説明

製錬ダストからの不純物金属の分離方法

【課題】 製錬ダスト中に含有される不純物金属、特に難溶解性の形態で存在するカドミウムを、簡単な工程により分離して回収する方法を提供する。
【解決手段】 製錬ダストを水又は酸性溶液中でスラリーとし、スラリーに酸素又は酸素含有気体を気泡径100μm以下に微小気泡にして吹き込み、難溶解性カドミウムを酸化浸出する。スラリーのpHを5以下に制御すれば、カドミウムの浸出と同時に、ダスト中に含有されるセレン及びテルルを浮遊させ、高濃度に濃縮した浮遊物として分離することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製錬ダスト中に含有されるカドミウム、セレン、テルルなどの不純物金属を分離回収する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カドミウムはニッケルカドミウム電池の負極材として使用されるなど、電子エレクトロニクス材料として重要な有用金属のひとつである。一方、近年においては、有価金属としての性質よりも有害金属としての性質が強く認識され、製品中あるいは環境中へのカドミウムの拡散を防止する方向に進んでいる。
【0003】
非鉄金属の各種製錬工程において発生する製錬ダストは、硫化物を酸化焙焼したときに揮発又は飛散するものを回収したものであり、鉛を主成分とするが、カドミウムやタリウム、セレン、テルルなど様々な不純物が含有されていることが多い。また、製錬ダスト中のカドミウムは、その一部は酸化物や硫酸塩として存在するが、多くは硫化物やセレン化物の形態で存在している。これら製錬ダスト中のカドミウムについても、分離回収して除去することが求められている。
【0004】
これらのダストからカドミウムを浸出するには、一般には硫酸を用いるが、カドミウムの浸出率は低く、効率的な浸出は不可能である。その理由は、ダスト中に含まれているカドミウムの形態が酸化物や硫酸塩であれば酸で容易に溶解することができるが、実際にはカドミウムは化学的に安定で難溶性の硫化物やセレン化物で存在しており、低濃度の酸では溶解できないからである。そのため高濃度の酸を使用し、カドミウムの浸出率を向上させることも試みられているが、高浸出率を得ることは難しい。
【0005】
過酸化水素や過マンガン酸カリウムを用いて浸出することも可能であるが、処理に要する試薬は高価であるため現実的ではない。また、オートクレーブを使用して、酸化雰囲気及び加圧下で浸出する方法もある。加圧浸出することによりカドミウムを高浸出率で溶解させることは可能であるが、酸溶液での加圧浸出となるため、耐食性の装置が必要となるうえ、処理費も高くなるなどの欠点を有していする。
【0006】
また、前処理として硫酸化焙焼を行うことにより、カドミウムを水又は希酸に可溶な形態に変えた後、浸出する方法もある。しかし、この方法においても、完全なカドミウムの浸出は困難であり、また焙焼という新たな工程が必要となるため有利でない。更に、特開平9−87763号公報には、塩素ガスを用いたカドミウムの浸出方法が提案されているが、排ガス中や浸出液中に残る塩素を処理しなければならない等の問題がある。
【特許文献1】特開平9−87763号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、製錬ダスト中に含有される不純物金属、特に難溶解性の形態で存在するカドミウムを、簡単な工程により分離して回収する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明が提供する製錬ダストからの不純物金属の分離方法は、製錬ダストを水又は酸性溶液中でスラリーとし、スラリーに酸素又は酸素含有気体を吹き込むことにより、製錬ダスト中に含有される難溶解性カドミウムを浸出することを特徴とするものである。
【0009】
上記本発明による製錬ダストからの不純物金属の分離方法においては、前記酸素又は酸素含有気体を気泡径100μm以下に微小気泡化して吹き込むことにより、難溶解性カドミウムを更に効率的に酸化して浸出することができる。
【0010】
また、上記本発明による製錬ダストからの不純物金属の分離方法によれば、前記カドミウムの浸出と同時に、ダスト中に含有されるセレン及びテルルを浮遊させて、高濃度に濃縮した浮遊物として分離することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、非鉄金属の製錬工程で発生する製錬ダスト中に含有される不純物金属、特に有害とされ且つ難溶解性の形態で存在するカドミウムを、簡単に浸出して効率よく分離回収することができる。また、カドミウムと共に、タリウムの浸出による分離回収も可能であり、セレン及びテルルも浮遊物として分離回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、カドミウム(Cd)を含有する製錬ダストを水又は酸性溶液でスラリー化し、得られたスラリーに酸素又は酸素含有気体を吹き込みながら、カドミウムなどの不純物金属を浸出する。製錬ダストに含有されているカドミウムの多くは、硫化物であって難溶解性であるため、酸化無しでは浸出することが難しい。また、製錬ダスト中にタリウム(Tl)が含有されていれば、カドミウムの酸化浸出と同時に、タリウムも同様に酸化浸出される。
【0013】
上記難溶解性のカドミウムが浸出される反応は、例えばカドミウムの硫化物の場合、下記化学式に示すようなものである。即ち、難溶解性であるカドミウムの硫化物は、スラリーに吹き込まれた酸素又は空気のような酸素含有気体により酸化され、Cd2+の形となってカドミウムが可溶化される。
[化学式]
CdS+2O → Cd2++SO2−
【0014】
酸素又は酸素含有気体は、安価で取り扱いも容易であり、しかも塩素浸出の場合の塩素ように、排ガス中や浸出液中に塩素のような別途処理を必要とする成分を残さない。酸素又は酸素含有気体としては、純酸素、酸素富化空気、通常の空気などを使用することができ、当然オゾンでも同様の効果が期待できる。これらの気体は、スラリー中に吹き込むことにより液体に溶解して溶存酸素となり、上記したカドミウムなどの酸化浸出に寄与する。
【0015】
上記酸素又は酸素含有気体を吹き込む方法は、パイプからの吹き込みのほか、ボールフィルターのような多孔質焼結体(シンター)など、一般的な方法を用いることが可能である。酸素又は酸素含有気体は微小気泡として吹き込むことが好ましく、特に気泡発生時の気泡径が100μm以下の微小気泡が一層好ましい。このような微小気泡は効率よく溶存酸素として溶解され、通常のパイプやボールフィルターを用いた場合に比べて、カドミウムの酸化浸出など不純物金属の分離を更に効率的に行うことができる。
【0016】
気泡径が100μm以下の微小気泡は、剪断場において気泡を細分化する方法、例えば、気液2相の流体を高速旋回させることで起こる遠向心分離を応用することにより発生させることができる。更に具体的には、例えば、(有)バブルタンクから市販されている微小気泡発生装置(商品名:ミクロバブル発生器、型式BT−50F)を使用して、まず、装置の中央部とその周辺部にそれぞれ旋回する気体部と液体部を形成させ、次に、その旋回気体部を装置出口付近の圧力制御によって切断・粉砕することにより、気泡径が100μm以下の微小気泡を発生させることが可能である。
【0017】
不純物金属の浸出時の温度は特に限定されるものではなく、室温でも効率よく浸出できるが、高温ほど浸出率が増加する。そのため、40℃以上の温度で浸出することが好ましいが、浸出温度の上限は水の沸点の100℃である。また、浸出時のpHは5以下が望ましく、5を越えるpHでは一旦浸出されたカドミウムが加水分解を受け、水酸化物として再び沈降するため浸出率が低下する。尚、酸性溶液として硫酸を使用すれば、ダスト中の鉛は難溶性の硫酸鉛として固定されるため、鉛の浸出は抑制され、カドミウムやタリウムなど不純物金属のみの浸出が可能である。
【0018】
浸出されたカドミウムなどの不純物金属は、イオン交換樹脂を用いて回収する方法や、炭酸ナトリウムや水酸化ナトリウムなどの中和剤を添加して塩基性炭酸塩や水酸化物と刷る方法により、浸出液から分離回収することができる。また、亜鉛メタル粉によるセメンテーション反応を利用すれば、カドミウムメタル等として回収することもできる。
【0019】
更に、上記した本発明方法によれば、セレンやテルルを含有する製錬ダストから、セレン及びテルルを濃縮された浮遊物として分離回収することができる。ダスト中のセレン、テルルは疎水性化合物を形成していると思われ、吹き込まれた気泡に吸着して浮遊選別される。この場合、ある程度小さい気泡を用いると効率的であるため、微小気泡の吹き込みや、気泡剤の添加が有効である。
【0020】
セレン及びテルルの浮遊選別時の温度についても、特に限定されるものではなく、室温で効率のよい分離回収が可能である。また、浮遊選別時のpHや水溶液についても、特に限定されるのもではない。特に、酸性溶液を用いて、浮遊選別時のスラリーのpHを5以下に制御すれば、カドミウムの浸出とセレン及びテルルの浮遊選別とを同時に行うことが可能である。
【実施例】
【0021】
以下の各実施例において、使用した製錬ダストの主な成分の品位は、Pb:73.5%、Zn:1.5%、Cd(溶解性、難溶解性共に含む):2.0%、Se:0.6%、Tl:2.3%、Te:0.6%であった。各成分の分析は蛍光X線分析装置を用いて行ったが、その特性上酸素は測定できないため分析値から除外されている。
【0022】
[実施例1]
上記製錬ダストを希硫酸でスラリー(濃度150g/l)とし、そのpHを硫酸により1.5に調整した。このスラリー(50℃)にボールフィルター(規格503G、気孔径100〜120μm)を用いて空気を吹き込み、Cd量に対する酸素当量が5となるまでCdの酸化浸出を行った。
【0023】
その結果、反応後のダスト品位は、Pb:84.7%、Zn:0.1%、Cd:0.3%、Se:0.6%、Tl:0.3%、Te:0.7%であった。スラリーへの空気の吹き込みによって、製錬ダストから難溶解性のCd及びTlを簡単に浸出することができた。
【0024】
[実施例2]
上記製錬ダストを希硫酸でスラリー(濃度150g/l)とし、そのpHを硫酸により1.5に調整した。このスラリー(50℃)にボールフィルター(規格503G、気孔径100〜120μm)を用いて純酸素を吹き込み、Cd量に対する酸素当量が2.7となるまでCdの酸化浸出を行った。
【0025】
その結果、反応後のダスト品位は、Pb:85.5%、Zn:0.1%、Cd:0.3%、Se:0.7%、Tl:0.3%、Te:0.7%であった。スラリーへの純酸素の吹き込みによって、難溶解性のCd及びTlが更に効率よく浸出されたことが分る。
【0026】
[実施例3]
上記製錬ダストを希硫酸でスラリー(濃度150g/l)とし、そのpHを硫酸により1.5に調整した。このスラリー(50℃)に(有)バブルタンク製の微小気泡発生装置(商品名:ミクロバブル発生器、型式BT−50F)を用いて純酸素を吹き込み、Cd量に対する酸素当量が2.7となるまでCdの酸化浸出を行った。
【0027】
その結果、反応後のダスト品位(浮遊物を除く)は、Pb:86.2%、Zn:0.1%、Cd:0.2%、Se:0.3%、Tl:0.1%、Te:0.4%であった。また、反応後の浮遊物品位は、Pb:54.7%、Zn:0.8%、Cd:1.3%、Se:15.5%、Tl:0.1%、Te:14.4%であった。
【0028】
これらの結果から、純酸素を気泡径100μm以下の微小気泡として吹き込むことにより、空気や純酸素をボールフィルターで吹き込んだ場合よりも酸素当量が少ないにもかかわらず、難溶解性のCd及びTlが一層効率よく浸出されたことが分る。また、反応後の浮遊物中にはSe及びTeが分離され、効率よく回収することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製錬ダストを水又は酸性溶液中でスラリーとし、スラリーに酸素又は酸素含有気体を吹き込むことにより、製錬ダスト中に含有される難溶解性カドミウムを浸出することを特徴とする製錬ダストからの不純物金属の分離方法。
【請求項2】
前記酸素又は酸素含有気体を気泡径100μm以下の微小気泡として吹き込むことを特徴とする、請求項1に記載の製錬ダストからの不純物金属の分離方法。
【請求項3】
前記カドミウムの浸出と同時に、ダスト中に含有されるセレン及びテルルを浮遊物として分離することを特徴とする、請求項1又は2に記載の製錬ダストからの不純物金属の分離方法。