説明

製鉄所のスラグ及び廃棄物質を使用する水の熱−化学分解による水素ガスの製造方法

鉱滓及び炭素質融剤に水を加えて水の熱化学分解により水素を生産することを含む水から水素を生産する新規方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は水から水素ガスを発生させる新しい方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水素は化石燃料の好ましい代替燃料として浮上している。現在、水素は主に、供給原料、中間化学物質、或いは、もっと小規模では、特製化学物質として使用される。今日生産される水素の小部分のみが、エネルギー担体として、主に航空宇宙産業によって使用されている。自動車産業は水素に基づく内燃機関(ICEs)又はガソリン−燃料電池自動車により走行する新しいモデルの開発を行っている。しかし、殆んどの商業的水素生産方法は、再生可能(renewable)とは考えられておらず、これらの技術は分散されている汚染源(例えば車、家電製品)を、水素製造工場又は火力発電所のようなさらに集約された汚染源にシフトするだけである。米国水素工業のみで、化学物質製造、石油精製、金属加工及び電気的応用に使用するために、現在、年間・百万トンの水素を製造している。
【0003】
燃料として水素を使用する技術は今日、太陽エネルギー、風、潮汐エネルギー又は地熱エネルギーのような再生可能な資源から水素を効率よく生産するための技術より進んだ段階にある。再生可能な資源から水素を生産するためのより良い、さらに効率がよい、安価な技術を開発し、水素の生産と消費技術の間のギャップを埋め、そして2つのセグメントの間の協働を達成することに対する切迫したニーズがある。The National Hydrogen Energy Roadmap of Government of India も進歩した製造技術の開発及び水素燃料に基づく技術の応用の重要性を表明した。
【0004】
水素ガス製造のための電気的方法は世界中で使用されている。現在、この方法は高純度水素の製造に使用されている。この方法を使用する水素製造のコストは非常に高いので、半導体工業のような特殊な用途にのみ使用されている。しかし、この方法は、再生可能な原子力資源から作られる電気を使用してより分散される水素の生産を促進することができ、また最少の輸送と貯蔵を要求する局地的要求を満たすであろう{1}。
【0005】
この方法の主な副産物は酸素である。水蒸気−メタン改質法も水素製造のために広く使用されている。この触媒法において、天然ガス又は他の軽い炭化水素は水蒸気と反応して、水素と二酸化炭素の混合物を生成する。次いで、高純度水素がこの混合物から分離される。この方法は現在利用できる最もエネルギー効率がよい商業化技術であり、大規模に、連続的に稼動した場合には最も費用効率が良い。大規模ガス化装置における化石燃料の部分酸化は、熱利用水素生産のもう一つの方法である。それは、燃料と供給を限定された酸素の反応により水素混合物を生産し、次いで精製することからなる。部分酸化は、天然ガス、重油、固体バイオマス及び石炭を含めて広範囲の炭化水素原料に応用することが可能である。その主な副産物は二酸化炭素である。新たに出現した方法は二酸化炭素を排出しない水素製造を保証しているが、これらの方法は総て未だ開発初期段階にある。これらの技術は、原子又は太陽の熱を使用する熱化学的な水の分解、固相技術(光電気化学、電気分解)を使用する光分解(ソーラー)法、炭素隔離による化石燃料水素生産、及び生物学的技術(藻類及び細菌)などを含む。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明の目的
本発明の一つの目的は、水から水素ガスを製造する新規方法を提案することである。
【0007】
本発明のもう一つの目的は、炭素質の廃棄物(carbonaeous waste material)及び触媒フラックス(catalytic fluxes)の存在下に水から水素ガスを製造する新規方法を提案することである。
【0008】
本発明のさらに別の目的は、水の熱化学的分解のために溶融スラグ(molten slag)を使用して水から水素ガスを製造する新規方法を提案することである。
【0009】
本発明のさらに別の目的は、水から水素ガスを製造する簡単で費用効率のよい新規方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明の要約
本発明により、スラグ及び炭素質フラックスに水を加えて、水を熱化学分解することにより水素を生産することを含む、水から水素ガスを製造する新規方法が提供される。
【0011】
発明の詳細な説明
炭素質廃棄物及び触媒フラックスの存在下に水とスラグの反応により水素ガスを生産するための新規方法が開発された。水素ガス生成の全体の反応は下記の式で表される:
【数1】


式中Aはシステムに加えられる水の量、xはフラックス中の利用しうるCの量、yはスラグ中のFeOであり、zはCOと水の間の反応によるCOの生成量である。この新規方法において、スラグは吸熱的水分解反応に相当な熱(sensible heat)を供給するのみならず、水素と酸素ガスの間の逆反応も防ぐ。スラグ中のFe及び低酸化度のFeは生成したガス混合物中の酸素ガスと反応して、Feを形成し、それにより酸素の熱力学的活性を減少させる。脱酸素剤として働くことが出来る種々のタイプの廃棄物は、水素ガスの生産を改善するためのフラックスとして使用することができる。
【0012】
スラグの存在下における純水の熱分解
溶融したスラグの顕熱(sensible heat)は水の熱化学分解に使用することができる。この方法において、スラグは熱源として働き、またスラグ中の脱酸素成分(Fe,FeO)の一部は反応(2)を介して発生し始めた(nascent)酸素と反応することにより分解反応(1)に関与している:
【数2】

【0013】
発熱酸化反応は反応(1)に必要な追加の熱を供給し、また系中の酸素分圧を減少させるので、水素ガスの生成速度を促進する。相平衡データは、1600℃における100gLDと水の間の反応について計算された。水の量を0から100mlまで変化させて、水素ガス発生に関し、水とスラグの比率の影響を調べた。計算の結果は図1a及びbに示す。図1aは水素ガス生成に対する水の添加の影響、及びスラグ中のFeO及びFの濃度の変化を示す。様々な水の添加量における系のエンタルピーは図1bに示されており、図1bは100gのスラグのエンタルピーは11.3mlまでの水との反応を支持し、それ以上の水の添加は追加のエネルギーを必要とすることを示している。したがって、理論上は、1873Kの温度で、エネルギーを投入せずに1kgのスラグと113mlの水との反応が0.8モル、すなわち、19.2リットルの水素ガスを生成するであろう。
【0014】
スラグ及び炭素質フラックスの存在下における純水の熱分解:
石炭微粉、粉コークスなどのような炭素質及び他の工場廃棄物を、水の熱分解による水素生成を促進する脱酸化剤として使用することができる。水と炭素との間の反応は次の通りである:
【数3】

【0015】
100gのスラグ及び<A>mlの水及び10gの炭素の相平衡データを1873Kの温度について計算し、その結果を図2に示す。計算の結果は、炭素との反応に対して化学量論的に必要な量よりも多い水の添加は、水素ガスの生産を増大させることを明らかにした。過剰の水は高温の系においてCOガスと反応して、COガスを生成する。仮に、<A>=5.55モル(100ml)で、x=0.20モルとすると、1873Kの温度での1.20モルのH、0.46モルのCO及び0.37モルのCOの生成に必要なエネルギーはΔH1873K=740kJである。1900Kの温度における1kgのスラグのエンタルピー、ΔH1900K=−2120kJ。理論上、100mlの水と10gの炭素の反応は、1600℃において1.20モル、すなわち、26.9リットルの水素ガスを発生し、350gのスラグの顕熱を使用するであろう(HO:C比=10:1)。したがって、理論上、1kgのスラグの反応は約70リットルのガスを生産することができる。生成反応及び熱移動過程の低効率及びその他の動態の制限を考慮すると、実際にはスラグ1kg当たり〜10リットルの水素ガスを発生することができる。
【0016】
熱源として製鉄スラグを使用する水素ガス製造のために、革新的な装置(実験室及び工場)が設計され、製作された。設計されたこの装置はスラグの廃熱を使用して35%を超える水素を含むガス製品を効率よく回収することができた。
【0017】
溶融スラグと水の反応を研究するために設計された実験設備を図3に示す。図3に示す設備を使用して実験を行う間の標準的な操作(段階的)を以下に既述する:
【0018】
実験を開始する前に、残留する空気を除去し、タンク内にガスを流入させる目的で陰圧を発生させるために、最初に真空ポンプ(13)を使用して、コンデンサー(6)ガス収集タンク(11)を脱気した。実験の前に、バルブ(6,12)を閉じることにより系を周囲から遮断した。LD製鉄所の粉砕スラグを導入炉中で溶融して、約1650〜1700℃に過熱した。溶融スラグを予熱したグラファイト製ルツボに注入した(1)。反応フード(2)をルツボの上に保持した。水のライン(3)を通じて一定量の水を溶融スラグ表面に散布した。水、スラグ中の脱酸素剤及びルツボの炭素の間の反応により、上のセクションに記述したように、生成ガスが形成される。反応の生成ガスは、フード(2)から、タンクに連結した鋼鉄製チューブ(4)を介して集められた。実験の間、化学分析のために、生成ガス試料が検体採取口(5)から採取された。生成ガスは、ガスバルブ(6)を開くことによりコンデンサータンク(7)に通された。このコンデンサータンク(7)は、外側タンク(8)に蓄えられた水により冷却された。水蒸気の除去/分離(removal/stripping)の後の生成ガスを、ガス流調節バルブ(9,10)を開くことにより収集タンク(11)に収集した。コンデンサータンク及びガス収集タンクのガス試料は、ガスサンプラーをバルブ(9)及び(12)にそれぞれ連結することにより採取された。コンデンサータンク(7)に凝集した水はコンデンサータンク(7)の底に連結したバルブ(14)を開けることにより取り出した。
試料採取口(5)、コンデンサータンク(7)及び収集タンク(11)から採取したガス試料の典型的な分析結果を以下に示す。
(容量%による濃度)
【表1】

【0019】
工場試験のための設備:
LD#2製鉄所のスラグピットにおいて試験を実施するために設計され、製作された設備を図4に示す。標準的な(段階的)手順を以下に記述する:
【0020】
実験は、製鉄ユニットLD#2のスラグピットにおいて行われた。LD#2スティールポットのスラグ投棄手順を簡単に記述する。この工場において、約25トン容量のスラグポット中に変換容器(バッチ式)からスラグを集める。次いで、このスラグポットをスラグ運搬車によりスラグ投棄場所に移動する。スラグピットにスラグポット運搬車が到着した後、オーバーヘッドクレーンにより運搬車からポットを取り外し、スラグをスラグピットに注ぐ。スラグピットを充満させるのに約2日を要する。ピットがスラグで完全に充満した後、スラグを暫時冷却し、次いで横と上から噴射水をかけて冷却する。ピットの中のスラグを冷却するのに約1日を要する。スラグの冷却中に大量の水蒸気が空気中に放出される。冷却した後、スラグをピットからダンプで取り出し、スラグ処理場に移動する。試験は殆んど充満したピットにおいて実施した。
【0021】
実験開始前に、ガス収集タンク(11)及びコンデンサータンク(7)を含めて設備全体を真空ポンプ(13)を使用して真空にした。タンク内の圧力はコンデンサータンク(7)に取り付けたコンパウンドゲージ(15)を使用して監視した。コンパウンドゲージが−500mmの圧力を示した後に、バルブ(6,12,17及び18)を閉じて設備、すなわちタンクを隔離した。スラグをクレーンによりピットに注いだ後、運搬車(24)に載せた図2に示した実験設備を、トラクターを使用してスラグピットの近くに移動した。設備を載せた運搬車が指定の位置に到着したときに、最初に、ポリエチレンバッグを使用して炭素質物質を含有するフラックスを溶融スラグ表面に散布し、次いでチェーン滑車ブロックシステム(23)を使用して反応フード(2)を引き下げて、高温スラグの表面に置いた。周囲環境から確実に分離するために、高温セラミックファイバーウール(25)を反応フード(2)の縁に固定した。スラグ表面にこのフード(2)を置いた後、水の注入バルブ(20)を開き、水の流量を給水管に連結した流量計(21)により監視した。次いで、水ノズル(26)から溶融スラグ表面上に均一に水を散布した。既に記述したように、水−スラグ−フラックスの間の反応により生成ガスが形成された。水注入バルブ(20)を開いた後直ちに、ガス送風機(22)のスイッチを入れ、バルブ(19)を開きガスパイプラインから空気と蒸気を除去し、生成ガスが蒸気と共に送風機(22)の排気パイプから出始めたら、バルブ(19)を閉じてバルブ(6)を徐々に開いた。生成ガス試料は、バルブ(5)を開き、ガスサンプラーに接続することにより採取した。タンク内のガス圧が+800mm(コンパウンドゲージ(15))に達した時に、ガスバルブ(6)を閉じ、ガスバルブ(19)を開いた。反応フード(2)を上に移動した後、バルブ(17及び18)に連結した試料採取口を使用してコンデンサー(7)及び収集タンク(11)から試料を採取した。試料採取後、次の実験のために前記と同様に設備を真空にした。生成ガスは30%超の水素ガス及び10%未満のCOガスを含有し、爆発性で可燃性であるので、爆発からシステムを保護するために、収集タンク及びコンデンサータンクには防爆ダイアフラムを使用した。
検体採取口(5)から採取したガス試料の典型的な分析結果を以下に示す:
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0022】
本発明は、付属した図面によりさらに詳細に説明される:
【図1a】1873Kでの水−スラグ相平衡の計算結果に基づくスラグ中のFeO及びFeの濃度及びHガス形成に対する水添加の影響を示す。
【図1b】1873Kにおける水−スラグ相平衡の計算結果に基づく水−スラグ系のエンタルピー対水添加のプロットに関するものである。
【図2】FACT−sageプログラムを使用して計算した、スラグ中のFeO及びFeの濃度及びH、CO及びCOガスの形成に対する水添加の影響を示す。
【図3】水素生産のための実験的設備を示す。
【図4】工場レベルのスラグピットにおける水素生産のための設備の結線図及び模式図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スラグと炭素質のフラックスに水を加えて、水の熱化学分解により水素を生産することを含む水から水素ガスを生産する新規の方法。
【請求項2】
前記スラグが熱源として働き、該スラグ中の脱酸素成分(Fe,FeO)が分解反応に関与する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水の分解のために、発熱酸化反応が追加のエネルギーを供給し且つ系の酸素分圧を減少させて、水素ガスの形成速度を増大させる、前記請求項に記載の方法。
【請求項4】
溶融スラグを入れたグラファイト製ルツボ(1)と;該ルツボの上に配置した反応フード(2)と;該ルツボ(1)の中の該溶融スラグ上に水を噴射するための水ラインと;生成水素ガスを採取して該フード(2)からコンデンサータンク(7)に送るための鋼鉄製パイプライン(4)とを含み;収集された水素ガスが少なくとも一つの調節バルブ(9,10)を介して収集タンクに入る、スラグの存在下に水から水素を生産する装置。
【請求項5】
チェーン滑車ブロック手段(23)に連結した移動式反応フード(2)であって、スラグピット上に置くことができる移動式反応フードと、スラグ上に水を散布するための給水ラインとを含み、生成水素ガスがガスバルブ(6)を介してコンデンサータンク(7)に入り、次いで収集タンク(11)の中に水素ガスを導く、水から水素ガスを生産するための装置。
【請求項6】
記反応フード(2)において水素ガス生産が開始される前にガスパイプラインから空気を除去するために使用されるガス送風機(22)を含む、請求項6に記載の装置。
【請求項7】
ノズル(26)により水が溶融スラグの表面上に均一に散布される、請求項6に記載の装置。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−535287(P2009−535287A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507241(P2009−507241)
【出願日】平成18年6月13日(2006.6.13)
【国際出願番号】PCT/IN2006/000198
【国際公開番号】WO2007/125537
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(505362160)ターター スチール リミテッド (3)