説明

製紙用表面サイズ剤、表面サイズ塗工液および紙

【課題】サイズ効果が良好であり、摩擦係数の低下が抑制された、紙への塗工時に生じる凝集物を低減させることができる製紙用表面サイズ剤、表面サイズ塗工液さらには、サイズ効果に優れた紙を提供すること。
【解決手段】疎水性モノマー(a1)を含有するビニルモノマー(A)をカチオン性水溶性ポリマー(B)の存在下で重合して得られた重合体(C)、水溶性アルミニウム系化合物(D)並びに、アルキルケテンダイマー及び/又はアルケニルケテンダイマー(E)を含有する水性エマルジョン型製紙用表面サイズ剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙用表面サイズ剤、表面サイズ塗工液および紙に関する。
【背景技術】
【0002】
製紙用表面サイズ剤は、紙の表面に塗布されるサイズ剤であり、効率よくサイズ効果を付与することができる。製紙用表面サイズ剤としては、アルキルケテンダイマーやアルケニルケテンダイマー(以下、両方をAKDと総称する)を水に分散させたもの、カチオン性官能基を有するポリマーを水に分散させたものなどが用いられている。
【0003】
AKDを水に分散させたAKD系表面サイズ剤は、サイズ効果が良好であるが、サイズ効果発現までに時間がかかるという問題があった。また、AKD系表面サイズ剤を用いると、紙の摩擦係数を低下させるため、用途が限られるといった問題があった。さらに、AKD系表面サイズ剤は、機械的シェアに対する安定性に問題があるため、紙への塗工時に凝集物が発生し、この凝集物が汚れとなり紙の製造に悪影響を及ぼすという問題もあった。そこで、機械的シェアに対する問題を解決するために特定の共重合体を用いたAKD系表面サイズ剤が提案されている。(特許文献1参照)しかし、当該表面サイズ剤は、機械的シェアに対する安定性は十分とはいえず、また、摩擦係数の低下も十分に抑制できなかった。
【0004】
また、摩擦係数の低下を抑制する方法として、ゼータ電位を特定の範囲に制御したうえで水溶性高分子化合物と併用する表面サイズ剤が提案されている。(特許文献2参照)本方法によれば、摩擦係数の低下は改善できるものの、水溶性高分子化合物の添加により、サイズ効果が悪化するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−217795号公報
【特許文献2】特開2003−221795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、サイズ効果が良好であり、摩擦係数の低下が抑制された、紙への塗工時に生じる凝集物を低減させることができる製紙用表面サイズ剤、表面サイズ塗工液さらには、サイズ効果に優れた紙を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討したところ、特定の重合体、水溶性アルミニウム系化合物、アルキルケテンダイマー及び/又はアルケニルケテンダイマーを用いることで、前記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、疎水性モノマー(a1)を含有するビニルモノマー(A)をカチオン性水溶性ポリマー(B)の存在下で重合して得られた重合体(C)、水溶性アルミニウム系化合物(D)並びに、アルキルケテンダイマー及び/又はアルケニルケテンダイマー(E)を含有する水性エマルジョン型製紙用表面サイズ剤;当該製紙用表面サイズ剤および澱粉類(F)を、製紙用表面サイズ剤:澱粉類(F)が、0.1〜20:99.9〜80の重量比率(固形分換算)となるように配合した表面サイズ塗工液;当該製紙用表面サイズ剤または当該表面サイズ塗工液を塗工して得られる紙に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サイズ効果が良好であり、摩擦係数の低下が抑制された、紙への塗工時に生じる凝集物を低減できる製紙用表面サイズ剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、疎水性モノマー(a1)(以下、成分(a1)という)を含有するビニルモノマー(A)(以下、成分(A)という)をカチオン性水溶性ポリマー(B)(以下、成分(B)という)の存在下で重合して得られた重合体(C)(以下、成分(C)という)、水溶性アルミニウム系化合物(D)(以下、成分(D)という)、アルキルケテンダイマー及び/又はアルケニルケテンダイマー(E)(以下、成分(E)という)を含有する水性エマルジョン型製紙用表面サイズ剤に関する。
【0011】
成分(A)は、成分(a1)を含有することを特徴とする。成分(a1)としては、疎水性のラジカル重合性のモノマーであれば特に限定されず公知のものを用いることができる。特に、水に対する溶解度(20℃)が2%以下であるラジカル重合性のモノマーを用いることが好ましい。成分(a1)としては、たとえば、スチレン類、α−オレフィン類、ビニルエステル類、N−アルキル(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクリル酸エステル類、マレイン酸のジアルキルエステル類及びフマル酸のジアルキルエステル類などが挙げられる。
【0012】
スチレン類としては、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、t−ブチルスチレン、ジメチルスチレン、アセトキシスチレン、ヒドロキシスチレン、クロルビニルトルエンなどが挙げられる。
【0013】
α−オレフィン類としては、たとえば、2,4,4−トリメチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセン、1−テトラコセン、1−トリアコンテンなどが挙げられる。
【0014】
ビニルエステル類としては、たとえば、炭素数5〜10のt−カルボン酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニルなどが挙げられる。
【0015】
N−アルキル(メタ)アクリルアミド類としては、たとえば、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−ラウリル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−t−ブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジラウリル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジ−t−オクチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジシクロヘキシル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、たとえば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリルなどが挙げられる。
【0017】
これらは1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。これらの中では、スチレン、(メタ)アクリル酸ノルマルブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルを用いることが、サイズ効果、エマルジョンの安定性の点から好ましい。
【0018】
成分(A)は、必要に応じて、成分(a1)と共重合する他のラジカル重合性モノマー(a2)(以下、(a2)成分という)を含有してもよい。(a2)成分としては、特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、たとえば、(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシル基を有する親水性モノマー、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル、(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルアミド、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、(メタ)アリルスルホン酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸グリシジルなどが挙げられる。
【0019】
ヒドロキシル基を有する親水性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシメチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシブチル、(メタ)アリルアルコール等が挙げられる。
【0020】
(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステルとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0021】
(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルアミドとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0022】
成分(A)中の成分(a1)の含有量は、特に限定されないが、通常、80〜100重量%程度とすることが、サイズ効果が良好になることから好ましい。また、成分(A)中の成分(a2)の含有量は、10重量%程度以下とすることが好ましい。
【0023】
成分(B)は、カチオン性官能基を有する水溶性ポリマーであれば特に限定されず、公知のものを用いることができる。具体的には、たとえば、カチオン化澱粉、カチオン性モノマーを含有するモノマー成分をラジカル重合して得られる水溶性ポリマー、カチオン化ポリビニルアルコールなどを用いることができる。これらの中では、カチオン性モノマーを含有するモノマー成分をラジカル重合して得られる水溶性ポリマーを用いることが好ましい。特に、疎水性モノマー(b1)(以下、成分(b1)という)ならびに(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル(b2)(以下、成分(b2)という)および/または(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルアミド(b3)(以下、成分(b3)という)を共重合して用いられるカチオン性ポリマーを用いることが、成分(C)の分散安定性ならびにサイズ効果の点で好ましい。
【0024】
成分(b1)としては、前記成分(a1)と同様のものを用いることができる。
【0025】
成分(b2)としては、たとえば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
成分(b3)としては、たとえば、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0027】
これらは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。なお、成分(B)の調製には、必要に応じて、(b1)〜(b3)成分と共重合可能な他のラジカル重合成分(b4)(以下、成分(b4)という)を併用することもできる。成分(b4)としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、スチレンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸基含有モノマーなどを挙げることができる。
【0028】
成分(b1)〜成分(b3)の使用量は特に限定されないが、通常、(b1):〔(b2)+(b3)〕=20〜90:80〜10重量%程度とすることが成分(C)の分散安定性、サイズ効果が良好になるため好ましい。なお、成分(b4)を使用する場合には、通常、その使用量を、成分(b1)〜成分(b4)の合計量の10重量%以下とすることが好ましい。
【0029】
成分(B)は、上記重合性成分を重合することにより得られる。重合法は特に限定されず公知の方法を採用することができる。溶液重合を採用する場合には、溶媒としてベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等の低級ケトン類、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類等を使用することができる。重合開始剤の種類についても特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、2,2′−アゾビスイソブチロニトリル、2,2′−アゾビス−2,4−メチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、また過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキシド、tert−ブチルハイドロパーオキシド、ジクミルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイドなどの有機過酸化物、その他レドックス触媒系のものをいずれも使用することができる。また、重合に際しては、α−メチルスチレンダイマー、メルカプタン類、第2級アルコール類等の連鎖移動剤を用いることもできる。重合反応の条件としては、通常、反応温度70〜140℃程度、反応時間1〜10時間程度で行えばよい。
【0030】
このようにして得られた成分(B)の分子量は特に限定されないが、通常、重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフ法によるポリスチレン換算値)を5,000〜40,000程度とすることが、成分(C)の分散安定性、サイズ効果が良好になるため好ましい。なお、成分(B)の成分(b2)および成分(b3)に由来するアミノ基の一部または全部を4級化することが、共重合体のカチオン性を高め、安定なエマルジョンの形成とサイズ性能を向上させることができることから好ましい。4級化の程度としては成分(B)の共重合体中に存在する成分(b2)および/または成分(b3)のアミノ基の少なくとも10モル%程度が好ましく、50〜100モル%程度であることがより好ましい。4級化に用いられる4級化剤としては公知のものを使用できる。代表的なものとしては塩化ベンジル、塩化メチル、硫酸ジメチル、グリシドール、エチレンクロルヒドリン、アリルクロライド、スチレンオキシド、プロピレンオキシドまたはエピクロルヒドリンなどが挙げられる。4級化は、通常50〜90℃で1〜4時間保温することにより行えばよい。なお、4級化は、通常、成分(B)の調製後に行われるが、重合前に行ってもよい。
【0031】
本発明に用いられる成分(C)は、成分(A)を成分(B)の存在下で重合することにより得られる。成分(A)の重合法は特に限定されず、公知の方法を採用することができる。重合法としては、乳化重合法を用いることが、得られる成分(C)の安定性が良好になるため好ましい。
【0032】
乳化重合をする場合には、成分(B)が乳化剤としての機能を有するため、他の乳化剤を用いなくてもよいが、公知の乳化剤を併用してもよい。他の乳化剤としては、カチオン性界面活性剤やノニオン性界面活性剤等を用いることができる。カチオン性界面活性剤として、たとえば、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド等を用いることができる。これらは、たとえば、第一工業製薬(株)製のカチオーゲンH、カチオーゲンL、花王(株)製のコータミン24P、コータミン86Pコンク、コータミン60W、コータミン86Wとして入手できる。また、ノニオン性界面活性剤としては、たとえば、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルの他、分子中に反応性官能基を有するノニオン性界面活性剤等も用いることもでき、1種を単独で、あるいは2種以上を用いることができる。
【0033】
乳化重合に使用する重合開始剤としては、特に限定されず公知のものを使用すればよい。重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの過硫酸塩や水溶性アゾ化合物、その他レドックス触媒系のものなどのいずれを使用してもよい。また、重合に際しては、α−メチルスチレンダイマー、メルカプタン類、第二アルコール類等の連鎖移動剤を用いることもできる。また、架橋剤を使用することもでき、2〜4官能性の架橋性モノマーであるメチレンビス(メタ)アクリルアミド、エチレンビス(メタ)アクリルアミド、トリアリルイソシアヌレート、トリアリルアミン、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、テトラアリルピロメリテートなどを用いることができる。乳化重合は、通常70〜100℃程度、反応時間は1〜10時間程度で行う。
【0034】
なお、成分(A)と成分(B)の使用量は、特に限定されないが、通常、重量比(固形分換算)で、成分(A):成分(B)=1:4〜4:1程度となるようにすることが、成分(C)の安定性、サイズ効果が良好になるため好ましい。
【0035】
このようにして得られた成分(C)は、通常、成分(A)の重合物と成分(B)からなる。成分(C)の分子量は特に限定されないが、通常、重量平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算値)を、50,000〜500,000程度とすることが、サイズ効果が良好となるため好ましい。
【0036】
本発明に用いられる成分(D)としては、特に限定されず公知のものを用いることができる。具体的には、たとえば、硫酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、硫酸硅酸アルミニウム等の硫酸アルミニウム類、塩化アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム等の塩化アルミニウム類、硝酸アルミニウムおよびこれらの重合体等を用いることができる。これらの中では、硫酸アルミニウムを用いることが、サイズ効果が良好となるため好ましい。
【0037】
本発明に用いられる成分(E)としては、特に限定されず公知のものを用いることができる。成分(E)としては、たとえば、一般式(1):
【0038】
【化1】

【0039】
(式中、R及びRはC8〜C30の飽和炭化水素基又はC8〜C30の不飽和炭化水素基であり、R及びRは、同一であっても異なっていてもよい。)で表わされるものを用いることができる。一般式(1)において、R1又はR2の炭化水素基は、例えば、オクチル、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル等のアルキル基、オクテニル、デセニル、ドデセニル、テトラデセニル、ヘキサデセニル、オクタデセニル、エイコセニル等のアルケニル基、オクチルフェニル、ノニルフェニル、ドデシルフェニル等の置換フェニル基、ノニルシクロヘキシル等の置換シクロアルキル基、フェニルエチル等のアラルキル基などである。これらの中では、C10〜C25の飽和炭化水素基、C10〜C25の不飽和炭化水素基が好ましく、C14〜C22飽和炭化水素基、C14〜C22の不飽和炭化水素基が特に好ましい。R1、R2は直鎖状の炭化水素に限定されるものではなく、分岐状のものや環状のものであってもよい。このような成分(E)としては、オクタデシルケテンダイマー、ヘキサデシルケテンダイマー、テトラデシルケテンダイマー、ドデシルケテンダイマーなどが挙げられる。なお、ケテンダイマーは異なる脂肪酸の混合物を二量化したものでもよい。成分(E)は公知の方法で乳化して、乳化物として成分(C)および成分(D)と混合することもできる。乳化では、例えばカチオン化澱粉とリグニンスルホン酸ナトリウムあるいはナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物等を乳化分散剤として用いることができる。成分(E)の乳化法は、特に限定されないが、高圧ホモジナイザーを使用する強制乳化が好ましい。
【0040】
成分(C)〜成分(E)の使用量は特に限定されないが、通常は、成分(E)の含有量を5〜40重量%程度、成分(C)および成分(D)の合計量を95〜60重量%程度とすることが、得られた製紙用表面サイズ剤の安定性、サイズ効果が良好となることから好ましい。また、成分(C)および成分(D)の含有比率(固形分重量比)を、(C)/(D)=20/80〜80/20程度とすることにより、成分(E)と混合した時の安定性、サイズ効果が向上するため好ましい。
【0041】
なお、本発明の製紙用サイズ剤は、成分(C)、成分(D)および成分(E)を混合した後に、公知の方法で乳化してもよく、成分(C)と、成分(D)の水溶液、成分(E)の乳化物を混合してもよい。なお、混合の順番は特に限定されない。
【0042】
本発明の表面サイズ塗工液は、前記製紙用表面サイズ剤と澱粉類(F)(以下、成分(F)という)を、0.1〜20:99.9〜80程度の重量比率(固形分換算)となるように配合することにより得られる。
【0043】
成分(F)としては、酸化澱粉、リン酸エステル化澱粉、酵素変性澱粉、APS変性澱粉、カチオン化澱粉、両性澱粉などの公知のものを特に限定されず使用することができる。
【0044】
なお、本発明の表面サイズ塗工液には、必要に応じて、公知の各種添加剤を添加してもよい。添加剤としては、たとえば、消泡剤、防滑剤、防腐剤、防錆剤、増粘剤、pH調整剤、酸化防止剤、増膜助剤、顔料、染料などが挙げられる。
【0045】
本発明の製紙用表面サイズ剤、表面サイズ塗工液を公知の紙に塗工することにより、サイズ効果に優れた紙を得ることができる。本発明の製紙用表面サイズ剤、表面サイズ塗工液を塗工する紙としては、新聞巻取紙、筆記用紙、壁紙、PPC用紙、インクジェット用紙、印刷用紙や、ライナーや中芯等の板紙等の各種のものが挙げられる。紙表面への塗工方法としては、公知の方式を採用できる。塗工方法としては、たとえば、含浸法、バーコーター法、カレンダー法、スプレー法、二本ロールサイズプレス等の方式、ゲートロールサイズプレス、シムサイズプレス等のフィルム転写方式等が挙げられる。また、製紙用表面塗工剤の塗工量は通常は0.01〜2g/m(固形分)程度、好ましくは0.04〜1g/mである。
【実施例】
【0046】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら各例に限定されるものではない。なお、各例中、部および%は特記しない限りすべて重量基準である。
【0047】
合成例1
撹拌機、冷却管、滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えたフラスコに、スチレン70部、ジメチルアミノエチルメタクリレート30部、イソプロピルアルコール42.9部、および2,2′−アゾビスイソブチロニトリル2.5部を仕込み、窒素気流下に撹拌しながら80〜85℃で5時間重合反応を行った。ついで、酢酸11.5部と水300部とを加えた。しかるのち、得られた共重合体にエピクロルヒドリン17.7部を加えて80℃で2時間保温し共重合体を4級化してカチオン性共重合化合物とした後、さらに所定量の水を加えて固形分濃度を20%に調整し、カチオン性水溶性ポリマー(B1)を得た。得られたカチオン性水溶性ポリマー(B1)の粘度、pHを表1に示す。なお、粘度は、225mlのマヨネーズ瓶にサンプルを入れ、25℃でBM型粘度計(トキメック(TOKIMEC)製)を使用して、測定した(以下の例も同様である。)。
【0048】
合成例2〜8
合成例1において、合成に用いたモノマーの種類と使用量、4級化に用いたエピクロルヒドリンによる4級化剤の使用量を表1に示すように変化させた他は、合成例1と同様にして反応を行ない固形分濃度20%の各種のカチオン性水溶性ポリマー(B2〜B8)を得た。得られたカチオン性水溶性ポリマー(B2〜B8)の25℃の粘度、pHを表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表中の記号は以下のとおりである。St:スチレン、BA:ブチルアクリレート、MMA:メチルメタクリレート、DMA:N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、DMAA:N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ECH:エピクロルヒドリン
また、成分(b1)〜成分(b3)の使用量は重量部を示し、4級化剤の使用量は成分(b2)または成分(b3)に対するモル比を表す。
【0051】
調製例1
フラスコに、ステアリン酸とパルミチン酸の65部/35部混合脂肪酸から誘導されたアルキルケテンダイマー80部と予め90℃で1時間糊化された10%カチオン化澱粉糊液(窒素含有率0.5〜0.6%、酸化澱粉をグリシジルトリメチルアンモニウムクロライドにてカチオン変性したもの)185部、アニオン性分散剤(ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物;花王(株)製)の40%水溶液5.55部、ならびに脱イオン水131.3部を仕込み、70〜80℃に加熱し、ホモミキサー(特殊機化工業(株)製)で予備分散させた後、次いで、同温度にて300kg/cmの条件下に高圧ホモジナイザー(APV、GAULIN社製)に2回通して強制分散させた。その後、25℃まで冷却し、固形分濃度20%、pH3.4、粘度10mPa・s、粒子径0.7μmのケテンダイマーエマルジョンを得た。
【0052】
調製例2
調整例1のアルキルケテンダイマーをオレイン酸から誘導されたアルケニルケテンダイマーに変更した以外は同様にして、固形分濃度20%、pH3.5、粘度13mPa・s、粒子径0.6μmのケテンダイマーエマルジョンを得た。
【0053】
製造例1
撹拌機、冷却管、滴下ロート、窒素導入管および温度計を備えたフラスコに、合成例1で得られたカチオン性水溶性ポリマー(B1)125部、疎水性モノマー(A)としてスチレン50部、イソブチルアクリレート50部、カチオン性界面活性剤として(花王(株)製、商品名:コータミン24P)11.1部(固形分として3部)および水340部を加え、2,2´−アゾビス−2−アミジノプロパン−塩酸塩2.5部を加えて反応温度70℃にて5時間重合反応を行った。しかるのち、所定量の水を加えて固形分を20%に調整し、成分(C)を得た。
【0054】
製造例2〜17
製造例1において、成分(a1)、成分(a2)および成分(B)の種類および量を表2のように変更した他は製造例1と同様にして、成分(C)を調製した。
【0055】
【表2】

【0056】
表中の記号は以下のとおりである。
St:スチレン、BA:ブチルアクリレート、IBA:イソブチルアクリレート、2EHA:2−エチルヘキシルアクリレート、AN:アクリロニトリル、HEMA:ヒドロキシエチルメタクリレート、コータミン24P:花王(株)製「コータミン24P」(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド27%溶液)
*1:使用量は、疎水性モノマー(a1)に対する重量比(固形分換算)である。
【0057】
実施例1
製造例1で得られた成分(C)100g、硫酸アルミニウムの20%水溶液100g、調製例1で得られたAKDエマルジョン50gを混合し、固形分濃度20%のエマルジョン型製紙用表面サイズ剤を得た。得られた製紙用表面サイズ剤の25℃の粘度、pH、平均粒子径を表3に示す。
【0058】
実施例2〜22
実施例1において、成分(C)、成分(D)および成分(E)の種類、使用量を表3のように変更した他は製造例1と同様にして、固形分濃度20%のエマルジョン型製紙用表面サイズ剤を得た。得られた製紙用表面サイズ剤の25℃の粘度、pH、平均粒子径を表3に示す。
【0059】
比較例1
硫酸アルミニウムおよび調製例1で得られたAKDエマルジョンを混合しなかったこと以外は実施例と同様にして、固形分濃度20%の各種の製紙用表面サイズ剤を得た。得られた製紙用表面サイズ剤の25℃の粘度、pH、平均粒子径を表3に示す。
【0060】
比較例2〜3
調製例1又は2で得られたAKDエマルジョンをそのまま使用した。得られた製紙用表面サイズ剤の25℃の粘度、pH、平均粒子径を表3に示す。
【0061】
比較例4
調製例1で得られたAKDエマルジョンを混合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度20%の各種の製紙用表面サイズ剤を得た。得られた製紙用表面サイズ剤の25℃の粘度、pH、平均粒子径を表3に示す。
【0062】
比較例5
硫酸アルミニウムを混合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、固形分濃度20%の各種の製紙用表面サイズ剤を得た。しかし、1ヶ月間放置したところ増粘がみられ長期での安定性が不良であったため、評価しなかった。
【0063】
比較例6
成分(C)の代わりに、合成例1で得られたカチオン性水溶性ポリマー(B1)を使用した以外は実施例と同様にして、固形分濃度20%の各種の製紙用表面サイズ剤を得た。しかし、1ヶ月間放置したところ増粘がみられ長期での安定性が不良であったため、評価しなかった。
【0064】
【表3】

【0065】
表中の各成分の使用量は、カチオン性重合体(C)、水溶性アルミニウム系化合物(D)、アルキルケテンダイマー及び/又はアルケニルケテンダイマー(E)の合計量に対する重量比(固形分換算)である。
【0066】
(製紙用表面サイズ剤の性能試験)
上記実施例1〜22ならびに比較例1〜4の各製紙用表面サイズ剤を用いて塗工液を調製し、以下の方法に従い中性上質原紙、酸性上質原紙および板紙に塗工して、それらの性能を評価した。結果を表4〜5に示す。
【0067】
(塗工液の調液)
塗工液は、酸化澱粉(王子エースA 王子コーンスターチ(株)製)を固形分濃度15%として糊化を行い、これを用いて固形分濃度で酸化澱粉7%、実施例および比較例で調製した製紙用表面サイズ剤0.5%を含有する塗工液を調製し、性能試験に供した。
【0068】
(ステキヒトサイズ度)
JIS P−8122に準拠して、ステキヒトサイズ度(秒)を測定した。数値が大きいほど良好なサイズ度を表す。
【0069】
(インクジェット適性評価(フェザリング試験))
フェザリングの評価は、前記サイズ処理をした塗工紙に、キャノン(株)製インクジェットプリンターPIXUS iP4200を用いてモノクロで直交する線幅一定の直線を印字し、目視にて直線の外縁のにじみを目視評価することで行った。フェザリングの全くないものを6とし、インクがにじんでしまって線が全体的に太くなるものを1とした。
【0070】
(インクジェット適性評価(印字濃度試験))
インクジェット適性の評価は前記サイズ処理をした各印刷用紙に、キャノン(株)製インクジェットプリンターPIXUS iP4200を用いてモノクロでベタ印刷した。次いで、反射濃度計(商品名「グレタグD186」、グレタグマクベス株)製)を用いて得られた印刷部位の濃度測定を行った。数値が大きいほど印字濃度が高いことを示す。
【0071】
(吸水度試験〔コッブ法〕)
JIS P−8140に準拠して、コッブ値(g/m)を測定した。水との接触時間は2分間とし、数値が小さいほど良好なサイズ度を表す。
【0072】
(すべり角度〔傾斜方法〕)
JIS P−8147の傾斜方法に準拠して静摩擦係数を測定した。すべり角度が小さいほど滑りやすい。
【0073】
(平均粒子径)
レーザー回折・散乱法による粒子径測定装置LASER DIFFRACTION PARTICLE SIZE ANALYZER SALD−2000J((株)島津製作所製)で測定した。
【0074】
(pH)
ガラス電極pHメーター((株)堀場製作所製)を用い、塗工液の温度を40℃に調整して測定した。
【0075】
(中性上質紙での評価)
下記配合のスラリーを用いて坪量70g/mの中性紙をpH7.2で抄造した。
スラリーの配合:L−BKP(360mlCSF)65部、N−BKP(420mlCSF)35 部、炭酸カルシウム(タマパール121 奥多摩工業(株)製)10部、中性ロジンサイズ剤(サイズパインNT−78 荒川化学工業(株)製)0.2部、硫酸アルミニウム1部、カチオン化澱粉(Cato 3210 日本NSC社製)1部、歩留まり向上剤(ポリテンション1000 荒川化学工業(株)製)0.03部。
得られた原紙に、実施例および比較例の製紙用表面サイズ剤を用いて調製した塗工液を、バーコーターを用いて両面に塗工した後、105℃の回転式ドラムドライヤーに1分間通して乾燥させて塗工紙を得、それらのステキヒトサイズ度、インクジェット適性(フェザリング特性)を測定した。結果を表4に示す。なお、澱粉付着量、表面サイズ剤固形付着量は、塗工液の塗工前後の重量より計算した値である。
【0076】
【表4】

【0077】
(板紙での評価)
原紙として坪量180g/mの板紙原紙を使用した。
原紙に、実施例および比較例の製紙用表面サイズ剤を用いて調製した塗工液をバーコーターを用いて塗工した後、105℃の回転式ドラムドライヤーに1分間通して乾燥させて塗工紙を得、それらの吸水度(コッブ法)を測定した。結果を表5に示す。
【0078】
【表5】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性モノマー(a1)を含有するビニルモノマー(A)をカチオン性水溶性ポリマー(B)の存在下で重合して得られた重合体(C)、水溶性アルミニウム系化合物(D)並びに、アルキルケテンダイマー及び/又はアルケニルケテンダイマー(E)を含有する水性エマルジョン型製紙用表面サイズ剤。
【請求項2】
アルキルケテンダイマー及び/又はアルケニルケテンダイマー(E)の含有量が5〜40重量%、疎水性モノマー(a1)を含有するビニルモノマー(A)をカチオン性水溶性ポリマー(B)の存在下で重合して得られた重合体(C)および水溶性アルミニウム系化合物(D)の合計量が95〜60重量%(固形分換算)である請求項1に記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項3】
疎水性モノマー(a1)を含有するビニルモノマー(A)をカチオン性水溶性ポリマー(B)の存在下で重合して得られた重合体(C)および水溶性アルミニウム系化合物(D)の含有比率(固形分重量比)が、(C)/(D)=20/80〜80/20である請求項1または2に記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項4】
カチオン性水溶性ポリマー(B)が、疎水性モノマー(b1)ならびに(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルエステル(b2)および/または(メタ)アクリル酸ジアルキルアミノアルキルアミド(b3)を(b1):〔(b2)+(b3)〕=20〜90:80〜10重量%の比率で含有し、かつ前記(b2)および(b3)に由来するアミノ基の一部または全部が4級化されたものである請求項1〜3のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項5】
疎水性モノマー(a1)を含有するビニルモノマー(A)とカチオン性水溶性ポリマー(B)との含有比率が重量比で、(A):(B)=1:4〜4:1である請求項1〜4のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項6】
水溶性アルミニウム系化合物(D)が、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、塩基性硫酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、硫酸硅酸アルミニウムおよびそれらの重合体からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤および澱粉類(F)を、製紙用表面サイズ剤:澱粉類(F)が、0.1〜20:99.9〜80の重量比率(固形分換算)となるように配合した表面サイズ塗工液。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の製紙用表面サイズ剤または請求項7に記載の表面サイズ塗工液を塗工して得られる紙。

【公開番号】特開2012−7283(P2012−7283A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60065(P2011−60065)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000168414)荒川化学工業株式会社 (301)
【Fターム(参考)】