説明

複合化繊維及びそれを用いた成形体

【課題】繊維と粉体との結合力が強く、該粉体の担持量も充分である複合化繊維、及びそれを用いた成形体を提供すること。
【解決手段】本発明の複合化繊維は、繊維素材の表面に粉体が固定化されてなる。該粉体は、バインダーを用いることなく該繊維素材の表面に固定化されているか、又は該粉体は、該複合化繊維の質量に対して25質量%以下の量のバインダーによって該繊維素材の表面に固定化されている。該粉体の固定化率が40%以上である。繊維素材の表面が、前記粉体で連続的に被覆されていることが好ましい。特に、前記粉体を構成する粒子の平均粒子径よりも大きな厚みをもって前記粉体が前記繊維素材の表面を被覆していることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維素材の表面が粉体に付着してなる複合化繊維及びそれを用いた成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
繊維表面の改質や繊維に新機能を付与する等の目的で、繊維と粒子とを複合化することが行われている。例えば、着色、消臭、抗菌等の各種機能を有する粒子を、バインダーを含有する液に配合して、繊維表面にコーティングする方法や、液中に溶解させた化合物を繊維表面に粒子状に析出させる方法が知られている。しかし、コーティングは、バインダーが必要であると共に、バインダーの存在によって粒子が被覆され、粒子の機能が充分に発現されない場合がある。また、化合物を析出させる方法は、粒子の繊維に対する結合力が弱く、例えばその繊維を用いて各種成形体の製造する際の製造過程において粒子が脱落したり、製品として完成後に粒子が脱落したりする問題がある。
【0003】
また、繊維表面の改質方法として、繊維の表面に、高速気流中衝撃法により粒子を固着させる方法が提案されている(特許文献1参照)。しかし、特許文献1の改質方法においては、繊維の表面に散点状に粒子を固着させており、粒子の担持量が少なく、例えば、当該粒子により新たな機能を付与しようとしても、該機能を充分に付与することができない。また、装置の構造に起因して流路の幅に制限があり、一度に多くの繊維を処理することができない。或いは流路に繊維が詰まることにより複合化処理を達成することが困難であった。
【0004】
特許文献2には、酸化チタンをパルプ及び/又は紙の繊維表面にミキサー混合により押し付け固定化する処理工程を具備する光触媒パルプ組成物の製造方法が記載されている。しかし、特許文献2の方法は、繊維及び粒子がパルプ繊維及び酸化チタンに制限され、多様な性能を有する複合化繊維を得ることができない。
【0005】
特許文献3には、ヘンシェル型混合機やリーディッヒ型混合機を用い、繊維の表面に粉体を付着させることが記載されている。しかし付着のために加えられるエネルギーのレベルは低く、粉体は極めて弱い力でしか付着していないと考えられる。したがって使用の最中に外力が加わると粉体が容易に脱落してしまうおそれがある。
【0006】
【特許文献1】特開平11−81127号公報
【特許文献2】特開平11−323773号公報
【特許文献3】特開平7−104762号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、繊維と粉体との結合力が強く、該粉体の担持量も充分である複合化繊維、及びそれを用いた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、繊維素材と粉体とに機械的エネルギーを加えて得られ、該繊維素材の表面が該粉体で連続的に被覆されている複合化繊維を提供するものである。
【0009】
また本発明は、繊維素材の表面に粉体が固定化されており、
該粉体は、バインダーを用いることなく該繊維素材の表面に固定化されているか、又は該粉体は、該複合化繊維の質量に対して25質量%以下の量のバインダーによって該繊維素材の表面に固定化されており、以下の式で定義される該粉体の固定化率が40%以上である複合化繊維を提供するものである。
【0010】
【数2】

【0011】
また本発明は、前記複合化繊維を用いて得られた成形体を提供するものである。
【0012】
また本発明は、前記の複合化繊維を製造する製造方法であって、繊維素材と粉体とに高速攪拌による機械的エネルギーを印加することによって繊維素材と粉体を複合化させる複合化繊維の製造方法を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、前記複合化繊維を製造する製造方法であって、繊維素材と粉体とに剪断力による機械的エネルギーを印加することによって繊維素材と粉体を複合化させる複合化繊維の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の複合化繊維は、繊維と粉体との結合力が強く、該粉体の担持量も充分である。本発明の成形体は、粉体の脱落が生じにくく、所望の機能が充分に発現するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。先ず、本発明の複合化繊維について説明する。本発明の複合化繊維は、繊維素材の表面に粉体が固定化されて、該繊維素材の表面が該粉体で被覆されてなるものである。
【0016】
本発明で用いられる繊維素材としては、有機繊維が挙げられる。有機繊維としては、例えばパルプ繊維、コットン、レーヨン等のセルロース系の天然又は半合成繊維、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート等のポリエステル繊維、ポリアミド繊維等が挙げられる。これら有機繊維は、熱融着性を有していることが好ましい。複合化繊維を用いた成形体の製造において、融着させることができるからである。本発明で用いられる他の繊維素材としては、無機繊維が挙げられる。無機繊維としては、例えばセラミック繊維、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。これらの繊維は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
上述した各種の繊維は、使用する用途、複合化する粉体に応じて、耐熱性、対溶剤性、弾性率、硬度、繊維長、繊維径などの物性を選択することが好ましい。
【0018】
原料として用いる繊維素材の平均繊維長は、複合化繊維の製造方法にもよるが、0.01〜100mm、特に0.1〜10mmであることが、複合化装置への供給時のハンドリング性、処理中の繊維と機能粉体の分散性、及び均一な被覆を達成する点から好ましい。本明細書における「平均繊維長」の測定には、KAJAANI FS−200繊維長測定器を用いた。この測定器を用いて算出される長さ加重平均繊維長の値を平均繊維長とした。測定条件はファイバーカウント2万以上とした。前記繊維長測定器で測定できない繊維については、顕微鏡により実測することで繊維長を測定した。当該繊維が屈曲している場合や、カールしている場合には、伸長状態における長さを測定した。
【0019】
原料として用いる繊維素材の繊維径は、併用される粉体の粒子径や複合化繊維の製造方法にもよるが、0.1〜1000μm、特に5〜300μmであることが、複合化繊維製造中における粉体との接触頻度及びハンドリング性の点から好ましい。
【0020】
本発明で用いる粉体は有機化合物であり得る。また無機化合物でもあり得る。更にこれらの複合化合物であり得る。無機化合物としては金属、金属酸化物、粘土鉱物、鉱石などの水不溶性物質又は水難溶性物質が挙げられる。それらの例としては炭酸カルシウム、酸化チタン、タルク、ゼオライト、アパタイト、水酸化マグネシウム、酸化鉄、酸化亜鉛、活性炭、トルマリン等の金属、金属酸化物、粘土鉱物、鉱石などの水不溶性物質又は水難溶性物質が挙げられる。有機化合物としては、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアクリル等の熱可塑性樹脂、フェノール、エポキシ等の熱硬化性樹脂からなる粒子やカプセル化中空粒子等、キチン、キトサン、セリシン、フィブロイン、コラーゲン等の天然物質などの水不溶性物質又は水難溶性物質が挙げられる。無機化合物と有機化合物との複合化合物としてもよい。例えば、各種有機樹脂粒子に銀を担持した粒子やアミノ基やスルホン基を導入した粒子が挙げられる。また、カテキンやビタミン等の機能材をカプセル化した粒子も用いることができる。
【0021】
本発明で用いる粉体としては、所定の機能を有するものが好ましく用いられる。機能材としては、繊維表面に、繊維素材が元来有しない機能ないし性質を付与し得るものや、繊維素材が元々有する機能ないし性質を向上させたり、改変させたりするものが好ましく用いられる。粉体により付与又は向上させ得る機能ないし性質としては、親水性(又は疎水性)、吸水保持性、繊維表面の色、抗菌性、酵素、微生物等の他の物質との結合性、化学反応に対する触媒活性、発熱又は吸熱性、水に溶解することで化学的変化を生じさせる性質等が挙げられる。
【0022】
吸水保持性を付与又は向上させる粉体としては、高吸水性ポリマーやベントナイト等が挙げられる。高吸水性ポリマーとしては、生理用ナプキンや使い捨ておむつ等の吸収性物品に従来用いられている各種のものを用いることができる。高吸水性ポリマーとしては、デンプンや架橋カルボキシルメチル化セルロース、アクリル酸又はアクリル酸アルカリ金属塩の重合体又は共重合体等、ポリアクリル酸及びその塩並びにポリアクリル酸塩グラフト重合体を用いることができる。高吸水性ポリマーは、自重の20倍以上の液体を吸収でき且つゲル化し得るものが好ましい。
【0023】
酵素等の他の物質との結合性を付与又は向上させる粉体としては、酵素や各種たんぱく質の固定化担体となる高分子化合物(例えば、上述したフェノール樹脂等)からなる粉体やスルホン基やカルボキシル基を導入したアニオン性樹脂粉体、アミノ基を導入したカチオン性樹脂粉体、等が挙げられる。酵素等の固定化担体となる高分子化合物からなる粉体を固定することで、各種の酵素や機能性たんぱく質等と結合させることが容易になる。
【0024】
化学反応に対する触媒活性を付与させる粉体としては、例えば触媒を担持した担体(例えば上述したゼオライト)、二酸化チタン、酸化銅、酸化亜鉛等が挙げられる。触媒を担持した担体を繊維素材に付着させることで、該繊維素材を用いて製造される成形体の形状を、反応条件や反応装置に応じた適切なものとすることができる。
【0025】
発熱又は吸熱性を付与させる粉体としては、例えばゼオライト等が挙げられる。十分に乾燥したゼオライトは、常温では空気中の水分を吸収し発熱することが知られている。したがってゼオライトの粒子を繊維素材の表面に固定化して複合化繊維となし、該複合化繊維を用いてシートを成形することで、このシートを発熱シートとして用いることができる。ゼオライトに代えて、水分を吸収して吸熱する材料を用いれば、冷却シートを得ることができる。
【0026】
水に溶解することで生じる化学的変化には、例えば水に溶解することでガスが発生する化学変化が挙げられる。発生するガスの種類としては、例えば二酸化炭素や酸素などが挙げられる。二酸化炭素を発生させるためには、例えばフマル酸と炭酸水素ナトリウムとの混合物を用いればよい。酸素を発生させるためには例えば過炭酸ナトリウムを用いればよい。
【0027】
粉体を構成する粒子の平均粒子径は、繊維素材の材質や繊維径にもよるが、0.01〜500μm、特に0.1〜50μmであることが、粉体供給時のハンドリング性と、易固定化性の点から好ましい。本明細書における平均粒子径とは、顕微鏡法により測定された投影面積円相当径をいう。例えば画像解析式粒度分布測定装置(シスメックス社製 FPIA−2100)を用いて、JIS Z 8901に準じて測定される。
【0028】
粉体は、繊維素材の表面に固定化されている。この固定化は、バインダーを用いることなく達成される。或いはバインダーを用いたとしても、その使用量が複合化繊維の質量に対して25質量%以下、特に10質量%以下という少量でもって粉体の固定化が達成されている(したがってバインダー使用量の下限値は、複合化繊維の質量に対して0質量%である。)。これによって、本発明においては、バインダーを多量に使用することに起因して粉体それ自身が有する性能が減殺されるという従来技術の課題が解決される。
【0029】
本発明における粉体の固定化は、繊維素材と粉体に乾式で機械的エネルギーを印加することで達成される。機械的エネルギーの種類としては、撹拌衝撃力によって発生するエネルギー、圧縮・剪断力によって発生するエネルギー、高速気流によって発生するエネルギーなどがある。撹拌衝撃力によって機械的エネルギーを発生させるためには、例えば乾式の撹拌混合機(例えば大阪ケミカル株式会社から販売されている高速攪拌ミルである「アブソルートミル(商品名)」など)、ハンマーミル、ピンミル等の粉砕機、遊星型ボールミル等を用いればよい。圧縮・剪断力によってエネルギーを発生させるためには、例えば低速回転する楕円形の容器とその中心で高速回転する楕円ローターがそれぞれ反対方向に回転することで、被処理物に乾式で圧縮力と剪断力を繰り返し印加する装置(例えばシータ・コンポーザ)、ボールミル、後述の単軸(一軸)又は多軸の混練機(押出機)を用いればよい。高速気流によって機械的エネルギーを発生させるためには、例えば空気等の気体の高速ジェット流に繊維素材及び粉体を搬送させて、衝突板等に衝突させられるジェットミル、ショットピーニング装置等を用いればよい。
【0030】
上述のように、本発明における粉体の固定化は、繊維素材と粉体とを混合し、両者に剪断力を加えることでも達成される。剪断力によってエネルギーを発生させるためには、例えば一軸又は多軸の混練機(スクリュー押出機)を用いればよい。そのような装置としては例えば株式会社東洋精機製作所のラボプラストミル(商品名)、株式会社日本製鋼所の二軸混練押出し機がある。また、バッチ式の加圧式混練機を用いることも出来る。例えば、株式会社モリヤマの加圧型ニーダーがある。
【0031】
剪断力を加える装置として一軸又は多軸の混練機を用いる場合の操作条件は、繊維素材及び粉体の種類やそれらの配合比に応じて適切な値が選択されるが、一般にスクリューの回転数は5〜3000rpm、特に10〜100rpmが好ましい。シリンダブロックは、繊維素材及び粉体の種類に応じ、加熱してもよく加熱しなくてもよい。
【0032】
前述の各機械的エネルギーを印加することで、繊維素材の表面に粉体を確実に付着させることが可能となる。特に、機械的エネルギーを印加するときの条件(例えば後述する仕込み比や、機械エネルギーの印加量等)等によって、繊維素材の表面に粉体を極めて強固に固定化させることが可能である。具体的には、以下の式で定義される固定化率が好ましくは40%以上、更に好ましくは60%以上という高いものとなる。固定化率の最大値は100%である。固定化率がかかる範囲内であると、粉体の実用上の脱落がほとんど無く、取り扱いが容易となる。また、粉体が有する機能を十分に発揮させることができる。
【0033】
【数3】

【0034】
複合化繊維は、複合化処理直後は繊維全体に余剰の粉体が付着しているため、ふるいにより余剰粉体と複合化繊維を分離する必要がある。例えば、目開き100μm、直径300mm、高さ50mmの試験用篩に複合化に使用した装置の処理槽内にある内容物全量を投入し、ふるい振とう機(レッチェ社AS200)を用いて、ふるい面加速度10Gで30分間処理することにより分離される。
【0035】
次いで、複合化繊維に対して、ふるい分離後に室温状態(23℃)下で流水洗浄、攪拌洗浄を行う。流水洗浄は以下の手順で行う。繊維が脱落せずに粉体のみ脱落するような目開きの試験ふるい上に複合化繊維を静置し、試験ふるいの下部開口部を遮断することで、複合化繊維質量の200倍の質量の非溶解性(複合化繊維および粉体に対して非溶解性)の流体を満たす。この際、満たした該流体が複合化繊維を完全に浸漬するように試験ふるいを選択する。非溶解性流体容量が複合化繊維質量の200倍の質量があれば、非溶解性流体の種類によらず、複合化繊維を完全に浸漬させることができる。次に、1分間当たり該流体質量の2倍の質量の循環流量で、ふるいの側壁を伝わせて静かに流体を投入し、液面が変化しないように遮断した下部開口部の一部を開放する。この操作を3分間行う。ここで上記の“1分間当たり該流体質量の2倍の質量の循環流量”とは、非溶解性流体を循環経路に例えば300g注入した後に、600g/分の流量で循環することである。
【0036】
攪拌洗浄は複合化繊維及び粉体の非溶解性の流体中に攪拌水流を発生させることで、複合化繊維同士、複合化繊維と洗浄容器壁との間に摩擦力、剪断力を発生させることで行う。詳述すると、攪拌洗浄は、容量500ml、直径90mm、高さ120mmのガラス製平底ビーカーに前記流水洗浄後の複合化繊維と流水洗浄と同じ質量の非溶解性流体を投入し、直径6mm、長さ30mmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)コートされたシリンダー型攪拌子(例えば株式会社アイシス製 回転子 シリンダー型CM1130)
攪拌子とマグネティックスターラーを用いて、室温状態下(23℃)で600回転/分で5分間攪拌洗浄し、その後、再度前記流水洗浄を行うことからなる。
【0037】
更に詳述すると、流水洗浄は、目開き150μm、直径100mm、高さ70mmの枠を有する試験ふるいに、複合化繊維1.5gを静置し、非溶解性流体(後述の実施例、比較例は蒸留水)を300g(1.5g×200倍)満たし、更に試験ふるいの側壁を伝わせて蒸留水を流量600g/分で3分間流しながら洗浄することにより行う。その時点での複合化繊維の質量を測定することで、流水洗浄後の複合化繊維質量とし、繊維素材の表面に固定化した粉体質量を測定することで、流水洗浄後の複合化繊維中の粉体固定化質量とする。また、攪拌洗浄は容量500ml、直径90mm、高さ120mmのガラス製平底ビーカーに前記複合化繊維1.5gと蒸留水300gを投入し、前記の直径6mm、長さ30mmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)コートされたシリンダー型攪拌子とマグネティックスターラーを用いて室温状態下(23℃)で600回転/分で5分間攪拌洗浄し、その後再度前記流水洗浄の方法ですすぐ。その時点での複合化繊維の質量を測定することで、攪拌洗浄後の複合化繊維質量とし、繊維素材の表面に固定化した粉体質量を測定することで、攪拌洗浄後の複合化繊維中の粉体固定化質量とする。後述の実施例及び比較例はすべて上述の条件で洗浄した結果で示されている。
【0038】
前記の式における複合化繊維中の粉体固定化量は、複合化繊維中の粉体量である。例えば母材をパルプ繊維、子粒子をニ酸化チタンとする複合化繊維の場合には、熱重量測定装置(セイコーインスツルメンツ社製、TG/DTA6200)を用いて、複合化繊維を適量、酸素雰囲気下で800℃まで加熱することでパルプ繊維を分解させ、残存した二酸化チタンの質量を測定することにより求めることができる。測定はJIS P8128に準じて行った。
【0039】
なお、後述の実施例及び比較例では、複合化繊維のサンプルを4つ用意し、流水洗浄後に2つのサンプルを前記熱重量測定装置で粉体固定化質量及び複合化繊維質量を測定し、それぞれの質量の平均値を算出した。また、残りの2つサンプルは流水洗浄後に攪拌洗浄を実施し、前記熱重量測定装置で粉体固定化質量及び複合化繊維質量を測定し、それぞれの質量の平均値を算出した。
【0040】
繊維素材の繊維としての形状を損なうことなく、粉体を繊維素材の表面に確実に付着させるためには、繊維素材及び粉体の仕込量の比率が重要であることが本発明者らの検討の結果判明した。詳細には、繊維素材の仕込量に対して粉体の仕込量を多めに設定すると、これらが機械的エネルギーを受けたときに、粉体が繊維素材に対して緩衝材としての働きを発揮して、繊維素材に過度の機械的エネルギーが加わらないことが判明した。この観点から、目標とする複合化繊維の固定化量を達成する粉体質量に対して、より多くの質量の粉体を、好ましくは1倍から10倍の粉体、より好ましくは1.01倍から10倍の粉体、更に好ましくは2倍から5倍の粉体を加えて機械的エネルギーを与える。
【0041】
また前述した、繊維素材と粉体とに剪断力による機械的エネルギーを印加する場合には、繊維素材の繊維としての形状を損なうことなく、粉体を繊維素材の表面に確実に付着させるためには、繊維素材及び粉体の仕込み量の比率と、仕込みの際の予めの混合が重要であることが本発明者らの検討の結果判明した。詳細には、繊維素材の仕込み量に対して粉体の仕込み量を多めに設定すると、繊維表面に粉体が多く存在しやすく、これらが剪断力を受けたときに、より複合化されやすい。また、仕込みの際に粉体と繊維を予め混合することで、繊維と粉体がより近くに存在し、剪断力を与えた際により複合化されやすい。この観点から、繊維素材100質量部に対して粉体を50〜500質量部、特に100〜200質量部加えて剪断力を与えることが好ましい。
【0042】
本発明によれば、複合化繊維において、繊維素材の表面に粉体が固定化されているのみならず、粉体を構成する粒子どうしが固着している状態に制御することも可能である。粒子どうしが固着していることによって、繊維素材の表面を被覆する粉体の厚みが、該粉体を構成する粒子の平均粒子径よりも大きくなる。つまり本発明の複合化繊維においては、粉体を構成する粒子の平均粒子径よりも大きな厚みをもって該粉体が繊維素材の表面をお互いに重なって被覆している。これによって、繊維素材の表面に大量の粉体を固定化させることが可能になる。また、繊維素材の表面改質効果が顕著なものとなる。この場合、粉体は、繊維素材の表面を連続的に被覆していてもよく、或いは不連続に被覆していてもよい。粉体が繊維素材の表面を連続的に被覆していると、該繊維素材の表面改質効果が一層顕著になるので好ましい。尤も、粉体が繊維素材の表面を不連続に被覆している場合であっても、上述のとおり、ある厚みをもって粉体が繊維素材の表面を被覆しているので、該繊維素材の表面改質効果は十分に顕著なものとなる。
【0043】
粉体が繊維素材の表面を被覆している程度は、以下の方法で測定される被覆率によって表される。
〔被覆率の測定方法〕
走査型電子顕微鏡、光学顕微鏡、レーザー顕微鏡などによって撮影された、複合化繊維の直径が確認できる画像において、一辺が繊維の直径の1/2以上の正方形のエリアを任意に互いに重複しないように10点以上抽出し、その各エリア内で粉体が占める面積の割合の算術平均を被覆率とする。
【0044】
なお本明細書においては、攪拌洗浄後の被覆率が50%以上である場合には、粉体が繊維素材の表面を実質的に連続的に被覆(粉体が膜状に固定)しているとみなす。該被覆率が50%以上であると、粉体同士が連続でつながり、繊維素材全体で粉体の有する機能が均一に発現することができるようになるからである。なお、該被覆率の最大値は100%である。また、該被覆率が約80%以上の場合には、該粉体が繊維素材表面を2層以上、つまり該粉体が繊維素材の表面をお互いに重なって被覆していることが多い。また、該粉体が例えば低融点の物の場合には、機械エネルギーにより該粉体が溶融することでフィルム化して繊維全体を被覆している場合もある。なお、該被覆率が50%未満の場合には、繊維素材表面に粉体が分散的に被覆(分散的に固定)されていることを意味する。
【0045】
前記粉体の量が該複合化繊維の量に対して0.5〜90質量%であれば、被覆率100%の複合化繊維を得ることができる。例えば粉体として二酸化チタンを用いた場合には、二酸化チタンの比重が約4であるので、20〜30質量%で被覆率が100%の複合化繊維を得ることができる。また、フェノール樹脂粉体の場合には比重が約1.5と軽く粒径も小さいため、5質量%程度で被覆率100%の複合化繊維を得ることができる。
【0046】
本発明の複合化繊維は、例えば、各種不織布の構成繊維、生理用ナプキン、パンティライナー、使い捨ておむつ等の吸収性物品における吸収体の構成繊維、消臭、抗菌等の構成繊維等として好ましく用いられる。本発明の複合化繊維を用いた各種不織布は、前述した各種吸収性物品における、表面シート、セカンドシート、立体ガード形成用のシート、サイドパネル形成用のシート等の構成部材等として用いることができる。また、各種製品の基材ないし構成部材等として用いることができる。
【0047】
複合化繊維を含む成形体は、例えば乾式、湿式による抄紙法、各種不織布製造法や、繊維の積繊により製造される。例えば、二次元状物品は複合化繊維を原料とし、該原料及び熱融着性繊維を用いてエアレイドウエブを形成し、該ウエブに熱を付与して熱融着性繊維どうしを融着させる方法でシート状に成形することができる。また該成形体は、金型を用いて成形される三次元状の物品であり得る。該成形体がどのような形状を有している場合であっても、該成形体中における複合化繊維の含有割合は、10〜100質量%、特に50〜100質量%であることが、新機能が付与されたり、或いは特定の機能が向上した成形体を得る観点から好ましい。
【実施例】
【0048】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。しかし、本発明は、下記により何ら制限されるものではない。なお、以下の例中、特に断らない限り「%」及び「部」はそれぞれ「質量%」及び「質量部」を意味する。なお、表2中の篩い後の粉体固定化量は下記の式から求めた。(流水洗浄後の粉体固定化量、及び攪拌洗浄後の粉体固定化量は、先に説明した式から求めた。)
【0049】
【数4】

【0050】
下記の実施例1〜4は、繊維素材と粉体とに高速攪拌による機械的エネルギーを印加することによって繊維素材と粉体を複合化した場合を示した。また、下記の実施例5〜7は、繊維素材と粉体とに剪断力による機械的エネルギーを印加することによって繊維素材と粉体を複合化した場合を示した。さらに、下記の比較例1〜4は、繊維素材と粉体とに攪拌ミキサーによる機械的エネルギーを印加することによって繊維素材と粉体を複合化した場合を示した。
【0051】
〔実施例1〕
平均繊維径が30μmで、平均繊維長が2mmのパルプ繊維(NBKP、製造者:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名:「Mackenzie」)3gと、平均粒子径が0.1μmのニ酸化チタン粒子(商品名:ルチル、製造者:関東化学、40982−00特級)6gとを、大阪ケミカル株式会社から販売されている高速攪拌式のミルである「アブソルートミルABS−W(商品名)」を用いて混合し、パルプの表面にニ酸化チタン粒子を固定化した。300mlの標準容器(PN−B11)、標準蓋(PN−W02)を使用し、ミルのカッター外周部の周速を130m/s、撹拌時間(エネルギー印加時間)を300秒とした。この操作によって、パルプの質量に対してニ酸化チタン粒子が34.3%固定化された(ふるい分離前の値)。得られた複合化繊維におけるニ酸化チタン粒子の固定化率は79%であった。また、水流洗浄後の被覆率は80%であった。更に、攪拌洗浄後の被覆率は70%であった。攪拌洗浄後の繊維表面を観察すると、二酸化チタン粒子が重なり合うように被覆されていた。
【0052】
〔実施例2〜4〕
繊維素材及び粉体として表1に示す物質を用い、同表に示す条件で固定化を行う以外は実施例1と同様にして複合化繊維を得た。ここで、フェノール樹脂はRohm&Haas社の商品名A568を使用し、カンクリナイトは花王株式会社の商品名ルナモスSP−PAを使用した。得られた複合化繊維における粉体の固定化率及び各被覆率は表2に示すとおりであった。攪拌洗浄後の繊維表面を観察すると、実施例2及び4の場合には粉体が重なり合うように被覆されていた。実施例3の場合には、粉体が分散的に固定されていた。
【0053】
〔比較例1〕
平均繊維径が30μmで、平均繊維長が2mmのパルプ繊維(NBKP、製造者:フレッチャー チャレンジ カナダ、商品名:「Mackenzie」)3gと、平均粒子径が0.1μmの二酸化チタン粒子(商品名:ルチル、製造者:関東化学、40982−00特級)6gとを、攪拌ミキサーである「アブソリュートブレンダーABS−V(商品名)、大阪ケミカル社製」を用いて混合し、パルプの表面に二酸化チタン粒子を固定化した。標準容器PN−A1を用い、ミキサーのカッター外周部の周速を30m/s、撹拌時間(エネルギー印加時間)を300秒とした。この操作によって、パルプの量に対して二酸化チタン粒子が31.1%固定化された(ふるい分離前の値)。得られた複合化繊維における二酸化チタン粒子の固定化率は30%であった。また、水流洗浄後の被覆率は75%であった。更に、攪拌洗浄後の被覆率は15%であった。攪拌洗浄後の繊維表面を観察すると、二酸化チタン粒子が分散されて被覆されていた。
【0054】
〔比較例2〜4〕
繊維素材及び粉体として表1に示す、前記実施例で使用した物質を用い、同表に示す条件で固定化を行う以外は比較例1と同様にして複合化繊維を得た。得られた複合化繊維における粉体の固定化率及び各被覆率は表2に示すとおりであった。攪拌洗浄後の繊維表面を観察すると、比較例2の場合には粉体が全く固定されていなかった。また、比較例3及び4の場合には、粉体が分散的に固定されていた。
【0055】
〔比較例5〕
実施例1で使用したパルプ繊維と二酸化チタンを同実施例と同量用い、高速気流中衝撃法装置(商品名:ハイブリダイザーNHS−0型、製造者:奈良機械製作所)を用いて複合化を試みた。ローター回転数を6500回転(周速50m/s)として予混合した粉体と繊維を投入したが、オーバーロードにより運転が停止した。装置を分解してみると、ローターとベッセルの間の隙間、材料投入口、本体流路等の多くの場所が繊維により閉塞していた。
【0056】
〔実施例5〕
実施例1で使用したパルプ100部と、実施例1で使用した酸化チタン100部を、大阪ケミカル株式会社から販売されている高速攪拌式のミルである「アブソルートミルABS−W(商品名)」を用いて予備混合した。予備混合条件は300mlの標準容器(PN−B11)、標準蓋(PN−W02)を使用し、ミルのカッター外周部の周速は30m/s、撹拌時間は10秒とした。得られた混合物を、株式会社東洋精機製作所のラボプラストミル(商品名)によって混練し、剪断力を加えた。スクリューは二軸であり、その回転数は10rpmであった。滞留時間は10分であった。シリンダブロックは加熱しなかった。このようにして、パルプの表面に二酸化チタンの粒子を固定化した。この操作によって、パルプの量に対して粉体が38.6%固定化された(ふるい分離前の値)。二酸化チタン粒子の固定化率は94%であった。また、水流洗浄後の被覆率は95%であった。更に、攪拌洗浄後の被覆率は95%であった。
【0057】
〔実施例6及び7〕
表1に示す、前記実施例で使用した繊維素材及び粉体を用い、同表に示す条件で複合化繊維を製造した。得られた複合化繊維における粉体の固定化量、被覆率、固定化率を表2に示す。
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
表2に示す結果から明らかなように、各実施例の複合化繊維は、各比較例の複合化繊維に比べて、粉体の固定化率が高いこと、即ち、粉体が極めて強固に固定化されていることが判る。また、各比較例の複合化繊維に比べて繊維素材の表面を粉体が高い被覆率で被覆していることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維素材の表面に粉体が固定化されており、
該粉体は、バインダーを用いることなく該繊維素材の表面に固定化されているか、又は該粉体は、該複合化繊維の質量に対して、25質量%以下の量のバインダーによって該繊維素材の表面に固定化されており、
以下の式で定義される該粉体の固定化率が40%以上である複合化繊維。
【数1】

流水洗浄は、複合化繊維質量1.5gに対して該複合化繊維質量の200倍の質量300gの非溶解性(複合化繊維および粉体に対して非溶解性)流体を加え、1分間当たり該流体質量の2倍の質量の循環流量で、室温状態(23℃)下で3分間洗浄することからなる。その時点での複合化繊維の質量を測定することで、流水洗浄後の複合化繊維質量とし、繊維素材の表面に固定化した粉体質量を測定することで、流水洗浄後の複合化繊維中の粉体固定化質量とする。
攪拌洗浄は容量500ml、直径90mm、高さ120mmのガラス製平底ビーカーに前記流水洗浄後の複合化繊維と流水洗浄と同じ質量の非溶解性流体を投入し、直径6mm、長さ30mmのPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)コートされたシリンダー型攪拌子とマグネティックスターラーを用いて、室温状態(23℃)下で600回転/分で5分間攪拌洗浄し、その後、再度前記流水洗浄を行うことからなる。その時点での複合化繊維の質量を測定することで、攪拌洗浄後の複合化繊維質量とし、繊維素材の表面に固定化した粉体質量を測定することで、攪拌洗浄後の複合化繊維中の粉体固定化質量とする。
【請求項2】
前記繊維素材の表面が前記粉体で連続的に被覆されている請求項1に記載の複合化繊維。
【請求項3】
前記粉体が、有機化合物若しくは無機化合物又はそれらの複合化合物からなる請求項1又は2に記載の複合化繊維。
【請求項4】
前記粉体を構成する粒子の平均粒子径よりも大きな厚みをもって前記粉体が前記繊維素材の表面を被覆している請求項1から3の何れかに記載の複合化繊維。
【請求項5】
請求項1から4の何れかに記載の複合化繊維を用いて得られた成形体。
【請求項6】
請求項1に記載の複合化繊維を製造する製造方法であって、繊維素材と粉体とに高速攪拌による機械的エネルギーを印加することによって繊維素材と粉体を複合化させる複合化繊維の製造方法。
【請求項7】
前記高速攪拌をミルによって行う請求項7に記載の複合化繊維の製造方法。
【請求項8】
請求項1に記載の複合化繊維を製造する製造方法であって、繊維素材と粉体とに剪断力による機械的エネルギーを印加することによって繊維素材と粉体を複合化させる複合化繊維の製造方法。
【請求項9】
剪断力による機械的エネルギー印加を混練機によって行う請求項8に記載の複合化繊維の製造方法。

【公開番号】特開2008−179934(P2008−179934A)
【公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−331771(P2007−331771)
【出願日】平成19年12月25日(2007.12.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】