説明

複合シート

【課題】 薄くて、可撓性及び機械的強度に優れる、繊維シートと樹脂とが均一に複合した、均一な物理的性質を有する複合シートを提供すること。
【解決手段】 本発明の複合シートは、有機成分からなる平均繊維径が1μm以下の有機極細繊維からなる平均流量孔径が2μm以下の繊維シートと樹脂とを含み、前記繊維シートと樹脂とが混在する領域を備えている複合シートであり、前記有機極細繊維が連続繊維からなり、しかも前記繊維シートの目付が1〜100g/mである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維シートと樹脂とを含む複合シートに関する。より具体的には、薄く、可撓性及び引張り強度等の機械的強度の優れる複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から繊維シートと樹脂とを含む複合シートが知られている。例えば、ガラス不織布や芳香族ポリアミド不織布などの繊維シートと熱硬化性樹脂とからなる複合シートは回路基板用基材として用いることができる(特許文献1)。また、網状、織布状、不織布状、フィブリル状の繊維集合体とイオン伝導樹脂とが膜状に複合された複合シートはイオン伝導膜として用いることができる(特許文献2)。他にも、ネット、織物、不織布又は多孔質膜などの多孔質シートとイオン交換樹脂とが複合化された複合シートはイオン交換膜として用いることができる(特許文献3)。
【0003】
しかしながら、従来の複合シートは無機系繊維からなる繊維シートを使用しているために可撓性に乏しかった(特許文献1)。また、従来の繊維シートを構成する繊維は太く、また単繊維が細い場合でもシート状態では繊維が束状となり実質上太い繊維と同じになり、繊維シート自体が厚いため、薄くて機械的強度の優れるものではなく、しかも繊維シート中の繊維の分布状態が均一でないため、複合が均一に行われなかったり、複合シートの透光性、導電あるいは絶縁性さらにはその他種々の物理的性質が均一でないという問題があった(特許文献2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−193358号公報(請求項1、段落番号0038〜0039など)
【特許文献2】特開2001−247741号公報(請求項1、請求項2など)
【特許文献3】特開2000−277131号公報(請求項4など)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述のような問題点を解決するためになされたもので、薄くて、可撓性及び機械的強度に優れる、繊維シートと樹脂とが均一に複合した、均一な物理的性質を有する複合シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の請求項1にかかる発明は、「有機成分からなる平均繊維径が1μm以下の有機極細繊維からなる平均流量孔径が2μm以下の繊維シートと樹脂とを含み、前記繊維シートと樹脂とが混在する領域を備えている複合シートであり、前記有機極細繊維が連続繊維からなり、しかも前記繊維シートの目付が1〜100g/mであることを特徴とする複合シート。」である。
【0007】
有機極細繊維が静電紡糸法により製造したものである複合シートが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明の請求項1にかかる発明によれば、繊維シートを構成する有機極細繊維が有機成分からなり、しかも平均繊維径が1μm以下と細く、平均流量孔径が2μm以下と有機極細繊維が均一に分散した状態にあるため、この繊維シートと樹脂とが混在する領域を備えた複合シートは薄く、可撓性及び機械的強度に優れ、しかも均一に複合した、均一な物理的性質を有するものである。
【0009】
また、有機極細繊維が連続繊維であるため、有機極細繊維が脱落しにくく、しかも機械的強度の優れた複合シートである。
【0010】
有機極細繊維が静電紡糸法により製造したものであると、バインダーや繊維油剤等のイオン性不純物が存在しない繊維シートである。また、静電紡糸法によれば、有機極細繊維が均一に分散した状態の繊維シートを形成できるため、複合シートは均一に複合した、均一な物理的性質を有するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の複合シートの概念的断面図
【図2】本発明の複合シートの別の概念的断面図
【図3】本発明の複合シートの更に別の概念的断面図
【図4】本発明の複合シートの更に別の概念的断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の複合シートは有機成分からなる平均繊維径が1μm以下の有機極細繊維からなる平均流量孔径が2μm以下の繊維シートを備えているため、薄く、可撓性及び機械的強度に優れ、更には、均一な物理的性質を有するものである。つまり、平均繊維径が1μm以下と細く、平均流量孔径が2μm以下と有機極細繊維が均一に分散した状態にあるため薄く、物理的性質も均一で、前記状態に加えて有機極細繊維が文字通り有機成分からなるため可撓性に優れている。また、樹脂が繊維シートによって補強されているため、機械的強度も向上している。更には、平均繊維径が小さく、単位体積あたりにおける繊維表面積が広いため、有機極細繊維と樹脂との結合力が強く、これらが剥離しにくいという効果も奏する。
【0013】
この有機極細繊維における「有機成分」とは、炭素結合鎖を骨格とする高分子を意味する。この有機極細繊維の有機成分は複合シートを構成する樹脂、複合シートの用途などによって異なるため、特に限定するものではないが、例えば、ポリエチレングリコール、部分けん化ポリビニルアルコール、完全けん化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリアクリロニトリル、ポリスチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン、ニトロセルロースなどのセルロース化合物、更には絹フィブロインなどの天然高分子などを挙げることができる。なお、有機極細繊維は単一有機成分から構成されていても、二種類以上の有機成分から構成されていても良い。
【0014】
本発明の有機極細繊維は厚さの薄い複合シートであることができるように、平均繊維径が1μm以下である。有機極細繊維の平均繊維径が小さければ小さい程、より薄い複合シートであることができるため、0.8μm以下であるのが好ましく、0.6μm以下であるのがより好ましく、0.45μm以下であるのが更に好ましい。なお、有機極細繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.01μm程度が適当である。
【0015】
なお、有機極細繊維として、有機成分及び/又は平均繊維径の点で異なる2種類以上の有機極細繊維を含んでいても良い。
【0016】
本発明における「繊維径」は、繊維シートの厚さ方向における切断面の電子顕微鏡写真から測定して得られる繊維の横断面における直径を意味し、横断面形状が非円形である場合には、横断面と同じ面積をもつ円の直径を繊維径とみなす。また、「平均繊維径」は、無作為に選んだ50本以上の繊維の繊維径の算術平均値をいう。
【0017】
この有機極細繊維の繊維径のバラツキが大きいと、有機極細繊維が均一に分散することが困難となり、後述の平均流量孔径が大きく、薄い複合シートとすることが困難になる傾向があるため、有機極細繊維の繊維径が揃っている、つまり、有機極細繊維の繊維径の標準偏差(Dd)の、平均繊維径(Da)に対する比(Dd/Da)が、0.25以下であるのが好ましい。この比(Dd/Da)の値が小さければ小さい程、有機極細繊維の繊維径が揃っていることを意味し、薄い複合シートであることができるため、0.2以下であるのがより好ましい。なお、有機極細繊維の繊維径が全て同じであれば、標準偏差値は0になるため、比(Dd/Da)の下限値は0である。このような比(Dd/Da)が0.25以下である有機極細繊維は公知のメルトブロー法によっては得られない値である。吐出した樹脂に対してエアーを作用させて極細化させているためである。
【0018】
なお、「繊維径の標準偏差(Dd)」は、計測した個々の有機極細繊維の繊維径(X)に基いて、次の式から算出した値をいう。なお、nは計測した有機極細繊維の本数(50本以上)を意味する。
標準偏差(Dd)={(nΣX−(ΣX))/n(n−1)}1/2
【0019】
本発明の有機極細繊維の繊維長は特に限定するものではないが、繊維の脱落が発生しにくいように、0.1mm以上であるのが好ましい。特に、連続繊維であると、有機極細繊維が脱落しにくく、しかも機械的強度の優れる複合シートであることができるため好適である。
【0020】
本発明の繊維シートを構成する有機極細繊維は静電紡糸法により製造したものであるのが好ましい。静電紡糸法により製造すると、油剤等のイオン性不純物が存在しない繊維シートであることができ、複合シートの性能を高めることができる場合がある。例えば、電気絶縁性に優れる複合シートとすることができる。このような有機極細繊維は従来の海島型複合繊維の海成分を除去し、島成分からなる極細繊維を発生させた場合にも得ることができるが、この島成分からなる極細繊維を用いて湿式法により繊維シートを形成した場合には、極細繊維を分散させる分散媒体中に界面活性剤や増粘剤を添加する必要があるため、繊維シートを形成した時には、極細繊維に界面活性剤や増粘剤などのイオン性不純物が付着した状態にある。また、静電紡糸法によれば、有機極細繊維が均一に分散した状態の繊維シートを形成しやすく、均一に複合した、均一な物理的性質を有する複合シートを製造しやすい。
【0021】
なお、静電紡糸法は従来から公知の方法によって実施することができ、紡糸した有機極細繊維を直接捕集体上に捕集することによって繊維シートを製造することができる。なお、上述のような有機極細繊維の繊維径が揃っており、有機極細繊維の均一に分散した繊維シートを製造するために、紡糸雰囲気下の相対湿度の変動を±5%以内、より好ましくは±3%以内、更に好ましくは±2%以内に制御された雰囲気下で静電紡糸を行うのが好ましい。また、連続的に繊維シートを製造する場合には、捕集体を移動させ、この捕集体の移動方向と直交する方向に、長円状に回転移動(捕集体の移動方向と直交する方向と長円の長軸が平行)するノズル群から紡糸溶液を吐出し、繊維化した有機極細繊維を捕集体上に集積させると良い。
【0022】
本発明の複合シートを構成する繊維シートは上述のような有機極細繊維からなるが、その平均流量孔径が2μm以下である。このように、平均流量孔径が2μm以下であるということは、有機極細繊維が均一に分散した状態にあることを意味するため、均一に複合した、均一な物理的性質を有する複合シートを製造することができる。つまり、有機極細繊維は束状になく、個々の有機極細繊維が均一に分散した状態にある。したがって、従来のように、海島型複合繊維を用いて繊維シートを形成した後に海島型複合繊維の海成分を除去し、島成分からなる極細繊維を発生させる方法によっては得ることのできない均一分散状態にある。また、有機極細繊維を含む繊維シートに対して水流を作用させるなどの絡合作用を施した場合、有機極細繊維の分散状態が乱される方向に作用するため、有機極細繊維が均一に分散した状態にはない。この平均流量孔径の値が小さければ小さい程、有機極細繊維が均一分散していることになるため、平均流量孔径は1.5μm以下であるのが好ましく、1μm以下であるのがより好ましく、0.5μm以下であるのが更に好ましい。なお、平均流量孔径の下限は複合する樹脂の流動性に依存するため、特に限定するものではないが、50nm以上であれば比較的粘度の高い樹脂も複合させることができるので好ましい。この「平均流量孔径」は、ASTM−F316に規定されている方法により得られる値をいい、例えば、ポロメータ(Perm Polometer、PMI社製)を用いてミーンフローポイント法により測定することができる。
【0023】
本発明の繊維シートは最大孔径が平均流量孔径の3倍以下であるのが好ましく、2.7倍以下であるのがより好ましい。最大孔径と平均流量孔径との差が小さいということは、それだけ有機極細繊維が均一に分散し、地合いの均一性に優れていることを意味するためである。理想的には、最大孔径が平均流量孔径の1倍、つまり全孔径が同じ大きさである。この「最大孔径」は、ポロメータ(Perm Polometer、PMI社製)を用いてバブルポイント法により測定される値をいう。
【0024】
本発明の繊維シートは樹脂が進入しやすく、樹脂の存在しないボイドを発生することなく、繊維シートと樹脂とが混在していることができるように、繊維シートの空隙率は30%以上であるのが好ましく、50%以上であるのがより好ましい。一方で、繊維シートは平均流量孔径が2μm以下であり、機械的強度も優れているように、95%以下であるのが好ましく、85%以下であるのがより好ましい。この「空隙率」は次の式から算出される値をいう。
P={1−M/(T×D)}×100
ここで、Pは空隙率(%)、Mは繊維シートの目付(g/cm)、Tは繊維シートの厚さ(cm)、Dは有機極細繊維を構成する樹脂の密度(g/cm)をそれぞれ意味する。なお、有機極細繊維が密度の異なる2種類以上の樹脂からなる場合、有機極細繊維の樹脂の密度(D)は、それら樹脂の密度の質量平均値を意味する。
【0025】
本発明の繊維シートの形態は特に限定するものではないが、平均流量孔径が2μm以下であることができるように、不織布形態であるのが好ましい。また、繊維シートの目付(JIS L1085に準じて、試験片の大きさを10cm×10cmとして測定した値)及び厚さは、複合シートの用途等によって異なるため、特に限定するものではないが、0.5〜100g/mであるのが好ましく、1〜50g/mであるのがより好ましく、2〜20g/mであるのが更に好ましい。また、繊維シートの厚さは薄く可撓性に優れた複合シートであることができるように、マイクロメーターを用いて測定した値で、1〜100μmであるのが好ましく、2〜50μmであるのがより好ましく、5〜20μmであるのが更に好ましい。
【0026】
本発明の複合シートは上述のような繊維シートと樹脂とが複合したものである。そのため、複合シートは有機極細繊維の均一分散に由来する、引張り強さや曲げ強さなどの機械的強度、熱膨張係数、絶縁耐電圧、誘電定数、熱伝導度、光透過率などの物理的性質の均一性に優れている。また、複合シートは表面平滑性に優れている。なお、複合シートを構成する樹脂は複合シートの用途等によって異なるため、特に限定するものではない。例えば、複合シートをフレキシブル回路基板用基材として使用する場合には、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂、イソシアネート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、マレイミド樹脂などの熱硬化性樹脂、これら熱硬化性樹脂を適宜2種類以上、配合及び/又は反応させてなる熱硬化性樹脂組成物、更に前記熱硬化性樹脂1種又はそれ以上をポリビニルブチラール、アクリロニトリル−ブタジエンゴム又は多官能性アクリレート化合物や添加剤等で変性したもの、架橋ポリエチレン、架橋ポリエチレン/エポキシ樹脂、架橋ポリエチレン/シアナート樹脂、ポリフェニレンエーテル/シアナート樹脂、その他の熱可塑性樹脂で変性した架橋硬化性樹脂(IPN又はセミIPN)を用いてなるもの、などを挙げることができる。また、複合シートをイオン伝導材として使用する場合には、パーフルオロスルホン酸、金属イオンを含有するポリエチレンオキシドゲルなどを挙げることができる。これら以外にも、用途によって、低誘電率樹脂、高誘電率樹脂、イオン交換樹脂、ホール及び電子伝導性樹脂、有機半導体、紫外線硬化性樹脂、シリコーンゴム又はゲル、導電性や研磨性などを有する超微粒子複合樹脂、ポリエチレンワックス等の低強度樹脂、ウレタンフォーム、圧電性高分子、圧電性無機粒子を含む複合圧電性樹脂などの樹脂を使用することができる。
【0027】
本発明の複合シートは上述のような繊維シートと樹脂とを含んでおり、繊維シートと樹脂とが混在する領域を備えている。このような複合シートは特に限定するものではないが、図1に概念的断面図を示すように、繊維シートSと樹脂Pとが混在する領域Hのみからなる複合シートC、図2に示すように、繊維シートSと樹脂Pとが混在する領域Hと繊維シートSのみからなる領域とを有する複合シートC、図3に示すように、繊維シートSと樹脂Pとが混在する領域Hと樹脂Pのみからなる領域を混在する領域Hの片側にのみ有する複合シートC、図4に示すように、繊維シートSと樹脂Pとが混在する領域Hと樹脂Pのみからなる領域を混在する領域Hの両側に有する複合シートC、などを挙げることができる。なお、図1〜図4においては、繊維シートと樹脂とが混在する領域Hが複合シートの厚さ方向と直交する方向と平行に存在しているが、平行である必要はなく、また、繊維シートSと樹脂Pとが混在する領域Hが部分的に存在していても良い。なお、複合シートCは繊維シートSと樹脂Pとを含んでいれば良く、その体積比率は特に限定するものではない。
【0028】
このような本発明の複合シートを製造するには、まず、前述のような繊維シートを製造する。このような繊維シートは静電紡糸法によって好適に製造することができる。この静電紡糸法は従来から公知の方法であり、より具体的には、(1)紡糸溶液をノズルから吐出するとともに、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて極細繊維化する紡糸工程、(2)前記極細繊維を捕集体上に集積させて不織布形態の繊維シートとするシート化工程、により製造することができる。なお、平均流量孔径を2μm以下とするには、紡糸溶液、印加電圧、ノズルと捕集体との距離、ノズル及び/又は捕集体を繊維シートの長手方向と交差する方向へ移動させるなどの条件のバランスをとる。また、このシート化工程の後に、カレンダー等による加圧工程や、1軸あるいは2軸延伸機による延伸工程を実施することにより、平均流量孔径を小さくでき、また表面平滑性を高めることができる。
【0029】
なお、有機極細繊維の繊維径の標準偏差(Dd)の、平均繊維径(Da)に対する比(Dd/Da)が0.25以下の繊維シートは、用いる紡糸溶液、印加電圧、ノズルと捕集体の距離等によって条件が異なるが、ノズルからの吐出量と電界による繊維の引き出し量とのバランスをとることによって製造することができる。また、静電紡糸法により繊維シートを製造する場合、連続して紡糸溶液をノズルから吐出すれば連続繊維からなる繊維シートを製造できる。最大孔径が平均流量孔径の3倍以下の繊維シートは紡糸溶液、印加電圧、ノズルと捕集体の距離等のバランスをとることによって、製造することができる。また、空隙率が30〜95%の繊維シートは紡糸溶液、印加電圧、ノズルと捕集体の距離等のバランスをとることによって、あるいはカレンダー加工の条件を調整することによって製造することができる。
【0030】
一方、複合シートを構成する樹脂を準備する。樹脂は複合シートの用途によって異なるため、特に限定するものではないが、複合シートを製造する上では、未硬化樹脂の粘度や適当な溶媒に溶解させた時の粘度、又は溶融時の粘度が1〜200000(m・Pa/sec.)のものを使用するのが好ましい。
【0031】
そして、前記繊維シートと樹脂とを複合するが、従来公知の方法により複合することができる。より具体的には、例えば、エアドクタコータ、ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、スクイズコータ、含浸機、リバースロールコータ、トランスファロールコータ、グラビアコータ、キスコータ、キャストコーティング、スロットオリフィスコータ、カレンダコーティング、押出コーティングなどを用いて複合することができる。なお、繊維シートと樹脂とを接触させた後に、カレンダー等によって加圧し、樹脂の浸透を促進させることもできる。特に、本発明の複合シートを製造するには、繊維シートと樹脂との複合不良(気泡が残るなどの複合欠陥)が生じにくいように、片面のみから樹脂を接触させるのが好ましく、特に重力の作用方向と交差する方向(特に直交する方向)に繊維シートを配置し、この繊維シートの下面にのみ樹脂を接触させるのが好ましい。本発明で使用している繊維シートは平均流量孔径が小さく、樹脂の浸透力に優れているためである。また、このようにすると、繊維シートを破損しないので好ましい。
【0032】
本発明の複合シートは薄く、可撓性及び機械的強度に優れ、しかも均一な物理的性質を有するものであるため、薄く、可撓性及び機械的強度を必要とする用途に使用できるのは勿論、薄い必要がない用途、可撓性を特に必要としない用途、又は機械的強度を特に必要としない用途にも使用できるものである。樹脂によって用途は異なるが、例えば、フレキシブルプリント配線板、プリント基板プリプレグ、絶縁テープなどの絶縁材料、イオン交換樹脂シート、ガス吸着フィルム、高分子電解質フィルム、色素増感太陽電池基材用フィルム、圧電性フィルム、シーリングフィルム、メンブレンスイッチ、電磁波シールド用フィルムなどとして使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
なお、本発明における「曲げ試験」は、直径3mmの円柱体の表面に沿うように曲げた時に、破断するかどうかで判断した。また、「引張り破断強度」は、複合シートからたて50mm、よこ10mmの長方形状試料を採取し、この試料を引張り強度試験機(オリエンテック製 テンシロンVTM−111−100)のチャック間(距離:20mm)に固定し、50mm/分の速度で試料を引張った時における、破断に要する力を測定した。
【0035】
(繊維シート1、2の製造)
重量平均分子量42万のポリアクリロニトリルをジメチルホルムアミドに溶解させた、濃度10mass%の紡糸溶液を用意した。
【0036】
他方、シリンジにポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、更に前記チューブの先端に、内径が0.5mmのステンレス製ノズルを取り付けて、紡糸装置とした。次いで、前記ノズルに高電圧電源を接続した。更に、前記ノズルと対向し、12cm離れた位置に、表面に導電シリコーンゴム加工を施したメタルドラム(直径:20cm、接地)を設置した。
【0037】
次いで、前記紡糸溶液を前記シリンジに入れ、マイクロフィーダーを用いて、重力の作用方向と直角方向へ紡糸溶液を吐出(吐出量:1cc/時間)するとともに、前記メタルドラムを一定速度(表面速度:6m/分)で回転させながら、前記高電圧電源からノズルに+15kVの電圧を印加して、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、前記メタルドラム上に連続した有機極細繊維を集積させ、表1に示すような物性を有する、不織布繊維シート1、2(目付違い)を製造した。なお、不織布繊維シートを形成する際に、前記ノズルはメタルドラムの回転方向と直角方向に一定速度(移動速度:20cm/分)で往復揺動させて、有機極細繊維の分散性を高め、不織布繊維シートの均一性を高めた。また、不織布繊維シートの形成は温度25℃、相対湿度36%±2%の環境下で行った。
【0038】
(繊維シート3の製造)
不織布繊維シート1を温度40℃のスチールロールと樹脂ロールからなるカレンダーロール間(線圧:150kg/cm)を通し、表1に示すような物性を有する、不織布繊維シート3を形成した。
【0039】
(繊維シート4の製造)
平均重合度1000の完全けん化ポリビニルアルコールを水に溶解させた、濃度12.5mass%の紡糸溶液を用意した。
【0040】
他方、シリンジにポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続し、更に前記チューブの先端に、内径が0.5mmのステンレス製ノズルを取り付けて、紡糸装置とした。次いで、前記ノズルに高電圧電源を接続した。更に、前記ノズルと対向し、10cm離れた位置に、表面に導電シリコーンゴム加工を施したメタルドラム(直径:20cm、接地)を設置した。
【0041】
次いで、前記紡糸溶液を前記シリンジに入れ、マイクロフィーダーを用いて、重力の作用方向と直角方向へ吐出(吐出量:0.5cc/時間)するとともに、前記メタルドラムを一定速度(表面速度:6m/分)で回転させながら、前記高電圧電源からノズルに+19kVの電圧を印加して、吐出した紡糸溶液に電界を作用させて繊維化し、前記メタルドラム上に連続した有機極細繊維を集積させ、表1に示すような物性を有する、不織布繊維シート4を形成した。なお、不織布繊維シートを形成する際に、前記ノズルはメタルドラムの回転方向と直角方向に一定速度(移動速度:20cm/分)で往復揺動させて、有機極細繊維の分散性を高め、不織布繊維シートの均一性を高めた。また、不織布繊維シートの形成は温度25℃、相対湿度50±5%の環境下で行った。
【0042】
(繊維シート5の製造)
テトラエトキシシラン、溶媒としてエタノール、加水分解のための水、触媒として1規定の塩酸を、1:5:2:0.03のモル比で混合し、温度78℃で10時間還流操作を行い、ついで、溶媒をロータリーエバポレーターにより除去した後、温度50℃で加温し、粘度が約3.5ポイズのゾル溶液(紡糸溶液)を調製した。このゾル溶液を用いたこと、及び紡糸時の電圧を17KVにしたこと以外は、繊維シート1、2の製造と同様にして、不織布繊維シートを製造した。その後、不織布繊維シートを150℃で5時間、300℃で5時間、1000℃で1時間焼成し、完全にガラス化させて、表1に示すような物性を有する、石英ガラス繊維からなる焼結不織布繊維シート5を得た。
【0043】
(表1)

Aは平均繊維径(単位:μm)、Bは有機極細繊維の繊維径の標準偏差(Dd)の平均繊維径(Da)に対する比(Dd/Da)、Cは平均流量孔径(単位:μm)、Dは比(最大孔径/平均流量孔径)、Eは空隙率(単位:%)、Fは目付(単位:g/m)、Gは厚さ(単位:μm)をそれぞれ意味する。
【0044】
(実施例1)
ホットプレート上に設置したガラス板に不織布繊維シート2を載せるとともに、不織布繊維シート2の一端にポリエチレンワックス(融点:60℃)を載せ、温度100℃に加熱してポリエチレンワックスを溶かした後、金属ローラでポリエチレンワックスを押し広げて不織布繊維シート2に含浸し、冷却した後に、ガラス板から剥して、不織布繊維シート2とポリエチレンワックスとが複合一体化した複合シート(厚さ:35μm)を得た。この複合シートは図1に示すような不織布繊維シートとポリエチレンワックスとが混在する領域のみからなるもので、高い透明性を有し、均一に複合一体化したものであった。この複合シートの引張り破断強度は3.5N/10mm幅で、優れた機械的強度を有するものであった。また、複合シートは曲げ試験の結果、破断することのない、可撓性に優れるものであり、絶縁材料やシーリング材料として好適なものであった。
【0045】
(比較例1)
ポリエチレンワックス(融点:60℃)をガラス板間に挟んだ状態で温度70℃で加熱し、ポリエチレンワックスを溶融させた後に冷却して、フィルム化させた。その後、水中でガラス板間からワックスフィルムを剥離させたが、ワックスフィルムは非常に脆く、手でさわるだけで破断するものであった。
【0046】
(実施例2)
エポキシ樹脂(セメダイン社製、二液常温硬化型エポキシ樹脂系接着剤、商品名:1500)原料を混合し、脱泡した後、厚さが4μmとなるように、ハンドコーターによってガラス板上にキャストした後、このエポキシ樹脂液上に不織布繊維シート4を載せ、1週間常温放置してエポキシ樹脂を硬化させた。そして、ガラス板から剥離し、不織布繊維シート4とエポキシ樹脂とが複合一体化した複合シート(厚さ:5μm)を得た。この複合シートは図1に示すような不織布繊維シートとエポキシ樹脂とが混在する領域のみからなるもので、高い透明性を有し、均一に複合一体化したものであった。この複合シートの引張り破断強度は1N/10mm幅で、比較的高い機械的強度を有するものであった。また、複合シートは曲げ試験の結果、破断することのない、可撓性に優れるものであり、フレキシブルプリント基板として好適なものであった。
【0047】
(比較例2)
実施例2と同じエポキシ樹脂をハンドコーターによってガラス板上にキャストした後、1週間常温放置してエポキシ樹脂を硬化させ、フィルム化(厚さ:5μm)させた。そして、このエポキシ樹脂フィルムをガラス板から剥離し、エポキシフィルムを得た。このフィルムは曲げ試験の結果、破断することはなかったが、引張り破断強度を測定すると0.7N/10mmで、実施例2に比べて強度の劣るものであった。
【0048】
(実施例3)
キャスティングの厚さを40μmとしたこと、及び繊維シートとして不織布繊維シート2を使用したこと以外は、実施例2と全く同様にして、不織布繊維シート2とエポキシ樹脂とが複合一体化した複合シート(厚さ:50μm)を得た。この複合シートは図3に示すように、不織布繊維シートとエポキシ樹脂とが混在する領域Hと、エポキシ樹脂のみからなる領域を混在する領域Hの片側にのみ有するもので、高い透明性を有し、均一に複合一体化したものであった。この複合シートの引張り破断強度は9.7N/10mm幅で、優れた機械的強度を有するものであった。また、複合シートは曲げ試験の結果、破断することのない、可撓性に優れるものであり、フレキシブルプリント基板として好適なものであった。
【0049】
(比較例3)
実施例3と同じエポキシ樹脂をハンドコーターによってガラス板上にキャストした後、1週間常温放置してエポキシ樹脂を硬化させ、フィルム化(厚さ:50μm)させた。そして、このエポキシ樹脂フィルムをガラス板から剥離し、エポキシフィルムを得た。このフィルムは曲げ試験の結果、破断することはなかったが、引張り破断強度を測定すると7.5N/10mmで、実施例3に比べて強度の劣るものであった。
【0050】
(実施例4)
実施例2と同じエポキシ樹脂原料を混合し、脱泡した後、厚さが4μmとなるように、ハンドコーターによってガラス板上にキャストした後、このエポキシ樹脂液上に不織布繊維シート3を載せ、1週間常温放置してエポキシ樹脂を硬化させた。そして、ガラス板から剥離し、不織布繊維シート3とエポキシ樹脂とが複合一体化した複合シート(厚さ:10μm)を得た。この複合シートは図3に示すように、不織布繊維シートとエポキシ樹脂とが混在する領域Hと、エポキシ樹脂のみからなる領域を混在する領域Hの片側にのみ有するものであった。また、この複合シートは高い透明性を有し、均一性及び表面平滑性の高いものであった。この複合シートの引張り破断強度は3.3N/10mm幅で、優れた機械的強度を有するものであった。また、複合シートは曲げ試験の結果、破断することのない、可撓性に優れるものであり、フレキシブルプリント基板として好適なものであった。
【0051】
(比較例4)
不織布繊維シートとして不織布繊維シート5を用いたこと、及びエポキシ樹脂のキャスティングの厚さを40μmとしたこと以外は実施例4と同様にして、不織布繊維シート5とエポキシ樹脂とが複合一体化した複合シート(厚さ:50μm)を得た。この複合シートは図1に示すように、不織布繊維シートとエポキシ樹脂とが混在する領域のみからなるもので、高い透明性を有し、均一に複合一体化したものであった。この複合シートは曲げ試験の結果、破断してしまうものであった。
【0052】
(実施例5)
パーフルオロスルホン酸(アルドリッチ製、5mass%ナフィオン117、メタノール−水混合溶媒)をガラス板上にキャスティングし、厚さ10μmの液膜を形成した。この液膜上に不織布繊維シート4を載せ、温度60℃で乾燥した後にガラス板から剥離し、不織布繊維シート4とパーフルオロスルホン酸とが複合一体化した複合シート(厚さ:5μm)を得た。この複合シートは図1に示すような不織布繊維シートとパーフルオロスルホン酸とが混在する領域のみからなるもので、高い透明性を有し、均一に複合一体化したものであった。この複合シートは曲げ試験の結果、破断することのない、可撓性に優れるものであった。また、この複合シートを電解質膜としての利用を想定し、24時間水に浸漬し、膨潤させた後に引張り強度を測定すると約0.8N/10mmであった。この複合シートは電池の電解質膜として好適なものであった。
【0053】
(比較例5)
パーフルオロスルホン酸(アルドリッチ製、5mass%ナフィオン117、メタノール−水混合溶媒)をガラス板上にキャスティングした後に乾燥し、ガラス板から剥離し、パーフルオロスルホン酸フィルム(厚さ:5μm)を得た。このフィルムは曲げ試験の結果、破断することのない、可撓性に優れるものであったが、実施例5と同様に、水に浸漬した後に引張り強度を測定すると0.5N/10mmで、実施例5の複合シートよりも強度的に劣るものであった。
【0054】
(実施例6)
実施例2に用いたエポキシ樹脂40容量部に、ロッキングミルを用いた湿式粉砕により平均粒子径を約0.3ミクロンとしたチタン酸ジルコン酸鉛(富士チタン(株)製、PE−60A)60容量部をよく混合した後、厚さが20μmとなるように、ハンドコーターによってガラス板上にキャストした後、このエポキシ樹脂液上に不織布シート1の両端を軽く引っ張った状態で載せるとともに、不織布シート1をエポキシ樹脂液に押し付けた後、1週間常温放置してエポキシ樹脂を硬化させた。そして、ガラス板から剥離し、不織布繊維シート1とエポキシ樹脂とが複合一体化した複合シート(厚さ:25μm)を得た。この複合シートは図1に示すように、不織布繊維シートとエポキシ樹脂とが混在する領域のみを有するものであった。この複合シートの曲げ試験を行ったところ、無機微粒子(チタン酸ジルコン酸鉛)を高い割合で混合しているにもかかわらず、破断することのない、可撓性に優れるものであった。また、この複合シートの引張り破断強度は5N/10mm幅で、優れた機械的強度を有するものであった。
【0055】
この複合シートの表面に銀ペーストで導電化し、三端子コンデンサー法で比誘電率を測定(ヒューレット・パッカード社製 4192A LFインピーダンスアナライザー)したところ、1MHzでの比誘電率は約40であった。
【0056】
また、この複合シートの任意の箇所から50mm角に切り取って試験片を採取し、この試験片の向かい合う2辺のおのおの中心部を結ぶ線上における、5mmごとの静電容量測定を行った。その結果、順に4.0pF、4.1pF、3.8pF、4.0pF、3.9pF、3.8pF、3.8pF、3.9pF、4.1pFであった。このように、この複合シートは単位面積あたりの静電容量が高く、静電容量の均一性が高く、シート強度もあるため、例えば、キャパシタ内蔵型プリント基板の高誘電率樹脂シートとしての用途に適するものであった。
【0057】
なお、静電容量の測定は次の手順で行った。
(1)複合シートの片面を金のスパッタリングにより被覆し導電化した。
(2)鏡面研磨した平滑なステンレス平板上に、前記複合シートの導電化面が接触するように載せた。
(3)銅製の円柱(直径:0.5mm)の周囲を厚さ0.1mmの樹脂で被覆し、更にこの樹脂の周囲をスパッタリングにより金をコーティングしたものを、直径約5mmの樹脂棒の中心に通した電極を用意した。
(4)前記電極を前記複合シート(導電化面と対向する面)に一定圧力で押し当てて、1MHzでの静電容量を3端子コンデンサー法により測定した。
【0058】
なお、本実施例に用いたチタン酸ジルコン酸鉛は分極操作により圧電性を示す粒子であるため、本複合シートは圧電体として用いた場合にも均一な圧電特性を期待できるものであった。
【0059】
(比較例6)
不織布繊維シート1を複合しなかったこと以外は実施例6と同様にして、チタン酸ジルコン酸鉛粉末含む、厚さ25μmのフィルムを製造した。このフィルムは非常に脆く、曲げ試験の結果、容易に破断し、取り扱いが困難なものであった。
【符号の説明】
【0060】
S 繊維シート
P 樹脂
H 繊維シートと樹脂の混在領域
C 複合シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機成分からなる平均繊維径が1μm以下の有機極細繊維からなる平均流量孔径が2μm以下の繊維シートと樹脂とを含み、前記繊維シートと樹脂とが混在する領域を備えている複合シートであり、前記有機極細繊維が連続繊維からなり、しかも前記繊維シートの目付が1〜100g/mであることを特徴とする複合シート。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−237015(P2012−237015A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−187155(P2012−187155)
【出願日】平成24年8月28日(2012.8.28)
【分割の表示】特願2005−273161(P2005−273161)の分割
【原出願日】平成17年9月21日(2005.9.21)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】