説明

複合繊維用紡糸口金の分解装置

【課題】3枚以上の複数枚の口金板に分割された複合繊維用紡糸口金においても、人手を煩わせず、口金板に加工されたポリマー流路に傷を付けることなく、容易かつ効率よく複合繊維用紡糸口金を分解することができる複合繊維用紡糸口金の分解装置を提供する。
【解決手段】2種以上のポリマー成分からなる複合単繊維を紡出する複合繊維用紡糸口金を3枚以上に分割した各口金板の外周部にそれぞれ形成された被係合部と、前記被係合部に係合する係合部が形成された分解治具と、前記紡糸口金を基準位置に位置決めセットする位置決め部材と、前記各分解治具をそれぞれ分解方向へ移動自在に駆動すると共に前記被係合部に前記係合部を係合させるアクチュエータ群と、両端に位置する2枚の口金板をそれぞれ分解方向へ移動させる前記アクチュエータ群をそれぞれ独立に駆動制御する制御装置とを備えたことを特徴とする、複合繊維用紡糸口金の分解装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各単繊維が複数種のポリマー成分から構成される複合繊維、例えば、芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、海島型複合繊維などを溶融紡糸する際に使用する複合繊維用紡糸口金の分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の合成繊維産業においては、高機能性繊維、超極細繊維などを製造するために、2種以上のポリマー成分を使用して、例えば、芯鞘型複合繊維、サイドバイサイド型複合繊維、海島型複合繊維などを複合紡糸するための様々な改良技術が多く用いられており、それに伴って複合紡糸を行うための複合繊維用紡糸口金も多種多様化してきている。
【0003】
複合繊維用紡糸口金は、一般に、2種以上のポリマー成分を別々に紡糸口金パックに導入した後、これら紡糸パック内で合流させて必要とされる複合流を形成させた後、形成させた複合流を吐出孔から紡出する役割と機能が要求される。このために、複合繊維用紡糸口金には、複雑かつ精密なポリマー流路が立体的に加工される。
【0004】
しかしながら、複数種のポリマーが流れる立体的且つ複雑なポリマー流路を一枚の紡糸口金に加工することは最新の先端加工技術をもってしても不可能である。このため、どうしても紡糸口金を複数の口金枚に分割し、分割した口金板にポリマー流路を加工せざるを得ない。
【0005】
また、複合繊維用紡糸口金は繰返し再使用に供されるので、再使用に耐えられるように不断のメンテナンスが要求される。更には、使用後に口金板内部に残留したポリマーや異物などを洗浄して取り除かなくてはならない。このため、ポリマー流路の加工上の問題だけではなく、ポリマー流路に残留したポリマーを容易に取り除ける構造であるという観点からも、一枚の紡糸口金を複数枚組の口金板に分割することは非常に好ましい。
【0006】
このような理由から、通常の複合繊維用紡糸口金は、ポリマーの流動方向に対して複数枚に分割した口金板の内部に複雑かつ精密なポリマー流路が加工される。しかしながら、複数枚組の口金板で一つの紡糸口金を構成するとなると、口金板の組立作業や分解作業が要求され、このような組立作業、分解作業、メンテナンス作業などを行う際に、口金板を傷付けてしまうようなことが生じる。
【0007】
更には、複合繊維用紡糸口金の使用終了の直後に分解作業を行う場合には、100℃以上の高温状態にある溶融状態のポリマーが複合繊維用紡糸口金の内部に未だ残留している。しかも、紡糸口金自体もステンレス鋼や鋳鉄などの金属を用いられており、高温のポリマーや紡糸機器からの受熱により、100℃以上の高温になっている。
【0008】
したがって、作業者が前述の高温体に誤って直接触れてしまうと、火傷などを負う危険がある。しかも、ポリマーを繊維状に吐出する吐出孔などの微細なポリマー流路を加工した口金板を高温状態で扱うことは容易ではない。また、誤って口金板を落下させたり、分解専用治具の不注意な取り扱いにより傷を付けてしまったりする可能性があり、作業効率の低下、作業者の身体的危険及び口金板の損傷という問題を有している。
【0009】
そこで、このような問題を解決するための従来技術として、特許文献1において、2枚の口金板を組み合わせた複合繊維用紡糸口金の分解方法が提案されている。しかしながら、近年において益々高機能性を有する複合繊維が求められるようになってくると、これに要求される繊維の内部構造を具現化するために、複数種のポリマーが流れる複雑で精巧なポリマー流路を加工しなければならない。
【0010】
以上に説明したような理由から、2分割の複合繊維用紡糸口金では到底対応できず、益々多数枚の口金板に分割しなければならないという状況にある。それにもかかわらず、特許文献1に記載の従来技術は、2枚の口金板を有する複合繊維用紡糸口金に対する分解装置であり、3枚以上の口金板が組み合わさった場合については何等の検討も示唆も行われていない。当然のことながら、3枚組以上の口金板の分解作業は、2枚組の口金板の分解作業よりも作業効率が低下すると共に、その分解作業についてもより細心の注意が必要とされることは言うまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−209433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上に説明した従来技術が有する諸問題に鑑み、本発明の目的は、3枚以上の口金板に分割された複合繊維用紡糸口金においても、人手を煩わせず、口金板に加工されたポリマー流路などに傷を付けることなく、容易かつ効率よく複合繊維用紡糸口金を分解できる複合繊維用紡糸口金の分解装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ここに、前記課題を解決するための本発明として、請求項1に記載のように、「2種以上のポリマー成分からなる複合単繊維を紡出する複合繊維用紡糸口金を3枚以上に分割した各口金板の外周部にそれぞれ形成された被係合部と、
前記被係合部に係合する係合部が形成された分解治具と、
前記紡糸口金を基準位置に位置決めセットする位置決め部材と、
前記各分解治具をそれぞれ分解方向へ移動自在に駆動すると共に前記被係合部に前記係合部を係合させるアクチュエータ群と、
両端に位置する2枚の口金板をそれぞれ分解方向へ移動させる前記アクチュエータ群をそれぞれ独立に駆動制御する制御装置とを備えたことを特徴とする、複合繊維用紡糸口金の分解装置」が提供される。
【0014】
また、本発明は、請求項2に記載のように、「前記アクチュエータが、前記分解治具の各係合部を移動させて前記各口金板の被係合部の近傍にそれぞれ位置させる第1アクチュエータと、前記被係合部の近傍に位置させた前記係合部を前記被係合部に係合させる第2アクチュエータとから構成されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合繊維用紡糸口金の分解装置」とすることが好ましい。
【0015】
更に、本発明としては、請求項3に記載のように、「両端に位置する2枚の口金板をそれぞれ分解方向へ移動させる前記アクチュエータとして圧縮空気を駆動動力源とする流体圧作動シリンダーであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の複合繊維用紡糸口金の分解装置」とすることが好ましい。
【0016】
そして、本発明としては、請求項4に記載のように、「前記各口金板に形成された前記被係合部が凹部であり、前記分解治具に設けられた前記係合部が先端突起であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の複合繊維用紡糸口金の分解装置」とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の複合繊維用紡糸口金の分解装置によれば、少なくとも3枚に分割された複合繊維用紡糸口金を各口金板にそれぞれ分解するに際して、精密加工された吐出孔及び流路を損傷することなく、高温度に加熱された複合繊維用紡糸口金であっても容易かつ効率的に分解することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係る「複合繊維用紡糸口金の分解装置」の一つの実施形態例を模式的に示した概略装置構成図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】本発明の「複合繊維用紡糸口金の分解装置」に5枚組の口金板からなる複合繊維用紡糸口金をセットする、2つの実施形態を模式的に例示した説明図(斜視図)である。
【図4】各口金板に設ける凹部の他の実施形態を例示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る「複合繊維用紡糸口金の分解装置」の実施形態例について図面に基づいて詳細に説明する。なお、図面に記載した参照符合に関して、類似作用を奏する部材に関しては、同じものを使用した。
【0020】
図1は本発明に係る「複合繊維用紡糸口金の分解装置(以下、単に“分解装置”ということもある)」の実施形態の一例を模式的に示した概略装置構成図であって、図2は図1の要部拡大図である。また、図3は分解装置に5枚組の口金板1a〜1eからなる複合繊維用紡糸口金(以下、単に「口金」と言う)1をセットした2つの実施形態を模式的に例示した説明図(斜視図)である。
【0021】
ここで、先ず分解の対象とする本発明の口金について簡単に説明すると、前記図1〜図3に例示したように、口金1は5枚組の口金板1a〜1eからなる。更に、この5枚組の口金板1a〜1eには、図1に部分破断図で示したように、一対ずつ互いに対向する凹部2a〜2e、すなわち凹状溝が被係合部として口金板外周面にそれぞれ設けられている。
【0022】
以下、その詳細を図1に示した実施形態例に基づき説明する。
図1に示した分解装置の実施形態例において、図の最下部にハッチングで示した基台16の上に例えば4本の支柱11を立てて組み立てられており、その4本の支柱11の最上部には上端を固定するための天板14が取付けられている。また、前記4本の支柱11には、上部スライドガイド12aと下部スライドガイド12bが上下方向(すなわち、垂直方向でもある)に支柱11に対してスライド自在に設けられている。このようにすることによって、上部及び下部スライドガイド12a及び12bがスライドするにしたがって、上部スライドガイド12aに固定された上部スライド台13aと、下部スライドガイド12bに固定された下部スライド台13bとがそれぞれ上下方向にスライド移動自在となるように構成されている。
【0023】
なお、前記上部スライド台13aと前記下部スライド台13bとは互いに対向するように上下一対に設けられている。また、前記上部スライド台13aの下面側と、前記下部スライド台13bの上面側には、図示したように、5組ずつで上下一対となる第1アクチュエータ3a〜3eが固設されている。また、前記5組の第1アクチュエータ3a〜3eのそれぞれは、例えばコンピュータ装置で構成された制御装置17による制御によってそれぞれ単独かつ独立して駆動できるようにされている。
【0024】
更に、前記第1アクチュエータ3a〜3eには、既に説明した5枚組の口金板1a〜1eの各凹部2a〜2e(被係合部を構成する)にそれぞれ係合できるように、上下一対の各5組の分解治具4a〜4eがそれぞれ設けられている。また、各分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5e(係合部を構成する)には、図示したように、凸状の分解治具4a〜4eが上下一対にそれぞれ5組ずつ設けられており、これによって、前述の5枚組の口金板1a〜1eに被係合部として設けられた各凹部2a〜2eにそれぞれ係合自在とされている。
【0025】
更に、前記上部スライド台13aと前記下部スライド台13bとをそれぞれ上下方向(垂直方向)にスライド自在とするために第2アクチュエータ10a及び10bが天板14と基台16にそれぞれ固定されている。したがって、第2アクチュエータ10a又は10bを駆動すれば、上部スライド台13a又は下部スライド台13bを上下方向へそれぞれ移動自在とされている。その結果、スライド台13a及び13bに対して上下一対に固定された各5組の第1アクチュエータ3a〜3eも上下方向へ一体として移動自在とされている。
【0026】
以上に説明したように、上下一対にそれぞれ5組ずつ設けられた第1アクチュエータ3a〜3eと、これも上下一対に互いに対向して1組ずつ設けられた第2アクチュエータ10a及び10bをそせぞれ制御装置17の制御下で駆動すれば、各5組の第1アクチュエータ3a〜3eの先端にそれぞれ先端突起5a〜5eが設けられた各分解治具4a〜4eを各口金板1a〜1eに設けられた凹部2a〜2eにそれぞれ係合させることができる。ただし、このような係合を実現するためには、口金1を分解装置に正確に位置決めセットする必要があり、この点について以下に説明する。
【0027】
図1において、5枚組の口金板1a〜1eからなる口金1は、支柱11に固定された固定台15に設けられた位置決め部材7上にセットされる。なお、位置決め部材7は、口金1を分解する際の基準となる口金位置を決定する部材であるので、この基準位置が変わることがない様に後述する口金収納ボックス9と共に固定台15にしっかりと固定されている。
【0028】
次に、口金1の分解に当って、先ず位置決め部材7へ口金1をセットする作業の邪魔とならない様に、スライド台13a,13b、分解治具4a〜4eなどは、口金1をセットする際には口金1から離れた位置(例えば、口金収納ボックス9内)に待機させる。その後、分解する口金1を手動あるいは自動で位置決め部材7上に載置して正確に位置決めセットする。なお、位置決め部材7上の所定位置に口金1を正確にセットする実施形態としては、様々な周知の従来技術を利用できるが、ここでは具体例として2つの実施形態を図3に例示したので、これについて説明する。
【0029】
先ず、図3(a)の実施形態例から説明すると、この実施形態例では、位置決め部材7が2本のガイド棒から構成されており、この2本のガイド棒の少なくとも1本のガイド棒には図示したように位置決めの基準となる段付き部8が設けられている。なお、この段付き部8を位置決め基準位置とする理由は、例えば、口金1のセット位置が図3(a)に記載したように基準位置からずれたとしても、白抜き矢印の方向から口金1を少し押込んでガイド棒上をスライドさせれば、基準位置である段付き部8へ口金1を容易に落し込めるからである。このように口金1を段付き部8へ落とし込むことによって、口金1を2本のガイド棒7上の基準位置に正確かつ自動的に位置決めセットできるのである。
【0030】
次に、図3(b)に例示した実施形態について説明すると、この例では、口金1の外周面形状に合わせたU字状溝、あるいはV字状溝などを有する位置決め部材7上に口金1をセットする。このとき、口金1と位置決め部材7には、それぞれ刻印18a及び18bが刻まれている。したがって、この刻印18a及び18bに合わせて口金1を位置決め部材7上にセットすれば、口金1を基準位置に位置決めセットすることができる。
【0031】
ただし、図3(b)に例示した実施形態の場合には、口金1の外周面に設けられる凹部2a〜2eは、図1において上下に対向して一対に設けられる場合と異なり、左右に対向して一対に設けられる。したがって、この実施形態例では、各部材の配置の変更に合わせて、例えばスライド台13a及び13bなども図の上下方向にスライド自在とするのではなく、図の左右方向にスライド自在とするなどの設計上の変更が必要となるが、これらの変更は単なる設計事項であるので、その詳細説明は省略する。
そこで、以下、図3(a)の実施形態例における口金1の分解手順について説明し、図3(b)の実施形態例の分解手順についての詳細説明を省略する。
【0032】
既に説明したように、図3(a)に例示した位置決め部材7への口金1の位置決めセットが完了すると、セット作業に邪魔とならない様に口金1から離れた位置に待機させていた分解治具4a〜4eの先端部に設けられた先端突起5a〜5e(係合部)を口金1の凹部2a〜2eの近傍へ移動させる。なお、この移動は、制御装置17に記憶させられたプログラムにしたがって制御装置17の制御下で第1アクチュエータ3a〜3eを駆動することによって行われる。ただし、この移動の段階では、分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5eは、まだ口金1と接触しない近傍位置にある。
【0033】
そこで、5枚組口金板1a〜1eの凹部2a〜2bの近傍位置にまで第1アクチュエータ3a〜3eによって移動させられた分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5eを上下方向へそれぞれ出没自在のニュートラルな状態にして、分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5eを僅かな接触圧で口金1の外周面に押込み勝手に接触させる。
【0034】
このように僅かな接触圧で上下に出没自在の分解治具4a〜4eを接触させるためには、例えば分解治具4a〜4eの先端構造として圧縮空気などの気体圧力で作動するエアーシリンダーを採用して、微圧の圧縮空気を前記エアシリンダーへ供給することによって、シリンダーロッドを僅かな接触圧力で押込み勝手に作動させることができる。また、コイルバネなどの周知の付勢部材を使用することもできる。
【0035】
次いで、前述の状態を維持して口金1を手動又は自動で時計廻り又は反時計廻りの何れかの方向へ自転させる。このとき、分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5eは、当然のことながら、口金板の外周面に設けられたの凹部2a〜2eが出現するそれぞれの位置に正確に押込み勝手に押し付けられている。したがって、口金1を自転させると、分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5e(係合部)の待ち受け位置に対して被係合部である各凹部2a〜2eが自転移動してくるので、両者は首尾よく互いに係合できることとなる。
【0036】
このようにして、分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5eと口金1の外周部に設けた凹部2a〜2eとの係合が完了すると、これらの係合が外れないように、口金1の外周部に対して押付け勝手に出没自在であった先端突起5a〜5eの運動の自由度を拘束する。このために、僅かな接圧で出没自在に設けた先端突起5a〜5eを周知の電磁式把持部材6a〜6eなどを使用することによって動かないように拘束して、凹部2a〜2bから外れないようにしっかりと固定する。なお、本発明においては、先端突起5a〜5eの把持部材として電磁式把持部材6a〜6eを使用したが、この電磁式把持部材6a〜6e以外に機械式把持部材などのように同等の作用をする把持部材を使用することもできる。
【0037】
なお、分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5eと口金1の外周部に設けた凹部2a〜2eとの係合に関しては、図4に例示したように5枚組の口金板1a〜1eのそれぞれに設ける凹部2a〜2eの形状を「各口金板1a〜1eの円周面を一周(360°)するように形成された環状溝とすることも好ましい実施形態である。何故ならば、環状溝のような凹部2a〜2eを形成することによって、口金1を手動又は自動で時計廻り又は反時計廻りの何れかの方向へ自転させることなく、先端突起5a〜5eを凹部2a〜2eに係合させることができ、口金1を自転させるという手間が省けるからである。
【0038】
以上に説明したように、分解治具4a〜4eによって口金1を掴むことができると、両端の第1アクチュエータ3a及び3eをそれぞれ左右方向へ引き込むことによって両端の口金板1a及び1eを左右の口金収納ボックス9へ引き込む準備が整ったことになる。このように、5枚組口金板1a〜1eの外周面にそれぞれ上下一対で設けられた凹部2a〜2eに先端突起5a〜5eが係合した状態が図1に例示した状態である。
【0039】
ただ、前述のような状態では、未だ口金1の分解に取り掛かることができない。何故ならば、この状態では、口金1が位置決め部材7の段付き部8に未だ係合したままであるからである。すなわち、この段階では口金1は、未だ位置決め部材7の段付き部8に落ち込んだままであるので、両端の第1アクチュエータ3a及び3eによって、口金板1a及び1eを口金収納ボックス9へ引き込もうとしても、口金1が段付き部8に引っ掛かってしまう。
【0040】
そこで、口金1が段付き部8に落ち込んだ状態を解消する必要がある。なお、図3(a)の実施形態例では、段付き部8をガイド棒(位置決め部材)の全周に渡って他よりも小径とした場合を例示した。しかしながら、この段付き部8は、口金1をガイド棒上に正確に位置決めするための役割を終えた後には、その役割を終える。このことから、段付き部8をガイド棒の全周に渡って設けるのではなく、例えばガイド棒の半部に段付き部8を設けるようにしても良い。
【0041】
何故ならば、このようにすれば、段付き部8によって口金1の位置決めを完了し、分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5e(係合部)が被係合部である各凹部2a〜2bに係合させた後は、ガイド棒を半回転させることによって段付き部8と口金1との係合を解除できるからである。ただし、この場合、分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5eと口金1の凹部2a〜2bとの間の係合に関して、ガイド棒が段付き部8が存在する部分から段付き部8が存在しない部分へ半回転して、段差分だけ口金1が上下動するのを吸収できるように僅かな余裕をもって係合されていることは言うまでもない。
【0042】
以上に説明した手順を経由することによって、ガイド棒によって口金1は最早拘束されることがなくなり、逆に、口金1を各口金板1a〜1eに分解する際に、分解した口金板を引き込むための口金1をスライドさせるガイド棒としての役割を果たさせることもできる。しかも、ガイド棒によって、各口金板1a〜1eを下からしっかりと支持することができるので、分解した各口金板の移動をガイド棒上をスライドさせながら行うことによってスムーズに分解できる。
【0043】
また、ガイド棒に設けられた段付き部8から口金1が受ける拘束を解舒するための他の実施形態として、制御装置17の制御の下で第2アクチュエータ10a及び10bを垂直方向へ駆動して、スライド台13a及び13bを所定量だけ押し上げて口金1の全体を少し持上げ、これによって、口金1が段付き部8に係合した状態を解除することもできる。
【0044】
このようにして、口金1と段付き部8との間の拘束が解除されると、先端突起5a〜5e以外には口金1を拘束するものが最早なくなったことになる。したがって、分解治具4a〜4eを所定の手順に従って作動させれば、5枚組の口金板1a〜1eから構成される口金1を両端から一度に2枚ずつ分解できる。
【0045】
そこで、いよいよ口金1をバラバラに分解する作業に着手するのであるが、この分解作業では、既に説明したように、口金1を構成する5枚組の口金板1a〜1eの中で両端に位置する第1口金板1aと第5口金板1eを引き離すことから始まる。すなわち、これも既に説明したが、第1口金板1aの凹部2aと第5口金板1eの凹部2eにそれぞれ係合する分解治具4aと4eを第1アクチュエータ3aと3eによってそれぞれ分解方向(水平方向)に駆動して第1口金板1aと第5口金板1eとを左右に引き離せば、一度に2枚の口金板を分解することができるのである。
【0046】
なお、本発明の実施形態例では、第1アクチュエータ3a〜3eとして、圧縮空気を駆動動力源とする流体圧作動シリンダーを使用することが好ましい。何故ならば、引き離し力としては圧縮空気の圧力を調整することによって、引き離し作業を人間が行う場合とほぼ変わらない出力となるように制御することが好ましいからである。また、必要以上に大きな力で口金1を無理に引き離して分解しようとすると、口金1を傷付けてしまう場合があるのでこのような点からも好ましいのである。
【0047】
このようにして、分解された両端の第1口金板1a及び第5口金板1eは第1のアクチュエータ3a及び第5のアクチュエータ3eによって口金収納ボックス9まで運搬され収納される。このとき、口金収納ボックス9の材質としては、金属製の口金板1a〜1eに変形や傷を付けないように、口金板1a〜1eの材質よりも軟らかい真鍮もしくはアルミニウムもしくは耐熱プラスチックなどの軟質材料で構成することが好ましい。
【0048】
以上に説明したように両端の口金板1a,1eを引き離して分解を完了して口金収納ボックス9へ引き込むと、次に、引き離された両端の口金板1a,1eの間に挟まれていた残りの3枚の口金板1b,1c,1dの両端の口金板1b及び1dを分解する作業に着手する。なお、この作業の開始に当っては、既に3枚の口金板1b,1c,1dの各外周面にそれぞれ一対に設けられた各凹部2b,2c,2dに対して分解治具4b,4c,4dの先端突起5a〜5eがしっかりと係合しているので、この状態をそのまま利用する。
【0049】
すなわち、第1アクチュエータ3b,3dによって分解治具4b,4dをそれぞれ分解方向である水平方向に駆動して第2口金板1bと第4口金板1dを1枚だけ残った第3口金板1cから左右に引き離せば、5枚組の口金板1a〜1eの分解が完了する。なお、このとき引き離した第2口金板1bと第4口金板1dは、先に分解した第1口金板1a及び第5口金板1eと同様に口金収納ボックス9に収納される。また、最後に残った第3口金板1についても分解治具4cによる凹部2cとの間の係合を解除して手動又は自動によって口金収納ボックス9へ収納して、全ての分解作業を完了する。
【0050】
以上に説明したように、本発明の複合繊維用紡糸口金の分解装置によれば、3枚組以上の多数枚組の口金板からなる複合繊維用紡糸口金を分解する場合であっても、一度に2枚ずつ両端に位置する口金板を複合繊維用紡糸口金から一度に2枚ずつ次々に引き離すことができるために、きわめて効率的に複合繊維用紡糸口金の分解を行うことができる。
【0051】
なお、図1〜図3に例示した分解装置では、口金板群1a〜1eに対してそれぞれ「5組ずつが一対となった凹部2a〜2e」と、これらにそれぞれ係合する「5組ずつが一対となった分解治具4a〜4eの先端突起5a〜5e」を設けている。ただし、先端突起5a〜5eによる各口金板1a〜1eの把持を確実にするために、凹部2a〜2eのそれぞれに対して各3箇所あるいは各4箇所ずつ先端突起5a〜5eを設けるようにしても良い。この場合、凹部2a〜2eの対の数が増加した分に呼応して、これに対応する先端突起5a〜5eの対の数も増加させる必要があることは言うまでもない。
【0052】
更に、本発明において使用できるアクチュエータの具体例を挙げるならば、圧縮空気などの高圧気体を駆動動力源とする流体圧作動シリンダー、サーボモータなどによって駆動されるリンク機構あるいはネジ送り機構などの周知なものを挙げることができる。もちろん、本発明の要旨を満足する限り、本発明は上記具体例に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0053】
1:複合繊維用紡糸口金
1a〜1e:5枚組の口金板
2a〜2e:凹部
3a〜3e:第1アクチュエータ
4a〜4e:分解治具
5a〜5e:先端突起
6a〜6e:電磁把持部材
7:位置決め部材
8:段付き部
9:口金収納ボックス
10a,10b:第2アクチュエータ
11:支柱
12a,12b:スライドガイド
13a,13b:スライド台
14:天板
15:固定台
16:基台
17:制御装置
18a,18b:刻印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種以上のポリマー成分からなる複合単繊維を紡出する複合繊維用紡糸口金を3枚以上に分割した各口金板の外周部にそれぞれ形成された被係合部と、
前記被係合部に係合する係合部が形成された分解治具と、
前記紡糸口金を基準位置に位置決めセットする位置決め部材と、
前記各分解治具をそれぞれ分解方向へ移動自在に駆動すると共に前記被係合部に前記係合部を係合させるアクチュエータ群と、
両端に位置する2枚の口金板をそれぞれ分解方向へ移動させる前記アクチュエータ群をそれぞれ独立に駆動制御する制御装置と
を備えたことを特徴とする、複合繊維用紡糸口金の分解装置。
【請求項2】
前記アクチュエータが、前記分解治具の各係合部を移動させて前記各口金板の被係合部の近傍にそれぞれ位置させる第1アクチュエータと、前記被係合部の近傍に位置させた前記係合部を前記被係合部に係合させる第2アクチュエータとから構成されたことを特徴とする、請求項1に記載の複合繊維用紡糸口金の分解装置。
【請求項3】
両端に位置する2枚の口金板をそれぞれ分解方向へ移動させる前記アクチュエータとして圧縮空気を駆動動力源とする流体圧作動シリンダーであることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の複合繊維用紡糸口金の分解装置。
【請求項4】
前記各口金板に形成された前記被係合部が凹部であり、前記分解治具に設けられた前記係合部が先端突起であることを特徴とする、請求項1〜3の何れか一項に記載の複合繊維用紡糸口金の分解装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−84834(P2011−84834A)
【公開日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−238340(P2009−238340)
【出願日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【出願人】(302011711)帝人ファイバー株式会社 (1,101)
【Fターム(参考)】