説明

複合半透膜及びその製造方法

【課題】高い溶質の除去性能を維持したまま、高い透過流束を有する複合半透膜およびその製造方法を提供する。
【解決手段】基材上に、高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬して微多孔性支持膜を形成し、洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄し、次いで、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒Bの溶液を接触させることで微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させてなる複合半透膜であって、前記凝固浴が有機溶媒Cを20〜40重量%含む水溶液であり、前記洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄した後の微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度が10重量%以下であることを特徴とする複合半透膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液状混合物の選択分離に有用な複合半透膜に関し、特に高溶質除去性と高透水性とをあわせ持ち海水やかん水の脱塩、ホウ素の除去にあたって好適に用いることができる、微多孔性支持膜上にポリアミド分離機能層を形成した複合半透膜およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
複合半透膜は、液状混合物の成分を選択的に分離するものであり、超純水の製造、海水またはかん水の脱塩、染色や電着塗料廃水の除去・分離回収による工業用水のクローズドシステム構築、食品工業での有効成分の濃縮等に用いられている。具体的には、多官能アミンと多官能酸誘導体(例えば塩化物)との界面重縮合反応によって得られる架橋ポリアミドからなる薄膜層を微多孔性支持膜上に接触させた複合半透膜は、透水性や選択分離性の高い複合半透膜として注目されている。
【0003】
しかしながら、実用的な複合半透膜に対する要求は、年々高まり、省エネルギーという観点から、高い溶質除去性を維持したまま、より低圧での運転が可能な透過流束の高い複合半透膜の開発が望まれている。これらの要求に対し、高い透過流束を発現するために、界面重縮合反応において、添加剤として水酸化カリウムやリン酸三ナトリウムなど界面重縮合反応にて生成する酸性物質を系外に除去するための化合物や、アシル化触媒、溶解度パラメーターが8〜14(cal/cm30.5の化合物などを添加する方法(特許文献1、2、3、4)が提案されている。また、他にも分離機能膜として架橋ポリアミド重合体を設けた複合半透膜について、塩素を含む水溶液に接触処理させる方法(特許文献5)、亜硝酸を含む水溶液に接触処理させる方法(特許文献6)が知られている。
【0004】
以上のような方法を用いることで透水性能の向上を図れるが、経済面・地球環境等の観点から考えると未だ不十分で、高い脱塩性能を維持したまま更なる水透過性の向上が望まれている。さらに、これらの方法では、製膜に必要な薬剤の量が増大し、経済的な負担や廃液処理への負荷が増加するなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−12310号公報
【特許文献2】特開平6−47260号公報
【特許文献3】特開平9−85068号公報
【特許文献4】特開2001−179061号公報
【特許文献5】特開2005−246207号公報
【特許文献6】特開2005−186059号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い溶質の除去性能を維持したまま、高い透過流束を有する複合半透膜およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための本発明は、以下の構成をとる。
(1)基材上に、高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬して微多孔性支持膜を形成し、洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄し、次いで、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒Bの溶液を接触させることで微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させてなる複合半透膜であって、前記凝固浴が有機溶媒Cを20〜40重量%含む水溶液であり、前記洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄した後の微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度が10重量%以下であることを特徴とする複合半透膜。
(2)有機溶媒Aと有機溶媒Cが同一であることを特徴とする(1)に記載の複合半透膜。
(3)有機溶媒Aがジメチルホルムアミドである(1)または(2)に記載の複合半透膜。
【0008】
(4)基材上に、高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬して微多孔性支持膜を形成し、洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄し、次いで、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒Bの溶液を接触させることで微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させる複合半透膜の製造方法であって、前記凝固浴が有機溶媒Cを20〜40重量%含む水溶液であり、前記洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄した後の微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度を10重量%以下に低減することを特徴とする複合半透膜の製造方法。
(5)有機溶媒Aと有機溶媒Cが同一であることを特徴とする(4)に記載の複合半透膜の製造方法。
(6)有機溶媒Aがジメチルホルムアミドである(4)または(5)に記載の複合半透膜の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、新たな添加剤や製膜後の改質処理工程を用いることなく高い透水性と高い溶質除去性を併せ持つ複合半透膜を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る複合半透膜は、基材上に、高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬して微多孔性支持膜を形成し、洗浄浴にて微多孔性支持膜を洗浄し、次いで、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒Bの溶液を接触させることで微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させてなる複合半透膜であって、前記凝固浴が有機溶媒を20〜40重量含む水溶液であり、前記洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄した後の微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度が10重量%以下であることを特徴とする複合半透膜である。ここで、本願発明に係る微多孔性支持膜は下記の製膜方法により得ることができる。
【0011】
まず、所定の寸法、形状に裁断した基材の片面に、微多孔性支持膜の構成材料となる高分子材料を有機溶媒Aに溶解してなる樹脂溶液を所定の厚みで塗布し、ついで、この有機溶媒を揮散せしめて微多孔性支持膜を形成する。微多孔性支持膜に使用する高分子材料やその形状は特に限定されないが、例えばポリエステルまたは芳香族ポリアミドから選ばれる少なくとも一種を主成分とする布帛を基材として使用し、この基材により強化する形で高分子材料を形成することが好ましい。ここで使用される高分子材料としては、ポリスルホン、ポリアクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエステル、ポリフェニレンスルフィドスルホン、ポリフェニレンスルホン、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、あるいはそれらを混合したものが好ましく使用される。それらの中でも、次の化学式に示す繰り返し単位からなるポリスルホンは化学的、機械的、熱的に安定性が高く、孔径が制御しやすいためより好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
有機溶媒Aは高分子材料および開孔剤に作用してそれらが微多孔性支持膜を形成するのを促す。ここでの有機溶媒Aとしては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトン、メチルエチルケトンなどを用いることができる。中でも、樹脂の溶解性が高いNMP、DMAc、DMF、DMSOを好ましく用いることができ、とりわけポリスルホンの溶解性が高いDMFを用いることが好ましい。
【0014】
さらに、原液には、非溶媒を添加することも出来る。非溶媒とは、高分子材料を溶解しない液体である。非溶媒は、高分子材料の凝固の速度を制御して細孔の大きさを制御するように作用する。非溶媒としては、水や、メタノール、エタノールなどのアルコール類、あるいはこれらの混合溶媒を用いることが出来る。
【0015】
開孔剤とは、凝固浴に浸漬された際に抽出されて、樹脂層を多孔質にする作用を持つものである。開孔剤は、凝固液への溶解性の高いものであることが好ましい。例えば、塩化カルシウム、炭酸カルシウムなどの無機塩を用いることができる。また、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどのポリオキシアルキレン類や、ポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、ポリアクリル酸などの水溶性高分子や、グリセリンを用いることが出来る。
【0016】
本発明において、例えば、ポリスルホンを高分子材料として用いる場合は、その所定量をN,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMF)に溶解せしめて、所定濃度のポリスルホンを含む有機溶媒Aの溶液を調製する。ポリスルホンの濃度は5〜30重量%、好ましくは10〜20重量%の範囲が適当である。ポリスルホンの濃度がこの範囲であれば、ポリスルホンを含む有機溶媒Aの溶液の粘度が適当であるため、製膜性が良く膜欠点が生じにくく好ましい。
【0017】
次いで、このポリスルホンを含む有機溶媒Aの溶液を基材上に所定の厚みで塗布したのち、凝固浴中に浸漬する。これにより、凝固浴と接触する表面部分などは、溶媒のDMFが迅速に揮散するとともに、ポリスルホンの凝固が急速に進行し、DMFの存在した部分を核とする微細な連結孔が生成する。また、上記の表面部分から基材側へ向かう内部においては、DMFの揮散とポリスルホンの凝固は表面に比べて緩慢に進行するので、大きな核を形成しやすく、生成する連結孔が大径化する。上記の核生成の条件は、膜表面からの距離によって徐々に変化するので、明確な境界のない、滑らかな孔径分布を有する微多孔性支持膜が形成されることになる。
【0018】
微多孔性支持膜および基材の厚みは、複合半透膜の強度およびそれをエレメントにしたときの充填密度に影響を与える。十分な機械的強度および充填密度を得るためには、基材の厚みは、50〜300μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは75〜200μmの範囲内である。また、基材の上に作製される微多孔性支持膜の厚みは、10〜200μmの範囲内にあることが好ましく、より好ましくは30〜100μmの範囲内である。
【0019】
本発明において、基材上に、高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬するまでの時間は、0.1〜5秒間の範囲であることが好ましい。凝固浴に浸漬するまでの時間がこの範囲であれば、高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液が基材の繊維間にまで十分浸透した後固化されるので、そのアンカー効果により微多孔性支持膜が基材に強固に接合する。
【0020】
凝固浴には、水やメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、またDMFやNMPなどといった有機溶媒、あるいはこれらの混合溶媒を用いることができるが、本発明では、凝固浴が20〜40重量%の有機溶媒Cを含む水溶液であることが必要である。凝固浴中の有機溶媒Cの含有率が20〜40重量%、好ましくは25〜35重量%であることで、凝固浴が水である場合と比べて凝固浴に接触させたときの高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液の相分離速度が緩慢になり、微多孔性支持膜の孔径が大きくなる。該微多孔性支持膜を用いて複合半透膜を作製すると、孔径が小さく表面積が大きい分離機能層が形成されるため、高い溶質除去性を維持したまま水透過流束が増加するものと考えられる。
【0021】
なお、高分子材料の溶解に用いる有機溶媒Aと凝固浴中に含有される有機溶媒Cは異なるものであってもよいが、上述の通り、凝固浴中には高分子材料を溶解した有機溶媒Aが揮散し、また、新たな溶媒も必要としないことから、凝固浴中に含有される有機溶媒Cは高分子材料の溶解に用いる有機溶媒Aと同じであることが好ましい。有機溶媒Aとしては高分子材料の溶解性の高いDMFを用いることが好ましいため、その場合は有機溶媒CもDMFを用いることが好ましい。
【0022】
また、上述の方法により得られた微多孔性支持膜は、洗浄浴で洗浄することにより微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度を低減する。洗浄は、例えば25℃の純水中であっても長時間浸漬を行えば十分に洗浄することが出来るが、洗浄効率、微多孔性支持膜の耐久性を考慮すると50〜100℃の範囲内、好ましくは65〜85℃の範囲内の熱水中に15秒〜10分間、より好ましくは2〜8分間接触させることが好ましい。本発明では、凝固浴で微多孔性支持膜を洗浄した後の微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度が10重量%以下であることが必要であるが、例えば上記の洗浄条件であれば、微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度を10重量%以下に低減することができ、高い溶質除去性、高い水透過性を併せ持つ複合半透膜を得ることが出来る。
【0023】
次に、本発明における複合半透膜の製造方法について説明する。複合半透膜を構成する分離機能層は、例えば、多官能アミンを含有する水溶液と、多官能酸ハロゲン化物を含有する、水と非混和性の有機溶媒Bの溶液とを用い、上記微多孔性支持膜の表面で界面重縮合を行うことによりその骨格を形成できる。分離機能層は微多孔性支持膜の両面に設けられてもよく、複数の分離機能層を設けてもよいが、通常、片面に一層の分離機能層があれば十分である。分離機能層の厚みは、十分な分離性能および透過流束を得るために、通常0.01〜1μmの範囲内、好ましくは0.1〜0.5μmの範囲内である。
【0024】
ここで、多官能アミンとは、1分子中に少なくとも2個の一級および二級アミノ基を有するアミンをいい、たとえば、2個のアミノ基がオルト位やメタ位、パラ位のいずれかの位置関係でベンゼンに結合したフェニレンジアミン、キシリレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼン、1,2,4−トリアミノベンゼン、3,5−ジアミノ安息香酸などの芳香族多官能アミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミンなどの脂肪族アミン、1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン、ピペラジン、1,3−ビスピペリジルプロパン、4−アミノメチルピペラジンなどの脂環式多官能アミン等を挙げることができる。中でも、膜の選択分離性や透過流束、耐熱性を考慮すると芳香族多官能アミンであることが好ましく、このような多官能芳香族アミンとしては、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、1,3,5−トリアミノベンゼンが好適に用いられる。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさから、m−フェニレンジアミン(以下、m−PDAと記す)を用いることがより好ましい。これらの多官能アミンは、単独で用いたり、混合して用いたりしてもよい。
【0025】
多官能酸ハロゲン化物とは、1分子中に少なくとも2個のハロゲン化カルボニル基を有する酸ハロゲン化物をいう。たとえば、3官能酸ハロゲン化物では、トリメシン酸クロリド、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸トリクロリド、1,2,4−シクロブタントリカルボン酸トリクロリドなどを挙げることができ、2官能酸ハロゲン化物では、ビフェニルジカルボン酸ジクロリド、ビフェニレンカルボン酸ジクロリド、アゾベンゼンジカルボン酸ジクロリド、テレフタル酸クロリド、イソフタル酸クロリド、ナフタレンジカルボン酸クロリドなどの芳香族2官能酸ハロゲン化物、アジポイルクロリド、セバコイルクロリドなどの脂肪族2官能酸ハロゲン化物、シクロペンタンジカルボン酸ジクロリド、シクロヘキサンジカルボン酸ジクロリド、テトラヒドロフランジカルボン酸ジクロリドなどの脂環式2官能酸ハロゲン化物を挙げることができる。
【0026】
多官能アミンとの反応性を考慮すると、多官能酸ハロゲン化物は多官能酸塩化物であることが好ましく、また、膜の選択分離性、耐熱性を考慮すると、多官能芳香族酸塩化物であることが好ましい。中でも、入手の容易性や取り扱いのしやすさの観点から、トリメシン酸クロリドを用いるとより好ましい。これらの多官能酸ハロゲン化物は、単独で用いたり、混合して用いたりしてもよい。
【0027】
ここで、多官能アミン水溶液における多官能アミンの濃度は0.1〜10重量%の範囲内であることが好ましい。この範囲であると、十分な溶質除去性能および透過流束を得ることができる。多官能アミン水溶液には、多官能アミンと多官能酸ハロゲン化物との反応を妨害しないものであれば、界面活性剤や有機溶媒、アルカリ性化合物、酸化防止剤などが含まれていてもよい。界面活性剤は、微多孔性支持膜表面の濡れ性を向上させ、アミン水溶液と非極性溶媒との間の界面張力を減少させる効果があり、有機溶媒は界面重縮合反応の触媒として働くことがあり、添加することにより界面重縮合反応を効率よく行える場合がある。
【0028】
界面重縮合を微多孔性支持膜上で行うために、まず、上述の多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜に接触させる。接触は、微多孔性支持膜面上に均一にかつ連続的に行うことが好ましい。具体的には、例えば、多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜にコーティングする方法や微多孔性支持膜を多官能アミン水溶液に浸漬する方法を挙げることができる。微多孔性支持膜と多官能アミン水溶液との接触時間は、10秒〜10分間であることが好ましく、1〜3分間の範囲内であるとさらに好ましい。
【0029】
多官能アミン水溶液を微多孔性支持膜上に接触させた後は、膜上に液滴が残らないように十分に液切りする。液滴が残ると、膜形成後に液滴残存部分が膜欠点となって膜性能の低下を招きやすい。液切りの方法としては、たとえば、特開平2−78428号公報に記載されているように、多官能アミン水溶液接触後の微多孔性支持膜を垂直方向に把持して過剰の水溶液を自然落下させる方法や、エアーノズルから窒素などの風を吹き付け、強制的に液切りする方法などを用いることができる。また、液切り後、膜面を乾燥させ、水溶液の水の一部を除去することもできる。
【0030】
次いで、多官能アミン水溶液接触後の支持膜に、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒Bの溶液を接触させ、界面重縮合により架橋ポリアミド分離機能層の骨格を形成させる。有機溶媒B溶液中の多官能酸ハロゲン化物の濃度は、0.01〜10重量%の範囲内であると好ましく、0.02〜2.0重量%の範囲内であるとさらに好ましい。この範囲内であると、十分な反応速度が得られ、また副反応物の発生を抑制することができる。さらに、この有機溶媒B溶液にDMFのようなアシル化触媒を含有させると、界面重縮合が促進され、さらに好ましい。
【0031】
ここで用いられる有機溶媒Bは、水と非混和性であり、かつ多官能酸ハロゲン化物を溶解し微多孔性支持膜を破壊しないことが望ましく、アミノ化合物および多官能酸ハロゲン化物に対して不活性であるものであればよい。好ましい例としては、例えば、n−ヘキサン、n−オクタン、n−デカンなどの炭化水素化合物が挙げられる。多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒B溶液のアミン化合物水溶液相への接触方法は、多官能アミン水溶液の微多孔性支持膜への被覆方法と同様に行えばよい。
【0032】
上述したように、多官能酸ハロゲン化物の有機溶媒B溶液を接触させて界面重縮合を行い、微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成した後は、余剰の溶液を液切りすると良い。液切りの方法は、例えば、膜を垂直方法に把持して過剰の溶液を自然落下して除去する方法を用いることができる。この場合、垂直方向に把持する時間としては、1〜5分間の間にあることが好ましく、1〜3分間であるとより好ましい。この範囲であれば、分離機能層を完全に形成させることができ、有機溶媒Bの過乾燥による欠点の発生を防ぐことができる。
【0033】
上述の方法により得られた複合半透膜は、50〜150℃の範囲内、好ましくは70〜130℃の範囲内で1〜10分間、より好ましくは2〜8分間熱水処理する工程などを付加することで、複合半透膜の溶質除去性や透水性能をより一層向上させることができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。
【0035】
(ポリスルホン支持膜中DMF濃度)
ポリエステル不織布基材とポリスルホンからなる支持膜を80℃の蒸留水中に3時間浸漬してサンプル水溶液を得た。得られた水溶液中のDMF量をガスクロマトグラフィーで測定し、膜厚、含水率から支持膜中のDMF濃度を算出した。
【0036】
(脱塩率)
複合半透膜に、温度25℃、pH6.5に調整したTDS濃度約3.5%の海水を操作
圧力5.5MPaで供給するときの透過水の塩濃度を測定することにより、次の式から求めた。
【0037】
脱塩率=100×{1−(透過水中の塩濃度/供給水中の塩濃度)}
(ホウ素除去率)
上記脱塩率測定に用いる透過水のホウ素濃度をICP発光分析装置(P-4010型 日立製)で測定し、次の式から求めた。
【0038】
ホウ素除去率=100×{1−(透過水中のホウ素濃度/供給水中のホウ素濃度)}
(膜透過流束)
供給水として上記海水を使用し、膜面1平方メートル当たり、1日の透水量(立方メートル)から膜透過流束(m/m/日)を求めた。
【0039】
(実施例1)
ポリエステル不織布(通気度0.5〜1cc/cm/s)上にポリスルホンの15.7重量%DMF溶液を180μmの厚みで室温(25℃)でキャストし、ただちに25℃の26重量%DMF水溶液に20秒間浸漬することによって微多孔性支持膜を作製した。このようにして得られた微多孔性支持膜(厚さ140〜150μm)を、75℃の熱水で2分間洗浄した。ここで得られたポリスルホン支持膜中のDMF濃度は表1に示す値であった。
【0040】
次いで、洗浄した微多孔性支持膜をm−フェニレンジアミン6.5重量%水溶液中に10秒間浸漬し、膜を垂直方向にゆっくりと引き上げ、過剰水溶液を自然落下させた後、トリメシン酸クロリド0.165重量%のn−デカン溶液を表面が完全に濡れるように塗布して10秒間放置した。次に、膜から余分な溶液を除去するために、膜を1分間垂直に把持して液切りした。その後、得られた複合半透膜を90℃の熱水で2分間洗浄した。得られた複合半透膜の透過流束、脱塩率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0041】
(実施例2)
微多孔性支持膜の洗浄条件を75℃の熱水で30秒間洗浄に変更した以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られたポリスルホン支持膜中のDMF濃度と、複合半透膜の透過流束、脱塩率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0042】
(実施例3)
微多孔性支持膜の洗浄条件を75℃の熱水で15秒間洗浄に変更した以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られたポリスルホン支持膜のDMF濃度と、複合半透膜の透過流束、脱塩率は、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0043】
(比較例1)
凝固浴のDMF水溶液の濃度を0重量%に変更した以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られたポリスルホン支持膜中のDMF濃度と、複合半透膜の透過流束、脱塩率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0044】
(比較例2)
凝固浴のDMF水溶液の濃度を13重量%に変更した以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られたポリスルホン支持膜中のDMF濃度と、複合半透膜の透過流束、脱塩率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0045】
(比較例3)
凝固浴のDMF水溶液の濃度を45重量%に変更した以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られたポリスルホン支持膜中のDMF濃度と、複合半透膜の透過流束、脱塩率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0046】
(比較例4)
微多孔性支持膜の洗浄条件を40℃の温水で15秒間洗浄に変更した以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られたポリスルホン支持膜のDMF濃度と、複合半透膜の透過流束、脱塩率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0047】
(比較例5)
微多孔性支持膜を洗浄しなかった以外は実施例1と同様にして複合半透膜を作製した。得られたポリスルホン支持膜のDMF濃度と、複合半透膜の透過流束、脱塩率、ホウ素除去率はそれぞれ表1に示す値であった。
【0048】
【表1】

【0049】
表1から読みとれる通り、凝固浴として20〜40重量%のDMF水溶液を用いて微多孔性支持膜を作製し、洗浄浴にて微多孔性支持膜中のDMF濃度を10重量%以下に低減した微多孔性支持膜を用いることで、高い溶質除去性能と高い透過流束を併せ持つ複合半透膜を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬して微多孔性支持膜を形成し、洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄し、次いで、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒Bの溶液を接触させることで微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させてなる複合半透膜であって、前記凝固浴が有機溶媒Cを20〜40重量%含む水溶液であり、前記洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄した後の微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度が10重量%以下であることを特徴とする複合半透膜。
【請求項2】
有機溶媒Aと有機溶媒Cが同一であることを特徴とする請求項1に記載の複合半透膜。
【請求項3】
有機溶媒Aがジメチルホルムアミドである請求項1または2に記載の複合半透膜。
【請求項4】
基材上に、高分子材料を含む有機溶媒Aの溶液を塗布した後、凝固浴に浸漬して微多孔性支持膜を形成し、洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄し、次いで、微多孔性支持膜上に多官能アミン水溶液を接触させた後、多官能酸ハロゲン化物を含む有機溶媒Bの溶液を接触させることで微多孔性支持膜上に架橋ポリアミドを含む分離機能層を形成させる複合半透膜の製造方法であって、前記凝固浴が有機溶媒Cを20〜40重量%含む水溶液であり、前記洗浄浴で微多孔性支持膜を洗浄した後の微多孔性支持膜中の有機溶媒Aの濃度を10重量%以下に低減することを特徴とする複合半透膜の製造方法。
【請求項5】
有機溶媒Aと有機溶媒Cが同一であることを特徴とする請求項4に記載の複合半透膜の製造方法。
【請求項6】
有機溶媒Aがジメチルホルムアミドである請求項4または5に記載の複合半透膜の製造方法。

【公開番号】特開2011−255306(P2011−255306A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−131656(P2010−131656)
【出願日】平成22年6月9日(2010.6.9)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】