説明

補強用材料および該補強用材料を含有する成形物

【課題】粘性の高いセメントモルタルまたはコンクリートに混入しても折損が生じにくく、材料のフレッシュ流動性、施工性を阻害することなく、かつ補強効果に優れた補強用材料および該補強材料を含有した成形物を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を含有するアクリル変性エポキシ樹脂からなる集束剤によって集束された繊維であって、かつ繊維の重量に対して該アクリル変性エポキシ樹脂が固形分比で3〜30重量%付着されており、繊維が下記要件を全て満足するセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料。
a)集束された繊維の単糸繊度が0.5〜100dtexであること。
b)集束された繊維が撚り係数0〜3の範囲内で撚り掛けされていること。
c)集束された繊維の繊維径が0.05〜1.0mm、繊維長が1〜50mmであること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントモルタルまたはコンクリートのフレッシュ時の流動性、施工性を損うことなく、曲げ強度や曲げ靱性等の機械的特性を向上させることのできる補強用材料、および該補強用材料で補強されたセメントモルタルまたはコンクリート成形物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポルトランドセメントで代表されるセメントモルタルまたはコンクリートの成形物は、その圧縮強度、耐久性、不燃性などの優れた特性に加え安価であることから、建築、土木分野で大量に使用されている。しかしながら、これらの成形物は脆性物質であり、引張り、曲げ、屈曲などの応力が加わると容易にクラックが入ったり、破損するなどの欠点を有している。
【0003】
これらの欠点を補うべく、従来からアスベスト、ガラス繊維、スチール繊維、または炭素繊維等の無機繊維を補強材として使用し性能を向上させる検討がなされており、具体的には「ガラス繊維補強強化セメント製品の製造方法」(特開昭49−98424号公報)、「繊維強化セメント製品の製造法」(特開昭49−104917号公報)、「耐熱混合繊維強化セメント製品の製造法」(特開昭49−104918号公報)、「軽量硬化補強製品の製造法」(特開昭61−86452号公報)、「軽量珪酸カルシウム製品」(特開昭62−171952号公報)、「スチールファイバー補強コンクリート材料」(特開平6−115988号公報)、及び「無機質繊維強化セメント製建材とその製造方法」(特開昭63−45185号公報)等に開示されている。
【0004】
しかしながら、アスベストは発ガン性の問題等から現在は使用が規制されるようになっており、また、ガラス繊維は耐アルカリ性タイプであってもセメント中のアルカリによる劣化が確認されており、長期的に補強効果を維持することが困難であるため、大量使用には至っていない。スチール繊維はコンクリート中で腐食が生じ、これによりコンクリート材料にひび割れが生じるという問題がある。また、スチール繊維に防錆処理を施しても長期的には腐食に耐えられず、しかも防錆処理にコストがかかり有用ではない。炭素繊維はセメント中に分散させるための混練処理中に折れて短くなり、必要な長さが維持できないので期待通りの補強効果が得られなくなるという問題を有している。
【0005】
これに対してビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、アラミド繊維等の有機高分子重合体を用いた補強が有効であり、確かにこれらの繊維を使用して補強を行うことによりセメントペースト、モルタルまたはコンクリート等のセメント成形体の曲げ強度、曲げ靱性等の機械的特性を向上させることが可能になるが、補強効果を充分に発現させるためには、コンクリート成形物中で繊維の1本1本が均一に分散して存在し、周囲のコンクリートと強固に結合していることが重要である。
【0006】
上記の短繊維を補強用繊維として使用する場合、分散性のみを考えると繊維長の短い短繊維が良いが補強効果が低下する。また、補強効果を向上させるために繊維長の長い短繊維を使用すると、分散性が低下して作業性が悪くなるばかりか、攪拌中に繊維同士が絡みあって繊維のダマを発生しやすく、曲げ強度も低下し、補強効果を充分に発揮できていないという問題がある。
【0007】
このような問題を解決すべく、繊維を樹脂で集束して切断されたものが補強材として検討されており、例えば「コンクリート等の補強用材料」(特開2001−328853号公報)のような補強材があるが、これらは繊維の集束性が不十分であり、セメントモルタルまたはコンクリート混練時に繊維に剪断力がかかり、集束が解けてしまい、期待の補強効果が得られないばかりか、集束が解けた単繊維が絡まり合い、大きな繊維ダマができ、セメントモルタルまたはコンクリートのフレッシュ流動性や施工性を大きく損なってしまう。特に近年は、高強度・超高強度モルタルまたはコンクリートの検討・開発が進んでおり、これらは水/結合材比が小さく、材料の粘性が高いために繊維により大きな剪断力がかかることから、より集束性の高い繊維が補強材として求められている。
【0008】
そこで、「コンクリート補強用材料」(特開2007−131464号公報)にあるように樹脂で集束された繊維に不揮発性の油を付着させ、集束性を高めたものがある。しかし、繊維表面に油を付着させることにより、水硬化性材料であるセメントモルタルまたはコンクリートと繊維の界面付着力が低下してしまい、十分な補強効果が得られなくなることがある。
【0009】
また、「補強用材料」(特開2004−149991号公報)にある樹脂で被覆された繊維に突起部をつくり、物理的な付着力を向上させたものがあるが、この突起を均等に繊維表面に存在させることは加工技術的に困難であり、実用的ではなかった。
その他、「繊維補強セメント成形体」(特開平5−139803号公報)では、繊維を集束させた補強材が開示されているが、セメントモルタルまたはコンクリート補強材として適正な集束剤の検討は十分にはなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭49−98424号公報
【特許文献2】特開昭49−104917号公報
【特許文献3】特開昭49−104918号公報
【特許文献4】特開昭61−86452号公報
【特許文献5】特開昭62−171952号公報
【特許文献6】特開平6−115988号公報
【特許文献7】特開昭63−45185号公報
【特許文献8】特開2001−328853号公報
【特許文献9】特開2007−131464号公報
【特許文献10】特開2004−149991号公報
【特許文献11】特開平5−139803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、以上の問題に鑑み、集束性が高く、粘性の高いセメントモルタルまたはコンクリートに混入しても折損が生じにくく集束状態を維持し、材料のフレッシュ流動性、施工性を阻害することなく、かつ補強効果に優れた補強用材料および該補強用材料を含有した成形物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、集束された繊維がセメントモルタルまたはコンクリート中で混練されてもその集束状態を維持できるには、その集束剤の強度は高くかつ靱性を持ち、そして集束された繊維は所定の繊維径、繊維長であることが重要であり、また、セメントモルタルまたはコンクリートと集束された繊維との界面付着力を大きいものにするには、集束剤の分子構造内に親水性の修飾基を含有していれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明に至った。
【0013】
すなわち、本発明によれば、
カルボキシル基を含有するアクリル変性エポキシ樹脂からなる集束剤によって集束された繊維であって、かつ繊維の重量に対して該アクリル変性エポキシ樹脂が固形分比で3〜30重量%付着されており、繊維が下記要件を全て満足するセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料、および該補強用繊維材料を含有するセメントモルタルまたはコンクリート成形物、
a)集束された繊維の単糸繊度が0.5〜100dtexであること。
b)集束された繊維が撚り係数0〜3の範囲内で撚り掛けされていること。
c)集束された繊維の繊維径が0.05〜1.0mm、繊維長が1〜50mmであること。
が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明のセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料は、集束性が高く、粘性の高いセメントモルタルまたはコンクリートに混入しても折損が生じにくく集束状態を維持し、材料の流動性、施工性を阻害することなく、優れた補強効果を示し高強度の成形物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明を以下の好適例により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明のセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料(単に補強用繊維材料と呼ぶ場合がある)は以下に示すように集束剤によって集束された繊維である。
【0016】
本発明の補強用繊維材料に用いられる繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、鋼繊維、セラミック繊維、アスベスト繊維等の無機繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリアリレート繊維、ポリベンズオキサゾール(PBO)繊維、ナイロン繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、塩化ビニル繊維、ポリケトン繊維、セルロース繊維、パルプ繊維等の有機繊維等を挙げることができ、これらの一種を、又は二種以上を組み合わせて、使用することができる。なかでもポリパラフェニレンテレフタラミドやコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド等のパラ型アラミドからなる繊維が他の繊維に比べて補強効果が大きいので好ましく、特にコポリパラフェニレン・3,4’オキシジフェニレン・テレフタラミド繊維は、高温高圧下強アルカリ性の雰囲気中に長時間保持してもその機械的特性の劣化が小さいので、高温高圧下での蒸気養生、例えば180℃、圧力約10Kg/cmの飽和水蒸気による条件下においても高い強力保持率を有するので好ましい。
【0017】
上記繊維の単糸繊度は0.5〜100dtexであることが望ましい。その単糸の繊度が0.5dtex未満であると、単糸を引き揃えることが困難になり、引き揃えが不十分であると繊維の有する機械的性能が十分に活用できなくなる。また、単糸間で集束剤の付着斑が生じやすく、所定の集束性が得られないことがあり、特に、単糸の本数を多くすると、この傾向は顕著になる。一方、単糸繊度が100dtexを超える場合は、単糸同士の接着面積が少なくなり、集束剤による集束が維持しにくくなり、本発明の目的が達成されなくなる。より好ましくは、集束された繊維の単糸繊度は、0.6〜80dtex、さらに好ましくは0.7〜60dtexであることが好ましい。
【0018】
また上記繊維は無撚もしくは撚り係数0〜3の範囲内で撚り掛けされていることが好ましい。撚り係数が3を超えて撚り掛けすると、繊維軸方向に張力がかかった時に単糸同士による繊維軸方向に垂直な力がよりかかるようになり、屈曲に弱い繊維では強度が低下する。また、集束剤の均一な含浸性が損われたり、撚り縮みによって伸度が増加し、セメントモルタルまたはコンクリートの補強性が損われることがある。より好ましくは撚り係数0〜2の範囲内で撚り掛けされていることがよく、集束剤で集束されたとき補強材としての一体化が高まり、セメントモルタルまたはコンクリート中で混練されても集束を維持し、材料の流動性、施工性を確保することができる。
【0019】
ここで、本発明における撚り係数とは、単位長さ当りの撚り数と繊維繊度の平方根の積で示されるものであり、ASTM D885に記載されているアラミド繊維に関する次式;撚り係数={撚り数(回/m)×√繊維繊度(dtex)}/1055で規定された値である。
【0020】
また上記繊維は、高強力、高弾性率、且つ破断伸度と密度が適度な大きさであることが必要であり、具体的には、該繊維の引張強度が2500MPa以上、引張弾性率が50GPa以上、該繊維の破断伸度が3〜8%範囲内であり、且つ密度が1g/cm以上であることが好ましい。
【0021】
ここで繊維の引張強度が2500MPa未満、または引張弾性率が50GPa未満であると、セメントモルタルまたはコンクリートに荷重がかかった場合、その成形物の曲げ強度が小さかったり、繊維が破断してその衝撃を十分に吸収できない。繊維の引張強度は好ましくは3000MPa以上、引張弾性率は60GPa以上である。
【0022】
また、該繊維の破断伸度が3%未満ではセメントモルタルまたはコンクリートの靱性が十分ではない場合がある。また、破断伸度が8%を超えると母材であるセメントモルタルまたはコンクリートとの伸度差が大きくなりすぎ、成形物破断面近辺での界面接着部で部分的な剥離が生じ易くなって補強効果を充分に発現できなくなる。
【0023】
さらに該繊維の密度が1g/cm未満の場合は、練り混ぜ水と共に混ぜた場合に繊維が浮いてしまい、所定の分散性が得られず、セメントモルタルまたはコンクリートと補強材料が分離したり、その流動性が低下する恐れがある。
【0024】
次に本発明で用いられる集束剤はカルボキシル基を含有するアクリル変性エポキシ樹脂からなる集束剤であり、接着剤や塗料として一般市場で販売されているものでよいが、樹脂の高強度、高靱性を得るには該エポキシ樹脂の分子量は10000以上であることが好ましい。
【0025】
より好ましくはビスフェノールA型樹脂とメチルメタクリレートまたはエチルメタクリレートの単体もしくは共重合体を反応させて得られる変性エポキシ樹脂であり、集束剤処理液は集束加工処理の利便性から水系乳化溶液であることが望ましい。
【0026】
また、該集束剤には、強度や靱性を向上させたり、耐熱性や耐薬品性を付与することを目的として、メラミン樹脂やフェノール樹脂、ブロックドイソシアネートなどの公知の硬化剤を添加することができる。その配合割合は特に限定されず、適宜設計することができるが、固形分量でカルボキシル基を含有するアクリル変性エポキシ樹脂が50%未満にならないことが好ましい。
【0027】
該アクリル変性エポキシ樹脂の付着量は全繊維重量に対して3〜30重量%付与されていることが望ましい。3重量%未満の場合は、セメントモルタルまたはコンクリートとの混練で、繊維に剪断力がかかったときに、集束剤による繊維の集束を維持できず、集束が解けて単繊維がばらけて材料の流動性を損ってしまう。一方、30重量%を超える場合は、補強材中の集束剤の量が多くなり、見掛け繊度の増大により集束された繊維の引張強度が低下することになり、繊維の強度が十分に利用されなくなる。より好ましくは、5.0〜25.0重量%、さらに好ましくは7.0〜20.0重量%の範囲で付着されるのが良い。
【0028】
上記集束剤を付着させる方法としては、単繊維が集まったマルチフィラメント長繊維、さらにはそれを複数本に引き揃えた形状のものやトウ状長繊維を、ボビンやビームクリールから連続的に送繊されるようにして、該集束剤の入った漕の中で含浸させる方法やローラータッチ法によって付着させる方法、スプレー方式により該集束剤を噴霧して付着させる方法などが挙げられるが、繊維に均一に付着させるためには該集束剤の入った漕の中で含浸させる方法が好ましく、次いで絞りロールで一定の付着量に調整すればよい。
【0029】
そして該集束剤を付与した後には、熱処理を施すことが好ましく、装置としては特に限定されるものではなく、接触型のホットローラー等を用いることができるが、非接触型の熱風乾燥炉を用いると該集束剤による装置への付着や汚れがなく作業しやすい。また、この時の処理温度としては105〜300℃程度、特に120〜250℃程度で乾燥することが好ましい。次いで、得られたトウ状繊維物を公知の切断機によって所定の繊維長になるように切断すればよい。なお、該処理剤の付着量は、上記のようにして付着させた後、乾燥処理を行ってもその付着量はほとんど変化しない。
【0030】
集束された繊維の(集束)繊維径は0.05〜1.0mm、かつ(集束)繊維長は1〜50mmであることが繊維混入による補強効果、即ちヒビ割れ抑制、高曲げ強度・高曲げ靱性付与の観点から好ましい。集束された繊維の繊維径が0.05mm未満、または繊維長が50mmを超えると、セメントモルタルまたはコンクリート中で混練された際に、繊維に剪断力がかかり、集束剤による集束を維持できず、集束が解けて単繊維にばらけてしまい材料の流動性を損ってしまう。一方、集束された繊維の繊維長が1mm未満、または繊維径が1.0mmより大きいと繊維とセメントモルタルまたはコンクリートとの接触総表面積が小さく十分な補強効果が得られない。より好ましくは、集束された繊維の繊維径は0.1〜0.8mm、かつ繊維長は5〜30mmである。
【0031】
また、本発明の補強用繊維材料を構成する繊維のセメントモルタルまたはコンクリートへの混入率は目的に応じて選定することができ、0.01〜10.0容積%の範囲で使用することが好ましい。該繊維混入率が0.01容積%未満ではヒビ割れ抑制や強度、靱性付与が十分ではない場合があり、一方10.0容積%を超えると、繊維同士が絡まり繊維の塊りが生じたり、繊維の分散が不完全となり、セメントモルタルまたはコンクリートのフレッシュ時の流動性が損なわれ、施工時の作業性を阻害するだけではなく、繊維混入率に見合う補強効果や靭性改善効果が得られなくなるので好ましくない。特に、該繊維混入率は、0.05〜5.0容積%であることが好ましい。
【0032】
ここで、繊維混入率(Vf:fiber volume fraction)は、次式;Vf=(V1/V2)×100で表される割合(容積%)である。
(式中、V1は繊維を含有したセメント成形体の単位体積(1,000リットル=1m)中に混入された補強用繊維の容積(リットル)を示し、V2はセメント成形体の単位容積(1,000リットル=1m)を示す。)
【0033】
本発明の補強用繊維材料が用いられるセメント成形体のセメントとしては、現場の施工条件等を考慮して選定することができ、特に限定されず、例えば普通、早強、超早強、低熱、及び中庸熱等の各種ポルトランドセメントや、これらの各種ポルトランドセメントにフライアッシュや高炉スラグなどを混合した高炉セメント等の各種混合セメント、速硬セメント等を、単独または2種以上で用いることができる。
【0034】
また、該セメントには、高炉スラグ粉末、フライアッシュ、シリカヒューム、石灰石粉末、石英粉末、二水石膏、半水石膏、無水石膏、生石灰系膨張材、カルシウムサルフォアルミネート系膨張材などの公知の混和材を添加することができる。その配合割合は特に限定されず、適宜設計することができる。
【0035】
本発明の補強用繊維材料が用いられるセメント成形体の骨材としては、川砂、海砂、山砂、砕砂、3〜8号珪砂、石灰石、及びスラグ細骨材等の細骨材のみや、用途の要求特性に応じて、川砂利、砕石、及び人工骨材等の粗骨材を混合使用することができる。高物性を発現させるためには、微細な粉や粗い骨材を含まない粒度調整した珪砂や石灰石等の細骨材のみを用いるほうが好ましい。さらに、所望の特性のセメント硬化体を得るためには、その粒度構成や配合割合にも好適な範囲があり、骨材の粒度は4mm以下のものが好ましく、1.2mm未満のものが40〜75%で、1.2〜4mmのものが60〜25%である混合物がより好ましく、1.2mm未満のものが55〜70%で、1.2〜4mmのものが45〜30%である混合物が最も好ましい。最大粒度が4mmを超えると流動性や充填性が不足し、1.2〜4mmのものが25%未満では耐久性に劣る場合があり、60%を超えると必要な早期強度が得られない場合がある。
【0036】
また、本発明の補強用繊維材料が用いられるセメント成形体には、適量な練り混ぜ水を添加して混練するが、練り混ぜ水はセメント等の硬化に悪影響を及ぼす成分を含有していなければ、水道水や地下水、河川水等の水を用いることができ、例えば、「JIS A 5308 付属書9 レディーミクストコンクリートの練混ぜに用いる水」に適合するものが好ましい。
【0037】
セメント成形体においては、上記材料のほかに、AE減水剤、高性能AE減水剤、収縮低減剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、増粘剤、消泡剤、発泡剤、防錆剤、防凍剤、粘土鉱物系チクソ性付与材、着色剤、保水剤等の添加剤を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することができる。
【0038】
本発明の補強用繊維材料のセメントモルタルまたはコンクリートへの添加方法としては特に限定されるものではなく、例えば、モルタルやコンクリートなどの補強用として用いる場合には、予めセメントと細骨材、粗骨材等と本発明の補強用材料をドライプレミックスとしたのちに練り混ぜ水を添加して混練する方法、または、セメントと細骨材、粗骨材等と練り混ぜ水を十分に撹拌したのち、最後に本発明の補強材料を添加して混練りする方法が挙げられる。本発明の補強用材料を配合したセメントモルタルまたはコンクリートの撹拌に用いる混練機としては、特に限定するものではないが、パン型ミキサー、可傾式ミキサー、オムニミキサー、ホバートミキサー、トラックミキサー等が挙げられる。
【0039】
本発明の補強用繊維材料を含有するセメントモルタルまたはコンクリート成形物の用途は特に限定されるものではなく、一般の土木、建築用途に適用できる。例えば、吹き付け成型、プレス成型、振動成型、遠心成型等により、法面補強、建築構造物の基礎など、幅広い用途を挙げることができる。二次製品成形物(ブロック、板状物、シート状物、テトラポット等)の製造についても、種々の成形法により行うことができる。
【実施例】
【0040】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
なお、実施例における各種の評価は、次のようにして測定した。
【0041】
(1)繊維長、繊度
JIS−L−1015に準拠して測定した。
【0042】
(2)繊維引張強度、弾性率、破断伸度
ASTM D885に準拠して測定した。
【0043】
(3)繊維の集束性
普通ポルトランドセメント(住友大阪セメント株式会社製)1500g、水630g、及び補強材料である繊維を、モルタルミキサー(マルイ製、MIC−362型、容量:5L)を用いて140rpmの撹拌速度で約3分間混練し、ペーストを得た。次いで、得られたペーストを少量すくい取り、水洗して抜き取った補強用繊維を目視で観察して、このときの繊維が集束剤で覆われており、単糸のバラケがないときは集束性良好とし、繊維の端部や中央部で集束剤が脱落してばらけていたり、単糸間にセメントが付着していれば、集束性不良と判断した。
【0044】
(4)集束された繊維の繊維径と繊維長
集束剤で処理された後、切断された処理糸をデジタルノギス(株エー・アンド・ディー製)でその繊維径と繊維長を測定した。
【0045】
(5)セメントモルタルの流動性
次いで、水平に配置した50cm角のアルミ板にスランプコーン(高さ15cm、下面内径10cm、上面内径5cmの内側がくり貫かれた円錐柱)に(3)で得られたペーストを摺り切りで注ぎ入れ、スランプコーンをゆっくり垂直に引き上げる。このときセメントペーストはアルミ板上に円形に広がるが、このときの広がった円形の直径、または円形が歪んでいる場合は最短径と最長径の相加平均をフロー値する。このフロー値が250mm以上であれば、セメントペーストは流動性が高く、施工性が良好とし、200mm未満であれば流動性が低く、施工性が不良と判断する。ただし、最長径は最短径の1〜2倍の範囲内とし、2倍を超えると測定不能、施工性は不良と判断する。
【0046】
(6)セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギー
幅40mm×高さ40mm×長さ160mmの型枠に、(3)で得られたセメントペーストを打設し、20℃、90%RHで材齢28日まで養生して、供試体を製造した。上記供試体を、「JIS−R−5201」に準拠して3点曲げ測定した。より詳しくは、10トン用引張圧縮試験機(TOYO BALDWIN社製、UNIVERSAL TESTING INSTRUMENT MODEL UTM 10t)を用い、支点間距離10cmの中心を2mm/分の速度で圧縮し、応力の最高点より曲げ強度を求めた。また、曲げ応力−歪みの関係から供試体の破壊に必要な破壊エネルギーを算出し、曲げ強度13N/mm以上で且つ破壊エネルギー20kN/mm以上を良好とし、曲げ強度13N/mmまたは破壊エネルギー20kN/mm以下を不良と判断した。
【0047】
[実施例1]
補強用繊維材料となる繊維として、アラミド繊維(帝人テクノプロダクツ株式会社製「テクノーラ」(密度1.39g/cm、単糸繊度1.7dtex、引張強力3410MPa、引張弾性率74GPa、破断伸度4.5%)を用い、公知の撚糸機を用いて該繊維に撚り係数が1となるように撚りをかけ、カルボキシル基含有アクリル変性エポキシ樹脂(DIC株式会社製 ディックファイEN)を含む固形分重量20%の集束剤溶液中に浸漬した後、温度200℃で乾燥させ、繊維に対する樹脂付着重量が10%、集束糸の径が0.25mmとなるように剤処理し、該集束糸を15mmに切断し補強用材料とした。
表1に示す繊維配合割合となるようにセメントモルタル成形体を調整し、補強用繊維の集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0048】
[実施例2〜9]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維の撚り係数、剤付着量、繊維径、および繊維長を表1に示す通り変更して、補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0049】
[実施例10]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維を表1に示す通り、アラミド繊維(帝人アラミド株式会社製「トワロン」)に変更して、補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0050】
[比較例1]
実施例1において、補強用繊維材料を添加しないで、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0051】
[比較例2]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維を集束剤で集束させないで、補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0052】
[比較例3]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維の集束剤をビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン株製 JER)に変更して、表1のように補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0053】
[比較例4]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維の集束剤をウレタン変性エポキシ樹脂(アデカ株製 アデカレジンEPU)に変更して、表1のように補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0054】
[比較例5]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維の集束剤をウレタン樹脂(アデカ株製 アデカボンタイターHUX)に変更して、表1のように補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0055】
[比較例6]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維の集束剤をアクリル樹脂(DIC株製 ボンコート)に変更して、表1のように補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0056】
[比較例7]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維の集束剤をメラミン樹脂(DIC株製 ベッカミン)に変更して、表1のように補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0057】
[比較例8]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維の集束剤をPVA樹脂(日本合成化学株製 エコマティ)に変更して、表1のように補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0058】
[比較例9〜15]
実施例1において、補強用繊維材料となる繊維の撚り係数、剤付着量、繊維径、および繊維長を表1に示す通り変更して、補強用繊維を作製し、その集束性、セメントモルタルの流動性、セメントモルタル成形物の曲げ強度、および曲げ破壊エネルギーを評価し、結果を表2に示す。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
本発明のセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料は繊維の集束性が高く、粘性の高いセメントモルタルまたはコンクリートに混入しても折損が生じにくく、材料の流動性、施工性を阻害することなく、かつ該補強繊維材料で補強されたセメントモルタル成形物は作用応力が増加しても急激な繊維の破断は生じず、曲げ強度、曲げ破壊エネルギーのいずれも大きく向上することが認められた。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明のセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料は、混入による流動性低下が小さく、施工が繊維未混入と同様に可能であり且つ、優れた機械特性を有した耐久性の高いセメントモルタルまたは、コンクリートを得ることができるので、各種コンクリート補強用途などに好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を含有するアクリル変性エポキシ樹脂からなる集束剤によって集束された繊維であって、かつ繊維の重量に対して該アクリル変性エポキシ樹脂が固形分比で3〜30重量%付着されており、繊維が下記要件を全て満足するセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料。
a)集束された繊維の単糸繊度が0.5〜100dtexであること。
b)集束された繊維が撚り係数0〜3の範囲内で撚り掛けされていること。
c)集束された繊維の繊維径が0.05〜1.0mm、繊維長が1〜50mmであること。
【請求項2】
集束された繊維の引張強度が2500MPa以上、引張弾性率が50GPa以上、破断伸度が3〜8%範囲内、かつ繊維の密度が1.0g/cm以上である請求項1に記載のセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料。
【請求項3】
集束された繊維がポリパラフェニレン・テレフタラアミド繊維、またはコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレン・テレフタラアミド繊維である請求項1〜2いずれかに記載のセメントモルタルまたはコンクリート補強用繊維材料。
【請求項4】
請求項1〜3記載の補強用繊維材料を含有することを特徴とするセメントモルタルまたはコンクリート成形物。