説明

製鋼スラグを利用した水質改善方法

【課題】製鋼スラグを有効利用して、対象とする淡水及び海水の水質を改善し、磯やけ、赤潮及び青潮の発生を抑制することができる製鋼スラグを利用した水質改善方法を提供する。
【解決手段】炭酸化処理した製鋼スラグ2を、麻袋等の透水性がよい袋に充填するか又はそのままの状態で、水面1から水中に沈め、水底3に設置するか又は水中に設置し、その周囲に、380〜450nm及び600〜680nmの2つの波長領域において連続して光強度を有し、且つ照度が100〜100000ルクスの光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸化処理した製鋼スラグを利用した水質改善技術に関する。
【背景技術】
【0002】
スラグは製鉄業等の精錬過程等で得られる副生成物である。例えば、製鉄業においては、粗鋼1トンあたり、高炉では約300kg、転炉では約130kg、スクラップ等に使用される電炉では約70kg程度のスラグが発生する。このため、製鉄業において、スラグを資源として有効活用することは、重要な課題である。
【0003】
従来、このようなスラグを、海域又は河川湖沼等の水域において、水質及び底質の改善、藻場形成促進、埋め戻し等に有効活用することが検討されている。しかしながら、スラグを水中に投入すると、その中に含まれるフリーな酸化カルシウム(CaO)及びフリーな酸化マグネシウム(MgO)が水に溶出して、夫々水酸化カルシウム(Ca(OH))及び水酸化マグネシウム(Mg(OH))となり、周辺水域のpHが上昇することが懸念されている。また、海域に適用した場合、このpH上昇に伴うアルカリ化により、海水中に含まれるマグネシウム(Mg)がMg(OH)となって、周辺水域が白濁するという問題がある。
【0004】
製鉄業から発生するスラグには、大きく分けて、高炉スラグ及び製鋼スラグの2種類がある。これらのスラグのうち、高炉スラグとしては、高炉水砕スラグ、高炉風砕スラグ及び高炉徐冷スラグ等があり、従来、高炉水砕スラグ又は高炉風砕スラグを使用した水質改善方法が提案されている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0005】
高炉水砕スラグは、酸化ケイ素(SiO)等のガラス質を多量に含んでおり、磯焼け及び赤潮の防止に効果があるケイ酸塩イオンが溶出しやすいという特徴がある。その一方で、高炉水砕スラグには、硫黄(S)が溶出して青潮の原因となる硫化水素(HS)が発生したり、スラグ粒子の周囲の水のpHが上昇したりするという問題点もある。そこで、特許文献1には、高炉水砕スラグ粒子の表面を炭酸カルシウム(CaCO)皮膜で覆うことにより、高炉水砕スラグに起因するpH上昇及びS溶出を抑制すると共に、高炉水砕スラグから溶出するケイ酸塩イオンの効果により珪藻を増殖させて、磯やけ、赤潮及び青潮の発生を防止する水中又は水浜の環境改善方法が開示されている。
【0006】
また、高炉風砕スラグも高炉水砕スラグと同様に、SiO等のガラス質を多量に含んでいるが、Sの溶出及び周辺水域のpH上昇という問題点がある。そこで、特許文献2においては、高炉風砕スラグ粒子の表面をCaCO皮膜で覆うことにより、高炉風砕スラグに起因するpH上昇及びS溶出を抑制すると共に、高炉風砕スラグから溶出するケイ酸塩イオンの効果により、珪藻を増殖させて、磯やけ、赤潮及び青潮の発生を防止する水中又は水浜の環境改善方法が開示されている。
【0007】
更に、特許文献3には、高炉水砕スラグに、酸素含有ガスの吹き込み又は酸素含有ガスと水蒸気の吹き込みによるエージング処理を施すことにより、スラグ粒子表面のSを酸化すると共に、スラグ粒子表面にSの酸化物を取り込んだ中性化された水和物皮膜を形成し、沈設初期のpH上昇及びS溶出を抑制する方法が開示されている。
【0008】
更にまた、特許文献1及び3には、高炉徐冷スラグは、水域での硫化物の溶出量が多く、COD(Chemical Oxygen Demand:化学的酸素要求量)の上昇及びスラグ積層物の充填間隙中におけるHS濃度の上昇を招くという課題があり、水質及び底質の環境改善には利用し難いことが記載されている。
【0009】
一方、製鋼スラグは、製鉄業の転炉、溶銑予備処理炉、精錬炉及び電気炉等から発生するスラグであるが、特許文献1及び3には、製鋼スラグは、前述の高炉スラグと比較してケイ酸塩イオンの溶出作用が小さいため、珪藻の増殖効果等の効果は得られず、水中沈設用資材には適さないと記載されている。
【0010】
これに対して、製鋼スラグには鉄等のミネラルが含まれていることから、製鋼スラグを藻場材料として利用することが提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、従来、製鋼スラグの水中での利用に際し、周辺水域のpH上昇及びMg(OH)の析出に起因する白濁現象を抑制する技術として、製鋼スラグ粒子を外周から内部にわたって炭酸化することにより、その中に含まれるフリーなCaO及びフリーなMgOをCaCO及び炭酸マグネシウム(MgCO)として安定化する方法が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。
【0011】
【特許文献1】特開2004−104号公報
【特許文献2】特開2004−236546号公報
【特許文献3】特開2003−158946号公報
【特許文献4】特開2005−34140号公報
【特許文献5】特開2005−47789号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前述した従来技術には、以下のような課題がある。先ず、特許文献1に開示されているように、粒子表面をCaCO皮膜で覆った高炉水砕スラグを水質浄化に利用した場合、水中に沈設した初期段階ではSの溶出を抑制できるかもしれないが、長期的にみるとCaCO皮膜が剥離又は溶解等により消失し、その部位からSが溶出する虞がある。
【0013】
また、高炉風砕スラグはS溶出量が多いため、高炉風砕スラグを干潟、浅場、海域及び河川湖沼の底等の水中に設置すると、高炉風砕スラグからSが溶出し、青潮の原因になることが懸念されると共に、スラグ粒子周囲の水のpH、又はスラグ粒子間の間隙水のpHが上昇することが懸念される。そこで、特許文献2に記載の技術では、高炉風砕スラグからのSの溶出及びpH上昇に対して、高炉風砕スラグの粒子表面に炭酸カルシウム皮膜を形成しているが、この場合も、前述の特許文献1に記載の技術と同様に、長期的にはCaCO皮膜が剥離又は溶解等により消失し、その部位からSが溶出する虞がある。
【0014】
これに対して、製鋼スラグはSを殆ど含んでいないため、S溶出による青潮発生の虞がなく、製鋼スラグを干潟、浅場、海域及び河川湖沼の底等に設置し、水質及び底質の環境改善に利用しても上述の高炉スラグのような問題は生じない。
【0015】
本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、製鋼スラグを有効利用して、対象とする淡水及び海水の水質を改善し、磯やけ、赤潮及び青潮の発生を抑制することができる製鋼スラグを利用した水質改善方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、炭酸化処理した製鋼スラグによる水質の改善について試験検討を重ねた結果、以下の発明にて上記課題が解決される知見を得た。
【0017】
即ち、本発明に係る製鋼スラグを利用した水質改善方法は、炭酸化処理した製鋼スラグを水底又は水中に設置し、前記製鋼スラグの周囲に、380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域において連続した光強度を有し、且つ照度が100〜100000ルクスである光を照射することを特徴とする。
【0018】
また、この水質改善方法においては、少なくとも前記製鋼スラグからの距離が0〜10mの範囲に前記光を照射することが好ましい。なお、本発明における製鋼スラグからの距離とは、製鋼スラグがそのままの状態で設置されている場合は、製鋼スラグ自体の外面と水との境界部分からの距離を指し、製鋼スラグが袋等に充填されて設置されている場合は、袋、架台及びブロック等の表面とこれらに接する水との境界部分からの距離を指す。
【0019】
更に、380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域の少なくとも一方の領域に、光強度の極大値を有する光を照射することもできる。
【0020】
更にまた、前記光を照射する工程は、例えば、1日あたりの照射時間を6〜20時間として、少なくとも1ヶ月間行う。
【0021】
更にまた、前記製鋼スラグの周囲には、珪藻を付着させるための担体を設置してもよい。その場合、前記担体は、前記製鋼スラグから10m以内の範囲に設置することが好ましい。
【0022】
更にまた、本発明の水質改善方法は、例えば、前記製鋼スラグから10m以内の範囲の水について、溶存酸素濃度を0.2〜8mg/リットルにするか、又は、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を−150〜420mVにすることができる。
【0023】
更にまた、水中に導入した光ファイバにより、前記製鋼スラグの周囲に前記光を照射してもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、炭酸化処理した製鋼スラグを水中に設置し、この製鋼スラグの周囲に、380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域において連続した光強度を有し、且つ照度が100〜100000ルクスである光を照射しているため、炭酸化処理した製鋼スラグから水中へ溶出した炭酸を珪藻の光合成により生物固定できると共に、光合成により発生する酸素により水質改善することができ、更に、製鋼スラグの炭酸化処理には、製鉄工程等で発生する二酸化炭素を使用することもできるため、地球温暖化に関わるとされる二酸化炭素発生の対策技術と水質改善とを両立できると共に、資源として製鋼スラグを有効利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本実施形態における水底とは、海域又は河川湖沼の水底、埋立利用等のため水底土砂採取により生じた水底の凹地、常には水中に没していない潮間帯、岸辺及び干潟等をさす。
【0026】
図1及び図2本実施形態の水質改善方法を示す図であり、図1は製鋼スラグを海底に設置した場合を示し、図2は製鋼スラグを海中に設置した場合を示す。図1及び図2に示すように、本実施形態の水質改善方法は、炭酸化処理が施された製鋼スラグ2を水面1から水中に沈めて、水底3上に設置するか又は支持棒5により水中に保持し、その周囲に380〜450nm及び600〜680nmの2つの波長領域において連続した光強度を有し、且つ照度が100〜100000ルクスである光を照射する。その際、光の照射範囲4は、少なくとも製鋼スラグ2からの距離が0〜10mの範囲とすることが好ましい。
【0027】
先ず、本実施形態で使用する炭酸化処理が施された製鋼スラグ2について説明する。製鉄工程の転炉、溶銑予備処理炉及び二次精錬炉等から発生した製鋼スラグには、精錬処理中に完全に溶融しきれない未さい化とも称される水和性成分であるフリーなCaO(遊離CaO)及びフリーなMgO(遊離MgO)が含まれている。このため、水中で製鋼スラグを使用すると、このフリーなCaO及びフリーなMgOが溶出して、Ca(OH)及びMg(OH)が生成し、その周辺水域がアルカリ化するという問題がある。また、海中で使用する場合は、前述した周辺水域のアルカリ化によって、海水中に含まれるMgからMg(OH)が生成し、白濁が生じるという問題もある。そこで、本実施形態の水質改善方法においては、製鋼スラグに対して炭酸化処理を施すことにより、製鋼スラグに含まれるフリーなCaO及びフリーなMgOを夫々CaCO及びMgCOにして安定化させている。この炭酸化処理した製鋼スラグは、未処理の製鋼スラグと比較して、水中で使用した場合における水域のアルカリ化が弱くなると共に、白濁も発生しなくなる。
【0028】
製鋼スラグの炭酸化処理は、製鋼スラグを二酸化炭素又は炭酸含有水と接触させることにより実施することができる。具体的には、例えば、前述の特許文献5に記載されているように、製鋼スラグを大気圧下で、水蒸気雰囲気中でエージング処理を施した後、このエージング処理した製鋼スラグに、自由水が存在し始める水分量未満で、且つ、自由水が存在しない水分量よりも10質量%少ない値以上となるように水又は炭酸水を添加し、その後、相対湿度が75〜100%の炭酸ガスを含むガスを、−10℃以上、80℃以下の雰囲気中で6時間以上接触させる。ここで自由水について説明する。スラグ粒子に水を添加していくと、スラグ粒子が水を吸収し、この状態の水は拘束水と称する。そして、添加水量がある程度以上になると、もはやスラグ粒子が水を吸収しきれずに、自由に流動できる水がスラグ粒子の周囲に存在する状態になる。このような状態の水を自由水と称する。
【0029】
なお、二酸化炭素は、安価な工業用ガスとして入手及び使用が可能であるが、本実施形態で使用される製鋼スラグを炭酸化処理する際は、石灰を焼成するキルン工場の排ガス、加熱炉の排ガス又は発電工場の排ガスに含まれる二酸化炭素等も使用可能である。
【0030】
また、本実施形態で使用される製鋼スラグを炭酸化処理する方法は、上記方法に限定されるものではなく、例えば特開昭52−129672号公報に開示されているように、300〜800℃の温度条件下で二酸化炭素雰囲気中に保持する方法等でもよく、フリーのCaO及びフリーのMgOが炭酸化処理される方法であれば、どのような方法も適用可能である。但し、特開昭52−129672号公報に記載の方法は、処理温度を300℃以上の高温雰囲気にしなければならず、また粒子内部まで炭酸化させるには時間がかかるため、製鋼スラグを炭酸化処理する場合は、前述の特許文献5に開示されている方法を適用することが好ましい。
【0031】
上述の如く炭酸化処理された製鋼スラグは、その粒子の断面を、例えばEPMA(electron probe microanalyzer:電子線マイクロアナライザ)を使用して、炭素濃度の分布を観察することで、粒子の外周から内部にわたって、炭酸化処理がすすんだことを定性的に確認することができる。また、炭酸化処理が完了したことを定量的に確認する場合は、フリーのCaOの量を化学分析法(エチレングリコール抽出−原子吸光光度法)により分析し、炭酸化処理後の製鋼スラグ中に占めるフリーのCaOの割合が0.9質量%以下であれば、炭酸化処理が完了したとする。製鋼スラグにおけるフリーのMgO成分の存在量は、フリーのCaO成分の存在量に比べて1桁少ないため、フリーのCaO量が0.9質量%以下であれば、周辺水域のpHがアルカリ域まで上昇すること及び海域での白濁は起こらないようになる。
【0032】
更に、炭酸化に伴う製鋼スラグの質量増加を測定することにより、炭酸化処理が完了したことを確認することも可能である。例えば、炭酸化されたか否かを調べたい場合は、先ず、炭酸化処理後の製鋼スラグの質量を測定した後、その製鋼スラグに対して更に1時間の炭酸化処理を行ってその質量を測定する。そして、両者の質量の測定値を比較し、下記数式(1)で表されるスラグ質量の変化割合が0.1%未満であれば、炭酸化反応が飽和しており、製鋼スラグが炭酸化されたと確認できる。
【0033】
【数1】

【0034】
なお、本実施形態で使用する炭酸化処理した製鋼スラグは、上述した2種類の定量的な炭酸化処理の完了判断方法のどちらで判断されたものでもよく、いずれの方法で判断しても、水中でpHをアルカリ域に上昇させることや海域での白濁は起こらないようになる。
【0035】
次に、上述の如く炭酸化処理した製鋼スラグ2を、図1に示すように海域又は河川湖沼の水底、干潟及び浅場等の常には水中に没していない場所、若しくはこれらの場所の凹地等の水底3上、又は図2に示すように水中に設置する方法について説明する。
【0036】
炭酸化処理した製鋼スラグ2を水底3に設置する場合は、そのままの状態で海域又は河川湖沼の水底、干潟若しくは浅場に堆積させて設置することが可能であり、また、これらの場所の凹地を埋め戻すように堆積させて設置することも可能である。更に、炭酸化処理した製鋼スラグ2を、水の透過性がよい麻袋等の袋に入れて、海域又は河川湖沼の水底、干潟、浅場、これらの場所に形成させた凹地若しくは従来から存在している凹地を埋め戻すように堆積させて設置してもよい。
【0037】
一方、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水中に設置する場合は、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水の透過性がよい麻袋等の袋に入れ、この炭酸化処理した製鋼スラグ2が充填された袋を水中に固定したり、又はロープ等で袋をつないで吊るしたりすることにより、浮遊させて設置することも可能である。また、水の透過性がよい袋に入れた炭酸化処理した製鋼スラグ2を、袋ごとその周囲を例えばコンクリートブロック、鉄枠又は架台等に固定し、袋に入った製鋼スラグ2を周囲の交換可能な水と良好に接することができる状態に保持して使用することも可能である。
【0038】
本実施形態の水質改善方法においては、炭酸化処理した製鋼スラグを利用して水質改善行っているため、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水底3又は水中に設置することにより、炭酸化処理した製鋼スラグ2中にCaCO及びMgCOとして存在する炭酸を、炭酸イオン(CO−2)又は炭酸水素イオン(HCO)として水中へ溶出させることができると共に、炭酸化処理した製鋼スラグ2からケイ酸塩イオンも溶出させることができる。そして、海域及び河川湖沼水等に存在する珪藻は、ケイ素の生物固定化能力と、光合成による炭酸の生物固定能力とを有することが知られており、光の照射下において、この炭酸化処理した製鋼スラグ2から溶出した炭酸を取り込むことにより光合成が促進されると共に、ケイ酸塩イオンを取り込むことにより増殖が促進される。また、一般に、ヘドロが堆積した海域の底質等では、貧酸素状態になっていることが知られているが、光合成により発生する酸素は、貧酸素の水環境において、水質の溶存酸素濃度を高めると共に、水質の酸化還元電位を高める効果がある。
【0039】
上述の如く、本実施形態の水質改善方法によれば、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水底3又は水中に設置することにより、珪藻の光合成が促進されるため、ヘドロが堆積した貧酸素の底質環境でも、溶存酸素濃度が上昇して、貧酸素状態を改善することができる。貧酸素の水質において青潮の原因となっているHSを発生する活性がある硫酸塩還元菌は、水中の溶存酸素濃度又は酸化還元電位が高いと、その作用が阻害されるため、貧酸素状態を改善することは結果として青潮対策にもなる。
【0040】
また、本発明者等は、水中の溶存酸素濃度が0.2mg/リットル(L)以上、又は酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)が−150mV以上のときに、HSを発生する硫酸塩還元菌の作用が効果的に阻害され、青潮に対する水質改善効果が向上することを見出した。一方、通常、波浪等で空気に馴染んだ海水又は河川湖沼水の溶存酸素濃度を8mg/Lよりも高くしたり、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を420mVよりも高くしたりするためには、人為的な操作が必要であるため、コストがかかり非効率的である。よって、水中の溶存酸素濃度が0.2〜8mg/L、又は酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)位が−150〜420mVとなるように、水質を浄化することが望ましい。なお、処理対象水域の溶存酸素濃度又は酸化還元電位を上述の範囲内に維持する方法としては、海水がよどんで、嫌気性環境となることがないように、必要に応じて、空気又は酸素により海水を曝気したり、溶存酸素を多く含んだ海水を導入したりする方法等がある。
【0041】
また、前述の特許文献2に記載されているように、従来、珪藻の増殖が活発な場合には、赤潮の発生原因プランクトンである鞭毛藻類のシャットネラの増殖が抑制されることが報告されている。従って、本実施形態の水質改善方法においては、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水底3又は水中に設置することにより、珪藻の増殖を活発化させているため、赤潮の発生も防止することができる。
【0042】
更に、磯やけは石灰藻が異常繁殖して他の海藻等が生えなくなる現象であるが、例えば特開2002−238401公報には、珪藻が増殖するとこのような磯やけの原因となる石灰藻の増殖が抑制されることが記載されている。従って、本実施形態の水質改善方法のように、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水底3又は水中に設置すると、その周辺水域に珪藻が増殖するため、磯やけを防止することもできる。
【0043】
なお、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水底3又は水中に設置することにより、珪藻の増殖を促進させて水質の改善効果を高めるためには、珪藻を、設置した炭酸化処理した製鋼スラグの近傍に密集させることが望ましい。そこで、本発明者等が試験検討した結果、海水中等の実環境下では、製鋼スラグ2からの距離が10m以内の範囲であれば、製鋼スラグから溶出した炭酸イオン、炭酸水素イオン及びケイ酸塩イオンが珪藻の光合成に必要な量だけ存在していることがわかった。珪藻は、主として何かに付着して増殖するため、製鋼スラグ2からの距離が、主として0〜10mの範囲に珪藻を付着させるための担体を設置することにより、珪藻の増殖及び光合成を促進させることができる。この珪藻を付着させる担体としては、珪藻が付着できる材質であればどのようなものでもよく、例えば、セラミックス、ガラス、プラスチック、鉄及びステンレス等の材質を利用できる。また、担体の形状は、光合成に必要な光を珪藻が受光し易い形状であることが望ましく、例えば、図3に示すように、支持棒9に複数個の平板状の担体8を固定し、これらを水底3に沈設した製鋼スラグ7の上方の領域に、木の葉状に、互い違いに配置することもでき、これにより、効率的に太陽光6を受光することができる。
【0044】
図4は本実施形態の水質改善方法において、製鋼スラグに照射する光の波長を示す図である。図4に示すように、製鋼スラグの周囲に照射する光は、380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域で連続スペクトルを有し、光強度が0にならない光を照射することが好ましい。
【0045】
これらの2つの波長領域は、珪藻の光合成で使用されるクロロフィルa、クロロフィルc1及びクロロフィルc2の吸収波長領域であり、この波長範囲から外れると、照射された光がクロロフィルa、クロロフィルc1及びクロロフィルc2による珪藻の光合成に利用されなくなるため、光を照射しても非効率となる。従って、製鋼スラグの周囲に照射する光を、380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域に光強度の極大を有する光とすることにより、水質改善効率を向上させることができる。
【0046】
また、低コストで光合成を良好に行うため、製鋼スラグの周囲に照射する光の照度は、100〜100000ルクスとする。照度が100ルクス未満の場合、光が不足して、珪藻による光合成の効率が低下する。本発明者等が、100ルクス未満の光を毎日18時間照射して、珪藻の培養を試みたところ、珪藻は良好には増殖せず、珪藻の光合成による水中の溶存酸素濃度の増加効果も確認できなかった。また、100000ルクスを超える光を照射しても、珪藻の繁殖は殆ど100000ルクス以下と変わらないことが判った。更には、100000ルクスは地表に直射日光として照射される太陽光の照度である。水中において、これよりも強い照度の光を照射するためには、太陽光に加えて、強力な光を照射できる光源が必要となり、設備及び電力コストがかかってしまう。従って、製鋼スラグの周囲に照射する光の照度は100〜100000ルクスとする。
【0047】
そして、本実施形態の水質改善方法においては、上述した条件を満たす波長及び照度の光を、少なくとも1ヶ月間、毎日、6〜20時間/日照射することが望ましい。光の照射時間を1日あたり6時間以上とすることで、珪藻の光合成を促進できる。一方、光の照射時間が1日あたり6時間未満の場合には、光合成が良好に進まないことがある。また、光の照射時間が1日あたり20時間を超える場合には、光合成の暗反応が進まなくなり、非効率となる場合がある。よって、製鋼スラグの周囲への光の照射時間は1日あたり6〜20時間とすることが望ましい。ただし、照度が1000ルクス未満の光の場合、光の照射時間が1日あたり10時間未満では、光合成の効率が低くなることがあるため、光の照射時間は10〜20時間とすることが、より好ましい。
【0048】
なお、炭酸化処理した製鋼スラグから溶出した炭酸イオン、炭酸水素イオン及びケイ酸塩イオンが、海域又は河川湖沼水中において珪藻増殖に寄与する実効濃度から、光の照射範囲は、少なくとも製鋼スラグからの距離が0〜10mの範囲とすることが望ましい。勿論、製鋼スラグからの距離が10mを超える範囲にまで光を照射しても問題はないが、その場合、珪藻増殖及び光合成促進が活発に行われる範囲から外れるため、効率が低下することがある。なお、本実施形態における製鋼スラグからの距離とは、製鋼スラグがそのままの状態で設置されている場合は、製鋼スラグ自体の外面と水との境界部分からの距離のことであり、製鋼スラグが袋等に充填されて設置されている場合は、袋、架台及びブロック等の表面とこれらに接する水との境界部分からの距離のことである。
【0049】
次に、光の照射方法であるが、太陽光及び太陽光の水中透過光が上記条件を満たす場合は、そのまま利用することがコスト的に有利である。ただし、例えば、水深が10m以上である水中又は水底に製鋼スラグを設置した場合には、太陽の透過光では照度が不足する可能性がある。この場合は、光ファイバにより上記条件を満足するような太陽光又はその他の光源からの光を、水中又は水底に導いて、光合成に必要な照度の光を照射することも可能である。また、反射鏡レンズを使用して太陽光又はその他の光源からの光を反射したり、更に集光して、スラグを設置した位置及び周辺に光を照射したりすることも可能である。
【0050】
なお、本実施形態の水質改善方法において使用する炭酸化処理した製鋼スラグは、粒径が1〜40mmであることが望ましい。製鋼スラグの粒径が1mm未満の場合、スラグを単独で水底に堆積させる場合等に、水流により巻き上げられ、懸濁体となる可能性がある。また、袋等に入れて使用する場合も、袋を透過して懸濁体として外部に出てしまう可能性もある。更に、製鋼スラグの粒径が1mm未満の場合、粒子が固結しやすくなるという問題点もある。一方、製鋼スラグの粒径が40mmを超えると、スラグ体積あたりの表面積の割合が低くなることから、表面から炭酸イオン及びケイ酸塩イオンが溶出することによる環境改善効果が相対的に低下してしまう。以上の理由から、炭酸化処理した製鋼スラグの粒径は、1〜40mmであることが望ましい。
【0051】
本実施形態の水質改善方法は、海域又は河川湖沼等の淡水域での水質改善に適用することができ、特に、海域での海水の水質改善及び青潮防止に好適である。また、本実施形態の水質改善方法は、炭酸化処理した製鋼スラグを水中に設置し、この製鋼スラグの周囲に、380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域において連続した光強度を有し、且つ照度が100〜100000ルクスである光を照射しているため、炭酸化処理した製鋼スラグから水中へ溶出した炭酸を珪藻の光合成により生物固定できると共に、光合成により発生する酸素により水質改善することができる。更に、製鋼スラグの炭酸化処理には、製鉄工程等で発生する二酸化炭素を使用することもできるため、地球温暖化に関わるとされる二酸化炭素発生の対策技術としても有効である。このように、本実施形態の水質改善方法は、地球温暖化防止と水質改善とを両立できると共に、資源として製鋼スラグを有効利用できる優れた方法である。
【実施例1】
【0052】
以下、本発明の実施例について説明する。先ず、本発明の実施例1として、炭酸化処理した製鋼スラグをそのままの状態で海底に設置して、その周辺水域の水質改善を行った。図5は本実施例の水質改善方法を示す図である。本実施例においては、製鉄工程の転炉から回収した製鋼スラグを、大気圧下で、100℃の水蒸気雰囲気中で36時間エージング処理を施した後、このエージング処理した製鋼スラグに対して水を全質量あたりの割合が15質量%になるように添加したものを容器に入れ、市販の1級ボンベ由来の相対湿度を100%にした炭酸ガスを、20℃の温度条件下で24時間接触させることにより、炭酸化処理が施された製鋼スラグを作製した。この炭酸化処理前後の製鋼スラグの組成を下記表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
なお、上記表1に示す製鋼スラグの組成の分析は、鉄鋼に関するJIS分析法に準じて実施した。上記表1に示した結果は、元素毎に分析した結果を酸化物に換算した値である。具体的には、全鉄は、三塩化チタン還元―二クロム酸カリウム滴定法により、FeOを分析し、Feを計算により算出した。また、CaO、SiO、MnO及びMgOは、ICP発光分光分析法により分析した。更に、Al及びPは、ガラスビード蛍光X線分析法で分析した。更にまた、f−CaOは、エチレングリコール抽出−原子吸光光度法で夫々分析した。なお、上記表1においては、スラグ中のCa分は全てCaOとして表示し、スラグ中のMg分は全てMgOとして表示した。また、f−CaOは、CaOの内数である。従って、CaOの45.2質量%にf−CaOの3.5質量%は含まれている。
【0055】
上記表1に示すように、炭酸化処理を施すことにより、製鋼スラグ中のフリーのCaO(f−CaO)が0.9質量%以下に低下して、製鋼スラグが炭酸化されたことが確認できた。また、この炭酸化処理した製鋼スラグを、一部採取して、質量測定後、更に1時間炭酸化処理を行い、再び質量を測定したところ、上記数式(1)で表されるスラグ質量の変化割合は0.05%であり、0.1%未満となっていた。以上の結果より、炭酸化処理後の製鋼スラグは、炭酸化反応が飽和しており、炭酸化された製鋼スラグになっていることを確認できた。
【0056】
次に、上述の如く炭酸化処理した製鋼スラグを、大気中で、ふるいによって粒径が5〜20mmのものを分級し、回収した。そして、図5に示すように、分級後の製鋼スラグ7を1000kg用意し、ヘドロが堆積した水深10mの海底3aの凹地14に、厚さが10cmとなるように堆積させ、試験開始前、及び製鋼スラグ7の設置から1ヵ月後、3ヵ月後、6ヶ月後の周辺水域の水質を調べた。なお、この炭酸化処理した製鋼スラグ7の周囲5m以内の範囲には、380〜700nmの波長領域で光強度が0にならない連続スペクトルを有する太陽光6の水中透過光が照射されており、製鋼スラグ7の上方に配置した水中照度計13でその照度をモニタリングしたところ、2000ルクス以上の光が毎日8〜18時間照射されていた。また、水質測定については、図5に示すA地点、即ち、製鋼スラグ7の表面から1m程度上方の地点に、溶存酸素濃度センサー10及び酸化還元電位センサー11を設置し、これらのセンサーによって夫々溶存酸素濃度(DO;Dissolved Oxygen)及び酸化還元電位(OPR;Oxidation-Reduction Potential)(銀/塩化銀電極基準)を測定した。また、採水器12により、図5に示すA地点の水を採取し、その中に含まれる珪藻量を測定した。珪藻量の測定は顕微鏡観察により行い、1リットルあたりの珪藻(細胞)数を求めた。以上の結果を下記表2にまとめて示す。
【0057】
【表2】

【0058】
上記表1に示すように、本実施例においては、炭酸化処理した製鋼スラグ7を設置後、珪藻量の増加がみられ、また溶存酸素濃度(DO)及び酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)の上昇がみられた。そして、試験開始3ヶ月の時点では、溶存酸素濃度(DO)が0.2mg/L以上、酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)が−150mV以上となり、貧酸素で還元的な硫酸塩還元菌が活動する条件から脱却して、水質が環境改善されたことが確認できた。また、設置した製鋼スラグ7の周囲では、pHの上昇及び白濁現象は見られず、設置から1年経過しても、磯焼け、青潮及び赤潮は生じなかった。
【実施例2】
【0059】
次に、本発明の実施例2として、炭酸化処理した製鋼スラグを麻袋に充填したものを海底に設置し、その周辺水域の水質改善を行った。図6は本実施例の水質改善方法を示す図である。本実施例においては、製鉄工程の転炉から回収した製鋼スラグを、大気圧下で、100℃の水蒸気雰囲気中で36時間エージング処理を施した後、このエージング処理した製鋼スラグに対して水を全質量あたりの割合が15質量%になるように添加したものを容器に入れ、相対湿度を100%にした石灰焼成用キルン由来の炭酸ガス含有の排ガスに20℃の温度条件下で12時間接触させることにより、炭酸化処理が施された製鋼スラグを作製した。次に、この炭酸化処理した製鋼スラグを、大気中で、ふるいによって粒径が1〜30mmのものを分級し、回収した。
【0060】
そして、分級後の製鋼スラグ300kgを100kgずつ水透過性のよい麻袋に入れ、この麻袋に充填された製鋼スラグ2を、図6に示すように、ヘドロが堆積した水深10mの海底3aに設置し、試験開始前、及び製鋼スラグ2の設置から1ヵ月後、3ヵ月後の周辺水域の水質を調べた。なお、この炭酸化処理した製鋼スラグ2の周囲5m以内の範囲には、380〜700nmの波長領域で光強度が0にならない連続スペクトルを有する太陽光6の水中透過光が照射されており、水中照度計13でその照度をモニタリングしたところ、1500ルクス以上の光が毎日6〜16時間照射されていた。また、水質測定については、図6に示すB地点、即ち、海底3aの表層部に、溶存酸素濃度センサー10及び酸化還元電位センサー11を設置し、これらのセンサーによって夫々溶存酸素濃度(DO)及び酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)を測定した。更に、採泥器15により、図6に示すB地点の底泥を採取し、その中に含まれる硫酸塩還元菌の数をMPN(Most Probable Number)法により調べた。更にまた、採取した底泥に含まれる水の硫化物イオン濃度を測定した。以上の結果を下記表3にまとめて示す。
【0061】
【表3】

【0062】
上記表3に示すように、炭酸化処理した製鋼スラグ2を設置した後、溶存酸素濃度(DO)、酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)の上昇がみられた。そして、試験開始から3ヶ月の時点では、溶存酸素濃度(DO)が0.2mg/L以上、酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)が−150mV以上となり、貧酸素で還元的な条件から脱却していることが確認できた。また、硫酸塩還元菌数が減少すると共に、その活性で生じる硫化物イオンの発生も抑制され、硫化物イオン濃度も減少した。以上の結果より、本実施例の水質改善方法は、周辺水域を貧酸素で還元的な条件から脱却させて、青潮の発生原因として知られる嫌気環境で増殖する硫酸塩還元菌の増殖を抑えることができると共に、硫化物イオン濃度を減少させることができ、海底の水質改善に効果があることが確認された。
【実施例3】
【0063】
次に、本発明の実施例3として、炭酸化処理した製鋼スラグを麻袋に充填したものを暗きょとなっている海底に設置し、その周辺水域の水質改善を行った。図7は本実施例の水質改善方法を示す図である。本実施例においては、製鉄工程の転炉から回収した製鋼スラグを、大気圧下で、100℃の水蒸気雰囲気中で36時間エージング処理を施した後、このエージング処理した製鋼スラグに対して水を全質量あたりの割合が15質量%になるように添加したものを容器に入れ、市販の1級ボンベ由来の相対湿度を100%にした炭酸ガスを20℃の温度条件下で12時間接触させることにより、炭酸化処理が施された製鋼スラグを作製した。そして、この炭酸化処理した製鋼スラグを、大気中で、ふるいによって粒径が5〜40mmのものを分級し、回収して使用した。
【0064】
次に、分級後の製鋼スラグ400kgを100kgずつ水透過性のよい麻袋に入れ、この麻袋に充填された4袋の製鋼スラグ2を、図7に示すように、上部に構造物20があり、暗きょとなっているヘドロが堆積した水深3mの海底3aの上方の水中に吊るして設置した。また、この麻袋に充填された製鋼スラグ2を設置した位置から10m以内の範囲に、セラミック製の珪藻付着用担体8を設置した。
【0065】
更に、光源16から出射された380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域で光強度が0にならず、且つ430nmと650nmとに光強度の極大を持つ光19を、レンズ17aにより集光し、太陽光を透過する6バンドル光ファイバーケーブル18を介して水中へ導入した後、レンズ17bによりこの光19を、麻袋に充填された製鋼スラグ2からの距離が0〜10mの範囲、即ち、珪藻付着用担体8を設置した範囲に照射した。具体的には、光19を、照度1000ルクス以上で、1日あたり6〜10時間、毎日照射し、試験開始前、及び製鋼スラグ2の設置から1ヵ月後、3ヵ月後の周辺水域の水質を調べた。水質測定は、溶存酸素濃度センサー10及び酸化還元電位センサー11を設置し、これらのセンサーによって夫々溶存酸素濃度(DO)及び酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)を測定した。また、図7に示すC地点の水を採取し、顕微鏡観察により、その中に含まれる珪藻数をカウントすることにより、珪藻量を調べた。以上の結果を下記表4にまとめて示す。
【0066】
【表4】

【0067】
上記表4に示すように、炭酸化処理した製鋼スラグ2を設置した後、珪藻量に増加が見られ、更に、溶存酸素濃度(DO)及び酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)にも上昇がみられた。そして、試験開始から1ヶ月の時点で溶存酸素濃度(DO)が0.2mg/L以上、酸化還元電位(ORP)(銀/塩化銀電極基準)が−150mV以上となり、製鋼スラグ2の周囲の水は、貧酸素で還元的な条件から好気的な環境に環境改善していることが確認できた。
【実施例4】
【0068】
次に、本発明の実施例4として、炭酸化処理した製鋼スラグを麻袋に充填したものを海底に設置し、炭酸イオン及びケイ素の海水への溶出状況を調べた。具体的には、製鉄工程の溶銑予備処理炉から回収した製鋼スラグを、大気圧下で、100℃の水蒸気雰囲気中で36時間エージング処理を施した後、このエージング処理した製鋼スラグに対して水を全質量あたりの割合が15質量%になるように添加したものを容器に入れ、石灰焼成用キルン由来の炭酸ガス含有の排ガスを相対湿度100%にした排ガスに40℃の温度条件下で12時間接触させることにより、炭酸化処理した製鋼スラグを作製した。そして、この炭酸化処理した製鋼スラグを、大気中で、ふるいによって粒径が5〜40mmのものを分級し、回収して使用した。次に、この炭酸化処理した製鋼スラグ100kgを入れた麻袋を、深さ10mの海底に沈設して、その1週間経過後に、製鋼スラグ(麻袋の表面)から、5m、10m及び15m離れた位置で水を採取し、夫々炭酸水素イオン(HCO)濃度、炭酸イオン(CO-2)濃度及びケイ素(Si)濃度を測定した。その際、HCO濃度及びCO-2濃度は、JIS K0101 25.2に規定されている赤外線分析法により測定し、Si濃度は、鉱泉分析法指針 7−31に規定されているモリブデンイエロー法による比色法により測定した。以上の測定結果を下記表5にまとめて示す。なお、下記表5には、比較のために、同様の方法で測定した製鋼スラグ設置前の海水のHCO濃度、CO-2濃度及びSi濃度を併せて示す。
【0069】
【表5】

【0070】
上記表5に示すように、製鋼スラグ(麻袋の表面)から10mまでの範囲では、製鋼スラグ設置前の海水における測定値に比べて、HCO濃度及びSiの濃度が上昇しており、本実施例の水処理方法では、炭酸化処理した製鋼スラグから10m以内の範囲で、HCO及びSiの溶出効果があることが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本実施形態の水質改善方法を示す図であり、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水底に設置した場合を示す。
【図2】本実施形態の水質改善方法を示す図であり、炭酸化処理した製鋼スラグ2を水中に設置した場合を示す。
【図3】本実施形態の水質改善方法において、珪藻付着用担体8の配置例を示す図である。
【図4】本実施形態の水質改善方法において、製鋼スラグに照射する光の波長を示す図である。
【図5】本発明の実施例1の水質改善方法を示す図である。
【図6】本発明の実施例2の水質改善方法を示す図である。
【図7】本発明の実施例3の水質改善方法を示す図である。
【符号の説明】
【0072】
1 水面
2、7 炭酸化処理した製鋼スラグ
3 水底
3a 海底
4 光の照射範囲
5 支持棒
6 太陽光
8 珪藻付着用担体
9 珪藻付着用担体支持棒
10 溶存酸素濃度センサー
11 酸化還元電位センサー
12 採水器
13 水中照度計
14 凹地
15 採泥器
16 光源
17a,17b レンズ
18 光ファイバーケーブル
19 光
20 構造物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸化処理した製鋼スラグを水底又は水中に設置し、
前記製鋼スラグの周囲に、380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域において連続した光強度を有し、且つ照度が100〜100000ルクスである光を照射することを特徴とする製鋼スラグを利用した水質改善方法。
【請求項2】
少なくとも前記製鋼スラグからの距離が0〜10mの範囲に前記光を照射することを特徴とする請求項1に記載の製鋼スラグを利用した水質改善方法。
【請求項3】
380〜450nmの波長領域及び600〜680nmの波長領域の少なくとも一方の領域に、光強度の極大値を有する光を照射することを特徴とする請求項1又は2に記載の製鋼スラグを利用した水質改善方法。
【請求項4】
前記光を照射する工程は、1日あたりの照射時間を6〜20時間として、少なくとも1ヶ月の間、毎日行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の製鋼スラグを利用した水質改善方法。
【請求項5】
前記製鋼スラグの周囲に、珪藻を付着させるための担体を設置することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の製鋼スラグを利用した水質改善方法。
【請求項6】
前記担体を、前記製鋼スラグから10m以内の位置に設置することを特徴とする請求項5に記載の製鋼スラグを利用した水質改善方法。
【請求項7】
前記製鋼スラグから10m以内の範囲の水について、溶存酸素濃度を0.2〜8mg/リットルにするか、又は、酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を−150〜420mVにすること特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の製鋼スラグを利用した水質改善方法。
【請求項8】
水中に導入した光ファイバにより、前記製鋼スラグの周囲に前記光を照射することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の製鋼スラグを利用した水質改善方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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