説明

装飾体及びその製造方法

【課題】本発明は、金属材料を用いることなく金属光沢のような質感と深みを備えるとともに自由度の高いデザインを可能とする装飾体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【解決手段】装飾体は、透明樹脂材料からなる本体部1の内部に反射薄膜部2が形成されている。反射薄膜部2は、正六角錐の上部を切断した形状に形成されており、上方から見た場合見る角度により反射薄膜部2の面が全反射して銀のような金属光沢を表出するようになる。また、本体部1の上半分は透明であるが、下半分は透明で着色されている。反射薄膜部2を構成する透明材料は、本体部1の透明樹脂材料よりも小さい屈折率を有しており、見る角度によって全反射する面が生じる。そのため、金属光沢のような質感を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明な本体部の内部においてデザイン化された所定形状の反射面が浮かび上がる装飾体に関する。
【背景技術】
【0002】
装飾品としては、古来より宝石や貴金属が使用されてきているが、こうした天然物以外にも様々な人工物も開発されてきている。金属、セラミック又はプラスチックといった材料を用いてデザイン、色彩、質感等を工夫してこれまでに多くの装飾品が生み出されてきている。例えば、眼鏡の分野においては、特許文献1では、非装飾部材の透孔に凹凸模様のある樹脂板を嵌め込み、樹脂板に流動状態の樹脂材料を注入してステンド装飾体を形成する点が記載されている。また、特許文献2では、眼鏡の一部に貫通形成された穴に母材を取り付けて液状の樹脂材料を注入し樹脂材料が硬化した後母材を離型させる樹脂装飾部の形成方法が記載されている。特許文献3では、眼鏡枠の基材表面にアクリル系エポキシ樹脂を塗布して螺鈿をちりばめた装飾部を形成した点が記載されている。また、特許文献4では、色調を異にする複数の合成樹脂層を含む積層合成樹脂製の眼鏡部品の表層を適宜除去して色長変化を表出するようにした点が記載されている。また、特許文献5では、メガネフレームの開口部に樹脂を充填し、その樹脂層内に模様や文字等を形成したシートを埋設した点が記載されている。また、特許文献6では、眼鏡枠の表面に窪みを設け、流動状態の樹脂材料を注入固化して装飾体を形成し、装飾体の表面に凹部を形成して異なる色の樹脂材料を注入固化する眼鏡枠の装飾方法が記載されている。
【特許文献1】特開2005−338316号公報
【特許文献2】特開2005−199534号公報
【特許文献3】特開2004−177909号公報
【特許文献4】特開2000−292753号公報
【特許文献5】特開平09−090294号公報
【特許文献6】特開平06−034922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述した先行文献では、樹脂材料の加工容易性、色彩の多様性を利用して眼鏡の装飾効果を高めているが、樹脂材料だけでは宝石や貴金属のような質感や光沢を表出させることが難しいことから、螺鈿や金属材料等を用いて光沢や質感を高めるようにしている。
【0004】
しかしながら、こうした金属材料等の装飾材料を樹脂材料に埋設する場合、装飾材料自体の加工を行わねばならず、また装飾材料を埋設するための加工が必要になることから樹脂材料の成形加工が制約される。そのため、樹脂材料の加工容易性を十分生かした装飾品が作成できなかった。
【0005】
そこで、本発明は、金属材料を用いることなく金属光沢のような質感と深みを備えるとともに自由度の高いデザインを可能とする装飾体及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る装飾体は、透明樹脂材料からなる本体部と、本体部の内部に所定の形状に区画されて設けられるとともに前記透明樹脂材料と同じ屈折率を有する透明なエラストマーからなる少なくとも1つの装飾ブロック部と、前記透明樹脂材料よりも小さい屈折率を有する透明材料からなるとともに本体部と装飾ブロック部との間の少なくとも一部に密着して形成された反射薄膜部とを備えていることを特徴とする。さらに、前記透明樹脂材料は、ポリアミド系樹脂材料であり、前記透明材料は、シリコンオイルであることを特徴とする。さらに、前記透明樹脂材料は、着色されていることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る眼鏡フレームは、上記の装飾体を埋設していることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る装飾体の製造方法は、互いに密着する接合面において所定形状の内部空間を少なくとも1つ形成する複数の本体分割部材を透明樹脂材料を用いて成形する本体成形工程と、前記透明樹脂材料と同じ屈折率を有する透明なエラストマーを用いて前記内部空間に合致する形状の装飾ブロックを成形するブロック成形工程と、前記内部空間を画定する面及び/又は前記装飾ブロックの表面の少なくとも一部に前記透明樹脂材料よりも小さい屈折率を有する液状の透明材料を付着させる付着工程と、透明材料を付着させた後前記装飾ブロックを前記内部空間に収容して前記本体分割部材の接合面を接着させる接着工程とを備えることを特徴とする。さらに、前記本体成形工程では、前記本体分割部材を互いに異なる色に着色して成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る装飾体は、透明樹脂材料からなる本体部及び透明樹脂材料と同じ屈折率の透明エラストマーからなる装飾ブロック部の間に、透明樹脂材料よりも小さい屈折率を有する透明材料からなる反射薄膜部を備えているので、装飾体の外部から内部の反射薄膜部を見ると、角度によって反射薄膜部において光の全反射が生じるようになって銀のような金属光沢が表出するようになる。また、本体部及び装飾ブロック部は樹脂材料及びエラストマーで形成されているため、その形状は様々なデザインに加工することが容易で、例えば、ダイヤモンドカットのような立体形状に形成することもできる。そして、本体部及び装飾ブロック部は、共に透明で同じ屈折率であるため、装飾体の外部からは両者の区別は視認できず、反射薄膜部も透明材料からなるため、反射薄膜部の全反射面のみが装飾体の内部にあたかも浮かび上がるように見え、金属光沢の質感と深みを醸し出すことが可能となる。
【0010】
また、透明樹脂材料としてポリアミド系樹脂材料を用い、透明材料としてシリコンオイルを用いることで、透明性の高い装飾品を得ることができる。また、液状のシリコンオイルを用いることで、様々な形状の装飾ブロック部に対してもその表面に確実に薄膜を形成することができる。
【0011】
また、透明樹脂材料を着色すれば、反射薄膜部の光の全反射により色の濃淡が表出するようになり、さらに装飾効果を高めることができる。
【0012】
本発明に係る装飾体の製造方法は、所定形状の内部空間を少なくとも1つ形成する複数の本体分割部材を成形して、エラストマーを用いて内部空間に合致するように成形した装飾ブロックを内部空間に収容して製造しているので、エラストマーの弾力性により内部空間を画定する面に装飾ブロックがほぼ均一に密着するようになり、両者の間に付着した液状の透明材料が付着面全体に拡がってほぼ均一な薄膜が形成されるようになり、装飾ブロックのデザイン形状に忠実に対応した反射面を表出させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態について詳しく説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明を実施するにあたって好ましい具体例であるから、技術的に種々の限定がなされているが、本発明は、以下の説明において特に本発明を限定する旨明記されていない限り、これらの形態に限定されるものではない。
【0014】
図1は、本発明に係る実施形態に関する平面図(図1(a))、正面図(図1(b))及び底面図(図1(c))を示している。装飾体は、透明樹脂材料からなる本体部1の内部に反射薄膜部2が形成されている。反射薄膜部2は、正六角錐の上部を切断した形状に形成されており、上方から見た場合見る角度により反射薄膜部2の面が全反射して銀のような金属光沢を表出するようになる。また、本体部1の上半分は透明であるが、下半分は透明で着色されている。
【0015】
図2は、図1(a)のA−A断面図で1つの反射薄膜部2の断面を拡大して示している。反射薄膜部2は、本体部1及び装飾ブロック部3の間に形成されており、傾斜面を上方から見ると光線L1に示すように全反射されて金属光沢を表出するが、水平面を上方から見ると光線L2に示すように光線が反射薄膜部2を透過して透明に見える。こうした全反射により金属光沢を表出する面は見る角度により様々に変化することから、金属光沢の質感、立体感及びデザインの深みを醸し出すことができる。
【0016】
逆に装飾体を底面側から見ると、反射薄膜部2の全反射している傾斜面では黒く表出するようになり、中央の水平面は光が透過して着色した色による透明感が際立ったこれまでにないデザインが装飾体の内部に表出される。
【0017】
こうした全反射による装飾効果を得ることができるのは、本体部1及び装飾ブロック部3を構成する材料の屈折率が反射薄膜部2を構成する材料の屈折率よりも大きく設定されていることに基づいている。本体部1及び装飾ブロック部3が同じ屈折率で透明材料であり、反射薄膜部2も透明材料であれば、全反射面のみが視認されて装飾体の内部に浮き上がって見えるようになる。そして、見る角度により全反射面が変化していくため、興趣に富んだ装飾効果を得ることができる。
【0018】
本体部1としては、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂等の透明樹脂材料が挙げられる。また、装飾ブロック部3としては、こうした透明樹脂材料のエラストマーを用いるとよく、同種の樹脂材料を使用することで、同じ屈折率に設定するのが容易になる。本体部1及び装飾ブロック部3に用いる樹脂材料には、透明性や屈折率に影響を与えない程度に着色剤等の添加剤、金や銀の微粉末等の装飾材を混合してもよい。
【0019】
反射薄膜部2としては、シリコンオイル等の液状の透明材料が挙げられ、本体部1の透明樹脂材料よりも屈折率が小さくなるように設定する。こうした透明材料は、低粘度で流動性が高い特性を備えていることで、本体部1及び装飾ブロック部3との間に満遍なく拡がってデザイン通りの形状を実現することが可能となる。
【0020】
次に、本実施形態に関する製造方法を説明する。装飾体を製造する場合、まず、本体部1を構成する本体分割部材の成形を行う。図3は、本体部1を構成する本体分割部材1a及び1bを示す斜視図である。本体分割部材1aは、透明樹脂材料を原料として射出成形により直方体状に成形される。接合面には、装飾ブロック3と同一形状の凹部1cが複数形成されている。また、本体分割部材1bは、本体分割部材1aと同じ透明樹脂材料に着色剤を均一に混合したものを原料として射出成形により直方体状に成形される。本体分割部材1bの接合面は、平面状に形成されている。
【0021】
本体分割部材は、この例のような直方体状以外に成形することも可能で、装飾体の形状に合せて様々な形状に成形すればよい。そして、本体分割部材同士の接合面についても互いに密着して接合する形状であればよく、特に限定されない。また、接合面に形成する装飾ブロックを収容する凹部についても両方の接合面に形成して接合したときに合体した凹部の内部空間が装飾ブロックと合致していればよく、装飾ブロックの形状に合せて適宜凹部を成形すればよい。さらに、本体分割部材を成形した後に切削加工により凹部を形成するようにしてもよい。
【0022】
次に、装飾ブロックの成形を行う。図4は、装飾ブロック3aを示す斜視図である。装飾ブロック3aは、透明なエラストマーを原料として射出成形により成形される。上述したように、原料となるエラストマーは、本体分割部材に用いる透明樹脂材料と同じ屈折率を有する。そして、装飾ブロック3aの形状は、本体分割部材の接合面に形成される凹部に合致する形状に成形されている。
【0023】
図5は、本体分割部材及び装飾ブロックを組み合せて装飾体を作成する工程を示す説明図である。各部材を組み合せる場合、まず、装飾ブロック3aの表面に反射薄膜部となる液状の透明材料を適量付着させる。液状の透明材料を付着させるには、スプレー等による吹き付け、刷毛等による塗布又は浸漬といった方法で行えばよい。装飾ブロックが小さい場合には、吹き付けによる方法が全体にほぼ均等に付着させることができる。
【0024】
装飾ブロック3aの表面に液状の透明材料を付着させる場合には、反射薄膜部を形成する面に付着させればよく、全表面に付着させなくてもよい。また、液状の透明材料を付着させる場合には、凹部1cの内面に付着させてもよく、装飾ブロック3aの表面及び凹部1cの内面の両方に付着させてもよい。
【0025】
そして、液状の透明材料が付着した装飾ブロック3aを本体分割部材1aの接合面に形成した凹部1cに嵌め込んで収容する。本体分割部材1bの接合面に予め透明な接着剤を塗布しておき、真空の環境下において、装飾ブロック3aが収容された本体分割部材1aの接合面に本体分割部材1bの接合面を接合させてプレス機等により両者を圧着する。
【0026】
本体分割部材を接着する接着剤としては、透明な樹脂製接着剤を使用するのが好適である。こうした接着剤としては、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂等の接着剤が挙げられ、本体分割部材の透明樹脂材料と同種の接着剤を用いるのが好ましい。
【0027】
本体分割部材を接合圧着させる場合、装飾ブロック3aは、凹部1cと同一の形状に形成されているため、液状の透明材料を付着させて凹部1cに収容すると液状の透明材料が付着している分凹部1cからわずかにはみ出すようになっているが、装飾ブロック3aがエラストマーからなっているため本体分割部材1bにより圧接されて凹部1c内に圧着された状態となる。そのため、装飾ブロック3aの表面に付着した液状の透明材料がその表面全体に満遍なく拡がって凹部1cの内面との間に密着して保持される。また、真空状態で接合圧着されるため、凹部1cと装飾ブロック3aとの間に気泡が残ることはなく、均一な反射薄膜部が形成される。
【0028】
図6は、本実施形態である直方体状の装飾体を取り付けた眼鏡フレームに関する斜視図である。この例では、樹脂製の眼鏡フレーム11のテンプル11aに装飾体10を埋設しており、ワンポイントの装飾体として好適である。また、装飾体も樹脂材料で構成されているため、埋設加工も容易に行うことができる。装飾体の大きさ及び形状についても容易に変更することができ、テンプル以外のモダンやリム等の部位の埋設箇所に応じて適宜変更して埋設加工することも容易に行える。
【実施例】
【0029】
本体分割部材の原料として、ポリアミド系樹脂材料(ダイセル・デグサ株式会社製)を用い、装飾ブロックの原料として、ポリアミド系樹脂エラストマー(エムス社製)を用いて、図3に示すような形状に射出成形した。次に、シリコンオイル(株式会社コーザイ製)をスプレーにより装飾ブロックの表面に適量付着させて本体分割部材の凹部内に嵌め込んで収容した。次に、本体分割部材の接合面にポリアミド系樹脂からなる透明な接着剤を塗布し、真空中において本体分割部材同士を接合させてプレス機により両者を圧着した。
【0030】
出来上がった装飾体は、本体分割部材同士が接着接合し、内部に装飾ブロックのデザインに対応した反射薄膜部が浮かび上がるように形成されていた。反射薄膜部は、見る角度により全反射する面が変化して金属光沢の質感と深みが醸し出されていた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に係る実施形態に関する平面図、正面図及び定面図である。
【図2】図1のA−A断面に関する一部拡大断面図である。
【図3】本体分割部材を示す斜視図である。
【図4】装飾ブロックを示す斜視図である。
【図5】本実施形態に関する製造工程を示す説明図である。
【図6】本実施形態の装飾体を埋設加工した眼鏡フレームを示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 本体部
2 反射薄膜部
3 装飾ブロック部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂材料からなる本体部と、本体部の内部に所定の形状に区画されて設けられるとともに前記透明樹脂材料と同じ屈折率を有する透明なエラストマーからなる少なくとも1つの装飾ブロック部と、前記透明樹脂材料よりも小さい屈折率を有する透明材料からなるとともに本体部と装飾ブロック部との間の少なくとも一部に密着して形成された反射薄膜部とを備えていることを特徴とする装飾体。
【請求項2】
前記透明樹脂材料は、ポリアミド系樹脂材料であり、前記透明材料は、シリコンオイルであることを特徴とする請求項1に記載の装飾体。
【請求項3】
前記透明樹脂材料は、着色されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の装飾体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の装飾体を埋設していることを特徴とする眼鏡フレーム。
【請求項5】
互いに密着する接合面において所定形状の内部空間を少なくとも1つ形成する複数の本体分割部材を透明樹脂材料を用いて成形する本体成形工程と、前記透明樹脂材料と同じ屈折率を有する透明なエラストマーを用いて前記内部空間に合致する形状の装飾ブロックを成形するブロック成形工程と、前記内部空間を画定する面及び/又は前記装飾ブロックの表面の少なくとも一部に前記透明樹脂材料よりも小さい屈折率を有する液状の透明材料を付着させる付着工程と、透明材料を付着させた後前記装飾ブロックを前記内部空間に収容して前記本体分割部材の接合面を接着させる接着工程とを備えることを特徴とする装飾体の製造方法。
【請求項6】
前記本体成形工程では、前記本体分割部材を互いに異なる色に着色して成形することを特徴とする請求項5に記載の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−12777(P2008−12777A)
【公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−186112(P2006−186112)
【出願日】平成18年7月5日(2006.7.5)
【出願人】(302010585)有限会社前澤金型 (2)