裏面シート、太陽電池裏面シート及びこれを用いた太陽電池モジュール
【課題】入射光の反射角の制御により光の利用効率を向上すると共に電気絶縁性に優れる。
【解決手段】太陽電池モジュールは内部に太陽電池セルを封止した封止材層の前面側に前面板を配置し、封止材層の裏面側に裏面シート4を配置する。裏面シート4は光入射側から透光性絶縁層7と、入射光を特定方向に反射させる光反射性凹凸構造層8と、耐候層9とを積層し構成した。光反射性凹凸構造層8は、凹凸構造を形成した金属層11と樹脂シートからなる凹凸構造層10とからなる。凹凸構造は複数の凸部はプリズム形状や略多角錐形状とし、その頂部は曲率半径をrとした凸曲面に形成する。頂部間のピッチをPtとしたときに、曲率半径rは0.01Pt〜0.1Ptの範囲に設定する。凸部は底辺に対する高さのアスペクト比が0.15〜0.35の範囲とした。
【解決手段】太陽電池モジュールは内部に太陽電池セルを封止した封止材層の前面側に前面板を配置し、封止材層の裏面側に裏面シート4を配置する。裏面シート4は光入射側から透光性絶縁層7と、入射光を特定方向に反射させる光反射性凹凸構造層8と、耐候層9とを積層し構成した。光反射性凹凸構造層8は、凹凸構造を形成した金属層11と樹脂シートからなる凹凸構造層10とからなる。凹凸構造は複数の凸部はプリズム形状や略多角錐形状とし、その頂部は曲率半径をrとした凸曲面に形成する。頂部間のピッチをPtとしたときに、曲率半径rは0.01Pt〜0.1Ptの範囲に設定する。凸部は底辺に対する高さのアスペクト比が0.15〜0.35の範囲とした。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば太陽電池モジュールの裏面に配されていて、太陽電池セルに入射せず裏面シートへ入射して本来は損失してしまう光を有効に活用することが可能な太陽電池裏面シートと、この太陽電池裏面シートを備えた太陽電池モジュール、そしてディスプレイ部材や照明装置等の各種光学機器に用いる裏面シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池パネルの普及は大きな広がりを見せている。例えば、電卓等の小型電子機器に搭載される比較的小さなものから家庭用や工場用等として住宅や施設等に取り付けられる太陽電池パネルや、大規模な発電施設に用いられる大面積の太陽電池発電システムや、さらには人工衛星の電源まで、様々な分野で利用が促進されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この太陽電池は入射した光エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、有機化合物系等に分類される。このうち、現在市場で流通しているものはほとんどが結晶系シリコン太陽電池であり、この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型及び多結晶型に分類される。
単結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が良いために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造が高コストになるという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が劣るために高効率化が難しいという短所はあるものの、低コストで製造できるという長所があり、現在の主流となっている。
【0004】
このような多結晶シリコン太陽電池の高効率化に関しては様々な検討が行われている。
一例として、太陽電池に用いられるシリコン基板の表面にはテクスチャ構造が形成され
ており、これによってシリコン基板表面での太陽光の反射を低減させて光電変換効率の向上が図られている。
一方、単結晶シリコンにおいては、アルカリ溶液等の異方性エッチングにより微細なピラミッドまたは逆ピラミッド形を形成することで太陽光の反射を低減させることが行なわれている。この異方性エッチングでは、単結晶シリコンのエッチング速度が、Si(100)結晶方位面とSi(111)結晶方位面とで異なることを利用している(例えば、特許文献2参照)。
ところが、このような異方性エッチングを多結晶シリコンに適用しようとした場合、ア
ルカリ水溶液によるエッチングが結晶の面方位に依存するため、多結晶シリコンにおけるピラミッド構造を均一に形成できず、シリコン基板全体での反射率の低減を効果的に行なうことができないという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、多結晶シリコン基板へテクスチャを形成する方法として、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)法によって多結晶シリコン基板表面に微細な突起を形成する手法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この手法によれば、微細な突起を多結晶シリコンにおける不規則な結晶の面方位に左右されずに均一に形成することにより、特に多結晶シリコンを用いた太陽電池セルにおいても反射率をより効果的に低減することができる。
また、表面反射防止膜を組み合わせることにより、さらに変換効率を向上できることが知られている。即ち、結晶シリコンは、波長400nm〜1100nm領域で屈折率6.00〜3.50の大きな屈折率を持つので、短波長領域で約54%、長波長領域で約34%の反射損失がある。この反射損失を減ずるために、屈折率の異なる透明材料で表面反射防止膜を形成し、これにより変換効率を向上させることができる。
【0006】
さらに、シリコン基板上に形成する電極を微細化することで受光面積を増加させ、太陽光を多く取り込むことで変換効率を向上させる検討も行われている(例えば、特許文献
4参照)。
以上のような高効率化技術の進歩により、最近では多結晶シリコン太陽電池においても、研究レベルでは18%程度の変換効率が達成されており、多結晶シリコン太陽電池における変換効率の理論限界(20〜30%)に近づいてきている。
【0007】
そこで、光利用効率を高めるべく太陽電池モジュールの前面から入射した太陽光のうち、太陽電池モジュール内にてエネルギー変換を行なう太陽電池セルに入射せずに太陽電池セルの裏面側に設けた裏面シートへ入射する太陽光を再利用する試みが行なわれている。
このように、太陽電池セルに入射せずに裏面シートへ入射する太陽光が存在するのは、リーク電流を低減させるために太陽電池モジュール内の複数の太陽電池セル間に隙間が形成されていることに基づく。そこで、太陽電池モジュールの裏面側に反射材を備えた太陽電池裏面シートを配置している。太陽電池セルの隙間から漏れ出る太陽光を太陽電池裏面シートで反射させることによって太陽電池セルに再入射させることで、光利用効率の向上が図られている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
また、反射材の表面を凹凸構造とする試みも行われている。反射材の表面を凹凸構造とすることで、より光利用効率の向上が望める。このとき、反射材としては上述の散乱反射体の他、アルミニウムなどの鏡面反射体を用いることも可能であるが、導電体が凹凸構造
を持つことによる電気絶縁性の低下が問題となっていた(例えば、特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−295437号公報
【特許文献2】特開昭62−35582号公報
【特許文献3】特公昭60−27195号公報
【特許文献4】特開2000−332279号公報
【特許文献5】特開平11−307791号公報
【特許文献6】特開平10−284747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述のような太陽電池裏面シートにおいては、反射材として一般的に散乱反射体が使用されている。しかしながら、散乱反射体を使用する場合、散乱による光の損失が生じてしまい太陽電池セルに向けて光を効率的に反射することができない。従って、反射材による反射角を適切に設定することができれば、太陽電池セルに入射する光量を増加させることができて光利用効率の向上を図ることができる。
反射材の反射角を適切に設定するためには、金属などの鏡面反射体で凹凸構造を形成することが望ましい。しかしながら、金属の凸部が存在すると電荷集中により放電破壊が生じやすくなってしまうという問題が生じる。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、反射角を適切に設定することで光の利用効率を向上させることができると共に電気絶縁性にも優れる裏面シート、太陽電池裏面シート及び太陽電池裏面シートを用いた太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明は以下の発明を提案している。
即ち、本発明に係る太陽電池裏面シートは、内部に太陽電池を封止した封止材層の前面側に透光性前面板が積層されてなる太陽電池モジュールの裏面側に配置される太陽電池裏面シートであって、前面側から裏面側に向けて、透光性絶縁層と、光を反射させる凹凸構造を形成した金属層を備えた光反射性凹凸構造層と、耐候層とが積層されてなり、金属層の凹凸構造における凸部の頂部が凸曲面を形成していることを特徴とする。
本発明による太陽電池裏面シートによれば、凹凸構造の金属層を配置すると共に金属層の凸部の頂部に凸曲面を形成したことで、前面側から透光性絶縁層を透過して光反射性凹凸構造層に入射する光を金属層の凹凸構造によって特定方向へ反射させることができる。そして、この反射光が前面板と大気との界面で反射することで太陽電池モジュールの太陽電池セルに再入射させて、光の利用効率を向上させることができる。
【0013】
また、金属層の凹凸構造として、略プリズム形状、略多角錐形状、或いはこれらのいずれかの形状の逆型形状のいずれかが複数配列されてなることを特徴とする。
この金属層の構成により、前面側から入射する光を裏面シートで特定方向に反射させて確実に太陽電池セルへと再入射させて光の利用効率の向上を図ることができる。
【0014】
また、金属層における頂部の凸曲面は曲率半径をrとし、頂部のピッチをPtとしたときに、曲率半径rは0.01Pt以上0.1Pt以下の範囲に設定されていることが好ましい。
凸曲面の曲率半径rが0.01Pt〜0.1Ptの範囲に設定されていることにより、金属層における凸部の頂部が尖鋭に形成されているときに生じる電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。頂部の曲率半径は大きいほど電荷集中を防止できるが、0.1Ptより大きいと反射光の多くを散乱させてしまい発電効率を落とすことになり、0.01Ptより小さいと電荷集中を生じる。
【0015】
また、金属層における凹凸構造の凸部の底辺に対する高さのアスペクト比が、0.15以上0.35以下の範囲に設定されていることが好ましい。
ここで、凹凸構造の単位構造である凸部のアスペクト比が0.35より大きい場合には、凹凸構造を成形するときの成形性が低下してしまう。一方、アスペクト比が0.15より小さい場合には、光利用効率を向上させる効果が弱くなってしまう。この点を踏まえ、本発明ではアスペクト比を上記範囲に設定したため、凹凸構造成形時の成形性を保持しながら光利用効率を高く向上させることができる。
【0016】
また、金属層における凹凸構造の凸部のピッチXが10μm〜30μmの範囲に設定されていることが好ましい。
金属層の凸部のピッチXが30μmより大きい場合には、ピッチXの増大にともなって凸部の高さYが高くなるため透光性絶縁層と接着層を介して貼り合わせる際に、気泡が入りやすい等の欠点が発生し易くなり好ましくない。また、接着層の厚みを厚くする必要があり形成そのものも困難となる他、コスト高の要因となってしまう。一方、金属層の凸部のピッチXが10μmより小さい場合、光が反射する際に光の回折が起こり得る。回折光は分光して広がった光になるため制御が難しく、特定方向に反射する上で好ましくない。さらに、金型製作時に金型を切削する時間が長くタクトが低下し生産効率が悪くなるため好ましくない。これを踏まえて本発明では、凸部のピッチXが10μm〜30μmの範囲に設定されているため、上記不都合を解消することができる。
【0017】
本発明に係る太陽電池裏面シートは、透光性絶縁層が3kV以上の絶縁破壊電圧を有することを特徴とする。
これにより、太陽電池裏面シートの長期使用による短絡や漏電の発生を防止することができる。
【0018】
また、本発明に係る太陽電池裏面シートは、光反射性凹凸構造層の透光性絶縁層側または/及び耐候層側に無機酸化物を含むバリア層が少なくとも一層含まれることが好ましい。
また、バリア層の水蒸気透過度が0〜5g/m2/dayであることが好ましい。
上述した構成を採用することにより、長期使用による金属層の劣化をバリア層によって防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る太陽電池モジュールは、内部に太陽電池を封止した封止材層の光入射面側に透光性前面板が積層されてなり、透光性前面板の反対側である裏面側に上述したいずれかの太陽電池裏面シートを配置してなることを特徴とする。
本発明による太陽電池モジュールによれば、太陽電池モジュールの透光性前面板から封止材に入射する光の多くは太陽電池セルに受光されて光電変換され、残りの一部の光は太陽電池セル同士の間隙を通って太陽電池裏面シートに入射し、透光性絶縁層を透過して凹凸構造をなす光反射性凹凸構造層で反射して所定の反射角で特定方向に反射する。この反射光が透光性前面板の界面で更に反射し、太陽電池セルに再入射することによって光の利用効率を向上させることができる。また、太陽電池裏面シートの光反射性凹凸構造層における金属層の凸部の頂部が凸曲面であることによって、電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。従って、電気絶縁性を向上させることができる。
【0020】
本発明による裏面シートは、光入射面側から裏面側に向けて、透光性絶縁層と、光を特定方向へ反射させる凹凸構造を形成した金属層を備えた光反射性凹凸構造層と、光反射性凹凸構造層を保護する耐候層とが積層されてなり、金属層の凹凸構造における凸部の頂部が凸曲面を形成していることを特徴とする。
本発明による裏面シートによれば、凹凸構造の金属層を配置すると共に金属層の凸部の頂部に凸曲面を形成したことで、入射光が透光性絶縁層を透過して光反射性凹凸構造層に入射し、この入射光を金属層の凹凸構造によって特定方向へ反射させることができる。そして、この反射光を太陽電池セルに再入射させたり光学素子から発光する光やディスプレイ部材に投射する光と共に出射させたりすることで、光の利用効率を向上させることができる。しかも、透光性絶縁層を挟んで金属層と対向する位置に電極等を配設したとしても、凹凸構造の頂部によって生じ易くなる電荷集中による放電破壊を防ぐことができ、十分な電気絶縁性を確保する
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る太陽電池裏面シート及び太陽電池モジュールによれば、凹凸構造をなす金属層を備えた光反射性凹凸構造層を有することにより、太陽電池裏面シートの光入射側から透光性絶縁層を経由して光反射性凹凸構造層に入射する光を凹凸構造の金属層によって太陽電池セルが配置された特定方向へ到達するように反射させることができ、太陽電池モジュールにおける光の利用効率を向上させて発電量を増加させることができる。
また、光反射性凹凸構造層における金属層の凹凸構造の頂部が凸曲面を形成することによって、凹凸構造の頂部によって生じ易くなる電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。これにより、十分な電気絶縁性を確保することができる。
【0022】
また、本発明による裏面シートによれば、透光性絶縁層を透過して光反射性凹凸構造層に入射した入射光を金属層の凹凸構造によって特定方向へ反射させることができる。そして、この反射光を太陽電池セルに再入射させたり光学素子から発光する光やディスプレイ部材に投射する光と共に出射させたりすることで、光の利用効率を向上させることができる。しかも、透光性絶縁層を挟んで金属層と対向する位置に電極等を配設したとしても、電荷集中による放電破壊を防いで十分な電気絶縁性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態による太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す裏面シートの概略構成を示す拡大縦断面図である。
【図3】図2に示す裏面シートにおける光反射性凹凸構造層の部分拡大図である。
【図4】裏面シートにおける光反射性凹凸構造層の凹凸構造層の一例を示す斜視図であって、(a)は略プリズム形状の凹凸構造層、(b)は略逆四角錐形状を有する凹凸構造層を示す図である。
【図5】図4(a)または(b)に示す凹凸構造における単体の凸部形状を示す縦断面図である。
【図6】電極を含む太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図であり、(a)と(b)は参考例、(c)は実施形態による太陽電池モジュールの例である。
【図7】光反射性凹凸構造層から透光性絶縁層を介して電極の陰極に放電が起こるときの様子を説明する図であり、(a)は金属層の頂部が尖鋭形状である場合、(b)は金属層の頂部が凸曲面形状である場合を示す図である。
【図8】太陽電池モジュールにおける入射光の反射軌跡を示す図であり、(a)は太陽電池モジュールの要部縦断面図、(b)は裏面シートの光反射性凹凸構造層での反射光を示す図、(c)、(d)は前面板と大気との界面で反射する反射光を示す図である。
【図9】第1変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図10】第2変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図11】第3変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図12】第4変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態による太陽電池裏面シート及びこの裏面シートを用いた太陽電池モジュールについて添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は実施形態による太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図である。図1において、太陽電池モジュール1は、光の入射方向から順に、前面板2と封止材層3と裏面シート(太陽電池裏面シート)4とが積層されることで構成されている。封止材層3には封止材中に複数の太陽電池セル5が所定の間隙を開けて例えば同一面状に配列されて封入されている。
太陽電池モジュール1は、光源Lからの光を受光することにより光電変換して発電を行なう装置である。なお、光源Lとしては、通常、太陽や室内灯等の人工照明が採用される。
また、前面板2、封止材層3、封止材層3中に封入された太陽電池セル5及び裏面シート4が、真空ラミネータで熱ラミネートすることにより積層されることで太陽電池モジュール1が一体成形されている。
【0025】
前面板2は太陽電池モジュール1の最前面に配置されており、太陽電池セル5を衝撃、汚れ、水分の浸入等から保護するものであり、透過率が高い透明な材料から形成された板状をなしている。
図1に示すように、光源Lから発光される光のうち、前面板2の入射面2aに垂直に入射する光H0は、前面板2に入射した後、前面板2を透過して封止材層3に入射する。なお、入射面2aの法線NGは、例えば水平面に平行な平面P上に前面板2を載置した状態における平面Pの法線と平行な方向とする。入射面2aに垂直に入射する光H0とは、法線NGに平行に前面板2に入射する光H0、即ち太陽電池モジュール1に入射する光H0のことを示している。
この前面板2は、強化ガラス、サファイアガラス等のガラス、あるいはPC(ポリカーボネート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等の樹脂シートから構成されている。また、前面板2の厚さは強化ガラスであれば約3〜5mm程度、樹脂シートであれば約5mm程度のものが用いられる。
【0026】
前面板2を射出した光は封止材層3に入射する。この封止材層3は厚さ0.4〜1.0mm程度のシート状をなしており、その内部に複数の太陽電池セル12を封入して固定している。前面板2に入射した光H1は、封止材層3を透過して太陽電池セル5へ入射する光H1となり、光H1の一部は太陽電池セル5の間隙から封止材層3を通過して裏面シート4に入射する。
封止材層3には、入射した光H1を透過させるため光線透過率が高い材料が用いられ、さらに耐候性、耐高温、耐高湿、耐候性等の耐久性、そして電気絶縁性を有する素材が好適である。この条件を満たす材料として、例えば酢酸ビニル含有量が20〜30%のEVA(エチレンビニルアセテート共重合体)やPVB(ポリビニルブチラール)等を主成分とする熱可塑性の合成樹脂材が使用される。
【0027】
太陽電池セル5は、光入射方向である受光面5aに入射した光を光電効果により電気へ変換する機能を有する最小単位であり、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型、CISG(Cu・In・Ga・Seの化合物)系薄膜型等多くの種類が存在する。太陽電池セル5は複数個の太陽電池セル5が図示しない電極によって接続されてモジュールを形成している。
本実施形態においては、前面板2に垂直に入射する光H0が、光H1として封止材層3から太陽電池セル5に入射し、太陽電池セル5で電気へと変換される。なお、通常、入射面2aに対して斜めに入射した光は、垂直入射の光H0と比較して入射面2aで反射する割合が多く、太陽電池セル5に入射する光量の割合が少ない。即ち、発電に利用できる光量が少ない。そのため、入射面2aに垂直に入射する入射光H0が最も効率良く発電を行なうことができる。
【0028】
図2は、本発明の実施形態による裏面シート4の概略構成を示す拡大縦断面図である。この裏面シート4は、太陽電池セル5自体を透過した光や太陽電池セル5に入射せずに太陽電池セル5,5間の封止材層3を透過した光H1を反射させる機能を有している。裏面シート4は、光H1が入射する前面側から裏面側に向けて順に少なくとも透光性絶縁層7と光反射性凹凸構造層8と耐候層9とが積層されて構成されている。
【0029】
耐候層9には耐候性、耐高温、耐高湿、難燃性等の長期耐候性が要求される。これらの要求を満たす材料として、一般的にPVF(ポリフッ化ビニル)等のフッ素樹脂フィルムやフッ素樹脂塗膜、もしくは低オリゴマーPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等、耐熱タイプのPETフィルム等が使用される。この他、耐候性に優れるPENフィルム等を使用してもよい。なお、耐候層9の材料としては上述したものに限定されることはなく、長期耐候性の基準値を満たす材料であれば適宜採用することができる。
耐候層9は単層であってもよく多層であってもよい。単層の場合には、上述した材料のいずれかを要求特性に合わせて選択することができる。PVFは長期耐候性に特に優れているため好適である。また低オリゴマーPETフィルム等、耐熱タイプのPETフィルムは安価でありながら長期耐候性にも優れているため、好適である。
【0030】
この耐候層9が多層構造の場合には、例えばPETフィルムにPVF(ポリ・フッ化・ビニル)等のフッ素樹脂フィルムを貼り合わせたものや、PETフィルムにPVF等のフッ素樹脂塗膜を形成したもの等が挙げられる。
PVF等のフッ素樹脂は長期耐候性に非常に優れており、単層でも十分な性能を発揮するものの、単層で十分な強度を得ようとすると厚みを厚くする必要がありコスト高の要因となる。よって、強度を確保する基材との組合せによる多層構造とすることが好ましい。また、特に耐候層9がフッ素樹脂塗膜によって形成される場合には、光反射性凹凸構造層8に直接塗膜を形成するよりも、PETフィルムに一度塗膜を形成した後に光反射性凹凸構造層8と貼り合わせる方が密着性や作業性の観点から望ましい。
なお、耐候層9の層構成は上述した構成に限定されたものではなく、要求特性に応じて適宜変更可能である。
【0031】
次に、光反射性凹凸構造層8は、図3の拡大図で示すように、樹脂材料からなる凹凸構造層10とその透光性絶縁層7側に設けられた金属層11とが積層されて構成されており、金属層11は凹凸構造層10との界面形状に沿って凹凸構造を形成している。
即ち、この光反射性凹凸構造層8は、図3及び図4に示すように、凹凸構造層10の金属層11と接触する面(前面という)は断面視で凸部と凹部が交互に配列されてなる凹凸構造に形成されており、凸部の頂部10aは断面視で曲率半径rを有する凸曲面に形成されている。凹凸構造層10の凹凸を形成する前面に対向する裏面は例えば平面とされているが、凹凸面等でもよい。
また、凹凸構造層10の前面に積層される金属層11も凹凸構造層10の前面に沿って断面視で凸部と凹部が交互に配列された凹凸構造に形成されている。金属層11の凸部の頂部11aは頂部10aと同一曲率半径rの凸曲面に形成されている。そのため、金属層11に入射する光H1を所定の方向へ反射させる機能を有している。このような反射機能を備えるためには、金属層11が有する反射面が鏡面反射面であることが望ましい。
【0032】
凹凸構造層10は樹脂材料からなっており、その製作方法としては、金型を用いたプレス法・キャスティング法・押し出し成形法・射出成形法などが挙げられる。これらの方法によれば、シート形成と同時に凹凸構造の前面を形成することが可能である。
また、樹脂材料からなる凹凸構造層10を形成する別の方法として、平面スタンパやロールスタンパの凹凸形成面に熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂等を塗布または注入し、その上に基材を配置して、硬化処理後にスタンパの凹凸形成面から離型するといった方法がある。これらの方法では、使用する樹脂の粘度を低くすることができるため成形性がよいという利点がある。
凹凸構造層10の頂部10aにあたる金型の凹部の形状が尖っている尖鋭形状であると型成形による再現が難しいが、本実施形態では例えば曲率半径rを有する略球面形状等の凸曲面形状に形成したため再現性良く構造を賦型することが可能であり、好適である。
【0033】
凹凸構造層10を形成するために使用する金型は、バイトによる金属板の切削加工や、バイト切削及び電子ビームによる描画やエッチングによって得られた母型の電鋳加工等により得ることができる。このような加工により成形された金型は、表面に凹凸構造の逆型構造が形成されている。例えば、曲率を有する先端形状をもつバイトで金属板を切削することで、所望の頂部10aに曲率を有する凹凸構造層10の逆型構造が形成された金型が得られる。
このとき、バイトの先端形状が尖っていると形状の再現性が難しく、バイトの先端が欠けやすいなどの問題があるが、曲率をもつ先端形状であれば形状の再現性も高くバイトの欠けなどの問題も生じにくく、好適である。凹凸構造層10の金型は板状でもよく、ロール状でもよいが、ロール状の金型とする方が望ましい。ロール状の金型であれば、連続エンボス加工が可能であり、大きな面積を必要とする裏面シート4の作製方法として好適である。
【0034】
上述した凹凸構造層10の製造方法に使用材料として樹脂を用いる場合、この樹脂材料は特に限定されるものではなく、例えばポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル―(ポリ)スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル―ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、リエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を1種又は2種以上混合して使用することができる。
また、上述した樹脂材料の他に例えば散乱反射体、硬化剤、可塑剤、分散剤、各種レベリング剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、光安定化剤等の各種添加剤が適宜配合されてもよい。
【0035】
また、金属層11は、例えばアルミニウムや銀などの金属を、凹凸構造10の前面の凹凸形状に倣った層形状になるように形成する。金属層11の形成手段としては、凹凸構造層10に収縮、黄変等の劣化を招来することなく金属層11を形成できれば特に限定されるものではない。
例えば、(a)真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法;PVD法)、(b)プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法;CVD法)が採用される。これらの中でも、生産性が高く良質な金属層11を形成できる真空蒸着法やイオンプレーティング法が好ましい。
【0036】
金属層11に用いられる金属としては、金属光沢を有しかつ上述したいずれかの形成方法に適用可能であれば特に限定されるものではなく、例えばアルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)等の単体もしくは合金が挙げられ、単層で形成してもよく複数の金属を積層して形成してもよい。中でも、反射性が高く緻密な金属層11を比較的容易に形成できるアルミニウムが好適である。
また、金属層11の厚さの下限として10nmが好ましく、20nmが特に好ましい。一方、金属層11の厚さの上限として200nmが好ましく、100nmが特に好ましい。金属層11の厚さが下限である10nmより小さいと、金属層11に入射する光を十分に反射させることができない。また、20nm以上の厚さであっても、上述の金属層11で反射される光は大幅には増えないため、20nmであれば十分な厚さといえる。一方、金属層11の厚さが200nmの上限を超えると、金属層11に目視でも確認できるクラックが発生する不具合が生じる。なお、金属層11の厚さが100nm以下であれば、目視で確認できないようなクラックも発生しないので特に好ましい。
【0037】
上述の製造方法で形成した光反射性凹凸構造層8は、樹脂材料からなる凹凸構造層10上に金属層11が積層して形成されている。すなわち、光反射性凹凸構造層8は金属層11が樹脂シートからなる凹凸構造層10に支持されている。なお、金属層11は、図3では凹凸構造層10の光入射側である前面側に配されているが、裏面側に配されてもよく、要求特性に応じて適宜選択することが出来る。
また、光反射性凹凸構造層8の金属層11を支持する凹凸構造層10に上述の耐候層9として使用可能な材料を採用して、凹凸構造層10を省略して耐候層9とすることも可能である。この場合、光反射性凹凸構造層8は金属層11で構成される。そのため、光反射性凹凸構造層8は少なくとも入射光を反射させる金属層11が設けられていればよい。
【0038】
凹凸構造層10は、図4(a)に示すような、頂部10aに曲率半径rを設けた凸部が略三角柱形状のプリズム形状13Aを採用して同一方向に配列して構成することが望ましい。或いは、図4(b)に示すように、頂部に曲率を有する略多角錐形状13Bを互いに直交するX,Y方向に配列した構成を採用してもよい。また、凹凸構造層10の形状として、図4(b)に示す凸部と凹部が反転した形状の逆型形状を採用してもよい。
また、図4(a)、(b)に示す凹凸構造層10における単位形状である凸部、即ちプリズム形状13A,略多角錐形状13B(以下、単位形状13A,13Bということがある)の構造は、図5に示すような断面山形をなす単位形状13A,13Bの底辺(ピッチ)Xと高さYのアスペクト比Y/Xが、0.35以下であることが望ましい。
【0039】
単位形状13A,13Bのアスペクト比Y/Xが0.35より大きい場合には、凹凸構造層10を成形するときに金型の凹部または凸部部分に樹脂が残りやすく成形分離性が低下してしまう。単位形状13A,13Bのアスペクト比が0.35以下であるならば、樹脂が金型に残る可能性が低くなり、設計通りの形状に成形することができる。
また、単位形状13A,13Bのアスペクト比Y/Xは、0.15以上であることが望ましい。アスペクト比Y/Xが0.15より小さいと、光利用効率を向上させる効果が弱くなる。この理由については後述する。
なお、凹凸構造層10は、図4(a)、(b)に示す凹凸構造を構成する複数の凸部であるプリズム形状13A、略多角錐形状13Bが一定のピッチPtで配列された周期配列構造を有していてもよく、ピッチPtがランダムとされた不定形配列構造であってもよい。
【0040】
凹凸構造層10が周期配列構造を有する場合のプリズム形状13A、略多角錐形状13B即ち凸部のピッチXとしては、30μm以下であることが望ましい。 ピッチXが30μmより大きい場合には、ピッチXの増大にともなって構造の高さYが高くなるため、耐候層9もしくは透光性絶縁層7と接着層を介して貼り合わせる際に、気泡が入りやすい等の問題が発生し易くなり好ましくない。また、接着層の厚みを厚くする必要があるため、接着による光反射性凹凸構造層8の形成そのものも困難となる他、コスト高の要因となってしまう。この点、ピッチXが30μm以下であれば貼り合わせの際に気泡等の問題が発生する可能性が低くなり、さらに成形性やコストの観点から好ましい。
【0041】
また、凹凸構造層10が周期構造を有する場合のプリズム形状13A、略多角錐形状13BのピッチXは10μm以上であることが望ましい。
当該ピッチXが10μmより小さい場合、凹凸構造層10によって入射光H1が反射する際に光の回折が起こり得る。この回折光は、分光して広がった光となるため制御が難しく、入射光H1を特定方向に反射させる上で好ましくない。さらに、金型を切削する時間が長くなりタクトが低下して生産効率が悪くなるため好ましくない。この点、ピッチが10μm以上であれば、光を適確に特定方向に反射させることができる上に発電効率の観点から好ましい。
【0042】
なお、光反射性凹凸構造層8における金属層11を形成する別の方法として、例えば凹凸構造層10が形成された樹脂フィルムに金属粒子やフレークを含有した樹脂をコーティングする等の方法も挙げられるが、この方法では、鏡面反射性が劣るために光利用効率の向上効果が小さく好ましくない。
凹凸構造をなす金属層11を形成するさらに別の方法として、例えば凹凸構造を金属箔によって直接形成する等の方法も挙げられるが、この方法では、金属層11の厚みが厚くなるために電気抵抗が低くなり、モジュールを固定するアルミフレームや端子BOXとつながる配線などとの通電が起こりやすくなるため、好ましくない。
【0043】
光反射性凹凸構造層8の前面側に配設された透光性絶縁層7は、電気絶縁性を有する材料から構成されている。
太陽電池裏面シート4に要求される重要な性能の一つとして、電気絶縁性がある。この電気絶縁性は、太陽電池モジュール1が内部に電極を含むことから、長期使用による短絡や漏電等を防ぐための必須の性能である。また、太陽電池モジュール1においては、裏面シート4は特に太陽電池セル5側の表面が電気絶縁性であることが求められている。
【0044】
次に、太陽電池モジュール1における電荷集中による放電破壊を防ぐための構成について、図6(a)、(b)、(c)により説明する。図6(a)と(b)に示す太陽電池モジュール1A、1Bは裏面シート4に透光性絶縁層7が設けられていない構成を示すものであり、図6(c)は本実施形態による太陽電池モジュール1を示すものである。なお、図6(a)、(b)、(c)において光反射性凹凸構造層8は凹凸構造の金属層11で構成され、凹凸構造層10は省略されている。しかし、図6(c)に二点鎖線で示すように、図2に示す実施形態のように金属層11の裏面側に凹凸構造層10を積層して設けてもよい。
図6(a)、(b)、(c)の各図に示す太陽電池モジュール1A,1B,1において、太陽電池セル5は発電した電力を取り出すための電極16を隣接する太陽電池5,5間に設けており、隣接する太陽電池5,5同士が電極16によって接続されている。
図6(a)に示す太陽電池モジュール1Aにおいて、通常、太陽電池セル5は封止材からなる封止材層3の厚み方向中央付近にあり、光反射性凹凸構造層8から離れているため、電極16がショートすることによる電流のリークは起こらない。
【0045】
しかし、太陽電池セル5は封止材が軟化した充填材からなる封止材層3で封止されているため、図6(b)に示す太陽電池モジュール1Bにおいて、光反射性凹凸構造層8を前面側に向けて即ち太陽電池セル5側に近接させて封止材層3で封止しようとすると、太陽電池セル5と光反射性凹凸構造層8が接触してしまうことがある。このとき光反射性凹凸構造層8を通じて電極16がショートし、電流がリークしてしまう。
ショートを防ぐために、図6(c)のように透光性絶縁層7を光反射性凹凸構造層8上に配置する構成を採用することで、ショートによる電流リークを防ぐことができる。
【0046】
ここで、裏面シート4の前面側に透光性絶縁層7を設けたことによる電気絶縁性を示す数値基準の一つとして絶縁破壊電圧がある。この絶縁破壊電圧は、絶縁破壊電圧以上の電圧が加わると絶縁状態が破壊されるという指標であり、絶縁破壊電圧が高い方が電気的に安定であると言える。
一般的に、裏面シート4の前面側には、透光性絶縁層7として電気絶縁用プラスチックフィルムまたはPVF等のフッ素樹脂フィルムやフッ素樹脂塗膜が配されている。
例えば、参考文献1(「太陽光発電システム構成材料」(工業調査会))によると、各種電気絶縁用プラスチックフィルム(25μm)の絶縁破壊電圧(kV)のおおよその数値は、PET(ポリエチレンテレフタレート)で6.5kV、PEN(ポリエチレンナフタレート)で7.5kV、PVC(延伸硬質塩ビ)で4.0kV、PC(ポリカーボネート)で5.0kV、OPP(延伸ポリプロピレン)で6.0kV、PE(ポリエチレン)で4.0kV、TAC(トリアセテート)で3.0kV、PI(ポリイミド)で7.0kVである。これらはいずれも絶縁材料としての絶縁破壊電圧を満たしている(参考 JISC2318/電気用二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム)。
【0047】
また、PVF(ポリ・フッ化・ビニル)の代表的な製品であるデュポン社のテドラーの絶縁破壊電圧は約3.0kVである。
太陽電池モジュール1の絶縁性能の一つとして、最大システム電圧の2倍+1000Vの直流電圧を1分間印加しても絶縁破壊などの異常がないこと、と定められている(参考
JISC8918/結晶系太陽電池モジュール)。最大システム電圧は、通常600〜1000Vである。
以上から、絶縁破壊電圧の平均値は3kV以上であることが望ましく、上述の各種材料はこの基準を満たしている(参考 JISC2151/電気用プラスチックフィルム試験方法の17.2.2平板電極法)。絶縁破壊電圧が3kVより小さい場合、長期使用による短絡や漏電の可能性が高くなる。
【0048】
本実施形態における透光性絶縁層7は、上述の各種材料のいずれかからなる樹脂フィルムで構成されている。この透光性絶縁層7に使用する材料としては、透明あるいは半透明の材料であることが望ましく、光の散乱を生じる要素が少ない方が好ましい。
ここで、裏面シート4に入射した光H1は、透光性絶縁層7を透過した後に光反射性凹凸構造層8の金属層11で反射され、再度透光性絶縁層7を透過して裏面シート4からの反射光H2となる。したがって、透光性絶縁層7は透明性が高く散乱要素が少なければ、裏面シート4へ入射した光が反射光となる際の反射効率が高くなる。
また、透光性絶縁層7の成形に用いる材料は上述したものに限ったものではなく、絶縁破壊電圧の基準値を満たす材料であれば適宜の材料を採用することが可能である。例えば、EVAやPVB等を主成分とする合成樹脂フィルムを採用することも可能である。これらの樹脂を採用した場合には、封止材層3との密着性が向上するため好ましい。
【0049】
透光性絶縁層7は単層であってもよく、また多層であってもよい。透光性絶縁層7が単層の場合には、上述した材料のいずれかを要求特性に合わせて選択することができる。透光性絶縁層7が多層の場合には、その構成として、例えばPETフィルムにPVF等のフッ素樹脂フィルムを貼り合わせる構成、PETフィルムにPVF等のフッ素樹脂塗膜を形成する構成、PETフィルムにEVAやPVB等を主成分とする合成樹脂フィルムを貼り合わせる構成等が挙げられる。
透光性絶縁層7としてPVF等のフッ素樹脂を用いた場合には、電気絶縁性の基準を満たすとともに、封止材層3との密着性が向上するため好ましい。しかし、単層で十分な強度を得ようとすると厚みを厚くする必要がありコスト高の要因となってしまう。したがって、強度を確保する基材との組合せによって多層構造とすることが好ましい。特に透光性絶縁層7としてフッ素樹脂塗膜を用いる場合には、光反射性凹凸構造層8に直接塗膜を形成するよりもPETフィルムに一度塗膜を形成した後に光反射性凹凸構造層8と貼り合わせる方法が、密着性や作業性の観点から望ましい。
【0050】
また、透光性絶縁層7は、上述した材料のいずれか、例えばPETフィルムを2層貼り合わせた多層構造として形成してもよい。透光性絶縁層7の絶縁性を高めるためには、1枚構成よりも多層構成の方が絶縁欠陥をカバーして、信頼性が高くなることが知られている。そのため、PETフィルム単層よりも2層貼り合わせた多層構造の方が、より絶縁性を向上させることができる。
また、光反射性凹凸構造層8の金属層11を支持する樹脂シートの凹凸構造層10に上述の材料を採用して、凹凸構造層10を透光性絶縁層7とすることも可能である。この場合、光反射性凹凸構造層8において金属層11を裏面側に位置させると共に凹凸構造層10を透過性絶縁層7として太陽電池セル5側に位置させる必要がある。
なお、透光性絶縁層7の層構成は上述したものに限ったものではなく、要求特性に応じて適宜変更可能である。
【0051】
以上の部材からなる裏面シート4は、耐候層9、光反射性凹凸構造層8、透光性絶縁層7をそれぞれ図示しない接着層を介して貼り合わせることで成形される。なお、接着剤としては、熱可塑性樹脂が好ましく、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂等の単体或いは共重合体を単独もしくは複合して使用可能であるが、これに限定されるものではない。
これらの接着剤は、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルコーター法等の既知の塗布手段により塗布する。
なお、図6(c)に示す太陽電池モジュール1において、透光性絶縁層7の厚みが足らない場合には、透過性絶縁層7が絶縁破壊して電極16と光反射性凹凸構造層8との間で放電dが発生して電流のリークが起こる。
【0052】
さらに、光反射性凹凸構造層8の金属層11から陰極の電極16に放電が起こるときの様子を図7(a)、(b)に示す。
図7(a)に示すように、光反射性凹凸構造層8が金属層11を含む構成であると、金属層11に隣接する透過性絶縁層7内には金属層11に近接する領域に等電位線PIが密集する層7aができる。この層7aは放電が起き易くなってしまう。そのため、十分な絶縁性を得るためには、透過性絶縁層7の総厚Itから層7aの厚みIcを引いた層7bが十分な厚みIeを有している必要がある。
等電位線PIが密集する層7aでは、全体の透過性絶縁層7が絶縁破壊するより低い電圧で絶縁破壊してしまう。そのため、透過性絶縁層7の絶縁破壊電圧Dvは、上述の透過性絶縁層7の総厚Itより上述の等電位線PIが密集する層7aの厚みIcを引いた層7bの厚みIeと単位厚み当りの絶縁耐力Dsをかけたものとなる。
【0053】
絶縁破壊電圧Dvを式で表すと、次式(1)となる。
Dv=Ds(It−Ic) …(1)
なお、等電位線PIが密集する層7aは、金属層11の頂部11aのピッチPtの半分となる。
また、絶縁破壊電圧は3kV以上あれば、通常の太陽電池モジュールの使用で絶縁破壊が起こらないため、上述の透過性絶縁層7の総厚It、金属層11の頂部11aのピッチPtは以下の式(2)を満たす必要がある。
6.0kV≦Ds(It−Pt/2) …(2)
【0054】
また、図7(a)に示すように金属層11の頂部11aが凸曲面でなく尖鋭形状であると、電荷集中Ecにより低い電圧でも金属層11から放電破壊が起こり透光性絶縁層7中で放電することにより透光性絶縁層7に黒化が起きてしまう。黒化すると透光性絶縁層7の透過量が落ちて金属層11で反射せずに吸収される光が増加する不具合がある。
そのため、金属層11の頂部11aは、図7(b)に示すように、例えば曲率半径rを有する断面略円弧状の凸曲面形状であることが好ましい。この頂部11aに内接する円Pcの曲率半径rは、大きいほど電荷集中を防げるが、頂部11aのピッチPtの10%より大きいと、多くの光を散乱してしまい太陽電池モジュール1の発電効率を落としてしまう欠点がある。そのため、上述の半径rは、ピッチPtの10%以下であることが好ましい。
また、金属層11の頂部11aは上述の曲率半径rが小さすぎると電荷集中が起きてしまうため、頂部11aのピッチPtの1%以上であることが好ましい。
【0055】
本実施形態による太陽電池モジュール1及びその裏面シート4は上述の構成を有しており、次に主に図8を参照して、その作用と裏面シート4による太陽電池モジュール1の光利用効率の向上の仕組みを説明する。
図8は、太陽電池モジュール1の裏面シート4に入射した光H1が光反射性凹凸構造層8によって反射されて太陽電池セル5の受光面5aに入射する過程を示している。なお、凹凸構造層10はプリズム形状13Aによる凹凸構造を有しており、金属層11もこの凹凸構造に倣った形状を有している。
図8(a)において、裏面シート4には凹凸構造をなす金属層11と凹凸構造層10が積層されてなる光反射性凹凸構造層8が設けられている。太陽電池モジュール1の前面板2の入射面2aから入射した光H1のうち一部の入射光H1は太陽電池モジュール1内を透過して太陽電池セル5に入射することなく裏面シート4に入射し、光反射性凹凸構造層8の金属層11で反射される。反射された光H2は前面板2の入射面2aと大気との界面で再度反射される。この反射光H3は太陽電池セル5の受光面5aに入射して光電変換される。
したがって、太陽電池セル5の受光面5aに入射する光H3が増加すれば、太陽電池セル5での光電変換量が増え、光利用効率の向上を見込むことができる。
【0056】
本実施形態による太陽電池モジュール1においては、プリズム形状13Aの凹凸構造を有する金属層11は、前面側から入射する光H1を特定方向へ反射させることができる。この反射光H2が再入射することにより、太陽電池セル5の受光面5aに入射する光H3が増加する。したがって、光の利用効率を向上させて発電量を増加させることが可能となる。
【0057】
ここで、図8(b)に裏面シート4における凹凸構造層10及び金属層11の凸部を構成するプリズム形状13Aの頂角θと反射角α(入射角α)との関係を示す。図8(b)において、前面板2の入射面2aに対して垂直に光H0が入射した場合、頂角θと反射角αとの間には(3)式で示す関係が成り立つ。
α=(180°−θ)/2 …(3)
【0058】
凹凸構造をなす金属層11で反射した光H2は、前面板2と大気との界面で反射する。このときの入射光H2の入射角は2αである(図8(c)参照)。
ここで、入射角2αが臨界角φ以上の場合には、前面板2と大気との界面で全反射するため、入射光H2はロスが極めて少なくその多くが反射光H3となる。
一方、入射角2αが臨界角φより小さい場合には、反射光H3の他に大気中への透過光H4が発生する(図8(d)参照)。この透過光H4の発生により、前面板2の入射面2aと大気との界面での反射光H3の光量が減少し、太陽電池セル5の受光面5aに入射する光H3の光量も減少するため、反射光H2の入射角2αが臨界角φ以上になることが望ましい。
【0059】
なお、上記臨界角φは、前面板2の屈折率n1と大気の屈折率n2によって決定され、以下の関係式(4)が成立する。
sinφ=n1/n2 …(4)
但し、n1>n2
例えば、前面板2に強化ガラスなどのガラスを用いた場合には、その屈折率n1は約1.5、大気の屈折率n2は約1.0であるため、臨界角φは約42°となる。
以上の説明から、凹凸構造をなす金属層11での反射光H2を有効に利用するためには、界面への入射角2αが臨界角φ以上となる必要があり、上述のように臨界角φが42°の際には凹凸構造をなす金属層11での反射角αが21°以上であることが要求される。
【0060】
ここで、凹凸構造層10がプリズム構造である場合のプリズムの底辺Xと高さYのアスペクト比Y/Xに対する頂角θ及び凹凸構造をなす金属層11での反射角αの値を下記の表1に示す。上述のように、凹凸構造をなす金属層11での反射光H2を有効に利用するためには、反射角αが21°以上である必要があるため、凹凸構造10におけるプリズムのアスペクト比Y/Xを0.2以上に設定する必要がある。
【0061】
【表1】
【0062】
以上の説明においては、前面板2の入射面2aへの光H0の入射角が0°である場合を検討してきたが、実際には、入射する光H0の入射角は様々である。そのため、アスペクト比Y/Xが0.15以上、すなわち前面板2と大気の界面に入射する金属層11での反射光H2の入射角2αと臨界角φの差が約10°以内であれば、光H0の入射角が異なる場合でも最終的に太陽電池セル5の受光面5aに入射する光は発生する。しかし、アスペクト比Y/Xが0.15未満になると、前面板2と大気の界面に入射する反射光H2の入射角2αが臨界角φよりも10°近く小さくなり、全反射する光が少なくなる。
したがって、上記アスペクト比Y/Xは、少なくとも0.15以上、好ましくは0.2以上であることが好ましい。
これにより、光の利用効率を大きく保持することができる。
【0063】
また、入射光H1を特定方向に反射させて太陽電池セル5に向かわせる光反射性凹凸構造層8の金属層11は、頂部11a、11a間のピッチをPtとして、頂部11aの曲率半径rが0.01Pt〜0.1Ptの範囲に設定されている。そして、透過性絶縁層7の総厚It、金属層11の頂部11aのピッチPtは下記の(2)式を満たす関係にある。
6.0kV≦Ds(It−Pt/2) …(2)
そのため、頂部11aが存在することによって生じ易くなる電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。これにより、十分な電気絶縁性を得ることができる。
なお、上述したように、凹凸構造層10におけるプリズムのアスペクト比が0.35より大きいと成形性が悪くなるため、アスペクト比Y/Xは0.35以下であることが望ましい。したがって、本実施形態におけるアスペクト比Y/Xは、0.15〜0.35の範囲に設定されている。
【0064】
上述のように本実施形態による太陽電池モジュール1によれば、裏面シート4は凹凸構造をなす凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8を有することにより、裏面シート4の前面側から太陽電池セル5に受光されずに透光性絶縁層7を経由して光反射性凹凸構造層8へ入射する一部の光H1を、太陽電池セル5が配設された封止材層3の方向へ反射させ、前面板2と大気との界面で反射させて太陽電池セル5の受光面5aに再入射させることができる。そのため、太陽電池モジュール1における光の利用効率を向上させて発電量を増加させることができる。
特に、凹凸構造層10及び金属層11における凸部である単位形状13A、13Bのアスペクト比Y/Xを0.15〜0.35の範囲、好ましくは0.2〜0.35の範囲に設定したから、凹凸構造層10の成形性が良く金属層11での反射光H2を特定方向に向かわせて太陽電池セル5の受光面5aへ再入射する光量を増大できて反射光H2を一層有効利用できる。
また、裏面シート4は光反射性凹凸構造層8における金属層11の頂部11aが曲率半径rの凸曲面を形成すると共に、透過性絶縁層7の総厚Itと金属層11の頂部11aのピッチPtが上記(2)式を満たすことで、金属層11の頂部11aが存在することによって生じやすくなる電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。これにより、十分な電気絶縁性を得ることができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態による太陽電池モジュール1及びその裏面シート4について詳細に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、任意の設計変更等が可能であり、これらも本発明に含まれる。
次に本発明の変形例について以下に説明するが、上述した実施形態と同一または同様な部材、部分については同一の符号を用いて説明を省略する。
例えば、太陽電池モジュール1の第1変形例による裏面シート20として、図9に示す層構成を採用してもよい。
図9に示す第1変形例による裏面シート20においては、耐候層9として耐候性PETフィルムを用いている。この耐候層9上には、接着層21を介して凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8が配置されている。さらに光反射性凹凸構造層8に接着層21を介してPETフィルムからなる透光性絶縁層7が配置されている。
【0066】
また、第2変形例による裏面シート25として、図10に示す層構成を採用してもよい。
この裏面シート25においては、耐候層9として耐候性PETフィルムを用いている。この耐候層9上には、接着層21を介して凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8が配置されている。ここでは、金属層11が凹凸構造層10の裏面側に位置するように配置されており、凹凸構造層10を形成する樹脂シートが透光性絶縁層7の役割を兼ねている。そのため、別個に透光性絶縁層7を設けていない。
【0067】
また、第3変形例による裏面シート30として、図11に示す層構成を採用してもよい。 この裏面シート30においては、耐候層9として耐候性PETフィルムを用いている。この耐候層9上には、接着層21を介して凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8が配置されている。ここでは、金属層11が凹凸構造層10の裏面側に位置するように配置されている。
さらに接着層21を介してEVAフィルムからなる透光性絶縁層7が配設されている。
【0068】
また、第4変形例による裏面シート35として、図12に示す層構成を採用してもよい。 この裏面シート35においては、耐候層9は長期耐候性を得るためのPVF層36上にPETフィルム37を積層して構成している。この耐候層9上には、接着層21を介して凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8が配置されている。ここでは、金属層11が凹凸構造層10の裏面側即ち耐候層9側に配置されている。
さらに接着層21を介してEVAフィルムからなる透光性絶縁層7が配置されている。
【0069】
このような第1〜4変形例による裏面シート20,25,30,35においても実施形態の裏面シート4と同様に、金属層11を有する光反射性凹凸構造層8を含むため、入射光H1を前面側に向かって効率良く反射させることができる。したがって、太陽電池モジュール1の光の利用効率を向上させて発電量を増大させることが可能となる。
なお、上記実施形態及び第1〜第4変形例による裏面シート4,20,25,30,35において、凹凸構造層10としてプリズム形状13Aを単位形状の凸部として採用する場合、各プリズム形状13Aの長手方向を太陽電池セル12に対して傾斜して配置すると、より光利用効率を向上させることができて好ましい。
【0070】
また、太陽電池モジュール1の裏面シート4において、光反射性凹凸構造層8及び透光性絶縁層7の間と、光反射性凹凸構造層8及び耐候層9の間とのいずれか一方または両方に、無機酸化物を含むバリア層が含まれていてもよい。バリア層を採用することによって、長期使用による金属層11の劣化を防止することができる。
このバリア層は、酸素及び水蒸気バリアー性に優れた材料の層である。具体的には、太陽電池モジュール1の内部の電極等の酸化を防止する機能を付与することが可能であることから、水蒸気透過度が0〜5g/m2/dayの範囲であることが望ましい。バリア層に用いることができる材料の一例として、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化タングステン或いはそれらの混合物等が挙げられる。
特に酸化珪素は、酸素、水蒸気バリア性に優れているだけではなく、酸に対する耐性も高いため、EVAの架橋によって発生する酢酸によって侵食されないため特に望ましい。
また、バリア層が透光性絶縁層7側に配置されている場合には、バリア層に対する光の入射角と、バリア層を経由して金属層11で反射される光のバリア層からの出射角が異なる場合、太陽電池セル5への再入射を妨げる可能性があることから、バリア層は均一な厚みを有していて入射面と出射面が互いに平行な形状であることが望ましい。
【0071】
なお、凹凸構造層10や金属層11における凸部の頂部10a、11aについて、上述した実施形態や変形例では曲率半径rの断面円弧状または略球面形状の凸曲面としたが、凸曲面は必ずしも曲率半径rを断面円弧状等に形成する必要はなく、楕円形状等、適宜の断面非円弧状の凸曲面であってもよい。
さらに、裏面シート4,20,25,30,35は太陽電池モジュール1への使用に限定するものではなく、LED照明やEL素子などの発光素子の光利用効率向上など、光利用効率向上が望まれる光学素子やディスプレイ部材への転用が可能である。
【実施例】
【0072】
次に本発明の実施例と比較例について説明する。
(比較例1)
比較例1として、図9に示す上記第1変形例による裏面シート20について、耐候性PETフィルムからなる耐候層9、凹凸構造をなす金属層11と凹凸構造層10からなる光反射性凹凸構造層8、絶縁性PETフィルムからなる透光性絶縁層7を、接着層21でそれぞれ貼り合わせた裏面シート20′を作製した。この裏面シート20′により光利用効率の向上を確認する試験と絶縁破壊試験を行った。
そして、この裏面シート20′における金属層11と凹凸構造層10はプリズム形状13Aを備えた構成とし、そのアスペクト比Y/X=0.2、ピッチPt=15μm、金属層11の頂部11aは凸曲面をもたない尖鋭形状とした。また、透光性絶縁層7の厚みを25μmとした。
【0073】
この比較例1による裏面シート20′を用いて太陽電池モジュール1′を作製した。
また参照例として、比較例1による太陽電池モジュール1′における裏面シート20′に変えて散乱反射体である白色PET(東レ製ルミラーE20)を採用した太陽電池モジュールを作製した。比較例1と参照例の各太陽電池モジュールにおいて、裏面シート以外は実施形態による太陽電池モジュール1と同様に前面板2と封止材層3とを備えた構成を有するものとする。
そして、比較例1による太陽電池モジュール1′及び参照例の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セル5にあたる箇所に光センサーを配置して、前面板2の前面側から所定輝度の光H0を照射した場合における発電量を測定した。
その結果、参照例の太陽電池モジュールで測定された発電量を1とした場合、比較例1の太陽電池モジュール1′における発電量は1.12となった。これにより、光反射性凹凸構造層8を含む裏面シート20′を用いると、太陽電池モジュール1′の光利用効率の向上が可能であることが確認できた。
また、上述した比較例1による太陽電池モジュール1′において、絶縁破壊試験を行ったところ、3kV以下で絶縁破壊が起こった。
これにより、凹凸構造層10及び金属層11の頂部10a、11aが曲率半径rの凸曲面をもたない尖鋭な構成の場合、電気絶縁性が低いことを確認できた。
【0074】
(比較例2)
比較例2として、図9に示す第1変形例による裏面シート20、即ち耐候性PETフィルムからなる耐候層9、凹凸構造層10と金属層11からなる光反射性凹凸構造層8、絶縁性PETフィルムからなる透光性絶縁層7を、接着層21でそれぞれ貼り合わせた裏面シート20″を作製し、光利用効率の向上を確認する試験と絶縁破壊試験を行った。
なお、裏面シート20″における凹凸構造層10はプリズム形状13Aを有する構成とし、そのアスペクト比Y/Xを0.2、ピッチPtを15μm、頂部10aの曲率半径rを0.1μm(=0.0067Pt)とした。また、裏面シート20″における透光性絶縁層7の厚みを25μmとした。
【0075】
この比較例2による裏面シート20″を用いて太陽電池モジュール1″を作製した。
上記比較例2による太陽電池モジュール1″及び上述した参照例の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セル5にあたる箇所に光センサーを配置して、前面2a側から光を照射した場合における発電量を測定した。
その結果、参照例の太陽電池モジュールにおける発電量を1とした場合に比較例2による太陽電池モジュール1″における発電量は1.12となった。これにより、凹凸構造層10が頂部10aに曲率半径rを有する形状であっても、太陽電池モジュール1の光利用効率は低下しないことが確認できた。
また、比較例2による太陽電池モジュール1″において、3kVまで電圧を上げて絶縁破壊試験を行ったところ、透光性絶縁層7に黒化する現象は見られなかった。しかし、絶縁状態が破られリーク電流が発生した。
【0076】
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1として、図9に示す第1構成例の裏面シート20、即ち耐候性PETフィルムからなる耐候層9、凹凸構造層10と金属層11からなる光反射性凹凸構造層8、絶縁性PETフィルムからなる透光性絶縁層7を、接着層21でそれぞれ貼り合わせた裏面シート20を作製し、光利用効率の向上を確認する試験と絶縁破壊試験を行った。
なお、裏面シート20における凹凸構造層10を凸部がプリズム形状13Aの凹凸構造とし、アスペクト比Y/X=0.2、ピッチPt=15μmとした。凹凸構造層10と金属層11の各頂部10a,11aを凸曲面形状とし、頂部10a,11aの曲率半径r=0.75μmとした。また、裏面シート20における透光性絶縁層7の厚みを25μmとした。
この実施例1による裏面シート20を用いて太陽電池モジュール1を作製した。また、上述した参照例の太陽電池モジュールを比較のために用いた。
【0077】
上記実施例1による太陽電池モジュール1と参照例の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セル5に光が入射する箇所に光センサーを配置して、前面2a側から光を照射した場合における発電量を測定した。
その結果、参照例の太陽電池モジュールにおける発電量を1とした場合における実施例1による太陽電池モジュール1における発電量は1.12となった。これにより、光反射用凹凸構造層8が頂部11aに曲率半径rを有する形状であっても、太陽電池モジュール1の光利用効率は低下しないことが確認できた。
また、実施例1による太陽電池モジュール1において、絶縁破壊試験を行ったところ、3kVまで電圧をあげても絶縁破壊は起こらなかった。
これにより、凹凸構造層10及び金属層11の頂部10a,11aに曲率半径rの凸曲面を形成することで電気絶縁性が向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0078】
1 太陽電池モジュール
2 前面板(透光性前面板)
2a 入射面
3 封止材層
4、20,25,30,35 裏面シート(太陽電池裏面シート)
5 太陽電池セル
5a 受光面
9 耐候層
8 光反射性凹凸構造層
10 凹凸構造層
10a,11a 頂部
11 金属層
7 透光性絶縁層
16 電極
21,22 接着層
L 光源
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば太陽電池モジュールの裏面に配されていて、太陽電池セルに入射せず裏面シートへ入射して本来は損失してしまう光を有効に活用することが可能な太陽電池裏面シートと、この太陽電池裏面シートを備えた太陽電池モジュール、そしてディスプレイ部材や照明装置等の各種光学機器に用いる裏面シートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池パネルの普及は大きな広がりを見せている。例えば、電卓等の小型電子機器に搭載される比較的小さなものから家庭用や工場用等として住宅や施設等に取り付けられる太陽電池パネルや、大規模な発電施設に用いられる大面積の太陽電池発電システムや、さらには人工衛星の電源まで、様々な分野で利用が促進されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この太陽電池は入射した光エネルギーを電気エネルギーに変換するものであり、太陽電池のうち主要なものは使用材料の種類によって結晶シリコン系、アモルファスシリコン系、有機化合物系等に分類される。このうち、現在市場で流通しているものはほとんどが結晶系シリコン太陽電池であり、この結晶系シリコン太陽電池はさらに単結晶型及び多結晶型に分類される。
単結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が良いために高効率化が容易であるという長所を有する反面、基板の製造が高コストになるという短所を有する。これに対して多結晶型のシリコン太陽電池は基板の品質が劣るために高効率化が難しいという短所はあるものの、低コストで製造できるという長所があり、現在の主流となっている。
【0004】
このような多結晶シリコン太陽電池の高効率化に関しては様々な検討が行われている。
一例として、太陽電池に用いられるシリコン基板の表面にはテクスチャ構造が形成され
ており、これによってシリコン基板表面での太陽光の反射を低減させて光電変換効率の向上が図られている。
一方、単結晶シリコンにおいては、アルカリ溶液等の異方性エッチングにより微細なピラミッドまたは逆ピラミッド形を形成することで太陽光の反射を低減させることが行なわれている。この異方性エッチングでは、単結晶シリコンのエッチング速度が、Si(100)結晶方位面とSi(111)結晶方位面とで異なることを利用している(例えば、特許文献2参照)。
ところが、このような異方性エッチングを多結晶シリコンに適用しようとした場合、ア
ルカリ水溶液によるエッチングが結晶の面方位に依存するため、多結晶シリコンにおけるピラミッド構造を均一に形成できず、シリコン基板全体での反射率の低減を効果的に行なうことができないという問題があった。
【0005】
このような問題を解決するために、多結晶シリコン基板へテクスチャを形成する方法として、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching)法によって多結晶シリコン基板表面に微細な突起を形成する手法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。この手法によれば、微細な突起を多結晶シリコンにおける不規則な結晶の面方位に左右されずに均一に形成することにより、特に多結晶シリコンを用いた太陽電池セルにおいても反射率をより効果的に低減することができる。
また、表面反射防止膜を組み合わせることにより、さらに変換効率を向上できることが知られている。即ち、結晶シリコンは、波長400nm〜1100nm領域で屈折率6.00〜3.50の大きな屈折率を持つので、短波長領域で約54%、長波長領域で約34%の反射損失がある。この反射損失を減ずるために、屈折率の異なる透明材料で表面反射防止膜を形成し、これにより変換効率を向上させることができる。
【0006】
さらに、シリコン基板上に形成する電極を微細化することで受光面積を増加させ、太陽光を多く取り込むことで変換効率を向上させる検討も行われている(例えば、特許文献
4参照)。
以上のような高効率化技術の進歩により、最近では多結晶シリコン太陽電池においても、研究レベルでは18%程度の変換効率が達成されており、多結晶シリコン太陽電池における変換効率の理論限界(20〜30%)に近づいてきている。
【0007】
そこで、光利用効率を高めるべく太陽電池モジュールの前面から入射した太陽光のうち、太陽電池モジュール内にてエネルギー変換を行なう太陽電池セルに入射せずに太陽電池セルの裏面側に設けた裏面シートへ入射する太陽光を再利用する試みが行なわれている。
このように、太陽電池セルに入射せずに裏面シートへ入射する太陽光が存在するのは、リーク電流を低減させるために太陽電池モジュール内の複数の太陽電池セル間に隙間が形成されていることに基づく。そこで、太陽電池モジュールの裏面側に反射材を備えた太陽電池裏面シートを配置している。太陽電池セルの隙間から漏れ出る太陽光を太陽電池裏面シートで反射させることによって太陽電池セルに再入射させることで、光利用効率の向上が図られている(例えば、特許文献5参照)。
【0008】
また、反射材の表面を凹凸構造とする試みも行われている。反射材の表面を凹凸構造とすることで、より光利用効率の向上が望める。このとき、反射材としては上述の散乱反射体の他、アルミニウムなどの鏡面反射体を用いることも可能であるが、導電体が凹凸構造
を持つことによる電気絶縁性の低下が問題となっていた(例えば、特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−295437号公報
【特許文献2】特開昭62−35582号公報
【特許文献3】特公昭60−27195号公報
【特許文献4】特開2000−332279号公報
【特許文献5】特開平11−307791号公報
【特許文献6】特開平10−284747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、上述のような太陽電池裏面シートにおいては、反射材として一般的に散乱反射体が使用されている。しかしながら、散乱反射体を使用する場合、散乱による光の損失が生じてしまい太陽電池セルに向けて光を効率的に反射することができない。従って、反射材による反射角を適切に設定することができれば、太陽電池セルに入射する光量を増加させることができて光利用効率の向上を図ることができる。
反射材の反射角を適切に設定するためには、金属などの鏡面反射体で凹凸構造を形成することが望ましい。しかしながら、金属の凸部が存在すると電荷集中により放電破壊が生じやすくなってしまうという問題が生じる。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであって、反射角を適切に設定することで光の利用効率を向上させることができると共に電気絶縁性にも優れる裏面シート、太陽電池裏面シート及び太陽電池裏面シートを用いた太陽電池モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決するために、本発明は以下の発明を提案している。
即ち、本発明に係る太陽電池裏面シートは、内部に太陽電池を封止した封止材層の前面側に透光性前面板が積層されてなる太陽電池モジュールの裏面側に配置される太陽電池裏面シートであって、前面側から裏面側に向けて、透光性絶縁層と、光を反射させる凹凸構造を形成した金属層を備えた光反射性凹凸構造層と、耐候層とが積層されてなり、金属層の凹凸構造における凸部の頂部が凸曲面を形成していることを特徴とする。
本発明による太陽電池裏面シートによれば、凹凸構造の金属層を配置すると共に金属層の凸部の頂部に凸曲面を形成したことで、前面側から透光性絶縁層を透過して光反射性凹凸構造層に入射する光を金属層の凹凸構造によって特定方向へ反射させることができる。そして、この反射光が前面板と大気との界面で反射することで太陽電池モジュールの太陽電池セルに再入射させて、光の利用効率を向上させることができる。
【0013】
また、金属層の凹凸構造として、略プリズム形状、略多角錐形状、或いはこれらのいずれかの形状の逆型形状のいずれかが複数配列されてなることを特徴とする。
この金属層の構成により、前面側から入射する光を裏面シートで特定方向に反射させて確実に太陽電池セルへと再入射させて光の利用効率の向上を図ることができる。
【0014】
また、金属層における頂部の凸曲面は曲率半径をrとし、頂部のピッチをPtとしたときに、曲率半径rは0.01Pt以上0.1Pt以下の範囲に設定されていることが好ましい。
凸曲面の曲率半径rが0.01Pt〜0.1Ptの範囲に設定されていることにより、金属層における凸部の頂部が尖鋭に形成されているときに生じる電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。頂部の曲率半径は大きいほど電荷集中を防止できるが、0.1Ptより大きいと反射光の多くを散乱させてしまい発電効率を落とすことになり、0.01Ptより小さいと電荷集中を生じる。
【0015】
また、金属層における凹凸構造の凸部の底辺に対する高さのアスペクト比が、0.15以上0.35以下の範囲に設定されていることが好ましい。
ここで、凹凸構造の単位構造である凸部のアスペクト比が0.35より大きい場合には、凹凸構造を成形するときの成形性が低下してしまう。一方、アスペクト比が0.15より小さい場合には、光利用効率を向上させる効果が弱くなってしまう。この点を踏まえ、本発明ではアスペクト比を上記範囲に設定したため、凹凸構造成形時の成形性を保持しながら光利用効率を高く向上させることができる。
【0016】
また、金属層における凹凸構造の凸部のピッチXが10μm〜30μmの範囲に設定されていることが好ましい。
金属層の凸部のピッチXが30μmより大きい場合には、ピッチXの増大にともなって凸部の高さYが高くなるため透光性絶縁層と接着層を介して貼り合わせる際に、気泡が入りやすい等の欠点が発生し易くなり好ましくない。また、接着層の厚みを厚くする必要があり形成そのものも困難となる他、コスト高の要因となってしまう。一方、金属層の凸部のピッチXが10μmより小さい場合、光が反射する際に光の回折が起こり得る。回折光は分光して広がった光になるため制御が難しく、特定方向に反射する上で好ましくない。さらに、金型製作時に金型を切削する時間が長くタクトが低下し生産効率が悪くなるため好ましくない。これを踏まえて本発明では、凸部のピッチXが10μm〜30μmの範囲に設定されているため、上記不都合を解消することができる。
【0017】
本発明に係る太陽電池裏面シートは、透光性絶縁層が3kV以上の絶縁破壊電圧を有することを特徴とする。
これにより、太陽電池裏面シートの長期使用による短絡や漏電の発生を防止することができる。
【0018】
また、本発明に係る太陽電池裏面シートは、光反射性凹凸構造層の透光性絶縁層側または/及び耐候層側に無機酸化物を含むバリア層が少なくとも一層含まれることが好ましい。
また、バリア層の水蒸気透過度が0〜5g/m2/dayであることが好ましい。
上述した構成を採用することにより、長期使用による金属層の劣化をバリア層によって防止することができる。
【0019】
また、本発明に係る太陽電池モジュールは、内部に太陽電池を封止した封止材層の光入射面側に透光性前面板が積層されてなり、透光性前面板の反対側である裏面側に上述したいずれかの太陽電池裏面シートを配置してなることを特徴とする。
本発明による太陽電池モジュールによれば、太陽電池モジュールの透光性前面板から封止材に入射する光の多くは太陽電池セルに受光されて光電変換され、残りの一部の光は太陽電池セル同士の間隙を通って太陽電池裏面シートに入射し、透光性絶縁層を透過して凹凸構造をなす光反射性凹凸構造層で反射して所定の反射角で特定方向に反射する。この反射光が透光性前面板の界面で更に反射し、太陽電池セルに再入射することによって光の利用効率を向上させることができる。また、太陽電池裏面シートの光反射性凹凸構造層における金属層の凸部の頂部が凸曲面であることによって、電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。従って、電気絶縁性を向上させることができる。
【0020】
本発明による裏面シートは、光入射面側から裏面側に向けて、透光性絶縁層と、光を特定方向へ反射させる凹凸構造を形成した金属層を備えた光反射性凹凸構造層と、光反射性凹凸構造層を保護する耐候層とが積層されてなり、金属層の凹凸構造における凸部の頂部が凸曲面を形成していることを特徴とする。
本発明による裏面シートによれば、凹凸構造の金属層を配置すると共に金属層の凸部の頂部に凸曲面を形成したことで、入射光が透光性絶縁層を透過して光反射性凹凸構造層に入射し、この入射光を金属層の凹凸構造によって特定方向へ反射させることができる。そして、この反射光を太陽電池セルに再入射させたり光学素子から発光する光やディスプレイ部材に投射する光と共に出射させたりすることで、光の利用効率を向上させることができる。しかも、透光性絶縁層を挟んで金属層と対向する位置に電極等を配設したとしても、凹凸構造の頂部によって生じ易くなる電荷集中による放電破壊を防ぐことができ、十分な電気絶縁性を確保する
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る太陽電池裏面シート及び太陽電池モジュールによれば、凹凸構造をなす金属層を備えた光反射性凹凸構造層を有することにより、太陽電池裏面シートの光入射側から透光性絶縁層を経由して光反射性凹凸構造層に入射する光を凹凸構造の金属層によって太陽電池セルが配置された特定方向へ到達するように反射させることができ、太陽電池モジュールにおける光の利用効率を向上させて発電量を増加させることができる。
また、光反射性凹凸構造層における金属層の凹凸構造の頂部が凸曲面を形成することによって、凹凸構造の頂部によって生じ易くなる電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。これにより、十分な電気絶縁性を確保することができる。
【0022】
また、本発明による裏面シートによれば、透光性絶縁層を透過して光反射性凹凸構造層に入射した入射光を金属層の凹凸構造によって特定方向へ反射させることができる。そして、この反射光を太陽電池セルに再入射させたり光学素子から発光する光やディスプレイ部材に投射する光と共に出射させたりすることで、光の利用効率を向上させることができる。しかも、透光性絶縁層を挟んで金属層と対向する位置に電極等を配設したとしても、電荷集中による放電破壊を防いで十分な電気絶縁性を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態による太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図である。
【図2】図1に示す裏面シートの概略構成を示す拡大縦断面図である。
【図3】図2に示す裏面シートにおける光反射性凹凸構造層の部分拡大図である。
【図4】裏面シートにおける光反射性凹凸構造層の凹凸構造層の一例を示す斜視図であって、(a)は略プリズム形状の凹凸構造層、(b)は略逆四角錐形状を有する凹凸構造層を示す図である。
【図5】図4(a)または(b)に示す凹凸構造における単体の凸部形状を示す縦断面図である。
【図6】電極を含む太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図であり、(a)と(b)は参考例、(c)は実施形態による太陽電池モジュールの例である。
【図7】光反射性凹凸構造層から透光性絶縁層を介して電極の陰極に放電が起こるときの様子を説明する図であり、(a)は金属層の頂部が尖鋭形状である場合、(b)は金属層の頂部が凸曲面形状である場合を示す図である。
【図8】太陽電池モジュールにおける入射光の反射軌跡を示す図であり、(a)は太陽電池モジュールの要部縦断面図、(b)は裏面シートの光反射性凹凸構造層での反射光を示す図、(c)、(d)は前面板と大気との界面で反射する反射光を示す図である。
【図9】第1変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図10】第2変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図11】第3変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【図12】第4変形例による裏面シートの概略構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態による太陽電池裏面シート及びこの裏面シートを用いた太陽電池モジュールについて添付図面に基づいて詳細に説明する。
図1は実施形態による太陽電池モジュールの概略構成を示す縦断面図である。図1において、太陽電池モジュール1は、光の入射方向から順に、前面板2と封止材層3と裏面シート(太陽電池裏面シート)4とが積層されることで構成されている。封止材層3には封止材中に複数の太陽電池セル5が所定の間隙を開けて例えば同一面状に配列されて封入されている。
太陽電池モジュール1は、光源Lからの光を受光することにより光電変換して発電を行なう装置である。なお、光源Lとしては、通常、太陽や室内灯等の人工照明が採用される。
また、前面板2、封止材層3、封止材層3中に封入された太陽電池セル5及び裏面シート4が、真空ラミネータで熱ラミネートすることにより積層されることで太陽電池モジュール1が一体成形されている。
【0025】
前面板2は太陽電池モジュール1の最前面に配置されており、太陽電池セル5を衝撃、汚れ、水分の浸入等から保護するものであり、透過率が高い透明な材料から形成された板状をなしている。
図1に示すように、光源Lから発光される光のうち、前面板2の入射面2aに垂直に入射する光H0は、前面板2に入射した後、前面板2を透過して封止材層3に入射する。なお、入射面2aの法線NGは、例えば水平面に平行な平面P上に前面板2を載置した状態における平面Pの法線と平行な方向とする。入射面2aに垂直に入射する光H0とは、法線NGに平行に前面板2に入射する光H0、即ち太陽電池モジュール1に入射する光H0のことを示している。
この前面板2は、強化ガラス、サファイアガラス等のガラス、あるいはPC(ポリカーボネート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)等の樹脂シートから構成されている。また、前面板2の厚さは強化ガラスであれば約3〜5mm程度、樹脂シートであれば約5mm程度のものが用いられる。
【0026】
前面板2を射出した光は封止材層3に入射する。この封止材層3は厚さ0.4〜1.0mm程度のシート状をなしており、その内部に複数の太陽電池セル12を封入して固定している。前面板2に入射した光H1は、封止材層3を透過して太陽電池セル5へ入射する光H1となり、光H1の一部は太陽電池セル5の間隙から封止材層3を通過して裏面シート4に入射する。
封止材層3には、入射した光H1を透過させるため光線透過率が高い材料が用いられ、さらに耐候性、耐高温、耐高湿、耐候性等の耐久性、そして電気絶縁性を有する素材が好適である。この条件を満たす材料として、例えば酢酸ビニル含有量が20〜30%のEVA(エチレンビニルアセテート共重合体)やPVB(ポリビニルブチラール)等を主成分とする熱可塑性の合成樹脂材が使用される。
【0027】
太陽電池セル5は、光入射方向である受光面5aに入射した光を光電効果により電気へ変換する機能を有する最小単位であり、単結晶シリコン型、多結晶シリコン型、アモルファスシリコン型、CISG(Cu・In・Ga・Seの化合物)系薄膜型等多くの種類が存在する。太陽電池セル5は複数個の太陽電池セル5が図示しない電極によって接続されてモジュールを形成している。
本実施形態においては、前面板2に垂直に入射する光H0が、光H1として封止材層3から太陽電池セル5に入射し、太陽電池セル5で電気へと変換される。なお、通常、入射面2aに対して斜めに入射した光は、垂直入射の光H0と比較して入射面2aで反射する割合が多く、太陽電池セル5に入射する光量の割合が少ない。即ち、発電に利用できる光量が少ない。そのため、入射面2aに垂直に入射する入射光H0が最も効率良く発電を行なうことができる。
【0028】
図2は、本発明の実施形態による裏面シート4の概略構成を示す拡大縦断面図である。この裏面シート4は、太陽電池セル5自体を透過した光や太陽電池セル5に入射せずに太陽電池セル5,5間の封止材層3を透過した光H1を反射させる機能を有している。裏面シート4は、光H1が入射する前面側から裏面側に向けて順に少なくとも透光性絶縁層7と光反射性凹凸構造層8と耐候層9とが積層されて構成されている。
【0029】
耐候層9には耐候性、耐高温、耐高湿、難燃性等の長期耐候性が要求される。これらの要求を満たす材料として、一般的にPVF(ポリフッ化ビニル)等のフッ素樹脂フィルムやフッ素樹脂塗膜、もしくは低オリゴマーPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム等、耐熱タイプのPETフィルム等が使用される。この他、耐候性に優れるPENフィルム等を使用してもよい。なお、耐候層9の材料としては上述したものに限定されることはなく、長期耐候性の基準値を満たす材料であれば適宜採用することができる。
耐候層9は単層であってもよく多層であってもよい。単層の場合には、上述した材料のいずれかを要求特性に合わせて選択することができる。PVFは長期耐候性に特に優れているため好適である。また低オリゴマーPETフィルム等、耐熱タイプのPETフィルムは安価でありながら長期耐候性にも優れているため、好適である。
【0030】
この耐候層9が多層構造の場合には、例えばPETフィルムにPVF(ポリ・フッ化・ビニル)等のフッ素樹脂フィルムを貼り合わせたものや、PETフィルムにPVF等のフッ素樹脂塗膜を形成したもの等が挙げられる。
PVF等のフッ素樹脂は長期耐候性に非常に優れており、単層でも十分な性能を発揮するものの、単層で十分な強度を得ようとすると厚みを厚くする必要がありコスト高の要因となる。よって、強度を確保する基材との組合せによる多層構造とすることが好ましい。また、特に耐候層9がフッ素樹脂塗膜によって形成される場合には、光反射性凹凸構造層8に直接塗膜を形成するよりも、PETフィルムに一度塗膜を形成した後に光反射性凹凸構造層8と貼り合わせる方が密着性や作業性の観点から望ましい。
なお、耐候層9の層構成は上述した構成に限定されたものではなく、要求特性に応じて適宜変更可能である。
【0031】
次に、光反射性凹凸構造層8は、図3の拡大図で示すように、樹脂材料からなる凹凸構造層10とその透光性絶縁層7側に設けられた金属層11とが積層されて構成されており、金属層11は凹凸構造層10との界面形状に沿って凹凸構造を形成している。
即ち、この光反射性凹凸構造層8は、図3及び図4に示すように、凹凸構造層10の金属層11と接触する面(前面という)は断面視で凸部と凹部が交互に配列されてなる凹凸構造に形成されており、凸部の頂部10aは断面視で曲率半径rを有する凸曲面に形成されている。凹凸構造層10の凹凸を形成する前面に対向する裏面は例えば平面とされているが、凹凸面等でもよい。
また、凹凸構造層10の前面に積層される金属層11も凹凸構造層10の前面に沿って断面視で凸部と凹部が交互に配列された凹凸構造に形成されている。金属層11の凸部の頂部11aは頂部10aと同一曲率半径rの凸曲面に形成されている。そのため、金属層11に入射する光H1を所定の方向へ反射させる機能を有している。このような反射機能を備えるためには、金属層11が有する反射面が鏡面反射面であることが望ましい。
【0032】
凹凸構造層10は樹脂材料からなっており、その製作方法としては、金型を用いたプレス法・キャスティング法・押し出し成形法・射出成形法などが挙げられる。これらの方法によれば、シート形成と同時に凹凸構造の前面を形成することが可能である。
また、樹脂材料からなる凹凸構造層10を形成する別の方法として、平面スタンパやロールスタンパの凹凸形成面に熱硬化型樹脂、紫外線硬化型樹脂や電子線硬化型樹脂等を塗布または注入し、その上に基材を配置して、硬化処理後にスタンパの凹凸形成面から離型するといった方法がある。これらの方法では、使用する樹脂の粘度を低くすることができるため成形性がよいという利点がある。
凹凸構造層10の頂部10aにあたる金型の凹部の形状が尖っている尖鋭形状であると型成形による再現が難しいが、本実施形態では例えば曲率半径rを有する略球面形状等の凸曲面形状に形成したため再現性良く構造を賦型することが可能であり、好適である。
【0033】
凹凸構造層10を形成するために使用する金型は、バイトによる金属板の切削加工や、バイト切削及び電子ビームによる描画やエッチングによって得られた母型の電鋳加工等により得ることができる。このような加工により成形された金型は、表面に凹凸構造の逆型構造が形成されている。例えば、曲率を有する先端形状をもつバイトで金属板を切削することで、所望の頂部10aに曲率を有する凹凸構造層10の逆型構造が形成された金型が得られる。
このとき、バイトの先端形状が尖っていると形状の再現性が難しく、バイトの先端が欠けやすいなどの問題があるが、曲率をもつ先端形状であれば形状の再現性も高くバイトの欠けなどの問題も生じにくく、好適である。凹凸構造層10の金型は板状でもよく、ロール状でもよいが、ロール状の金型とする方が望ましい。ロール状の金型であれば、連続エンボス加工が可能であり、大きな面積を必要とする裏面シート4の作製方法として好適である。
【0034】
上述した凹凸構造層10の製造方法に使用材料として樹脂を用いる場合、この樹脂材料は特に限定されるものではなく、例えばポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリイミド系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、メタクリル系樹脂、ポリメチルペンテン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、アクリロニトリル―(ポリ)スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル―ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)等のポリスチレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、リエチレンナフタレート系樹脂、ポリエーテルイミド系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂等が挙げられ、これらの樹脂を1種又は2種以上混合して使用することができる。
また、上述した樹脂材料の他に例えば散乱反射体、硬化剤、可塑剤、分散剤、各種レベリング剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、粘性改質剤、潤滑剤、光安定化剤等の各種添加剤が適宜配合されてもよい。
【0035】
また、金属層11は、例えばアルミニウムや銀などの金属を、凹凸構造10の前面の凹凸形状に倣った層形状になるように形成する。金属層11の形成手段としては、凹凸構造層10に収縮、黄変等の劣化を招来することなく金属層11を形成できれば特に限定されるものではない。
例えば、(a)真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンクラスタービーム法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法;PVD法)、(b)プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法;CVD法)が採用される。これらの中でも、生産性が高く良質な金属層11を形成できる真空蒸着法やイオンプレーティング法が好ましい。
【0036】
金属層11に用いられる金属としては、金属光沢を有しかつ上述したいずれかの形成方法に適用可能であれば特に限定されるものではなく、例えばアルミニウム(Al)、銀(Ag)、金(Au)、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)等の単体もしくは合金が挙げられ、単層で形成してもよく複数の金属を積層して形成してもよい。中でも、反射性が高く緻密な金属層11を比較的容易に形成できるアルミニウムが好適である。
また、金属層11の厚さの下限として10nmが好ましく、20nmが特に好ましい。一方、金属層11の厚さの上限として200nmが好ましく、100nmが特に好ましい。金属層11の厚さが下限である10nmより小さいと、金属層11に入射する光を十分に反射させることができない。また、20nm以上の厚さであっても、上述の金属層11で反射される光は大幅には増えないため、20nmであれば十分な厚さといえる。一方、金属層11の厚さが200nmの上限を超えると、金属層11に目視でも確認できるクラックが発生する不具合が生じる。なお、金属層11の厚さが100nm以下であれば、目視で確認できないようなクラックも発生しないので特に好ましい。
【0037】
上述の製造方法で形成した光反射性凹凸構造層8は、樹脂材料からなる凹凸構造層10上に金属層11が積層して形成されている。すなわち、光反射性凹凸構造層8は金属層11が樹脂シートからなる凹凸構造層10に支持されている。なお、金属層11は、図3では凹凸構造層10の光入射側である前面側に配されているが、裏面側に配されてもよく、要求特性に応じて適宜選択することが出来る。
また、光反射性凹凸構造層8の金属層11を支持する凹凸構造層10に上述の耐候層9として使用可能な材料を採用して、凹凸構造層10を省略して耐候層9とすることも可能である。この場合、光反射性凹凸構造層8は金属層11で構成される。そのため、光反射性凹凸構造層8は少なくとも入射光を反射させる金属層11が設けられていればよい。
【0038】
凹凸構造層10は、図4(a)に示すような、頂部10aに曲率半径rを設けた凸部が略三角柱形状のプリズム形状13Aを採用して同一方向に配列して構成することが望ましい。或いは、図4(b)に示すように、頂部に曲率を有する略多角錐形状13Bを互いに直交するX,Y方向に配列した構成を採用してもよい。また、凹凸構造層10の形状として、図4(b)に示す凸部と凹部が反転した形状の逆型形状を採用してもよい。
また、図4(a)、(b)に示す凹凸構造層10における単位形状である凸部、即ちプリズム形状13A,略多角錐形状13B(以下、単位形状13A,13Bということがある)の構造は、図5に示すような断面山形をなす単位形状13A,13Bの底辺(ピッチ)Xと高さYのアスペクト比Y/Xが、0.35以下であることが望ましい。
【0039】
単位形状13A,13Bのアスペクト比Y/Xが0.35より大きい場合には、凹凸構造層10を成形するときに金型の凹部または凸部部分に樹脂が残りやすく成形分離性が低下してしまう。単位形状13A,13Bのアスペクト比が0.35以下であるならば、樹脂が金型に残る可能性が低くなり、設計通りの形状に成形することができる。
また、単位形状13A,13Bのアスペクト比Y/Xは、0.15以上であることが望ましい。アスペクト比Y/Xが0.15より小さいと、光利用効率を向上させる効果が弱くなる。この理由については後述する。
なお、凹凸構造層10は、図4(a)、(b)に示す凹凸構造を構成する複数の凸部であるプリズム形状13A、略多角錐形状13Bが一定のピッチPtで配列された周期配列構造を有していてもよく、ピッチPtがランダムとされた不定形配列構造であってもよい。
【0040】
凹凸構造層10が周期配列構造を有する場合のプリズム形状13A、略多角錐形状13B即ち凸部のピッチXとしては、30μm以下であることが望ましい。 ピッチXが30μmより大きい場合には、ピッチXの増大にともなって構造の高さYが高くなるため、耐候層9もしくは透光性絶縁層7と接着層を介して貼り合わせる際に、気泡が入りやすい等の問題が発生し易くなり好ましくない。また、接着層の厚みを厚くする必要があるため、接着による光反射性凹凸構造層8の形成そのものも困難となる他、コスト高の要因となってしまう。この点、ピッチXが30μm以下であれば貼り合わせの際に気泡等の問題が発生する可能性が低くなり、さらに成形性やコストの観点から好ましい。
【0041】
また、凹凸構造層10が周期構造を有する場合のプリズム形状13A、略多角錐形状13BのピッチXは10μm以上であることが望ましい。
当該ピッチXが10μmより小さい場合、凹凸構造層10によって入射光H1が反射する際に光の回折が起こり得る。この回折光は、分光して広がった光となるため制御が難しく、入射光H1を特定方向に反射させる上で好ましくない。さらに、金型を切削する時間が長くなりタクトが低下して生産効率が悪くなるため好ましくない。この点、ピッチが10μm以上であれば、光を適確に特定方向に反射させることができる上に発電効率の観点から好ましい。
【0042】
なお、光反射性凹凸構造層8における金属層11を形成する別の方法として、例えば凹凸構造層10が形成された樹脂フィルムに金属粒子やフレークを含有した樹脂をコーティングする等の方法も挙げられるが、この方法では、鏡面反射性が劣るために光利用効率の向上効果が小さく好ましくない。
凹凸構造をなす金属層11を形成するさらに別の方法として、例えば凹凸構造を金属箔によって直接形成する等の方法も挙げられるが、この方法では、金属層11の厚みが厚くなるために電気抵抗が低くなり、モジュールを固定するアルミフレームや端子BOXとつながる配線などとの通電が起こりやすくなるため、好ましくない。
【0043】
光反射性凹凸構造層8の前面側に配設された透光性絶縁層7は、電気絶縁性を有する材料から構成されている。
太陽電池裏面シート4に要求される重要な性能の一つとして、電気絶縁性がある。この電気絶縁性は、太陽電池モジュール1が内部に電極を含むことから、長期使用による短絡や漏電等を防ぐための必須の性能である。また、太陽電池モジュール1においては、裏面シート4は特に太陽電池セル5側の表面が電気絶縁性であることが求められている。
【0044】
次に、太陽電池モジュール1における電荷集中による放電破壊を防ぐための構成について、図6(a)、(b)、(c)により説明する。図6(a)と(b)に示す太陽電池モジュール1A、1Bは裏面シート4に透光性絶縁層7が設けられていない構成を示すものであり、図6(c)は本実施形態による太陽電池モジュール1を示すものである。なお、図6(a)、(b)、(c)において光反射性凹凸構造層8は凹凸構造の金属層11で構成され、凹凸構造層10は省略されている。しかし、図6(c)に二点鎖線で示すように、図2に示す実施形態のように金属層11の裏面側に凹凸構造層10を積層して設けてもよい。
図6(a)、(b)、(c)の各図に示す太陽電池モジュール1A,1B,1において、太陽電池セル5は発電した電力を取り出すための電極16を隣接する太陽電池5,5間に設けており、隣接する太陽電池5,5同士が電極16によって接続されている。
図6(a)に示す太陽電池モジュール1Aにおいて、通常、太陽電池セル5は封止材からなる封止材層3の厚み方向中央付近にあり、光反射性凹凸構造層8から離れているため、電極16がショートすることによる電流のリークは起こらない。
【0045】
しかし、太陽電池セル5は封止材が軟化した充填材からなる封止材層3で封止されているため、図6(b)に示す太陽電池モジュール1Bにおいて、光反射性凹凸構造層8を前面側に向けて即ち太陽電池セル5側に近接させて封止材層3で封止しようとすると、太陽電池セル5と光反射性凹凸構造層8が接触してしまうことがある。このとき光反射性凹凸構造層8を通じて電極16がショートし、電流がリークしてしまう。
ショートを防ぐために、図6(c)のように透光性絶縁層7を光反射性凹凸構造層8上に配置する構成を採用することで、ショートによる電流リークを防ぐことができる。
【0046】
ここで、裏面シート4の前面側に透光性絶縁層7を設けたことによる電気絶縁性を示す数値基準の一つとして絶縁破壊電圧がある。この絶縁破壊電圧は、絶縁破壊電圧以上の電圧が加わると絶縁状態が破壊されるという指標であり、絶縁破壊電圧が高い方が電気的に安定であると言える。
一般的に、裏面シート4の前面側には、透光性絶縁層7として電気絶縁用プラスチックフィルムまたはPVF等のフッ素樹脂フィルムやフッ素樹脂塗膜が配されている。
例えば、参考文献1(「太陽光発電システム構成材料」(工業調査会))によると、各種電気絶縁用プラスチックフィルム(25μm)の絶縁破壊電圧(kV)のおおよその数値は、PET(ポリエチレンテレフタレート)で6.5kV、PEN(ポリエチレンナフタレート)で7.5kV、PVC(延伸硬質塩ビ)で4.0kV、PC(ポリカーボネート)で5.0kV、OPP(延伸ポリプロピレン)で6.0kV、PE(ポリエチレン)で4.0kV、TAC(トリアセテート)で3.0kV、PI(ポリイミド)で7.0kVである。これらはいずれも絶縁材料としての絶縁破壊電圧を満たしている(参考 JISC2318/電気用二軸配向ポリエチレンテレフタレートフィルム)。
【0047】
また、PVF(ポリ・フッ化・ビニル)の代表的な製品であるデュポン社のテドラーの絶縁破壊電圧は約3.0kVである。
太陽電池モジュール1の絶縁性能の一つとして、最大システム電圧の2倍+1000Vの直流電圧を1分間印加しても絶縁破壊などの異常がないこと、と定められている(参考
JISC8918/結晶系太陽電池モジュール)。最大システム電圧は、通常600〜1000Vである。
以上から、絶縁破壊電圧の平均値は3kV以上であることが望ましく、上述の各種材料はこの基準を満たしている(参考 JISC2151/電気用プラスチックフィルム試験方法の17.2.2平板電極法)。絶縁破壊電圧が3kVより小さい場合、長期使用による短絡や漏電の可能性が高くなる。
【0048】
本実施形態における透光性絶縁層7は、上述の各種材料のいずれかからなる樹脂フィルムで構成されている。この透光性絶縁層7に使用する材料としては、透明あるいは半透明の材料であることが望ましく、光の散乱を生じる要素が少ない方が好ましい。
ここで、裏面シート4に入射した光H1は、透光性絶縁層7を透過した後に光反射性凹凸構造層8の金属層11で反射され、再度透光性絶縁層7を透過して裏面シート4からの反射光H2となる。したがって、透光性絶縁層7は透明性が高く散乱要素が少なければ、裏面シート4へ入射した光が反射光となる際の反射効率が高くなる。
また、透光性絶縁層7の成形に用いる材料は上述したものに限ったものではなく、絶縁破壊電圧の基準値を満たす材料であれば適宜の材料を採用することが可能である。例えば、EVAやPVB等を主成分とする合成樹脂フィルムを採用することも可能である。これらの樹脂を採用した場合には、封止材層3との密着性が向上するため好ましい。
【0049】
透光性絶縁層7は単層であってもよく、また多層であってもよい。透光性絶縁層7が単層の場合には、上述した材料のいずれかを要求特性に合わせて選択することができる。透光性絶縁層7が多層の場合には、その構成として、例えばPETフィルムにPVF等のフッ素樹脂フィルムを貼り合わせる構成、PETフィルムにPVF等のフッ素樹脂塗膜を形成する構成、PETフィルムにEVAやPVB等を主成分とする合成樹脂フィルムを貼り合わせる構成等が挙げられる。
透光性絶縁層7としてPVF等のフッ素樹脂を用いた場合には、電気絶縁性の基準を満たすとともに、封止材層3との密着性が向上するため好ましい。しかし、単層で十分な強度を得ようとすると厚みを厚くする必要がありコスト高の要因となってしまう。したがって、強度を確保する基材との組合せによって多層構造とすることが好ましい。特に透光性絶縁層7としてフッ素樹脂塗膜を用いる場合には、光反射性凹凸構造層8に直接塗膜を形成するよりもPETフィルムに一度塗膜を形成した後に光反射性凹凸構造層8と貼り合わせる方法が、密着性や作業性の観点から望ましい。
【0050】
また、透光性絶縁層7は、上述した材料のいずれか、例えばPETフィルムを2層貼り合わせた多層構造として形成してもよい。透光性絶縁層7の絶縁性を高めるためには、1枚構成よりも多層構成の方が絶縁欠陥をカバーして、信頼性が高くなることが知られている。そのため、PETフィルム単層よりも2層貼り合わせた多層構造の方が、より絶縁性を向上させることができる。
また、光反射性凹凸構造層8の金属層11を支持する樹脂シートの凹凸構造層10に上述の材料を採用して、凹凸構造層10を透光性絶縁層7とすることも可能である。この場合、光反射性凹凸構造層8において金属層11を裏面側に位置させると共に凹凸構造層10を透過性絶縁層7として太陽電池セル5側に位置させる必要がある。
なお、透光性絶縁層7の層構成は上述したものに限ったものではなく、要求特性に応じて適宜変更可能である。
【0051】
以上の部材からなる裏面シート4は、耐候層9、光反射性凹凸構造層8、透光性絶縁層7をそれぞれ図示しない接着層を介して貼り合わせることで成形される。なお、接着剤としては、熱可塑性樹脂が好ましく、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ビニル系樹脂等の単体或いは共重合体を単独もしくは複合して使用可能であるが、これに限定されるものではない。
これらの接着剤は、例えばグラビア印刷法、スクリーン印刷法、ノズルコーター法等の既知の塗布手段により塗布する。
なお、図6(c)に示す太陽電池モジュール1において、透光性絶縁層7の厚みが足らない場合には、透過性絶縁層7が絶縁破壊して電極16と光反射性凹凸構造層8との間で放電dが発生して電流のリークが起こる。
【0052】
さらに、光反射性凹凸構造層8の金属層11から陰極の電極16に放電が起こるときの様子を図7(a)、(b)に示す。
図7(a)に示すように、光反射性凹凸構造層8が金属層11を含む構成であると、金属層11に隣接する透過性絶縁層7内には金属層11に近接する領域に等電位線PIが密集する層7aができる。この層7aは放電が起き易くなってしまう。そのため、十分な絶縁性を得るためには、透過性絶縁層7の総厚Itから層7aの厚みIcを引いた層7bが十分な厚みIeを有している必要がある。
等電位線PIが密集する層7aでは、全体の透過性絶縁層7が絶縁破壊するより低い電圧で絶縁破壊してしまう。そのため、透過性絶縁層7の絶縁破壊電圧Dvは、上述の透過性絶縁層7の総厚Itより上述の等電位線PIが密集する層7aの厚みIcを引いた層7bの厚みIeと単位厚み当りの絶縁耐力Dsをかけたものとなる。
【0053】
絶縁破壊電圧Dvを式で表すと、次式(1)となる。
Dv=Ds(It−Ic) …(1)
なお、等電位線PIが密集する層7aは、金属層11の頂部11aのピッチPtの半分となる。
また、絶縁破壊電圧は3kV以上あれば、通常の太陽電池モジュールの使用で絶縁破壊が起こらないため、上述の透過性絶縁層7の総厚It、金属層11の頂部11aのピッチPtは以下の式(2)を満たす必要がある。
6.0kV≦Ds(It−Pt/2) …(2)
【0054】
また、図7(a)に示すように金属層11の頂部11aが凸曲面でなく尖鋭形状であると、電荷集中Ecにより低い電圧でも金属層11から放電破壊が起こり透光性絶縁層7中で放電することにより透光性絶縁層7に黒化が起きてしまう。黒化すると透光性絶縁層7の透過量が落ちて金属層11で反射せずに吸収される光が増加する不具合がある。
そのため、金属層11の頂部11aは、図7(b)に示すように、例えば曲率半径rを有する断面略円弧状の凸曲面形状であることが好ましい。この頂部11aに内接する円Pcの曲率半径rは、大きいほど電荷集中を防げるが、頂部11aのピッチPtの10%より大きいと、多くの光を散乱してしまい太陽電池モジュール1の発電効率を落としてしまう欠点がある。そのため、上述の半径rは、ピッチPtの10%以下であることが好ましい。
また、金属層11の頂部11aは上述の曲率半径rが小さすぎると電荷集中が起きてしまうため、頂部11aのピッチPtの1%以上であることが好ましい。
【0055】
本実施形態による太陽電池モジュール1及びその裏面シート4は上述の構成を有しており、次に主に図8を参照して、その作用と裏面シート4による太陽電池モジュール1の光利用効率の向上の仕組みを説明する。
図8は、太陽電池モジュール1の裏面シート4に入射した光H1が光反射性凹凸構造層8によって反射されて太陽電池セル5の受光面5aに入射する過程を示している。なお、凹凸構造層10はプリズム形状13Aによる凹凸構造を有しており、金属層11もこの凹凸構造に倣った形状を有している。
図8(a)において、裏面シート4には凹凸構造をなす金属層11と凹凸構造層10が積層されてなる光反射性凹凸構造層8が設けられている。太陽電池モジュール1の前面板2の入射面2aから入射した光H1のうち一部の入射光H1は太陽電池モジュール1内を透過して太陽電池セル5に入射することなく裏面シート4に入射し、光反射性凹凸構造層8の金属層11で反射される。反射された光H2は前面板2の入射面2aと大気との界面で再度反射される。この反射光H3は太陽電池セル5の受光面5aに入射して光電変換される。
したがって、太陽電池セル5の受光面5aに入射する光H3が増加すれば、太陽電池セル5での光電変換量が増え、光利用効率の向上を見込むことができる。
【0056】
本実施形態による太陽電池モジュール1においては、プリズム形状13Aの凹凸構造を有する金属層11は、前面側から入射する光H1を特定方向へ反射させることができる。この反射光H2が再入射することにより、太陽電池セル5の受光面5aに入射する光H3が増加する。したがって、光の利用効率を向上させて発電量を増加させることが可能となる。
【0057】
ここで、図8(b)に裏面シート4における凹凸構造層10及び金属層11の凸部を構成するプリズム形状13Aの頂角θと反射角α(入射角α)との関係を示す。図8(b)において、前面板2の入射面2aに対して垂直に光H0が入射した場合、頂角θと反射角αとの間には(3)式で示す関係が成り立つ。
α=(180°−θ)/2 …(3)
【0058】
凹凸構造をなす金属層11で反射した光H2は、前面板2と大気との界面で反射する。このときの入射光H2の入射角は2αである(図8(c)参照)。
ここで、入射角2αが臨界角φ以上の場合には、前面板2と大気との界面で全反射するため、入射光H2はロスが極めて少なくその多くが反射光H3となる。
一方、入射角2αが臨界角φより小さい場合には、反射光H3の他に大気中への透過光H4が発生する(図8(d)参照)。この透過光H4の発生により、前面板2の入射面2aと大気との界面での反射光H3の光量が減少し、太陽電池セル5の受光面5aに入射する光H3の光量も減少するため、反射光H2の入射角2αが臨界角φ以上になることが望ましい。
【0059】
なお、上記臨界角φは、前面板2の屈折率n1と大気の屈折率n2によって決定され、以下の関係式(4)が成立する。
sinφ=n1/n2 …(4)
但し、n1>n2
例えば、前面板2に強化ガラスなどのガラスを用いた場合には、その屈折率n1は約1.5、大気の屈折率n2は約1.0であるため、臨界角φは約42°となる。
以上の説明から、凹凸構造をなす金属層11での反射光H2を有効に利用するためには、界面への入射角2αが臨界角φ以上となる必要があり、上述のように臨界角φが42°の際には凹凸構造をなす金属層11での反射角αが21°以上であることが要求される。
【0060】
ここで、凹凸構造層10がプリズム構造である場合のプリズムの底辺Xと高さYのアスペクト比Y/Xに対する頂角θ及び凹凸構造をなす金属層11での反射角αの値を下記の表1に示す。上述のように、凹凸構造をなす金属層11での反射光H2を有効に利用するためには、反射角αが21°以上である必要があるため、凹凸構造10におけるプリズムのアスペクト比Y/Xを0.2以上に設定する必要がある。
【0061】
【表1】
【0062】
以上の説明においては、前面板2の入射面2aへの光H0の入射角が0°である場合を検討してきたが、実際には、入射する光H0の入射角は様々である。そのため、アスペクト比Y/Xが0.15以上、すなわち前面板2と大気の界面に入射する金属層11での反射光H2の入射角2αと臨界角φの差が約10°以内であれば、光H0の入射角が異なる場合でも最終的に太陽電池セル5の受光面5aに入射する光は発生する。しかし、アスペクト比Y/Xが0.15未満になると、前面板2と大気の界面に入射する反射光H2の入射角2αが臨界角φよりも10°近く小さくなり、全反射する光が少なくなる。
したがって、上記アスペクト比Y/Xは、少なくとも0.15以上、好ましくは0.2以上であることが好ましい。
これにより、光の利用効率を大きく保持することができる。
【0063】
また、入射光H1を特定方向に反射させて太陽電池セル5に向かわせる光反射性凹凸構造層8の金属層11は、頂部11a、11a間のピッチをPtとして、頂部11aの曲率半径rが0.01Pt〜0.1Ptの範囲に設定されている。そして、透過性絶縁層7の総厚It、金属層11の頂部11aのピッチPtは下記の(2)式を満たす関係にある。
6.0kV≦Ds(It−Pt/2) …(2)
そのため、頂部11aが存在することによって生じ易くなる電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。これにより、十分な電気絶縁性を得ることができる。
なお、上述したように、凹凸構造層10におけるプリズムのアスペクト比が0.35より大きいと成形性が悪くなるため、アスペクト比Y/Xは0.35以下であることが望ましい。したがって、本実施形態におけるアスペクト比Y/Xは、0.15〜0.35の範囲に設定されている。
【0064】
上述のように本実施形態による太陽電池モジュール1によれば、裏面シート4は凹凸構造をなす凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8を有することにより、裏面シート4の前面側から太陽電池セル5に受光されずに透光性絶縁層7を経由して光反射性凹凸構造層8へ入射する一部の光H1を、太陽電池セル5が配設された封止材層3の方向へ反射させ、前面板2と大気との界面で反射させて太陽電池セル5の受光面5aに再入射させることができる。そのため、太陽電池モジュール1における光の利用効率を向上させて発電量を増加させることができる。
特に、凹凸構造層10及び金属層11における凸部である単位形状13A、13Bのアスペクト比Y/Xを0.15〜0.35の範囲、好ましくは0.2〜0.35の範囲に設定したから、凹凸構造層10の成形性が良く金属層11での反射光H2を特定方向に向かわせて太陽電池セル5の受光面5aへ再入射する光量を増大できて反射光H2を一層有効利用できる。
また、裏面シート4は光反射性凹凸構造層8における金属層11の頂部11aが曲率半径rの凸曲面を形成すると共に、透過性絶縁層7の総厚Itと金属層11の頂部11aのピッチPtが上記(2)式を満たすことで、金属層11の頂部11aが存在することによって生じやすくなる電荷集中による放電破壊を防ぐことができる。これにより、十分な電気絶縁性を得ることができる。
【0065】
以上、本発明の実施形態による太陽電池モジュール1及びその裏面シート4について詳細に説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、本発明の技術的思想を逸脱しない限り、任意の設計変更等が可能であり、これらも本発明に含まれる。
次に本発明の変形例について以下に説明するが、上述した実施形態と同一または同様な部材、部分については同一の符号を用いて説明を省略する。
例えば、太陽電池モジュール1の第1変形例による裏面シート20として、図9に示す層構成を採用してもよい。
図9に示す第1変形例による裏面シート20においては、耐候層9として耐候性PETフィルムを用いている。この耐候層9上には、接着層21を介して凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8が配置されている。さらに光反射性凹凸構造層8に接着層21を介してPETフィルムからなる透光性絶縁層7が配置されている。
【0066】
また、第2変形例による裏面シート25として、図10に示す層構成を採用してもよい。
この裏面シート25においては、耐候層9として耐候性PETフィルムを用いている。この耐候層9上には、接着層21を介して凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8が配置されている。ここでは、金属層11が凹凸構造層10の裏面側に位置するように配置されており、凹凸構造層10を形成する樹脂シートが透光性絶縁層7の役割を兼ねている。そのため、別個に透光性絶縁層7を設けていない。
【0067】
また、第3変形例による裏面シート30として、図11に示す層構成を採用してもよい。 この裏面シート30においては、耐候層9として耐候性PETフィルムを用いている。この耐候層9上には、接着層21を介して凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8が配置されている。ここでは、金属層11が凹凸構造層10の裏面側に位置するように配置されている。
さらに接着層21を介してEVAフィルムからなる透光性絶縁層7が配設されている。
【0068】
また、第4変形例による裏面シート35として、図12に示す層構成を採用してもよい。 この裏面シート35においては、耐候層9は長期耐候性を得るためのPVF層36上にPETフィルム37を積層して構成している。この耐候層9上には、接着層21を介して凹凸構造層10及び金属層11からなる光反射性凹凸構造層8が配置されている。ここでは、金属層11が凹凸構造層10の裏面側即ち耐候層9側に配置されている。
さらに接着層21を介してEVAフィルムからなる透光性絶縁層7が配置されている。
【0069】
このような第1〜4変形例による裏面シート20,25,30,35においても実施形態の裏面シート4と同様に、金属層11を有する光反射性凹凸構造層8を含むため、入射光H1を前面側に向かって効率良く反射させることができる。したがって、太陽電池モジュール1の光の利用効率を向上させて発電量を増大させることが可能となる。
なお、上記実施形態及び第1〜第4変形例による裏面シート4,20,25,30,35において、凹凸構造層10としてプリズム形状13Aを単位形状の凸部として採用する場合、各プリズム形状13Aの長手方向を太陽電池セル12に対して傾斜して配置すると、より光利用効率を向上させることができて好ましい。
【0070】
また、太陽電池モジュール1の裏面シート4において、光反射性凹凸構造層8及び透光性絶縁層7の間と、光反射性凹凸構造層8及び耐候層9の間とのいずれか一方または両方に、無機酸化物を含むバリア層が含まれていてもよい。バリア層を採用することによって、長期使用による金属層11の劣化を防止することができる。
このバリア層は、酸素及び水蒸気バリアー性に優れた材料の層である。具体的には、太陽電池モジュール1の内部の電極等の酸化を防止する機能を付与することが可能であることから、水蒸気透過度が0〜5g/m2/dayの範囲であることが望ましい。バリア層に用いることができる材料の一例として、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化タングステン或いはそれらの混合物等が挙げられる。
特に酸化珪素は、酸素、水蒸気バリア性に優れているだけではなく、酸に対する耐性も高いため、EVAの架橋によって発生する酢酸によって侵食されないため特に望ましい。
また、バリア層が透光性絶縁層7側に配置されている場合には、バリア層に対する光の入射角と、バリア層を経由して金属層11で反射される光のバリア層からの出射角が異なる場合、太陽電池セル5への再入射を妨げる可能性があることから、バリア層は均一な厚みを有していて入射面と出射面が互いに平行な形状であることが望ましい。
【0071】
なお、凹凸構造層10や金属層11における凸部の頂部10a、11aについて、上述した実施形態や変形例では曲率半径rの断面円弧状または略球面形状の凸曲面としたが、凸曲面は必ずしも曲率半径rを断面円弧状等に形成する必要はなく、楕円形状等、適宜の断面非円弧状の凸曲面であってもよい。
さらに、裏面シート4,20,25,30,35は太陽電池モジュール1への使用に限定するものではなく、LED照明やEL素子などの発光素子の光利用効率向上など、光利用効率向上が望まれる光学素子やディスプレイ部材への転用が可能である。
【実施例】
【0072】
次に本発明の実施例と比較例について説明する。
(比較例1)
比較例1として、図9に示す上記第1変形例による裏面シート20について、耐候性PETフィルムからなる耐候層9、凹凸構造をなす金属層11と凹凸構造層10からなる光反射性凹凸構造層8、絶縁性PETフィルムからなる透光性絶縁層7を、接着層21でそれぞれ貼り合わせた裏面シート20′を作製した。この裏面シート20′により光利用効率の向上を確認する試験と絶縁破壊試験を行った。
そして、この裏面シート20′における金属層11と凹凸構造層10はプリズム形状13Aを備えた構成とし、そのアスペクト比Y/X=0.2、ピッチPt=15μm、金属層11の頂部11aは凸曲面をもたない尖鋭形状とした。また、透光性絶縁層7の厚みを25μmとした。
【0073】
この比較例1による裏面シート20′を用いて太陽電池モジュール1′を作製した。
また参照例として、比較例1による太陽電池モジュール1′における裏面シート20′に変えて散乱反射体である白色PET(東レ製ルミラーE20)を採用した太陽電池モジュールを作製した。比較例1と参照例の各太陽電池モジュールにおいて、裏面シート以外は実施形態による太陽電池モジュール1と同様に前面板2と封止材層3とを備えた構成を有するものとする。
そして、比較例1による太陽電池モジュール1′及び参照例の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セル5にあたる箇所に光センサーを配置して、前面板2の前面側から所定輝度の光H0を照射した場合における発電量を測定した。
その結果、参照例の太陽電池モジュールで測定された発電量を1とした場合、比較例1の太陽電池モジュール1′における発電量は1.12となった。これにより、光反射性凹凸構造層8を含む裏面シート20′を用いると、太陽電池モジュール1′の光利用効率の向上が可能であることが確認できた。
また、上述した比較例1による太陽電池モジュール1′において、絶縁破壊試験を行ったところ、3kV以下で絶縁破壊が起こった。
これにより、凹凸構造層10及び金属層11の頂部10a、11aが曲率半径rの凸曲面をもたない尖鋭な構成の場合、電気絶縁性が低いことを確認できた。
【0074】
(比較例2)
比較例2として、図9に示す第1変形例による裏面シート20、即ち耐候性PETフィルムからなる耐候層9、凹凸構造層10と金属層11からなる光反射性凹凸構造層8、絶縁性PETフィルムからなる透光性絶縁層7を、接着層21でそれぞれ貼り合わせた裏面シート20″を作製し、光利用効率の向上を確認する試験と絶縁破壊試験を行った。
なお、裏面シート20″における凹凸構造層10はプリズム形状13Aを有する構成とし、そのアスペクト比Y/Xを0.2、ピッチPtを15μm、頂部10aの曲率半径rを0.1μm(=0.0067Pt)とした。また、裏面シート20″における透光性絶縁層7の厚みを25μmとした。
【0075】
この比較例2による裏面シート20″を用いて太陽電池モジュール1″を作製した。
上記比較例2による太陽電池モジュール1″及び上述した参照例の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セル5にあたる箇所に光センサーを配置して、前面2a側から光を照射した場合における発電量を測定した。
その結果、参照例の太陽電池モジュールにおける発電量を1とした場合に比較例2による太陽電池モジュール1″における発電量は1.12となった。これにより、凹凸構造層10が頂部10aに曲率半径rを有する形状であっても、太陽電池モジュール1の光利用効率は低下しないことが確認できた。
また、比較例2による太陽電池モジュール1″において、3kVまで電圧を上げて絶縁破壊試験を行ったところ、透光性絶縁層7に黒化する現象は見られなかった。しかし、絶縁状態が破られリーク電流が発生した。
【0076】
次に本発明の実施例について説明する。
(実施例1)
実施例1として、図9に示す第1構成例の裏面シート20、即ち耐候性PETフィルムからなる耐候層9、凹凸構造層10と金属層11からなる光反射性凹凸構造層8、絶縁性PETフィルムからなる透光性絶縁層7を、接着層21でそれぞれ貼り合わせた裏面シート20を作製し、光利用効率の向上を確認する試験と絶縁破壊試験を行った。
なお、裏面シート20における凹凸構造層10を凸部がプリズム形状13Aの凹凸構造とし、アスペクト比Y/X=0.2、ピッチPt=15μmとした。凹凸構造層10と金属層11の各頂部10a,11aを凸曲面形状とし、頂部10a,11aの曲率半径r=0.75μmとした。また、裏面シート20における透光性絶縁層7の厚みを25μmとした。
この実施例1による裏面シート20を用いて太陽電池モジュール1を作製した。また、上述した参照例の太陽電池モジュールを比較のために用いた。
【0077】
上記実施例1による太陽電池モジュール1と参照例の太陽電池モジュールにおいて、太陽電池セル5に光が入射する箇所に光センサーを配置して、前面2a側から光を照射した場合における発電量を測定した。
その結果、参照例の太陽電池モジュールにおける発電量を1とした場合における実施例1による太陽電池モジュール1における発電量は1.12となった。これにより、光反射用凹凸構造層8が頂部11aに曲率半径rを有する形状であっても、太陽電池モジュール1の光利用効率は低下しないことが確認できた。
また、実施例1による太陽電池モジュール1において、絶縁破壊試験を行ったところ、3kVまで電圧をあげても絶縁破壊は起こらなかった。
これにより、凹凸構造層10及び金属層11の頂部10a,11aに曲率半径rの凸曲面を形成することで電気絶縁性が向上することが確認できた。
【符号の説明】
【0078】
1 太陽電池モジュール
2 前面板(透光性前面板)
2a 入射面
3 封止材層
4、20,25,30,35 裏面シート(太陽電池裏面シート)
5 太陽電池セル
5a 受光面
9 耐候層
8 光反射性凹凸構造層
10 凹凸構造層
10a,11a 頂部
11 金属層
7 透光性絶縁層
16 電極
21,22 接着層
L 光源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に太陽電池を封止した封止材層の前面側に透光性前面板が積層されてなる太陽電池モジュールの裏面側に配置される太陽電池裏面シートであって、
前面側から裏面側に向けて、透光性絶縁層と、光を反射させる凹凸構造を形成した金属層を備えた光反射性凹凸構造層と、耐候層とが積層されてなり、
前記金属層の凹凸構造における凸部の頂部が凸曲面を形成していることを特徴とする太陽電池裏面シート。
【請求項2】
前記金属層の凹凸構造は、略プリズム形状、略多角錐形状、或いはこれらのいずれかの形状の逆型形状のいずれかが複数配列されてなることを特徴とする請求項1に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項3】
前記金属層における頂部の凸曲面における曲率半径をrとし、前記頂部のピッチをPtとしたときに、前記曲率半径rは0.01Pt以上0.1Pt以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項4】
前記金属層における凹凸構造の凸部の底辺に対する高さのアスペクト比が、0.15以上0.35以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項5】
前記金属層における凹凸構造の凸部のピッチが、10μm以上30μm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項6】
前記透光性絶縁層が、3kV以上の絶縁破壊電圧を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項7】
前記光反射性凹凸構造層の前記透光性絶縁層側または/及び前記耐候層側に、無機酸化物を含むバリア層が少なくとも一層含まれることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項8】
前記バリア層の水蒸気透過度が0〜5g/m2/dayであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項9】
内部に太陽電池を封止した封止材層の光入射側に透光性前面板が積層されてなり、該透光性前面板の反対側である裏面側に請求項1乃至8のいずれか1項に記載された前記太陽電池裏面シートを配置してなることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項10】
光入射面側から裏面側に向けて、透光性絶縁層と、光を特定方向へ反射させる凹凸構造を形成した金属層を備えた光反射性凹凸構造層と、光反射性凹凸構造層を保護する耐候層とが積層されてなり、
前記金属層の凹凸構造における凸部の頂部が凸曲面を形成していることを特徴とする裏面シート。
【請求項1】
内部に太陽電池を封止した封止材層の前面側に透光性前面板が積層されてなる太陽電池モジュールの裏面側に配置される太陽電池裏面シートであって、
前面側から裏面側に向けて、透光性絶縁層と、光を反射させる凹凸構造を形成した金属層を備えた光反射性凹凸構造層と、耐候層とが積層されてなり、
前記金属層の凹凸構造における凸部の頂部が凸曲面を形成していることを特徴とする太陽電池裏面シート。
【請求項2】
前記金属層の凹凸構造は、略プリズム形状、略多角錐形状、或いはこれらのいずれかの形状の逆型形状のいずれかが複数配列されてなることを特徴とする請求項1に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項3】
前記金属層における頂部の凸曲面における曲率半径をrとし、前記頂部のピッチをPtとしたときに、前記曲率半径rは0.01Pt以上0.1Pt以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1または2に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項4】
前記金属層における凹凸構造の凸部の底辺に対する高さのアスペクト比が、0.15以上0.35以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項5】
前記金属層における凹凸構造の凸部のピッチが、10μm以上30μm以下の範囲に設定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項6】
前記透光性絶縁層が、3kV以上の絶縁破壊電圧を有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項7】
前記光反射性凹凸構造層の前記透光性絶縁層側または/及び前記耐候層側に、無機酸化物を含むバリア層が少なくとも一層含まれることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項8】
前記バリア層の水蒸気透過度が0〜5g/m2/dayであることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載された太陽電池裏面シート。
【請求項9】
内部に太陽電池を封止した封止材層の光入射側に透光性前面板が積層されてなり、該透光性前面板の反対側である裏面側に請求項1乃至8のいずれか1項に記載された前記太陽電池裏面シートを配置してなることを特徴とする太陽電池モジュール。
【請求項10】
光入射面側から裏面側に向けて、透光性絶縁層と、光を特定方向へ反射させる凹凸構造を形成した金属層を備えた光反射性凹凸構造層と、光反射性凹凸構造層を保護する耐候層とが積層されてなり、
前記金属層の凹凸構造における凸部の頂部が凸曲面を形成していることを特徴とする裏面シート。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−108725(P2011−108725A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−259771(P2009−259771)
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月13日(2009.11.13)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】
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