説明

複合半透膜および複合半透膜モジュールの製造方法

【課題】 陰イオン界面活性剤の残留量が少なく、膜分離装置の運転初期においても、膜モジュールからの陰イオン界面活性剤の溶出量を極めて低く押さえることができ、異臭味や発泡を生じず、安全な飲用に供する水を製造することができる複合半透膜および複合半透膜モジュールの製造方法を提供する。
【解決手段】 多孔質支持体の表面をポリアミド薄膜で被覆した複合半透膜の製造方法であって、多孔質支持体の表面にin−situ界面重合法により、陰イオン界面活性剤の存在下に多官能アミンと多官能酸ハライドからなる架橋ポリアミド薄膜を形成させた後、アルコール水溶液で浸漬処理し、続いて50℃以上の熱水、又はアルカリ水溶液で処理し、これにより、複合半透膜に残留する陰イオン界面活性剤の量を複合半透膜重量1kg当たり5g以下に低下させることを特徴とする方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体を処理するための複合半透膜、複合半透膜モジュール、およびその製造方法に関するものである。本発明による複合半透膜及び複合半透膜モジュールは海水の淡水化、かん水の脱塩、上水の製造、食品プロセス、排水の処理や濃縮、有価物の回収などに用いられる。特に、飲用に供する水の製造に有効である。
【背景技術】
【0002】
選択分離性と水透過性に優れた複合半透膜として、界面重合法を用い、多孔質支持体の表面に分離活性能を有するポリアミド薄膜を形成させた複合半透膜が考案されている。具体的には米国特許第3191815号明細書、同第3744642号明細書、特開昭55−147106号公報、特表昭56−500062号公報、PBレポート83−191775、特開平2−78428公報などが開示されている。これら複合半透膜の製造においては、多孔質支持体に、多官能アミンを含む水溶液を塗布し、ついで多官能酸ハライドを含む有機溶液に接触させる、いわゆるin−situ界面重合法がしばしば用いられる。このような界面重合法では多くの場合、多孔質支持体の濡れ性の向上や、相間移動触媒としての働きから、多官能アミンを含む水溶液中に陰イオン界面活性剤を混在させることが行われている。
【0003】
かかる複合半透膜はその優れた選択分離性と水透過性から、逆浸透処理あるいはナノろ過、限外ろ過等に用いられる。具体的には、海水の淡水化、かん水の脱塩、河川水や地下水の浄水などの上水製造、純水製造、家庭用もしくは業務用浄水器、食品プロセス、排水の処理や濃縮、有価物の回収などに用いられる。
【0004】
これら膜分離プロセスの目的は、不純物あるいは有価物を含む被処理液体をろ過し、浄化された透過水と、濃縮された不純物あるいは有価物とに分離することにある。しかるに、これら膜分離プロセスの運転初期にはしばしば透過水中に不純物が混入することが起こる。複合半透膜の選択分離性は十分に高く、被処理液体に含まれる不純物は除去するが、運転初期には複合半透膜モジュール自身から不純物が溶出し、結果として浄化された透過水が得られない場合があった。
【0005】
このような欠点を解決する方策として、複合半透膜を酸水溶液で処理する方法(特開昭60−156507公報、特開平7−80259号公報)、複合半透膜をアルカリ水溶液で処理する方法(特開昭55−159807公報、PBレポ−ト83−191775、特開平7−80259号公報)、複合半透膜を熱水で処理する方法(特開昭63−287507公報、特開平1−168306公報、特開平7−80260号公報)、塩素含有水溶液で処理する方法(特開平7−80261号公報)などが開示されている。かかる処理により、複合半透膜から出る不純物が大幅に低減できることが記載されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記逆浸透膜の処理方法では、界面重合反応時の未反応物である多官能アミンや多官能酸ハライドは十分に洗浄・除去できるが、陰イオン界面活性剤は複合半透膜中に残留し十分には除去できない。陰イオン界面活性剤は、膜分離プロセスの運転中に極微量ではあるが、長期間にわたって透過水中に徐放されるという問題点がある。
【0007】
陰イオン界面活性剤は、水道水の水質基準により0.2mg/L以下と定められ、発泡や異臭味を生じさせない濃度レベルであり、人体には無害であると考えられているが、一方で、ガンや奇形の原因になると主張する学者もおり、膜モジュールからの溶出は極力少ないことが望ましい。
【0008】
本発明は、前記問題を解決するため、陰イオン界面活性剤の残留量が少ない複合半透膜、複合半透膜モジュールおよびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成するための本発明における第1番目の発明は、多孔質支持体の表面をポリアミド薄膜で被覆した複合半透膜において、該複合半透膜から抽出される陰イオン界面活性剤の量が、複合半透膜重量1kg当たり9g以下であり、より好ましくは複合半透膜重量1kg当たり5g以下であり、さらに好ましくは複合半透膜重量1kg当たり2.5g以下であることを特徴とする複合半透膜である。
【0010】
第1番目の発明の複合半透膜の製造方法としては、多孔質支持体の表面にポリアミド薄膜を形成させた後、アルコール水溶液で浸漬処理することを特徴とする。さらに続けて、50℃以上の熱水、酸水溶液、アルカリ水溶液のうち少なくとも一つ以上の溶液で処理してもよい。
【0011】
第2番目の発明は、多孔質支持体の表面をポリアミド薄膜で被覆した複合半透膜を構成要素とする複合半透膜モジュールにおいて、該複合半透膜から抽出される陰イオン界面活性剤の量が、複合半透膜重量1kg当たり9g以下であり、より好ましくは複合半透膜重量1kg当たり5g以下であり、さらに好ましくは複合半透膜重量1kg当たり2.5g以下であることを特徴とする複合半透膜モジュールである。
【0012】
第2番目の発明の複合半透膜モジュールの製造方法としては、多孔質支持体の表面にポリアミド薄膜を形成させた複合膜形成物を構成要素とする複合半透膜組立体の内部を、アルコール水溶液で満たす、もしくは加圧通水することを特徴とする。さらに続けて、50℃以上の熱水、酸水溶液、アルカリ水溶液のうち少なくとも一つ以上の溶液で該複合半透膜組立体内部を満たし、もしくは加圧通水してもよい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を以下に詳細に説明する。本発明における第1番目の発明は、多孔質支持体の表面にin−situ界面重合法により、陰イオン界面活性剤の存在下に多官能アミンと多官能酸ハライドからなる架橋ポリアミド薄膜を形成させた複合半透膜において、該複合半透膜から抽出される陰イオン界面活性剤の量が、複合半透膜重量1kg当たり9g以下であり、より好ましくは複合半透膜重量1kg当たり5g以下であり、さらに好ましくは複合半透膜重量1kg当たり2.5g以下であることを特徴とする複合半透膜である。
【0014】
第1番目の発明の複合半透膜の製造方法としては、多孔質支持体の表面にin−situ界面重合法により、陰イオン界面活性剤の存在下に多官能アミンと多官能酸ハライドからなる架橋ポリアミド薄膜を形成させた後、アルコール水溶液で浸漬処理することを特徴とする。さらに続けて、50℃以上の熱水、酸水溶液、アルカリ水溶液のうち少なくとも一つ以上の溶液で処理してもよい。
【0015】
第2番目の発明は、多孔質支持体の表面にin−situ界面重合法により、陰イオン界面活性剤の存在下に多官能アミンと多官能酸ハライドからなる架橋ポリアミド薄膜を形成させた複合半透膜を構成要素とする複合半透膜モジュールにおいて、該複合半透膜から抽出される陰イオン界面活性剤の量が、複合半透膜重量1kg当たり9g以下であり、より好ましくは複合半透膜重量1kg当たり5g以下であり、さらに好ましくは複合半透膜重量1kg当たり2.5g以下であることを特徴とする複合半透膜モジュールである。
【0016】
第2番目の発明の複合半透膜モジュールの製造方法としては、多孔質支持体の表面にin−situ界面重合法により、陰イオン界面活性剤の存在下に多官能アミンと多官能酸ハライドからなる架橋ポリアミド薄膜を形成させた複合半透膜を構成要素とする複合半透膜組立体の内部を、アルコール水溶液で満たす、もしくは加圧通水することを特徴とする。さらに続けて、50℃以上の熱水、酸水溶液、アルカリ水溶液のうち少なくとも一つ以上の溶液で該複合半透膜組立体内部を満たし、もしくは加圧通水してもよい。
【0017】
本発明において、多孔質支持体とは実質的に分離活性能を持たない層であり、該多孔質支持体表面に形成された実質的に分離活性能を有する超薄膜に機械的強度を付与するものである。多孔質支持体の形態は特に限定されないが、平膜もしくは中空糸状膜の形態がよく用いられる。中空糸状膜の場合、内圧型、外圧型のいずれであってもよい。
【0018】
多孔質支持体の素材は特に限定されないが、ポリスルホン、スルホン化ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルスルホン、ポリアミド、酢酸セルロース、ポリアクリロニトリル、ポリイミド等を単独、もしくは複数ブレンドしたものを使用することができる。これら素材の中では、機械的強度や耐熱性、耐薬品性に優れたポリスルホン、あるいはポリエーテルスルホンなどが好適に用いられる。
【0019】
多孔質支持体の製造方法は特に限定されないが、例えばポリマー、良溶媒、貧溶媒、界面活性剤を混合溶解した製膜原液を、吐出ノズルを介して気体雰囲気下に押し出し続いて凝固液中に導く乾湿式法、もしくは吐出ノズルから直接凝固液中に導く湿式法が好適に用いられる。一例を示すと、チューブインオリフィス型紡糸ノズルを用いて外周部から製膜原液(ポリスルホン20重量部、トリエチレングリコール4重量部、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)75.5重量部、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量部)、内周部から芯液(DMAc30重量部、水70重量部)を同時に空気中に吐出し、続いて凝固液中(DMAc5重量部、水95重量部)へ導くことによって、外表面に数十nmの微細孔を有する多孔質支持体が得られる。得られた多孔質支持体は、50℃から100℃の熱水処理を施してもよい。
【0020】
本発明においては、上記多孔質支持体に、一分子中に2個以上の反応性アミノ基を有する多官能アミンおよび陰イオン界面活性剤を含有する、多官能アミン水溶液を被覆・含浸する。
【0021】
本発明における多官能アミンは特に限定されるものではないが、例えば、脂環族多官能アミン、脂肪族多官能アミン、芳香族多官能アミンを含み、具体的には、ピペラジン、2,5−ジメチルピペラジン、アミノメチルピペリジン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,2 ジアミノ−2−メチルプロパン、2,2 ジメチル−1,3−プロパンジアミン、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジアミン、ジアミノベンゼン、トリアミノベンゼン、フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノ安息香酸等が挙げられる。これらアミノ化合物を単独で、もしくは複数ブレンドして用いてもよい。
【0022】
また、陰イオン界面活性剤としては特に限定されるものではないが、代表的にはLAS (直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、ABS(アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム)、AS(アルキル硫酸ナトリウム)、アルキルジフェニルエーテルジスルフィドなどが含まれる。
【0023】
LASおよびABSは一般式:C2n+1−Ar−SONaで表され、式中nは任意であるが、優れた界面活性能と相間移動触媒能からn=8〜14が好ましい。特に好ましくは、工業的に利用可能なラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムであるが、これはn=12化合物を主成分とするn=8〜14混合物として安価に入手可能である。
【0024】
LSは一般式:C2n+1−O−SONaで表され、式中nは任意であるが、優れた界面活性能と相間移動触媒能からn=8〜18が好ましい。特に好ましくは、n=12化合物を主成分とするラウリル硫酸ナトリウムが、工業的に安価に利用可能である。
【0025】
また、前記多官能アミンと陰イオン界面活性剤を含む水溶液には、酸捕捉剤として、水酸化ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等の無機アルカリ、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン等の3級アミンを添加してもよい。
【0026】
前記多官能アミンと反応しうる多官能酸ハライドは特に限定されるものではないが、例えば、脂環族多官能酸ハライド、脂肪族多官能酸ハライド、芳香族多官能酸ハライドを含み、具体的には、シクロヘキサントリカルボン酸ハライド、テレフタル酸ハライド、イソフタル酸ハライド、トリメシン酸ハライド、トリメリット酸ハライド、ピロメリット酸ハライド、ベンゾフェノンテトラカルボン酸ハライド等が挙げられる。これら酸ハロゲン化物を単独で、もしくは複数ブレンドして用いてもよい。
【0027】
上記多官能酸ハライドを溶解する溶媒は、水と非混和性で、多官能酸ハライドを溶解し多孔質支持体を溶解しないものであればよい。たとえば、n−ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等である。
【0028】
分離活性能を有する架橋ポリアミド薄膜の形成方法を以下に例示する。前記多孔質支持体を、前記多官能アミン水溶液中に浸漬し、余分な水溶液を液切り・乾燥する。続いて前記多官能酸ハライドを含む有機溶液に接触させ、in−situ界面重合法により該多孔質支持体の表面を架橋ポリアミド薄膜で被覆する。これを乾燥させて余分な有機溶媒を除去した後、純水中で洗浄する。
【0029】
上記で得られた複合膜形成物は、すでに十分な分離活性能を有しており、該複合膜形成物をケーシングに収納し、被処理水の流入口と、濃縮水の排出口と、複合半透膜透過水の取水口とを有する分離膜モジュールとして組立て、膜分離プロセスに組み込み、使用することは可能である。
【0030】
しかしながら、このようにして得られた膜分離モジュールでは、膜分離プロセスの運転初期においては、水道水質基準である0.2mg/Lを上回る量の陰イオン界面活性剤を含有する膜透過水が得られる。水道水質基準に合致する膜透過水を得るためには、少なくとも3時間以上、好ましくは10時間以上の加圧通水下における膜分離モジュールの洗浄が必要である。また、このような洗浄を実施したとしても、依然として0.1mg/Lを上回る量の陰イオン界面活性剤を含有する膜透過水が長期間にわたって得られる。
【0031】
本発明におけるアルコール水溶液は特に限定されるものではないが、たとえば、メタノール、エタノール、iso−プロパノール、tert−ブタノール等が使用できる。アルコール水溶液の濃度は、アルコールの種類や処理時間、処理方法により異なるが10〜80重量部、より好ましくは30〜70重量部水溶液を使用することができる。
【0032】
本発明における酸水溶液は特に限定されるものではく、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、酢酸、クエン酸等の有機酸のごとく、水に可溶で、水溶液としたときに酸性を示すものであればよい。酸水溶液はpH1〜4、より好ましくはpH2〜3の水溶液が好適に用いられる。これは、酸水溶液がpH1未満では酸加水分解により複合半透膜自が劣化する恐れがあり、pH4以上では十分な洗浄効果が得られないためである。
【0033】
本発明におけるアルカリ水溶液は特に限定されるものではないが、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア等のごとく、水に可溶で、水溶液としたときにアルカリ性を示すものであればよい。アルカリ水溶液はpH9〜12の水溶液が好適に用いられる。分離活性能を有する架橋ポリアミド薄膜は特にアルカリ加水分解を受けやすく、該ポリアミドを構成するモノマー成分にもよるが、アルカリ水溶液がpH12以上ではアルカリ加水分解により複合半透膜自体が劣化する恐れがある。また、pH9未満では十分な洗浄効果が得られない。
【0034】
本発明における熱水は特に限定されるものではないが、前記複合膜形成物や複合半透膜組立体と接触したときに、それらと反応しうる基質を含まない水を使用し、好適には逆浸透ろ過水やイオン交換水等が使用できる。また、該熱水の温度は50℃以上、より好ましくは60℃以上のものを好適に用いることができる。
【0035】
アルコール水溶液による複合膜形成物の処理方法は、簡便な方法として浸漬法、充填法もしくは加圧通水法が用いられる。
【0036】
浸漬法では、前記in−situ界面重合法により得られた複合膜形成物を前記アルコール水溶液に1分〜5時間、より好ましくは5分〜3時間浸漬し、次いで純水で洗浄することにより本発明の複合半透膜が得られる。
【0037】
また、前記複合膜形成物をケーシングに収納し、被処理水の流入口と、濃縮水の排出口と、複合半透膜透過水の取水口とを有する複合半透膜組立体として組立て、該複合半透膜組立体の内部に前記アルコール水溶液を充填する、充填法を用いることができる。処理時間は1分〜5時間、より好ましくは5分〜3時間静置もしくはゆっくりと振とうすることで、前記浸漬法と同様の効果がある。次いで純水で洗浄することにより本発明の複合半透膜モジュールが得られる。
【0038】
本発明の複合半透膜モジュールを得るもう一つの方法として、アルコール水溶液を前記複合半透膜組立体の被処理水流入口より導入し、膜間圧力差を生じせしめ、濃縮水と膜透過水とを得る加圧通水法を利用できる。加圧通水法による場合は、前記濃縮水と膜透過水を放流するワンパス運転を行ってもよく、また浴比を適切に設定した上で前記濃縮水と膜透過水を供給側へ戻す循環運転を行ってもよい。膜間圧力差は、アルコール水溶液が透過側へ流れ出ればよく、例えば、ポンプにより0.05〜5M Pa程度の加圧給水を行う。処理時間は浸漬法よりも短時間でよく、1分〜3時間加圧通水すればよい。加圧通水法では、アルコール水溶液が複合半透膜内部にまで十分に侵入し、陰イオン界面活性剤を除去する効果が高まるが、ポンプを駆動するためのエネルギーコストを考慮すると、1時間以内がより好ましい。加圧通水処理の後、純水に置換して再度加圧通水・洗浄することで本発明の複合半透膜モジュールが得られる。
【0039】
本発明においてはさらに、前記アルコール水溶液で処理した複合半透膜形成物および、複合半透膜組立体を酸水溶液、アルカリ水溶液、熱水のいずれか一つ、もしくは複数の組合せで処理してもよい。処理方法は前記アルコール水溶液による処理の場合のごとく、浸漬法、充填法、加圧通水法のいずれも用いることができる。
【0040】
また本発明の複合半透膜および複合半透膜モジュールの用途は、限外ろ過、ナノろ過、逆浸透がある。特に、飲用に供する海水淡水化、かん水の脱塩、河川水や地下水からの上水製造、純水製造、家庭用もしくは業務用浄水器、食品プロセスに有効である。さらには、排水の処理や濃縮、有価物の回収に用いてもよい。しかしながら、本発明はこれらの膜の用途に限定されるものではない。
【実施例】
【0041】
以下に実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において、複合半透膜に残留する陰イオン界面活性剤の抽出はソクスレー抽出法により行い、該抽出液中の陰イオン界面活性剤量は高速液体クロマトグラフによる分離・定量により測定した。抽出に用いた複合半透膜は絶乾ののち秤量し、残留陰イオン界面活性剤の量を単位膜重量当たりに換算した。ソクスレー抽出は、複合半透膜片を細断し、メタノールを抽出溶媒として、一昼夜かけて実施した。上記高速液体クロマトグラフの測定条件については、逆相系カラムPRP−1(ハミルトン社製)を用い、移動相をアセトニトリル40重量部、0.2M 過塩素酸ナトリウム溶液60重量部の混合水溶液、移動相流量1.0mL/min、カラム温度50℃とし、検出器にはUV検出器(波長225nm)を用いた。
【0042】
参考例1)
ポリスルホン20重量部、トリエチレングリコール4重量部、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)75.5重量部、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量部からなる製膜原液を、チューブインオリフィス型紡糸ノズルを用いて外周部から、DMAc30重量部、水70重量部からなる芯液を内周部から、それぞれ同時に押し出し、6cmの空気中を走行した後、DMAc5重量部、水95重量部からなる凝固液中に15m/minの速度で引き取り、水洗工程を経て、中空糸型多孔質支持体(外径350μm/内径200μm)を得た。該多孔質支持体を、ピペラジン2重量部、トリエチレンジアミン1重量部、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.07重量部からなるアミン水溶液中に1分間接触させ、該多孔質支持体を引き上げた後、余分なアミン水溶液を液切りし、トリメシン酸クロリド1重量部を含むヘキサン溶液、フッ素系溶媒(フロリナートFC−70、住友3M社製)、1重量部酢酸水溶液に順次接触させることで、該多孔質支持体の外表面にポリアミド薄膜を形成させた、複合膜形成物を得た。該複合膜形成物を、50重量部のエタノ−ル水溶液中に15分間浸漬し、純水で十分に水洗することで複合半透膜を得た。該複合半透膜に残留するラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、ソクスレー抽出、高速液体クロマトグラフにより定量し、単位膜重量当たりの残留量を決定した。結果を表1に示す。
【0043】
参考例2〜3)
参考例1において、該複合膜形成物を、エタノール処理に続き、pH3またはpH2の塩酸水溶液に1時間浸漬し、純水で十分に水洗した以外は全く同一の操作を行った。結果を表1に示す。
【0044】
(実施例
参考例1において、該複合膜形成物を、エタノール処理に続き、pH9またはpH10の水酸化ナトリウム水溶液に1時間浸漬し、純水で十分に水洗した以外は全く同一の操作を行った。結果を表1に示す。
【0045】
(実施例
参考例1において、該複合膜形成物を、エタノール処理に続き、70℃の熱水に3時間浸漬した以外は全く同一の操作を行った。結果を表1に示す。
【0046】
(比較例1)
参考例1において、該複合膜形成物を、エタノール処理を施さず、純水のみで洗浄した以外は全く同一の操作を行った。結果を表1に示す。
【0047】
参考例4
参考例1で得た中空糸状の該複合膜形成物を多数本束ね、側面に液体流入口と排出口を有する、人工透析器型の円筒状ケースに、該膜束を該ケースの両端部からわずかにはみ出すように挿入し、ケース外部と内部とを仕切るように、該ケース両端部を該膜束と共にポッティング樹脂で封止した。封止した端部の一方のみ、ケースからはみ出している膜束と接着樹脂とをカッターで切断し、中空部を開口した。このようにして得られた複合半透膜組立体を膜分離装置に装着し、50重量部のメタノール水溶液を送液ポンプにより操作圧力0.3M Pa、液温25℃で、濃縮水と膜透過水を供給液タンクに戻す循環運転(加圧通水)を15分間行った。次いで、純水で十分にすすぎ、複合半透膜モジュールを得た。該複合半透膜モジュールを解体し、内部の複合半透膜を取り出し、該複合半透膜に残留するラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムを、ソクスレー抽出、高速液体クロマトグラフにより定量し、単位膜重量当たりの残留量を決定した。結果を表2に示す。
【0048】
参考例5〜6
参考例4において、該複合半透膜組立体を、エタノール処理に続き、pH3またはpH2の塩酸水溶液で、同様の条件で1時間の加圧通水を行い、純水で十分に水洗した以外は全く同一の操作を行った。結果を表2に示す。
【0049】
(実施例
参考例4において、該複合半透膜組立体を、エタノール処理に続き、pH9またはpH10の水酸化ナトリウム水溶液で、同様の条件で1時間の加圧通水を行い、純水で十分に水洗した以外は全く同一の操作を行った。結果を表2に示す。
【0050】
(実施例
参考例4において、該複合半透膜組立体を、エタノール処理に続き、60℃の熱水で、同様の条件で10時間の加圧通水を行い、純水で十分に水洗した以外は全く同一の操作を行った。結果を表2に示す。
【0051】
(比較例2)
参考例4において、該複合半透膜組立体を、エタノール処理を施さず、純水のみで洗浄した以外は全く同一の操作を行った。結果を表に示す。
【0052】
発明の効果
以上説明したように、本発明の複合半透膜および複合半透膜モジュールは、陰イオン界面活性剤の残留量が少なく、膜分離装置の運転初期においても、膜モジュールからの陰イオン界面活性剤の溶出量を極めて低く押さえることができ、異臭味や発泡を生じず、安全な飲用に供する水を製造することができる。
【0053】
【表1】

【0054】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体の表面をポリアミド薄膜で被覆した複合半透膜の製造方法であって、多孔質支持体の表面にin−situ界面重合法により、陰イオン界面活性剤の存在下に多官能アミンと多官能酸ハライドからなる架橋ポリアミド薄膜を形成させた後、アルコール水溶液で浸漬処理し、続いて50℃以上の熱水、又はアルカリ水溶液で処理し、これにより、複合半透膜に残留する陰イオン界面活性剤の量を複合半透膜重量1kg当たり5g以下に低下させることを特徴とする方法。
【請求項2】
多孔質支持体の表面をポリアミド薄膜で被覆した複合半透膜を構成要素とする複合半透膜モジュールの製造方法であって、多孔質支持体の表面にin−situ界面重合法により、陰イオン界面活性剤の存在下に多官能アミンと多官能酸ハライドからなる架橋ポリアミド薄膜を形成させた複合膜形成物を構成要素とする複合半透膜組立体の内部を、アルコール水溶液で満たすか又は加圧通水したのち、50℃以上の熱水、もしくはアルカリ水溶液で該複合半透膜組立体内部を満たすか又は加圧通水し、これにより複合半透膜に残留する陰イオン界面活性剤の量を複合半透膜重量1kg当たり5g以下に低下させることを特徴とする方法。

【公開番号】特開2009−269028(P2009−269028A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−158406(P2009−158406)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【分割の表示】特願平11−163863の分割
【原出願日】平成11年6月10日(1999.6.10)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】