説明

複合シート

【目的】 PVA系シートに、透明性、高温高湿での耐久性、耐熱性、物理的強度などに優れた保護層を接着性良く積層した複合シートを提供すること。
【構成】 ポリビニルアルコール系シートの少なくとも一面に、アクリル系粘着剤層を介して熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートが積層され、加熱圧着されてなることを特徴とする複合シート。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、ポリビニルアルコール系シートと熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを一体的に接着してなる複合シートに関する。本発明の複合シートは、例えば、液晶ディスプレイなどの偏光フィルムとして好適に使用できる。
【0002】
【従来の技術】偏光フィルムは、反射光除去、光ロック性等の諸機能を生かして、例えば、サングラス、カメラ用フィルター、スポーツゴーグル、照明用グローブ、自動車ヘッドライトの防眩被覆、室内透視防止、光量調整フィルター、蛍光表示コントラスター、透光度連続変化板、顕微鏡用偏光フィルム等の広範な分野に利用されている。最近では、液晶ディスプレイ(LCD)に使用され、その機能性がクローズアップされている。
【0003】LCD用偏光フィルムは、光の透過遮蔽機能を受け持ち、光のスイッチング機能を果たす液晶とともに電気信号をディスプレイ化する役割をもっている。このような機能性を発揮する上で、偏光フィルムに対する光学特性、耐久性、その他の要求品質が厳しくなっている。
【0004】偏光フィルムでは、ほとんどの場合、透明な高分子フィルムを一定方向に分子配列し、ミセルの間隙に二色性物質を吸着させた偏光膜が使用されている。このような偏光膜には、高分子フィルムとしてポリビニルアルコール(以下、PVAと略記)の薄いシート(フィルム)が汎用されている。
【0005】ところが、PVA系フィルムからなる偏光膜は、透過軸方向に対する機械的強度が弱く、しかも熱や水分によって収縮したり、偏光機能が低下し易いため、通常、その両面に各種フィルムからなる保護層が接着剤により積層され、それによって耐久性や機械的強度を確保している。この積層体は、偏光フィルムまたは偏光板と呼ばれている。
【0006】LCD用偏光フィルムは、液晶セルとの界面での光の反射損失を防ぐため、粘着剤を介して液晶基板に貼り付けられる。したがって、通常の偏光フィルムには、粘着剤層が保護層の片面に設けられており、さらに粘着剤層の保護と作業性などの観点から、粘着剤層の上に離型膜(セパレーター)が設けられている。偏光フィルムを液晶基板に接着する際には、この離型膜を剥す。
【0007】保護層には、複屈折がないこと、透過率が高いこと、耐熱性・耐吸湿性が良好で、機械的強度が高いこと、温度・湿度の変化による収縮率が小さいこと、表面が平滑で、解像度が高いこと、粘着剤との密着性が良好であること、外観性に優れていること、などの性能が要求される。そして、従来、保護層としては、低複屈折性と外観性の良好なセルローストリアセテート(以下、TACと略記)の溶液流延フィルムが主として使用されている。
【0008】しかし、偏光基体を構成するPVAフィルムの水蒸気透過度が25μmの厚さで、25℃、90%RHの環境下、1000〜1200g/m2・24hr程度であるのに対して、保護層のTACフィルムは、同じ条件で700g/m2・24hr程度の水蒸気透過度を有しており、防湿性が不充分である。したがって、TACフィルムを保護層とする偏光フィルムは、高温高湿での耐久性に乏しく、例えば、80℃、90%RHの環境下では100時間以下で劣化し、偏光性能が急激に低下してしまう。
【0009】TACフィルムは、ガスバリヤー性も不充分であり、透過した酸素によってヨウ素や染料などの二色性物質が変質し易い。また、TACフィルムには、製膜するために可塑剤が添加されているので、耐熱性が充分ではない。さらに、TACフィルムは、引張強度が6〜11kg/mm2程度しかなく、物理的強度が不足している。したがって、TACフィルムは、40μm以下の薄膜では強度および耐久性が低いため、通常80μmの厚さのものが使用されている。
【0010】TACフィルムは、光弾性係数が大きいため、外力が加わったり、成形時の残留応力がある場合には複屈折が大きくなり易い。そのため、TACフィルムは、低複屈折性と外観性が良好で、残留応力が小さな溶液流延法でしか製造できなかった。
【0011】偏光膜は、粘着剤層を介して液晶基板や位相板等に積層されるが、TACフィルムと粘着剤との密着性には問題があり、水分によるハガレや熱によってTACフィルムと粘着剤層との間にトンネルと呼ばれる空気の泡が発生し易い。また、TACフィルムにアクリル系粘着剤層を積層すると、アクリル酸によりTACフィルムが分解するという問題もある。
【0012】このように、PVA系シート(シートまたはフィルム)は、例えば、偏光膜として汎用されているが、保護等の目的で、透明性、耐久性、耐熱性、物理的強度などに優れた保護層を接着性良く積層した複合シートが求められている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、PVA系シートに、透明性、高温高湿での耐久性、耐熱性、物理的強度などに優れた保護層を接着性良く積層した複合シートを提供することにある。本発明者らは、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂からなるシートが透明性、低複屈折性、耐湿性、耐水性、耐熱性、物理的強度等に優れていることに着目し、これとPVA系シートとの複合化を図るべく鋭意研究を進めた。その結果、PVA系シートと熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートをアクリル系粘着剤で貼り合わせた後、加熱し加圧すると、両者の接着強度が高く、透明性等に優れた複合シートの得られることを見いだした。この複合シートは、PVA系シートとして偏光膜を使用した場合、優れた光学特性、耐久性等を有する偏光フィルムを得ることができる。本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【0014】
【課題を解決するための手段】かくして、本発明によれば、ポリビニルアルコール系シートの少なくとも一面に、アクリル系粘着剤層を介して熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートが積層され、加熱圧着されてなることを特徴とする複合シートが提供される。
【0015】以下、本発明について詳述する。
(PVA系シート)本発明で使用するPVA系シートは、PVAを用いて形成されたシート(シートまたはフィルム)であれば特に限定されない。本発明の複合シートを各種偏光フィルムとして使用する場合には、PVA系シートとして、偏光膜を使用する。
【0016】PVA系シートからなる偏光膜としては、偏光子としての機能を有するものであれば、特に限定されず、例えば、PVAフィルムにヨウ素を吸着させた後、ホウ酸浴中で一軸延伸したPVA・ヨウ素系偏光膜;PVAフィルムに二色性の高い直接染料を拡散吸着させた後、一軸延伸したPVA・染料系偏光膜;PVAフィルムにヨウ素を吸着させ延伸してポリビニレン構造としたPVA・ポリビニレン系偏光膜;PVAフィルムに金、銀、水銀、鉄などの金属を吸着させたPVA・金属系偏光膜;PVAフィルムをヨウ化カリとチオ硫酸ソーダを含むホウ酸溶液で処理した近紫外偏光膜;分子内にカチオン基を含有する変成PVAからなるPVA系フィルムの表面および/または内部に二色性染料を有する偏光膜;等が挙げられる。
【0017】PVA系偏光膜の製造方法についても、特に限定されず、例えば、PVA系フィルムを延伸後ヨウ素イオンを吸着する方法;PVA系フィルムを二色性染料により染色後、延伸する方法;PVA系フィルムを延伸後、二色性染料で染色する方法;二色性染料をPVA系フィルムに印刷後延伸する方法;PVA系フィルムを延伸後、二色性染料を印刷する方法などが挙げられる。より具体的には、ヨウ素をヨウ素カリウム溶液に溶解して、高次のヨウ素イオンを作り、このイオンをPVAフィルムに吸着させて延伸し、次いで1〜4%ホウ酸水溶液に浴温度30〜40℃で浸漬して偏光膜を製造する方法、あるいはPVAフィルムを同様にホウ酸処理して一軸方向に3〜7倍程度延伸し、0.05〜5%の二色性染料水溶液に浴温度30〜40℃で浸漬して染料を吸着し、80〜100℃で乾燥して熱固定して偏光膜を製造する方法などがある。
【0018】(熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シート)本発明においては、PVA系シートの片面または両面に熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂からなるシートを積層する。本発明の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂は、特開平3−14882号や特開平3−122137号などで公知の樹脂であり、具体的には、ノルボルネン系モノマーの開環重合体水素添加物、ノルボルネン系モノマーの付加型重合体、ノルボルネン系モノマーとオレフィンの付加型重合体、これらの重合体の変性物などが挙げられる。
【0019】ノルボルネン系モノマーは、上記公報や特開平2−227424号、特開平2−276842号などで公知のモノマーであって、例えば、ノルボルネン、そのアルキル、アルキリデン、芳香族等の置換誘導体、これら置換または非置換のオレフィンのハロゲン、水酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミド基、イミド基、シリル基等の極性置換体、例えば、5−メチル−2−ノルボルネン、5,5−ジメチル−2−ノルボルネン、5−エチル−2−ノルボルネン、5−ブチル−2−ノルボルネン、5−エチリデン−2−ノルボルネン、5メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−シアノ−2−ノルボルネン、5−メチル−5メトキシカルボニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−2−ノルボルネン、5−フェニル−5−メチル−2−ノルボルネン等;ジシクロペンタジエン、その上記と同様の誘導体や置換体等、例えば、2,3−ジヒドロジシクロペンタジエン等;ジメタノオクタヒドロナフタレン、、その上記と同様の誘導体や置換体等、例えば、6−メチル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチル−1,4:5,8,ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−エチリデン−1,4:5,8,ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−クロロ−1,4:5,8,ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−シアノ−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−ピリジル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン、6−メトキシカルボニル−1,4:5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレン等;シクロペンタジエンとテトラヒドロインデン等との付加物、その上記と同様の誘導体や置換体等、例えば、1,4−ジメタノ−1,4,4a,4b,5,8,8a,9a−オクタヒドロフルオレン、5,8−メタノ−1,2,3,4,4a,5,8,8a−オクタヒドロ−2,3−シクロペンタジエノナフタレン等;シクロペンタジエンの多量体、その上記と同様の誘導体や置換体等、例えば、4,9:5,8−ジメタノ−3a,4,4a,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1H−ベンゾインデン、4,11:5,10:6,9−トリメタノ−3a,4,4a,5,5a,6,9,9a,10,10a,11,11a−ドデカヒドロ−1H−シクロペンタアントラセン等;などが挙げられる。
【0020】ノルボルネン系モノマーの重合は、公知の方法でよく、必要に応じて、他の共重合可能なモノマーと共重合したり、水素添加することにより熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂である熱可塑性ノルボルネン系重合体水素添加物とすることができる。また、重合体や重合体水素添加物を特開平3−95235号などで公知の方法により、α,β−不飽和カルボン酸および/またはその誘導体、スチレン系炭化水素、オレフィン系不飽和結合及び加水分解可能な基を持つ有機ケイ素化合物、不飽和エポキシ単量体等を用いて変性させてもよい。
【0021】本発明で使用する熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂は、トルエン溶媒によるゲル・パーミェーション・クロマトグラフ(GPC)法で測定した数平均分子量が通常25,000〜100,000、好ましくは30,000〜80,000、より好ましくは35,000〜70,000の範囲のものが望ましい。数平均分子量が小さすぎると物理的強度が劣り、大きすぎると成形の際の操作性が悪くなる。
【0022】熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂がノルボルネン系モノマーの開環(共)重合体を水素添加して得られるものである場合、水素添加率は、耐熱劣化性、耐光劣化性などの観点から、通常90%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上とする。
【0023】熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂は、透明性、耐熱性、耐湿性、物理的強度、粘着剤に対する耐久性等に優れている。厚み25μmのシートで、吸湿性が通常0.05%以下、好ましくは0.01%以下で、水蒸気透過度が25℃、90%RHの環境下で20g/m2・24hr以下のものを容易に得ることができる。また、その光弾性係数は、3〜9×10-15cm2/dyneと小さいため、外力がかかったり、残留応力があってもレターデーションへの影響が小さく、光学的に均一なフィルムの製造に好適である。
【0024】本発明で用いる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂には、所望により、フェノール系やリン系などの老化防止剤;フェノール系などの熱劣化防止剤;アミン系などの帯電防止剤;脂肪族アルコールのエステル、多価アルコールの部分エステル及び部分エーテルなどの滑剤;などの各種添加剤を添加してもよい。
【0025】また、液晶は、通常、紫外線により劣化するので、液晶ディスプレイに用いるにも関わらず、ほかに紫外線防護フィルターを積層するなどの防護手段を取らない場合は、紫外線吸収剤を添加することが好ましい。紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、アクリルニトリル系紫外線吸収剤などを用いることができる。これらの中でもベンゾフェノン系紫外線吸収剤が好ましく、添加量は、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートの厚さにもよるが、通常10〜100,000ppm、好ましくは100〜10,000ppmである。シートの厚さが薄いほど多量の紫外線吸収剤が必要である。
【0026】さらに、表面粗さを小さくするため、レベリング剤の添加が好ましい。レベリング剤としては、例えば、フッ素系ノニオン界面活性剤、特殊アクリル樹脂系レベリング剤、シリコーン系レベリング剤など塗料用レベリング剤を用いることができ、それらの中でも溶媒との相溶性の良いものが好ましく、添加量は、通常5〜50,000ppm、好ましくは10〜20,000ppmである。
【0027】本発明で用いる熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートは、PVA系偏光膜の保護層として使用する場合には、溶液流延法で作製することが好ましいが、光弾性係数が小さい樹脂であるため、TACの場合とは異なり、溶融成形法でシートを作製しても、充分に複屈折の小さなシートが得られる。
【0028】熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を溶液流延するためには、該樹脂を溶媒に溶解する。使用する溶媒は、沸点が100℃以上のものが好ましく、120℃以上のものがより好ましい。特に、25℃において固型分濃度10重量%以上としても、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を均一に溶解できる溶媒が好ましい。
【0029】このような溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼン、トリメチルベンゼン、ジエチルベンゼン、イソプロピルベンゼン、クロロベンゼン等が挙げられ、その中でも、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼンが好ましい。また、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂を溶解する限りにおいて、これらの溶媒に、ジクロヘキサン、クロロホルム、ベンゼン、テトラヒドロフランやジオキサン等の環状エーテル、あるいはn−ヘキサンやn−オクタン等の直鎖の炭化水素等を含有させてもよい。これらの条件を良好に満たすものとしては、沸点が100℃以上のキシレン、エチルベンゼン等の芳香族系溶剤を50%以上含有するものがある。
【0030】流延に用いる溶液中の樹脂濃度は、通常5〜60重量%、好ましくは10〜50重量%、より好ましくは20〜45重量%である。樹脂の濃度が低過ぎると粘度が低いためシートの厚さの調整が困難であり、濃度が高すぎると粘度が高いため製膜性が悪く、また、外観性のよいフィルムが得られない。
【0031】樹脂溶液を流延する方法は、特に限定されず、一般の溶液流延法を用いることができる。具体的には、樹脂溶液をバーコーター、Tダイ、バー付きTダイ、ドクターナイフ、メイア・バー、ロール・コート、ダイ・コートなどを用いて、ポリエチレンテレフタレートなどの耐熱材料、スチールベルト、金属箔などの平板またはロール上に流延する方法をあげることができる。
【0032】溶液流延法により作製したシートは、乾燥して、残留溶媒濃度2重量%以下とする。残留溶媒濃度が高すぎると耐熱性が悪く、また、高温環境下での使用において、残留していた溶媒が蒸発し、周囲に悪影響を与えたり、変形の原因となったりする。
【0033】シートは、通常、2段階に分けて乾燥することが好ましい。まず、第1段階の乾燥として、平板またはロール上のシートを30〜100℃、好ましくは40〜80℃の温度範囲で残留溶媒温度が10重量%以下、好ましくは5重量%以下になるまで乾燥する。この場合、乾燥温度が高すぎると、溶媒の揮発に際し、シートが発泡する。ついで、平板またはロールからシートを剥離し、第2段階の乾燥として、室温から60℃以上、好ましくは70℃から樹脂のガラス転移温度(Tg)までの温度範囲に昇温させ、残留溶媒濃度が2重量%以下、好ましくは1重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下になるまで乾燥する。
【0034】乾燥温度が低すぎると乾燥が進まず、温度が高すぎると、発泡する。第1段階の乾燥を行い、乾燥終了後にシートを平板またはロールから剥離し、第2段階の乾燥を行っても、あるいは第1段階の乾燥後、一旦冷却してシートを平板またはロールから剥離し、第2段階の乾燥を行ってもよい。
【0035】溶融成形法でシートを作製する場合は、Tダイを用いた方法やインフレーション法などの溶融押出法、カレンダー法、熱プレス法、射出成形法などがある。中でも、厚さムラが小さく、10〜500μm程度の厚さに加工し易く、かつ、レターデーションの絶対値およびそのバラツキを小さく出来るTダイを用いた溶融押出法が好ましい。
【0036】溶融成形法の条件は、同程度のTgを有する光学材料に用いられる一般的な条件と同様であり、例えば、Tダイを用いる溶融押出法出は、樹脂温度240〜300℃程度で、引き取りロールの温度を100〜150℃程度の比較的高温として、樹脂シートを徐冷できる条件を選択することが好ましい。また、ダイライン等の表面の欠陥を小さくするためには、ダイには滞留部が極力少なくなるような構造が必要であり、ダイの内部やリップにキズ等が極力無いものを用いることが好ましい。
【0037】熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートの厚さは、通常5〜500μm、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜100μmである。シートの厚さが薄すぎると、強度が低下する。逆に、シートが厚すぎると、透明性が劣り、複屈折性が高くなり、外観性が低下し、さらに溶液流延法でシートを作製した場合には乾燥が困難である。しかし、TACフィルムの場合は充分な耐湿性と強度を持たせるために、通常80μm以上の厚みを必要としたのに対し、熱可塑性ノルボルネン系樹脂シートは、30μm程度の厚みがあれば、厚み80μmのTACフィルムと同等以上の耐湿性、耐熱性、及び強度を持たせることができ、薄くても保護層として充分に機能し、視覚依存性も良好である。
【0038】シートの厚みムラは、通常、全面において平均厚さの±5%以内、好ましくは±3%以内、より好ましくは±2%以内である。シートの厚みムラが大きいと画像の歪みやレターデーションのバラツキなどの原因となり、液晶ディスプレイ用偏こフィルムの保護層として好ましくない。
【0039】熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートの光線透過性は、通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上である。
【0040】このシートの耐熱性は、溶液流延法で作製した場合は、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の種類と用いた溶媒の種類、残留溶媒濃度によって決定される。残留溶媒濃度が高いほど、耐熱性は低下する。シートを成形する熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂は、Tgが通常90℃以上、好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上であることが望ましい。
【0041】(アクリル系粘着剤)本発明で用いるアクリル系粘着剤としては、一種以上のアクリル酸エステルの(共)重合体をトルエン、酢酸エチルなどの有機溶媒に溶解した溶液、またはこれらの(共)重合体の水系エマルジョンなどが使用できる。
【0042】アクリル系粘着剤は、一般に、主構成モノマーとして、そのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が−50℃以下のもの(低Tgモノマー)が使用され、これに適当なコモノマーを選び、共重合体のTgや粘着特性を調整している。具体的には、アクリル酸ブチルやアクリル酸2−エチルヘキシルなどの粘着性を付与する低Tgモノマーを主体とし、これらのモノマーと、酢酸ビニル、メチルメタクリレート、スチレン、不飽和カルボン酸、アクリロニトリルなどの接着性や凝集力を付与する高Tgモノマーとの共重合体を挙げることができる。アクリル系粘着剤は、イソシアネートやブチル化メラミンなどの架橋剤を併用することもあり、その場合には塗布前に架橋剤と混合して用いる。
【0043】ところで、前記したとおり、液晶は、紫外線により劣化するので、複合シートを液晶ディスプレイ用偏光フィルム等に用いる場合には、該複合シートが紫外線を透過しないようにすることが好ましい。熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂に紫外線吸収剤を添加すると、樹脂シートが薄い場合、多量に紫外線吸収剤を添加しなければ、十分に紫外線を吸収せず、薄いことと紫外線吸収剤の多量の添加のために、この樹脂シートは強度が不十分となる場合がある。しかし、アクリル系粘着剤に紫外線吸収剤を添加すると、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートに紫外線吸収剤を少量しか添加しない、または全く添加していない場合であっても、本発明の複合シートは、紫外線の透過を効果的に抑制することができる。
【0044】紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、サリシレート系が好ましく、これらを併用してもよい。アクリル系粘着剤に対する紫外線吸収剤の添加量は、粘着剤の種類や粘着剤層の厚さにもよるが、通常、粘着剤中の樹脂100重量部に対して、1〜20重量部程度とすることが望ましい。
【0045】(複合シートとその製造方法)本発明の複合シートは、PVA系シートの片面または両面に、アクリル系粘着剤層を介して熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートが積層され、加熱圧着されてなるものである。
【0046】一般に、アクリル系粘着剤は、トルエン−酢酸エチル混合溶媒を溶剤とする溶液型のものである。トルエンは、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の良溶媒であるため、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートに溶液型のアクリル系粘着剤を直接塗布すると、該シート表面が溶解し、光学的ムラを生じるおそれがある。
【0047】そこで、PVA系シートと熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを貼り合わせるには、(1)水系エマルジョン型のアクリル系粘着剤を用いて貼り合わせる方法、(2)PVA系シートに溶液型のアクリル系粘着剤を塗布し、溶剤を揮発させた後、熱可塑性飽和ノルボルネン系シートと貼り合わせる方法、(3)酢酸エチル、メチルエチルケトン等のエステル系、ケトン系、アルコール系等の熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の貧溶媒であって、アクリル系粘着剤が可溶な溶剤を用いたアクリル系粘着剤を用いる方法、(4)溶液型アクリル系粘着剤を離型膜(セパレーター)などに塗布し、溶剤を揮発させた後、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートに転写し、PVA系シートと貼り合わせる方法(転写法)、などの各種方法を採用して、熱可塑性飽和ノルボルネン系シート表面の溶解を防ぐことが好ましい。
【0048】転写法を採用する場合、その方法は特に限定されず、一般の粘着剤等の転写に用いる装置を用いて行うことができる。アクリル系粘着剤の塗布は、刷毛塗り、ガンスプレーを用いる方法、スピンコート、バーコーターを用いる方法など、特に限定されないが、容易に均一に塗布できる方法が好ましく、例えば、上記の転写をする場合は、バーコーターを用いることが好ましい。光学的な屈折ムラなどを小さくするため、アクリル系粘着剤の塗布厚みのムラを小さくすることが好ましい。同様に、転写法で使用する離型膜も表面の平滑性に優れたものが好ましい。
【0049】アクリル系粘着剤の塗布厚みは、通常10〜50μm、好ましくは15〜30μmである。塗布後、溶剤や水を揮発させる。溶液型のアクリル系粘着剤の場合には、塗布後、60〜110℃、好ましくは70〜100℃で1〜5分、好ましくは1.5〜10分間乾燥して溶剤を揮発させる。
【0050】本発明においては、PVA系シートの少なくとも一面に、アクリル系粘着剤層を介して熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを積層し、次いで加熱し加圧して接着(加熱圧着)させる。具体的には、PVA系シートと熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを貼り合わせ、通常50〜120℃、好ましくは80〜100℃の温度範囲で加熱し、1〜5分間、好ましくは1.5〜3分間保ち、次いで1〜10kg/cm2、好ましくは4〜7kg/cm2の圧力で加圧して接着すると、層間接着強度に優れた複合シートが得られる。
【0051】本発明の複合シートは、優れた透明性と層間接着強度、耐久性を有し、かつ、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートの本来有する低複屈折性、耐湿性、耐水性、耐熱性、物理的強度等の特性を有しているため、各種分野における偏光フィルムなどとして有用である。
【0052】本発明の複合シートを例えば液晶ディスプレイ用偏光フィルムとして用いる場合には、PVA系偏光膜の片面または両面に保護層として熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを貼り合わせる。片面に保護層を設ける場合には、液晶ディスプレイの周囲の温度から偏光膜を保護するために、液晶ディスプレイの製造において、保護層が偏光膜よりも外側になるようにする。液晶ディスプレイ製造前の偏光フィルムの品質維持、製造工程における偏光膜の吸湿防止、加熱などによる偏光度低下の防止、傷からの保護のために、保護層を両面に貼り合わせることが好ましい。なお、一方の面に従来公知の材料からなる保護層を設けてもよい。
【0053】また、本発明の複合シートを主として液晶ディスプレイ用偏光フィルムとして使用する場合、液晶基板や透明電極層に対する積層作業を容易にするため、両面に保護層を設けた場合には、片方の保護層面上に、片面に保護層を設けた場合には、保護層を有しない面上に、偏光フィルム接着用の粘着剤層を積層しておくことが好ましい。また、この粘着剤層の上に、離型紙や離型フィルム等の離型膜を積層しておくことが好ましい。
【0054】
【実施例】以下、本発明について、実施例および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
【0055】なお、以下の実施例および比較例における物性の測定方法は、以下のとおりである。
(1)数平均分子量は、トルエンを溶媒とするGPC法により測定した。
(2)水素添加率は、1H−NMRにより測定した。
(3)ガラス転移温度(Tg)は、DSC法により測定した。
(4)レターデーションは、波長550nmのベレク・コンベンセイターにより測定した。
(5)シートおよびフィルムの厚さは、ダイヤル式厚さゲージにより測定した。
(6)光線透過率は、実施例1および比較例1〜3においては、分光光度計により、波長400〜700nmの範囲について波長を連続的に変化させて測定し、最小の透過率を光線透過率とした。実施例1および比較例1〜3においては、400nmで最小の透過率を示した。なお、実施例2においては、分光光度計により、230〜700nmの範囲について波長を連続的に変化させて光線透過率を測定した。
(7)シートの残留溶媒濃度は、温度200℃のガスクロマトグラフィーにより測定した。
(8)粘着強度は、Tピール剥離試験(JIS Z−0237)にしたがって測定した。
【0056】[参考例1](熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂の合成)
6−メチル−1,4,5,8−ジメタノ−1,4,4a,5,6,7,8,8a−オクタヒドロナフタレンに、重合触媒としてトリエチルアルミニウムの15%シクロヘキサン溶液10部、トリエチルアミン5部、及び四塩化チタンの20%シクロヘキサン溶液10部を添加して、シクロヘキサン中で開環重合し、得られた開環重合体をニッケル触媒で水素添加してポリマー溶液を得た。このポリマー溶液をイソプロピルアルコール中で凝固させ、乾燥し、粉末状の樹脂を得た。この樹脂の数平均分子量は40,000、水素添加率は99.8%以上、Tgは142℃であった。
【0057】[実施例1]参考例1で得た樹脂15gをキシレン85gに溶解し、これにレベリング剤(住友スリーエム社製、フロラード FC−430)500ppmを添加して、樹脂溶液組成物を得た。この樹脂溶液組成物を表面研磨されたガラス板上にたらし、これをバーコーターにより幅約300mm、長さ500mmに適量を流延した。これを、第1段階の乾燥として、ガラス板ごと空気還流型のオーブン中で20℃から50℃まで20分かけて昇温し乾燥させた。次いで、第2段階の乾燥として、樹脂膜をガラス板から剥離し、90℃のオーブンで30分乾燥し、室温に冷却後、周囲10mm幅を切り落として熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを得た。このシートの残留溶媒濃度は1.0重量%であった。
【0058】このシートの表面を目視および光学顕微鏡で観察したが、発泡、スジ、キズなどは観察されなかった。Tgは139℃、平均厚さは50μmで、厚さムラは最大でも±4μm以下、光線透過率は98.5%、レターデーション値の絶対値は全面で3nm以下であった。このシートの水蒸気透過度は25℃、90%RHの環境下で5.2g/m2・24hr(25μmの厚さに換算して約12g/m2・24hr)であった。
【0059】離型膜(藤森工業社製、バイナシート)の表面にアクリル系粘着剤(ノガワケミカル社製、DD−624)をバーコーターを用いて厚さ20μmに塗布し、80℃で2分間乾燥し、前記熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートに転写した。次いで、ヨウ素を吸着させて一軸延伸したPVA系偏光膜(厚さ約100μm)の両面に、アクリル系粘着剤層を介して前記転写シートを貼り付け、90℃で2分間保ち、5kg/cm2加圧して接着した。
【0060】接着直後と、80℃、90RH%で1時間保持、−40℃で1時間保持を交互に繰り返すヒートサイクルを200サイクル繰り返した後に、粘着強度を測定し、その結果を表1に示した。また、前記転写シートと前記熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートをアクリル系粘着剤層を介して貼り合わせ、90℃で2分間保ち、5kg/cm2加圧して接着した。接着直後とヒートサイクルを200サイクル繰り返した後に、光線透過率を測定し、その結果を表1に示した。
【0061】[比較例1]PVA系偏光膜の両面に、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートにアクリル系粘着剤を転写したものである実施例1の転写シートを貼り付けた後、加熱せずに、室温で2分間保持し、5kg/cm2で加圧して接着し、実施例1と同様に接着強度を測定した。結果を表1に示す。また、この転写シートと熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを接着し、実施例1と同様に光線透過率を測定した。
【0062】[比較例2]粘着剤として、特殊合成ゴム粘着剤(ノガワケミカル社製、DA−753)を使用したこと以外は、比較例1と同様にした。
【0063】[比較例3]粘着剤として、ホットメルト接着剤(DH−597A、ノガワケミカル社製)を使用したこと以外は、比較例1と同様にした。
【0064】
【表1】


【0065】[実施例2]ベンゾフェノン系紫外線吸収剤(共同薬品社製、Viosorb 110)とベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤(共同薬品社製、Viosorb 583)を重量比で8:2に混合し、アクリル系粘着剤(ノガワケミカル社製、DD−624;樹脂濃度47%)に対し4.7%の割合で添加したものを粘着剤として用いたこと以外は、実施例1と同様にして、PVA系シートの両面に転写シートを接着した複合シート、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートに転写シートを接着したシートを作製した。
【0066】得られた複合シートの粘着強度は、接着直後も、ヒートサイクル試験後も、5.3kg/25mmであり、紫外線吸収剤無添加の場合との差は認められなかった。熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートに転写シートを接着したシートの波長約420〜700nmでの光線透過率は、紫外線吸収剤無添加のものとの差が認められなかったが、波長400nmでは約89.9%と低く、さらに、波長380nmでは約50%、波長230〜350nmでは0%であった。
【0067】
【発明の効果】本発明によれば、PVA系シートと熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートを積層してなる透明性、高温高湿での耐久性、耐熱性、物理的強度などに優れた複合シートが提供される。本発明の複合シートは、層間接着性に優れているとともに、熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートの本来有する低複屈折性、耐湿性、耐水性、耐熱性、物理的強度等の特性を有しているため、各種分野における偏光フィルムなどとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 ポリビニルアルコール系シートの少なくとも一面に、アクリル系粘着剤層を介して熱可塑性飽和ノルボルネン系樹脂シートが積層され、加熱圧着されてなることを特徴とする複合シート。
【請求項2】 ポリビニルアルコール系シートが偏光膜である請求項1記載複合シート。