説明

複合熱可塑性材料とその製造方法及びそれを用いた光学素子

【課題】 本発明の目的は、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、透明性及び着色耐性に優れた複合熱可塑性材料とその製造方法及びそれを用いた光学素子を提供することにある。
【解決手段】 少なくとも熱可塑性樹脂と無機粒子とから構成される複合熱可塑性材料の製造方法であって、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下で製造することを特徴とする複合熱可塑性材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、透明性及び着色耐性に優れた複合熱可塑性材料とその製造方法及びそれを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
MO、CD、DVDといった光情報記録媒体(以下、単に媒体ともいう)に対して、情報の読み取りや記録を行なうプレーヤー、レコーダー、ドライブといった情報機器には、光ピックアップ装置が備えられている。光ピックアップ装置は、光源から発した所定波長の光を媒体に照射し、反射した光を受光素子で受光する光学素子ユニットを備えており、光学素子ユニットはこれらの光を媒体の反射層や受光素子で集光させるためのレンズ等の光学素子を有している。
【0003】
光ピックアップ装置の光学素子は、射出成形等の手段により安価に作製できる等の点で、プラスチックを材料として適用することが好ましい。光学素子に適用可能なプラスチックとしては、環状オレフィンとα−オレフィンの共重合体等が知られている。
【0004】
ところで、例えば、CD/DVDプレーヤーのような、複数種の媒体に対して情報の読み書きが可能な情報機器の場合、光ピックアップ装置は、両者の媒体の形状や適用する光の波長の違いに対応した構成とする必要がある。この場合、光学素子ユニットはいずれの媒体に対しても共通とすることがコストやピックアップ特性の観点から好ましい。
【0005】
一方、プラスチックを材料として適用した光学素子ユニットにおいては、ガラスレンズのような光学的安定性を有する物質であることが求められている。例えば、環状オレフィンのような光学的プラスチック物質は、湿度に関して大幅に改善された屈折率の安定性を有すのに対し、温度に対する屈折率の安定性の改良は未だ十分でないのが現状である。
【0006】
上記のようなプラスチックレンズの光学的屈折率を修正する方法の1つとして、微細粒子充填材を使用する方法が、種々提案されている。
【0007】
この微細粒子充填材は、光学的プラスチックの屈折率を修正するために使用され、粒子サイズが十分に小さい充填材を用いることによって、充填材による光散乱を起こさず、充填されたプラスチックは、レンズとしての十分な透明性を維持することができるものである。例えば、プラスチックの屈折率を増加させるための微細粒子の添加を記載する技術文献としては、C.BeckerとP.Mueller及びH.Schmidtの編による“シリカ微細粒子で修飾された表面を有する熱可塑性微細合成物質における光学的及び熱力学調査”、SPIE Proceedings第3469巻、1998年7月、88−98ページ、並びにB.BrauneとP.Mueller及びH.Schmidtによる“光学的応用のための酸化タンタルナノマー(Tantalum Oxide Nanomers)”、SPIE Proceedings第3469巻、1998年7月、124−132ページ等に記載されている。
【0008】
また、樹脂レンズの屈折率及びその温度依存性の改良を目的として、例えば、感温性を有するポリマー状ホスト物質に、微細粒子物質を2軸押し出し機で混練して分散させて、屈折率の温度依存性を改良した光学製品が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、ポリスチレン、メタクリル酸メチル、環状オレフィンあるいはポリスルホンの各樹脂に、微細粒子物質を2軸押し出し機で混練して分散させて、屈折率の温度依存性を改良した光学製品が提案されている(例えば、特許文献2〜5参照。)。
【0009】
しかしながら、樹脂と微細粒子物質とから構成される複合樹脂剤材料においては、その混練条件によっては、形成した光学製品の透明性を損なう場合や着色を呈するという課題を抱えているが、上記提案されている各方法において、上記の課題に対し、樹脂と微細粒子物質との具体的な混練条件に関しては一切の記載や示唆はなく、透明性が高く、かつ着色のない光学製品を実現するための指針が一切なく、試行錯誤で混練条件を設定しているのが現状である。
【特許文献1】特開2002−207101号公報
【特許文献2】特開2002−241560号公報
【特許文献3】特開2002−241569号公報
【特許文献4】特開2002−241592号公報
【特許文献5】特開2002−241612号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、透明性及び着色耐性に優れた複合熱可塑性材料とその製造方法及びそれを用いた光学素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0012】
(請求項1)
少なくとも熱可塑性樹脂と無機粒子とから構成される複合熱可塑性材料の製造方法であって、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下で製造することを特徴とする複合熱可塑性材料の製造方法。
【0013】
(請求項2)
少なくとも熱可塑性樹脂と無機粒子とから構成される複合熱可塑性材料であって、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下で製造されたことを特徴とする複合熱可塑性材料。
【0014】
(請求項3)
前記無機粒子の含有率が、5質量%以上、80質量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の複合熱可塑性材料。
【0015】
(請求項4)
前記無機粒子の体積平均分散粒径が、30nm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の複合熱可塑性材料。
【0016】
(請求項5)
前記熱可塑性樹脂の吸水率が、0.2質量%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の複合熱可塑性材料。
【0017】
(請求項6)
前記熱可塑性樹脂の少なくとも1種が、環状オレフィン樹脂であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の複合熱可塑性材料。
【0018】
(請求項7)
請求項2〜6のいずれか1項に記載の複合熱可塑性材料を用いて作製されたことを特徴とする光学素子。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、透明性及び着色耐性に優れた複合熱可塑性材料とその製造方法及びそれを用いた光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0021】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、少なくとも熱可塑性樹脂と無機粒子とから構成される複合熱可塑性材料の製造方法であって、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下で製造することを特徴とす複合熱可塑性材料の製造方法により、レンズ、フィルター、グレーティング、光ファイバー、平板光導波路などとして好適に用いられ、透明性及び着色耐性に優れた複合熱可塑性材料を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0022】
すなわち、無機粒子と有機材料である熱可塑性樹脂との複合熱可塑性材料の作製において、溶融、混練により熱可塑性樹脂と無機粒子とを混練する方法を適用する場合、混練に要したエネルギーをパラメータとし、単位体積あたりの投入エネルギー量として100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下という特定の範囲に制御することにより、極めて良好な混練条件を見出すことができた。
【0023】
一般に、混練エネルギーは、混練時のトルクに回転数を乗じて時間で積分した値として得られるが、その単位体積あたりのエネルギーを特定の範囲に規定することにより、極めて良好な混練状態となる。すなわち、熱可塑性樹脂中に無機粒子が均一に分散し、無機粒子の凝集が少なく、熱可塑性樹脂の強度が上昇し、屈折率が無機粒子の性質に従って変化することになる。
【0024】
この様な良好な混練状態が得られた結果、顕著な効果として、透明性の高い材料を得ることができた。一方、過剰のエネルギー付与による混練では、熱可塑性樹脂にダメージを与え、着色などの悪影響を及ぼすことが判明した。
【0025】
本発明において、溶融混練に用いることのできる装置としては、ラボプラストミル、ブラベンダー、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等のような密閉式混練装置またはバッチ式混練装置を挙げることができる。また、単軸押出機、二軸押出機等のように連続式の溶融混練装置を用いて製造することもできる。
【0026】
本発明の複合熱可塑性材料の製造方法において、熱可塑性樹脂と無機粒子を一括で添加し混練してもよいし、段階的に分割添加して混練してもよい。この場合、押出機などの溶融混練装置では、段階的に添加する成分をシリンダーの途中から添加することも可能である。また、予め混連後、熱可塑性樹脂以外の成分で予め添加しなかった成分を添加して更に溶融混練する際も、これらを一括で添加して、混練してもよいし、段階的に分割添加して混練してもよい。分割して添加する方法も、一成分を数回に分けて添加する方法も採用でき、一成分は一括で添加し、異なる成分を段階的に添加する方法も採用でき、そのいずれもを合わせた方法でも良い。
【0027】
本発明の複合熱可塑性材料の製造方法においては、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下で製造することを特徴とするが、本発明に係る投入エネルギー量とは、無機粒子が混合された時点から積算される。無機粒子が混合される前に熱可塑性樹脂のみの混練に投入されたエネルギーは、無機粒子の混練状態に直接は関連しないからである。
【0028】
本発明において、熱可塑性樹脂の吸水率が、無機有機の複合熱可塑性材料の屈折率、およびその温度依存性に大きく影響する観点から、熱可塑性樹脂の吸水率は、0.2質量%以下であることが好ましい。熱可塑性樹脂の吸水率を上記で規定する条件とすることのより、光学材料として複合材料を使用する場合、環境の変化での屈折率の変化が許容範囲に入ってくる。さらに0.1質量%以下であることが好ましい。
【0029】
また、分散されている無機粒子の含有率は、5質量%以上、80質量%以下であることが好ましい。無機粒子の含有率が5質量%以上であれば、無機粒子混合による物性改良効果を発揮させることができ、また80質量%以下であれば、必要な樹脂比率を維持すると共に、元来の樹脂の長所である加工性などの特性が損なわれることがない。
【0030】
熱可塑性樹脂中に分散されている無機粒子の体積平均粒径は、30nm以下であることが好ましい。無機粒子の体積平均粒径が30nm以下であれば、無機粒子に起因する光散乱を抑制でき、高い透明性を得ることができる。
【0031】
また、無機粒子の体積平均粒径の下限としては1nm以上であることが好ましく、1nm以上であれば、比表面積が大きくなりすぎることがなく、樹脂との親和性を得るための表面処理に必要な処理剤を適切な範囲に設定することができる。すなわち、無機粒子の形態が球状である場合、総体積が同じであれば、比表面積は平均粒径に反比例し、例えば、平均粒径が30nmから1nmになると、比表面積は30倍となる。30nmの無機粒子を用い、その表面処理剤の必要量が総体積の10%であったとすると、1nmの粒子を用いた場合には、表面処理にようする表面処理剤の量は30倍となり、この実現は不可能となる。
【0032】
次いで、本発明の複合熱可塑性材料の各構成要素の詳細について順次説明する。
【0033】
〔熱可塑性樹脂〕
本発明の複合熱可塑性材料は、有機重合体からなる熱可塑性樹脂中に無機粒子が分散されることにより熱可塑性樹脂の持つ屈折率が適度に制御できると共に、温度依存性が改良される。
【0034】
本発明に係る熱可塑性樹脂材料としては、光学材料として一般的に用いられる透明の熱可塑性樹脂材料であれば特に制限はないが、光学素子としての加工性を考慮すると、アクリル樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、またはポリイミド樹脂であることが好ましく、特に好ましくは環状オレフィン樹脂であり、例えば、特開2003−73559号公報等に記載の化合物を挙げることができ、その好ましい化合物を表1に示す。
【0035】
【表1】

【0036】
また、本発明に係る熱可塑性樹脂材料においては、吸水率が0.2質量%以下であることが好ましい。吸水率が0.2質量%以下の樹脂としては、例えば、ポリオレフィン樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等)、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テフロン(登録商標)AF(デュポン社製)、サイトップ(旭硝子社製)等)、環状オレフィン樹脂(例えば、ZEONEX(日本ゼオン社製)、アートン(JSR社製)、アペル(三井化学社製)、TOPAS(ポリプラスチック社製)等)、インデン/スチレン系樹脂、ポリカーボネートなどが好適であるが、これらに限るものではない。また、これらの樹脂と相溶性のある他の樹脂を併用することも好ましい。2種以上の樹脂を用いる場合、その吸水率は、個々の樹脂の吸水率の平均値にほぼ等しいと考えら、その平均の吸水率が0.2%以下になればよい。
【0037】
〔無機粒子〕
本発明において用いられる無機粒子は、その体積平均分散粒径が30nm以下であることが好ましく、1nm以上、30nm以下であることがより好ましく、更に好ましくは1nm以上、10nm以下である。体積平均分散粒径が1nm以上であれば、無機粒子の分散性を確保することができ、所望の性能を得ることができ、また体積平均分散粒径が30nm以下であれば、得られる熱可塑性材料組成物の良好な透明性を得ることができ、光線透過率として70%以上を達成することができる。ここでいう体積平均分散粒径とは、分散状態にある無機粒子を、同体積の球に換算した時の直径を言う。
【0038】
本発明において用いることのできる無機粒子の形状は、特に限定されるものではないが、好適には球状の微粒子が用いられる。また、粒径の分布に関しても特に制限されるものではないが、本発明の効果をより効率よく発現させるためには、広範な分布を有するものよりも、比較的狭い分布を持つものが好適に用いられる。
【0039】
本発明で用いることのできる無機粒子としては、例えば、酸化物微粒子が挙げられる。より具体的には、例えば、シリカ、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化ニオブ、酸化タンタル、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化イットリウム、酸化ランタン、酸化セリウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化鉛、これら酸化物より構成される複酸化物であるニオブ酸リチウム、ニオブ酸カリウム、タンタル酸リチウム等、これら酸化物との組み合わせで形成されるリン酸塩、硫酸塩等、を挙げることができる。
【0040】
また、本発明に係る無機粒子として、半導体結晶組成の微粒子も好ましく利用できる。該半導体結晶組成には、特に制限はないが、光学素子として使用する波長領域において吸収、発光、蛍光等が生じないものが望ましい。具体的な組成例としては、例えば、炭素、ケイ素、ゲルマニウム、錫等の周期表第14族元素の単体、リン(黒リン)等の周期表第15族元素の単体、セレン、テルル等の周期表第16族元素の単体、炭化ケイ素(SiC)等の複数の周期表第14族元素からなる化合物、酸化錫(IV)(SnO2)、硫化錫(II、IV)(Sn(II)Sn(IV)S3)、硫化錫(IV)(SnS2)、硫化錫(II)(SnS)、セレン化錫(II)(SnSe)、テルル化錫(II)(SnTe)、硫化鉛(II)(PbS)、セレン化鉛(II)(PbSe)、テルル化鉛(II)(PbTe)等の周期表第14族元素と周期表第16族元素との化合物、窒化ホウ素(BN)、リン化ホウ素(BP)、砒化ホウ素(BAs)、窒化アルミニウム(AlN)、リン化アルミニウム(AlP)、砒化アルミニウム(AlAs)、アンチモン化アルミニウム(AlSb)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、砒化ガリウム(GaAs)、アンチモン化ガリウム(GaSb)、窒化インジウム(InN)、リン化インジウム(InP)、砒化インジウム(InAs)、アンチモン化インジウム(InSb)等の周期表第13族元素と周期表第15族元素との化合物(あるいはIII−V族化合物半導体)、硫化アルミニウム(Al23)、セレン化アルミニウム(Al2Se3)、硫化ガリウム(Ga23)、セレン化ガリウム(Ga2Se3)、テルル化ガリウム(Ga2Te3)、酸化インジウム(In23)、硫化インジウム(In23)、セレン化インジウム(In2Se3)、テルル化インジウム(In2Te3)等の周期表第13族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化タリウム(I)(TlCl)、臭化タリウム(I)(TlBr)、ヨウ化タリウム(I)(TlI)等の周期表第13族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化亜鉛(ZnO)、硫化亜鉛(ZnS)、セレン化亜鉛(ZnSe)、テルル化亜鉛(ZnTe)、酸化カドミウム(CdO)、硫化カドミウム(CdS)、セレン化カドミウム(CdSe)、テルル化カドミウム(CdTe)、硫化水銀(HgS)、セレン化水銀(HgSe)、テルル化水銀(HgTe)等の周期表第12族元素と周期表第16族元素との化合物(あるいはII〜VI族化合物半導体)、硫化砒素(III)(As23)、セレン化砒素(III)(As2Se3)、テルル化砒素(III)(As2Te3)、硫化アンチモン(III)(Sb23)、セレン化アンチモン(III)(Sb2Se3)、テルル化アンチモン(III)(Sb2Te3)、硫化ビスマス(III)(Bi23)、セレン化ビスマス(III)(Bi2Se3)、テルル化ビスマス(III)(Bi2Te3)等の周期表第15族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化銅(I)(Cu2O)、セレン化銅(I)(Cu2Se)等の周期表第11族元素と周期表第16族元素との化合物、塩化銅(I)(CuCl)、臭化銅(I)(CuBr)、ヨウ化銅(I)(CuI)、塩化銀(AgCl)、臭化銀(AgBr)等の周期表第11族元素と周期表第17族元素との化合物、酸化ニッケル(II)(NiO)等の周期表第10族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化コバルト(II)(CoO)、硫化コバルト(II)(CoS)等の周期表第9族元素と周期表第16族元素との化合物、四酸化三鉄(Fe34)、硫化鉄(II)(FeS)等の周期表第8族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化マンガン(II)(MnO)等の周期表第7族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化モリブデン(IV)(MoS2)、酸化タングステン(IV)(WO2)等の周期表第6族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化バナジウム(II)(VO)、酸化バナジウム(IV)(VO2)、酸化タンタル(V)(Ta25)等の周期表第5族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化チタン(TiO2、Ti25、Ti23、Ti59等)等の周期表第4族元素と周期表第16族元素との化合物、硫化マグネシウム(MgS)、セレン化マグネシウム(MgSe)等の周期表第2族元素と周期表第16族元素との化合物、酸化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr24)、セレン化カドミウム(II)クロム(III)(CdCr2Se4)、硫化銅(II)クロム(III)(CuCr24)、セレン化水銀(II)クロム(III)(HgCr2Se4)等のカルコゲンスピネル類、バリウムチタネート(BaTiO3)等が挙げられる。なお、G.Schmidら;Adv.Mater.,4巻,494頁(1991)に報告されている(BN)75(BF2)15F15や、D.Fenskeら;Angew.Chem.Int.Ed.Engl.,29巻,1452頁(1990)に報告されているCu146Se73(トリエチルホスフィン)22のように構造の確定されている半導体クラスターも同様に例示される。
【0041】
これらの無機粒子は、1種類の無機粒子を用いてもよく、また複数種類の無機粒子を併用してもよい。また、複合組成の無機粒子を用いることも可能である。
【0042】
〔無機粒子の製造方法及び表面修飾〕
本発明に係る無機粒子の製造方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、ハロゲン化金属やアルコキシ金属を原料に用い、水を含有する反応系において加水分解することにより、所望の酸化物微粒子を得ることができる。この際、微粒子の安定化のために有機酸や有機アミンなどを併用する方法も用いられる。より具体的には、例えば、二酸化チタン微粒子の場合、ジャーナル・オブ・ケミカルエンジニアリング・オブ・ジャパン第31巻1号21−28頁(1998年)や、硫化亜鉛の場合は、ジャーナル・オブ・フィジカルケミストリー第100巻468−471頁(1996年)に記載された公知の方法を用いることができる。例えば、これらの方法に従えば、体積平均分散粒径が5nmの酸化チタンは、チタニウムテトライソプロポキサイドや四塩化チタンを原料として、適当な溶媒中で加水分解させる際に適当な表面修飾剤を添加することにより容易に製造することができる。また、体積平均分散粒径が40nmの硫化亜鉛は、ジメチル亜鉛や塩化亜鉛を原料とし、硫化水素あるいは硫化ナトリウムなどで硫化する際に、表面修飾剤を添加することにより製造することができる。表面修飾する方法は、特に限定されるものではなく、公知のいずれの方法も用いることができる。例えば、水が存在する条件下で加水分解により微粒子の表面に修飾する方法が挙げられる。この方法では、酸またはアルカリなどの触媒が好適に用いられ、微粒子表面の水酸基と、表面修飾剤が加水分解して生じる水酸基とが、脱水して結合を形成することが一般に考えられている。
【0043】
本発明において用いることのできる表面修飾剤としては、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラフェノキシシラン、メチルトリメトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリフェノキシシラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3−メチルフェニルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジフェノキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリフェニルメトキシシラン、トリフェニルフェノキシシランなどが挙げられる。
【0044】
これらシラン化合物以外の化合物でも、反応速度などの特性が異なり、表面修飾の条件などに適した化合物を用いることができる。また、1種類のみを用いても、複数種類を併用してもよい。さらに、用いる化合物によって得られる表面修飾微粒子の性状は異なることがあり、材料組成物を得るにあたって用いる熱可塑性樹脂との親和性を、表面修飾する際に用いる化合物を選ぶことによって図ることも可能である。
【0045】
表面修飾の割合は、特に限定されるものではないが、表面修飾後の微粒子に対して、表面修飾剤の割合が10〜99質量%であることが好ましく、30〜98質量%であることがより好ましい。
【0046】
本発明の複合熱可塑性材料は、屈折率が制御されており、屈折率の温度依存性が小さく、かつ透明度が高く、光学的に優れた材料組成物であり、さらには熱可塑性、あるいは射出成形性を有するために、成形加工性に非常に優れた材料組成物である。この優れた光学特性と成形加工性を併せ持った材料は、これまでに開示されている材料では達成することができなかった特性であり、特定の熱可塑性樹脂と特定の無機粒子から成ることが、この特性に寄与していることが考えられる。
【0047】
〔その他の配合剤〕
本発明の複合熱可塑性材料の調製時や樹脂組成物の成型工程においては、必要に応じて各種添加剤(配合剤ともいう)を添加することができる。添加剤については、格別限定はないが、酸化防止剤、熱安定剤、耐光安定剤、耐候安定剤、紫外線吸収剤、近赤外線吸収剤などの安定剤;滑剤、可塑剤などの樹脂改質剤;軟質重合体、アルコール性化合物等の白濁防止剤;染料や顔料などの着色剤;帯電防止剤、難燃剤、フィラーなどが挙げられる。これらの配合剤は、単独で、あるいは2種以上を組み合せて用いることができ、その配合量は本発明に記載の効果を損なわない範囲で適宜選択される。本発明においては、特に、重合体が少なくとも可塑剤または酸化防止剤を含有することが好ましい。
【0048】
(可塑剤)
可塑剤としては、特に限定はないが、リン酸エステル系可塑剤、フタル酸エステル系可塑剤、トリメリット酸エステル系可塑剤、ピロメリット酸系可塑剤、グリコレート系可塑剤、クエン酸エステル系可塑剤、ポリエステル系可塑剤等を挙げることができる。
【0049】
リン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、ジフェニルビフェニルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブチルホスフェート等、フタル酸エステル系可塑剤では、例えば、ジエチルフタレート、ジメトキシエチルフタレート、ジメチルフタレート、ジオクチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、ジフェニルフタレート、ジシクロヘキシルフタレート等、トリメリット酸系可塑剤では、例えば、トリブチルトリメリテート、トリフェニルトリメリテート、トリエチルトリメリテート等、ピロメリット酸エステル系可塑剤では、例えば、テトラブチルピロメリテート、テトラフェニルピロメリテート、テトラエチルピロメリテート等、グリコレート系可塑剤では、例えば、トリアセチン、トリブチリン、エチルフタリルエチルグリコレート、メチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等、クエン酸エステル系可塑剤では、例えば、トリエチルシトレート、トリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリエチルシトレート、アセチルトリ−n−ブチルシトレート、アセチルトリ−n−(2−エチルヘキシル)シトレート等を挙げることができる。
【0050】
(酸化防止剤)
本発明に用いられる酸化防止剤について説明する。
【0051】
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などが挙げられ、これらの中でもフェノール系酸化防止剤、特にアルキル置換フェノール系酸化防止剤が好ましい。これらの酸化防止剤を配合することにより、透明性、耐熱性等を低下させることなく、成型時の酸化劣化等によるレンズの着色や強度低下を防止できる。これらの酸化防止剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができ、その配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で適宜選択されるが、本発明の複合熱可塑性材料100質量部に対して好ましくは0.001〜5質量部、より好ましくは0.01〜1質量部である。
【0052】
フェノール系酸化防止剤としては、従来公知のものが使用でき、例えば、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2,4−ジ−t−アミル−6−(1−(3,5−ジ−t−アミル−2−ヒドロキシフェニル)エチル)フェニルアクリレートなどの特開昭63−179953号公報や特開平1−168643号公報に記載されるアクリレート系化合物;オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス(メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート))メタン[すなわち、ペンタエリスリメチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニルプロピオネート))]、トリエチレングリコールビス(3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート)などのアルキル置換フェノール系化合物;6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ブチルアニリノ)−2,4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、4−ビスオクチルチオ−1,3,5−トリアジン、2−オクチルチオ−4,6−ビス−(3,5−ジ−t−ブチル−4−オキシアニリノ)−1,3,5−トリアジンなどのトリアジン基含有フェノール系化合物;などが挙げられる。
【0053】
リン系酸化防止剤としては、一般の樹脂工業で通常使用される物であれば格別な限定はなく、例えば、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、10−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナントレン−10−オキサイドなどのモノホスファイト系化合物;4,4′−ブチリデン−ビス(3−メチル−6−t−ブチルフェニル−ジ−トリデシルホスファイト)、4,4′−イソプロピリデン−ビス(フェニル−ジ−アルキル(C12〜C15)ホスファイト)などのジホスファイト系化合物などが挙げられる。これらの中でも、モノホスファイト系化合物が好ましく、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ジノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイトなどが特に好ましい。
【0054】
イオウ系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3−チオジプロピオネート、ジミリスチル3,3′−チオジプロピピオネート、ジステアリル3,3−チオジプロピオネート、ラウリルステアリル3,3−チオジプロピオネート、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリル−チオ−プロピオネート)、3,9−ビス(2−ドデシルチオエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンなどが挙げられる。
【0055】
(耐光安定剤)
本発明に用いられる耐光安定剤について説明する。
【0056】
耐光安定剤としては、ベンゾフェノン系耐光安定剤、ベンゾトリアゾール系耐光安定剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤などが挙げられるが、本発明においては、レンズの透明性、耐着色性等の観点から、ヒンダードアミン系耐光安定剤を用いるのが好ましい。ヒンダードアミン系耐光安定剤(以下、HALSともいう)の中でも、テトラヒドロフラン(THF)を溶媒として用いたGPCにより測定したポリスチレン換算のMnが1,000〜10,000であるものが好ましく、2,000〜5,000であるものがより好ましく、2,800〜3,800であるものが特に好ましい。Mnが小さすぎると、該HALSを熱可塑性樹脂に加熱溶融混練して配合する際に、揮発のため所定量を配合できなかったり、射出成型等の加熱溶融成型時に発泡やシルバーストリークが生じるなど加工安定性が低下する。また、ランプを点灯させた状態でレンズを長時間使用する場合に、レンズから揮発性成分がガスとなって発生する。逆にMnが大き過ぎると、ブロック共重合体への分散性が低下して、レンズの透明性が低下し、耐光性改良の効果が低減する。したがって、本発明においては、HALSのMnを上記範囲とすることにより加工安定性、低ガス発生性、透明性に優れたレンズが得られる。
【0057】
このようなHALSの具体例としては、N,N′,N″,N′″−テトラキス−〔4,6−ビス−{ブチル−(N−メチル−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−4−イル)アミノ}−トリアジン−2−イル〕−4,7−ジアザデカン−1,10−ジアミン、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、1,6−ヘキサンジアミン−N,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)とモルフォリン−2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジンとの重縮合物、ポリ〔(6−モルフォリノ−s−トリアジン−2,4−ジイル)(2,2,6,6,−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕−ヘキサメチレン〔(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ〕などの、ピペリジン環がトリアジン骨格を介して複数結合した高分子量HALS;コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジノールと3,9−ビス(2−ヒドロキシ−1,1−ジメチルエチル)−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンとの混合エステル化物などの、ピペリジン環がエステル結合を介して結合した高分子量HALS等が挙げられる。
【0058】
これらの中でも、ジブチルアミンと1,3,5−トリアジンとN,N′−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)ブチルアミンとの重縮合物、ポリ〔{(1,1,3,3−テトラメチルブチル)アミノ−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル}{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}ヘキサメチレン{(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)イミノ}〕、コハク酸ジメチルと4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジンエタノールとの重合物などのMnが2,000〜5,000のものが好ましい。
【0059】
本発明の複合熱可塑性材料に対する上記配合量は、重合体100質量部に対して、好ましくは0.01〜20質量部、より好ましくは0.02〜15質量部、特に好ましくは0.05〜10質量部である。添加量が少なすぎると耐光性の改良効果が十分に得られず、屋外で長時間使用する場合等に着色が生じる。一方、HALSの配合量が多すぎると、その一部がガスとなって発生したり、樹脂への分散性が低下して、レンズの透明性が低下する。
【0060】
また、本発明の複合熱可塑性材料に、更に最も低いガラス転移温度が30℃以下である化合物を配合することにより、透明性、耐熱性、機械的強度などの諸特性を低下させることなく、長時間の高温高湿度環境下での白濁を防止できる。
【0061】
〔光学素子(光学用樹脂レンズ)の作製方法〕
次いで、上記説明した本発明の複合熱可塑性材料から作製される光学素子の一つである光学用樹脂レンズの作製方法について説明する。
【0062】
本発明に係る光学用樹脂レンズは、まず、樹脂組成物(樹脂単独の場合もあれば、樹脂と添加剤との混合物の場合もある)を調製し、次いで、得られた樹脂組成物を成型する工程を含む。
【0063】
本発明に係る光学用樹脂レンズは、まず、樹脂組成物(樹脂単独の場合もあれば、樹脂と添加剤との混合物の場合もある)を調製し、次いで、得られた樹脂組成物を成型する工程を含む。
【0064】
本発明の熱可塑性樹脂材料の成型物は、前記樹脂組成物からなる成型材料を成型して得られる。成型方法としては、格別制限されるものはないが、低複屈折性、機械強度、寸法精度等の特性に優れた成型物を得る為には溶融成型が好ましい。溶融成型法としては、例えば、市販のプレス成型、市販の押し出し成型、市販の射出成型等が挙げられるが、射出成型が成型性、生産性の観点から好ましい。
【0065】
成型条件は使用目的、または成型方法により適宜選択されるが、例えば、射出成型における樹脂組成物(樹脂単独の場合または樹脂と添加物との混合物の両方がある)の温度は、成型時に適度な流動性を樹脂に付与して成型品のヒケやひずみを防止し、樹脂の熱分解によるシルバーストリークの発生を防止し、更に、成型物の黄変を効果的に防止する観点から150℃〜400℃の範囲が好ましく、更に好ましくは200℃〜350℃の範囲であり、特に好ましくは200℃〜330℃の範囲である。
【0066】
本発明に係る成型物は、球状、棒状、板状、円柱状、筒状、チューブ状、繊維状、フィルムまたはシート形状など種々の形態で使用することができ、また、低複屈折性、透明性、機械強度、耐熱性、低吸水性に優れるため、本発明の光学素子の一つである光学用樹脂レンズとして用いられるが、その他の光学部品としても好適である。
【0067】
(光学用樹脂レンズ)
本発明に係る光学用樹脂レンズは、上記の作製方法により得られるが、光学部品への具体的な適用例としては、以下のようである。
【0068】
例えば、光学レンズや光学プリズムとしては、カメラの撮像系レンズ;顕微鏡、内視鏡、望遠鏡レンズなどのレンズ;眼鏡レンズなどの全光線透過型レンズ;CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などの光ディスクのピックアップレンズ;レーザビームプリンターのfθレンズ、センサー用レンズなどのレーザ走査系レンズ;カメラのファインダー系のプリズムレンズなどが挙げられる。
【0069】
光ディスク用途としては、CD、CD−ROM、WORM(追記型光ディスク)、MO(書き変え可能な光ディスク;光磁気ディスク)、MD(ミニディスク)、DVD(デジタルビデオディスク)などが挙げられる。その他の光学用途としては、液晶ディスプレイなどの導光板;偏光フィルム、位相差フィルム、光拡散フィルムなどの光学フィルム;光拡散板;光カード;液晶表示素子基板などが挙げられる。
【0070】
これらの中でも、低複屈折性が要求されるピックアップレンズやレーザ走査系レンズとして好適であり、ピックアップレンズに最も好適に用いられる。
【0071】
本発明に係る光学用樹脂レンズの用途の一例として、光ディスク用のピックアップ装置に用いる対物レンズとして用いられる例を図2を用いて説明する。
【0072】
本形態では、使用波長が405nmのいわゆる青紫色レーザ光源を用いた「高密度な光ディスク」をターゲットとしている。この光ディスクの保護基板厚は0.1mmであり、記憶容量は約30GBである。
【0073】
図1は、本発明の光学素子(光学用樹脂レンズ)を対物レンズとして適用した光ディスク用のピックアップ装置の一例を示す模式図である。
【0074】
光ピックアップ装置1において、レーザダイオード(LD)2は、光源であり、波長λが405nmの青紫色レーザが用いられるが、波長が390nm〜420nmである範囲のものを適宜採用することができる。
【0075】
ビームスプリッタ(BS)3はLD2から入射する光源を対物光学素子(OBL)4の方向へ透過させるが、光ディスク(光情報記録媒体)5からの反射光(戻り光)について、センサーレンズ(SL)6を経て受光センサー(PD)7に集光させる機能を有する。
【0076】
LD2から出射された光束は、コリメータ(COL)8に入射し、これによって無限平行光にコリメートされたのち、ビームスプリッタ(BS)3を介して対物レンズOBL4に入射する。そして光ディスク(光情報記録媒体)5の保護基板5aを介して情報記録面5b上に集光スポットを形成する。ついで情報記録面5b上で反射したのち、同じ経路をたどって、1/4波長板(Q)9によって偏光方向を変えられ、BS3によって進路を曲げられ、センサーレンズ(SL)6を経てセンサー(PD)7に集光する。このセンサーによって光電変換され、電気的な信号となる。
【0077】
なお対物光学素子OBL4は、樹脂によって射出成型された単玉の光学用樹脂レンズである。そしてその入射面側に絞り(AP)10が設けられており、光束径が定められる。ここでは入射光束は3mm径に絞られる。そして、アクチュエータ(AC)11によって、フォーカシングやトラッキングが行われる。
【0078】
なお、光情報記録媒体の保護基板厚、更にピットの大きさにより、対物光学素子OBL4に要求される開口数も異なる。ここでは、高密度な、光ディスク(光情報記録媒体)5の開口数は0.85としている。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
実施例1
《樹脂成型試料の作製》
混練装置として、東洋精機製作所製のラボプラストミルC型に、セグメントミキサーKF70を装着し、設定温度200℃、300rpmで、下記の熱可塑性樹脂1を50.4gと無機粒子1を5.6g、同時にミキサーに投入し、表2に記載の投入エネルギー量及び混練時間で混練を行い、混練物1〜13を作製した。
【0081】
熱可塑性樹脂1:ゼオネックス480R(日本ゼオン社製、屈折率:1.525(ASTMD542による)、吸水率:0.01%以下(ASTM D570による))
無機粒子1:R976(日本アエロジル社製、シリカ微粒子粉体、一次粒径7nm)
以上のようにして様にして作製した混練物1〜13を、それぞれ直径10mm、厚さ3mmの円盤状に成型し、円盤の両面は鏡面になるようにして、樹脂成型試料1〜13を作製した。
【0082】
《樹脂成型試料の評価》
以上の様にして作製した各樹脂成型試料について、下記の方法に従って屈折率、光線透過率、鉛筆硬度の測定および着色耐性の評価を行った。
【0083】
(屈折率の測定)
ASTM D542に準拠した方法で、アッベ屈折計(アタゴ社製、DR−M2)を用いて、屈折率の測定を行った。
【0084】
(光線透過率の測定)
ASTM D1003に準拠した方法で、東京電色(株)製のTURBIDITY METER T−2600DAを用いて光線透過率(%)を測定した。
【0085】
(鉛筆硬度の測定)
異なる硬度の鉛筆を用い、1kg荷重下でJIS K5400で示される試験法に基づき硬度試験を行った。なお、ホスト材料であるゼオネックス480Rの鉛筆硬度はHであった。
【0086】
(着色耐性の評価)
上記作製した各樹脂成型試料を、透過光を介してのその色調を目視観察した。
【0087】
以上により得られた結果を、表2に示す。
【0088】
【表2】

【0089】
表2に記載の結果より明らかなように、熱可塑性樹脂と無機粒子の構成物を、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下の範囲で製造した本発明の樹脂成型試料は、比較例に対し、光線透過性が高く、樹脂の硬度が高く、更に着色がなく透明性が極めて高いことが分かる。
【0090】
実施例2
実施例1の樹脂成型試料の作製に使用したのと同様の混練装置を用いて、表3に記載の無機粒子と添加量と熱可塑性樹脂1(ゼオネックス480R、前出)の添加量で、混練時間を適宜変更しながら表3に記載の投入エネルギー量で混練を行って、混練物14〜20を作製し、実施例1に記載の方法と同様にして、樹脂成型試料14〜20を作製した。なお、表3に記載の無機粒子において、粉体(アルミナC:気相法アルミナ、日本アエロジル社製、一次平均粒径13nm及びR976)は粉体のまま添加し、ゾル状のIPA−ST−ZL(オルガノシリカゾル、日産化学社製、体積平均分散粒径:70nm)は、一旦乾燥してから用いた。
【0091】
次いで、上記作製した各樹脂成型試料について、実施例1に記載の方法と同様にして、光線透過率、屈折率及び着色耐性の評価を行い、得られた結果を表3に示す。
【0092】
【表3】

【0093】
表3に記載の結果より明らかなように、熱可塑性樹脂と無機粒子の構成物を、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下の範囲で製造した本発明の樹脂成型試料は、比較例に対し、光線透過性が高く、更に着色がなく透明性が極めて高いことが分かる。また、本発明の樹脂成型試料の中でも、無機粒子の含有率が5質量%以上、80質量%以下である試料、あるいは体積平均分散粒径が30nm以下の無機粒子を用いることにより、上記効果がより一層発揮されていることが分かる。
【0094】
実施例3
実施例1の樹脂成型試料の作製において、セグメントミキサーKF70に代えて、二軸セグメント押し出し機2D25Wを用い、窒素雰囲気下で熱可塑性樹脂2と無機粒子2に表4に記載の混練エネルギーを付与して混練物21〜24を作製し、実施例1に記載の方法と同様にして、樹脂成型試料21〜24を作製した。なお、投入エネルギー量は、定常的に熱可塑性樹脂2と無機粒子2が添加されていて、押出速度が一定となる範囲で求めた。投入エネルギー量の調整は、スクリューのセグメントを組み替えることにより行った。
【0095】
熱可塑性樹脂2:ゼオネックス330R(日本ゼオン社製)
無機粒子2:RX300(日本アエロジル社製)
次いで、上記作製した各樹脂成型試料について、実施例1に記載の方法と同様にして、光線透過率、屈折率及び着色耐性の評価を行い、得られた結果を表4に示す。
【0096】
【表4】

【0097】
表4に記載の結果より明らかなように、軸セグメント押し出し機を用い、熱可塑性樹脂と無機粒子の構成物を、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下の範囲で製造した本発明の樹脂成型試料は、比較例に対し、光線透過性が高く、更に着色がなく透明性が極めて高いことが分かる。
【0098】
実施例4
上記各混練物を用いて、プラスチック製の光学素子を作製して評価した結果、本発明の光学素子は、良好な光学特性を持ち、かつCDやDVDの記録、再生に用いられるBlue−Rayを長時間照射しても、白濁化等の材料変質耐性に優れていることを確認することができた。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の光学素子(光学用樹脂レンズ)を対物レンズとして適用した光ディスク用のピックアップ装置の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0100】
1 光ピックアップ装置
2 レーザダイオード
3 ビームスプリッタ
4 対物光学素子(対物レンズともいう)
5 光ディスク
5a 保護基板
5b 情報記録面
6 センサーレンズ
7 センサー
8 コリメータ
9 1/4波長板
10 絞り
11 アクチュエータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも熱可塑性樹脂と無機粒子とから構成される複合熱可塑性材料の製造方法であって、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下で製造することを特徴とする複合熱可塑性材料の製造方法。
【請求項2】
少なくとも熱可塑性樹脂と無機粒子とから構成される複合熱可塑性材料であって、溶融混練法を用いて、単位体積あたりの投入エネルギー量を100MJ/m3以上、1000000MJ/m3以下で製造されたことを特徴とする複合熱可塑性材料。
【請求項3】
前記無機粒子の含有率が、5質量%以上、80質量%以下であることを特徴とする請求項2に記載の複合熱可塑性材料。
【請求項4】
前記無機粒子の体積平均分散粒径が、30nm以下であることを特徴とする請求項2または3に記載の複合熱可塑性材料。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂の吸水率が、0.2質量%以下であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1項に記載の複合熱可塑性材料。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂の少なくとも1種が、環状オレフィン樹脂であることを特徴とする請求項2〜5のいずれか1項に記載の複合熱可塑性材料。
【請求項7】
請求項2〜6のいずれか1項に記載の複合熱可塑性材料を用いて作製されたことを特徴とする光学素子。

【図1】
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【公開番号】特開2006−131736(P2006−131736A)
【公開日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−321833(P2004−321833)
【出願日】平成16年11月5日(2004.11.5)
【出願人】(303000408)コニカミノルタオプト株式会社 (3,255)
【Fターム(参考)】