説明

裏写りを生じない孔版印刷法及び孔版印刷装置

【目的】 孔版印刷に於いて裏写りを起すことなくかすれや繊維の白抜け影をなくす。
【構成】 穿孔された孔版原紙の一方の面よりインキを層状に供給し、孔版原紙の他方の面に被印刷面を押合わせ、インキ層を押圧手段により押圧し、押圧手段によりインキ層の流動が阻止されている間に被印刷面を孔版原紙の他方の面より引き離す。この場合孔版原紙の他方の面と被印刷面が押し合されるに先立って孔版原紙を経てインキを予め押出すことにより、孔版原紙の繊維により印刷画像に白抜け影が生ずることを回避して裏写りをなくすることができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、孔版印刷法に係り、特に孔版原紙の穿孔部に於けるインキの移動態様を制御することに係る。
【0002】
【従来の技術】孔版印刷とは、穿孔された孔版原紙の一方の面にインキを層状に供給し、このインキ層に押圧力を加え、該孔版原紙の穿孔部を経てインキを原紙の他方の面へ移動させ、この原紙穿孔部を通って移動したインキを該他方の面に押し合わされた被印刷面に付着させる印刷法である。
【0003】かかる孔版印刷が、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷の如き他の印刷法と比較して大きく異なることの一つは、順次行われる多数回(多数枚)の印刷に対して、インキが、各印刷回に対する明確な区切りなく、連続して供給されることである。即ち、孔版印刷に於ては、穿孔された孔版原紙の一方の面に施されたインキの層は一回(一枚)の印刷によって消尽する量のものではなく、通常少なくとも数回(数枚)の印刷を行うに十分な量であり、特に近年孔版印刷の主流になっている比較的流動性の低い(即ち硬い)インキによる孔版印刷に於ては、孔版原紙の一方の面に施されるインキ層はかなり厚いことがあり、かかるインキ層はしばらくの間インキの補給が中断されても、優に数十回(数十枚)、また場合によっては数百回(数百枚)、の印刷を支障なく行なうことができる量のインキを擁していることがある。
【0004】孔版印刷は、穿孔されその上に上記の通り数回乃至数百回の印刷を行うことができる量のインキを擁するインキ層を施された孔版原紙を、各印刷回毎に被印刷面上に押当て、インキ層の上から押圧力を加え、孔版原紙の孔を通ってインキ層のインキの一部を被印刷面上へ移動させ、そこに付着させ、次いでインキ層に加える押圧力を解除し、孔版原紙と被印刷面とを互いに引離す一連の過程により行われる。この場合、孔版原紙と被印刷面とを引離す際に如何程の量のインキがインキ層より分れて被印刷面上へ移転するかは、インキの流動性(或いは硬さ)や粘性、インキと被印刷面の間の親和性、孔版原紙の孔の大きさ等によって定まり、このインキ転移量が多過ぎると印刷画像のにじみとなり、又それが少な過ぎると印刷画像のかすれとなる。
【0005】孔版原紙の穿孔が、赤外線を吸収して発熱する炭素分を含む黒色の原稿画像上にプラスチックフィルムを有する感熱性孔版原紙を重ね合せ、プラスチックフィルムの側から原稿へ向けて赤外線に富んだ光線を照射し、画像の黒色部にて吸収された赤外線による熱によってプラスチックフィルムの対応箇所を溶融して原稿画像に倣った孔版原紙の穿孔を行う感熱複写穿孔方式にて行われる場合には、孔版原紙に明けられる孔の大きさは画像に於ける黒色部の大きさに応じて大小様々に大きく異なる。従って、かかる感熱複写穿孔の場合には、孔版原紙の孔を通過するインキの流れの量を、孔がインキの流れに対し及ぼす流れ抵抗の度合によって適性に制御するように、インキの流動性や粘性を広範囲に変化する孔の大きさに合せて適正化することは、非常に困難である。従って、孔の小さいところに於てもかすれを生じない印刷を行うためには、孔の大きいところでは不可避的にインキ転移量は過剰となり、画像はにじむ傾向にある。
【0006】感熱性孔版原紙をドット式サーマルヘッドを用いたドットマトリックス感熱製版方式にて穿孔する場合には、孔版原紙に明けられる孔は画像の黒色部の大小に拘らず一つ一つはほぼ同じ大きさの微小な孔として形成されるが、かかる穿孔方式にて穿孔された孔版原紙を用いて孔版印刷を行う場合にも、やはり各ドットの印刷に於けるインキ転移量がインキ層からのインキのちぎれ具合によって左右される孔版印刷の特性上、画像の如何なる部分にもかすれのない印刷を確保するためには、全体としてのインキ転移量は、凸版印刷、凹版印刷、オフセット印刷等の他の印刷法による場合に比して、多くされざるを得ない。そのため孔版印刷に於ては、被印刷面が印刷直後に他の物体に接すると、該物体にインキが転移するという問題、即ち印刷物がシートである場合に印刷を施されたシートが印刷直後に順次重ね合わされると、下側のシートのインキが上側のシートの裏に付着してこれを汚すという、所謂裏写りが生ずるという問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、孔版印刷に於ける上記の裏写りの問題に対処し、かかる裏写りを無くすと共に鮮明な孔版印刷画像を得ることのできる孔版印刷法を提供することを課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】かかる課題は、本発明によれば、穿孔された孔版原紙の一方の面よりインキを層状に供給し、該孔版原紙の他方の面を被印刷面に押し合わせ、押圧手段により前記インキ層に押圧力を加えて該インキ層のインキを該孔版原紙の前記一方の面より該孔版原紙の穿孔部を経て前記他方の面へ移動させ、かくして移動したインキを前記被印刷面に付着させる孔版印刷法に於いて、前記他方の面と前記被印刷面とが実質的に接した状態にて前記押圧手段により前記インキ層に押圧力を加えた後、前記押圧手段により前記孔版原紙に対する前記インキ層の相対的流動が実質的に阻止されている部分にて前記被印刷面を該孔版原紙の前記他方の面より引き離すことを特徴とする孔版印刷法によって達成される。
【0009】
【作用】上記の如く、穿孔された孔版原紙の一方の面よりインキを層状に供給し、該孔版原紙の他方の面を被印刷面に押合わせ、押圧手段により前記インキ層に押圧力を加えて該インキ層のインキを該孔版原紙の前記一方の面より該孔版原紙の穿孔部を経て前記他方の面へ移動させ、かくして移動したインキを前記被印刷面に付着させた後、前記押圧手段により前記孔版原紙に対する前記インキ層の相対的流動が実質的に阻止されている部分にて前記被印刷面を該孔版原紙の前記他方の面より引き離すときには、被印刷面が孔版原紙より引き離されるにつれてインキ層のインキが被印刷面へ向けて引き出されようとしても、孔版原紙よりの被印刷面の引き離しが行なわれようとしているところでは、インキ層のインキは孔版原紙の孔を通過する方向へ移動することができないので、インキは被印刷面に接する極く少量の部分のみしか被印刷面に付着せず、かくして被印刷面上には孔版原紙の穿孔に忠実に倣った一様な比較的薄いインキの層が形成される。
【0010】インキは非圧縮性の流動体であるから、孔版原紙の前記他方の面に被印刷面が押しあてられた状態にてインキ層に押圧手段により押圧力を加えた後、孔版原紙に対するインキ層の相対的流動を実質的に阻止して被印刷面を孔版原紙の前記他方の面より引き離す作用は、例えばインキ層を実質的に剛固な押圧手段にて直接押圧し、その後孔版原紙と押圧手段の間の相対的位置を不変に保った状態で、被印刷面を孔版原紙の前記他方の面より引き離すことによって容易に達成される。あるいはまた、かかる孔版原紙よりの被印刷面の引き離しに際して、インキ層に押圧手段によってその体積を拡大しようとするような作用が及ぼされるときには、一旦被印刷面上に付着したインキが逆にインキ層へ向けて吸取られる現象が生じ、本発明が意図する裏写り防止はより一層効果的に達成される。
【0011】上記の孔版印刷法に於て、前記押圧力は前記孔版原紙の前記他方の面が前記被印刷面と実質的に接触する以前から始まって前記インキ層に加えられてよい。
【0012】上記の孔版印刷法は、内面より外面へインキを通す多数の孔を有し自身の中心軸線の周りに回転する印刷ドラムと、前記印刷ドラムに平行に配置され自身の中心軸線の周りに回転し前記印刷ドラムの前記外面に対向してその間に挾み部を形成する裏押しローラと、自身の中心軸線の周りに回転するよう前記印刷ドラムに平行に配置され該印刷ドラムの前記内面に対向し該印刷ドラムの前記内面にインキを供給し該印刷ドラムの前記内面上に供給されたインキ層を前記挾み部の部分にて押圧して前記インキ層のインキを前記印刷ドラムの前記孔を経て前記該印刷ドラムの前記外面へ向けて押圧するインキ付けローラと、印刷用紙を前記挾み部の出口側にて前記裏押しローラ上に付着した状態に保持する手段とを有すること特徴とする輪転式孔版印刷装置により実施されてよい。
【0013】上記の輪転式孔版印刷装置に於て、前記印刷用紙を前記挾み部の出口側にて前記裏押しローラ上に付着した状態に保持する手段は前記裏押しローラに設けられて前記印刷用紙の前縁を保持するクランプと前記挾み部の出口側にて前記印刷用紙の両縁を前記裏押しローラ上に押しつける一対の押えローラを有していてよく、或いは又前記挾み部の出口側にて前記裏押しローラ上に前記印刷用紙を引きつけるべく前記裏押しローラ内に真空を与える手段を有していてよい。
【0014】
【実施例】以下に本発明を添付の図を参照して実施例について詳細に説明する。
【0015】図1は、従来の孔版印刷法と対比して上記の原理による本発明の孔版印刷法を輪転式孔版印刷機に適用した場合の実施例を示す概略図である。
【0016】図1に於いて、1A、1B、1C、1Dは、従来の孔版印刷法による輪転式孔版印刷機によって印刷が行なわれる過程を順に示す。従来の輪転式孔版印刷機は、一般に多孔性の円筒壁を有する印刷ドラム1と、これに向い合って配置された裏押しローラ2とを有し、これら両者の互いに近接して向い合った周面の間に印刷用紙を挾み込んでこれに印刷を施す挾み部3が形成されている。印刷ドラム1の内部には、該印刷ドラムの内周面にインキを供給するインキ付けローラ4が設けられている。インキ付けローラ4は印刷ドラム1の回転に同期して印刷ドラム1の内面へ向かう方向又はこれより遠ざかる方向へ移動されるようになっていてよく、これによって印刷ドラム1の周りに装着された孔版原紙の印刷領域が挾み部3に位置しているときのみ印刷ドラム1の挾み部3に向い合った部分に内側から印刷のための押圧力を与えることができる。また印刷ドラムの外周面に沿って印刷ドラムより印刷用紙を剥ぎとるための剥し爪5が設けられている。
【0017】かかる輪転式孔版印刷機による印刷は、図の1Aに示す如く印刷ドラム1の周りに穿孔済みの孔版原紙Sが装着され、印刷ドラム1、裏押しローラ2、インキ付けローラ4がそれぞれ矢印の方向に回転されつつ印刷用紙Pが挾み部3へ向て送られる工程から始まる。これより印刷工程は図の1Bに示す如く進行し、印刷用紙Pは、挾み部3にて孔版原紙Sの穿孔部を通ったインキをその表面に施され、その後インキの付着力により印刷ドラム上に保持された状態にて暫く印刷ドラムと共に移動する。その後更に印刷工程が進行すると、印刷用紙の先端が剥し爪5に掛り、それ以後は図の1Cに示す如く、印刷用紙の残る後方部分の印刷が進むと同時に印刷用紙はその先端部より始まって順次印刷ドラムより剥がされ、印刷の終了時には図の1Dに示す状態に至る。
【0018】かかる従来の輪転式孔版印刷機と比較して、本発明を実施した輪転式孔版印刷機は、図の2A、2B、2C、2Dに示す如き過程を経て作動する。この場合、印刷機は、印刷ドラム1、裏押しローラ2、挾み部3、インキ付けローラ4の基本構成に於いては、図の1A〜1Dに示す従来のものと実質的に同じであってよいが、裏押しローラ2には、挾み部3を通過した印刷用紙を裏押しローラの側に付随させる印刷用紙保持手段が設けられており、図示の実施例に於いては、これは裏押しローラの周壁の一部に設けられ印刷用紙の先端を掴むクランプ6よりなっている。また裏押しローラ2の両端の周縁部に向い合って図示の位置に一対の押えローラ7が設けられており、クランプ6により先端を掴まれることにより裏押しローラに付随して移動してくる印刷用紙Pの両縁部を、裏押しローラにそのまま沿って移動するよう、この位置で裏押しローラに対し押しつけるようになっている。更に剥し爪8が裏押しローラ2の周縁に沿って図示の位置に設けられている。
【0019】かかる輪転式孔版印刷機による印刷も、図の2Aに示す如く印刷ドラム1の周りに穿孔済みの孔版原紙Sが装着され、印刷ドラム1、裏押しローラ2、インキ付けローラ4がそれぞれ矢印の方向に回転されつつ印刷用紙Pが挾み部3へ向て送られる工程から始まるが、しかしこの場合には、印刷用紙は、その先端が挟み部3に進入するに先立ってクランプ6により裏押しローラの周壁に固定され、挾み部3を通過した後、裏押しローラ2の側に付随して移動する。従って、この場合、印刷用紙は挾み部3にて孔版原紙の穿孔部に倣ってその表面にインキを施された後、インキ付けローラ4によるインキ層の押えが効いている領域にて孔版原紙より引き離される。印刷ドラムの周りに円筒面状に巻かれた孔版原紙と裏押しローラの周りに同じく円筒状に巻かれつつある印刷用紙の間には、原紙の穿孔部に対応する箇所に該穿孔部によって印刷されたインキの薄い層があるだけであり、円筒状孔版原紙表面と円筒状印刷用紙表面の間の接触は理論的にはその位置に於ける円筒体の母線に沿った線接触であるが、円筒状孔版原紙表面と円筒状印刷用紙表面はいずれもある程度の可撓性を有するので、実際には両者の間の接触部は比較的幅の狭い帯状領域にて生ずる。これに対し、孔版原紙のインキ供給側にあるインキ層は、かなりの厚みを有する層であり、そのためかかるインキ層のうちのインキ付けローラ4と接している帯状部分の帯幅はかなり大きく、その幅は上記の円筒状孔版原紙表面と円筒状印刷用紙表面の間の帯状接触領域の幅より大きい。従って、印刷用紙が、挾み部3に於ける上記の円筒状孔版原紙表面と円筒状印刷用紙表面の間の帯状接触領域にて孔版原紙の穿孔部に倣ってインキを施され、裏押しローラ2の側に付随して移動すると、印刷用紙はその表面に印刷を施され、該印刷に関与したインキ層の部分が未だインキ付けローラから解放されない状態にある間に、早々に孔版原紙より離れる。
【0020】図の2Bに示す程度まで印刷が進行すると、印刷用紙の先端のクランプ6による把持が解放されるが、ここでクランプが解放されても、印刷用紙はその両側縁部にて押えローラ7により押えられ、挾み部3を通過中の印刷用紙はそのまま裏押しローラ上に付着した状態に留る。そして更に印刷が進行し、図の2Cに示す如く、印刷用紙の先端が剥し爪8に掛り、印刷用紙の残る部分の印刷が行なわれると同時に、印刷用紙はその先端から順次裏押しローラより引き離されていき、図の2Dに示す如き状態にて印刷を終る。
【0021】図2は、図1の1A〜1Dに示した従来の孔版印刷法と図1の2A〜2Dに示した本発明による孔版印刷法に於ける原紙穿孔部の近傍のインキの挙動を幾分解図的に示す図である。図2の3A〜3Dが図1の1A〜1Dに対応しており、また図2の4A〜4Dが図1の2A〜2Dに対応している。
【0022】図の3A〜3Dに於いて、符号1〜4はそれぞれ図1の1A〜1Dに対応して印刷ドラム、裏押しローラ、挾み部、インキ付けローラを示す。印刷ドラム1には多数の小孔が設けられており、その一つが1aにて示されている。印刷ドラムの周りに装着された孔版原紙Sは、和紙または細い繊維を織成または編成してなる網材よりなる多孔性支持体Tと熱溶融性プラスチックのフィルムFを貼合わせたものであり、そのフィルムの部分に孔Faが明けられている。印刷用紙Pは挾み部3に於いて孔版原紙のフィルムFと裏押しローラ2の間に挿入される。印刷ドラムにはその内周面に沿ってインキ層Idが施されており、このインキは小孔1aを満し、更に孔版原紙の多孔性支持体Tの繊維間の隙間を満すよう原紙の内面に沿って薄い層をなすように広がり、またフィルムの孔Fa内にも達している。インキ付けローラ4の表面にもインキ層Irが保持されている。
【0023】印刷ドラム1の周りに円筒状に装着された孔版原紙Sと裏押しローラ2に追従してほぼ平面の形状より円筒形状に形を変えつつある印刷用紙Pとの間の接触は理論的には一のつ円筒体の母線に沿った線接触である。しかし孔版原紙Sと印刷用紙Pは何れも幾分かの可撓性を有しているので、これら両者の互いに接触する表面の間の接触は、実際には孔版原紙及び印刷用紙の可撓性、印刷ドラムの半径、裏押しローラの半径、孔版原紙と印刷用紙の間の押圧力等の要因に基いて定まる或る狭い幅の帯域である。
【0024】図2の3Aに示す状態に於いては、孔版原紙の孔Faの近傍にては、インキ付けローラは未だ印刷ドラムに接しておらず、また印刷用紙も未だ孔版原紙に接していない。
【0025】この状態から印刷用紙が挾み部3内に更に進行すると、図の3Bに示す如く孔版原紙のフィルム面に印刷用紙が接すると同時にインキ付けローラのインキ層Irが印刷ドラムのインキ層Idと繋がってインキ層Ihとなり、インキ付けローラの表面が印刷ドラムの内面に更に近付くにつれて、インキ付けローラと孔版原紙の間に閉込められたインキが押圧され、インキは孔版原紙の孔Faを通って印刷用紙の表面へ向けて押出される。尚このとき、従来のこの種の輪転式孔版印刷機に於ける如く、印刷用紙が孔版原紙のフィルム面に接するのとほぼ同時にインキ付けローラによるインキの押圧が始まる場合には、多孔性支持体Tを構成する繊維の間の隙間を通ったインキが該繊維の裏側の陰の部分へ回り込んでそこを満す前に、該繊維とフィルムと印刷用紙が押し合わされて、往々にして図の3BにVにて示す如きインキの来ない空隙部が生じる。しかしながら、もし望まれるならば、かかる空隙部は後程記述される要領にて、フィルムFと印刷用紙Pとが互いに実質的に接触する時点に対してフィルムの孔Faを通るインキの押出しを促進することにより回避でき、このことは裏写りを確実に回避しつつ行うことができる。
【0026】この後、従来の孔版印刷法に於いては、図1R>1の1Cに示す如く印刷用紙は暫く原紙に付着したままこれと共に移動し、その間にインキ付けローラは印刷ドラムの内面より離れるので、図の3Cに示す如く印刷用紙の表面と孔版原紙のフィルム面の間に孔Faに倣つたインキ層を保持した状態で、印刷ドラムのインキ層Idの内側表面は解放された状態となる。そして、この後印刷用紙が原紙より引き離されると、図の3Dに示す如くインキは印刷用紙への粘着によって引っ張られるにつれてインキ層Idのインキは比較的容易に原紙の孔を通って移動し、そのため印刷用紙上にはかなり分厚いインキの付着層Igが形成され、これが裏写りを起させる。
【0027】これと比較して、図2の4A〜4Dは、図1R>1の2A〜2Dに示す如き要領により行なわれる本発明による印刷法の場合のインキの挙動を、図の3A〜3Dに対応させて示す。この場合にも、図の4Bの状態までは従来と同じである。しかし、本発明の孔版印刷法の場合には、図の4Cに示す如く、印刷ドラムのインキ層Idの内側表面が未だ解放されていないうちに、即ち印刷ドラムと孔版原紙に対するインキ層Ihがインキ層の非圧縮性により印刷ドラム1とインキ付けローラ4の間に閉込められて移動できない状態にあるとき、印刷用紙は原紙より引き離される。
【0028】孔版原紙の小さな孔Faの周りの詳細を示すよう挾み部3が図2に示す程度に拡大されたときには、印刷ドラム1の内外面、裏押しローラ2の外面、インキ付けローラ4の外面、印刷ドラムの周りに装着された孔版原紙Sは何れも図2に示す如く直線状の輪郭線により近似される。
【0029】しかし拡大率がより小さい状態で見ると、挾み部3にて孔版原紙Sと印刷用紙Pとが直接接触する部分は比較的幅の狭い帯状領域である。一方挾み部3に於ける印刷ドラム1の円筒状内面とインキ付けローラ4の外面の間にあるインキ層はこれら両者の間に実質的に挾み込まれた状態にあり、インキの動きは或る帯状領域に於ける印刷ドラム1に対するインキ付けローラ4の相対的な動きによって支配され、この帯状領域の幅は印刷ドラム1の円筒状内面の半径とインキ付けローラ4の円筒状外面の半径の間の差、印刷ドラム1の円筒状内面とインキ付けローラ4の円筒状外面の間の最小間隔、印刷ドラム1の内面とインキ付けローラ4の間にあるインキ層Ihの厚みにより定まり、このインキ層Ihの厚みは孔版原紙或いは印刷用紙の厚みに比してかなり厚いので、インキ付けローラ4の半径が印刷ドラム1の半径の数分の1程度であるという構造にも拘らず、かかる微小領域についてみれば相対的にかなり高い粘性を有するインキの層の動きが印刷ドラム1とインキ付けローラ4の間の相対的動きにより規制される帯状領域の幅は、孔版原紙と印刷用紙とが挾み部3の領域にて互いに直に接触している帯状領域の幅に比して一般に大きい。
【0030】従って、挾み部3に於て、孔版原紙Sの円筒状表面と印刷用紙Pの円筒状表面の間の帯状接触領域に於て、孔版原紙の孔の形状に従って印刷用紙Pがインキを付着され、次いで印刷用紙Pが裏押しローラ2に追随した状態でこれと共に挾み部3の外へ移動すると、印刷用紙は孔版原紙のインキ供給側を満たすインキ層Ihがインキ付けローラ4による動きの規制から未だ解放されていない位置にて、孔版原紙より早々と引き離される。
【0031】従って、印刷用紙Pが孔版原紙Sより引き離されつつあるとき、インキ層Ihのインキが印刷用紙Pの表面へのインキの粘着力とインキの粘性により印刷用紙Pへ向けて移動しようとしても、孔Faの周りにインキ付けローラの実質的に剛固な壁により郭定された空間を満たしている非圧縮性のインキは膨張することができない。インキはかなり高い粘性を有するので、この規制された空間の周りにあるインキが短時間にこの規制領域内へ流入することはできない。従ってインキは孔版原紙より離れて行く印刷用紙に追随して移動することができない。或いは、逆に、印刷ドラム1の円筒状内面とインキ付けローラ4の円筒状外面の間の隙間はこの帯状領域の終端へ向けて増大しているので、インキ付けローラ4の実質的に剛固な壁により郭定された前記空間はこの帯状領域の終端へ向けて拡大しようとしており、従って孔Fa内のインキはこの規制空間領域内へ逆に引込まれようとする。従って印刷用紙P上には比較的薄いインキの付着層Igが生じ、その各々の厚みはインキと印刷用紙Pの間の親和力によって定まり、孔の大さによっては影響されない。かくして印刷用紙上に形成されるインキ付着層はインキと印刷用紙の間の親和力によって印刷用紙上に強く保持されたものであり、たとえ同種の印刷用紙に印刷を施した印刷物が印刷直後に上下に重ね合されても裏写りは生じない。
【0032】かくして印刷用紙Pがその上に平面形状に於て孔Faに忠実であるが薄い層として形成されたインキ付着層Igを伴なって孔版原紙Sより引き離された後、図2の4Dに示す如く、インキ付けローラ4は印刷ドラム1より離れ、印刷ドラム1上に担持されたインキ層Idの内面は大気へ露呈される。
【0033】図3は上述のインキが届かない空隙部Vによって繊維の白抜けの影が生ずることが回避される場合について、従来の印刷法と本発明による印刷法とを比較して示す図2に類似の図である。図3に於て、5A〜5Dは従来の孔版印刷法による印刷の進行過程を、又6A〜6Dは本発明により上記の白抜けを回避しつつ裏写りを回避して孔版印刷を行う印刷の進行過程を、それぞれ順に示す。上述の如く空隙部Vは、印刷ドラム1の内面上に施されたインキ層より孔版原紙の多孔性支持体Tの繊維の間に形成された空間を通って押出されたインキが、繊維の周りを回り、繊維の裏側にある空間を十分に満たす前に、孔版原紙のフィルムFと印刷用紙Pとが互いに密に押し合されるときに生ずる空間である。そこで、かかる白抜きの影の発生を回避するために、孔版原紙と印刷用紙が互いに近付く運動に対して相対的にインキの押出しを幾分促進し、孔版原紙のフィルムFと印刷用紙Pとが互いに密に押し合わされる前に、フィルムFの孔Faを通ってインキを予め少し押し出しておくことが考えられる。このことはインキ層Id或いはIrの何れか一方又は両方の厚みを増すこと、インキ層の動きがインキ付けローラ4の制御の下に置かれる上述の帯域が、孔版原紙Sより印刷用紙Pが引き離される以前に終らない、という条件を確保した範囲内で、挾み部3に対しインキ付けローラ4を印刷用紙の送り方向に関して上流側に偏倚させること、もしくはインキ付けローラ4を印刷ドラム1の内面へ向けて移動させてインキ層Irをインキ層Idに対し押しつけること、この場合特に印刷ドラム1が特開平1−204781号公報に記載されている如くその円筒面が可撓性を有する網材よりなるものであるときには、インキ付けローラによって網材よりなる印刷ドラムの円筒体を半径方向外方へ幾分膨出させることによって達成される。
【0034】しかし、かかるインキ層の押出しの促進が、従来の印刷法に於て、インキの画像付着層Igが孔Faの全域に亙って連続した層となる程度に行われると、インキの粘着性と粘性によりインキの付着層Igの厚みが定まる従来の印刷法に於ては、インキ付着層の厚みは図3の5Dに示す如く甚しく過剰になる虞れがある。
【0035】これと対比して、本発明の方法によれば、インキの画像付着層Igの厚みは実質的に印刷用紙に対するインキの粘着性のみによって定まる。従ってインキの画像付着層Igが孔Faの全域に亙って連続して延在するよう形成されるときにも、該付着層は図3の6Dに示す如く実質的に印刷用紙に対するインキの粘着性によって定まる比較的薄い厚みを有する。
【0036】以上に於ては本発明を好ましい実施例について説明したが、本発明の範囲内にて種々の修正が可能であることは当業者にとって明らかであろう。例えば挾み部3の出口側にて印刷用紙Pを裏押しローラ2の外面上に保持する手段は、裏押しローラ内に設けられた真空装置であってもよい。図1にはそのような真空装置の風洞の漏斗部のみが符号9にて示されている。かかる真空装置により裏押しローラ2内に生じた真空により印刷用紙を裏押しローラ2の外面に吸引保持してよい。かかる真空装置は周知の真空吸引技術を用いて種々の構造にて当業者により容易に設計されるであろう。
【0037】
【発明の効果】以上の説明より理解される如く、本発明による孔版印刷法は、原紙の穿孔部にてインキに十分高い押圧力を与え、原紙の孔の大小に拘らずそれを通過してインキを穿孔画像に倣って一様且十分に印刷用紙に接触せしめ、かすれの発生を回避し、又孔版原紙と被印刷面の間の接触に先立って孔版原紙の孔を通ってインキを押出すことにより孔版原紙の繊維の白抜け影が生じないようにし、しかもその上で印刷用紙上に残留するインキ層の厚みを、実質的にインキと印刷用紙の間のなじみ性のみによって定り、孔の大小によっては影響されない極く薄い一様な厚さとし、裏写りを確実に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の孔版印刷法と本発明による孔版印刷法を輪転式孔版印刷機にて実施する場合を比較して示す概略図。
【図2】従来の孔版印刷法と本発明による孔版印刷法に於ける孔版原紙の穿孔部近傍のインキの挙動を比較して示す幾分解図的断面図。
【図3】従来の孔版印刷法と本発明による孔版印刷法に於ける孔版原紙の穿孔部近傍のインキの挙動を白抜け防止効果を伴なう場合について比較して示す幾分解図的断面図。
【符号の説明】
1…印刷ドラム
1a…印刷ドラムのインキ通過孔
2…裏押しローラ
3…挾み部
4…インキ付けローラ
5…剥し爪
6…クランプ
7…押えローラ
8…剥し爪
9…真空装置の漏斗部
S…孔版原紙
T…孔版原紙の多孔性支持体
F…孔版原紙の熱溶融性プラスチックフィルム
Fa…フィルムの孔
P…印刷用紙
Id…印刷ドラムのインキ層
Ir…インキ付けローラのインキ層
Ig…印刷画像のインキ層
V…空隙部

【特許請求の範囲】
【請求項1】穿孔された孔版原紙の一方の面よりインキを層状に供給し、該孔版原紙の他方の面を被印刷面に押し合わせ、押圧手段により前記インキ層に押圧力を加えて該インキ層のインキを該孔版原紙の前記一方の面より該孔版原紙の穿孔部を経て前記他方の面へ移動させ、かくして移動したインキを前記被印刷面に付着させる孔版印刷法に於いて、前記他方の面と前記被印刷面とが実質的に接した状態にて前記押圧手段により前記インキ層に押圧力を加えた後、前記押圧手段により前記孔版原紙に対する前記インキ層の相対的流動が実質的に阻止されている部分にて前記被印刷面を該孔版原紙の前記他方の面より引き離すことを特徴とする孔版印刷法。
【請求項2】請求項1による孔版印刷法に於て、前記孔版原紙は内面より外面へ向けてインキを通す多数の孔を有する印刷ドラムの周りに該孔版原紙の前記一方の面を前記印刷ドラムの前記外面へ向けた状態に装着され、インキは前記印刷ドラムの内面へ前記押圧手段としても作動するインキ付けローラにより供給され、前記被印刷面は印刷用紙の表面であり、前記孔版原紙の前記他方の面は該印刷用紙が前記印刷ドラムの周りに装着された前記孔版原紙と前記印刷ドラムに対し平行に配置され該印刷ドラムとの間に挾み部を形成する裏押しローラとの間に挾まれることにより前記印刷用紙の表面に接触され、前記印刷用紙の表面は該印刷用紙が前記挾み部の出口側にて前記裏押しローラに沿って移動することにより前記印刷ドラム上の前記孔版原紙に対する前記インキ層の移動が前記インキ付けローラにより実質的に阻止されている部分にて前記印刷ドラムの周りに装着された前記孔版原紙の前記他方の面より引き離されるようになっていることを特徴とする孔版印刷法。
【請求項3】請求項1による孔版印刷法に於て、前記押圧力は前記孔版原紙の前記他方の面が前記被印刷面と実質的に接触する以前から始まって前記インキ層に加えられることを特徴とする孔版印刷法。
【請求項4】内面より外面へインキを通す多数の孔を有し自身の中心軸線の周りに回転する印刷ドラムと、前記印刷ドラムに平行に配置され自身の中心軸線の周りに回転し前記印刷ドラムの前記外面に対向してその間に挾み部を形成する裏押しローラと、自身の中心軸線の周りに回転するよう前記印刷ドラムに平行に配置され該印刷ドラムの前記内面に対向し該印刷ドラムの前記内面にインキを供給し該印刷ドラムの前記内面上に供給されたインキ層を前記挾み部の部分にて押圧して前記インキ層のインキを前記印刷ドラムの前記孔を経て前記印刷ドラムの前記外面へ向けて押圧するインキ付けローラと、印刷用紙を前記挾み部の出口側にて前記裏押しローラ上に付着した状態に保持する手段とを有すること特徴とする輪転式孔版印刷装置。
【請求項5】請求項4による輪転式孔版印刷装置にして、前記印刷用紙を前記挾み部の出口側にて前記裏押しローラ上に付着した状態に保持する手段は前記裏押しローラに設けられて前記印刷用紙の前縁を保持する保持手段と前記挾み部の出口側にて前記印刷用紙の両縁を前記裏押しローラ上に押しつける一対の押えローラを有していることを特徴とする輪転式孔版印刷装置。
【請求項6】請求項4による輪転式孔版印刷装置にして、前記印刷用紙を前記挾み部の出口側にて前記裏押しローラ上に保持する手段は前記挾み部の出口側にて前記裏押しローラ上に前記印刷用紙を引きつけるべく前記裏押しローラ内に真空を与える手段を有していることを特徴とする輪転式孔版印刷装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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