説明

補修塗装方法

【課題】ドット状で直径1〜2mm程度またはそれ以下の小さな塗装不具合部分を良好な仕上がりで簡便に補修する補修塗装方法を提供する。
【解決手段】塗膜6の塗装不具合部分を平坦化して平坦化塗装不具合部分8’とする第1の工程と、木材からなる補修塗装用具2の先端の外径0.5mm〜3.0mmの平坦な塗料担持面20に繊維素誘導体及び低沸点溶剤を含んでなる常温硬化型の塗料P0を担持させる第2の工程と、塗料P0を担持せる補修塗装用具2の塗料担持面20を平坦化塗装不具合部分8’に当接させ、その上に塗料P0を移行させる第3の工程と、補修塗装用具2を塗膜6から退避させる第4の工程と、平坦化塗装不具合部分8’上へと移行した膜状塗料を常温放置により乾燥させる第5の工程とを含む補修塗装方法。第5の工程の終了後に、乾燥した膜状塗料を覆うように塗膜6上に透明膜10を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補修塗装方法に関するものであり、特に、ドット状(凸状および点状)で直径1mm〜2mm程度またはそれ以下の小さな塗装不具合部分を補修する塗装方法に関するものである。このような補修塗装方法は、たとえば塗装時の微小なゴミやブツに基づく塗装不具合部分を補修するのに好適に利用される。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車の車体外面に塗装不具合を生じた場合の補修塗装は、スプレー塗装により行われている。スプレーによる補修塗装では、塗装不具合部分及びその周囲を含む比較的広い領域に対して塗装がなされる。このため、塗装後に、その周囲との塗膜厚の不連続を解消するために、比較的広い領域での紙やすりなどによる研磨が必要であり、手間がかかり、補修の完了までに比較的長い時間を要するという問題点がある。
【0003】
また、スプレー塗装による補修では、塗装不具合部分が凸状に盛り上がりやすく、補修の痕跡が視認されやすい。このような事態を避けるために、予め塗装不具合部分を含む比較的広い領域において少なくとも上層塗膜の除去を行った上でスプレー塗装により補修することがなされている。しかし、このような塗膜除去の作業も手間及び時間のかかるものである。
【0004】
ところで、補修を要する塗装不具合部分のうちには、比較的小さい面積のものがかなりの程度ある。このような小さな塗装不具合部分の補修を簡便に行うために、以上のような手間及び時間のかかるスプレー塗装に代えて、専用の補修用具を用いた比較的小さな領域への直接的塗料塗布がなされることがある。例えば、実開平5−95677号公報(特許文献1)及び実用新案登録第3026828号公報(特許文献2)には、繊維束または筆を用いて塗料塗布を行うことで補修塗装することが開示されている。また、例えば、上記特許文献2及び実用新案登録第3055413号公報(特許文献3)には、細管先端から塗料を供給することで補修塗装することが開示されている。
【特許文献1】実開平5−95677号公報
【特許文献2】実用新案登録第3026828号公報
【特許文献3】実用新案登録第3055413号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1及び2に記載の筆などによる補修塗装では、補修面積は比較的小さくなるが、塗装不具合部分に隣接する部分も同時に塗装されるため、やはり周囲に対する凸状盛り上がりが生じやすく、補修の仕上がりを十分良好なものにすることが難しい。また、上記特許文献2及び3に記載の専用補修用具による補修塗装では、構造の複雑な補修用具を使用する必要がありコスト高になることに加えて、塗装不具合部分に供給される塗料の量の調節が難しく、やはり周囲に対する凸状盛り上がりが生じやすく、補修の仕上がりを十分良好なものにすることが難しい。
【0006】
そこで、本発明は、以上のような事情に鑑みて、ドット状で直径1〜2mm程度またはそれ以下の小さな塗装不具合部分を良好な仕上がりで簡便に補修する補修塗装方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、以上の如き目的を達成するものとして、
塗膜におけるドット状で外径2mm以下の塗装不具合部分を補修塗装する方法であって、
前記塗膜の塗装不具合部分を平坦化する第1の工程と、
軟質固形材からなり棒状で先端に外径0.5mm〜3.0mmの平坦な塗料担持面をもつ補修塗装用具の前記塗料担持面に常温硬化型の塗料を担持させる第2の工程と、
前記塗料を担持せる補修塗装用具の塗料担持面を前記塗膜の平坦化された塗装不具合部分に当接させ、前記塗料を前記塗装不具合部分上へと移行させる第3の工程と、
前記補修塗装用具を前記塗膜から退避させる第4の工程と、
前記塗装不具合部分上へと移行した塗料を乾燥させる第5の工程と、
を含むことを特徴とする補修塗装方法、
が提供される。
【0008】
本発明の一態様においては、前記軟質固形材は木材である。本発明の一態様においては、前記常温硬化型の塗料は繊維素誘導体及び低沸点溶剤を含んでなる。本発明の一態様においては、前記第5の工程は常温放置により行われる。本発明の一態様においては、前記第5の工程の終了後に、乾燥した前記塗料を覆うように前記塗膜上に透明膜を形成する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の補修塗装方法によれば、特定の補修塗装用具を使用し、該補修塗装用具の常温硬化型塗料を担持せる塗料担持面を平坦化した塗装不具合部分に当接させることで該塗装不具合部分上に常温硬化型塗料を移行させるので、小さな塗装不具合部分を凸状にすることなく且つ補修部分が識別しにくくなるような良好な仕上がりで簡便に補修することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0011】
図1は、本発明による補修塗装方法において使用される補修塗装用具の一例を示す模式的斜視図である。補修塗装用具2は、軟質固形材たとえば軟質木材または軟質プラスチックからなる。ここで、軟質とは、塗膜に押圧したときに用具2により塗膜に実質上傷が付かない程度の硬度であることを指す。用具2は、鉛筆のような棒状で、その一端部を円錐台形状に形成してなるものである。このような端部形状は、鉛筆削り器による加工で形成することができる。この円錐台形状の先端の略円形の平坦な面が塗料担持面20とされている。塗料担持面20の外径Dは、0.5mm〜3.0mmであり、補修対象の塗膜の塗装不具合部分の大きさに応じて、それより大きな寸法に設定する。
【0012】
一方、本発明による補修塗装方法では、補修塗料として常温硬化型の塗料好ましくは速乾性のものが使用される。このような塗料としては、たとえば、繊維素誘導体及び低沸点溶剤を含んでなるものが使用される。
【0013】
繊維素誘導体としては、セルロース(繊維素)の水酸基を硝酸、酢酸または酪酸などでエステル化するか、またはベンジル、エチル、メチルまたはヒドロキシエチルなどの基でエーテル化したものが使用でき、例えば、ニトロセルロース、アセチルセルロース、ベンジルセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びヒドロキシメチルセルロースなどが挙げられる。これらの繊維素誘導体は、1種のみで或いは2種以上を混合して使用することができる。
【0014】
低沸点溶剤としては、トルエン及びキシレン等の芳香族炭化水素類、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n―ブタノール、イソブタノール、ペンタノール、及びアミルアルコール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、及びエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、石油エステル、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、メチルシクロヘキサン、及びエチルシクロヘキサン等の炭化水素類が挙げられる。但し、低沸点溶剤は、これらに限られるものではない。
【0015】
本発明で使用される補修塗料は、以上のような繊維素誘導体及び低沸点溶剤を必須成分として含有するものであるが、更に必要に応じて、光輝顔料、着色顔料、その他の顔料、塗面調整剤、硬化触媒、及び顔料分散剤などの添加剤を含有してもよい。このような添加剤の配合は、補修される塗装不具合部分を有する塗膜の色や光輝性の有無その他の特徴に応じて、できるだけ該塗膜に近い形態の補修塗装が実現するように、適宜選択することができる。
【0016】
光輝顔料としては、通常のメタリック塗料に用いられているものを使用することができ、例えば、アルミニウム粉末、銅粉、ブロンズ粉、二酸化チタンコーティング雲母粉末、及び雲母状酸化鉄粉末等の金属粉末顔料等を挙げることができる。
【0017】
補修塗料の粘度は、たとえばIHS粘度計で8秒/20℃〜15秒/20℃、好ましくは10秒/20℃〜12秒/20℃である。
【0018】
以上のような補修塗装用具2及び常温硬化型の塗料を用いて実施される本発明による補修塗装方法の一実施形態を、図2〜図7を参照して説明する。
【0019】
図2に示されているように、補修される塗膜6は鋼板などの金属基材4の表面に順次形成された下塗り塗膜61、中塗り塗膜62及び上塗り塗膜63からなるものとする。塗膜6の厚さはたとえば60μm〜80μm程度である。塗膜6には、塗装時の微小なゴミやブツによるドット状の塗装不具合部分8が存在している。該塗装不具合部分8は、外径dがたとえば0.5mm〜1.5mm程度である。ここで、塗装不具合部分8が円形でない場合には、外径dは長径を指すものとする。図2では塗装不具合部分8が上塗り塗膜63の塗装時に生じたものとして示されているが、塗装不具合部分8は、下塗り塗膜61または中塗り塗膜62の塗装時に生じたものであってもよい。
【0020】
補修に際しては、先ず、図3に示されているように、塗装不具合部分8を平坦化する第1の工程を行う。この平坦化は、たとえば研摩により局所的に行うことができる。尚、ここでいう平坦化は、必ずしも完全な平面にすることではなく、塗装不具合部分8のドット状即ち突出状態を消去してその周囲の塗膜表面の形状と連続した表面形状にすることを指す。但し、上記のように塗装不具合部分8の外径dが小さいので、平坦化した表面は実質的には平面で近似することができる。平坦化した塗装不具合部分を符号8’で示す。
【0021】
しかる後に、図4に示されているように、補修塗装用具2の塗料担持面に塗料P0を担持させる第2の工程を行う。即ち、補修塗装用具2を塗料担持面20が下向きとなるように保持し、該塗料担持面20に常温硬化型の補修塗料P0を担持させる。
【0022】
次いで、図5に示されているように、塗料P0を担持せる補修塗装用具2の塗料担持面20を塗膜6の平坦化した塗装不具合部分8’に当接(実際には塗料P0が介在)させ、塗料P0を平坦化塗装不具合部分8’上へと移行させる第3の工程を行う。即ち、平坦化塗装不具合部分8’を塗料P0を介して補修塗装用具2の塗料担持面20で覆う。
【0023】
次いで、補修塗装用具2を塗膜6から退避させる第4の工程を行うことで、図6に示されているようになる。これにより、補修塗装用具2の塗料担持面20に担持されていた塗料P0の少なくとも一部が平坦化塗装不具合部分8’上へと移行して膜状塗料P1となる。この際に、塗料担持面20に担持されていた塗料P0の他部は、塗料担持面20に付着したまま補修塗装用具2と共に退避する。
【0024】
その後、平坦化塗装不具合部分8上へと移行した膜状塗料P1を乾燥させる第5の工程を行う。この乾燥は、常温にて放置することで行うことができる。乾燥時間は、たとえば1分〜2分程度である。
【0025】
以上のようにして、補修塗装用具2を使用して速乾性の補修塗料を膜状にして平坦化塗装不具合部分8’上に移行させることで、たとえば補修塗料が光輝顔料等を含有していたとしても、それが流動して表面の盛り上がりを生ずるのを防止することができる。かくして、効率よく小さな塗装不具合部分を良好な仕上がり(凸状にならず補修部分が識別しにくい)で簡便に補修することが可能である。
【0026】
尚、上記塗料乾燥工程の終了後に、図7に示されているように、乾燥した膜状塗料P1を覆うように塗膜6上に透明膜10を形成する工程を行う。この透明膜10は、透明塗料をスプレー塗装し、たとえば5分〜7分経過後に、140℃/20分の焼き付け処理を行うことで、形成することができる。このような透明膜の形成は、公知である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明による補修塗装方法において使用される補修塗装用具の一例を示す模式的斜視図である。
【図2】本発明による補修塗装方法の一実施形態の工程を説明するための模式的断面図である。
【図3】本発明による補修塗装方法の一実施形態の工程を説明するための模式的断面図である。
【図4】本発明による補修塗装方法の一実施形態の工程を説明するための模式的断面図である。
【図5】本発明による補修塗装方法の一実施形態の工程を説明するための模式的断面図である。
【図6】本発明による補修塗装方法の一実施形態の工程を説明するための模式的断面図である。
【図7】本発明による補修塗装方法の一実施形態の工程を説明するための模式的断面図である。
【符号の説明】
【0028】
2 補修塗装用具
20 塗料担持面
4 金属基材
6 塗膜
61 下塗り塗膜
62 中塗り塗膜
63 上塗り塗膜
8 塗装不具合部分
8’ 平坦化した塗装不具合部分
10 透明膜
P0 塗料
P1 膜状塗料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗膜におけるドット状で外径2mm以下の塗装不具合部分を補修塗装する方法であって、
前記塗膜の塗装不具合部分を平坦化する第1の工程と、
軟質固形材からなり棒状で先端に外径0.5mm〜3.0mmの平坦な塗料担持面をもつ補修塗装用具の前記塗料担持面に常温硬化型の塗料を担持させる第2の工程と、
前記塗料を担持せる補修塗装用具の塗料担持面を前記塗膜の平坦化された塗装不具合部分に当接させ、前記塗料を前記塗装不具合部分上へと移行させる第3の工程と、
前記補修塗装用具を前記塗膜から退避させる第4の工程と、
前記塗装不具合部分上へと移行した塗料を乾燥させる第5の工程と、
を含むことを特徴とする補修塗装方法。
【請求項2】
前記軟質固形材は木材であることを特徴とする、請求項1に記載の補修塗装方法。
【請求項3】
前記常温硬化型の塗料は繊維素誘導体及び低沸点溶剤を含んでなることを特徴とする、請求項1〜2のいずれかに記載の補修塗装方法。
【請求項4】
前記第5の工程は常温放置により行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の補修塗装方法。
【請求項5】
前記第5の工程の終了後に、乾燥した前記塗料を覆うように前記塗膜上に透明膜を形成することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の補修塗装方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−194606(P2008−194606A)
【公開日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31974(P2007−31974)
【出願日】平成19年2月13日(2007.2.13)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】