説明

複合材料

【課題】特別な制御を不要とし、高温時には日射をより多く遮断できる一方で、低温時には日射をより多く透過できる材料を提供すること。
【解決手段】日射を透過する樹脂と、当該樹脂中に分散して保持されかつ日射を透過する補強材と、を有する複合材料であって、前記樹脂および前記補強材は、800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、前記複合材料の使用環境下限温度での屈折率が互いに略一致するとともに、温度が上昇するにつれて当該樹脂の屈折率と当該補強材の屈折率との差が増大するものであり、これにより、温度が上昇するにつれて前記複合材料の日射透過量が減少することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料に関する。詳しくは、樹脂と補強材とを有する複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車や建築の分野において、日射の透過量を調整可能な材料の開発が進められている。特に、車両用窓ガラスや車両用サンルーフにおいては、車室内の冷暖房の効率化の観点から、夏季には日射をより多く遮断する一方で、冬季には日射をより多く透過する材料の開発が望まれている。
【0003】
そこで、金属酸化物などの熱線を吸収する物質をガラス中に配合してなる熱線吸収ガラスが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、コバルト、鉄、クロムなどの熱線を反射する物質を、ガラス板上に蒸着させてなる熱線反射ガラスが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
さらには、透明電極を配したガラスに、電圧が印加されると日射に対する透過性が変化するエレクトロクロミック物質を含む層を設け、電子制御により日射の透過量を調整可能な調光ガラスが提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2617223号公報
【特許文献2】特許第3058056号公報
【特許文献3】特許第3534288号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2で提案されている材料は、常に日射を吸収または反射するため、車室内への日射の透過を常に遮断する。このため、車室内温度が快適温度よりも高いときには冷房の効率が上がるものの、車室内温度が快適温度よりも低いときには暖房の負荷が大きい。
【0007】
これに対して、特許文献3で提案されている材料は、車室内温度に応じて日射の透過量を調整できるので、上記のような問題は生じない。しかしながら、この材料では電子制御が必要なため、システムが複雑化する。また、電子制御に伴い電力を消費するため、省エネ効果が小さい。
【0008】
本発明は上記に鑑みてなされたものであり、その目的は、特別な制御を不要とし、高温時には日射をより多く遮断できる一方で、低温時には日射をより多く透過できる材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため本発明は、日射を透過する樹脂と、当該樹脂中に分散して保持されかつ日射を透過する補強材と、を有する複合材料を提供する。本発明に係る複合材料では、前記樹脂および前記補強材は、800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、前記複合材料の使用環境下限温度での屈折率が互いに略一致するとともに、温度が上昇するにつれて当該樹脂の屈折率と当該補強材の屈折率との差が増大するものであり、これにより、温度が上昇するにつれて前記複合材料の日射透過量が減少することを特徴とする。
【0010】
本発明では、樹脂および補強材を有する複合材料において、樹脂と補強材との組み合わせを特定した。具体的には、熱に寄与する度合が高いとされている800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、樹脂の屈折率と補強材の屈折率との差が温度の上昇とともに増大するように、樹脂と補強材の組み合わせを特定した。また、800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、複合材料の使用環境下限温度(例えば、車両用サンルーフでは−40℃)での屈折率が互いに略一致するように、樹脂と補強材の組み合わせを特定した。
これにより、使用環境下限温度、即ち最も日射の透過量を増加させたい温度のときに、樹脂の屈折率と補強材の屈折率とが略一致するため、樹脂と補強材の接触界面における日射の散乱を回避でき、複合材料の日射透過量をより増加させることができる。また、高温時には樹脂と補強材の屈折率の差が大きくなるため、樹脂と補強材の接触界面における日射の散乱量を増加させることができ、複合材料の日射透過量を減少できる。
従って、本発明に係る複合材料によれば、電子制御などの特別な制御を行うことなく、使用環境温度(例えば、車両用サンルーフでは−40℃〜80℃)に応じて自動的に、高温時には日射をより多く遮断でき、低温時には日射をより多く透過させることができる。このため、本発明に係る複合材料は、車室内の冷暖房の効率化の観点から、特に車両用サンルーフとして好ましく用いられる。
【0011】
上記発明では、前記樹脂および前記補強材は、前記複合材料の使用環境上限温度での線膨張係数の差が65ppm以上であることが好ましい。
【0012】
この発明では、使用環境上限温度(例えば、車両用サンルーフでは80℃)での樹脂と補強材の線膨張係数の差が65ppm以上となるように、樹脂と補強材の組み合わせを特定した。
ここで、物質の線膨張係数は、屈折率の温度依存度合に比例する。より具体的には、線膨張係数が大きいほど、屈折率は温度の上昇とともに小さくなる。本発明はこの関係を利用したものであり、樹脂の線膨張係数と補強材の線膨張係数との差を65ppm以上とすることにより、使用環境上限温度、即ち最も日射の透過量を減少させたい温度のときに、両者の屈折率の差をより大きくすることができる。これにより、使用環境上限温度のときに、樹脂と補強材の接触界面における日射の散乱量をより増加させることができ、複合材料の日射透過量をより減少できる。従って、この発明によれば、上記発明の効果がより高められる。
【0013】
上記発明では、前記複合材料中における前記補強材の体積含有率は、10%以上であることが好ましい。
【0014】
この発明では、複合材料中における補強材の体積含有率を10%以上とした。これにより、上記発明の効果がより確実に奏されるとともに、十分な強度を有する複合材料が得られる。
【0015】
上記発明では、前記樹脂は、脂環式エポキシ樹脂またはシクロオレフィン樹脂であり、前記補強材は、SガラスまたはTガラスであることが好ましい。
【0016】
この発明では、樹脂として、脂環式エポキシ樹脂またはシクロオレフィン樹脂を用い、補強材として、Sガラス繊維またはTガラス繊維を用いる構成とした。
これにより、上記発明の効果がさらに確実に奏される他、軽量かつ強度の高い複合材料が得られる。
【0017】
上記発明では、前記樹脂は、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート−ポリエステルアロイ樹脂またはビスフェノール系エポキシ樹脂であり、前記補強材は、Eガラスであることが好ましい。
【0018】
この発明では、樹脂として、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート−ポリエステルアロイ樹脂またはビスフェノール系エポキシ樹脂を用い、補強材として、Eガラスを用いる構成とした。
これにより、上記発明の効果がさらに確実に奏される他、軽量かつ強度の高い複合材料が得られる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、特別な制御を不要とし、高温時には日射をより多く遮断できる一方で、低温時には日射をより多く透過できる材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】日射の波長と重価係数との関係を示す図である。
【図2】物質の屈折率と温度との関係を示す図である。
【図3】実施例1〜3および比較例1、2の日射熱取得率と温度との関係を示す図である。
【図4】実施例1、4〜6および比較例1、2の日射熱取得率と温度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳しく説明する。
【0022】
本実施形態に係る複合材料は、車両用サンルーフなどに好適に用いられる複合材料である。この複合材料は、日射を透過する樹脂と、当該樹脂中に分散して保持されかつ日射を透過する補強材と、を含んで構成される。
【0023】
本実施形態で使用する樹脂および補強材は、いずれも、日射を透過するものであり、所定の条件を満たす組み合わせとして特定される。
具体的には、800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、両者の屈折率の差が温度の上昇とともに増大するように、樹脂と補強材の組み合わせが特定される。即ち、本実施形態では、日射の波長領域300nm〜2100nmのうち、熱に寄与する度合いが高いとされている800nm〜1400nmの波長領域内において、両者の屈折率の関係を調整することにより、複合材料の日射透過量を調整する。
【0024】
ここで、日射の波長特性について説明する。
図1は、日射の波長と重価係数との関係を示す図である。重価係数とは、JIS R 3106に準じて規定された、熱に寄与する度合を表す係数である。
図1に示されるように、一般的に日射は、300nm〜2100nmの波長領域の波である。また、この波長領域において、特に重価係数が大きく熱に寄与する度合が大きいのは、800nm〜1400nmの波長領域であり、この波長領域の日射の透過量を調整することが重要であることが分かる。このため、本実施形態では、800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、両者の屈折率が上述の関係を満たすように、樹脂と補強材の組み合わせを特定する。好ましくは、800nm〜1400nmの中心に位置する1100nmにおいて、両者の屈折率の差が温度の上昇とともに増大するように、樹脂と補強材の組み合わせを特定する。
【0025】
次に、屈折率と日射の透過量との関係について説明する。
複合材料の日射の透過量は、複合材料内で発生する日射の散乱の影響を大きく受ける。具体的には、日射の散乱量が多い場合には日射の透過量は少なくなり、日射の散乱量が少ない場合には日射の透過量は多くなる。
ところで、日射の散乱は、複合材料を構成する樹脂と補強材の接触界面で発生する。また、日射の散乱量は、樹脂と補強材の屈折率の差に比例する。このため、樹脂と補強材の屈折率の差が小さい場合には、両者の接触界面における日射の散乱量は少なく、日射の透過量は多い。これに対して、両者の屈折率の差が大きい場合には、両者の接触界面における日射の散乱量は多く、日射の透過量は少ない。
従って、樹脂と補強材の屈折率の差を調整することにより、日射の透過量を調整できることが分かる。
【0026】
そこで、本実施形態では、800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、複合材料の使用環境下限温度での屈折率が互いに略一致するように、樹脂と補強材の組み合わせを特定する。即ち、使用環境下限温度、即ち最も日射の透過量を増加させたい温度のときに、樹脂と補強材の接触界面における日射の散乱を回避して、複合材料の日射透過量を増加させるものである。
【0027】
ここで、複合材料の使用環境下限温度とは、各用途において複合材料が晒される温度の下限温度を意味する。例えば、複合材料を車両用サンルーフに適用した場合には、使用環境温度は−40℃〜80℃であり、使用環境下限温度は−40℃である。
また、略一致とは、両者の屈折率が実質的に一致していることを意味する。具体的には、両者の屈折率が完全に一致している他、±0.005以内の差である場合も含まれる概念である。
【0028】
次に、物質の屈折率と温度との関係について説明する。
図2は、波長1100nmにおける物質の屈折率と温度との関係を示す図である。図2の樹脂と補強材は、車両用サンルーフの使用環境下限温度−40℃において屈折率が一致する組み合わせを示している。
図2に示されるように、樹脂および補強材いずれにおいても、温度が低下すると屈折率は大きくなる一方で、温度が上昇すると屈折率は小さくなることが分かる。即ち、物質の屈折率は、温度依存性を示すことが分かる。
【0029】
また、図2の樹脂と補強材は、線膨張係数が相違する組み合わせ、具体的には、樹脂の方が補強材に比して線膨張係数が大きい組み合わせを示している。
図2に示される各直線の傾きの絶対値、即ち屈折率の温度依存性の大きさは、物質の線膨張係数の大きさに比例していることが分かる。具体的には、線膨張係数が小さい補強材よりも、線膨張係数が大きい樹脂の方が、温度の上昇とともに屈折率がより小さくなっていることが分かる。これは、物質の屈折率は物質の密度に比例するところ、線膨張係数が大きい場合には、物質がより膨張して密度が小さくなる結果、屈折率がより小さくなるためである。
【0030】
従って、この図2から、両者の屈折率の差が温度の上昇とともに増大し、使用環境温度に応じて複合材料の日射透過量が自動的に調整されるようにするためには、両者の線膨張係数に差を設けることが重要であることが分かる。
また、最も日射の透過量を減少させたい使用環境上限温度(車両用サンルーフでは80℃)において、日射の散乱量をより増加させて日射の透過量をより減少させるためには、樹脂の線膨張係数と補強材の線膨張係数の差を大きくすればよいことが分かる。
このため、本実施形態では、後述する実施例で証明される通り、両者の線膨張係数の差が65ppm以上となるように、樹脂と補強材の組み合わせを特定することがより好ましい。この場合には、最も日射の透過量を減少させたい使用環境上限温度において、両者の屈折率の差をより大きくすることができ、日射の散乱量をより増加させて日射透過量をより減少できる。
【0031】
ここで、複合材料の使用環境上限温度とは、各用途において複合材料が晒される温度の上限温度を意味する。例えば、複合材料を車両用サンルーフに適用した場合には、使用環境温度は−40℃〜80℃であり、使用環境上限温度は80℃である。
【0032】
以上、詳述したような所定の条件を満たす組み合わせを構成する樹脂としては、脂環式エポキシ樹脂、シクロオレフィン樹脂、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート−ポリエステルアロイ樹脂、ビスフェノール系エポキシ樹脂などが好ましく例示される。
好ましく例示される上記樹脂の屈折率(波長1100nm、温度−40℃)は、脂環式エポキシ樹脂が1.515〜1.570、シクロオレフィン樹脂が1.510〜1.518、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂が1.550〜1.560、ポリカーボネート−ポリエステルアロイ樹脂が1.550〜1.575、ビスフェノール系エポキシ樹脂が1.515〜1.570の範囲内である。各樹脂の屈折率は、各樹脂の構成単位の割合を変更したり、樹脂同士をブレンドしたりすることにより、上記のそれぞれの範囲内で調整可能である。
【0033】
同様に、上述の所定の条件を満たす組み合わせを構成する補強材としては、Sガラス、Tガラス、Eガラスなどが好ましく例示され、これらのガラスの繊維がより好ましく使用される。
好ましく例示される上記ガラスの屈折率(波長1100nm、温度−40℃)は、Sガラスが1.515、Tガラスが1.517、Eガラスが1.554である。
【0034】
従って、上述の所定の条件を満たす樹脂と補強材の組み合わせの第1の例としては、樹脂として、脂環式エポキシ樹脂またはシクロオレフィン樹脂を用い、補強材として、SガラスまたはTガラスを用いた組み合わせが挙げられる。
また、第2の例としては、樹脂として、メチルメタクリレート・スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート・ポリエステルアロイ樹脂またはビスフェノール系エポキシ樹脂を用い、補強材として、Eガラスを用いた組み合わせが挙げられる。
【0035】
また、本実施形態に係る複合材料では、後述する実施例で証明される通り、補強材の体積含有率は10%以上であることが好ましい。補強材の体積含有率が10%以上であれば、上述の所定の条件をより確実に満たすことができるうえ、より強度の高い複合材料が得られる。
【0036】
本実施形態に係る複合材料の製造方法としては、従来公知の製造方法を採用することができる。
例えば、熱可塑性樹脂を用いる場合には、先ず、樹脂と補強材とを所定の割合で溶融混練し、マスターバッチを調製する。次いで、調製したマスターバッチを、所定の金型内に射出注入し、冷却、固化させる。これにより、所定の形状を有する複合材料が得られる。
また、例えば、UV硬化性樹脂を用いる場合には、マスターバッチを金型内に射出注入した後、UV照射することにより、複合材料が得られる。
また、補強材として繊維クロスを用いる場合には、樹脂中に繊維クロスを浸漬させて、繊維クロスに樹脂を含浸させる。次いで、脱泡処理(減圧処理)を施してから所定の型に注型した後、例えばUV照射により硬化させる。これにより、所定の形状を有する複合材料が得られる。
また、熱硬化性樹脂に関してもUV硬化性樹脂と同じ製造方法が可能であり、加熱することで複合材料が得られる。
【0037】
以上の構成を備える本実施形態に係る複合材料によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態によれば、樹脂および補強材を有する複合材料において、樹脂と補強材との組み合わせを特定した。具体的には、熱に寄与する度合が高いとされている800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、樹脂の屈折率と補強材の屈折率との差が温度の上昇とともに増大するように、樹脂と補強材の組み合わせを特定した。また、800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、複合材料の使用環境下限温度(例えば、車両用サンルーフでは−40℃)での屈折率が互いに略一致するように、樹脂と補強材の組み合わせを特定した。
これにより、使用環境下限温度、即ち最も日射の透過量を増加させたい温度のときに、樹脂の屈折率と補強材の屈折率とが略一致するため、樹脂と補強材の接触界面における日射の散乱を回避でき、複合材料の日射透過量をより増加させることができる。また、高温時には樹脂と補強材の屈折率の差が大きくなるため、樹脂と補強材の接触界面における日射の散乱量を増加させることができ、複合材料の日射透過量を減少できる。
従って、本実施形態に係る複合材料によれば、電子制御などの特別な制御を行うことなく、使用環境温度(例えば、車両用サンルーフでは−40℃〜80℃)に応じて自動的に、高温時には日射をより多く遮断でき、低温時には日射をより多く透過させることができる。このため、本実施形態に係る複合材料は、車室内の冷暖房の効率化の観点から、特に車両用サンルーフとして好ましく用いられる。
【0038】
また、本実施形態によれば、使用環境上限温度(例えば、車両用サンルーフでは80℃)での樹脂と補強材の線膨張係数の差が65ppm以上となるように、樹脂と補強材の組み合わせを特定した。
ここで、物質の線膨張係数は、屈折率の温度依存度合に比例する。より具体的には、線膨張係数が大きいほど、屈折率は温度の上昇とともに小さくなる。本実施形態はこの関係を利用したものであり、樹脂の線膨張係数と補強材の線膨張係数との差を65ppm以上とすることにより、使用環境上限温度、即ち最も日射の透過量を減少させたい温度のときに、両者の屈折率の差をより大きくすることができる。これにより、使用環境上限温度のときに、樹脂と補強材の接触界面における日射の散乱量をより増加させることができ、複合材料の日射透過量をより減少できる。
【0039】
また、本実施形態によれば、複合材料中における補強材の体積含有率を10%以上とした。これにより、上述の効果がより確実に奏されるとともに、十分な強度を有する複合材料が得られる。
【0040】
また、本実施形態によれば、樹脂として、脂環式エポキシ樹脂またはシクロオレフィン樹脂を用い、補強材として、Sガラス繊維またはTガラス繊維を用いる構成とした。
また、本実施形態によれば、樹脂として、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート−ポリエステルアロイ樹脂またはビスフェノール系エポキシ樹脂を用い、補強材として、Eガラスを用いる構成とした。
これにより、上述の効果がさらに確実に奏される他、軽量かつ強度の高い複合材料が得られる。
【0041】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良は本発明に含まれる。
例えば、上記実施形態の効果を阻害しない範囲内で、添加剤などを適宜配合してもよい。
【実施例】
【0042】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、樹脂および補強材の屈折率は、波長1100nm、温度−40℃の条件下での屈折率である。
【0043】
<実施例1>
新日鐵化学社製のメチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂「MS300」および「KS−10」と、補強材としての日本電気硝子社製Eガラス繊維チョップ「T−351」(屈折率=1.554)とを、所定の割合で溶融混練することにより、マスターバッチを調製した。このとき、樹脂の屈折率が補強材の屈折率1.554と略一致(±0.005以内)するように、「MS300」と「KS−10」の配合割合を調整した。また、複合材料中の補強材の体積含有率が10%となるように、補強材の配合割合を調整した。
次いで、調製したマスターバッチを、所定の金型内に射出注入し、冷却、固化させた。これにより、一般的な車両用サンルーフと同等の厚み5mmの板状の複合材料を得た。この複合材料を実施例1とした。
【0044】
<実施例2>
新日鐵化学社製のメチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂「MS300」および「KS−10」と、補強材としての日本電気硝子社製Eガラス繊維チョップ「T−351」(屈折率=1.554)とを、所定の割合で溶融混練することにより、マスターバッチを調製した。このとき、樹脂の屈折率が補強材の屈折率1.554と略一致(±0.005以内)するように、「MS300」と「KS−10」の配合割合を調整した。また、複合材料中の補強材の体積含有率が20%となるように、補強材の配合割合を調整した。
次いで、調製したマスターバッチを、所定の金型内に射出注入し、冷却、固化させた。これにより、一般的な車両用サンルーフと同等の厚み5mmの板状の複合材料を得た。この複合材料を実施例2とした。
【0045】
<実施例3>
新日鐵化学社製のメチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂「MS300」および「KS−10」と、補強材としての日本電気硝子社製Eガラス繊維チョップ「T−351」(屈折率=1.554)とを、所定の割合で溶融混練することにより、マスターバッチを調製した。このとき、樹脂の屈折率が補強材の屈折率1.554と略一致(±0.005以内)するように、「MS300」と「KS−10」の配合割合を調整した。また、複合材料中の補強材の体積含有率が5%となるように、補強材の配合割合を調整した。
次いで、調製したマスターバッチを、所定の金型内に射出注入し、冷却、固化させた。これにより、一般的な車両用サンルーフと同等の厚み5mmの板状の複合材料を得た。この複合材料を実施例3とした。
【0046】
<実施例4>
SABIC社製のポリカーボネート−ポリエステルアロイ樹脂「X7200」と、補強材としての日本電気硝子社製Eガラス繊維チョップ「ECS03T−747」(屈折率=1.554)とを、所定の割合で溶融混練することにより、マスターバッチを調製した。このとき、上記樹脂「X7200」は、補強材の屈折率1.554と略一致(±0.005以内)する屈折率を有する樹脂として、市販の樹脂の中から選定した。また、複合材料中の補強材の体積含有率が10%となるように、補強材の配合割合を調整した。
次いで、調製したマスターバッチを、所定の金型内に射出注入し、冷却、固化させた。これにより、一般的な車両用サンルーフと同等の厚み5mmの板状の複合材料を得た。この複合材料を実施例4とした。
【0047】
<実施例5>
NTTアドバンステクノロジ社製のビスフェノール系エポキシ樹脂に、補強材としての旭化成エレクトロニクス社製Eガラス繊維クロス「7628」(屈折率=1.554)を浸漬させた。このとき、上記樹脂は、補強材の屈折率1.554と略一致(±0.005以内)する屈折率を有するよう、成分を調整した。また、複合材料中の補強材の体積含有率が10%となるように、補強材の配合割合を調整した。
次いで、脱泡処理(減圧処理)を施してから所定の型に注型した後、UV照射を行うことにより、硬化させた。これにより、一般的な車両用サンルーフと同等の厚み5mmの板状の複合材料を得た。この複合材料を実施例5とした。
【0048】
<実施例6>
三菱レイヨン社製のUV硬化型アクリル樹脂「ダイヤビーム」に、補強材としての日本電気硝子社製Eガラス繊維「7628」(屈折率=1.554)を浸漬させた。このとき、上記樹脂「ダイヤビーム」は、補強材の屈折率1.554と略一致(±0.005以内)する屈折率を有する樹脂として、市販の樹脂の中から選定した。また、複合材料中の補強材の体積含有率が10%となるように、補強材の配合割合を調整した。
次いで、脱泡処理(減圧処理)を施してから所定の型に注型した後、UV照射を行うことにより、硬化させた。これにより、一般的な車両用サンルーフと同等の厚み5mmの板状の複合材料を得た。この複合材料を実施例6とした。
【0049】
<比較例1>
日射を良く透過し、従来一般的な車両用サンルーフとして使用されているグリーンガラスを入手し、これを比較例1とした。
【0050】
<比較例2>
日射を良く遮断し、従来一般的な車両用サンルーフとして使用されている、コバルト、鉄、クロムなどの熱線を反射する物質をガラス板上に蒸着させてなる熱線反射ガラス(特許文献2の熱線反射ガラスに相当)を入手し、これを比較例2とした。
【0051】
<評価>
[線膨張係数]
JIS K 7197に準拠して、各実施例で使用した樹脂および補強材のそれぞれについて、線膨張係数を測定した。測定には、SII社製の熱分析装置「TMASS_6300」を使用した。また、測定により得られた樹脂と補強材の線膨張係数に基づいて、両者の線膨張係数の差を算出した。
【0052】
[日射熱取得率]
JIS R 3106に準拠して、実施例で得た複合材料および比較例のガラスの日射熱取得率を測定した。測定には、日立ハイテク社製の分光光度計「U−4000」を使用した。測定により得られた日射熱取得率を、図3および図4に示した。
【0053】
図3は、補強材の体積含有率が異なる実施例1〜3と、比較例1および2について、日射熱取得率と温度との関係を示した図である。ここで、実施例1は補強材の体積含有率(Vf)が10%、実施例2は20%、実施例3は5%の複合材料であり、いずれも樹脂と補強材の線膨張係数の差が65ppmの複合材料である。また、図3の1点鎖線は、比較例1(グリーンガラス)の日射熱取得率(0.80)を示しており、2点鎖線は、比較例2(熱線反射ガラス)の日射熱取得率(0.66)を示している。
【0054】
図3に示されるように、車両用サンルーフの使用環境下限温度−40℃において、実施例1〜3はいずれも、比較例1に比して日射熱取得率が高いことが分かった。この結果から、複合材料中の樹脂と補強材の屈折率を使用環境下限温度−40℃において略一致させることにより、使用環境下限温度−40℃において従来のグリーンガラスよりも日射透過量を増大させることができ、日射熱取得率を高くできることが確認された。
【0055】
また、車両用サンルーフの使用環境上限温度80℃において、実施例1および2は、比較例2に比して日射熱取得率が低いことが分かった。この結果から、複合材料中の補強材の体積含有率(Vf)を10%以上とすることにより、使用環境温度80℃において従来の熱線反射ガラスよりも日射透過量を減少させることができ、日射熱取得率を低くできることが分かった。
【0056】
図4は、樹脂と補強材の線膨張係数の差が異なる実施例1、4〜6と、比較例1および2について、日射熱取得率と温度との関係を示した図である。ここで、実施例1は線膨張係数の差(ΔCTE)が65ppm、実施例4は85ppm、実施例5は105ppm、実施例6は55ppmの複合材料であり、いずれも補強材の体積含有率が10%の複合材料である。また、図4の1点鎖線および2点鎖線は、図3と同様に、比較例1および2の日射熱取得率を示している。
【0057】
図4に示されるように、車両用サンルーフの使用環境下限温度−40℃において、実施例1、4〜6はいずれも、比較例1に比して日射熱取得率が高いことが分かった。なお、この結果は、図3の結果と一致することが確認された。
【0058】
また、車両用サンルーフの使用環境上限温度80℃において、実施例1、4〜6はいずれも、比較例1に比して日射熱取得率が低いことが分かった。この結果から、樹脂の線膨張係数と補強材の線膨張係数とに差を設けて、樹脂の屈折率と補強材の屈折率との差が温度の上昇とともに増大するような構成とすることにより、複合材料の日射透過量を温度の上昇とともに減少させることができることが確認された。
【0059】
また、使用環境上限温度80℃において、実施例1、4、5は、比較例2に比して日射熱取得率が低いことが分かった。この結果から、複合材料中の樹脂と補強材の線膨張係数の差(ΔCTE)を65ppm以上とすることにより、使用環境温度80℃において従来の熱線反射ガラスよりも日射熱透過量を減少させることができ、日射熱取得率を低くできることが分かった。
【0060】
以上の結果を、表1にまとめて示した。表1の判定基準としては、使用環境下限温度−40℃において日射熱取得率が0.80より高く、かつ、使用環境上限温度80℃において日射熱取得率が0.66より低いものを◎と判定した。また、−40℃において日射熱取得率が0.80より高く、かつ、80℃において日射熱取得率が0.66以上のものを○と判定した。また、−40℃において日射熱取得率が0.80以下であり、かつ、80℃において日射熱取得率が0.66以上のものを×と判定した。
【0061】
【表1】

【0062】
表1に示されるように、本実施例によれば、電子制御などの特別な制御を行うことなく、使用環境温度(例えば、車両用サンルーフでは−40℃〜80℃)に応じて自動的に、高温時には従来よりも日射をより多く遮断でき、低温時には従来よりも日射をより多く透過させることができることが確認された。
また、複合材料中の補強材の体積含有率(Vf)は、10%以上とすることが好ましく、複合材料中の樹脂と補強材の線膨張係数の差(ΔCTE)は、65ppm以上とすることが好ましいことが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
日射を透過する樹脂と、当該樹脂中に分散して保持されかつ日射を透過する補強材と、を有する複合材料であって、
前記樹脂および前記補強材は、800nm〜1400nmの波長領域内の少なくとも一の波長において、前記複合材料の使用環境下限温度での屈折率が互いに略一致するとともに、温度が上昇するにつれて当該樹脂の屈折率と当該補強材の屈折率との差が増大するものであり、これにより、温度が上昇するにつれて前記複合材料の日射透過量が減少することを特徴とする複合材料。
【請求項2】
前記樹脂および前記補強材は、前記複合材料の使用環境上限温度での線膨張係数の差が65ppm以上であることを特徴とする請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記複合材料中における前記補強材の体積含有率は、10%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記樹脂は、脂環式エポキシ樹脂またはシクロオレフィン樹脂であり、
前記補強材は、SガラスまたはTガラスであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の複合材料。
【請求項5】
前記樹脂は、メチルメタクリレート−スチレン共重合樹脂、ポリカーボネート−ポリエステルアロイ樹脂またはビスフェノール系エポキシ樹脂であり、
前記補強材は、Eガラスであることを特徴とする請求項1から3いずれか1項に記載の複合材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−241254(P2011−241254A)
【公開日】平成23年12月1日(2011.12.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112120(P2010−112120)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】