説明

補正装置

【課題】地磁気センサの検出出力Sx,Syを補正するための補正データをヒューズメモリに書き込むLSIにおいて、少ないヒューズメモリで済むようにする。
【解決手段】LSIの出荷検査にて磁気センサの補正係数a11〜a22が測定される。この補正係数a11〜a22から求まる補正データD1〜D4がヒューズメモリ15に書き込まれる。制御回路8は地磁気検出時、磁気センサ10,11の検出出力Sx,Syを内部のレジスタに取り込む。ヒューズメモリ15から補正データD1〜D4を読み出す。補正データD1〜D4を用いて検出出力Sx,Syを補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地磁気の直交軸成分を検出する地磁気検出素子を有する地磁気検出装置に関し、特に地磁気検出素子の検出出力の補正情報を記憶する熱変成型の不揮発性記憶素子を有するものに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に直交2軸方向の磁気センサをチップ上に搭載して地磁気検出を行うLSI(大規模集積回路)は、地磁気センサの感度を補正する手段を有する。
【0003】
磁気センサの検出出力の補正を演算処理で行う技術には、たとえば特許文献1に記載されるものがある。同文献に記載された技術によれば、X軸検出部の検出出力の補正は、次のようにして行う。すなわち磁気センサの検出範囲を90度ごとに4ブロックに分割し、X軸検出部の最大出力電圧値をA1とし、Y軸検出部の出力値が零の位置から90度回転した点のX軸検出部の出力電圧値をA2とする。
【0004】
そして出力電圧値A2が+側である場合、−側である場合、微少である場合に分類し、+側である場合は(1)式を補正式とし、−側である場合は(2)式を補正式とし、微少である場合は補正なしとする。
[ABS(A3)+ABS(A2)]・Z … (1)
[ABS(A3)+ABS(A2)]/Z … (2)
ただしA3はX軸検出部の実測出力、Zは(3)式に示す補正パラメータである。
Z=A1/[A1−ABS(A2)] … (3)
Y軸についても同様の手法で補正を行い、X軸検出部およびY軸検出部の直交度を補正する。
【0005】
このように演算処理で磁気センサの検出出力の補正を行う場合、たとえば出荷検査で補正データを測定し、LSIに実装した不揮発性メモリに書き込んでおく形態をとることができる。
【0006】
ところで昨今、この種のLSIには低電圧化の要請を受け、不揮発性メモリとして低電圧でも好適な読み出しを行える熱変成型のヒューズメモリを実装したものが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−180170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながらヒューズメモリは、上記の利点を有する反面、書き込み時に用いられるヒューズ切断用のトランジスタに大容量のものが必要であり、回路規模に留意する必要がある。このため、出荷検査時で得られた補正データの値をそのままヒューズメモリに書き込む形態では、多数のヒューズメモリが必要となって回路設計上都合が悪い。
【0009】
この発明は、このような事情に鑑み、地磁気の直交軸成分を検出する地磁気検出素子と、地磁気検出素子の検出出力の補正情報を記憶する熱変成型の不揮発性記憶素子を有する地磁気検出装置において、熱変成型の不揮発性記憶素子を少数化できる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために本発明は、地磁気の直交軸成分を検出する地磁気検出素子と、該地磁気検出素子の検出出力の補正情報を記憶する熱変成型の不揮発性記憶素子とを備える地磁気検出装置であって、前記補正情報は、軸感度補正係数および軸間補正係数であり且ついずれかの軸の軸感度補正係数に対する比率として表された値であることを特徴とする地磁気検出装置を提供する。
【0011】
上記地磁気検出装置において、前記不揮発性記憶素子は最低限、前記いずれかの軸の軸感度補正係数以外の軸感度補正係数に係る補正情報を記憶するものであることを特徴とする。
【0012】
上記地磁気検出装置において、前記いずれかの軸の軸感度補正係数以外の軸感度補正係数に係る補正情報として、当該軸感度補正係数の軸感度補正係数に対する比率から予め設定された基準値を減算した差分値を用いることを特徴とする。
【0013】
上記地磁気検出装置において、前記地磁気検出素子の検出出力の補正演算を行う補正演算回路を備え、この補正演算回路は、検出出力に軸感度補正係数を乗算して補正すると共に他の軸の検出出力に軸間補正係数を乗算して求められる補正項を合算することにより検出出力の補正値を算出するものであることを特徴とする。
【0014】
上記地磁気検出装置において、前記地磁気検出素子の検出出力の補正演算を行う補正演算回路を備え、この補正演算回路は、前記差分値に前記基準値を加算して軸感度補正係数を復元したうえで補正演算を行うことを特徴とする。
【0015】
上記地磁気検出装置において、前記補正演算回路は、前記補正情報から取得できない補正係数については予め設定された代替値を代入することにより演算を行うものであることを特徴とする。
【0016】
本発明は、直交軸成分毎に地磁気を検出する地磁気検出素子と、前記検出された地磁気の値を補正するための1もしくは複数の補正データを記憶する熱変成型の不揮発性記憶素子とを備える地磁気検出装置であって、前記補正データの各々は、軸感度補正係数、或いは、軸間補正係数、或いは、軸感度補正係数から所定の基準値を減算した差分値の、いずれかの軸の軸感度補正係数に対する比率の値として表されることを特徴とする地磁気検出装置を提供する。
【0017】
上記地磁気検出装置において、前記補正データの少なくとも1つは、前記いずれかの軸以外の軸感度補正係数の、前記いずれかの軸の軸感度補正係数に対する比率の値であることを特徴とする。
【0018】
上記地磁気検出装置において、前記補正データの少なくとも1つは、前記いずれかの軸以外の軸感度補正係数から所定の基準値を減算した差分値の、前記いずれかの軸の軸感度補正係数に対する比率の値であることを特徴とする。
【0019】
上記地磁気検出装置において、前記地磁気検出素子により検出された直交軸成分毎の地磁気の値を補正する補正演算回路をさらに有し、前記補正演算回路は、所定の軸成分の地磁気の値に、前記所定の軸成分の軸感度補正係数、或いは、前記所定の軸成分の軸感度補正係数から所定の基準値を減算した差分値の、前記いずれかの軸の軸感度補正係数に対する比率に所定値を加算した加算値を乗算した乗算値と、他の軸成分の地磁気の値に、前記軸間補正係数の前記いずれかの軸成分の軸感度補正係数に対する比率の値を乗算した乗算値との和を算出することにより、補正された地磁気の値を求めることを特徴とする。
【0020】
上記地磁気検出装置において、前記地磁気検出素子により検出された直交軸成分毎の地磁気の値を補正する補正演算回路をさらに有し、前記補正演算回路は、所定の軸成分の地磁気の値に、前記所定の軸成分の軸感度補正係数、或いは、前記所定の軸成分の軸感度補正係数から所定の基準値を減算した差分値の、前記いずれかの軸の軸感度補正係数に対する比率に所定値を加算した加算値を乗算した乗算値を算出することにより、補正された地磁気の値を求めることを特徴とする。
【0021】
上記地磁気検出装置において、前記熱変成型の不揮発性記憶素子は、ヒューズメモリであることを特徴とする。
【0022】
上記地磁気検出装置において、前記所定の基準値は、前記いずれかの軸の軸感度補正係数であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したようにこの発明によれば、いずれかの軸の軸感度補正係数に対する他の補正係数の比をとったものを補正情報として熱変成型の不揮発性記憶素子に記憶するので、軸間の補正を行うことによる補正精度を維持しつつ、補正情報を小型化して熱変成型の不揮発性記憶素子の記憶容量を削減することが可能となる。
【0024】
また、いずれかの軸の軸感度補正係数や軸間補正係数を補正情報から省くことが可能となり、補正情報をさらに小型化して不揮発性記憶素子の記憶容量を削減することが可能となる。
【0025】
また、他の軸の感度補正係数から基準値を減算した差分値を補正情報とすることにより補正情報をさらに小型化して不揮発性記憶素子の記憶容量を削減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】この発明の第1の実施形態に係る地磁気検出用LSIの構成の概略を示すブロック図である。
【図2】ヒューズメモリの構成例を示すブロック図である。
【図3】第3の実施形態に係る携帯電話機の構成の概略を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を用いてこの発明の実施形態を説明する。
図1は、この発明の第1の実施形態に係る地磁気検出用LSIの構成の概略を示すブロック図である。
【0028】
同図に示すように、LSI1は電源端子2、グランド端子3、チップセレクト入力端子4、データ入力端子5、データ出力端子6を有する。なお、各部への電源ラインおよびグランドラインの配線は図示を省略する。
【0029】
インタフェース回路7は、図示しないマスターチップとの間でチップセレクト信号・入出力信号の送受信を行うものである。制御回路8は、マスターチップからの指示に基づいて所定の論理で動作し、各部を制御するものである。内部発信回路9は制御回路8その他の回路にクロックパルスを与えるものである。
【0030】
X軸方向の磁気センサ10およびY軸方向の磁気センサ11は、磁気抵抗素子等を用いた磁気センサである。切替回路12は、制御回路8の制御により動作し、磁気センサ10,11の検出出力の増幅器13の入力端への出力を択一的に切り替えるものである。増幅器13は磁気センサ10,11の検出出力を増幅してA/D変換回路14に与えるものである。A/D変換回路14は、検出出力をデジタル化し、制御回路8に出力するものである。
【0031】
ヒューズメモリ15は、出荷検査時に測定された検出出力の補正データその他のデータを記憶するためのメモリであり、検出出力の補正データとして(A)D1〜D3の値あるいは(B)D3の値、(C)D1,D2およびD4の値、(D)D4の値のいずれかを記憶している。補正データD1〜D4を(4)〜(7)式に示す。
D1=a12/a11 …(4)
D2=a21/a11 …(5)
D3=a22/a11 …(6)
D4=a22/a11−1 …(7)
ただし、aij(i=1or2,j=1or2)は後述する補正係数である。
【0032】
図2は、ヒューズメモリの構成例を示すブロック図である。同図には、4つのメモリセルd0〜d3をデイジーチェーン(数珠つなぎ)に接続して4ビットのスキャンパスを構成する例を示す。この構成により、検出出力の補正データを4ビットの情報として記憶することができる。なお、図2において、「+」の記号が記された論理素子はNORゲートを表し、「・」の記号が記された論理素子はANDゲートを表す。
【0033】
各メモリセルd0〜d3において、21はポリシリコン抵抗等からなるヒューズ、22はN型とされたFET(電界効果トランジスタ)、23はデータフリップフロップ回路、24はFET22にゲート電圧を与える3入力のNORゲート、25は2入力のANDゲートと2入力のNORゲートとで構成され、出力データをデイジーチェーンされた後段のメモリセルに出力する3入力の論理ゲートである。
以下、メモリセルd0の構成について説明するが、他のメモリセルd1〜d3も共通の構成である。データフリップフロップ回路23のD端子(データ入力端子)には書き込み用のビットが入力され、CK端子(クロック入力端子)にはck信号(クロックパルス)が供給される。NORゲート24の一の入力端子はデータフリップフロップ回路23のO端子(正論理出力端子)と接続され、別の一の入力端子にはck信号の反転信号が供給され、さらに他の入力端には/write信号が供給される。FET22のゲートはNORゲート24の出力端子と接続され、そのドレインは接地される。ヒューズ21の一端は電源電圧VDDと接続され、他の一端はFET22のソースと接続されている。論理ゲート25を構成するANDゲートの一の入力端にはread信号が供給され、その他の入力端はFET22のソースと接続されている。論理ゲート25を構成するNORゲートの一の入力端はデータフリップフロップ回路23のON端子(負論理出力端子)と接続され、他の入力端は論理ゲート25を構成するANDゲートの出力端と接続されている。そして、論理ゲート25の出力端は、デイジーチェーンされたメモリセルd1のデータフリップフロップ回路23のD端子と接続される。
【0034】
メモリセルd0にデータを書き込み時は、メモリセルd0の入力端/diから書き込み用のビットを送り込み、このビットが希望するセルに送られたタイミングで/write信号をLowレベルとしてNORゲート24に供給する。これによりNORゲート24の出力W0がHiレベルとなってFET22がオンし、ヒューズ21が通電して溶断される。図2に示す状態は、例として、メモリセルd0、d2にデータが書き込まれ、それぞれのヒューズ21が溶断されていることを示している。すなわち、メモリセルd0にはデータ“1”(Lowレベル)、メモリセルd1にはデータ“0”(Hiレベル)、メモリセルd2には“1”(Lowレベル)、メモリセルd3にはデータ“0”(Hiレベル)がそれぞれ記憶されている。
【0035】
各メモリセルからデータを読み出す時は、データフリップフロップ23をリセットした後、read信号をHiレベルとすることにより、ヒューズ21の切断の有無が論理ゲート25の出力に反映される。この状態でスキャンアウト動作を行って各セルの出力を最終段のメモリセルd3の論理ゲート25を介してその反転出力を出力端doから取り出す。
【0036】
図1に戻って説明すると制御回路8は、切替回路13を制御して磁気センサ10,11の検出出力Sx,SyをA/D変換回路14に取り込み、このA/D変換回路14により検出出力Sx,Syをデジタル化したうえで制御回路8の内部のレジスタ(図示せず)に取り込む。そしてヒューズメモリ15から補正データを読み出して検出出力Sx,Syを補正したうえでインタフェース回路7に出力する。
【0037】
また検出出力Sx,Syに対する補正は、制御回路8で行う代わりに次のようにしても良い。すなわち、LSIにヒューズメモリに記憶されているデータを出力する機能をもたせ、LSIからは補正前のSx,Syを出力するようにする。マスター側では、別途受け取ったヒューズメモリのデータを元にソフトウェアの処理によりSx,Syを補正する。
【0038】
次に検出出力Sx,Syの補正処理について説明する。まず検出出力Sx,Syと磁気センサ10,11上の磁界Hx,Hyは(8)式に示す関係がある。
【0039】
【数1】

【0040】
ただしaij(i=1or2,j=1or2)は補正係数であり、a11はX軸感度補正係数(=1/X軸感度)、a22はY軸感度補正係数(=1/Y軸感度)、a12,a21は軸間補正係数である。
【0041】
理想的な磁気センサではa11=a22,a12=a21=0であるが、実際の磁気センサではa11≠a22,a12≠a21≠0となるため、この補正処理が必要となる。第1の実施形態では、次の補正演算方式A〜Dのいずれかに基づいて補正処理を行うこととする。
【0042】
[演算方式A]
地磁気センサとして特性を考慮すると、方位を測定するためには磁界の絶対値を求める必要はなく、磁界の各成分の比のみが必要となる。このため、a12/a11,a21/a11,a22/a11の3つの値が得られれば、地磁気センサとしての用途における補正演算としては十分である。
【0043】
そこで演算方式Aでは、ヒューズメモリに記憶された補正データD1〜D3の値を用いて(9)式により補正処理を行う。
【0044】
【数2】

【0045】
ただし、Sx’,Sy’は補正後の検出出力である。
【0046】
(9)式によればX軸感度補正係数a11に係る補正データがa11/a11=1と原理的に1になるので、この補正データをヒューズメモリに記憶させなくても、支障なく補正演算を実行できる。
【0047】
そこでこの演算方式Aでは、たとえば固定値「1」を設定しておき、X軸感度補正係数を固定値「1」で代替することにより補正演算を行う。このことによりヒューズメモリに記憶すべき補正データの個数を1つ減らし、補正データの総量を削減する。各補正データのデータ長がたとえば6ビット長の値であるとすると、補正係数a11、a12、a21、a22のデータ総量は24ビットであったのに対し、演算方式Aによれば補正データD1、D2、D3の総量は18ビットになる。
【0048】
[演算方式B]
この演算方式では、軸間補正係数を軸感度補正係数により除算したa12/a11,a21/a11が「0」に近い値であることに着目し、たとえば固定値「0」を設定し、a12/a11,a21/a11の値を固定値で代替して得られる(10)式を用いて補正処理を行う。
【0049】
【数3】

【0050】
この演算方式によれば、必要な補正データの個数を1個に減らせるので、補正データの総量を補正データ1個分の6ビットに削減できる。
【0051】
[演算方式C]
この演算方式では、(11)式を用いて補正処理を行う。
【0052】
【数4】

【0053】
この演算方式によれば、軸感度補正係数を軸感度補正係数により除算したa22/a11が「1」に近い値であることに着目し、たとえば基準値「1」を設定し、この基準値とa22/a11の差分をとって補正データとすることにより、補正データのデータ長の短縮を図るものである。なお、D4+1=a22/a11、つまりD4=(a22−a11)/a11であり、この式の分子で減算したa11が特許請求の範囲に記載の「所定の基準値」の一例である。
【0054】
すなわち、補正データD1,D2はもともと小さな値である蓋然性が高く、しかもD4も基準値「1」との差分であるため小さな値である蓋然性が高いから、それぞれのデータ長を短縮することができる。ここでは各補正データのビット長を6ビットから4ビットに短縮するものとすると、ヒューズメモリに記憶すべきデータ量は補正データD1,D2,D4の合計12ビットまで削減される。
【0055】
[演算方式D]
この演算方式Dは、軸間補正係数を軸感度補正係数により除算したa12/a11,a21/a11が「0」に近い値であることに着目し、(12)式を用いて補正処理を行い、演算方式Bで説明した補正データの個数削減と、演算方式Cで説明した補正データのデータ長の短縮の両方を採用することにより補正データの総量を削減するものである。
【0056】
つまり演算方式Bと同様にa12/a11,a21/a11の値を固定値(たとえば「0」)で代替すると共に、演算方式Cと同様にa22/a11の基準値(たとえば「1」)との差分を補正データとする。
【0057】
【数5】

【0058】
この演算方式によれば、補正データの個数が方式Bと同様に1個まで減り、しかもデータ長も方式Cと同様にたとえば4ビットと短縮できる。つまり補正データの総量を補正データD4のデータ長である4ビットまで削減できる。
【0059】
次に、この発明の第2の実施形態について説明する。第2の実施形態では、直交3軸の地磁気センサを備えた地磁気検出装置への適用例を示す。この地磁気検出装置は、図1に示すLSIと同様の構成のLSIを用いて直交3軸の地磁気を検出するものである。
【0060】
この装置のヒューズメモリには、出荷検査時に測定された検出出力の補正データとして(E)D1〜D3,D5〜D9の値あるいは(F)D3,D9の値、(H)D1,D2,D4〜D8,D10の値、(G)D4,D10の値のいずれかを記憶している。
【0061】
補正データD5〜D10を(13)〜(18)式に示す。
D5=a13/a11 …(13)
D6=a23/a11 …(14)
D7=a31/a11 …(15)
D8=a32/a11 …(16)
D9=a33/a11 …(17)
D10=a33/a11−1 …(18)
ただし、aij(i=1or2,j=1or2)は後述する補正係数である。
【0062】
ここで磁気検出力Sx,Sy,Szと磁気センサ上の磁界Hx,Hy,Hzは(19)式に示す関係がある。
【0063】
【数6】

【0064】
ただしaij(i=1〜3,j=1〜3)は補正係数であり、a11はX軸感度補正係数(=1/X軸感度)、a22はY軸感度補正係数(=1/Y軸感度)、a33はZ軸感度補正係数(=1/Z軸感度)、a12、a13、a21、a23、a31、a32は軸間補正係数である。
【0065】
第2の実施形態では、次の補正演算方式E〜Hのいずれかに基づいて補正処理を行うこととする。
【0066】
[演算方式E]
演算方式Eでは、演算方式Aと同様に、磁界の各成分の比が得られれば地磁気センサとしての用途には十分との観点から、(20)式を用いて補正処理を行う。
【0067】
【数7】

【0068】
ただし、Sx’,Sy’,Sz’は補正後の検出出力である。
【0069】
補正データのデータ長がたとえば6ビット長の値であるとすると、9個の補正係数a11〜a33を記憶するために54ビットの記憶容量が必要であったのに対し、演算方式Eによれば8個の補正データD1〜D3、D5〜D9を記憶するだけで十分なので必要な記憶容量を48ビットに削減できる。
【0070】
[演算方式F]
この演算方式では、演算方式Bと同様に軸間補正係数を軸感度補正係数により除算したa12/a11,a13/a11,a21/a11,a23/a11,a31/a11,a32/a11が「0」に近い値であることに着目し、a12/a11,a13/a11,a21/a11,a23/a11,a31/a11,a32/a11の値を固定値(たとえば「0」)で代替し、(21)式を用いて補正処理を行う。
【0071】
【数8】

【0072】
この演算方式によれば、固定値「0」で代替した補正データはヒューズメモリに記憶せずとも良いので、その分、補正データの総量を削減できる。つまり補正データD3,D9だけ記憶すれば良いので、必要な補正データD3、D9の総量は12ビットまで削減される。
【0073】
[演算方式G]
この演算方式によれば、軸感度補正係数を軸感度補正係数により除算したa22/a11とa33/a11が「1」に近い値であることに着目し、基準値(この例では「1」)との差分で表すことにより補正データのデータ長の短縮を図る。すなわち、この演算方式では(22)式を用いて補正処理を行う。
【0074】
【数9】

【0075】
ヒューズメモリには、補正データD1,D2,D4〜D8,D10の値を記憶すれば良い。ここで、これら補正データの値は共に小さな値をとる蓋然性が高いから、それぞれのデータ長を4ビットに短縮できる。これにより8個の補正データD1、D2、D4〜D8、D10の総量を32ビットまで削減できる。
[演算方式H]
この演算方式では、(23)式を用いて補正処理を行う。
【0076】
【数10】

【0077】
この演算方式によれば、演算方式Fで説明したように使用する補正データをD4,D10の2個に減らし、さらに演算方式Gで説明したようにD4,D10を基準値(たとえば「1」)との差分値としてデータ長を4ビットに短縮する。このことにより記憶すべき補正データD4、D10の総量は8ビットまで削減される。
【0078】
次に、この発明の第3の実施形態について説明する。第3の実施形態では、図1の地磁気検出用LSIを携帯電話機等の携帯機器に搭載する適用例を示す。
図3は、第3の実施形態に係る携帯電話機の構成の概略を示すブロック図である。なお、図3の携帯電話機100に搭載される地磁気検出用LSI210は、図1に示す磁気センサ(第2の実施形態と同様、互いに直交する3軸の磁気センサ)の他に、磁気センサの温度補償を行うための温度センサを備える。
【0079】
図3において、携帯電話機100は端末ユニット200および端末ユニット300の2つの筐体を備えた構成である。アンテナ235aは電波信号の図示しない無線基地局との間の電波信号の送受信を行うためのアンテナである。RF(Radio Frequency)部201はアンテナ235aが受信する受信信号を中間周波数の受信信号に変換して変復調部202へ出力する。また、RF部201は変復調部202から入力する送信信号を送信周波数の信号に変調し、アンテナ235aへ出力して送信する。
【0080】
変復調部202は、RF部201から入力した受信信号の復調処理と、CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多元接続)部204から入力した送信信号の変調処理とを行う。CDMA部204は、送信信号の符号化処理、および受信信号の復号化処理を行う。音声処理部205は、マイクロホン206から入力される音声信号をデジタル信号に変換してCDMA部204へ出力し、また、CDMA部204からデジタルの音声信号を入力してアナログの音声信号に変換し、スピーカ301へ出力して発音させる。GPS受信部207はアンテナ235bがGPS衛星から受信した電波信号を復調し、電波信号に基づいて、自身の3次元空間上の緯度、経度、あるいは高度等で表される位置を算出する。
【0081】
物理量センサ231は携帯端末100の傾きを検出する。また、携帯端末100は、物理量センサ231を必ずしも備えていなくても良い。地磁気検出用LSI210は、互いに直交する所定のX軸・Y軸・Z軸の各々の軸方向の磁気(磁界)を検出する磁気センサ212a〜212cと、温度を検出する温度センサ213と、図1の符号7〜9、12〜15の機能を有する磁気センサ制御部211とを備える。また、磁気センサ制御部211は、温度センサ213および物理量センサ231による検出結果に対してアナログ/デジタル変換等の処理を行う。
【0082】
主制御部220は携帯端末100の各部を制御するCPU(Central Processing Unit)である。ROM(Read Only Memory)208は表示画像データや音声データ、主制御部220が実行するプログラムや、出荷検査時に測定された温度センサ213および物理量センサ部231の初期特性値等を格納する。RAM(Random Access Memory)209は、主制御部220で用いる演算データ等を一時的に記憶する不揮発性の記憶領域である。
【0083】
報知手段232は、スピーカ、バイブレータ、発光ダイオードを備え、着信やメール受信等を、音、振動、および光によってユーザに報知する。時計部233は主制御部220が使用する計時機能である。主操作部234は、ユーザの指示内容を主制御部220へ出力する。電子撮像部302は、被写体の像をデジタル信号に変換して主制御部220へ出力する。
【0084】
表示部303は主制御部から入力する表示用の信号に基づいて画像や文字等を表示する液晶ディスプレイである。タッチパネル304は、表示部303の液晶ディスプレイの表面に組み込まれ、ユーザの押下による操作内容を表す信号を主制御部220へ出力する。
【0085】
第1および第2の実施形態に係る地磁気検出用LSIは、出荷検査で補正データを測定し、LSIに実装した不揮発性メモリに書き込んでおく形態をとるものであるが、第3の実施形態に係る地磁気検出用LSIは携帯機器に搭載されるため、地磁気検出用LSIの出荷時ではなく、携帯機器に地磁気検出用LSIを搭載し、その携帯機器の出荷検査時に補正データの書き込みを行う形態をとることも可能である。
【0086】
また、地磁気検出用LSIの出荷時の検査において測定した補正データをLSI内部のヒューズメモリに書き込み、さらに地磁気センサLSIの携帯機器への搭載後、その携帯機器の出荷検査時に再度測定した地磁気センサLSIの補正データを携帯機器のメモリ(例えば、図3のROM208)に書き込みことも可能である。この後、地磁気を検出する際には、地磁気センサLSIの出力結果だけなく、さらに別の補正値(例えば、図3の温度センサや物理量センサの検出結果に基づいた補正値)を適応させてもよい。
【0087】
以上、この発明の実施形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0088】
たとえば、この発明はヒューズメモリを使用する形態に限定されるものではなく、たとえばアンチヒューズメモリを使用する形態をとることもできる。
【符号の説明】
【0089】
1…LSI、2…電源端子、3…グランド端子、4…チップセレクト入力端子、5…データ入力端子、6…データ出力端子、7…インタフェース回路、8…制御回路(補正演算回路)、9…内部発信回路、10…X軸方向の磁気センサ(地磁気検出素子)、11…Y軸方向の磁気センサ(地磁気検出素子)、12…切替回路、13…増幅器、14…A/D変換回路、15…ヒューズメモリ(熱変成型の不揮発性記憶素子)、21…ヒューズ、22…FET、23…データフリップフロップ、24…NORゲート、25…論理ゲート、100…携帯電話機、210…地磁気検出用LSI。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気を検出する素子を複数備えた磁気検出装置の検出出力を係数を用いて補正する補正装置であって、
補正を行う係数は、軸感度補正係数と軸間補正係数からなり、
いずれかの軸の軸感度補正係数により各係数を除算することにより次の式(1)または式(2)のいずれかにより前記検出出力の補正を行うことを特徴とする補正装置。
【数1】

【数2】

ただし、式(1)および式(2)において、SxおよびSyは前記検出出力を表し、Sx’およびSy’は補正後の検出出力を表す。
【請求項2】
磁気を検出する素子を複数備えた磁気検出装置の検出出力を係数を用いて補正する補正装置であって、
補正を行う係数は、軸感度補正係数と軸間補正係数からなり、
いずれかの軸の軸感度補正係数により各係数を除算することにより次の式(3)または式(4)のいずれかにより前記検出出力の補正を行うことを特徴とする補正装置。
【数3】

【数4】

ただし、式(3)および式(4)において、SxおよびSyは前記検出出力を表し、Sx’およびSy’は補正後の検出出力を表す。
【請求項3】
前記Dおよび前記Dを0としたことを特徴とする請求項1または2の何れか1項記載の補正装置。
【請求項4】
磁気を検出する素子を複数備えた磁気検出装置の検出出力を係数を用いて補正する補正装置であって、
補正を行う係数は、軸感度補正係数と軸間補正係数からなり、
いずれかの軸の軸感度補正係数により各係数を除算することにより次の式(5)から式(7)のいずれかにより前記検出出力の補正を行うことを特徴とする補正装置。
【数5】

【数6】

【数7】

ただし、式(5)から式(7)において、Sx,Sy,Szは前記検出出力を表し、Sx’,Sy’,Sz’は補正後の検出出力を表す。
【請求項5】
磁気を検出する素子を複数備えた磁気検出装置の検出出力を係数を用いて補正する補正装置であって、
補正を行う係数は、軸感度補正係数と軸間補正係数からなり、
いずれかの軸の軸感度補正係数により各係数を除算することにより次の式(8)から式(10)のいずれかにより前記検出出力の補正を行うことを特徴とする補正装置。
【数8】

【数9】

【数10】

ただし、式(8)から式(10)において、Sx,Sy,Szは前記検出出力を表し、Sx’,Sy’,Sz’は補正後の検出出力を表す。
【請求項6】
前記D、前記D、前記D、前記D、前記D、前記Dを0としたことを特徴とする請求項4または5の何れか1項記載の補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−221040(P2011−221040A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162214(P2011−162214)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【分割の表示】特願2005−295352(P2005−295352)の分割
【原出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)