説明

製紙用填料分散液および填料含有紙

【課題】填料の紙への歩留りを向上させることができ、紙の填料含有率を増加させた時の紙力低下を抑制することができ、不透明度向上幅をも改善させることができる製紙用填料分散液、さらには填料を多く含有しながら、優れた紙力、不透明化度を有する填料含有紙を提供すること。
【解決手段】少なくともカチオン化されたミクロフィブリルセルロース(a)および填料(b)を含有する製紙用填料分散液;パルプスラリーに、当該製紙用填料分散液を添加して得られるパルプおよび製紙用填料を主成分とする填料含有紙を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製紙用填料分散液および填料含有紙に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、印刷あるいは筆記用に使用される紙には、不透明度、白色度、平滑性、印刷適性等の改良を目的として填料が添加されている。従来からこの様な填料を内添した紙の製造方法としては、水に分散したパルプに、填料分散液を添加し、その他通常紙の抄造に用いられる内添助剤を添加した紙料から、湿紙を形成し、乾燥していた。これらの内添填料はパルプ繊維間の密着を妨げ、可視光の散乱表面積の増加あるいは散乱効率の増加によって不透明度の向上をもたらすが、最近、紙の軽量化、パルプの節約、さらに高まる製品品質要求への対処などに関連して、填料をより効果的に、より多く使用することの重要性が増してきた。
【0003】
しかし、填料を多く含有させると紙の不透明性は向上するが、紙の強度が低下するため、紙中填料含有率には限界があった。填料含有率を増加させた時の紙力低下を改善するためにカチオン化澱粉(特許文献1参照)や両性あるいはカチオン性のポリアクリルアミド(特許文献2参照)を填料と混合して凝集体として添加する方法が提案されている。これらの方法によれば填料の歩留りは向上し、填料含有率を増加させた時の紙力低下は抑制されるが白色度や不透明度の向上率が低下するという問題があった。また、カチオン基を含むイオン基を有するセルロース誘導体を含む填料を用いると、光学的性質や機械的性質が改善され、特にサイジング剤の使用量が減少できることが提案されている(特許文献3参照)が、本方法によれば、紙力低下を抑制する能力が不足し、中でも填料の歩留り性が低いという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平10−060794号公報
【特許文献2】特開2004−18336号公報
【特許文献3】特開2007−515572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、填料の紙への歩留りを向上させることができ、紙の填料含有率を増加させた時の紙力低下を抑制することができ、不透明度向上幅をも改善させることができる製紙用填料分散液、さらには填料を多く含有しながら、優れた紙力、不透明度を有する填料含有紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は填料を内添した紙を製造するに当たり、前述のような種々の問題を解決するために鋭意検討した結果、特定のミクロフィブリルセルロースを用いることにより、填料の歩留まり率が高く、不透明性および強度のすぐれた填料内添紙を製造できる特定の填料分散液が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、少なくともカチオン化されたミクロフィブリルセルロース(a)および填料(b)を含有する製紙用填料分散液;主としてパルプおよび製紙用填料からなる紙を製造する方法において、当該製紙用填料分散液をパルプスラリーに添加することを特徴とする填料含有紙を製造する方法;パルプスラリーに、当該製紙用填料分散液を添加して得られるパルプおよび製紙用填料を主成分とする填料含有紙に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、填料の紙への歩留りを向上させることができ、紙の填料含有率を増加させた時の紙力低下を抑制することができ、不透明度向上幅をも改善させることができる製紙用填料分散液を提供することができる。また、当該製紙用填料分散液を用いることにより、填料を多く含有しながら、優れた紙力、不透明性を有する填料含有紙を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の製紙用填料分散液は、少なくともカチオン化されたミクロフィブリルセルロース(a)(以下、成分(a)という)および填料(b)(以下、成分(b)という)を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明に用いられる成分(b)としては、特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、たとえば、タルク、二酸化チタン、ホワイトカーボン、クレー、沈降性炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム等の炭酸カルシウム等の通常紙に使用されうる填料を単独又は混合して使用することができる。これらの中では、炭酸カルシウムを用いることが、安価であるため好ましい。填料の平均粒子径を0.2μm以上、2.0μm以下とすることで、均一性や歩留まり性の点で好ましい。
【0011】
本発明に用いられる成分(a)はミクロフィブリルセルロース(a1)(以下、成分(a1)という)を、カチオン化剤(a2)(以下、成分(a2)という)を用いてカチオン化することにより得られる。
【0012】
本発明に用いる成分(a1)の製造方法は公知であり、一般的には、セルロース繊維含有材料をリファイナー、二軸混練機(二軸押出機)、高圧ホモジナイザー、媒体攪拌ミル、石臼、グラインダー、振動ミル、サンドグラインダー等により磨砕ないし叩解することによって解繊又は微細化して製造されるが、特開2005−42283号公報に記載の方法等の公知の方法で製造することもできる。セルロース繊維含有材料としては、植物(例えば木材、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物、布、パルプ、再生パルプ、古紙)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))、微生物産生物等を起源とするものが知られているが、本発明ではそのいずれも使用できる。これらの中では、植物又は微生物由来のセルロース繊維を用いることが好ましく、特に植物由来のセルロース繊維を解繊して得られるものを用いることが好ましい。
【0013】
本発明において、成分(a1)の繊維径は、通常、平均値が4nm〜1000nm程度とすることが好ましく、4nm〜200nmとすることがより好ましく、4nm〜100nmであることがより一層好ましい。成分(a1)は市販品を利用してもよい。
【0014】
なお、セルロース繊維含有材料として、微結晶セルロース(商品名「アビセル」(旭化成(株)製))や粉末セルロース(商品名「KCフロック」(日本製紙ケミカル(株)製)、商品名「セルロース、粉末」(MP Biomedicals製)など)を用いることでミクロフィブリル化が容易になる。また、市販のミクロフィブリルセルロース(商品名「セリッシュ」、ダイセル化学工業(株)製)を用いた場合、フィブリル化工程を有さずにそのままカチオン化してもよい。
【0015】
カチオン化反応は、公知の方法により、行うことができる。たとえば、成分(a1)に、成分(a2)を作用させればよい。
【0016】
本発明のカチオン化反応に用いる成分(a2)は、セルロース系材料の水酸基と反応する基及び四級アンモニウム基を有する。セルロース系材料の水酸基と反応する基としては、その水酸基と反応して共有結合を形成する反応基であれば特に限定はなく、例えば、エポキシ基又はそれを形成し得るハロヒドリン基等、活性ハロゲン基、活性ビニル基、メチロール基等が挙げられる。これらの中では、成分(a1)との反応性の点からエポキシ基又はそれを形成し得るハロヒドリン基が好ましい。また四級アンモニウム基は−N(R)(但し、式中のRは置換基を有しても良いアルキル基、アリール基又は複素環基である)で表わされる構造を有する。成分(a2)としては、たとえば、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリド等の様なグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド或いはそのハロヒドリン型等が挙げられる。これらの中では、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドが、好ましい。
【0017】
カチオン化反応は、例えば、グリシジルトリアルキルアンモニウムハライドをカチオン化剤に用いる場合、セルロース系材料にカチオン化剤と触媒である水酸化アルカリ金属を作用させることにより行われる。反応溶媒としてセルロース系材料に対し3〜20重量倍程度の水、或いは低級アルコール、具体的にはメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール等の単独又は水との混合溶媒が使用できる。水酸化アルカリ金属としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が使用できる。カチオン化反応は通常30〜90℃程度、好ましくは40〜80℃で、30分〜10時間程度、好ましくは1〜4時間行われる。なお、成分(a2)と触媒の使用量は、使用原料、反応系の溶媒組成、反応器の機械的条件、その他要因によって適宜調整されるが、カチオン化セルロース誘導体のカチオン基の置換度が0.01〜0.4程度の範囲になるように調整することが好ましい。置換度が0.01未満ではカチオン基に由来する凝集効果が得られず、本発明の特徴とする紙力と光学的特性の両立が困難となり、またアニオン性部材との親和性も弱い。一方、置換度が0.4よりも高くなるとカチオン電荷による反発効果で填料への吸着率が低下し、本発明の特徴とする紙力と光学的特性の両立が困難となる。
【0018】
カチオン化反応終了後、残存する水酸化アルカリ金属塩を鉱酸、或いは有機酸により中和した後、常法により洗浄、精製してカチオン化ミクロフィブリルセルロースを得る。この後、乾燥してもよく、乾燥物が凝集した塊状物である場合、水分散体として機械的に解繊してもよい。
【0019】
本発明の填料分散液は、例えば、成分(b)として、10〜30重量%濃度の軽質炭酸カルシウムスラリーを用いる場合には、成分(a)の1重量%水分散液を、攪拌しながら添加することで得られる。この時に添加する成分(a)の成分(b)に対する添加率は、固形分で0.1〜5%程度であることが、効果と経済性の点から好ましい。
【0020】
本発明の填料含有紙は、主としてパルプおよび製紙用填料からなる紙を製造する方法において、上記製紙用填料分散液をパルプスラリーに添加することを特徴とする。なお、本発明の填料含有紙とは、填料を、パルプ対比、5〜50重量%含有するものである。
【0021】
本発明における填料含有紙には、通常抄紙で用いられる添加剤、例えば硫酸アルミニウム、サイズ剤、消泡剤、スライムコントロール剤、染料、着色顔料、蛍光剤、乾燥紙力向上剤、湿潤紙力向上剤、濾水性向上剤、及び歩留り向上剤等を必要に応じて含ませることができる。
【0022】
また、本発明の填料含有紙の表面にでんぷん、ポリビニルアルコール、各種表面サイズ剤等をサイズプレス装置等で塗布することも可能である。
【0023】
本発明の填料分散液をパルプ分散液に添加して通常の製紙方法によって得られる紙としては、特に制限されないが、各種の紙、及び板紙が挙げられる。紙の種類としては、オフセット印刷用紙、PPC用紙、インクジェット印刷用紙、レーザープリンター用紙、フォーム用紙、アート紙、キャストコート紙、上質コート紙等のコート原紙、クラフト紙、純白ロール紙等の包装用紙、壁紙原紙、ノート用紙、書籍用紙、各種印刷用紙、新聞用紙等の各種紙(洋紙)、マニラボール、白板紙、チップボール等の紙器用板紙が挙げられる。
【実施例】
【0024】
以下、本発明を実施例及び比較例に従って詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、説明中、パーセントは重量パーセントを示す。ISO白色度、不透明度、引張強度、灰分、填料歩留りを以下に示す方法にて測定した。
【0025】
・ISO白色度の測定:ISO白色度はJIS P 8148に基づき、反射率計を用いて、ISO白色度(拡散青色光反射率)を測定した。
・不透明度の測定:不透明度はJIS P 8149に基づき、反射率計を用いて、不透明度(紙の裏当て法:拡散照明法)を測定した。
・引張強度:JIS P 8113に基づき、測定し算出した。
・灰分:JIS P 8251に基づき、灰化温度は525℃として測定した。
・填料歩留率:次式により算出した。
填料歩留率= 灰分(%)/(炭カル添加率(%)/(炭カル添加率(%)+100))
【0026】
製造例1
(ミクロフィブリルセルロースの製造例)
セルロース粉末(MP Biomedicals社製)265gに蒸留水4735gを加え均一に混合した後、5MPaの圧力に設定した高圧ホモジナイザー(15MR−8TA、ガウリン社製)を20回通過させて、ミクロフィブリル化セルロース(MFC−1)の高粘度なスラリーを得た。このスラリーの不揮発分は、5.0%であった。
【0027】
製造例2
(カチオン化ミクロフィブリルセルロースの製造例)
MFC−1の5%分散液400gに48%水酸化ナトリウム溶液20.6gを加え、pH12とした後、50℃に昇温した。73%グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド76.8gを20分間かけて滴下した後、50℃で3時間保温し、カチオン化を完結させた。冷却後、30%希硫酸を用い、pHを6.0とした後、限外濾過膜(分画分子量10000)を用いて、低分子量成分を除き、CMFC−1を得た。このCMFC−1は、濃度4.8%、溶液pH7.1、固形分の窒素含有量は0.9%(カチオン基置換度0.12)であった。
【0028】
製造例3
(カチオン化ミクロフィブリルセルロースの製造例)
MFC−2(商品名「セリッシュ」、ダイセル化学工業(株)製、水分90%)120gに蒸留水120gと48%水酸化ナトリウム溶液6.2gを加え、pH11とした後、50℃に昇温した。73%グリシジルトリメチルアンモニウムクロライド30.7gを2時間かけて滴下した後、50℃で1時間保温し、カチオン化を完結させた。冷却後、30%希硫酸を用い、pHを6.0とした後、限外濾過膜(分画分子量10000)を用いて、低分子量成分を除き、CMFC−2を得た。このCMFC−2は、濃度2.8%、溶液pH6.8、固形分の窒素含有量は2.1%(カチオン基置換度0.31)であった。
【0029】
実施例1
沈降性炭酸カルシウム(商品名:タマパールTP121、奥多摩工業(株)製)の20%水分散液50gをマグネチックスターラーで攪拌しながら、製造例2で得られたCMFC−1の1%水分散液25gを加え3分間攪拌することにより分散液を得た。(填料に対するCMFC−1の固形分含有率は2.5%)
【0030】
実施例2
カナダ濾水度400mlに叩解したL−BKPの1%スラリー500gに、pH調節用に填料処理剤で処理していない炭酸カルシウムを2%、硫酸アルミニウムを1%(ともに対パルプ絶乾重量)添加し、実施例1で得られた填料分散液7.5gを加え、更に填料歩留剤(商品名「リアライザーR300」、ソマール(株)社製)をパルプ重量に対し100ppm添加した後、坪量が100gになるようにTAPPI標準手抄き装置でウェットシートを作成し、プレス、乾燥して、填料含有手抄き紙を得た。
【0031】
実施例3〜10、比較例1〜7
填料処理剤として本発明のCMFC−1、CMFC−2および比較例として水溶性カチオン化セルロース誘導体(商品名「ポイズC60H」、花王(株)製)及び分岐型両性ポリアクリルアミド系紙力剤(商品名「ポリストロン1280」、荒川化学工業(株)製)を用いて、填料分散液を作成後、実施例2に記載と類似の方法で填料含有手抄き紙を得た。得られた手抄き紙の評価結果を表1に示す。なお、填料の添加率は手抄き紙作成に用いたパルプの絶乾重量に対する百分率で表示した。また、填料処理剤添加率は添加した炭酸カルシウムに対する百分率で表示した。
【0032】
【表1】

表中、C60Hは、商品名「ポイズC60H」、花王(株)製、PSは、商品名「ポリストロン1280」、荒川化学工業(株)製を表す。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともカチオン化されたミクロフィブリルセルロース(a)および填料(b)を含有する製紙用填料分散液。
【請求項2】
填料(b)が、炭酸カルシウムである請求項1記載の製紙用填料分散液。
【請求項3】
カチオン化されたミクロフィブリルセルロース(a)が、ミクロフィブリルセルロース(a1)をカチオン化剤(a2)により処理したものであって、カチオン化剤がグリシジルトリメチルアンモニウムクロリドおよび3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドから選ばれる1種以上である請求項1または請求項2に記載の填料分散液。
【請求項4】
ミクロフィブリルセルロース(a1)が植物繊維を解繊して得られるものである請求項1から請求項3のいずれかに記載の填料分散液。
【請求項5】
主としてパルプおよび製紙用填料からなる紙を製造する方法において、請求項1から請求項4のいずれかに記載の製紙用填料分散液をパルプスラリーに添加することを特徴とする填料含有紙を製造する方法。
【請求項6】
パルプスラリーに、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の製紙用填料分散液を添加して得られるパルプおよび製紙用填料を主成分とする填料含有紙。


【公開番号】特開2011−214162(P2011−214162A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−80651(P2010−80651)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】