説明

複合検出装置

【課題】異なる波長の電磁波用のセンサを同じ半導体基板上にセットし、高感度で電磁波検出を行なう。
【解決手段】センシング部20と、センシング部20へ電荷を供給する電荷供給部16と、センシング部20と電荷供給部16との間に形成される電荷供給調節部ICG2と、センシング部20からの電荷を蓄積する電荷蓄積部17と、センシング部20と電荷蓄積部17の間の電荷転送調節部TG1と、電荷蓄積部17の電荷に対応しる出力部21とを備え、第1のセットと第2のセットが同一半導体基板上に形成され、第1のセットのセンシング部20は第1の電磁波を受けて第1の電磁波の強さに応じた電荷を発生し、第1の電磁波と異なる波長の第2の電磁波を受けて該第2の電磁波の強さに応じて出力する電磁波感応素子が第2のセットに対応して半導体基板上にマウントされ、第2のセットのセンシング部は電磁波感応素子130の力に応じてポテンシャルを変化させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は複合検出装置に関する。更に詳しくは、波長の異なる複数種類の電磁波(例えば可視光線と紫外線)を同時に検出可能とする複合検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イメージングを伴う火災センサにおいては、通常時のイメージと火災発生時のイメージとの差分をとることで火災の発生を感知できる。火災時には紫外線を伴う火炎が発生することがあり、この火炎のイメージは可視光線のみを検出するセンサからは得られない。
他方、紫外線センサのみで火災センサを構成すると、通常時のイメージを形成することが困難である。
そこで、紫外線を検出可能なセンサを可視光線用センサと併用することが望まれる。
可視光センサとしてはCCDカメラを始め各種のセンサが提案されている。また、紫外線用センサとしてはAlGaN、ZnOやダイヤモンド等のワイドギャップ半導体(フォトダイオード)を用いるものが提案されている。非特許文献1にはGaN系の紫外線アレイセンサを既存のCMOSの読み出し回路にフリップチップ技術を用いて接合することが開示されている。
本発明に関連する技術を開示する文献として非特許文献1及び非特許文献2も参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO 2009/081890 A1
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Opto-electronics Review 10(4), 251-260(2002)
【非特許文献2】Abstract book of 2nd International Symposium on Advanced Plasma Science and its Application for Nitrides and Nanomaterials, p.108 (March 7-10, 2010, Nagoya)10a-B06OB
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
火災センサには小型化及び軽量化の要請があるところ、可視光センサと紫外線センサとをワンチップ化したものは提供されていない。
照明器具としての蛍光灯からは微量の紫外線が放出されているので、かかるバックグランドとしての紫外線の影響を排除する見地から紫外線センサには高い感度が要求される。
フォトダイオードを用いて紫外線等の電磁波を検出するシステムでは、光を受けたフォトダイオードの発生する電流を増幅してこれを検出している。従って、電流が流れることに起因する雑音の問題を内包している。換言すれば高い感度での検出が困難である。
勿論、外部に電流増幅器を接続することにより検出感度の向上を図ることができるが、装置が大型化するので製造コストの観点から好ましくない。また、外部電流増幅器は可視光センサと紫外線センサとをワンチップ上にマウントする上でも制約となる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきたところ、いわゆるフローティングディフュージョンの技術を利用して雑音を除去することに気がついた。フローティングディフュージョンの技術を利用した可視光線の検出も確立されているので(特許文献1参照)、この可視光線用のデバイス構造を紫外線用フォトダイオードの出力検出にそのまま利用できれば、装置の簡素化及びコンパクト化の要請を満足できる。
【0007】
この発明の第1の局面は、本発明者の上記知見を敷衍したものであり、次のように規定される。
センシング部と、
前記センシング部へ電荷を供給する電荷供給部と、
前記センシング部と前記電荷供給部との間に形成される電荷供給調節部と、
前記センシング部から転送された電荷を蓄積する電荷蓄積部と、
前記センシング部と前記電荷蓄積部との間に形成される電荷転送調節部と、
前記電荷蓄積部に蓄積された電荷に対応する出力を生成する出力部と、を備えてなる、第1のセット及び第2のセットが同一の半導体基板上に形成され、
前記第1のセットの前記センシング部は第1の電磁波を受けて該第1の電磁波の強さに応じた前記電荷を発生し、
前記第1の電磁波と異なる波長の第2の電磁波を受けて該第2の電磁波の強さに応じた出力を発生させる電磁波感応素子が前記第2のセットに対応して前記半導体基板上にマウントされ、前記第2のセットのセンシング部は該電磁波感応素子での出力に応じてそのポテンシャルを変化させる、ことを特徴とする複数の電磁波を検出する複合検出装置。
【0008】
このように構成される第1の局面の複合検出装置において、第1のセットはいわゆるフローティングディフュージョン技術を利用した光検出装置として、そのセンシング部を例えば透明材料で被覆することにより可視光が検出可能である。
その第2のセットはいわゆる物理・化学現象測定装置としてセンシング部の環境変化を電荷量に変換してその変化を特定する。ここに、電磁波感応素子の発生する出力(第2の電磁波の強さに対応して発生した電荷による電位)を検出対象物理量とすれば、電磁波感応素子の出力をセンシング部のポテンシャル変化に変換し、もってフローティングディフュージョン技術を利用して、何ら電流を伴うことなく、高感度に当該電磁波感応素子の出力を特定できる。
ここに、第1のセット、第2のセット及び電磁波感応素子を同一の半導体基板上に配置することにより、異なる波長の電磁波のセンサをワンチップ上にまとめることができる。
更には、第1のセット及び第2のセットの構成を同じくすることにより、装置の簡素化及びコンパクト化を達成できる。
【0009】
第1の電磁波と第2の電磁波は任意に選択可能であるが、第1のセットは第1の電磁波を直接測定するので、そのセンシング部を構成する半導体基板の特性に依存する。シリコンで基板を形成するときは第1の電磁波として可視光線から近赤外線領域を選択することが好ましい。
これに対し、電磁波感応素子はそのバンドギャップを調整することにより任意の波長の電磁波に対応可能である。
この発明の複合検出装置を火災センサとして利用するときには、第1の電磁波として可視光線を採用し、第2の電磁波として紫外線を採用することが好ましい。
【0010】
第1のセットにおいてはそのセンシング部のポテンシャルを固定し、センシング部を構成する電荷井戸が電荷で満杯に充填された状態にし、第1の電磁波を受けたときに生成する電荷をセンシング部から電荷蓄積部へ転送し、転送された電荷量から第1の電磁波の強さを特定することができる。また、センシング部に対応する電荷井戸の電荷を空にしておいて、第1の電磁波を受けたときに蓄積される電荷を読み出してもよい。
これに対し、第2のセットでは、センシング部に印加される電磁波感応素子の出力(電荷量)に応じてセンシング部のポテンシャルが変化する。電磁波感応素子の出力がゼロ(第2の電磁波の強さがゼロ、電磁波感応素子のシャッタが閉められた状態に対応)のときのポテンシャルP0と電磁波感応素子が何らかの出力(第1の出力、検出された第2の電磁波の第1の強さの対応)のときのポテンシャルP1との差分から電荷蓄積部へ転送される電荷量が特定される。電荷蓄積部へ蓄積された電荷量を任意の方法で電圧に変換し、もって電磁波感応素子の出力(即ち、第2の電磁波の強さ)を特定する。
【0011】
第2のセットのセンシング部には電磁波感応素子の出力変化と電荷移動量の変化(センシング部に蓄積される電荷量の変化)との間に図1の関係がある。高感度の測定を実行するには、図1の関係において、傾斜の大きい領域を用いる必要があり、そのためには、当該領域において下側の部分に電磁波感応素子がシャッタ状態時の移動電荷量をセットすることが好ましい。
センシング部の特性は温度等の関係で経時変化するおそれがあるので、電磁波感応素子の出力とセンシング部のポテンシャルとの関係も変化するおそれがある。例えば、電磁波感応素子がシャッタ状態のポテンシャルP0の位置が設定値より深くなると、センシング部に蓄積される電荷量が大きくなる。その結果、図1の関係において大傾斜領域の上側の部分が利用されることとなり、感度低下と測定範囲の減縮をまねきかねない。
【0012】
センシング部に蓄積される電荷量はセンシング部のポテンシャルと電荷転送調節部のポテンシャルとの差により規定される。そこで、この発明の第2の局面では、電荷転送調節部の電位(即ち、そのポテンシャル)を調整することにより、センシング部のポテンシャルが変化しても、センシング部に蓄積される電荷量を常に好適な量に調整することとした。例えば、電磁波感応素子がシャッタ状態のポテンシャルP0の位置が設定値より深くなったときには、電荷転送調節部の電位を調節してそのポテンシャルを下げ、もってセンシング部に蓄積される電荷量を調節し、その量が常に図1の関係において大傾斜部分の下側領域に位置するようにする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】電磁波感応素子の出力と電荷量との関係を示す特性図である。
【図2】この発明の実施の形態の複合検出装置の構成を示す模式図である。
【図3】紫外線検出部の等価回路を示す。
【図4】紫外線検出部の出力特性をしめすチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、この発明の実施の形態を説明する。
図2は実施の形態の複合検出装置1の構成を示す模式図である。
この複合検出装置1は可視光検出部10と紫外線検出部100とを備える。図中の符号3はシリコン基板であり、このシリコン基板3の表面に可視光検出部10と紫外線検出部100とが作り込まれている。なお、可視光検出部10と紫外線検出部100とはフォローティングディフュージョン(以下、「FD」と省略することがある)技術を利用した電荷読み出し装置(第1のセット11及び第2のセット111)を備える。両者において同一の要素には同一の符号を付してその説明を省略する。同一の要素を採用することにより、製造工数の削減及び装置の簡素化を達成できる。
図中の符号5はレンズである。
【0015】
(可視光検出部10)
まず、可視光検出部10について説明する。
この可視光検出部10は、可視光測定装置として例えば特許文献1で紹介されているような第1のセット11から構成される。
第1のセット11はMOS構造を備える。シリコン基板3の表面にpウェル15が形成され、pウェル15中にn+領域16、17及び18が更に形成される。p型、n型の導電型を調整するには汎用的な方法によりそれぞれの不純物を基板3に対してドープする。
第1のn+領域16は電荷供給部であり、この電荷供給部16には電荷供給電極ID1が接続される。第2のn+領域17は電荷蓄積部であり、この電荷蓄積部17にはFD電極FD1が接続され、FD電極FD1は出力回路21に接続される。この出力回路21は基板3のn領域に形成されて、第1のセット11とあわせてCMOS構造を構成する。出力回路21は、電荷蓄積部17に蓄積される電荷量変化にともなる容量変化を電圧信号に変換して出力する。第3のn+領域18はドレイン部であり、リセットゲートRG1を介して電荷蓄積部17に蓄積された電荷を転送し、電荷を外部へ放出する。そのためのアース電極も基板3のn領域に形成されている。
【0016】
センシング部20の表面には酸化シリコンからなる絶縁膜21が積層され、さらにその上に直接窒化シリコンからなる透光性の保護膜23が積層されている。センシング20を構成するpウェルの表面にはn型の薄い埋め込みチャネル領域を形成することが好ましい。
このように構成された可視光検出部10によれば、レンズ5を通して入射された光のうち、可視光成分の強さに応じてセンシング部20に電荷(電子)が発生し、その電荷がTG1を介して電荷蓄積部17へ転送され、出力回路21に読みだされて電圧信号として出力される。
【0017】
(紫外線検出部100)
紫外線検検出部100は第2のセット111と紫外線感応素子130とを備えてなる。
第2のセット111は、センシング電極125を除き、第1のセット11と同一の構成である。図例上、同一の要素には同一の参照番号を付している。なお、電極に関してはID1とID2、ICG1とICG2、TG1とTG2、FD1とFD2、RG1とRG2とは同一の構造である。
センシング電極125は第2のセット111のセンシング部20を構成する保護膜23の全表面を被覆し、センシング部20へ可視光が届かないようにすることが好ましい。なお、保護膜23は省略可能である。
【0018】
紫外線感応素子130にはIII族窒化物系化合物半導体からなるフォトダイオードを用いた。この素子130を、図2に示すように、フリップチップ形式に基板3にマウントする。即ち、素子130のn型電極がpウェル115にバンプ131で接続され、そのp型電極がn領域116にバンプ133で接続される。n領域116は第2のセット111のセンシング電極125に接続される。
図3には紫外線検出部100の等価回路を示す。
【0019】
レンズ5を通して光を受けた紫外線感応素子130は受光光に含まれる紫外線成分に応じた電荷を発生させ、その電荷量に応じた電位が領域116を介してセンシング電極125に生じる。
センシング電極125の電位に応じ、第2のセット111のセンシング部20のポテンシャルが変化する。このポテンシャルの変化をフローティングディフュージョンの技術により電荷蓄積部17に蓄積される電荷量に変換し、更に出力回路21により出力信号とする。
即ち、ゲート電極TG2の電位を調節してセンシング部20から電荷蓄積部17への電荷の転送を禁止した状態で、電荷供給調節部ICG2の電位を調節して電荷供給部16より電荷をセンシング部20へ注入する。その後、電荷供給部16からの電荷供給を停止するとともに、電荷供給調整部ICGの電位を下げてセンシング部20の電荷をすり切る。これのより、センシング部20にはそのポテンシャル深さに応じた電荷が蓄積される。次に、ゲート電極TG2の電位を上げてセンシング部20に蓄積された電荷を電荷蓄積部17へ転送してその電荷量を出力回路21で読み出す。
【0020】
図4は紫外線検出部100の出力結果を示す。
図4Aはブランク(紫外線の照射なし)のときの出力(Vsig)を示し、図4Bは紫外線(波長:325nm)を510μW/cmの強さで照射したときの出力(Vsig)を示す。
この結果より、紫外線検出部100を用いることにより紫外線の検出が可能なことがわかる。
【0021】
このように構成された可視光線検出部10及び紫外線検出部100をシリコン基板3上にマトリックス状に配置することにより、それぞれの出力に基づき、可視光のイメージ及び紫外光のイメージを同時に形成することが可能となる。
紫外線検出部100において紫外線感応素子130の出力は電位であるので(電流を検出するものではない)、ノイズの影響を受け難く、高感度の検出が可能となる。
【0022】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
【符号の説明】
【0023】
1 複合検出装置
3 半導体基板
10 可視光検出部
11 第1のセット
16、ID1,ID2 電荷供給部
ICG1,ICG2 電荷供給調節部
17,FD1,FD2 電荷蓄積部
20 センシング部
TG1,TG2 電荷転送調節部
21 出力回路
130 紫外線感応素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センシング部と、
前記センシング部へ電荷を供給する電荷供給部と、
前記センシング部と前記電荷供給部との間に形成される電荷供給調節部と、
前記センシング部から転送された電荷を蓄積する電荷蓄積部と、
前記センシング部と前記電荷蓄積部との間に形成される電荷転送調節部と、
前記電荷蓄積部に蓄積された電荷に対応する出力を生成する出力部と、を備えてなる、第1のセット及び第2のセットが同一の半導体基板上に形成され、
前記第1のセットの前記センシング部は第1の電磁波を受けて該第1の電磁波の強さに応じた前記電荷を発生し、
前記第1の電磁波と異なる波長の第2の電磁波を受けて該第2の電磁波の強さに応じた出力を発生させる電磁波感応素子が前記第2のセットに対応して前記半導体基板上にマウントされ、前記第2のセットのセンシング部は該電磁波感応素子の出力に応じてそのポテンシャルを変化させる、ことを特徴とする複数の電磁波を検出する複合検出装置。
【請求項2】
前記第2のセットにおける前記電荷供給調節部の電位を調整し、前記電磁波感応素子の出力がゼロのとき、前記センシング部から前記電荷蓄積部へ転送される電荷量を所定量に調節する、ことを特徴とする請求項1に記載の複合検出装置。
【請求項3】
前記第1の電磁波は可視光線であり、前記第2の電磁波は紫外線である、ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の複合検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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