、ガラス15が設置され、さらに、ガラス15の周辺部に枠体を形成するためのキャビティ空間19が、上金型(開閉型)17と下金型(固定型)18との間に形成される。
【0034】
キャビティ空間19に溶融樹脂が射出されて枠体を形成され、同時に枠体に装飾モール10が固定される。
【0035】
装飾モール10の射出成形用金型20への固定は、図示しない電磁力や押しピンなどで行うことができる。
溶融樹脂がキャビティ空間に射出されて、枠体が形成された後、上金型(開閉型)17を上方に開いて、枠体が形成されたガラスを取り出して、図2に示すような、本発明の枠体付き車両用窓ガラス1が製作される。
【0036】
図3には、キャビティ空間19を形成する上金型(開閉型)17に装飾モール10を設置しているが、装飾モール10は下金型(固定型)18に設置してもよい。
【0037】
さらに図3のような上金型(開閉型)が上下に開閉する金型ではなく、開閉型が横開きする金型を用いてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、図面を参照しながら本発明を詳細に説明する。ただし本発明は係る実施例に限定されるものではない。
【0039】
図1に示す装飾モール10を次のようにして作製した。
【0040】
装飾モール10の形状部材13には、ステンレス鋼製の板をプレス成形して作製したものを用いた。
【0041】
形状部材13に、ウレタン変性アクリル樹脂を主とするカチオン電着塗料にカーボンブラックの顔料を混入したものを用いてカチオン電着塗装膜12を形成し、さらに、カチオン電着塗装膜12の上に樹脂膜11としてメラミン系樹脂を塗膜した。
【0042】
なお、カチオン電着塗装膜12の形成後、および樹脂膜(メラミン系樹脂膜)11の形成後のそれぞれにおいて、170〜200℃の温度範囲で、15〜20分程度の焼成を行った。
【0043】
本実施例の枠体を成形するガラス15には、厚み3mmの板ガラスを所定の形状に曲げ加工した自動車用の窓ガラスを用いた。
【0044】
図3のように、上金型17と下金型18との間にガラス15を設置し、装飾モール10が固定されているキャビティ空間10に、塩化ビニル系の溶融樹脂を射出して、図2の枠体付き車両用窓ガラスを作製した。
【0045】
なお、装飾モール10の固定は、図示しない電磁石により固定した。
【0046】
本実施例で作製した装飾モールが固定されてなる枠体付き車両用窓ガラスは、装飾モールの表面に変形・変色等の外観不良が認められない、良好なものであった。
【符号の説明】
【0047】
1 枠体付き車両用窓ガラス
10 装飾モール
11 樹脂膜
12 カチオン電着塗装膜
13 形状部材
14 枠体
15 ガラス
16 リップ部
17 上金型(開閉型)
18 下金型(固定型)
19 キャビティ空間
20 射出成形用金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠体付き車両用窓ガラスの枠体に固定される装飾モールにおいて、枠体が溶融樹脂の射出成形によってガラスの周辺部に形成され、射出成形時に枠体に固定される装飾モールであって、該装飾モールの形状部が金属で形成され、該装飾モールの形状部の表面にカチオン電着塗装膜が形成され、該カチオン電着塗装膜の上に樹脂膜が塗膜されてなることを特徴とする装飾モール。
【請求項2】
樹脂膜に顔料あるいは染料が混入されてなることを特徴とする請求項1に記載の装飾モール。
【請求項3】
樹脂膜がメラミン系、アクリル系、ポリエステル系、フッ素系、エポキシ系から選ばれる1種以上の樹脂でなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の装飾モール。
【請求項4】
射出成形用金型に設置されるガラスの周辺部にキャビティ空間が形成され、該キャビティ空間に請求項1から請求項3に記載の装飾モールが保持され、溶融状態の樹脂がキャビティ空間に射出されて枠体が形成され、該装飾モールが枠体に固定されてなることを特徴とする枠体付き車両用窓ガラス
【請求項5】
樹脂膜に混入される顔料あるいは染料によって、装飾モールが枠体あるいは車体と同色になっていることを特徴とする請求項6に記載の枠体付き車両用窓ガラス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−215133(P2010−215133A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65341(P2009−65341)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【出願人】(591166260)タカラ化成工業株式会社 (3)