説明

複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物および成形体

【課題】柔軟で弾性に富み成形加工性に優れ、ABS樹脂、ABS樹脂とポリカーボネート樹脂とのブレンド物との熱融着性に優れた複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物およびそれを使用した成形体、特に複合成形体の提供。
【解決手段】ポリエステルブロック共重合体(A)55〜98重量%と、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるグラフト共重合体(B)1〜44重量%と、ポリカーボネート樹脂(C)1〜44重量%とからなる複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物および成形体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟で弾性に富み成形加工性に優れ、且つ共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂、共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂とポリカーボネートとのブレンド物との熱融着性に優れた複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物および成形体、特に複合成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
結晶性芳香族ポリエステル単位をハードセグメントとし、ポリ(アルキレンオキシド)グリコールのような脂肪族ポリエーテル単位および/またはポリラクトンのような脂肪族ポリエステル単位をソフトセグメントとするポリエステルブロック共重合体は、強度、耐衝撃性、弾性回復性、柔軟性などの機械的性質や、低温、高温特性に優れ、さらに熱可塑性で成形加工が容易であることから、自動車、電気・電子部品、消費材などの分野に広く使用されている。
【0003】
しかし、このようなポリエステルブロック共重合体は、優れた特性を有する反面、硬質樹脂との熱融着性、特に共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂との熱融着性が不十分であるという問題があった。
【0004】
ポリエステルブロック共重合体を主成分として含む熱可塑性エラストマ樹脂組成物と硬質樹脂の熱融着性を改善するために種々の検討がなされており、例えば水素添加されたスチレン系ブロック共重合体やそれをカルボン酸変性したブロック共重合からなる熱可塑性エラストマと融点が80℃〜180℃の範囲にある熱可塑性ポリエステルとからなる熱可塑性エラストマ組成物(例えば、特許文献1参照)、水添SBSブロックコポリマなどの熱可塑性弾性体とポリエステルエラストマとからなる熱可塑性弾性体組成物(例えば、特許文献2参照)、特定のスチレン系エラストマとポリエステルエラストマなどの熱可塑性エラストマとからなる組成物(例えば、特許文献3参照)が提案されている。
【0005】
しかし、これらの従来技術では、共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂、共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂とポリカーボネートのブレンド物との熱融着性は確かに改善効果が認められるものの、機械的強度が低く実用に耐えないという問題があった。
【0006】
一方、耐薬品性、ウェルド強度に優れるポリカーボネート、共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂、ポリエステル系エラストマからなる熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献4参照)、耐衝撃性、冷熱サイクルによる破損・変形に優れるポリカーボネート、熱可塑性ポリエステル、ABSグラフ共重合体からなる熱可塑性樹脂組成物(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
【0007】
しかし、これらの従来技術では、機械的強度は優れるものの、エラストマの特徴である柔軟性が失われ実用に耐えないという問題があった。
【特許文献1】特開平1−230660号公報
【特許文献2】特開平3−100045号公報
【特許文献3】特開平9−124887号公報
【特許文献4】特開昭60−219250号公報
【特許文献5】特開平11−138642号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0009】
したがって、本発明の目的は、柔軟で弾力性に富み成形加工性に優れるポリエステルエラストマの特徴を保持し、かつ、共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂、共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂とポリカーボネートとのブレンド物との熱接着性に優れた複合成形用熱可塑性エラストマ組成物およびそれを使用した成形体、特に複合成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の目的を達成するために鋭意検討した結果、ポリエステルブロック共重合体に、特定のゴム質重合体とポリカーボネート樹脂を配合することにより、上記の目的が効果的に達成されることを見出し本発明に到達した。
【0011】
すなわち、本発明によれば、主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)60〜98重量%と、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるグラフト共重合体(B)1〜39重量%と、ポリカーボネート樹脂(C)1〜39重量%とからなることを特徴とする複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物が提供される。
【0012】
なお、本発明の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物においては、
前記グラフト共重合体(B)のゴム質重合体がジエン系ゴム質重合体であること、
前記グラフト共重合体(B)が、ジエン系ゴム質重合体40〜85重量部の存在下に、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分15〜60重量部を重合してなるものであること、および
前記グラフト共重合体(B)のグラフト率が25%以上であること
がいずれも好ましい条件として挙げられる。
【0013】
また、本発明の複合成形体は、上記の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とし、
硬質樹脂と上記複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物とからなる複合成形体であること、および
硬質樹脂が共役ジエン系ゴム強化ポリスチレン系樹脂、共役ジエン系ゴム強化ポリスチレン系樹脂とポリカーボネート樹脂とのブレンド物から選ばれる樹脂である複合成形体であること、
がいずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下に説明するとおり、柔軟で弾性に富み成形加工性に優れたポリエステルエラストマの特徴を保持し、かつ、ABS樹脂、ABS樹脂とポリカーボネート樹脂とのブレンド物との熱融着性に優れた複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物およびそれらを使用した成形体、特に複合成形体を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明について詳述する。
【0016】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の高融点結晶性重合体セグメント(a1)は、主として芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、ジオールまたはそのエステル形成性誘導体から形成されるポリエステルであり、芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、ナフタレン−2,7−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ジフェニル−4,4' −ジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4' −ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−スルホイソフタル酸、および3−スルホイソフタル酸ナトリウムなどが挙げられる。主として芳香族ジカルボン酸を用いるが、必要によっては、芳香族ジカルボン酸の一部を、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、4,4' −ジシクロヘキシルジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸や、アジピン酸、コハク酸、シュウ酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、およびダイマー酸などの脂肪族ジカルボン酸に置換してもよい。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、たとえば低級アルキルエステル、アリールエステル、炭酸エステル、および酸ハロゲン化物などももちろん同等に用い得る。
【0017】
ジオールの具体例としては、分子量400以下のジオール、例えば1,4−ブタンジオール、エチレングリコール、トリメチレングリコール、ペンタメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコールなどの脂肪族ジオール、1,1−シクロヘキサンジメタノール、1,4−ジシクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノールなどの脂環族ジオール、およびキシリレングリコール、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(p−ヒドロキシ)ジフェニルプロパン、2,2' −ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]スルホン、1,1−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]シクロヘキサン、4,4' −ジヒドロキシ−p−ターフェニル、および4,4' −ジヒドロキシ−p−クオーターフェニルなどの芳香族ジオールが好ましく、かかるジオールは、エステル形成性誘導体、例えばアセチル体、アルカリ金属塩などの形でも用い得る。
【0018】
これらのジカルボン酸、その誘導体、ジオール成分およびその誘導体は、2種以上併用してもよい。そして、好ましい高融点結晶性重合体セグメント(a)の例は、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートと1,4−ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位である。また、テレフタル酸および/またはジメチルテレフタレートとから誘導されるポリブチレンテレフタレート単位と、イソフタル酸および/またはジメチルイソフタレートと1,4−ブタンジオールとから誘導されるポリブチレンイソフタレート単位からなるものも好ましく用いられる。
【0019】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(a2)は、脂肪族ポリエーテルであり、この脂肪族ポリエーテルの具体例としては、ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(トリメチレンエーテル)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール、ポリ(ヘキサメチレンオキシド)グリコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドの共重合体、ポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物、およびエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体などが挙げられる。これらのなかでも、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールおよび/またはポリ(プロピレンオキシド)グリコールのエチレンオキシド付加物および/またはエチレンオキシドとテトラヒドロフランの共重合体が好ましい。また、これらの低融点重合体セグメントの数平均分子量としては、共重合された状態において300〜6000程度であることが好ましい。
【0020】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)の低融点重合体セグメント(a2)の共重合量は、通常、10〜90重量%、好ましくは15〜85重量%である。
【0021】
本発明に用いられるポリエステルブロック共重合体(A)は、公知の方法で製造することができる。その具体例としては、例えば、ジカルボン酸の低級アルコールジエステル、過剰量の低分子量グリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル交換反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法、およびジカルボン酸と過剰量のグリコールおよび低融点重合体セグメント成分を触媒の存在下エステル化反応せしめ、得られる反応生成物を重縮合する方法などのいずれの方法をとってもよい。
【0022】
本発明に用いられるグラフト共重合体(B)は、ゴム質重合体と、芳香族ビニル系単量体とシアン化ビニル単量体またはそれらと共重合可能な他のビニル系単量体とからなる樹脂であり、通常ゴム質重合体の存在下に、芳香族ビニル単量体とシアン化ビニル系単量体またはそれらと共重合可能な他のビニル系単量体をグラフト重合してなるグラフト重合体である。
【0023】
ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン共重合体等のジエン系重合体、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−非共役ジエン系共重合体等のエチレン−プロピレン系共重合体、アクリル酸エステル系共重合体、塩素化ポリエチレン等が挙げられ、1種または2種以上用いることができる。中でも成形加工性やポリエステルブロック共重合体との分散性が良好な点で、ジエン系重合体が好ましく使用される。
【0024】
芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレンなどを挙げることができる。中でもスチレンおよび/またはα−メチルスチレンが好ましく用いられる。
【0025】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどを挙げることができるが、中でもアクリロニトリルが好ましい。
【0026】
共重合可能な他の単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸などのα,β−不飽和カルボン酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸−t−ブチル、メタクリル酸シクロヘキシルなどのα,β−不飽和カルボン酸エステル類、無水マレイン酸、無水イタコン酸などのα,β−不飽和ジカルボン酸無水物類、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド,N−t−ブチルマレイミドなどのα,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物などを挙げることができる。
【0027】
本発明で用いるグラフト重合体(B)は、ゴム質重合体40〜85重量部に対し、芳香族ビニル単量体、シアン化ビニル単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体からなる単量体混合物15〜60重量部をグラフト重合することにより得られる。ゴム質重合体が85重量部を越えると、グラフト率の相対的低下により良好な機械物性が得られず、さらに40重量部未満でもあるいは85重量部を越えても、ポリエステルブロック共重合体との相溶性が低下する傾向となるため好ましくない。
【0028】
グラフト重合する芳香族ビニル単量体の割合は、全ビニル系単量体に対し好ましくは50〜99重量%、より好ましくは60〜90重量%、さらに好ましくは70〜80重量%であり、シアン化ビニル系単量体の割合は、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは10〜40重量%、さらに好ましくは20〜30重量%である。芳香族ビニル単量体の割合が99重量%を越えてもあるいは50重量%未満でも、またシアン化ビニル単量体の割合が50重量%を越えてもあるいは1重量%未満でも、ポリエステルブロック共重合体との相溶性が低下し、良好な機械物性が得られない場合がある。また、これらと共重合可能な他のビニル系単量体は50重量%以下で用いることが好ましい。
【0029】
本発明で用いるグラフト共重合体(B)のゴム質重合体に対するグラフト率は25%以上、好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上である。グラフト率が25%未満であると、溶融混練時にゴム質重合体同士が凝集して得られる熱可塑性エラストマ樹脂組成物の機械特性を損ねてしまうため好ましくない。
【0030】
本発明のグラフト共重合体(B)の製造方法につては、特に制限はなく、一般的に公知な手法により製造することができ、例えば乳化グラフト重合により得ることができる。ここで使用する乳化剤、重合開始剤および連鎖移動剤は、通常の乳化重合で用いられる試薬を使用できる。代表的な乳化剤としては、ロジン酸カリウム、ステアリン酸カリウムおよびオレイン酸カリウムなどが、重合開始剤としては、有機ハイドロパーオキサイドと含糖ピロリン酸−硫酸第一鉄の併用系および過硫酸塩などが、また連鎖移動剤としては、アルキルチオール化合物が好ましいが、本発明はそれらに限定するものではない。
【0031】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(C)としては、二価のフェノールまたはその誘導体を原料としてエステル交換法あるいはホスゲン法によって製造して得られるものが好ましく使用できる。
【0032】
二価のフェノールの具体例としては、ビス(4−ヒドロキシフェニル)―メタン、1,1―ビス(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−エタン、2,2ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、1−1ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−クロロフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシー3,5−ジクロロフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−ブロモフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ジヒドロキシ−3,5−ジブロモフェニル)−プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メトキシフェニル)−プロパン、1,4−ビス(ヒドロキシフェニル)−シクロヘキサン、1,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−エチレン、1,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ベンゼン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−フェニルメタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル))−ジフェニルメタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2,2,2−トリクロロエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−ケトン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−サルファイド、ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−スルホン、4,4−ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4−ヒドロキシビフェニル、3,3−ジヒドロキシビフェニル、ヒドロキノン、レゾルシノール、2,6−ジヒドロキシナフタレン、2,7−ジヒドロキシナフタレン、フェノールフタレインなどであり、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(通称ビスフェノールA)が好ましく使用できる。二価のフェノールは二種以上を併用してもよい。
【0033】
これらの内でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−プロパン(通称ビスフェノールA)のポリカーボネート樹脂が特に好ましく使用できる。
【0034】
本発明に用いるポリカーボネート樹脂(C)の粘度平均分子量は5,000〜80,000の範囲のものが使用でき、8,000〜50,000の範囲のものが好ましく、10,000〜40,000の範囲のものがより好ましい。
【0035】
ここでいう粘度平均分子量は、オストワルド粘度計を用いて塩化メチレン溶液について20℃で測定して求めた固有粘度をもとに下記Schnellの式を用いて換算することによって得られる値である。
[η]=1.23×10−40.83
(ただし式中[η]は固有粘度を、Mは粘度平均分子量を示す)
【0036】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、上述のポリエステルブロック共重合体(A)60〜98重量%、グラフト重合体(B)1〜39重量%、ポリカーボネート樹脂(C)1〜39重量%を配合してなる樹脂組成物であり、好ましくはポリエステルブロック共重合体(A)60〜90重量%、グラフト重合体(B)3〜35重量%、ポリカーボネート樹脂(C)3〜35重量%、さらに好ましくはポリエステルブロック共重合体(A)60〜85、グラフト重合体(B)5〜30重量%、ポリカーボネート樹脂(C)5〜30重量%を配合してなる樹脂組成物である。
【0037】
ポリエステルブロック共重合体(A)が60重量%未満では、ポリエステルエラストマが持つ柔軟性や成形加工性が損なわれるため好ましくなく、98重量%を越えると、熱融着力が不十分となるため好ましくない。グラフト共重合体(B)が1重量%未満では、熱融着力が不十分であり、39重量%を越えると、成形加工性が損なわれるため好ましくない。ポリカーボネート樹脂(C)が1重量%未満では、熱融着力が不十分であり、39重量%を越えると、ポリエステルエラストマの柔軟性が損なわれたり、射出成形における金型からの離型時に、溶融樹脂の固化速度が遅くなるため、固化しきらない状態でエジェクタピンにより突き出された成形品が変形するため好ましくない。
【0038】
本発明のポリエステルブロック共重合体(A)、グラフト重合体(B)、ポリカーボネート樹脂(C)の混合方法には制限がなく、(A)、(B)、(C)の一括混合、いずれかを溶融した後に残る成分を混合する方法が挙げられ、混練方法としてはバンバリーミキサー、押出機等の公知の方法を採用することができる。
【0039】
さらに、本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物には、目的を損なわない範囲で必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料、可塑剤、難燃剤、離型剤、ガラス繊維、金属繊維、炭素繊維、金属フレーク等の添加剤や補強剤を添加することができる。
【0040】
本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、柔軟で弾力性に富み成形加工性に優れるポリエステルエラストマの特徴を保持していることから、そのまま射出成形して成形品とすることができるが、さらに共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂(ABS樹脂)、このABS樹脂とポリカーボネート樹脂とのブレンド物から選ばれる樹脂との熱融着性に優れるため、これら硬質樹脂との複合成形体とすることができ、これらの複合成形体は、二色成形を初めとする多色射出成形法、インサート成形法によるオーバーモールドなどによって製造される。そして、これらの複合成形体は、各種筐体、カバー、コネクター、グリップ、ローラー、キャスター、ホース、多層チューブなどに応用することができる。
【実施例】
【0041】
以下に実施例によって本発明の効果を説明する。なお、実施例中の%および部とは、ことわりのない場合すべて重量基準である。また、例中に示される特性は次のように測定した。
【0042】
[グラフト率]
ゴム質重合体の所定量M(g)にアセトンを加え、4時間還流した。この溶液を9000rpmで30分間遠心分離後、不溶分を濾過した。この不溶分を60℃で5時間減圧乾燥し、重量N(g)を測定し、グラフト率を次式で算出した。
グラフト率=100×(N−M×L)/(M×L)
ここで、Lはゴム質重合体中のゴムの含有率を表す。
【0043】
[硬度(デュロメーターD)]
ASTM D−2240にしたがって測定した。
【0044】
[引張特性]
JIS K7113に従って、引張破断強度と引張破断伸度を測定した。
【0045】
[曲げ特性]
ASTM D790に従って、曲げ弾性率を測定した。
【0046】
[熱融着接着力]
まず、評価用樹脂組成物を図1に示す幅20mm、長さ60mm、厚み3mmのL字形状を、シリンダー温度240℃、金型温度50℃の条件で射出成形により作成し、この成形されたL字形状成形品(A)を、図2に示す形状となる金型にセットした後、ABS樹脂(B)をシリンダー温度250℃、金型温度50℃の条件で射出成形した。室温にて1日放置後、図2に示す方法により歪み速度50mm/分の条件で引張試験を行い、得られる最大引張力を融着接着力として測定した。
【0047】
[射出成形離型時の変形度合い]
JIS 2号ダンベル試験片をシリンダー温度240℃、金型温度50℃、冷却時間10秒の条件で成形し、エジェクターにより金型から離型させたJIS 2号ダンベル試験片の変形度合いを以下のように判定した。
変形度合い判定 ○:変形なし ×:変形大
【0048】
[参考例]
[ポリエステルブロック共重合体(A−1)の製造]
テレフタル酸362部、1,4−ブタンジオール392部および数平均分子量約1000のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール134部を、チタンテトラブトキシド0.15部と共にヘリカルリボン型攪拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱し、反応水を系外に流出させながらエステル化反応を行った。反応混合物に”イルガノックス”1010(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.75部を添加した後、245℃に昇温し、次いで、50分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で2時間30分重合をおこなった。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングによりペレットとした。
【0049】
[ポリエステルブロック共重合体(A−2)の製造]
テレフタル酸445部、1,4−ブタンジオール241部および数平均分子量約1400のポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール439部を、チタンテトラブトキシド2部と共にヘリカルリボン型撹拌翼を備えた反応容器に仕込み、190〜225℃で3時間加熱して、反応水を系外に留出しながらエステル化反応を行った。反応混合物に”イルガノックス”1010(チバガイギー社製ヒンダードフェノール系酸化防止剤)0.75部を添加した後、245℃に昇温し、次いで40分かけて系内の圧力を27Paの減圧とし、その条件下で3時間50分重合を行わせた。得られたポリマを水中にストランド状で吐出し、カッティングを行なってペレットとした。
【0050】
[グラフト共重合体(B−1)の製造]
ポリブタジエンラテックス60重量部(固形分換算)の存在下で、スチレン70%、アクリルニトリル30%からなる単量体混合物40重量部を4時間にわたって連続滴下して乳化重合した。得られた重合体は硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、濾過、乾燥してパウダー状のゴム質重合体を得た。本ゴム質重合体のグラフト率は39%であった。
【0051】
[グラフト共重合体(B−2)の製造]
ポリブタジエンラテックス60重量部(固形分換算)の存在下でスチレン70%、アクリルニトリル30%からなる単量体混合物40重量部を1時間にわたって連続滴下して乳化重合した。得られた重合体は硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、濾過、乾燥してパウダー状のゴム質重合体を得た。本ゴム質重合体のグラフト率は15%であった。
【0052】
[グラフト共重合体(B−3)の製造]
ポリブタジエンラテックス35重量部(固形分換算)の存在下でスチレン70%、アクリルニトリル30%からなる単量体混合物65重量部を4時間にわたって連続滴下して乳化重合した。得られた重合体は硫酸で凝固し、苛性ソーダで中和、洗浄、濾過、乾燥してパウダー状のゴム質重合体を得た。本ゴム質重合体のグラフト率は43%であった。
【0053】
[ポリカーボネート樹脂(C)]
三菱エンジニアリングプラスチック(株)製“ユーピロン”S−2000を使用した。
【0054】
[ABS樹脂]
下記実施例において、テクノポリマー(株)製ABS330を使用した。
【0055】
[実施例1〜5]および[比較例1〜4]
参考例で得られたポリエステルブロック共重合体(A−1)、(A−2)に、グラフト共重合体(B−1)、(B−2)、(B−3)、ポリカーボネート(C)を、表1に示す配合比率(重量%)でV−ブレンダーを用いて混合し、直径45mmで3条ネジタイプのスクリューを有する2軸押出機を用いて240℃で溶融混練し、ペレット化した。
【0056】
これらのペレットを80℃で5時間乾燥後、240℃に設定したインラインスクリュー型射出成形機を用いて、50℃の金型温度(金型キャビティ表面)において、JIS2号ダンベル試験片と縦129mm×横12.8mm×厚み6.3mmの曲げ試験片を射出成形した。各々試験について特性を調べた結果を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
以上の結果より、実施例1〜6に示した本発明の熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、柔軟で弾力性に富んだポリエステルエラストマの特徴を有し、複合成形によるABS樹脂との熱融着接着性に優れ、金型離型後の成形品の変形もない。
【0059】
これに対し、比較例1、比較例3、比較例5に示した樹脂組成物は、いずれも金型から離型した成形品に変形はないが、ABS樹脂との熱融着力が低くいため好ましくない。比較例2、比較例4に示した樹脂組成物は、ABSとの熱融着力は高いが、金型から離型した成形品が変形するため好ましくない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、上記した優れた特性を活かして、自動車、電子・電気機器、精密機器、および一般消費財用途の各種成形品などに有用である。
【0061】
さらに、本発明の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物は、ABS樹脂、ABS樹脂とポリカーボネート樹脂とのブレンド物との熱融着性に優れるため、これら硬質樹脂との複合成形体として有用である。そして、これらの複合成形体は、二色成形を初めとする多色射出成形法、インサート成形法によるオーバーモールドなどによって製造され、各種筐体、カバー、コネクター、グリップ、ローラー、キャスター、ホース、多層チューブなどに応用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】実施例および比較例の熱融着成形品の概略形状を示す平面図(イ)と側面図(ロ)。
【図2】熱融着力を測定するための概略形状を示す側面図である。
【符号の説明】
【0063】
(A) 複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物
(B) ABS樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主として結晶性芳香族ポリエステル単位からなる高融点結晶性重合体セグメント(a1)と、主として脂肪族ポリエーテル単位および/または脂肪族ポリエステル単位からなる低融点重合体セグメント(a2)とを主たる構成成分とするポリエステルブロック共重合体(A)60〜98重量%と、ゴム質重合体存在下に芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分を共重合してなるグラフト共重合体(B)1〜39重量%と、ポリカーボネート樹脂(C)1〜39重量%とからなることを特徴とする複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項2】
前記グラフト共重合体(B)のゴム質重合体がジエン系ゴム質重合体であることを特徴とする請求項1記載の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項3】
前記グラフト共重合体(B)が、ジエン系ゴム質重合体40〜85重量部の存在下に、芳香族ビニル単量体およびシアン化ビニル単量体を主成分として含む単量体成分15〜60重量部を重合してなるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項4】
前記グラフト共重合体(B)のグラフト率が25%以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物を射出成形してなることを特徴とする成形体。
【請求項6】
前記成形体が複合成形体である請求項5記載の成形体。
【請求項7】
前記成形体が硬質樹脂と請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合成形用熱可塑性エラストマ樹脂組成物とからなる複合成形体であることを特徴とする請求項6に記載の成形体。
【請求項8】
前記硬質樹脂が、共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂、共役ジエン系ゴム強化スチレン系樹脂とポリカーボネート樹脂とのブレンド物から選ばれる樹脂であることを特徴とする請求項6または7に記載の成形体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−189715(P2008−189715A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−23025(P2007−23025)
【出願日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】