説明

複合紡糸用ノズルと同ノズルを用いた複合繊維の製造方法

【課題】構造が簡単であって、複雑なノズルパックが不要であり、フィラメントの構成本数や成分比率の変更が容易で、しかも安定した複合液流が得られることから複合形態や複合比率も均一化される複合紡糸ノズル及び同紡糸ノズルを用いた複合繊維の製造方法を提供する。
【解決手段】複合紡糸用ノズル(11)は、一つの円周上に等間隔で配置された吐出孔(12)において、式1.5≦CP≦D+1を満たている。ここで、Dは紡糸原液導入部の入口部の直径(mm)、CPは隣接する吐出孔間の距離(mm)である。相溶性の低い二種類以上の紡糸原液を同心円状の複合液流としたのち、前記複合紡糸用ノズル(11)を用いて紡糸し接合型複合繊維を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二種類又は二種類以上の異なるポリマーからなる複合繊維を製造するために用いる複合紡糸用ノズルとその複合紡糸用ノズルを用いた接合型複合繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
複合繊維を製造する装置は、従来から数多く提案されている。例えば、特開2000−248421号公報(特許文献1)によれば、紡糸ノズルパック中に二以上の紡糸原液を個別の送液ラインを通して送液し、各ノズル孔の直前で紡糸原液を複合して吐出し、芯鞘構造の複合繊維を製造する。また例えば、特開2002−173821号公報(特許文献2)や特開2006−138048号公報(特許文献3)には、同心円状に複合した複合液流を、同心円上に形成された円形溝に沿って配された複数の吐出孔を有する複合紡糸ノズルから吐出して、サイドバイサイド型の複合繊維を製造している。
【特許文献1】特開2000−248421号公報
【特許文献2】特開2002−173821号公報
【特許文献3】特開2006−138048号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上記特許文献1に開示された紡糸装置では、極めて複雑で且つ構成部材ごとに極めて高い加工精度が要求される紡糸ノズルパックが必要であって、フィラメントの構成本数や成分比率を変更する際には、紡糸ノズルパック全体を交換しなければならない。
【0004】
一方、上記特許文献2又は3に開示された方法では、あまり高い加工精度が要求されず、フィラメントの構成本数や成分比率を容易に変更することが可能ではあるが、使用する紡糸ノズルの種類や紡糸原液の組み合わせ次第では複合液流が不安定となり、各吐出孔から形成される複合繊維の複合形態や複合比率が不均一になることがある。
【0005】
本発明は、こうした従来の課題を解消すべくなされたものであり、その具体的な目的は構造が簡単であって、複雑なノズルパックが不要であり、フィラメントの構成本数や成分比率の変更が容易で、しかも安定した複合液流が得られることから複合形態や複合比率も均一化される複合紡糸ノズルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第一の基本構成は、一つの円周上に等間隔で配置された吐出孔において、下記式を満たす複合紡糸用ノズルにある。
1.5≦CP≦D+1
ここで、Dは紡糸原液導入部の入口部の直径(mm)、CPは吐出孔間の距離(mm)を示している。
【0007】
また、本発明の第二又は第三の基本構成は、相溶性の低い二種類又はそれ以上の紡糸原液を同心円状の複合液流としたのち、前記第1の基本構成を備えた複合紡糸用ノズルを用いて紡糸する二層以上の接合型複合繊維の製造方法にある。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る複合紡糸用ノズルは、相溶性の低い二種類以上の紡糸原液を分配する分配板や、前板など複雑な構造の部品を必要としない、簡易な構造の複合紡糸用ノズルであって、この複合紡糸用ノズルを用いることにより複合繊維の複合形態や複合比率を均一化して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明に係る複合紡糸用ノズル構造の好適な実施形態を図面を参照しながら具体的に説明する。
図1は本発明の複合紡糸用ノズルの一部断面図であり、図2は紡糸原液の導入部分側から吐出孔を見た拡大平面図である。
【0010】
本発明に係る複合紡糸用ノズル11は、紡糸原液導入部14の入口部の直径D(mm)と吐出孔間の距離CP(mm)が以下の式を満足することが必要である。
1.5(mm)≦CP≦D+1(mm)
ここで、吐出孔間の距離CPとは、図2に示すように隣接する吐出孔12,12の中心O,O’間の距離(mm)であり、紡糸原液導入部14の入口部の直径Dとは、図2に示すようにノズル11の中心線方向における紡糸原液導入部14の入口直径(mm)である。
【0011】
CPがD+1より大きいと、導入部側において隣接する孔と孔の間に広い平面部が存在することとなり、複合液流が吐出孔に流入する際に、液流に乱れが生じて全ての吐出孔において複合比が均一に分配されにくくなり、複合比率や複合形態が各単繊維で均一となりにくくなる。なお、CPがDより小さければ紡糸原液導入部14が連結することとなり、複合液流がさらに安定化することとなるため好ましいが、CP≦D+1の関係を満たせば、ノズル孔12,12間の平面部分は液流が乱れるほどの広さとはならず、複合繊維の断面を安定化させることが十分可能となる。
【0012】
一方で、CPは1mm以上、更に好ましくは1.5mm以上離れている必要がある。CPが1mmより小さい場合は、原液吐出後に隣接孔間で単繊維の接着が発生しやすくなり、紡糸安定性や品質を低下させることとなり、品質の良い複合繊維を安定して得ることができなくなる。
【0013】
本発明においては、前記紡糸ノズル11の紡糸原液導入部14の中心に向けて下傾斜する傾斜角度は任意に設定可能であるが、本発明の目的である均一な複合繊維を得るためには、漏斗状の前記紡糸原液導入部14と吐出孔12とを連結する連結部分13の形状は、紡糸原液の移動あたりの加速割合が一定となる定率加速曲線状の斜面とすることが望ましい。
【0014】
図3は、本発明の複合紡糸ノズル11を使った紡糸ノズルパックを導入部側より見た平面図である。図4は同紡糸ノズルパックを吐出孔側より見た平面図である。
各吐出孔12は、一つの円周上に等間隔に配置される必要がある。吐出孔12の配置が一つの円周上にない場合や、孔間隔が不均等に配置されている場合は、全吐出孔12において各紡糸原液の比率が等しくならず、複合比率や複合形態が各単繊維間で均一となりにくくなる。
【0015】
更に、均一な複合繊維を得るためには、紡糸ノズル11の中心O”と複合液流の中心とを一致させて配することが望ましい。前記紡糸ノズル11の中心O”を複合液流の中心に一致させることにより、全ての吐出孔12,12,・・・へと複合液流が均一に分配されやすくなる。
【0016】
本発明の実施形態においては、二種類の紡糸原液からなる複合液流の界面あるいは中間層の一部が、該紡糸ノズルの導入部に存在していることが望ましい。複合液流の界面あるいは中間層の一部が導入部にない場合は、複合液流に乱れが生じる原因となり、複合比率や複合形態が各単繊維で均一となりにくくなる。
【0017】
本発明にて用いられる二種類の紡糸原液は相溶性が低いことが望ましい。相溶性が高いと紡糸ノズル11より吐出する前に紡糸原液が互いに溶解しあうこととなり複合繊維を得ることが難しくなる。また、本発明に用いられる紡糸原液の粘度は、複合液流の外側に配置される紡糸原液を内側に配置される紡糸原液よりも低くすることが望ましい。内側の紡糸原液の粘度を高くすることによって、より複合比率が均一化されやすくなる。
【0018】
本発明の複合紡糸ノズル11は、乾式紡糸、湿式紡糸、溶融紡糸のいずれにも適用が可能であり、乾式紡糸ではセルロースアセテートの置換度や重合度、或いは添加剤の異なる成分の複合化が可能であり、湿式紡糸ではアクリルや共重合成分や重合度の異なる成分の複合化、更に溶融紡糸ではポリエステルの共重合成分や重合度、添加剤の異なる成分の複合化するのに適している。
以下、本発明の実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明する。
【実施例】
【0019】
実施例1〜4及び比較例1、2における断面安定性の評価結果を表1に示す。得られた繊維束の横断面を光学顕微鏡にて観察し、所定の比率と異なる複合繊維や形状が崩れている単繊維の有無を評価した。
【0020】
(実施例1)
紡糸原液として、平均置換度2.41のセルロースジアセテートを塩化メチレン91重量%/メタノール9重量%の混合溶剤に溶解させ、濃度22.1重量%、25℃の粘度850ポイズのセルロースジアセテート原液を調整し、平均置換度2.91のセルローストリアセテートを塩化メチレン91重量%/メタノール9重量%の混合溶剤に溶解させ、濃度21.9重量%、25℃の粘度1100ポイズのセルローストリアセテート原液を調整した。
【0021】
この二種類の紡糸原液を固形分比率が50:50となるようにそれぞれ個別の計量ポンプにて計量し、内層がセルローストリアセテート原液、外層がセルロースジアセテート原液であるような、二層の同心円状の複合液流を形成した。この同心円状の複合液流は、特許文献2に記載された接合型複合繊維の製造装置の長さ1mの円筒パイプにより、本発明の複合紡糸用ノズルを備えた紡糸ノズルパックへと送液して形成した。同複合液流を送液中に前記円筒パイプの外側に配されたプリヒーターを流通する温水により70℃に加熱した。
【0022】
前記複合紡糸用ノズルとしては、直径16.5mmの一つの円周上に、等間隔で直径32μmの30個の吐出孔が配され、CPが1.73mm、Dが1.77mmである図1〜4に示す形状の紡糸ノズルを用い、上記紡糸原液を乾式紡糸法により紡速600m/minで紡糸した。
【0023】
得られた繊維は84dtex、30フィラメント(以下、fと表記する。)であり、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分が重量比50:50で均一にサイドバイサイド型に接合されていた。
【0024】
(実施例2)
直径19mmの一つの円周上に、等間隔で直径32μmの30個の吐出孔が配され、CPが1.99mm、Dが1.12mmである紡糸ノズルを使用する以外は実施例1と同様に紡糸を行った。
【0025】
得られた繊維は84dtex、30fであり、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分が重量比50:50で均一に接合されていた。
【0026】
(実施例3)
直径16.5mmの一つの円周上に等間隔で、直径32μmの16個の吐出孔が配され、CP:3.24mm、D:3.30mmである紡糸ノズルを使用した以外は実施例1と同様に紡糸を行った。
【0027】
得られた繊維は40dtex、16fであり、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分が重量比50:50で均一に接合されていた。
【0028】
(実施例4)
実施例1と同一の紡糸原液を使用し、内層と外層にトリアセテート原液を、中間層にジアセテート原液となるように送液し、固形分比率がトリアセテート:ジアセテート:トリアセテートが40:20:40となるように個別の計量ポンプにて計量し、上記特許文献2に記載されている接合型複合繊維の製造装置を使って、三層の同心円状の複合液流を形成し、長さ1mの円筒パイプにより紡糸ノズルパックへと送液し75℃まで加熱した。
【0029】
直径16.5mmの一つの円周上に、等間隔で直径28μmの20個の吐出孔が配され、CPが2.59mm、Dが2.63mmである図1〜4に示す形状の紡糸ノズルを使用して、紡速600m/minにて乾式紡糸法により紡糸した。
【0030】
得られた繊維は84dtex20fであり、セルローストリアセテート:セルロースジアセテート:セルローストリアセテートの比が40:20:40で均一に三層サイドバイサイド型に接合されていた。
【0031】
(比較例1)
直径19mmの一つの円周上に等間隔で、直径32μmの16個の吐出孔が配され、CPが3.73mm、Dが1.12mmである紡糸ノズルを使用する以外は実施例1と同様に紡糸を行った。
【0032】
得られた繊維は40dtex、16fであり、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分がサイドバイサイド型に接合されていたが、複合比率が不均一である単繊維を含んでいた。
【0033】
(比較例2)
直径19mmの一つの円周上に等間隔で、直径28μmの20個の吐出孔が配され、CPが2.98mm、Dが1.11mmである紡糸ノズルを使用する以外は実施例4と同様に紡糸を行った。
【0034】
得られた繊維は84dtex20fであり、セルローストリアセテート成分とセルロースジアセテート成分が三層サイドバイサイド型に接合されていたが、複合比率が不均一である単繊維を含んでいた。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の複合紡糸用ノズルの部分断面図である。
【図2】同複合紡糸用ノズルの吐出孔を拡大して示す部分平面図である。
【図3】本発明の複合紡糸用ノズル全体を導入部側から見た平面図である。
【図4】本発明の複合紡糸用ノズルを吐出孔側から見た平面図である。
【符号の説明】
【0037】
11 紡糸ノズル
12 吐出孔
13 連結部
14 紡糸原液導入部(直線状斜面)
15 ノズルパック
CP 隣接する吐出孔間の距離
D 紡糸原液導入部の入口径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つの円周上に等間隔で配置された吐出孔を有し、前記吐出孔が以下の式を満たす複合紡糸用ノズル。
1.5≦CP≦D+1
ただし、Dは紡糸原液導入部の入口部の直径(mm)、CPは隣接する吐出孔間の距離(mm)である。
【請求項2】
相溶性の低い二種類の紡糸原液を同心円状の複合液流としたのち、請求項1記載の複合紡糸用ノズルを用いて紡糸する接合型複合繊維の製造方法。
【請求項3】
相溶性の低い二種類以上の紡糸原液を三層以上の同心円状の複合液流としたのち、請求項1記載の複合紡糸用ノズルを用いて紡糸する三層以上の接合型複合繊維の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−280642(P2008−280642A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125987(P2007−125987)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】