説明

複合体を含有する組成物及びその製造方法

【課題】組成物中の複合体の濃度が低い等の理由で発現した辛味等を抑えること、及び飲料中の複合体の濃度が低い等の理由で生じる食品又は医薬品原料の分解を抑制すること。
【解決手段】本発明は、食品又は医薬品原料、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を水中に分散させた組成物を製造する方法において、
前記複合体中に含まれるシクロデキストリンの量が前記組成物に対して0.6重量%未満となるときに、前記組成物中におけるシクロデキストリンの総量が前記組成物に対して0.6重量%以上となるように、シクロデキストリンをさらに添加する工程を含むことを特徴とする前記組成物の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品又は医薬品原料、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を水中に分散させた飲料などの組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
刺激のある味や香りを有する親油性成分の1つとして、例えばトウガラシの辛味成分であるカプサイシン類は、食欲増進作用、血管拡張・収縮作用、唾液分泌亢進作用、胃酸分泌亢進作用、腸管蠕動運動亢進作用、循環器系コレステロール値低下作用、エネルギー代謝亢進作用、生理活性ペプチドの放出亢進作用など、生体に有用な様々な作用を有することが知られているが、辛味が強いことから飲食品への適用範囲は限られていた。
カプサイシン類の辛味を抑制するために、カプサイシノイドの分子構造を修飾することによりその強い辛味を消失させた新規なカプサイシノイド配糖体が提案されている(特許文献1)。しかしながら、このカプサイシノイド配糖体は、新規化学合成物質であるために飲食品への使用は認められていない。
また、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを含有することを特徴とするマスキング剤及びこのマスキング剤を含有する食品が提案されている(特許文献2)。具体的には、ごま油に唐辛子抽出オイル0.1%とヘキサグリセリン縮合リシノレイン酸エステルを0.5%添加したマスキング剤含有ラー油が開示されている。しかしながら、このマスキング剤は、油分を多く含む飲食品に適用範囲が限定されると共に、ワックス様の香りを有することから飲食品の風味にも影響を与えやすい。
さらに、カプサイシンを含有する食用油脂を芯物質として、タンパク質とコアセルベート剤により壁膜が形成され、トランスグルタミナーゼが壁膜の硬化架橋剤として用いられていることを特徴とする食用マイクロカプセルが提案されている(特許文献3)。しかしながら、本発明者が実際にこの食用マイクロカプセルを調製し、ビーカーに熱水(97℃)とともに入れて攪拌したところ、芯物質が漏洩し、油浮きが生じ、飲料には適さなかった。
【0003】
また、トウガラシの他にも、例えばウコンは、香辛料、黄色色素や生薬として従来から用いられてきたが、最近は健康食品素材として注目されている。ウコンは加工飲食品、錠剤などとしても市販されているが、ウコンが有する独特の苦味をマスキングすると共に、経日変化を有効に防止することができるソフトカプセル製剤として、ゼラチンを主成分とするカプセル基材に所要の内容物が充填せしめられてなるソフトカプセル製剤であって、上記ゼラチンはpHが8〜10で酸化還元電位が−100mV〜−200mVである電解還元水に溶解して調製せしめられてなることを特徴とする、ソフトカプセル製剤が提案されている(特許文献4)。
このようにトウガラシやウコンなどをはじめ天然素材の優れた有効作用が食品、医薬品分野で注目されている。自然志向や健康志向が高まる中、伝統ある漢方薬や生薬に限らず、スパイスやハーブなど様々な素材の自然で穏やかな作用が健康を求める人々に支持されており、こうした素材が健康食品や医薬品の原料として使用されるようになってきている。
【0004】
このような状況下、本出願人は、カプサイシン類などの辛味成分、ウコン抽出物などの苦味成分に代表される刺激のある味及び/又は香りを有する親油性成分の刺激のある味及び/又は香りを効果的に抑制できる素材として、刺激のある味及び/又は香りを有する親油性成分、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体及びその製造方法を特許出願している(特許文献5)。
また、本出願人は、水存在下における親油性成分の分解・劣化を抑制する方法についても特許出願しており、この方法は、親油性成分、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を形成し、該複合体の形態にして前記新油性成分を水存在下で保存することを特徴としている(特許文献6)。
さらに、本出願人は、苦味や辛味などの刺激のある味や香りを有する親水性成分を含む素材であって、親水性成分の刺激のある味や香りを効果的に抑制することができる素材及びその製造方法を提供すること、また、水の存在下において分解される親水性成分を含む素材であって、親水性成分の経時的な分解を効果的に抑制することができる素材及びその製造方法を提供することを目的として、植物ステロールエステルと、界面活性剤で表面処理された親水性成分と、シクロデキストリンとを含む複合体を特許出願している(特許文献7)。
【0005】
【特許文献1】特許第3156240号公報
【特許文献2】特開2002−65177号公報
【特許文献3】特開2003−47432号公報
【特許文献4】特許第4469660号公報
【特許文献5】国際公開第2009/005005号パンフレット
【特許文献6】国際公開第2010/074164号パンフレット
【特許文献7】特開2010−150163号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らが上記複合体を配合した飲料などの研究開発をさらに進める過程で、飲料に対する複合体の配合を少量にした場合に、これに伴って当該複合体に含まれる食品又は医薬品原料の配合量も少なくなっているにもかかわらず、意外なことに、例えばカプサイシン類などの辛味が発現し、又は親油性成分等が分解等してしまうことがあることが分かった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明者らが検討を進める中で、カプサイシン類などの辛味等が発現した飲料に、さらにシクロデキストリンを添加することにより、辛味を抑えることができることが分かった。また、複合体の配合を少量にした飲料にさらにシクロデキストリンを添加することにより、ショウガオールなどの新油性成分の分解を抑えることができることが分かった。これらの知見を踏まえて本発明者らが検討した結果、複合体中に含まれるシクロデキストリンの量が組成物に対して特定量未満となるときに、前記組成物中におけるシクロデキストリンの総量が上記特定量以上となるように、シクロデキストリンをさらに添加することにより上記課題を解決することができることが分かった。
【0008】
すなわち、本発明は、食品又は医薬品原料、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を水中に分散させた組成物を製造する方法において、
前記複合体中に含まれるシクロデキストリンの量が前記組成物に対して0.6重量%未満となるときに、前記組成物中におけるシクロデキストリンの総量が前記組成物に対して0.6重量%以上となるように、シクロデキストリンをさらに添加する工程を含むことを特徴とする前記組成物の製造方法を提供する。
また、本発明は、食品又は医薬品原料、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を水中に分散させた組成物であって、
前記複合体中に含まれるシクロデキストリンの量が前記組成物に対して0.6重量%未満であり、
前記組成物中におけるシクロデキストリンの総量が前記組成物に対して0.6重量%以上となるように、前記組成物にシクロデキストリンがさらに添加されていることを特徴とする前記組成物を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、飲料中の複合体の濃度が低い等の理由で発現した辛味等を抑えた飲料を提供することができる。また、飲料中の複合体の濃度が低い等の理由で生じる食品又は医薬品原料の分解を抑制した飲料などの組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の組成物は、食品又は医薬品原料、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を含有する。前記複合体は、さらに中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドを含んでもよい。
前記複合体に含まれる食品又は医薬品原料としては、特に制限はないが、刺激のある味及び/又は香りを有する原料、あるいは保存中に減退しやすく不安定である原料を対象とする場合に特に有効である。前記複合体は、食品又は医薬品原料を植物ステロールエステル(又は、植物ステロールエステル及び中鎖脂肪酸トリアシルグリセリド)からなる脂質の中に取り込んで外部と遮断する構造、つまり一種のカプセル構造を有しているものと考えられる。したがって、前記複合体に適用される食品又は医薬品原料としては、植物ステロールエステル(又は、植物ステロールエステル及び中鎖脂肪酸トリアシルグリセリド)からなる脂質の中に取り込むことができれば、特に制限はない。
このことから、食品又は医薬品原料が親油性成分である場合には、植物ステロールエステル及び中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドとの親和性がよいため、そのまま植物ステロールエステル、中鎖脂肪酸トリアシルグリセリド及びシクロデキストリンと混合して複合体を形成することができる。こうした親油性成分としては、例えば親油性の辛味成分の1つであるカプサイシン類が挙げられる。このカプサイシン類の中には、カプサイシン、ジヒドロカプサイシン、ノルジヒドロカプサイシン、ホモカプサイシン、バニリルノナンアミド、バニリルブチルエーテルが含まれる。トウガラシオレオレジンなどのトウガラシ抽出物は、カプサイシンを多く含み、カプサイシン類を含む原料として好適に使用することができる。
また、カプサイシン類以外の親油性成分としては、ショウガの辛味成分である(6)−ジンゲロール、(6)−ショウガオール、ジンゲロン、(8),(10)−ショウガオール、コショウの辛味成分であるピペリン、ピペラニン、サンショウの辛味成分であるサンショオールなどが挙げられる。ショウガ、コショウ、サンショウの辛味成分を含む原料としては、コショウ抽出物、ショウガ抽出物、サンショウ抽出物を夫々好適に使用することができる。
また、本発明は、辛味成分の他にも、苦味のある親油性成分を含むウコン抽出物といった親油性の苦味成分にも適用することができる。さらに、本発明は、上記の香辛料親油成分だけでなく、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸などの不飽和脂肪酸にも適用することができる。
また、前記複合体は、親油性成分が、例えば水との相互作用により、又は水存在下において光、酵素、酸素、熱などとの相互作用により分解されることを抑制できる。すなわち、前記複合体は親油性成分を安定化し、その保存性を向上させる。したがって、前記親油性成分として、例えばカプサイシン類と類似構造を持った辛味のない物質、例えばカプシノイド類、不飽和脂肪酸、ウコンの色素成分であるクルクミンなどについても好適に使用することができ、これらの安定性向上に効果がある。
【0011】
食品又は医薬品原料が親水性成分である場合には、植物ステロールエステル及び中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドとの親和性を高めるために、界面活性剤で表面処理された親水性成分であるのが好ましい。こうした親水性成分としては、カフェイン、ビタミンB群、ベタニン、イソベタニンなどが挙げられる。
カフェインはコーヒーや紅茶等に含まれる成分である。強い苦味を有するが、眠気防止やストレス緩和、肥満予防等の生理効果があることが知られている。
ビタミンB群は水溶性ビタミンのうち、ビタミンB1、ビタミンB2、ナイアシン、パントテン酸、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸、ビオチンの8種類の総称で、ビタミンB複合体とも呼ばれる。大豆等の豆・種子類や豚・牛レバー等に含まれるものが多い。生体内では、補酵素の原料として利用される為、体内の物質代謝には不可欠である。
ベタニン、イソベタニンは赤ビートに含まれる赤色色素の主成分であり、天然食用色素として利用されている。鮮やかな赤色で、pHによる色調変化が少なく、pH4〜7の範囲で安定である事が知られているが、熱に対して不安定である。
【0012】
本発明において使用する植物ステロールエステルとは、植物性ステロールのステロール骨格中の水酸基に脂肪酸がエステル結合することによって得られる物質である。植物ステロールエステルの製造方法としては、例えば酵素を利用した酵素方法などが挙げられる。酵素方法としては、触媒としてリパーゼなどを利用し、植物ステロールと脂肪酸とを混合し、反応(30〜50℃で48時間程度)させることによって植物ステロールエステルを得る方法などが挙げられる。また、その他の合成方法としては、大豆などから生成された植物性ステロールを菜種油、コーン油などから得られた脂肪酸で、触媒の存在下で脱水することにより、エステル化して植物ステロールエステルを得る方法などが挙げられる。
植物性ステロールとしては、植物油脂中に含まれるステロールなどが挙げられ、例えば大豆、菜種、綿実などの植物油脂から抽出・精製されたものであり、β−シトステロール、カンペステロール、スチグマステロール、ブラシカステロール、フコステロール、ジメチルステロールなどを含む混合物であってもよい。例えば、大豆ステロールには、53〜56%のシトステロール、20〜23%のカンペステロール及び17〜21%のスチグマステロールが含まれる。植物性ステロールとして、「フィトステロール F」(タマ生化学工業株式会社製)として市販されているものを使用することもできる。
脂肪酸としては、植物由来のもの、例えば菜種油、パーム油由来のものであってもよく、又は動物由来のものであってもよい。例えば、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、アラキドン酸、オレイン酸、リノール酸、α−リノレン酸、γ−リノレン酸、エイコサペンタエン酸、ドコサヘキサエン酸、パルミトオレイン酸、ラウリン酸などが挙げられる。
好ましい植物ステロールエステルとしては、大豆由来の植物ステロールと菜種油由来の脂肪酸から得られる植物ステロールや大豆及び菜種由来の植物ステロールとパーム油由来の脂肪酸から得られる植物ステロールエステルなどが挙げられる。前者には、三栄源エフ・エフ・アイ(株)の「サンステロールNO.3」などがあり、後者には、タマ生化学(株)の「植物ステロール脂肪酸エステル」などがある。
【0013】
本発明において使用する中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドとは、炭素数8の脂肪酸であるオクタン酸(慣用名カプリル酸)又は炭素数10の脂肪酸であるデカン酸(慣用名かプリン酸)である中鎖脂肪酸をその構成成分とするトリグリセリドである。
【0014】
本発明において使用するシクロデキストリンとは、ブドウ糖を構成単位とする環状無還元マルトオリゴ糖のことである。シクロデキストリンとしては、ブドウ糖の数が6つのα−シクロデキストリン、7つのβ−シクロデキストリン、8つのγ−シクロデキストリンの何れも使用できるが、人の消化酵素で分解されると共に水への溶解性が高く飲食品、特に飲料に使用しやすいという点からγ−シクロデキストリンが好ましい。
【0015】
前記複合体は、水の共存下において、食品又は医薬品原料と、植物ステロールエステルと、シクロデキストリンと、任意成分として中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドとを混合することにより得ることができる。前記複合体を製造する場合、植物ステロールエステルと中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドの量は、対象とする食品又は医薬品原料によっても異なってくるが、例えば食品又は医薬品原料1重量部に対して、植物ステロールエステルと中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドの合計量が0.5〜30000重量部であるのが好ましい。また、シクロデキストリンの量は、例えば植物ステロールエステルと中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドの合計量1重量部に対して0.00135〜135重量部であるのが好ましく、ホモジナイザーによりホモゲナイズ処理する場合には0.00135〜15重量部であるのがより好ましい。また、複合体を製造する場合に共存させる水の量としては、例えばシクロデキストリン1重量部に対して0.01〜100重量部であるのが好ましく、0.1〜10重量部であるのがより好ましい。また、親水性成分の表面を界面活性剤で処理する場合の界面活性剤の量は、例えば親水性成分1重量部に対して0.0001〜10重量部であるのが好ましく、0.0001〜10重量部であるのがより好ましい。また、前記複合体を製造する場合、混合は好ましくは40〜90℃、より好ましくは50〜85℃に加温して行うのがよい。
また、前記複合体において、植物ステロールエステル及び中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドの比率は、重量比で9:1〜1:9、より好ましくは7:3〜3:7であるのがよい。
前記複合体は、より具体的には、次の(1)〜(3)のいずれの方法でも製造することができるが、食品又は医薬品原料の味、香りをより効果的に抑制する上では、(1)の方法が特に好ましい。
(1)食品又は医薬品原料を植物ステロールエステル又は植物ステロールエステルと中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドの混合物に溶解し、シクロデキストリン及び水を含む混合物を調製し、食品又は医薬品原料を溶解させた植物ステロールエステル又は植物ステロールエステルと中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドの混合物を前記シクロデキストリン及び水を含む混合物に混合する。
(2)シクロデキストリン、水、植物ステロールエステル及び任意成分として中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドを含む混合物を調製し、食品又は医薬品原料及び水を前記混合物に混合する。
(3)食品又は医薬品原料及びシクロデキストリンを含む混合物を調製し、水、植物ステロールエステル及び任意成分として中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドを前記混合物に混合する。
【0016】
これらの方法のうち、前記(1)の方法についてより具体的に説明すると、次の通りである。すなわち、食品又は医薬品原料を植物ステロールエステル及び中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドに溶解する工程では、対象とする食品又は医薬品原料によっても異なってくるが、例えば食品又は医薬品原料がカプサイシン類である場合には、カプサイシン類1重量部を植物ステロールエステルと中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドの合計30〜30000重量部に溶解する。食品又は医薬品原料を植物ステロールエステルに溶解させるには、食品又は医薬品原料を植物ステロールエステル及び中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドに加え、これを40〜80℃、好ましくは50〜70℃に加温して溶解するのがよい。或いは、予め植物ステロールエステル及び中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドを40〜80℃、好ましくは50〜70℃に加温し、これに食品又は医薬品原料分を加えて溶解させてもよい。
シクロデキストリン及び水を含む混合物を調製する工程において、シクロデキストリン及び水の量は、後に複合体を形成できるような量であれば特に制限はないが、例えばシクロデキストリンの量は、例えば植物ステロールエステルと中鎖脂肪酸トリアシルグリセリドの合計量1重量部に対して0.00135〜135重量部であり、ホモジナイザーによりホモゲナイズ処理する場合には0.00135〜15重量部であるのが好ましい。また、水の量としては、例えばシクロデキストリン1重量部に対して0.01〜100重量部であり、0.1〜10重量部であるのが好ましい。
【0017】
食品又は医薬品原料を溶解させた植物ステロールエステルを前記混合物に混合する工程では、本発明の複合体が形成されるまで混合する。このようにして形成された複合体は、混合を停止してしばらく静置すると水中の下方に粒状物として沈殿する。尚、ここでの混合は、これらをしっかりと混練して複合体を形成する上で、ニーダ等のせん断力の強い混合装置を使用するのがよい。
得られた複合体は任意の形態とすることができ、例えば賦形剤を使用するなどして、粉状物や顆粒状物にすることもできる。また、水などの溶媒に分散又は乳化させた液状物やペースト状物の形態であってもよい。
【0018】
前記複合体は、水に分散しやすいことから飲食品、医薬品に配合することができ、種々の組成物として提供することができる。より具体的には、前記複合体を配合した飲食品としては、例えば、飲料などの液状組成物やゼリーなどのゲル状組成物を挙げることができる。ここで、前記複合体を飲料に配合する場合を例に挙げると、例えば、前記複合体を水に加え、これに酸味料を添加してpHを4.0以下、好ましくは2.5〜3.5とし、これに甘味料や果汁、香料、色素、ビタミンC等の原料に添加混合し、65〜100℃に加熱して殺菌処理を施し、容器に充填密封することにより加熱殺菌済の容器入り飲料を製造することができる。また、上記原料にゲル化剤を添加することにより容器入りゼリーを製造することもできる。ここで、前記複合体を含む組成物において、前記複合体中に含まれるシクロデキストリンの量が前記組成物に対して0.6重量%未満となる場合には、食品又は医薬品原料の辛味等が発現し、また分解等の劣化を生じることがある。本発明の組成物は、これらの発現した辛味等を抑制し、また分解等の劣化を抑制するために、前記組成物中におけるシクロデキストリンの総量が前記組成物に対して0.6重量%以上、より好ましくは0.65重量%以上となるように、前記複合体とは別に、シクロデキストリンをさらに添加する。
【0019】
尚、複合体中に含まれるシクロデキストリンの量が組成物に対して0.6重量%未満となった場合にカプサイシン類などの辛味が発現し、又は親油性成分等が分解等してしまうことがある理由は定かではないが、次のように考えられる。
すなわち、複合体の中には、植物ステロールエステルとシクロデキストリンとの疎水結合の強い部分と弱い部分とが共存し、組成物に対するシクロデキストリンの量が少なくなると、疎水結合の弱い部分からシクロデキストリンが遊離して複合体のカプセル構造が弱まり、食品又は医薬品原料の成分が外部に漏れやすくなるものと考えられる。
【0020】
これに対して、前記組成物中におけるシクロデキストリンの総量が前記組成物に対して0.6重量%以上となるように、シクロデキストリンをさらに添加した場合には、疎水結合の弱い部分におけるシクロデキストリンの遊離を防止し、カプセル構造を補強することができていると考えられる。本発明によれば、複合体中のシクロデキストリン量を抑えて、組成物に対してさらに添加するシクロデキストリン量を調整することにより、複合体の配合量の多い組成物から少ない組成物まで、シクロデキストリン量の異なる複合体を準備しなくても同じシクロデキストリン量の複合体を使用することができるというメリットがある。
【0021】
本発明の組成物は、前記複合体、水及び増粘剤を含み、前記複合体が水中に分散した形態の液状組成物として提供することもできる。すなわち、前記複合体は水中で沈殿しやすいが、増粘剤を含ませることで前記複合体が水中に分散保持された液状組成物を提供することができる。また、この液状組成物は、例えば容器入り飲料などの容器入り液状組成物として提供することもでき、この場合には、容器内において油成分の分離が生じることがなく、油成分が容器内面に付着することがないという利点を有している。
ここで増粘剤としては、例えば、ジェランガム、発酵セルロース、キサンタンガム、アラビアガム、タマリンドガム、グアーガム、ローカストビーンガム、カラヤガム、タラガム、寒天、ゼラチン、ペクチン、大豆多糖類、CMC(カルボキシメチルセルロース)、カラギナン、微結晶セルロース、アルギン酸プロピレングリコールエステルなどが挙げられる。これらの中でも、複合体が水中に均一に分散させ且つ経口摂取したときの口当たりが良いとの観点から、発酵セルロースを使用するのが好ましい。
増粘剤の量としては、前記複合体を水中に分散させることのできる量であれば特に制限はないが、例えば液状組成物に対して0.01〜1.0重量%含有させるのがよい。
【実施例】
【0022】
(1)複合体の製造
カプシカムオレオレジン0.0025重量部(カプサイシン類含有量40重量%)、中鎖脂肪酸トリアシルグリセリド(J−オイルミルズ社製「MCT−1」)0.12重量部及び植物ステロールエステル(三栄源エフ・エフ・アイ社製「サンステロールNo.3」)0.18重量部をビーカーに入れ、沸騰水中で加熱溶解した。
ステンレス容器に、水(80℃)1.0975重量部、及びγシクロデキストリン1.1重量部を入れ、溶解した。
前記γ−シクロデキストリン溶解物に、カプシカムオレオレジン、中鎖脂肪酸トリアシルグリセリド及び植物ステロールエステル溶解物を加え、回転型ホモジナイザー(5000rpm10分間)で処理した。さらに三連型高圧式ホモジナイザー(圧力100MPa)にて処理し、複合体を得た。
【0023】
【表1】

【0024】
(2)飲料の製造
(コントロール)
スクラロース、クエン酸、クエン酸ナトリウム、キサンタンガム、及び水からなる調味液を作製した。各原料の添加量を表2に示す。
前記複合体2.5重量部を、前記調味液に分散した液を作製した。
前記複合体分散液を93℃達温した後、容器に充填し、密封した。その後、氷水中で冷却した。このときの複合体分散液のpHは3.5であった。
当該飲料の辛味は感じず、良好であった。
【0025】
(比較例1)
複合体の添加量をコントロールの1/10にした以外はコントロールと同様に飲料を作製した。
当該飲料の辛味は強く、飲料として不適であった。
【0026】
(実施例1)
γシクロデキストリン0.99重量部を飲料に添加した以外は比較例1と同様に飲料を作製した。
当該飲料の辛味は感じず、良好であった。
【0027】
(比較例2)
複合体の添加量をコントロールの1/2にした以外はコントロールと同様に飲料を作製した。
当該飲料の辛味は強く、飲料として不適であった。
【0028】
(実施例2)
γシクロデキストリン0.55重量部を飲料に添加した以外は比較例2と同様に飲料を作製した。
当該飲料の辛味は感じず、良好であった。
【0029】
【表2】

【0030】
(実施例3)
80℃に加温した植物ステロールエステル0.06重量部及び中鎖脂肪酸トリグリセリド0.04重量部に対し、ショウガ抽出物(超臨界二酸化炭素で抽出したもの)0.015重量部を添加して溶解した。
別途、γシクロデキストリン0.37重量部及び水0.37重量部を80℃に加温しながらTKホモミキサーで混合した。
前記γ−シクロデキストリン溶解物に、上記のショウガ抽出物を溶解した油相0.115重量部を加え、引き続き80℃で加温しながらTKホモミキサーで攪拌し、予備乳化を行った。
予備乳化後、高圧ホモジナイザー(エムエムティー社製 LAB1000 圧力:100MPa)を通過させ、ショウガ抽出物含有複合体を作製した。
得られたショウガ抽出物含有複合体0.855重量部、クエン酸0.3重量部、クエン酸三ナトリウム0.12重要部及びγシクロデキストリン0.72重量部を水98.005重量部に分散させ、ミキサーで30秒攪拌し、ショウガ抽出物複合体含有飲料を作製した。この飲料を93℃達温まで加熱し、3分間90℃保持で殺菌後、パウチに充填した。その後、恒温水槽中に83℃5分間保持し、後殺菌を行った。
【0031】
(実施例4)
80℃に加温した植物ステロールエステル0.06重量部及び中鎖脂肪酸トリグリセリド0.04重量部に対し、ショウガ抽出物(超臨界二酸化炭素で抽出したもの)0.015重量部を添加して溶解した。
別途、γシクロデキストリン0.37重量部及び水0.37重量部を80℃に加温しながらTKホモミキサーで混合した。
前記γ−シクロデキストリン溶解物に、上記のショウガ抽出物を溶解した油相0.115重量部を加え、引き続き80℃で加温しながらTKホモミキサーで攪拌し、予備乳化を行った。
予備乳化後、高圧ホモジナイザー(エムエムティー社製 LAB1000 圧力:100MPa)を通過させ、ショウガ抽出物含有複合体を作製した。
得られたショウガ抽出物含有複合体0.855重量部、クエン酸0.3重量部、クエン酸三ナトリウム0.12重要部及びγシクロデキストリン1.08重量部を水97.645重量部に分散させ、ミキサーで30秒攪拌し、ショウガ抽出物複合体含有飲料を作製した。この飲料を93℃達温まで加熱し、3分間90℃保持で殺菌後、パウチに充填した。その後、恒温水槽中に83℃5分間保持し、後殺菌を行った。
【0032】
(比較例3)
80℃に加温した植物ステロールエステル0.06重量部及び中鎖脂肪酸トリグリセリド0.04重量部に対し、ショウガ抽出物(超臨界二酸化炭素で抽出したもの)0.015重量部を添加して溶解した。
別途、γシクロデキストリン0.37重量部及び水0.37重量部を80℃に加温しながらTKホモミキサーで混合した。
前記γ−シクロデキストリン溶解物に、上記のショウガ抽出物を溶解した油相0.115重量部を加え、引き続き80℃で加温しながらTKホモミキサーで攪拌し、予備乳化を行った。
予備乳化後、高圧ホモジナイザー(エムエムティー社製 LAB1000 圧力:100MPa)を通過させ、ショウガ抽出物含有複合体を作製した。
得られたショウガ抽出物含有複合体0.855重量部、クエン酸0.3重量部及びクエン酸三ナトリウム0.12重要部を水98.725重量部に分散させ、ミキサーで30秒攪拌し、ショウガ抽出物複合体含有飲料を作製した。この飲料を93℃達温まで加熱し、3分間90℃保持で殺菌後、パウチに充填した。その後、恒温水槽中に83℃5分間保持し、後殺菌を行った。
【0033】
【表3】

【0034】
実施例3及び4並びに比較例3で作製した飲料を60℃で保存した。保存前及び2週間後の飲料のショウガオールを液体クロマトグラフィーで定量した。結果を表4に示す。なお、ショウガオールの残存率は、保存前(0週)の各値を100%とし、保存2週間後の値を百分率で表した。表4から明らかなように、実施例3及び4は比較例3と比較して、ショウガオールの分解を抑制できている。つまり、加工食品作製時の製品配合でγシクロデキストリンを追加添加することで、ショウガ抽出物中の有効成分の安定性を向上できることが分かった。
【0035】
【表4】

【0036】
液体クロマトグラフィー 前処理方法
飲料25gを遠心分離(3000rpm 10分間)後、上清を除去し、DMSO(ジメチルスルホキシド)3mlを添加し、超音波を照射により沈殿物を溶解した。さらに、メタノールで50mlに定容し、0.45μmフィルター濾過後、検液とした。
【0037】
液体クロマトグラフィー 測定条件
UV 282nm
カラム ODS C18
流速 1.0ml/min
注入量 20μl
分析時間 30分
移動相 アセトニトリル:水:THF(テトラヒドロフラン)=45:50:5

【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品又は医薬品原料、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を水中に分散させた組成物を製造する方法において、
前記複合体中に含まれるシクロデキストリンの量が前記組成物に対して0.6重量%未満となるときに、前記組成物中におけるシクロデキストリンの総量が前記組成物に対して0.6重量%以上となるように、シクロデキストリンをさらに添加する工程を含むことを特徴とする前記組成物の製造方法。
【請求項2】
食品又は医薬品原料、植物ステロールエステル及びシクロデキストリンを含む複合体を水中に分散させた組成物であって、
前記複合体中に含まれるシクロデキストリンの量が前記組成物に対して0.6重量%未満であり、
前記組成物中におけるシクロデキストリンの総量が前記組成物に対して0.6重量%以上となるように、前記組成物にシクロデキストリンがさらに添加されていることを特徴とする前記組成物。

【公開番号】特開2012−85615(P2012−85615A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−237571(P2010−237571)
【出願日】平成22年10月22日(2010.10.22)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】